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あんみつ さんのレビュー一覧
あんみつさんのページへレビュー数119件
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親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。
性根が真っ直ぐで血気盛んな根っからの江戸っ子、坊ちゃん。 彼は東京の物理学校卒業後、四国は松山に新任教師として赴任することとなる。 田舎社会の閉塞感、学校教員間の人間関係、生徒による悪戯。 坊ちゃんは単純に惑わされたり、辟易したりしつつ、持ち前の気質で真正面から不器用に向き合う。 最後は山嵐と共に卑怯な赤シャツと野太鼓を天誅よろしく撲り、教師を辞して東京へ戻る。 その後、坊ちゃんは東京で街鉄の技師となる。 それから三年。 社会は日露講和条約について対立論争したり、身近では自身を可愛がってくれた下女の清が亡くなったり。 周りの変化はあったが、坊ちゃん自身は自分を変えることなく働いていた。 そんな中、炭坑で働いていたらしい山嵐が訪ねてくる。 何と赤シャツが自殺したという。 赤シャツは卑怯で悪びれない輩で、到底自殺するタイプとは思えない。 赤シャツは誰かに殺されたのではないか。 真相を探るため、二人は四国松山へ赴く。 しかし、真相を探るうち、ある疑問が生じる。 三年前の様々な出来事の、自身の認識と事実は異なるのではないか。 赤シャツの死の真相は。 坊ちゃんと四国松山の地でいったい何が起きていたのか―・・・ という展開です。 原作の雰囲気、文体、登場人物の特性をよく掴んでいます。 まるで原作の続編のようで、違和感がありません。 坊ちゃんの心境や登場人物の言い回しなど、「そうそうこんな感じ!」と思いました。 真相を探る過程で度々三年前の出来事が関わってきます。 原作でもひとつの騒動として大きく取り上げているものもあれば、原作ではサラッと読み飛ばすような些細な箇所もあます。 「あぁ、こんなのあった!」「おぉ、こう繋げるか!」と感心しました。 原作の別解釈、そして思いもよらぬ世界観の広がり。 「坊ちゃん」をこう読めるとはという驚きと新鮮さがありました。 また、柳広司氏が夏目漱石も「坊ちゃん」という作品も好きで、原作を読み込み敬意を示しながら執筆したのだろうなと感じました。 解説では原作未読でも楽しめる一冊と書かれています。 しかし、私的には既読向けだと思いました。 確かに登場人物や三年前の出来事の説明はありますが、短編ですし、説明くさくならないようサラッと最低限に留められている気がしました。 そのため、原作を読んでいないと、どうしてそう名付けたか、どうしてそう思ったのかといった空気や流れまではわかりにくいです。 原作既読だからこそ楽しめる箇所が多く感じました。 原作では些細な箇所を取り上げている際などは、既読の場合「こんな処をこう取り上げるか!」と楽しめますが、未読の場合サラッと流してしまうのではないでしょうか。 文体も原作らしさを十二分に残しているため、古めかしいとも言えます。 坊ちゃんの江戸っ子気質や当時の田舎への偏見も好みがあると思います。 既読の場合その辺りは承知の上で楽しめるでしょうが、未読で更にミステリを求めている人には読みにくい上とっつきにくいかもしれません。 勿論、原作未読で本作を読んだ訳ではないので一概には言えないのですが。 また、ミステリとしては後半少し急展開で駆け足気味だと思いました。 ネタバレになってしまうのであまり書けませんが、田舎松山から大きく広げた風呂敷のたたみ方が急で、「えっ、それでその後は」といった感じでした。 トリックもないわけではないですが、メインは原作のオマージュや世界観の新解釈にあると思います。 既読の場合、既読故に犯人の予想がついてしまいますし、未読でミステリを求めた人にはニーズに合いにくいかもしれません。 ミステリを楽しんだというより、「坊ちゃん」の別の見方を楽しんだ一冊でした。 既読だからこそ高評価ですが、未読だったら普通評価かもしれません。 解説にある通り、未読だからこそ楽しめる箇所もあるのかもしれませんが、既読だからこそ、「ここがこう繋がるのか」の連続で面白かったです。 あと、四国松山を田舎と称していますが、原作準拠ということで、申し訳ありません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「鈴虫」「ケモノ」「よいぎつね」「箱詰めの文字」「冬の鬼」「悪意の顔」の全6話の短編集です。
