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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 161~180 9/27ページ

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No.378:
(8pt)

「噂が身を滅ぼすこともある」のは古今東西を問わない

2019年のサンデータイムズのベスト10入りしたという、イギリスの新人作家のデビュー作。ママ友が暇つぶしに話題にしただけの噂がどんどん成長し、やがては悲劇を招いてしまうという妙にリアリティのある心理サスペンスである。
海辺の小さな田舎町で、子供を送り迎えするママ友の間で交わされた「有名な幼児殺害犯の女・サリーが名前を変えて、この町に住んでいる」という噂を耳にした、シングルマザーのジョアンナ。それを信じた訳ではなかったのだが、その夜の読書会でつい口にしてしまった。さらに、一人息子のアルフィーが学校で仲間はずれにされていることを気に病み、アルフィーが同級生たちに溶け込めるように自分からママ友の輪に入るために噂を使ってしまう。さして根拠のないゴシップだったはずの噂は一人歩きし、犯人ではないかと目された女性が被害を受けるようになってしまった。最初は根も葉もない話だと思っていたジョアンナも徐々に噂に囚われ、やがて周りの人々がみんな怪しく思えて来るのだった。そして、否応なく真相が明らかにされたとき、最愛の家族を襲う悲劇に見舞われるのだった・・・。
ほんの些細な噂が多くの人の人生を変えるまでの影響力を持つまでの淡々とした、それだからこそ不気味なサスペンス。日々、SNSの混沌と醜悪さを体験している我々には実にリアリティがあり、鳥肌が立つ怖さがある。さらに、幼児殺害犯のサリーは本当にこの町にいるのか、いるとしたら誰なのかという謎解きも、容疑者候補が二転三転してスリリング。最後までサスペンスを盛り上げる。
心理サスペンスのファンには絶対のオススメである。
噂 殺人者のひそむ町 (集英社文庫)
レスリー・カラ噂 殺人者のひそむ町 についてのレビュー
No.377:
(8pt)

祖国とは血なのか、地なのか

2年半にわたる週刊誌連載を加筆改稿した、単行本上下で1200ページを越える超大作。太平洋戦争の開始をハワイとロスで迎えた日系人青年たちの苦悩と生き方をダイナミックな構成で描いた社会派の大河ドラマである。
ロスのリトルトーキョーに住む日系二世で、同じ女性を愛してしまった二人の青年。片や比較的恵まれた環境にあり優等生の好青年として知られたヘンリー、それとは対照的に環境に恵まれず社会をすねた生き方を貫いていたジロー。その微妙な関係は、日本による真珠湾攻撃をきっかけに後戻りできない亀裂を抱えることになった。ある事情で殺人を犯したジローは、日本語能力の高さを買われて米国陸軍情報部に語学兵としてリクルートされてロスを離れ、太平洋戦線に送られる。アメリカ政府による日系人強制収容に遭遇したヘンリーは、日系人の権利・立場を主張するため兵役に志願し、陸軍に入隊する。
一方、奇襲を受けたハワイでは、大学生活を満喫していた日系二世のマットが父親とともにスパイ容疑で拘束され、マットはすぐに釈放されたものの父親は拘束され続けた。自分はアメリカ人であることを証明したいという思いに駆られたマットは、父の釈放の助けになれればとの願いもあり、同級生たちと日系人部隊に加わることにした。
この三人を中心に、祖先の国・日本と戦火を交えるアメリカ軍に加わった日系人たちの苦悩と戦場での活躍が描かれて行く。自分が背負うべき祖国とは父母の国・日本なのか、生まれ育ち国籍があるアメリカなのか、永遠に正解が見つからない難問が若い日系人を苛み、疲弊させて行く。そして終戦。圧倒的な勝利を収めたアメリカで勝ったといえるのは国家なのか、国民なのか。国民の中に日系人は含まれるのか。
非常に重いテーマを真摯に、しかも高度にエンターテイメントとして仕上げている作者の力量に感嘆した。週刊誌の連載故にやや冗漫な説明が重なるところがあるのだが、そんな些細なことは忘れさせる力強い作品である。
国家と国民の関係に少しでも関心があれば、ぜひ読むことをオススメする。
栄光なき凱旋 上
真保裕一栄光なき凱旋 についてのレビュー
No.376:
(8pt)

