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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数370

全370件 61~80 4/19ページ

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No.310:
(7pt)

ちぎれた鎖と光の切れ端の感想

昨年の乱歩賞作家の2作目。前作が好みだったので手に取りました。
表紙の雰囲気が似ていますが、前作とは違うお話なので本書単体で楽しめます。

今回の物語の序盤は孤島を舞台にした倒叙ミステリ。
復讐計画を企てる犯人視点。ただし自分の意図しない殺人事件が発生。別の殺人者がいる状況。さらには第2、第3の殺人が起き、被害者は決まって前の殺人の第一発見者が襲われる――。というミステリ。
90年代の新本格模様をとても感じた序盤でした。孤島の連続殺人でワクワクしながらの読書。第一発見者が決まって襲われるという問題も面白く、ミステリとして古き良き要素を入れつつ、現代的なテーマも盛り込んだ作品となっております。

事件を魅せつつも本書で感じたのは人の業(カルマ)を感じました。業なんて単語は本書には出てきていないのですが、善悪の行いによって未来の自分へ廻るという物語を感じた次第。タイトルにある、ちぎれた鎖はこういう悪しき連鎖を断ち切り希望を見出す光を意味している気がしました。

▼以下、ネタバレ感想
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ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかねちぎれた鎖と光の切れ端 についてのレビュー
No.309:
(7pt)

数学の女王の感想

江戸川乱歩賞受賞の『北緯43度のコールドケース』に続くシリーズ2作目。
1作目は読書必須。主人公の背景、警察組織での人間関係など前作を踏まえた深みがでてくる内容となっております。

世の中多くの警察小説がありますが、本作によって他とは違う警察小説の特徴が表れたと感じました。
一番に感じるのは"女性のキャリア"のテーマが根幹に感じます。1作目、2作目、両方とも通じてます。
博士号を持つ主人公。教授や研究者を目指すのではなく警察になった背景。男性社会での女性の立場。作品内に一本の筋としてしっかり入っており、伝えたい想いをとても感じました。ミステリーの描き方についても事件が主体ではなく、人を描く肉付けとして事件を加えているという印象でした。はっきりとした特徴が見えるので他の警察小説とは違う新鮮な感じでとても面白い読書でした。

面白い作品なのですが、一言で売り文句になるような言葉が見つからないのがもどかしいです。"警察小説"、"女性のキャリアもの"が良いと言っても読者へ響かないでしょう。勝手な解釈ですが、読者へ分かりやすいPRワードとして、爆弾や数学という言葉で印象付けを狙ったのかなと感じました。タイトル『数学の女王』については巧いワードではなかったのではと感じる所でして、ここだけが勿体ないかなと思いました。学長を強烈に印象付けすると効果でそうですが。。。詳しくはネタバレ側で。

シリーズ作品として今後も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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数学の女王 道警 沢村依理子 (講談社文庫)
伏尾美紀数学の女王 道警 沢村依理子 についてのレビュー
No.308:
(7pt)

波濤の城の感想

シリーズ2作目は『ポセイドン・アドベンチャー』のオマージュ作品となる豪華客船を舞台としたパニック小説。
1作目未読でも本書単体で楽しめます。相変わらずの面白さでありました。
ただ期待し過ぎてしまったからなのか、1作目が素晴らしかったからなのか、やっている事は前作と同じような展開な為に新しい刺激があまり感じられなかったのが正直な気持ちです。

登場人物達の役割、悪い人、現場に詳しい人、男女、年配の方、といった配役の設計が前回と似ています。船長や国会議員の上の存在が原因となる事故模様。テンプレート感が良い意味では安心して楽しめるのですが、悪い意味では同じものを読んだ感覚となってしまう次第。
事故原因となった船長や議員についても、私欲や自己保身による理不尽な内容なので読んでいて気分が悪かったです。前作の『炎の塔』では経営者側のバックグラウンドや役割がちゃんと描かれていたので、それぞれがちゃんと仕事をしている上での事故という多少の納得があったのですが、今作はそれが感じられなかったので理不尽な気持ちになる読書となった次第。ただこれは著者あとがきにある海難事故における事例が示す通り理不尽なものをあえて描いているのかもしれません。

