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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数359

全359件 61~80 4/18ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.299:
(7pt)

蝉かえるの感想

昆虫に絡めたミステリの連作短編集。
個人的に昆虫に馴染みがなかったので食指が動かなかったのですが、推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した作品である事から興味を持って手に取りました。
シリーズ2作目である事を読後に知りましたが、本書から読んで問題ありません。

それぞれの短編はどれもハズレがなく面白い物語。派手なミステリではなく、昆虫の生態や特性と人間模様が巧く絡められた内容であり、驚きではなく巧いなぁと染み渡るような上質なミステリの作りを感じた次第。
さらに短編の配置が巧く、物語を読み進むにつれて探偵役の魞沢泉の人間味が感じられるのがよかったです。最初はとぼけている弱弱しいというか印象に残らないようなキャラだったのが、徐々に最終話に行くにつれて内面に宿している想いを感じられるようになりました。

昆虫に興味がなくても楽しめる、非常に質の高い文学的なミステリでした。
蝉かえる (創元推理文庫)
櫻田智也蝉かえる についてのレビュー
No.298: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

希望が死んだ夜にの感想

世の中に問題を投げかける社会派小説として素晴らしい作品でした。

著者はミステリ作家ゆえミステリを用いた作品となっていますが、本書の内容はミステリよりも世に投げかける社会問題のテーマに比重が多いです。言い換えるとミステリ的な仕掛けを期待する作品ではありません。その為、読者が何を期待して本書を手に取ったかで好みが分かれてしまう事でしょう。社会に投げかけるテーマを持った作品として手に取ると良いです。

扱う社会派のテーマは貧困問題。
構成として優れているのは、事件を基点に2つの視点で物語が描かれている点だと感じました。
1つ目の視点は事件の当事者である少女の視点。中学生の少女を取り巻く環境。家庭や学校や友人関係といった中学生から見える世界。貧困のアラートが分からない。中学生で考えられる情報の範囲。この状況での青春小説が描かれます。
2つ目の視点は事件を捜査する大人の視点。生活安全課少年係の警察視点。少女の身に何が起きたのか。何が起きているのか。動機探しの警察小説が描かれます。
子供と大人。事件関係者と捜査側。この対比となる2つの視点で物語が伝えられます。本書を読み進めて得られるものはミステリ的な驚きの真相ではなく、テーマとなる貧困問題を感じさせるというものです。タイトルが事前に示している通り内容的に読後感が晴れるものではありません。なので人によっては手に取るのは注意。ただ巧く言えませんが心に残る物語であるのは確かです。社会派の小説を求める方にはオススメ。

著者の作品はデビュー作からいくつか読んでおりますが、今までライトな作風の著者の印象でした。こういう真摯な社会派の作品が描けかつ面白いという著者の新たな一面を感じた次第でした。
希望が死んだ夜に (文春文庫)
天祢涼希望が死んだ夜に についてのレビュー
No.297: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

北緯43度のコールドケースの感想

2021年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙が吹雪で険しい雰囲気を醸し出しており北海道警察が舞台。読書前の印象はかなり堅物で難しい本なのかなと思っていましたが、読んでみるとそれらは杞憂に終わり大変読み易く魅力的な作品でした。

派手な仕掛けや一発ネタがあるわけではないのですが読んでいて面白かったです。
まず登場人物達が魅力的で印象に残りました。登場人物はめちゃめちゃ多いのですが、読んでいて苦にならず、誰がどういう人か把握できるのが純粋に凄いと思いました。特徴的な名前があるわけでもありません。主人公や警察や事件に関わる一人ひとりの特徴や背景がしっかりしているのです。一方あえて悪く捉えるとページの半分は事件の物語よりも人を描いている印象でした。中盤まではなかなか捜査が進まない印象でしたが、ある所からは一気に物語が進みさらに面白くなりました。事前に読んでいた各人物達の背景も合わさり物語に深みがでて大変良かったです。

読み終わってみれば事件の顛末も乱歩賞らしい構成と展開で見事でした。先程派手な仕掛けはないといいましたが、派手でないだけで多くの地道な伏線といいますか読者への情報の浸透のさせ方が見事な構成。キャラについては申し分なく今後のシリーズ作品として読みたくなる人や警察組織が魅力的でした。事件を扱いますが読んでいて嫌な気分になる事はなく、むしろ組織や主人公の前向きな成長を感じるよい雰囲気。役者が多くでるドラマ向けとも感じました。2作目もあるので追っ掛けてみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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北緯43度のコールドケース
伏尾美紀北緯43度のコールドケース についてのレビュー
No.296: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