詐欺は楽しい! 被害者にならなければ。

著者お得意の美術骨董の世界での騙し合いをテーマにした、連作短編集。6作品すべてにニヤッとさせられる仕掛けがある、良質なコンゲーム作品である。
登場人物はいずれも、欲にまみれた、一癖も二癖もある小悪人で、しかもそれぞれが「騙すことは騙されること」と自覚しているので、犯罪というよりゲームを楽しむような軽やかさがある。さらに、豊富な知識に裏付けられた詐欺の仕掛けの精緻さがリアリティを持っていて、古美術や骨董の門外漢でもすんなり楽しめる。
肩肘張らない、面白いエンターテイメント作品を読みたい、という方に絶対のオススメである。
騙る
黒川博行騙る についてのレビュー
No.375:
(8pt)

ドジで間抜けで、だから憎めない詐欺師の大活躍

アメリカミステリーの巨匠がウェストレイク名義で妙技を披露した、軽やかな詐欺物語。保険金目当てで自らの死を演出するために南米の小国に出かけたダメ男のコミカルなエンターテイメントである。
金に行き詰ったバリーとローラの夫婦は保険金目当てに、バリーが死んだことにする計画を立てた。事故死すれば保険金が二倍になるというので、事故を起こす場所に選んだのがローラの故郷である南米の小国。そこに住むローラの兄や親族の助けを借りてレンタカーで崖から転落する事故を作り出し、葬式まで演出し、見事に周囲をだまし切った。あとは、アメリカに帰ったローラが保険金を受け取るだけ・・・のはずが、地元の悪徳警官、欲深いいとこ、口が軽い親族などが絡んできて、思いもかけない事態が出現し、完璧なはずのプランは徐々に破綻し始めるのだった…。
自分の死を演出する保険金詐欺というありがちな設定だが、舞台を規律が緩い南米の小国に設定したことで生まれるユーモラスなエピソードがドライで軽やか。悪党のはずのバリーに思わず肩入れしてしまう。堅苦しいことは抜きに、最初から最後まで笑っていられる作品だ。
レナードやハイアセンなど、ニヤッとさせる犯罪小説のファンには絶対のおススメである。

弱気な死人 (ヴィレッジブックス)
ドナルド・E・ウェストレイク弱気な死人 についてのレビュー
No.374: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

犠牲者の身元探しと犯人捜しという二重構造の謎解き

1954年、ヒラリー・ウォーの初期の警察ミステリーとして発表された長編第5作。アメリカ東部の閑静な町の警察が地道な捜査で難事件を解決する、オーソドックスな警察捜査ミステリーの傑作である。
小さな町の公園で頭を砕かれた若い女性の死体が発見された。ベテランのダナハー警部と若いマロイ刑事のコンビは失踪人届を調べ、被害者が身に着けていた指輪の写真を公開するなどしたのだが確たる情報が得られず、マロイ刑事の発案で砕かれた頭蓋骨から顔面を復元する手段をとった。すると、5年前に女優を夢見てN.Y.へ家出した少女・ミルドレッドであることが判明した。しかし、ミルドレッドは家出してから一切家族に連絡を取っていなかったため、殺されるまでの5年間は完全な空白になっていた。彼女がなぜ故郷の街にいたのか、そして、だれが、なぜ殺害したのか? 5年の空白を埋めるために、ダナハーとマロイのコンビは聞き込み、推理、確認作業を繰り返し、ミルドレッドの悲劇の真相を解明していくのだった…。
事件の背景解明、犯人捜しの謎解きが複雑かつ巧妙で、しかも論理的。顔の復元から始まって被害者の激動の5年間を再現していくプロセスは実にスリリングで、これぞ警察捜査の王道といえる作品で、いささかも古さを感じない。主役の二人の刑事のキャラクターも魅力的で、なぜこのコンビがシリーズ化されなかったのか、疑問になった。
フェローズ署長シリーズのファンはもちろん、リアルな警察ミステリーのファンには絶対のおススメだ。
愚か者の祈り (創元推理文庫)
ヒラリー・ウォー愚か者の祈り についてのレビュー
No.373:
(8pt)