台風接近の海洋事故の脱出もので主人公は消防士。という条件で本書が描かれたのは中々凄いなと感じました。消防士が主人公なら敵は炎となりますが、台風で大雨のシチュエーションな訳で火事の見せ所が描き辛いのです。そんなわけで船内の救護活動や迷路のような脱出劇、炎が生まれる小道具など、作り方の面白さの方が目に留まりました。定期的に船の中で起きている物語だと忘れさせないように、船内が傾いている状況が描かれたり、群像劇として外の台風や海洋の様子を描いたりなど、小説家の巧さを感じます。

前作からの期待値が高すぎてしまった故の感想となってしまいましたが面白さは確かです。三部作ということで次巻も楽しみです。
波濤の城 (祥伝社文庫)
五十嵐貴久波濤の城 についてのレビュー
No.307: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

恋に至る病の感想

いじめ、サイコパス、自殺教唆を用いながらの歪んた恋を描いた作品。
MW文庫なので読者ターゲットは中高生。ここの世代にとても刺さりそうな作品だと感じました。

そして本書の面白い所は、深読み系の作品である事。考察が好きな人は尚良し。
読書後に実はこういう話だったのではないか?と深読みさせるように作られています。その為、読んだ人同士で感想を言い合ったり、中高生なら学校で友達に紹介し合うでしょうし、SNSでそれぞれの解釈や感想が広がる面白さを感じました。

この手が好きだったとしても、扱う内容がいじめや自殺なのでその内容の陰鬱さで好みが分れる事でしょう。私自身もこの点は好みではないです。深読みしてまで読み返したくなる内容ではないのが難点。ただ作品作りとしては面白く、所々ハッとさせられるセリフなど著者の想いが感じられるのも良かったです。

どう解釈したかはネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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恋に至る病 (メディアワークス文庫)
斜線堂有紀恋に至る病 についてのレビュー
No.306: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

盤上の向日葵の感想

白骨死体と共に埋められていた600万もの価値がある将棋の名駒。何故埋められたのか。白骨死体は誰なのか。将棋の駒を手がかりに事件の行方を追う。という始まり。

とても惹きこまれた読書で一気読みでした。
ただ正直な気持ちとして、終盤に関しては物足りなさで終わった読後感でした。
あらすじにある何故高価な駒が死体と共に埋められたのかという謎は終盤まで明されず、途中何度か読者に考えさせる演出がある為、そこにすごい仕掛けでもあるのかなと期待をさせるのですが、そういうものではなかったので物足りなく感じた次第。
とはいえ重厚な人間ドラマとしてはとても堪能しました。将棋の事がわからないでも本書は大丈夫です。
またあえて変わった視点で本書の構造を見ると、将棋の駒が主人公であり、駒(美術品)を取り巻く人や歴史を読者に感じさせる美術ミステリ模様をも感じました。
点数の好みとしては、重苦しく悲劇で嫌な気持ちになる事が多かった為この点数で。

▼以下、ネタバレ感想
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盤上の向日葵
柚月裕子盤上の向日葵 についてのレビュー
No.305:
(8pt)

消えた女の感想

元凄腕の岡っ引。現在は版木彫りの主人公。恩師から行方不明となった娘を探すという物語。

普段馴染みのない時代小説だった為、序盤は慣れない用語や雰囲気や言葉遣いで読むのが大変かなと心配しましたが、30ページ程読み進めているとすぐに慣れて夢中になりました。
"消えた女を探す"という分かりやすい目的があり、それを調べて行く中で遭遇する事件や怪しい人々で先が気になる面白さでした。主人公の姿、おまさという女性との男女関係、人情模様など魅力ある要素が豊富。

本書は設定も然ることながら時代小説を感じる文章がよかったです。ここが面白いとポイントで説明するのが難しいのですが、名場面が多くてあのシーンやこのシーンがよかったなと感じる所が豊富でした。あとお蕎麦を食べたくなりました。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)
藤沢周平消えた女 についてのレビュー
No.304: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