あの日、君は何をしたの感想

内容は好みとは違いますが作品として凄く面白かったです。

無関係に見える2つの事件の物語。先の展開が気になって止め時が見つからない読書でした。あらすじにある通りなのでネタバレではないと補足しつつ説明しますが、ミステリー小説のお約束の展開として終盤に2つの物語が繋がるのは明らかなわけです。ただどう繋がるのかが小説の見せ所なわけですが、本書はかなり高水準で複雑で絡まった物語を綺麗に回収して繋がる作品でした。
ミステリーの構成としてはとても素晴らしく、トリックやどんでん返し等の一発ネタの作品ではなく、コツコツ小さい情報が積み重なった先に見える真相を体験できる作品。感触としては警察小説で捜査を進めてやっと事件が解決した(話が見えた)。という安堵感を得るような構成です。

2つの物語で感じた印象は、毒親や狂気の家族模様。フィクションとはいえ、ちょっと思考回路が合わず嫌悪感を抱くようなあまり関わりたくないと感じる人たちの物語でイヤミス傾向です。読んでいて嫌な気分になる事が多かったのですが、そう思わせる文章は凄いなという視点で楽しみました。そういう意味で内容は好みとは違うのですが、事件がどういう結末を迎えるのか?先が気になる読書として面白かった次第です。
あの日、君は何をした (小学館文庫)
まさきとしかあの日、君は何をした についてのレビュー
No.295: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

監禁探偵の感想

"監禁"というストレートなワードがタイトルに入っているので、著者のダーク寄り作品かと思いながら手に取りました。実は『監禁探偵』という作品は漫画版⇒映画版⇒小説版という過程を得ており、2013年初という事で10年も前の作品なのですね。2022年10月の文庫化で認識した次第でした。

序盤は犯罪者が別の犯罪に巻き込まれるというシチュエーション。
扱う内容がゲスいので合わない人が多く感じると思う展開でした。正直な気持ちとして第一話の中盤までは監禁や少女を扱い下品な事を書いているだけの浅い作品かなと疑っていた次第。が、事件の真相が見えてくる頃にはそれらを活用したミステリである事が分りました。第一話、第二話と進む毎に本書の印象が変わりました。

読後の本書のイメージはミステリにおけるパズル小説。扱われる犯罪やシチュエーションがパズルのピースのように散らばっており、話を読み進めて行く事で物語の構造が見えてくるという作品。
内容主点で見ると現実的には違和感があったりで好き嫌い分かれそうです。ただ話の作り方に着目すると巧く考えられておりその視点が好きな方には好まれると思います。作品を魅力的に引き立てるアカネというキャラクターも謎めいていて良かったです。
尺的に映画向けかなと思っていたら読後に既に映画化している事を知った次第で納得。面白い物語でした。

▼以下、ネタバレ感想
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監禁探偵 (実業之日本社文庫)
我孫子武丸監禁探偵 についてのレビュー
No.294: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ルビンの壺が割れたの感想

突然の過去の恋人からのメッセージ。2人のメールのやり取りだけで進行する書簡体小説です。

この仕組みの小説は文学的な技術以外に読者へ与える情報量を小出しにする事で生まれる面白さが狙いとなります。本書はその狙いが巧みに行われている為、出版社が本書をミステリーというジャンルではないと言いつつもミステリー小説の2度読み系の娯楽を兼ね備えた作品であると感じました。SNSで話題になっているのも納得です。
文庫版で170ページ台と短く490円という価格設定。気軽にサクッと多くの方に読まれ口コミで広がる狙いを感じるなど、娯楽小説としての作りが色々と巧いと思います。

読書中の気持ちとしては、なんか内容が気持ち悪いなという気持ち。男側の内容が粘着で女側もよく答えるなぁというやり取り。SNSメッセージで長文……など。他にも昔の恋人同士のやりとりにしては、会話内容がローカル会話ではなく第三者の読者に向けて説明調になっていると感じた次第。現実のやり取りには見え辛いのが本音ですが小説だからこういうものかと思いながら読み進めました。