それぞれ独立した関連性のない短編になります。 共通項は登場人物の一人が「S」と表記されていること(同一人物ではありません)。 主人公たちの暗鬱な未来の象徴なのか、鴉が出てくること。 そして「鬼」。 タイトルの「鬼の足音」という短編はありませんし、「鬼」そのものが出てくるわけではありません。 「鬼」とは恐らく、人間に潜在する負の部分や、罪の象徴になります。 この短編集は「鬼」と化さないために越えてはいけない一線を越えてしまった人々の話といえると思います。 どのような境遇、心境で一線を越えるのか、個人の認識は別として社会的にどの程度の罪になるのかは、各話ごとに異なります。 「鬼」と化すわけなので、当然ハッピーエンドはありません。 しかし、明確に全話バッドエンドともいえません。 伏線はしっかり回収されているのですが、ラストは読者に想像の余地を残しています。 それも想像するとゾッとするような余韻があります。 また、短編にも関わらず、最後に予想を裏切るパターンや二転三転するパターンもあります(俗にいうどんでん返しとまでいえるかはわかりませんが)。 若干ホラーテイストで、どことなく世にも奇妙な物語のような雰囲気かもしれません。 短編でサラッと読めるにも関わらず、非常に密度が濃く面白いです。 道尾秀介氏の才能が光る短編集だと思います。 個人的には「冬の鬼」と「悪意の顔」がとくに好きでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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藤木芳彦は異様な光景の中目覚めた。
見たこともない深紅色の奇岩の連なり。 ここに至る直前の記憶の喪失。 傍にあるのは僅かな水、食糧、そしてゲーム機。 ゲーム機を作動すると「火星の迷宮へようこそ。」。 これはいったいどういうことなのか。 疑問、焦燥に苛まれながらも、ゲーム機の指示通り第1CPへ向かう最中、大友藍という女性と出会う。 2人で第1CPへ辿り着くと、そこには他に7人のプレイヤーがいた。 全員同様に水、食糧、ゲーム機が与えられており、第1CPまでは新たな情報、アイテム共に平等に分配された。 第2CPへの指示は4択。 サバイバルへのアイテムを求める者は東へ。 護身用のアイテムを求める者は西へ。 食糧を求める者は南へ。 情報を求める者は北へ。 ゲームは最初の選択肢が重要。 藤木と藍は北ルートを選択し、実質的に各プレイヤーとの協調関係が終了する。 この選択は正しいのか。 他の選択は各プレイヤーにどう影響するのか。 究極のゼロサム・ゲームが始まる―・・・ といった展開になります。 とても面白い作品でした。 非常にゼロサム・ゲームらしく緊迫感があり、恐怖への煽りが上手です。 ハラハラ、ドキドキしてつい一気に読んでしまいました。 読者を引き込むのが非常に上手だと思います。 正直、ミステリでもホラーでもあまりないと思いました。 ゼロサム・ゲームらしいサバイバルゲーム小説という印象です。 感想で米澤穂信先生のインシテミルと比較している方がいますが、インシテミルの方がミステリ要素はあると思います。 同じクローズド・サークルかつゼロサム・ゲームですが、ミステリ要素を求めるならばインシテミル、緊迫感を求めるならば本作かもしれません。 好みの問題はありますが、どちらも面白いと思いました。 しかし、若干不満点もありました。 ゼロサム・ゲームであからさまに殺し合いを狙っているのは作中で藤木自身の指摘しているぐらいなので分かるのですが、ゲームの設定や説明に曖昧と感じる箇所があります。 他のプレイヤーについての説明もないため、各プレイヤーの変化の過程が見えません。 そして、ラストは多くの方が感想で述べているように好みがあるのですが、それ以上に割と早い段階で最後の終わり方が予想出来てしまいました。 不満点が割と物語の根幹に関わる気がしたので、面白い作品だったのですが、-2点の8点評価にしました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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かつて虹の童子という誘拐犯がいた。