倒産続きの彼女の感想

剣持麗子シリーズ2作目。
本書からでも問題ないですが、面白さは前作同様なので1作目から読書推奨です。

主人公は新キャラの美馬玉子。前作の主人公の剣持麗子は同じ事務所の先輩の立ち位置でした。
タイトルにある倒産をテーマとした事件。
転職の度に元いた会社が倒産する経理の女性が存在しており、何か不正行為が行われているのではないかという始まり。倒産の連続から『連続殺(法人)事件』と表現したり、リストラを『首切り事件』と表したりと経営話の中で表現するセンスが面白い。ミステリーを装っていますが、本書から受ける印象は弁護士のお仕事小説。キャラクターも魅力的であり、ドラマを見ているような面白さでした。

新キャラ美馬玉子の視点にする事で弁護士の依頼の調査を何も分からない読者に近づけているのが巧いなと思いました。前作の剣持麗子は完璧で最強過ぎて読者が置いてけぼりになっていましたが今回はそんなことありません。さらに剣持麗子が本当に困った時の頼れる先輩として描かれており、異なる表現で魅力を伝えているのが凄いと感じます。

弁護士事務所の人々や世の中の背後に存在する悪意など、シリーズものとしての魅力が増やされた一冊でした。今後も楽しみです。
倒産続きの彼女 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
新川帆立倒産続きの彼女 についてのレビュー
No.303: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

あなたに会えて困ったの感想

個人的に好みの結末で締めくくられていた作品で大満足でした。(☆7+1好み)

まず本書を楽しめる可能性があるのは90年代が小中高大学生として青春時代を過ごした人が効果抜群で、30代以上が読者ターゲットとなります。逆に現在25歳以下の方が読んでも面白さが分り辛いかと思いました。何故なら本書のネタは90年代の音楽や芸能ネタの時事ネタが多く、その当時の思い出を感じる作品だからです。過ごしていないと何が面白いのか分からない物語です。タイトルが小泉今日子の『あなたに会えてよかった』のもじりであると頭の中によぎるような方が対象に感じました。

物語は前科二犯として服役していた主人公が出所早々に空き巣として忍び込んだ先がかつての初恋の相手の家だったという始まり。現在の状況と初恋の相手に出会った当時の思い出を回想しながら物語は進みます。
冒頭にて懸念した内容はこの回想の所でして、90年代のあの頃はこんな音楽が流行ったよねとか、こんな事件があったよね、お笑いはこれが流行ったよねという、当時の誰かの日記を読んでいるような物語です。著者の藤崎翔さんは1985年生まれなので内容はまさに著者の世代にそったエピソードを感じました。著者は芸人でもあるので著者らしさが発揮された作品であるとも感じます。
正直な所としてミステリーとはあまり関係ない脱線話が多い為、この点は好みが分かれると思います。個人的には当時を懐かしく感じられてエンタメとしてとても面白い読書となった次第。

結末もこれどうするんだろうと不安になっていた所で、巧い締めくくられ方をしており読後感も満足な作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転泥棒 (双葉文庫)
藤崎翔逆転泥棒(あなたに会えて困った) についてのレビュー
No.302: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

世界でいちばん透きとおった物語の感想

SNSやメディアで話題の本書。ネタバレを被弾しないように早速手に取りました。

物語は大御所のミステリ作家の遺稿『世界でいちばん透きとおった物語』とはどんな作品だったのか。という遺稿探しの物語。
仕掛けも然ることながら、美しく終わる物語と作品作りへの想いが良かったです。

本書は予備知識がない方が良い作品なので調べずに読書推奨です。
という事で、情報はあまり載せずに詳しい感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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世界でいちばん透きとおった物語
杉井光世界でいちばん透きとおった物語 についてのレビュー
No.301: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

君のクイズの感想

2023年度の日本推理作家協会賞受賞作。
昨年からSNSやメディアで目にしていて気になっていた中、推協の受賞に後押しされて手に取りました。

物語はクイズ番組決勝の最終問題にて、問題を読み上げる前に解答し優勝を果たすという出来事が発生。これは事前に解答を知らされていたなどのヤラセではないのか?ヤラセではないとしたら何が起きたのか?というもの。

まず読者の興味が沸く掴みが素晴らしい。
ミステリ好きのみならず一般読者にも分かりやすい不可能状況である。
何が起きたのか?に始まり、どのような可能性があるのか。水平思考で脳を刺激する読書が面白く結末が気になる読書でした。