最後まで読むとそういう気持ちもなるほどなと納得。個人的な読後感は、やられた!ではなく、なるほど巧いなぁという気持ち。いろいろな設定が巧く考えられている技巧的な作品。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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ルビンの壺が割れた (新潮文庫)
宿野かほるルビンの壺が割れた についてのレビュー
No.293: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

汝、星のごとくの感想

『流浪の月』の読書で著者の作品に惹きこまれたので本書も手に取ってみました。
本書はミステリではなく、すれ違い系の恋愛小説。ただよくあるような軽い話ではなく、あらすじにある通り、生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ物語となっております。

地方と都会、親と子、仕事とお金、人生の占める割合が大きなこれらのポイントや分岐点、それに伴う男と女、不倫や浮気など、読者が感じるポイントは様々でしょう。
恋愛や不倫など男女の物語としてみる方もいると思うし、やりたい事を貫く為の自立や勇気を感じさせる側面も感じました。身近な人だったりお金だったり仕事だったり、各人の心の支えとなる柱を見つめる物語にも感じられました。

『流浪の月』でも感じましたが、心模様の描き方が本当に凄い。現実的には共感できない事が多いのですが、読書中はその人物の気持ちがわかる気分になってしまう。夢中にさせられる読書です。一つの恋愛物語としても良いラストでした。個人的には好きな事を自分で決断して動いてくという自立をテーマに感じた作品でした。
タイトルの『汝、星のごとく』についても、どこにいても想い人を感じる星の意味もあれば、自分が独りでも輝ける存在にという意味にも感じ取った次第です。心に残る名セリフも多く素晴らしい作品でした。

汝、星のごとく (講談社文庫)
凪良ゆう汝、星のごとく についてのレビュー
No.292: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

流浪の月の感想

映画化したり2020年の本屋大賞に選ばれたりで書店でよく目にしていた本書。
よくある一般文芸かと思い気に留めていなかったのですが、本書の出所がミステリ・SFでおなじみの東京創元社からであり、しかも新たに創設された"創元文芸文庫レーベルの1作目"に選ばれているという事を最近知り興味を持った次第。
結果は大満足。流石創元といいますか、ミステリではないにしても技法は入り込んでいるのを感じる事でしょう。東京創元社の今までの読者はもちろんの事、さらに一般読者を獲得する狙いをも感じるレーベル1作目でした。

著者本は初読み。今まで普通とは違った恋愛小説を描いてきた著者。本書は少女誘拐事件の当事者視点で描かれる物語。ミステリ好きな方へ本書をPRするとするなら、イヤミスや倒叙ミステリ傾向。事件の真相が先に読者に伝えられており、真相と事実の違いが扱われます。合わせて本書は様々な"違い"を多く感じました。それは常識と非常識だったり、人や環境の違い、心の中とそれを巧く言葉にできない違い、様々な違う事による苦悩、違っていても良いという救済、これらの情景や感情の描き方が素晴らしく惹きこまれた読書でした。

内容は好みが別れると思います。不幸寄りの物語なので、どんよりと重く暗く、たまに見える希望が明るい。そんな感覚でした。イライラさせられたり嫌な気持ちになる事が多いのですが、それだけ惹きこまれる文章である事は確か。内容は好みではなく登場人物達にまったく共感はできないのですが、物語としてはとても面白い読書体験でした。
流浪の月 (創元文芸文庫)
凪良ゆう流浪の月 についてのレビュー
No.291: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件の感想

玄人向けの濃厚なミステリ。もの凄い作品でした。

タイトルが似ている『名探偵のはらわた』とは関連はなく、本書単体で楽しめます。
ライトな読者や登場人物名がカタカナの外人なので海外ものが苦手な方には合わないかもです。
物語よりも凝りに凝ったマニアックなミステリを読みたい方にオススメです。

1978年に実在したカルト宗教の人民寺院集団自殺事件をモチーフとした作品。
本書を読んだ後に実際にあった事件である事を知ったのですが、事件を知るほど本書の本格ミステリに落とし込んだ扱われ方が見事だと感じました。本作品を読む前にちょっとでも事件の概要を調べておくと作品の雰囲気や登場人物が把握しやすくなると思います。
時系列や毒や凶器、調査団、などなど実際に起きた事はそのまま扱い、ミステリを構築しているのに驚きました。