その1人、戸並健次は3度目の刑期を終え、社会復帰を目指していた。 しかし、彼は刑余者に対する世間の厳しさを十分に自覚していた。 社会復帰するには元手が必要である。 ではその元手をどうやって得るか。 彼は誘拐による身代金を元手に社会復帰しようと計画した。 雑居房で知り合った秋葉正義、三宅平太を仲間にし、標的は紀伊半島の大富豪柳川家、齢82の当主柳川とし子刀自とした。 入念な準備と失敗を重ね、念願叶って計画の第一段階、としの誘拐に成功する。 完璧な計画と思いきや、計画の第二段階であるアジトへの移送中、としに肝心のアジトについて計画の穴を指摘されてしまう。 ではどうするかと途方に暮れる中、何と誘拐されたとし自身がアイデアを出す。 としのアイデアに助けられ、誘拐犯と標的どちらが主従かわからなくなる中、ついに身代金の話へ。 健次たちの要求金額は5000万円。 しかし、その時それまで従順だったとしが初めて怒る。 何と柳川家当主の身代金が5000万円では安すぎる、100億円要求しろと譲らない。 結果、身代金100億円という前代未聞の金額となり、日本のみならず世界規模の大事件へ。 はたして一連の誘拐事件は無事成功するのか。 虹の童子の運命は―・・・ という展開です。 とてもユーモラスで面白い作品でした。 誘拐ものですが、誘拐ものにつきものな要素はあまりありません。 理由や背景に暗い負の感情がない。 誰も死なないどころか血なまぐさい展開もない。 仲間割れなどややこしい人間関係もない。 登場人物はそこそこ多めですが、皆性根の良いキャラクターです。 それぞれキャラクターが立っており、憎めない愛らしさもあります。 金額だけでなく、やることなすこととにかくスケールが大きく、いっそ清々しいです。 個人の身代金が100億円なんて、現在でもあり得ない金額です。 交渉や引き渡しもやることが大胆で、天晴れという気持ちになります。 一方で、地理や距離、所要時間、資金繰りや税金などについては、解説を読む限りある程度現実に即しているようで、作者の文才と緻密さに感嘆させられます。 1978年に執筆された作品とのことで、社会背景や一部文章などに時代を感じさせる箇所はあります。 しかし、あまり古さは感じず、今なお斬新でユーモラスと思えます。 人情味あふれる作品で、読了後は爽やかかつ心温まる一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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森真希は29歳の版画家。
まだまだ駆け出し状態の彼女の作品は、小サイズとはいえ額付で2500円。 当然それだけではやっていけず、友人と共に子供向け美術教室の講師をしていた。 ある日、教室で使う材料の買い出し中、ダンプと衝突事故を起こしてしまう。 しかし、彼女は自宅の椅子で微睡みから目覚めた。 時刻は3時15分。 まるで事故などなかった様子に驚く彼女だが、外に出てさらに驚く。 何と世界は彼女一人を残し、みんな消えてしまっていた。 さらにどのように一日過ごしても、定刻には前日の3時15分に戻ってしまう。 そんなターンを繰り返すこと150日。 静寂の世界の中で電話が鳴りだした。 唯一の現実世界との繋がりができた彼女は、現実世界の様子を知る。 はたして現実世界に帰られるのか この世界に取り残されるのか 帰れたとして、今の自分はどうなるのか 考えながら、電話を頼りに彼女は今日もターンする~・・・ という展開になります。 世界に独りぼっち。 時間が戻り同じ日を繰り返す。 この永遠ともいえる孤独はとても怖いです。 しかし、読了後の印象は美しく爽やかさすらあります。 ひとえに主人公である真希の感性によるものだと思います。 明るく楽観的な訳ではありません。 しかし、芯は強く健気です。 また、物の見方や表現がどこか美しく爽やかで、透明感があります。 その感性がとても素敵です。 ミステリですが、あらすじからわかるように、推理物ではなくタイムリープ系のSFになります。 ただSFといっても、辻村深月氏がSF=少し不思議と表現したことがありましたが、まさに少し不思議といった感じてす。 恐ろしい世界にも関わらず、緩やかにどこかほのぼのと進みます。 読了後はミステリというか、少し不思議でロマンティックという印象でした。 また、日本語の美しさも感じました。 その独特な文章には好みがありそうですが。 私は素敵な一冊だと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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都会に住む根っからの文系女子短大生てある、入江駒子はある日一冊の本に出会う。