ただ本書に興味がある方への懸念点を補足すると、本書はミステリの楽しさを求める物語ではなく、『クイズ』にまつわるプレイヤーの思考や物語を体験するエンタメです。推理作家協会賞作品だからと言ってミステリを期待し過ぎると思っていたのと違うという評価になってしまうのでその点は注意です。

読書中はクイズプレイヤーの思考の探索が面白かったです。クイズに答えられるという事は人生においてその事象に触れている事や肯定になる考え方にも感銘を受けました。映画『スラムドッグ$ミリオネア』という作品を思い出しましたが、クイズは知識だけでなく人生の積み重ねをも感じます。

実の所、結末に関しては好みではありませんでした。
恐らく同じような感想の方が多く出そうな内容です。ただこれがクイズに対する考え方の多様性を表している面を感じます。後味が好みではないのですが、なるほどなという後味でした。
タイトル『君のクイズ』が巧い言葉で、読後にクイズとはあなたにとって何になるのか考えさせる事でしょう。おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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君のクイズ (朝日文庫)
小川哲君のクイズ についてのレビュー
No.300:
(7pt)

僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えないの感想

学園ラブコメ×本格ミステリ。
2巻目が2022年度の本格ミステリベスト10で紹介されていたのがきっかけで興味が沸きました。まずは1巻目の本書を読書。
見た目や雰囲気から読書前はライトノベル特有のキャラものかなと感じていたのですが、本書はしっかりと推理と謎解きのミステリでした。

本書の特徴は事件の犯人が先にわかってしまう事。ただし何故そうなのか過程がわからないという系統のミステリです。
この系統のジャンル名がわからないので他作品で補足しますと、麻耶雄嵩『神様ゲーム』や森川智喜『スノーホワイト』を感じる内容でした。決定事項となる解答が先にあり、何故そうなのかを推理する構造です。
表紙の女の子、明神凛音は学園内のトラブルの犯人が解ってしまう能力者。人に説明ができず理解してもらえない彼女。そこに弁護士志望の男子生徒が彼女を理解し学園内のトラブルを解決していくという流れ。

まずミステリとして面白い所は答えを見つける流れではなく、彼女が無意識化でどのように推理したのかを推測する構造。神様の啓示のように突然答えを知るのではなく、彼女が無意識化で拾っている情報を元に推理が行われている為、彼女がどんな行動をしていたのか、そしてそこで何を見たのかが推理の手がかりとなるわけです。一風変わった推理模様が楽しめました。
学園ものとしては読書していて気持ちが良い雰囲気が良かったです。陰鬱な事件模様はありません。読んでいて学園青春模様が楽しめました。男子生徒のまっすぐな志が好感。弁護士は依頼人を信じ代弁するという想いがよく描かれており、ヒロインとの関り方がミステリとしてもラブコメとしてもよい距離感で好みでした。表紙絵や挿絵もラブコメとしてのヒロインが印象的に引き立ってて好みです。

まずは1巻目という事でこの先の物語に期待です。
僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない (星海社FICTIONS)
No.299:
(7pt)

蝉かえるの感想

昆虫に絡めたミステリの連作短編集。
個人的に昆虫に馴染みがなかったので食指が動かなかったのですが、推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した作品である事から興味を持って手に取りました。
シリーズ2作目である事を読後に知りましたが、本書から読んで問題ありません。

それぞれの短編はどれもハズレがなく面白い物語。派手なミステリではなく、昆虫の生態や特性と人間模様が巧く絡められた内容であり、驚きではなく巧いなぁと染み渡るような上質なミステリの作りを感じた次第。
さらに短編の配置が巧く、物語を読み進むにつれて探偵役の魞沢泉の人間味が感じられるのがよかったです。最初はとぼけている弱弱しいというか印象に残らないようなキャラだったのが、徐々に最終話に行くにつれて内面に宿している想いを感じられるようになりました。

昆虫に興味がなくても楽しめる、非常に質の高い文学的なミステリでした。
蝉かえる (創元推理文庫)
櫻田智也蝉かえる についてのレビュー
No.298: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