カルトの異常性を活用した特殊設定ミステリ。そして多重解決ものの組み合わせが見事。ここ数年ミステリで話題となる名探偵のテーマや、特殊設定の流行や、著者の異常な世界観が良い形で絡み合っていると感じました。

著者の作品はいくつか読んでおりますが、過去作で好みでなかった要素が払拭されています。例えば鬼畜系のグロ表現は単語表現だけで気持ち悪くないと感じる事が多かったのですが、今作はグロい単語は軽減されていても、不気味さ、異常さ、宗教の怪しさを感じられました。『少女を殺す100の方法』では100という数が商業的なPRで意味を感じなかったのですが、そういう数字的な事に意味をちゃんと持たせた内容があり、表現の描き方や意味の持たせ方が進化していました。個人的に著者の作品の中で一番良い作品。

正直な気持ちとして物語としての面白さは弱かったのですが、ミステリの技巧作品としては一品でした。カルトの異常性と多重解決の組み合わせが本当に見事で凄く練られたミステリを堪能しました。
名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件

No.290:

爆弾 (講談社文庫)

爆弾

呉勝浩

No.290: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

爆弾の感想

警察小説の爆弾もの。
爆弾による緊迫感。愉快犯との頭脳戦。先が気になる展開で止め時が見つからない読書でした。非常に面白かったです。

著者の作品は初読み。年末のミステリランキングで目にしたので手に取りました。今まで著者の本は凄く難しそうで硬派なイメージを持っており、手に取る事を躊躇していました。ランキングを切っ掛けに手に取ったわけですが、そんなイメージは杞憂でして大変読み易いエンタメでした。食わず嫌いだったと思った次第。

スズキタゴサクという不気味なキャラが強烈で良い。いわゆる無敵の人であり常識が通用しない相手。警察を翻弄し次に何をしてくるのか、そして何を考えているのかが不安と期待で読んでしまう。この気持ちは著者の悪だくみが組み込まれており、読者は傍観者だから楽しんでいるという毒を感じました。そう表現する登場人物やセリフもあり巧いなと思います。

非常に楽しめた読書だったからこその気持ちですが、欲を言うと最後の結末への展開が駆け足に感じました。前半、中盤、後半と8割ぐらいまではハラハラドキドキで警察と一緒に翻弄される読書でしたが、最後の終盤だけ正答だけ突き進んで物語が急に終わってしまって置いてけぼりになった気分なのが少し勿体ない。印象としては推理して真相に辿り着くのではなく犯人や神の声で真相を全部喋っちゃった系の感覚。ページ数を400台に収める為に削られたのかなとも感じ、もう少し推理模様があれば本格ミステリとしても行けたんじゃないかと感じました。と、面白かったゆえの欲ですね。
爆弾 (講談社文庫)
呉勝浩爆弾 についてのレビュー
No.289: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリックの感想

前作から大躍進を感じたとても好みの作品でした。

デビュー1作目の『密室黄金時代の殺人』はトリックを数で勝負みたいな問題集で好みとは違ったのですが、今作は前作で気になった不満点が一気に改善され面白い作品となっておりました。

作品の雰囲気はライトミステリ。殺人が起きていても会話やキャラは軽い雰囲気です。その為、細かい事を気にする現実的なリアル志向のミステリ読者には不向きです。一方、ライトノベルやゲーム系のミステリが好きな方にはオススメな作品となります。何を期待して読むかにより評価が分かれると思いました。

物語の舞台は金網に囲まれた金網島。富豪に招待された密室のスペシャリスト達。密室トリック当てゲームの予定が本物の密室殺人事件に巻き込まれるという流れ。

前作に引き続き『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界が効果的。アリバイ同様、密室が破られなければ有罪にならない世界なので、苦労してでも密室を行う事に意味がある。この設定により奇想な仕掛けが有効となっているのが見事です。

密室トリックについても小粒から壮大なものまで面白いラインナップでした。
前作では物語に関連なくバラバラな印象だったのが、本書では読者に提示する順番まで考えられていたと感じます。徐々に密室トリックの難度が上がるのと同時にそれを納得させる説明が段階的に読者へ伝えられている構成なのがよい。最後の最後まで問題編と解答編が繰り返される贅沢な展開なので仕掛け好きなミステリ読者にはオススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.288: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