表紙に描かれた麦わら帽子の少年とノスタルジックな田舎風景にどうにも惹かれる。 録に土を踏んだこともないのに、どこか懐かしさを感じ、一目惚れでその本を購入してしまう。 その本こそ「ななつのこ」。 「ななつのこ」は7つの短編で、主人公の「はやて」少年の日常の些細な謎を、〈あやめさん〉が解決するストーリ。 そんな「ななつのこ」の第1話は「すいかのお化け」で、たまたま駒子の日常ではスイカジュース事件が起きた。 血痕かと思ったらスイカジュースだったという軽い話を、駒子は「ななつのこ」の作者である、佐伯綾乃へのファンレターに書き記した。 すると、後日作者から返事が来たうえ、スイカジュース事件への思わぬ考察が書き添えられていた。 そして、駒子の日常の謎に、作者が答える手紙の往復が始まる-… という展開になります。 とても穏やかな気持ちになれる一冊です。 ミステリというと、つい殺人事件、複雑な謎解き、緊張感やスピード感をイメージしがちです。 しかし、本作では誰かが亡くなるようなことはなく、解く謎も些細な日常に起きた、人によっては謎とも言わないものです。 しかし、作中駒子は最初のファンレターで書き記しています(ネタバレに含まれたらすいません)。 いつから疑問に思うことをやめてしまうのか 色々な全てに納得してしまうようになったのか いつだって、どこだって、謎はすぐ近くにある 本当に大切な謎はいくらでも日常にあふれていて、答えを待ってる これがこの作品のスタンスをよく物語っていると思います。 ミステリ=殺人事件など日常から解離したイメージだった私にはハッとさせられる言葉でした。 7つの短編で、先述の通り駒子の日常の些細な謎を、「ななつのこ」の作者である佐伯綾乃が解決します。 この駒子の謎が、作中作の「ななつのこ」のはやて少年の謎とリンクしています。 そのため、作中作の「ななつのこ」と2つの謎を楽しめる入れ子構成になっています。 どちらの謎もほのぼのとしつつ、どこか切なさもあって面白いです。 上手く言えませんが、ミステリを読んだというより、心地よく美しい作品に触れたという感じです。 優しい気持ちになりたい人におすすめします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(3件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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アマチュア奇術家グループであるマジキ クラブは真敷市公民館の創立20周年記念として、奇術ショウを行った。
全11人のメンバーによる奇術ショウが成功したり失敗したりしつつ、披露されていく。 何とかフィナーレ演目「人形の家」を迎えるも、人形の家から出てくるはずの水田志摩子が出てこない。 彼女はどこへ消えたのか。 何と奇術ショウの同時刻、彼女は自宅で殺害されていた。 周囲にはクラブメンバーである鹿川が、「捨ててしまうには惜しいが、実用にならないトリック」を小説化した「11枚のとらんぷ」に対応した小道具が。 いったい彼女は何故、誰に殺されたのか。 「11枚のとらんぷ」との符号は何なのか~… といった展開になります。 あらすじに書いてあるのとほぼ同じですが。 ミステリだけではなく、奇術が好きな人には面白い作品だと思います。 構成は三部作で、第一部は奇術ショウ、第二部は11枚のとらんぷ(作中作)、第三部は世界国際奇術家会議となります。 奇術ショウの様子や、奇術そのものについての説明が結構多いです。 最後の推理に必要な情報・伏線はそこにしっかり書かれており、ミステリとしてかなりフェアな作品だと思います。 しかし、奇術ショウや奇術の説明が多すぎて、推理に関わるとはいえ、スピード感がなく、やや冗長な印象です。 また、伏線があるとわかっていても、構成の三部作はブツ切れ感があります。 私は奇術よりミステリを期待して読んだので、ミステリ<奇術な感じや、少しコミカルなドタバタ感が合いませんでした。 犯人まではわからずとも、予想できた箇所も多く、ラストも少し残念でした。 そのため、私はあまり楽しめませんでした。 奇術やコミカルなミステリ好きにはおすすめですが、スピード感や緊張感あるミステリ好きには合わないかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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三億二千万円のサラブレッド「セシア」。
セシアは四人の馬主が権利を共有していた。 セシアを馬主の一人てある鞍峰の牧場へ移送する最中、思わぬ事故が起きてしまう。 セシアが骨折し、競走馬としての選手生命を失ってしまった。 鞍峰はセシアの売り主、それて他の馬主への賠償から逃れるため、セシアの偽装誘拐を持ち出す。 鞍峰の下で実質的に馬の管理をしている朝倉は反対するも、結局牧場関係者のため、偽装誘拐計画をたてる。 かくしてセシア誘拐事件か起きたはずだった。 しかし、全く別の第三者からセシア誘拐、そして身代金二億円の脅迫状が。 一体脅迫主は誰か? セシアの骨折は露見してるのか? 脅迫主が逮捕されれば鞍峰牧場の偽装誘拐も露見するのでは? 計画主だったはずの朝倉は脅迫主を探すー・・・ といった展開になります。 