希望が死んだ夜にの感想

世の中に問題を投げかける社会派小説として素晴らしい作品でした。

著者はミステリ作家ゆえミステリを用いた作品となっていますが、本書の内容はミステリよりも世に投げかける社会問題のテーマに比重が多いです。言い換えるとミステリ的な仕掛けを期待する作品ではありません。その為、読者が何を期待して本書を手に取ったかで好みが分かれてしまう事でしょう。社会に投げかけるテーマを持った作品として手に取ると良いです。

扱う社会派のテーマは貧困問題。
構成として優れているのは、事件を基点に2つの視点で物語が描かれている点だと感じました。
1つ目の視点は事件の当事者である少女の視点。中学生の少女を取り巻く環境。家庭や学校や友人関係といった中学生から見える世界。貧困のアラートが分からない。中学生で考えられる情報の範囲。この状況での青春小説が描かれます。
2つ目の視点は事件を捜査する大人の視点。生活安全課少年係の警察視点。少女の身に何が起きたのか。何が起きているのか。動機探しの警察小説が描かれます。
子供と大人。事件関係者と捜査側。この対比となる2つの視点で物語が伝えられます。本書を読み進めて得られるものはミステリ的な驚きの真相ではなく、テーマとなる貧困問題を感じさせるというものです。タイトルが事前に示している通り内容的に読後感が晴れるものではありません。なので人によっては手に取るのは注意。ただ巧く言えませんが心に残る物語であるのは確かです。社会派の小説を求める方にはオススメ。

著者の作品はデビュー作からいくつか読んでおりますが、今までライトな作風の著者の印象でした。こういう真摯な社会派の作品が描けかつ面白いという著者の新たな一面を感じた次第でした。
希望が死んだ夜に (文春文庫)
天祢涼希望が死んだ夜に についてのレビュー
No.297: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

北緯43度のコールドケースの感想

2021年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙が吹雪で険しい雰囲気を醸し出しており北海道警察が舞台。読書前の印象はかなり堅物で難しい本なのかなと思っていましたが、読んでみるとそれらは杞憂に終わり大変読み易く魅力的な作品でした。

派手な仕掛けや一発ネタがあるわけではないのですが読んでいて面白かったです。
まず登場人物達が魅力的で印象に残りました。登場人物はめちゃめちゃ多いのですが、読んでいて苦にならず、誰がどういう人か把握できるのが純粋に凄いと思いました。特徴的な名前があるわけでもありません。主人公や警察や事件に関わる一人ひとりの特徴や背景がしっかりしているのです。一方あえて悪く捉えるとページの半分は事件の物語よりも人を描いている印象でした。中盤まではなかなか捜査が進まない印象でしたが、ある所からは一気に物語が進みさらに面白くなりました。事前に読んでいた各人物達の背景も合わさり物語に深みがでて大変良かったです。

読み終わってみれば事件の顛末も乱歩賞らしい構成と展開で見事でした。先程派手な仕掛けはないといいましたが、派手でないだけで多くの地道な伏線といいますか読者への情報の浸透のさせ方が見事な構成。キャラについては申し分なく今後のシリーズ作品として読みたくなる人や警察組織が魅力的でした。事件を扱いますが読んでいて嫌な気分になる事はなく、むしろ組織や主人公の前向きな成長を感じるよい雰囲気。役者が多くでるドラマ向けとも感じました。2作目もあるので追っ掛けてみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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北緯43度のコールドケース
伏尾美紀北緯43度のコールドケース についてのレビュー
No.296: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

あの日、君は何をしたの感想

内容は好みとは違いますが作品として凄く面白かったです。

無関係に見える2つの事件の物語。先の展開が気になって止め時が見つからない読書でした。あらすじにある通りなのでネタバレではないと補足しつつ説明しますが、ミステリー小説のお約束の展開として終盤に2つの物語が繋がるのは明らかなわけです。ただどう繋がるのかが小説の見せ所なわけですが、本書はかなり高水準で複雑で絡まった物語を綺麗に回収して繋がる作品でした。
ミステリーの構成としてはとても素晴らしく、トリックやどんでん返し等の一発ネタの作品ではなく、コツコツ小さい情報が積み重なった先に見える真相を体験できる作品。感触としては警察小説で捜査を進めてやっと事件が解決した(話が見えた)。という安堵感を得るような構成です。