老カウボーイがかっこいい、まさに現代ウェスタン

ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズで知られるボックスのシリーズ外作品。カナダ国境に近い森林地帯で牧場を営む男の自分の信念をかけた戦いを描いたサスペンス・アクションである。
アイダホ州北部の小さな町に住む12歳のアニーと弟のウィリアムは、森の中で二人だけで釣りをしていて、集団によるリンチ殺人を目撃した。姉弟が目撃したことに気づいた犯人たちは二人を捕まえようとしたのだが、二人は追跡を逃れて森のはずれにある牧場に逃げ込んだ。老牧場主・ジェスが一人で切り盛りする牧場で、ジェスは二人をかくまってくれる。殺人事件を起こしたのは退職して移住してきたL.A.の元警官たちで、姉弟の口封じのために地元保安官に協力を申し出て捜査陣に加わり、捜査の権限を奪ってしまう。丁度その時、8年前にロサンゼルス郊外で起きた強盗殺人事件の捜査に執念を燃やす元刑事・ヴィアトロが町に入り、じわじわと犯人に近づいていた。犯行を隠すためになりふり構わずアニーとウィリアムを追い詰める元警官たちに対し、二人を守ることを決心したジェスは誇りと命を賭けて戦いを挑むのだった。
これはまさに、襲ってくる敵に正面から挑んでいく正統派のウェスタンである。家族を失い、代々受け継いだ牧場も人手に渡る寸前まで追い込まれた老カウボーイが、信念と正義のために戦う一徹さが心を打つ。また、個性豊かな主要登場人物たちもきちんと書き分けられているので非常に読みやすく、感情移入を容易にしている。さらに、ワイオミングと同じ大自然の豪快さも魅力的で、ジョー・ピケット・シリーズに負けず劣らずのすがすがしい読後感が得られること間違いなし。
ジョー・ピケットのファンはもちろん、ウェスタン小説のファン、爽やかなアクション・サスペンスのファンに自信をもっておススメする。
ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)
C・J・ボックスブルー・ヘヴン についてのレビュー
No.372:
(8pt)

史実に基づく、国際謀略エンターテイメントの傑作

1950年代後半、冷戦下でCIAが実行した秘密作戦をベースに、文化スパイ活動と女性の生き方を華やかに描いた傑作エンターテイメント。デビュー作ながら出版権が200万ドルで落札され、エドガー賞新人賞候補にもなったというのも納得である。
1956年、ロシア移民の娘・イリーナはCIAのタイピスト募集に応募し採用されたのだが、採用された理由はタイピング能力ではなく、スパイの素質を見込まれたためだった。タイピストを隠れ蓑に訓練を受けたイリーナが抜擢されたのは、ソ連では反体制的として出版が禁止されたパステルナークの小説「ドクトル・ジバゴ」を出版し、ソ連の国民に渡してソ連の言論統制の実態を知らせようという作戦だった。
本作のベースとなったのは実際にCIAが実行した作戦で、著者は機密解除された当時の資料を基に物語を膨らませていったという。史実に基づくスパイ物語だけに、様々なエピソードにリアリティがあり、ノンフィクションかと思うほど臨場感がある。さらに、文学の力が体制を変えるという夢を信じた人々の物語として、また作者の愛人となる女性やスパイ活動を担った女性たちの物語としても読みごたえがある。
スパイものだけには終わらない魅力的な現代史エンターテイメントとして、ミステリーファン以外の方にもおススメしたい。
あの本は読まれているか (創元推理文庫)
No.371:
(8pt)

ノンフィクションのような語りが成功している

アメリカ警察小説の巨匠がドキュメント・タッチのインタビュー形式での謎解きという新手法に挑んだ警察ミステリー。事件関係者の供述を時系列で並べて臨場感を出すことに成功した、斬新な(1990年発売)エンターテイメント作品である。
米国東部のどこにでもあるような平凡な町・ロックフォードで、一人の女子高校生が殺された。きちんとした家庭のお嬢さんだった少女は、ベビーシッター中にレイプされ殺害されたのだった。当初は、事件当時町に現れた不審な流れ者が容疑者と目されたのだがアリバイが確認された。事件は、この町の誰かが起こしたのではないか? 町は平穏な様相を一変させ、警察への批判、犯罪への恐怖、隣人に対する疑心暗鬼が沸き上がり混迷を深めていく…。
警察が殺人事件の謎を解くというオーソドックスなミステリーだが、事件の経過、捜査の過程を関係者の証言や会議の議事録で再現していくという、実録ものを読むような手法が成功している。事件の背景、犯行動機などは平凡だが、捜査の進展を同時進行で追いかけているようなリアリティがあり、最後までサスペンスが維持される。
警察ミステリーのファンなら読んで損はないとオススメする。
この町の誰かが (創元推理文庫)
ヒラリー・ウォーこの町の誰かが についてのレビュー
No.370:
(8pt)