リズム・マム・キルの感想

スピード感あるクライムサスペンス。

まず面白いのは冒頭からの急展開。少女の目の前で母親が殺し屋に襲われるシーンから始まります。読者はこの主人公の少女と共に何が起きたのか状況が不明で逃げる事から始まります。いきなりの展開でこの本のジャンルがホラーなのかアクション何なのか混乱しつつも、物語に引っ張られて読み進められた読書でした。
そして大きく2つの視点が交互に描かれるのですが、1つ目は上記の少女の視点。もう1つはこの犯罪を企てている(と思われる)犯罪者側の視点。何者か不明。だけどなんか狂っているヤバい奴ら。半グレ達の視点です。

逃亡する側、追う側の視点を交互に描く犯罪小説。倫理観の無い半グレの暴力含む結構ハードな内容なのでそれが苦手な人は合わないのでご注意を。

読み進めていくと物語の方向が様変わりし意外な所へ着地する内容でした。ミステリーとしてそういう物語だったのかと繋がりを楽しむこともできました。そしてこれは犯罪を描きながら、家族や愛情を描かれていると感じた次第。ちょっと表現が悪くて恐縮ですがB級映画で当たりを見つけたような面白さを感じた作品でした。
リズム・マム・キル
北原真理リズム・マム・キル についてのレビュー
No.287: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

時空犯の感想

タイムループが発生する特殊設定ミステリー。
タイムループものとして特徴的な要素は主人公だけがループする話ではなく集団でループに巻き込まれる点です。巻き戻しを認識できる薬を飲んだメンバー達がループの事象を認識し、何がどういう理由で発生しているのか皆で解決していくようなお話。

読書前は報酬に釣られたデスゲーム的な殺伐とした話を予感していましたが、そうではなく登場人物達は仲間として協力して問題解決へ向けて動いている雰囲気。前向きな気持ちが良かったです。

読後感としてはミステリーというよりSFに近い印象。それでいて主人公とヒロインの恋愛模様も加わった物語としてよい展開。印象としては前述の雰囲気ですが、ちゃんとタイムリープ要素を活用したミステリーともなっており、総じて面白く読めた物語でした。

あと登場するオバちゃんがめちゃめちゃ良いキャラ。作品内の雰囲気を明るくし、難しい話をオバちゃんに分かるように優しく説明されるという補助がナイス。面白かったです。
時空犯 (講談社文庫)
潮谷験時空犯 についてのレビュー
No.286: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

逆転美人の感想

素晴らしい作品でした。SNSや書店で盛り上がっている本書。
ただ帯のテキストが問題で残念なのでそれを目にしない&何の予備知識もなく手に取る事を推奨します。

物語はある美人の不幸話を主体とする為、雰囲気はイヤミス模様。ベースの物語がどんよりする内容なのが好みの別れ所。

これ系統の前例は有名作がいくつかあります。ただ本書は前例作の弱点を解決しており、それを行う事に必然性がある物語となっているのが素晴らしい。この系統の進化を感じた一冊でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転美人 (双葉文庫 ふ 31-03)
藤崎翔逆転美人 についてのレビュー
No.285: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ハートフル・ラブの感想

著者のタイトルに釣られて手に取りました。
まず手に取る読者層は『イニシエーション・ラブ』『セカンド・ラブ』といった流れを期待して手に取ると思います。本書は7つの短編集となっており、どの作品も仕掛けが施された作品となっており楽しめました。

短編集としての作品の並びが良かったです。
冒頭は日本推理作家協会賞候補となった短編『夫の余命』。まずはこの作品で本書の期待に応えてきました。
続いて『同級生』は著者の他の本を知っているとこれ系できたかという思いと、これもアリな作品集なのね。と思い当たる事でしょう。中盤の『なんて素敵な握手会』は4ページのショートで、サクッと仕掛けを楽しめて気分転換になった作品で巧いです。そこから頭を使う作品を配置していき、最後は書下ろしの『数学科の女』。
個人的にはこの最後の『数学科の女』が本を手に取った時の期待に沿っていて好みでした。
作品並びの始まりと終わりが良かった構成なので読後感は満足で本書を閉じる事ができました。