2つの物語で感じた印象は、毒親や狂気の家族模様。フィクションとはいえ、ちょっと思考回路が合わず嫌悪感を抱くようなあまり関わりたくないと感じる人たちの物語でイヤミス傾向です。読んでいて嫌な気分になる事が多かったのですが、そう思わせる文章は凄いなという視点で楽しみました。そういう意味で内容は好みとは違うのですが、事件がどういう結末を迎えるのか?先が気になる読書として面白かった次第です。
あの日、君は何をした (小学館文庫)
まさきとしかあの日、君は何をした についてのレビュー
No.295: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

監禁探偵の感想

"監禁"というストレートなワードがタイトルに入っているので、著者のダーク寄り作品かと思いながら手に取りました。実は『監禁探偵』という作品は漫画版⇒映画版⇒小説版という過程を得ており、2013年初という事で10年も前の作品なのですね。2022年10月の文庫化で認識した次第でした。

序盤は犯罪者が別の犯罪に巻き込まれるというシチュエーション。
扱う内容がゲスいので合わない人が多く感じると思う展開でした。正直な気持ちとして第一話の中盤までは監禁や少女を扱い下品な事を書いているだけの浅い作品かなと疑っていた次第。が、事件の真相が見えてくる頃にはそれらを活用したミステリである事が分りました。第一話、第二話と進む毎に本書の印象が変わりました。

読後の本書のイメージはミステリにおけるパズル小説。扱われる犯罪やシチュエーションがパズルのピースのように散らばっており、話を読み進めて行く事で物語の構造が見えてくるという作品。
内容主点で見ると現実的には違和感があったりで好き嫌い分かれそうです。ただ話の作り方に着目すると巧く考えられておりその視点が好きな方には好まれると思います。作品を魅力的に引き立てるアカネというキャラクターも謎めいていて良かったです。
尺的に映画向けかなと思っていたら読後に既に映画化している事を知った次第で納得。面白い物語でした。

▼以下、ネタバレ感想
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監禁探偵 (実業之日本社文庫)
我孫子武丸監禁探偵 についてのレビュー
No.294: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ルビンの壺が割れたの感想

突然の過去の恋人からのメッセージ。2人のメールのやり取りだけで進行する書簡体小説です。

この仕組みの小説は文学的な技術以外に読者へ与える情報量を小出しにする事で生まれる面白さが狙いとなります。本書はその狙いが巧みに行われている為、出版社が本書をミステリーというジャンルではないと言いつつもミステリー小説の2度読み系の娯楽を兼ね備えた作品であると感じました。SNSで話題になっているのも納得です。
文庫版で170ページ台と短く490円という価格設定。気軽にサクッと多くの方に読まれ口コミで広がる狙いを感じるなど、娯楽小説としての作りが色々と巧いと思います。

読書中の気持ちとしては、なんか内容が気持ち悪いなという気持ち。男側の内容が粘着で女側もよく答えるなぁというやり取り。SNSメッセージで長文……など。他にも昔の恋人同士のやりとりにしては、会話内容がローカル会話ではなく第三者の読者に向けて説明調になっていると感じた次第。現実のやり取りには見え辛いのが本音ですが小説だからこういうものかと思いながら読み進めました。

最後まで読むとそういう気持ちもなるほどなと納得。個人的な読後感は、やられた!ではなく、なるほど巧いなぁという気持ち。いろいろな設定が巧く考えられている技巧的な作品。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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ルビンの壺が割れた (新潮文庫)
宿野かほるルビンの壺が割れた についてのレビュー
No.293: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

汝、星のごとくの感想

『流浪の月』の読書で著者の作品に惹きこまれたので本書も手に取ってみました。
本書はミステリではなく、すれ違い系の恋愛小説。ただよくあるような軽い話ではなく、あらすじにある通り、生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ物語となっております。

地方と都会、親と子、仕事とお金、人生の占める割合が大きなこれらのポイントや分岐点、それに伴う男と女、不倫や浮気など、読者が感じるポイントは様々でしょう。
恋愛や不倫など男女の物語としてみる方もいると思うし、やりたい事を貫く為の自立や勇気を感じさせる側面も感じました。身近な人だったりお金だったり仕事だったり、各人の心の支えとなる柱を見つめる物語にも感じられました。