ブラックジャックで勝ちたければ必読?

カジノコンサルタント(いかさま暴きの専門家)トニー・ヴァレンタイン・シリーズの第2弾。カジノをだまそうとする奴らとカジノ側の丁々発止を描いた犯罪アクション・ミステリーである。
アトランティックシティのカジノに依頼されて高額のいかさまを調査していた、警官時代の相棒で同業でもある親友のドイルが爆殺された。葬儀に駆け付けたトニーは未亡人からドイルのノートを渡され、さらにカジノ・オーナーから依頼されたこともあり、ドイルの調査を引き継ぐことになった。ブラックジャックで連勝を続ける怪しいヨーロッパ人たちに目を付けて調べ始めたトニーは、ドイルを殺害した犯人たちに命を狙われることになり、手を引くように脅された。しかし、始めたことは終わらせないと気が済まないトニーは62歳の老骨に鞭打って、命の危険を顧みず突進し、カジノの裏側に隠された闇を暴いていくのだった。
カジノ側が絶対有利なことは分かっていながら勝ちに行くギャンブラーの執念が生み出す様々ないかさまの手口の解説が面白い。さらに、カジノ内部での不正行為はどうやって実行されるのか、それをどうやって防止するか、というコンゲームという側面もあり、だましだまされの応酬にワクワクする。62歳という主人公の年齢がユーモアを生み、また、シリーズ作品らしくトニーをめぐる人間関係の変化も興味を掻き立てる。
年配者が主役の私立探偵作品のファン、カジノ小説のファン、ユーモラスなアクション・ミステリーのファンにおススメする。
ファニーマネー (文春文庫)
ジェイムズ・スウェインファニーマネー についてのレビュー
No.369:
(8pt)

犯行のアイデアが光る誘拐ミステリー

1991年に刊行された、著者の初期作品といえる長編ミステリー。おなじみの大阪府警のメンバーが登場するのだが、警察捜査より誘拐犯のほうに力点がある、大阪府警シリーズのスピンオフ作品である。
チケット屋を経営する資産家・倉石達明の父・泰三が誘拐され、犯人は身代金として金塊2トンを要求してきた。2トンもの金塊を一体どうやって受け取るのか? 大阪府警は疑問を抱きながらも金塊を用意し、犯人の要求通りに小型漁船に積み込み捜査員を張り込ませていたのだが、犯人に裏をかかれ漁船は無人のまま自動操縦で淡路島へ向かってしまった。犯行が成功するかと思われた寸前、漁船は通りかかったタンカーに衝突し爆発してしまった。誰もが計画は失敗したと思ったのだが、犯人はあっと驚く手段で金塊を手に入れていたのだった。ところが・・・
誘拐事件を捜査側と犯人側から交互に描いてストーリーが展開され、途中途中に犯人と被害者である泰三とのやり取りが挿入される。全体に渡って大阪府警シリーズの特徴であるユーモラスな会話がちりばめられ、犯人も憎めないやつなので誘拐もののサスペンスより犯行手口のアイデアと人間ドラマを楽しむ作品といえる。
大阪府警シリーズのファンはもちろん、ユーモア・ミステリーのファンにはぜひおススメしたい。

大博打 (新潮文庫)
黒川博行大博打 についてのレビュー
No.368:
(8pt)