とても面白い作品でした。 競馬場を舞台にしていますが、それが存分に活かされてます。 誘拐対象、換金方法、受け渡し場所などなど。 普通の誘拐事件の場合、人質の安全が最優先ですが、今回は馬。 そのため警察はもとより、馬主間にも温度差があります。 特殊な舞台設定がとても活かされていて、面白いです。 偽装誘拐のはずが、それを手助けするような脅迫状が届くという、ある種誘拐事件ののっとり。 犯人がわかっていて、犯人側視点で読むかと思いきや違うのは、それはそれで緊張感があり面白いです。 ネタバレに配慮したつもりですが、ネタバレしていた場合申し訳ありません。 とても面白い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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演出家・東郷陣平の舞台オーディションに選ばれた面々は、東郷の指示により、とあるペンションを訪れた。
メンバーは元々東郷の劇団所属の男女各3人と、部外者の男性1人の計7人。 そこへ東郷から新たな指示が。 舞台はある閉ざされた雪の山荘。 関係は現実通り芝居に出る若者。 外部と接触した場合は合格取り消し。 それらを踏まえて今後起きることに対処せよ。 これは作品の一部となる。 7人は東郷ならあり得ると気楽に構えるが、翌日1人消失し、設定として死体についての指示が。 はたして何処へ消えたのか。 どのタイミングで殺され役になるのか。 さらに翌日に2人目の消失と死体についての指示が。 残る役者の面々は、役者として、早々に殺され役になり舞台から降りるのは避けたいため、探偵役を目指す。 しかし、凶器についての指示とは別に、実際に使われたと思われる凶器が見つかる。 さらに、急に襲われたが故に放置されたと思われる小物も。 これは舞台のための東郷の仕掛けなのか。 それとも現実に殺人事件が起きてるのか。 残る役者は現実の殺人事件かもしれないと恐れつつも、東郷の仕掛けの可能性があるため、外部に連絡出来ない。 今の状況ははたしてどちらなのかー… といった展開になります。 東野圭吾ファンには申し訳ないのですが、あまり印象に残らない作品でした。 暇潰しにさらっと読むにはいいと思います。 設定は非常に面白いです。 本当に閉ざされた雪の山荘なのではなく、閉ざされた雪の山荘という設定の山荘という二重構造です。 連絡手段はあるのに、現実の殺人事件か東郷の仕掛けかわからない故に、連絡が取れないというのも面白いです。 この辺りの設定はただのクローズド・サークルから進化していて、非常に上手いと思いました。 文章も読みやすく、叙述トリックも自然です。 しかし、それにも関わらず、いまいち印象には残らない作品でした。 登場人物についてあまり掘り下げた説明がなく、共感や魅力を感じないからかもしれません。 叙述トリックには驚きましたが、かといって犯人が予想外なわけてはなく、ラストも好みではありませんでした。 少し東野圭吾という名前に期待しすぎたせいもあるかもしれません。 300頁足らずなので、さらっと読むにはいいと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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広告代理店・東京エージェンシーの加藤と西崎は、ミリエル社の香水宣伝に際し、コムサイト社のカリスマ女社長・杖村にアドバイスを求める。
彼女はWORD OF MOUTH(WOM)、つまり口コミによる宣伝を奨める。 ファッションやトレンドに敏感そうな10代の女子をモニターとして集め、高額なバイト料を餌に、人為的に香水の噂を広めた。 その噂の一つこそ「レインマン」。 ニューヨークの黒いレインコートを着た殺人鬼で、若い娘の足首を切断していく。 しかし、ミリエルの香水をつけてると助かるー・・・ ただの杖村たちが作った噂のはずが、実際に足首を切断された女子高生の遺体が発見される。 「レインマン」は誰なのか。 所轄の小暮と本庁警部補の名島コンビが事件を追うー・・・ といった展開の話です。 どんでん返しと言われるラストについては、好みが別れるようですが、個人的にはとても面白かったです。 題名通り「噂」というか「口コミ」の威力が終始重要で活躍している作品でした。 噂なんて曖昧なものという一方で、火のないところに煙は立たぬとも言います。 それがレインマンの噂に限らないあたりが面白いです。 杖村が語るネガティブ情報の伝播力や攻撃力は相当なもので、匿名かつ実体もないため防ぎようがないのに、悪質かつ大量。 「噂」一つからの物語の展開が非常に面白いです。 小暮・名島コンビも良かったです。 