『流浪の月』でも感じましたが、心模様の描き方が本当に凄い。現実的には共感できない事が多いのですが、読書中はその人物の気持ちがわかる気分になってしまう。夢中にさせられる読書です。一つの恋愛物語としても良いラストでした。個人的には好きな事を自分で決断して動いてくという自立をテーマに感じた作品でした。
タイトルの『汝、星のごとく』についても、どこにいても想い人を感じる星の意味もあれば、自分が独りでも輝ける存在にという意味にも感じ取った次第です。心に残る名セリフも多く素晴らしい作品でした。

汝、星のごとく (講談社文庫)
凪良ゆう汝、星のごとく についてのレビュー
No.292: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

流浪の月の感想

映画化したり2020年の本屋大賞に選ばれたりで書店でよく目にしていた本書。
よくある一般文芸かと思い気に留めていなかったのですが、本書の出所がミステリ・SFでおなじみの東京創元社からであり、しかも新たに創設された"創元文芸文庫レーベルの1作目"に選ばれているという事を最近知り興味を持った次第。
結果は大満足。流石創元といいますか、ミステリではないにしても技法は入り込んでいるのを感じる事でしょう。東京創元社の今までの読者はもちろんの事、さらに一般読者を獲得する狙いをも感じるレーベル1作目でした。

著者本は初読み。今まで普通とは違った恋愛小説を描いてきた著者。本書は少女誘拐事件の当事者視点で描かれる物語。ミステリ好きな方へ本書をPRするとするなら、イヤミスや倒叙ミステリ傾向。事件の真相が先に読者に伝えられており、真相と事実の違いが扱われます。合わせて本書は様々な"違い"を多く感じました。それは常識と非常識だったり、人や環境の違い、心の中とそれを巧く言葉にできない違い、様々な違う事による苦悩、違っていても良いという救済、これらの情景や感情の描き方が素晴らしく惹きこまれた読書でした。

内容は好みが別れると思います。不幸寄りの物語なので、どんよりと重く暗く、たまに見える希望が明るい。そんな感覚でした。イライラさせられたり嫌な気持ちになる事が多いのですが、それだけ惹きこまれる文章である事は確か。内容は好みではなく登場人物達にまったく共感はできないのですが、物語としてはとても面白い読書体験でした。
流浪の月 (創元文芸文庫)
凪良ゆう流浪の月 についてのレビュー
No.291: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件の感想

玄人向けの濃厚なミステリ。もの凄い作品でした。

タイトルが似ている『名探偵のはらわた』とは関連はなく、本書単体で楽しめます。
ライトな読者や登場人物名がカタカナの外人なので海外ものが苦手な方には合わないかもです。
物語よりも凝りに凝ったマニアックなミステリを読みたい方にオススメです。

1978年に実在したカルト宗教の人民寺院集団自殺事件をモチーフとした作品。
本書を読んだ後に実際にあった事件である事を知ったのですが、事件を知るほど本書の本格ミステリに落とし込んだ扱われ方が見事だと感じました。本作品を読む前にちょっとでも事件の概要を調べておくと作品の雰囲気や登場人物が把握しやすくなると思います。
時系列や毒や凶器、調査団、などなど実際に起きた事はそのまま扱い、ミステリを構築しているのに驚きました。

カルトの異常性を活用した特殊設定ミステリ。そして多重解決ものの組み合わせが見事。ここ数年ミステリで話題となる名探偵のテーマや、特殊設定の流行や、著者の異常な世界観が良い形で絡み合っていると感じました。

著者の作品はいくつか読んでおりますが、過去作で好みでなかった要素が払拭されています。例えば鬼畜系のグロ表現は単語表現だけで気持ち悪くないと感じる事が多かったのですが、今作はグロい単語は軽減されていても、不気味さ、異常さ、宗教の怪しさを感じられました。『少女を殺す100の方法』では100という数が商業的なPRで意味を感じなかったのですが、そういう数字的な事に意味をちゃんと持たせた内容があり、表現の描き方や意味の持たせ方が進化していました。個人的に著者の作品の中で一番良い作品。

正直な気持ちとして物語としての面白さは弱かったのですが、ミステリの技巧作品としては一品でした。カルトの異常性と多重解決の組み合わせが本当に見事で凄く練られたミステリを堪能しました。
名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件