サイコと謎解きとリーガルが絡み合ったサスペンス・ミステリー

「クリムゾン・リバー」で知られるグランジェの2018年の作品。猟奇的な連続殺人事件の謎を追ってパリ警視庁の刑事が東奔西走する、警察サスペンス・ミステリーである。
パリ警視庁のコルソ警視のチームに回ってきたストリッパー殺害事件。被害者は両頬を切り裂かれ、のどに石を詰められていた。さらに、捜査がほとんど進展しないうちに発生した第二の事件でも同様の残忍な犯行が行われていた。二人の被害者は同じ劇場に勤めていた同僚で、どちらも自分の下着を使いある特殊な結び方で手足と首を拘束されていた。独特の犯行手口に注目したコルソたちは、その結び方がSM愛好家に知られていることをつかみ、その線から被害者がSMポルノに関係していたことを知り、さらに被害者二人が元殺人事件の服役囚で現在は画家として成功しているソビエスキと交際していたことを突き止めた。ソビエスキを最重要参考人と考えたコルソは合法違法を問わず、あらゆる手段を使ってソビエスキを追い詰め、ついに逮捕にこぎつけた。しかし、その裁判にはクローディアという凄腕の人権派弁護士が立ちはだかっていた・・・。
真犯人はだれか、犯行動機は何かを追求する謎解きミステリーが本筋で、そこにサイコ・シリアルキラー、リーガル・サスペンス、主要登場人物の複雑な背景、警察内部でのバディもの的展開など様々な要素が重ねられ、2段組み760ページという重厚長大な作品となっている。主人公のコルソ警視は警察のルールからはみ出す捜査も躊躇しない直情型かつ激情型で、なかなか共感しにくいキャラなのだが、真相解明にかける一途な思いがストーリーをダイナミックなものにしている。さらに敵役のソビエスキの特異さ、クローディア弁護士の怜悧さ、コルソの部下であるバルバラの柔軟さが、物語にカラフルな展開と何層もの深みをもたらしており、700ページの大作も中だるみなく読み進められる。
グランジェのファンはもちろん、警察ミステリー、サイコ・サスペンスのファンには絶対のおススメである。
死者の国
No.367:
(8pt)

荒涼たるアイスランドの風土が眼前に現れる、悲しいドラマ

アイスランドの人気ミステリー「フルダ・シリーズ」三部作の第二弾。10年の歳月を経て発生した2件の殺人の謎を解く、本格警察ミステリーである。
1987年、人里離れたフィヨルドのコテージで若い女性の死体が発見され、警察は被害者の父親を逮捕する。10年後、被害者を追悼するために絶海の孤島に集まった4人の男女の一人の女性が崖から転落死した。この事件の担当を買って出たフルダ警部は、当初は事故ではないかと想定していたのだが、残された三人の若者から事情聴取すると彼らが何かを隠していると直感する。物証となるものはなく、三人の証言だけを頼りに捜査を進めたフルダは、二つの事件のつながりと隠された闇を見ることになる・・・。
現在から過去にさかのぼっていくという珍しい構成の三部作で、本作は第一作の15年前が主舞台となり、事件解明と並行して50歳で天涯孤独となったフルダ警部の生き様が描かれており、第一作で定年間近のフルダが、なぜ孤独な生活を送っていたのか、その理由が明かされている。北極海の孤島の小国・アイスランドでの警察という男社会で奮闘するフルダの人間ドラマも、本作の重要なテーマである。とはいえ、本格的謎解きミステリーとして傑作であることは間違いない。
シリーズ・ファンには必読。さらに本作から読み始めても十分に楽しめるので、警察ミステリー・ファンにもおススメしたい。
喪われた少女 (小学館文庫)
ラグナル・ヨナソン喪われた少女 についてのレビュー
No.366:
(8pt)