どちらもあまり嫌味のないキャラクターで、無駄な軋轢も恋愛もないのが良かったです。 本庁と所轄ということで、ゴタゴタしないため、キャラクターに共感しつつ、スラスラ読めました。 しかし、小暮と名島以外の捜査本部が若干読んでいて疲れました。 本庁の課同士の軋轢、神奈川県警との軋轢等々は、警察の内部構造の話てはないので、あまり必要性を感じませんでした。 また、レインマンの犯行動機等々が思ったよりサラッと書かれている気がしました。 もう少し掘り下げられていると、より不気味さが出たのてはないかなとも思いました。 不満点も書きましたが、題名の「噂」が終始重要なアクターとなり、尚且どんでん返しもあり、文章も読みやすいため、おすすめできる一冊だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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多くの方がレビューに書いているように、評価が難しい作品だと思いました。
絶賛する人も酷評する人もいそうです。 個人的には一読では理解しきれず、かといって、もう一度読むには少し…。 これが反推理小説というものなのかと。 ミステリ、推理小説かといわれると、よくわかりません。 伏線も回収されたと言えるのか。 展開は二転三転するけれど、どんでん返しとも異なり、非常に独特です。 個人的には読み進める度に「そんなのあり?」があまりよくない意味で続くため、凄く楽しめた一冊ではありませんでした。 しかし、続きが気にならずダラダラ読み進めたわけでもありません。 ラストをどう片付けるのか気になりました。 そのため、どこか引き込ませる文章・雰囲気なのかもしれません。 そのため、中間の5点をつけました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ある日、平凡な男子大学生・毛利圭介のもとに一本の電話が入ります。
電話の主は地震予知をし、見事に時刻・震度・震源地を当てます。 本来は不可能な地震予知を行った電話主は風間と名乗り、とある会合に誘います。 半信半疑で参加した毛利の他9人に、風間は驚くべき現象『リピート』について説明します。 『リピート』とは未来の記憶を持ったまま、約10カ月前の過去の身体に戻る、一方通行の時間旅行。 皆半信半疑ながら、ホストの風間を含めた10人は『リピート』します。 しかし、僅か10カ月分の得をどう活かすかを考える間もなく、次々リピーターが死んでいく。 毛利の僅かな行動の違いで前の世界の過去と環境も変わり始める。 一見関連のないリピーター各々の死。 しかし、『リピート』を知る者にとっては関連がある。 いったい誰が犯人か? どこから『リピート』の秘密は漏れたのか? ・・・といった感じの展開です。 とても面白い小説でした。 まず設定が非常に面白かったです。 『リピート』期間が僅か10カ月足らずで、大それた行動は身の危険を招くため、小さく儲ける程度のことしか出来ない。 誰かを救うにも、それが近しけらば近しい程未来が変わり、『リピート』の特権がなくなるため、見捨てる方が吉という薄情さ。 そういう意味では10カ月というのは人生を変えるには期間が短い! しかしそれでも『リピート』の権利をちらつかされると、手放したくない! このあたりの設定や心理は非常に上手いと思いました。 『リピート』に至るまでが少し長いですが、半信半疑の面々をいかに企画に乗せるか、物語の根幹に関わる『リピート』を説明する必要性などを考慮すると、仕方ない気もします。 『リピート』後は割りとスラスラ。 悪く言えば『リピート』仲間が死んでいき、SFから一気にミステリっぽくなります。 まず設定が面白く、その多少複雑な設定も丁寧に説明されており、読みやすかったです。 面白く、おすすめできる一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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性格に一癖も二癖もある7人の男女学生が、避暑をかねてりら荘へ訪れる。