『数学科の女』について。好みではあったのですが、似たような真相の純愛を用いたミステリを他で知っていた為、結末が読めてしまったのとそれを超えるものではなかった為、印象が薄かったのが正直な気持ち。ただ短編として最小限の設定で構築されておりイヤミスとして楽しめた作品でした。

タイトル『ハートフル・ラブ』の名づけが巧く、それで統一された作品集として良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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ハートフル・ラブ (文春文庫)
乾くるみハートフル・ラブ についてのレビュー
No.284: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件の感想

シリーズ3作目。本作も面白かったです。
シリーズの特徴は怪異が存在する事を前提とし、何が、何故起きるのか?をミステリ模様で展開されるのが面白いシリーズ。
本作の怪異は『崩れ顔の女』という、顔を見たら失明し死に至る怪異。一般に有名な『口裂け女』に近いイメージを設定して読書が怪異を想像しやすくしている点がよく、非現実的なオカルトものなのに読み易かったのが好感です。

シリーズ3作目にして、共通キャラクターである那々木悠志郎の最初の事件が舞台。
シリーズものとして大事な過去編を扱った物語。作品の良し悪しでシリーズの今後が決まるとも言われそうな設定ですが、見事に面白い物語が描かれており個人的に満足でした。単純に過去の回想を描くのではなく、作中作を用いて描かれる過去は、作品内の読み手と読者がシンクロして徐々に怪異に飲まれつつ、また明かされていく展開。これはオカルトとミステリの見事な融合だと思いました。

シリーズものとして、怪異だけでなく登場人物の那々木悠志郎と他キャラクターの人物設定に深みが増しています。
過去エピソードで登場したあのキャラは今後の作品に登場するのかなと、そういう楽しみも増えました。

▼以下、ネタバレ感想
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忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件 (角川ホラー文庫)
No.283:
(7pt)

金色機械の感想

2014年度の日本推理作家協会賞受賞作品ということで手に取りました。読んでみた所、"推理作家協会賞"の推理ものとしてではなく"エンターテイメント"としての面白い物語としての受賞を感じました。
時代は江戸。金色様という謎の存在(ロボット)。相手の殺意が読める男。手で触るだけで殺せる女。不思議な設定が織りなす壮大な物語。

普段なじみがない小説でして、面白く読めたのですが何がどう面白いかが伝えづらく、異世界の物語に呑み込まれたという感覚でした。知らない世界を体験したような読書。
江戸時代にいるロボット、不思議な能力者達、そこに生きる者それぞれの物語が交差して繋がる様。派手さはなくて、なんとなく表紙の雰囲気にあるどんよりと灰色の物語。"金色機械"という文字も金にせず白文字なのが良い。物語中も金色様だけが何故か色を持ったような存在を感じました。

日本推理作家協会賞ということで、ミステリを期待すると違う作品。物語としては不思議な体験で面白かったです。
金色機械 (文春文庫)
恒川光太郎金色機械 についてのレビュー
No.282: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

invert II 覗き窓の死角の感想

シリーズ3作目。今回も面白かった。 ☆7(+1好み補正)
本シリーズは1作目から順番に読むことを推奨します。
本書は『生者の言伝』と『覗き窓の死角』の2編からなる中編集。どちらも倒叙ミステリです。

『生者の言伝』は倒叙ミステリドラマの古畑任三郎の一話目『死者からの伝言』のタイトルオマージュ。
犯行が行われた洋館に豪雨で立ち往生した翡翠と真が訪れるという始まり。この導入は古畑任三郎と合わせてありますが中身は別物。
倒叙の作風は行き当たりバッタリな犯人の慌てふためく様が楽しめるユーモアミステリ調。ユーモア&ドタバタのまま終わるかと思いきや、しっかり手がかりを得て推理して真相に到達する様が見事でした。明かされていない問題の癖の解答についてはネタバレで後述。

『覗き窓の死角』
「翡翠ちゃんかわいい」と言ってる場合じゃなく感じる程、城塚翡翠の内面を掘り下げた物語でした。
※これも次回以降に向けて読者をミスリードさせたキャラ作り……と言われたらショックですが(汗)
倒叙ミステリなので犯人は明確なのですが、どのような犯行だったのかは伏せられているのが面白い。提出されている手がかりを元にロジカルに推理した結果、犯行方法が明らかになるのが見事でした。倒叙ミステリというより本格的な倒叙推理小説であり、推理をする楽しさが堪能できました。