中国大陸の西端まで突っ走る、元引きこもりの再生物語

2010年に刊行された「さよなら的レボリューション 再見阿良」の加筆・改題作品。元引きこもりの19歳の男がだらしなく流されてたどり着いた中国で新しい自分を見つけ出す、青春ロードノベルである。
19歳の高良伸晃は引きこもりから脱出したものの通っているのは閉校がうわさされる三流大学で、将来に何の展望もなく、ずるずるとバイトに明け暮れていたのだが、同級生の中国人の女子に恋したことから中国の語学学校に短期留学することになる。そこでも状況に流されて過ごし、何の成果もなく帰国したのだが、再び訪れた上海で、かつてのバイト先の先輩に出会い、成り行きで盗難車を移送するために西安のさらに西へ、シルクロードを突っ走ることになった。ほとんど砂漠ともいえる黄土高原の果ての集落で高良が出会ったのは、中国の奥深い歴史の闇の中で生きる人々の現実で、高良は改めて自分を見つめなおすことになった。
19歳の小心者で俗物の若者と壮大な中国の歴史と自然との対比から生まれるハレーションが、全編をキラキラ輝かせている。主人公・高良のだらしなさや格好悪さ、傷付きやすさにもかかわらず、いや、それゆえにか、いつしか高良を許し、肩入れしたくなる。いわば、自分自身の青春をやり直しているような甘酸っぱさがこみあげてくる。まさに青春ロードノベルである。
東山彰良ファンには必読。ロードノベル・ファンにもおススメする。
恋々 (徳間文庫)
東山彰良恋々 についてのレビュー
No.365: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

どれほど悲惨な経験も、人は乗り越えられる?

2017年に発表された、ノンシリーズ作品。父親のせいで凄惨な事件の被害者となり、ばらばらになった姉妹が、28年後に起きた銃乱射事件と父親の死をきっかけに新たな生き方を見つけていく、ミステリーであり家族の物語である。
ジョージア州の田舎町で暮らす反骨の弁護士・ラスティとその妻ガンマ、サムとチャーリー姉妹のクイン一家。白人女性を殺害したとして逮捕された黒人青年をラスティが無罪放免にさせたとして自宅に放火され引っ越したのだが、その数日後、ラスティが不在の家に二人組の男が侵入し、ガンマは殺害され、姉のサムは生き埋めにされ、妹のチャーリーは命からがら隣家に助けを求め生き延びるという事件に遭遇した。奇跡的に生き残ったもののサムは重い後遺症に悩まされ、事件の原因となった父親を許すことができずに家を出て家族との関係を断ち、成功した民事弁護士としてニューヨークで暮らしていた。一方のチャーリーは母と姉に対する罪悪感を抱えたまま成長し、父と同じ刑事弁護士として地元で暮らしていた。
事件から28年後、たまたま地元の中学校にいたチャーリーは17歳の少女が校長と8歳の少女を射殺するという事件に遭遇した。町中の反感を招いた少女を弁護するのはラスティしかおらず、当然のごとく弁護を引き受けたラスティだったが、何者かに襲われ瀕死の重傷を負った。父の危篤を知らされ、いやいや故郷に戻ったサムだったが、父・ラスティから自分の代理として弁護することを頼まれ、事件にかかわることになった。また、現場にいたチャーリーは警察が説明する事件の構図に違和感を覚え、サムと二人で真相を解明することになる。そして二人の追及は28年前の悲惨な事件につながってゆき、関係者全員が忘れよう、隠そうとしてきた秘密が明らかにされる・・・。
二つの事件の真相を解明していく謎解きミステリーとしても一級品だが、それ以上に、救いがない惨事によって引き裂かれた姉妹がそれぞれの父と母に対する思いをぶつけあい、再び家族として再生していくヒューマンドラマとして読み応えがある。目をつぶりたくなるような悲惨なシーンが多いものの、最後で救われるので読後感は悪くない。
ノンシリーズ作品でもあり、スローター・ファンに限らない幅広いジャンルのミステリー・ファンにおススメしたい。
グッド・ドーター 上 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローターグッド・ドーター についてのレビュー
No.364:
(8pt)

厳寒の季節が通り過ぎるのを待つしかない町(国)の閉塞

アイスランドを代表するミステリー・シリーズの第5作。移民の子の殺害事件をテーマに、アイスランド社会における移民の問題に取り組んだ、社会派警察ミステリーである。
アイスランド人の父親とタイ人の母親の間に生まれ、今は離婚した母親がシングルマザーとして育てている10歳の男の子が殺害された。レイキャビク警察捜査官・エーレンデュルたちは人種差別が絡んだ犯罪ではないかと想定し、学校や家族関係から捜査を始めたのだが、そこで浮き上がってきたのは移民に対するアイスランド市民の複雑な感情であり、様々な緊張関係だった。さらに、エーレンデュルは別の女性失踪事件にも取り組んでいるのだが、こちらも有力な手掛かりが得られずにいた。そして、凶器と思われるナイフが発見されたことから解決への道筋を見つけたエーレンデュルたちがたどり着いた真相は、深い悲しみと喪失感をもたらすものだった。
地道な聞き込みで殺人事件の隠された真相を明らかにしていく、オーソドックスな警察小説である。そこに加えられるのが、主人公たちの家庭や人間関係にまつわる解決策のない重荷で、全編を通して重苦しさが立ち込めている。これはまさに、北欧警察ミステリーならではのテイストだが、アイスランドの場合は、その風土の過酷さもあって重苦しさがひときわ大きいと言えるかもしれない。
シリーズ愛読者はもちろん、北欧ミステリーのファンには自信をもっておススメする。
厳寒の町 (創元推理文庫)
No.363: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