年頃の男女、青春の悩みや思惑が蠢く中、その内の二人が婚約発表。 祝福する者、恋破れた者と悲喜様々。 しかしこの発表が悲劇の始まりへ。 連続殺人に意味深に置かれるスペードのカード。 殺人はいつまで続くのか? いったい誰が犯人なのか? といった感じの展開です。 50年以上前の作品ということで、時代にそわない面はあります。 科学的な面や、男女の価値観・結婚観など。 伏線は割りと丁寧かつしっかりと提示され、回収されます。 正直中にはそんなんあり?というのもありますが、かなりフェアなのではないかと思います。 作中どこがおかしいのか、着目すべきとこがどこかヒントも出てます。 ただ、最後の名探偵の活躍のためか物語の構成上か、警察が無能すぎるのが気になりました。 あまりにも手落ちや第一印象のきめつけが多いです。 また、心理描写があまりないので、いまいち感情移入ができません。 被害者の心理も加害者の心理もないので、さらっと流れてしまうというか、少し物足りなさを感じました。 しかし、ミステリとしてはしっかり伏線を提示・回収してまとめていて、とてもスタンダードなものなのだと思います。 伏線もそんなんあり?と思うのも確かにありますが、なるほどと思わされるまのも多いです。 心理描写などは好みがありそうですが、アンフェア気味のミステリよりすっといいという人も多いと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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主人公は本作の作家であり、編集者でもある三津田信三氏自身。
三津田氏は執筆のインスピレーションを求め、イギリス建築の洋館に住みます。 洋館を「人形荘」と名付け、同人誌「迷宮草子」に連載した「忌む家」のモデルにします。 「忌む家」は三津田氏の分身である「津口十六人」の登場といった、筆者の想定外な展開もあるが、スラスラと筆が進んでいきます。 しかし、現実世界で津口十六人を名乗る存在といった、不気味で三津田氏には身に覚えのないことが起こり始めます。 作家の手から作品も洋館も現実も離れ、勝手に進んでいく。 いったい過去に、そして今何が起きているのか―…と、ざっくりいうとこのような展開です。 三津田氏自身が作中で言っているように、幻想怪奇系小説であり、ミステリ<ホラーの作品だと思います。 そのため、ミステリのような推理による伏線回収・説明はあまりありません。 どちらかというとホラーの雰囲気を楽しむものであり、伏線なども雰囲気で察する作品だと思います。 主人公=三津田信三ということで、おそらく実際に作者が行ったこと(編集作業など)を合間合間に挟んでいます。 ノンフィクション感は出るかもしれません。 しかし、編集に限らず何か説明する際、作家○○の「○○○」のような~といった他作家の作品を例に挙げることが多すぎる気がしました。 ミステリやホラー好きで、それらの作品を読了している人はニヤリとするのかもしれませんが、私はそこまで知識豊富ではないので、例とし出されてもよくわからないことが多かったです。 説明や紹介が長くて少しだれてしまいます。 このあたりは、この本はそもそも三津田氏のデビュー作の改訂版とのことなので、自作以降もっとスッキリした雰囲気になるのか、それとも「三津田信三らしさ」となるのかわかりません。 私は冗長と感じましたが、逆に好みという人もいるのかなと思いました。 作者が主人公で、同人誌にも更に分身がいる 洋館があり、同人誌にも洋館がある 物語の発想は面白く、ノンフィクション感を出すことで更に不気味な雰囲気を醸し出していると思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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大学院入試を控えた主人公・悠木拓也が試験準備のため叔父の別荘に訪れます。
そこで美しく、どこか神秘的な双子の兄弟・実矢と麻堵に出会います。 3人で遊んでいた様子なのに、もう一人“あっちゃん”は見えず、双子も“あっちゃん”については口を閉ざしてしまう。 悠木は双子に気に入られ、試験勉強しつつ、過ごします。 しかし、そんな日々は続かず、双子の別荘で事件が起きます。 誰が殺したのか? “あっちゃん”とは? といった流れの話です。 面白い作品でした。 ページ数的にも、文章的にも、スラスラ読みやすかったです。 綾辻先生の囁きシリーズでは一番好きかもしれません。 典型的というと言い過ぎですが、綾辻先生らしい世界観だと思いました。 神秘的な雰囲気。 いわくつきの建物。 不思議な双子。 厳格な父親と美しい母親。 何か隠している使用人。 ずる賢い親戚。 ミステリにはよくわる設定かもしれませんが、綾辻先生らしいキーワードな気もします。 なので館シリーズのような連続物ではなく、単品で綾辻先生の世界観に浸りたいときに良いと思います。 ただし、綾辻先生の作品を読み慣れている人は、推理なしに何となくで先読みできてしまうかもしれません。 あまり悩まず世界観を楽しんだほうがいいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作「密室殺人ゲーム王手飛車取り」を読んでからの方が楽しめる…かも?