どちらもミステリとしての楽しさは然ることながら、キャラクターの良さ、翡翠と真のユーモアあるやり取りの緩急が面白く読んでいて楽しい読書でした。続編も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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invert II 覗き窓の死角
相沢沙呼invert II 覗き窓の死角 についてのレビュー
No.281: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

#真相をお話ししますの感想

日本推理作家協会賞受賞の短編『#拡散希望』を含む短編集。
ネットやSNSなど、現代要素を活用したミステリでとても面白かったです。

短編集として5つの物語がありますが、個人的に全て面白く読めました。
人に薦める時の懸念点としては、真相がわかりやすくて結末が見えすぎる事です。人によっては驚きがなくて物足りないという感想になると思いますが、個人的には良い方向で感じてまして、現代的な内容を扱った本書はミステリ初心者や本をあまり読まない人にとても刺さる内容だと思いました。
タイトルに組み込まれているハッシュタグ然り、若者を対象としたSNSでバズリ易い本であるとも感じます。最近の若い読者はネタバレを許容する傾向があり、先に真相を知って安心してから物語を楽しむ層が一定数いる為、そういう層にも好まれる本という姿を感じました。

『惨者面談』『ヤリモク』『パンドラ』の3作品は結末が読めやすいのでそこにどう導くのかを楽しみました。
『三角奸計』はリモート会議をネタとしたミステリ。これは現代的な仕掛けで面白い。
『#拡散希望』は第74回日本推理作家協会賞の短編賞受賞作品であり、その名に恥じない見事な真相の短編でした。この仕掛けは過去の作品や映画にもありますが、現代要素が効いていて見事な伏線回収と個性を生み出した作品でした。

本書は良い意味で現代要素を取り入れたミステリとなりますが、悪い意味では賞味期限があります。
SNSやアプリやネットの状況が50年後には変わったものになるからです。ただでさえITの状況は1年で移り変わりが早い為、本書で使われている内容がすぐに古臭くなってしまう事でしょう。
未来における名作として名を残すのは難しいかもしれません。ただ、2020年代の今のネタを取り入れた短編ミステリとしては丁度良いですし、巧く考えられた作品集ですので早めに読書推奨な作品です。
#真相をお話しします (新潮文庫 ゆ 16-3)
結城真一郎#真相をお話しします についてのレビュー
No.280: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

猫は知っていた 仁木兄妹の事件簿の感想

新装版が出たので改めて読書。

1957年の江戸川乱歩賞受賞作。本作が最初の公募作品の受賞作となります。

日本の推理小説の歴史における転換期となった作品とも言われており、本書が世に出るまでの探偵小説は陰惨で暗い作風が多く読者が少数だったのが、本書の柔らかい文体と兄妹の探偵役を描く様が大衆にヒットして探偵小説のブームを築いたとされています。
ブームとなった背景には著者の境遇も少なからず影響していると感じます。それは幼い頃から病気で寝たきり状態、学校教育は受けられず兄から勉強を教わり外の世界を読書で身に着けた事です。最初は本名で児童文学を書きそれから本書の推理小説が生まれました。本書が生まれた時も寝たきり状態でしたが、本書のヒットにより手術が受けらえるようになり、さらに歩けるようになったというエピソードもあります。

この背景をここで書いたのは、知っていると本書の印象が変わったからです。
実は自分が大分昔に本書を読んでいるのですがあまり良い印象に残っていませんでした。著者の事を知り改めて再読すると、作品内の二木兄妹のモデルが著者自身であり優しく頼れる兄の存在や、病院が舞台、児童文学のような柔らかい文章、海外黄金期におけるエラリークイーンやアガサクリスティのような事件の謎とトリックと解明の仕方などなど、本書の見え方が大きく変わりました。
本書単体の物語だけ見るとさすがに70年前の作品なので文章やミステリの仕掛けに古さを感じてしまいますが、上記のような著者と日本の推理小説の背景を感じるという意味では外せない一読の価値がある作品でした。
猫は知っていた 新装版 (講談社文庫)