60歳を過ぎても潜入捜査に手を挙げるボッシュ

ハリー・ボッシュ・シリーズの第19作。還暦を過ぎたとはいえ正義感にあふれ意気盛んなボッシュが自ら信じるところを貫く、安定の警察ミステリーである。
サンフェルナンド市警の予備警官として勤務するボッシュは、地元で起きた薬局の強盗殺人事件をきっかけに、ロシアマフィアが支配する麻薬組織への潜入捜査を行うことになった。一方、かつてロス市警時代に逮捕した死刑囚が「ボッシュが証拠をねつ造した」と主張して再審を請求し、ロス市警と検事局はその訴えを認めて再審を開始し、ボッシュはいわれなき罪を問われそうになる。二つの難問に直面するボッシュは、異母弟であるミッキー・ハラーの助けを借り、超人的な働きで正義を追い続けるのだった・・・。
60過ぎの予備警官なのに麻薬組織に潜入するというボッシュの元気なアクションがメインテーマで、証拠をねつ造した警官という汚名をそそぐための調査がサブテーマ。潜入捜査はアクション・ミステリー、再審請求対策はリーガル・ミステリーという、一冊で二作品分の面白さを堪能できる。
ボッシュ・シリーズのファンは必読。アメリカ警察ミステリーのファンにもオススメする。
汚名(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー汚名 についてのレビュー
No.362:
(8pt)

古き良きハードボイルドの香り豊かな成長物語

1947年刊行、48年のMWA最優秀新人賞受賞作の新訳版。シカゴの底辺で暮らす印刷工見習いの青年が父親が殺された事件の謎を追いかけ、その過程で大人へと成長していく、みずみずしいハードボイルドである。
18歳のエドの父親がシカゴの裏通りで殺された。警察は単純な強盗事件と看做したのだが、納得できないエドは伯父のアンブローズとともに犯人を突き止めようとする。移動遊園地で働く変わり者の伯父は人生経験が豊かで、警察にもつかめなかった詳細を徐々につかんでゆく。行動を共にするエドも街の裏表、人々の隠された一面に触れ、大人への扉を開けることになる。そして真相を突き止めた時、そこにはエドが知らなかった父の姿があった・・・。
18歳の心優しい青年が街の現実に気づき、一人前の大人へと変わっていくプロセスをハードボイルドの風味豊かに描いた、なかなかに読後感がいい作品である。殺人事件の謎解きとしても、犯人、動機などにひと工夫があり、ミステリーとして十分に読み応えがある。
オールドファッションで軽やかなハードボイルドがお好きな方にオススメする。
シカゴ・ブルース【新訳版】 (創元推理文庫)
No.361:
(8pt)