2.0なので、基本的に前作を読んでいる前提で話が展開していきます。 しかし、前作を読んでいるからこそ、トリックは解けなくても、犯人の素性に関しては予想しやすいかもしれません。 ミステリーを読むにあたり、トリックを推理するのが好きという方は、特に楽しめると思います。 といっても、あまり現実離れしたトリックは駄目という方は微妙かもしれませんが。 犯人の素性当てや、意外性が好きという方は、あまり先読みができない私が先読みできてしまった箇所がところどころあるので、どうでしょう。 しかし、驚きの程度に差こそあれ、意外性がないことはありません。 前作の続きが気になる方には断然おすすめです。 終わり方に関しても、前作より好みだったので、前作より高評価にさせていただきました。 推理合戦みたいなところがあるので、多少説明的にはなりますが、文章も大変読みやすかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても面白い作品でした。
主人公・上杉彰彦が考えたゲームシナリオを、イプシロン・プロジェクトという企業が購入します。 上杉のシナリオはゲーム機器「K-Ⅱ」のモデルシナリオへ。 「K-Ⅱ」はプレイヤーを完全バーチャルリアリティの世界へ誘う最新機器。 システムに穴がないか、上杉は美少女・高石梨紗と共にモデルプレイヤーへ。 しかし、ゲームを進めていくうち、上杉はゲーム内・外で不可解な出来事に遭遇していく。 イプシロンを信用していいものか迷う中、突然梨紗が消えてしまいー・・・ といった展開です。 1980~90年代に書かれたことを考えると、作者の発想や才能は本当に素晴らしいと思います。 現在の携帯電話といった通信機器の発達を考えると、古い部分はもちろんあります。 しかし、一方で現在のネット対戦や3D化を考えると、この作品はありえなくもないと感じますし、斬新で未来的です。 「どんでん返し」ももちろんですが、読みやすさや設定等々含め、とても魅力的な作品です。 ぜひ読んでみてほしいです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても面白い小説でした。
岡嶋二人三大ミステリの一作であり、オスダメミステリのランクでは三作品中、唯一のAランク作品ですが、私は本作が最も面白かったです。 余命短い生駒洋一郎の息子である生駒慎吾誘拐事件の回想手記から物語は始まります。 その後、当時の身代金が発見されたことに端を発し、過去の誘拐事件をなぞったような誘拐事件が起きるという展開です。 犯人視点での展開もあるため、読者は事前に犯人をわかったうえで読み進めます。 しかし、犯人が警察につかまるのか~といったハラハラ感はあまりなく、どちらかというとワクワクしながら読めると思います。 トリックについては実現不可能という批判はあるかと思いますが、あくまでミステリ小説であるということと、1980年代にここまでハイテク機器を用いたトリックを考え、尚且つそれを説明ぽくなく飽きさせずに読ませる作者の手腕は素晴らしいと思います。 身代金の換金方法、誘拐方法、身代金の運ばせ方、そしてトリック等々は、過去の誘拐事件と比較して時代の進歩が見てとれます。 一方、捜査方法はさして進歩がない様子も見て取れます。 あまり詳しく書くとネタバレになってしまいますが、ただの誘拐小説ではなく、そこに犯人のある想いがあることで、さらに面白い作品だと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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全て会話文形式の短編集です。
タイトルは全て「○○の証明」となってます。 男女二人の会話で、片方が現実的にあり得ないことを主張し、もう片方はそれが通常あり得ないということを説明します。 双方主張を譲らず、噛み合わず、まさにもつれっぱなし。 最後どう折り合いをつけるかを楽しむ作品です。 あらすじ解説に書かれている通り、会話文の中で違和感なく人物や状況の説明がなされていて、読みやすいと思います。 ただ、好みの問題でしょうが、私は特段印象に残る作品ではありませんでした。 会話のもつれ方も少し違和感がありました。 |
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