たった一人で合衆国政府と麻薬組織に挑んだ男の壮絶なサバイバル

ジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビ作家の代表作である「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第7作。日本でも高く評価された「三秒間の死角」のスピンオフ的な、緊迫感あふれる傑作ポリティカル・アクション・ミステリーである。
麻薬がすべてを支配する南米コロンビアの麻薬ゲリラ組織PCRで幹部のボディガードを務めるパウラは、実は米国麻薬取締局(DEA)に情報を届ける潜入捜査員として目覚ましい実績を上げ続けていた。ところが、麻薬で死んだ娘の仇討ちに全力を捧げる米国下院議長・クラウズが率いる麻薬対策チームの衛星にPCRの動きが捉えられ、クラウズ自らが麻薬組織襲撃作戦に赴き、逆に人質になってしまったことから、事態は思わぬ展開を見せ、パウラは味方であるはずの米国政府から命を狙われることになった。パウラが愛する家族とともに生き延びる道は、PCRを裏切るだけでなく、米国の攻撃をもかわしていくという、極めて厳しく細い道だけだった・・・。
麻薬問題という世界的な大問題をバックグラウンドに、ゲリラを囚われた大物の救出作戦、麻薬組織内でのスパイ活動というスリリングな展開が加わって、前作以上にスケールが大きな、読み応えがある物語である。物語の主役はスウェーデンから逃亡したパウラで、今回のグレーンス警部は重要ではあるがあくまでも脇役に徹している。では、ストックホルム市警のグレーンス警部とコロンビアで活動するスパイが、なぜ、どうやって結びつくのか? その接点に前作「三秒間の死角」が密接に絡むんでいるため、ぜひとも前作から読むことをオススメする。
「三秒間の死角」が気に入った人は必読。さらに、国際ポリティカルもの、スパイアクションもののファンにも自信を持ってオススメしたい。
三分間の空隙【くうげき】 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド三分間の空隙 についてのレビュー
No.360: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

イギリスに、また新たなヒーロー刑事が登場

2019年の英国推理作家協会賞最優秀長編賞(ゴールド・ダガー)受賞作。愚直なまでに正義を追及し、決して妥協しない刑事ワシントン・ポー・シリーズの第一作である。
被害者家族に機密情報を渡してしまったミスで停職処分を受け、カンブリア州の人里離れたコテージで暮らすポーのもとにかつての部下であるフリン警部が訪ねて来た。当時、カンブリア州では、ストーンサークルで老人男性が焼殺される事件が続いており、その三番目の被害者の体には「ワシントン・ポー」という名前と数字の「5」らしき文字がナイフで刻まれていたという。なぜ自分の名前が刻まれたのか、5は5番目の被害者になるという意味なのか? 事態を憂慮した上司の指示でポーは停職を解かれ、元の職場である国家犯罪対策庁重大犯罪分析課に復帰し、捜査に加わることになった。犯人の動機はもちろん被害者の共通項さえ全く見つからず、捜査が難航しているさなか、新たな死体が発見され、さらに謎が深まって来た・・・。
ポーの視点で連続殺人事件の謎を解いて行く、オーソドックスな警察小説だが、事件の特異性、主人公や同僚の分析官・ティリーの個性の強さが上手く生かされ、単なる謎解きではない面白さがある。さらに、事件の背景のおぞましさ、日本と同様の権力構造の醜さがリアルで思わずうならされる。現在すでに第3作まで出版され、6作目までの準備が進んでいるという、今後が非常に楽しみな新シリーズである。
正統派の警察小説ファン、謎解きミステリーファン、警官が主人公のハードボイルドファンにオススメする。
ストーンサークルの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.359:
(8pt)

堕落刑事・エイダンの孤独と喪失、そして自律

「マンチェスター市警巡査エイダン・ウェイツ」シリーズの第2作。身元不明死体の捜査をベースにした警察ミステリーであり、エイダンのアイデンティティに迫ったサスペンス・ノワールである。
休業中のホテルで侵入事件が発生し、現場に急行したエイダンと同僚のサティは警備員が負傷して倒れ、さらに顔に笑みを浮かべた男の死体があるのを発見した。死体には指紋を削除した手術の痕があり、服のタグが全部切り取られていた。身元不明の上、死体に見合う捜索願も出されていない行方不明者の男は何ものなのか? なぜ閉鎖されているホテルで殺されたのか? 前の事件(前作「堕落刑事」)が原因で市警内部で疎まれているエイダンは、上層部はもちろん同僚サティの協力さえも当てに出来ない中で孤独な捜査を進めるのだった。
笑う死体の謎解きがメインストーリーなのだが、それに加えて女子学生脅迫事件、ホテルのオーナー夫妻の確執、ゴミ箱連続放火事件、ウェイツの麻薬問題など、サブストーリーも盛りだくさんで話がどんどん大きくなり、読者を混乱させる。それでも、取り留めなく広がったようなストーリーが最後にはきれいに伏線回収されていく物語構成はお見事。途中途中に挟まれる謎の少年ウォリーの告白も、収まるべきところに収まっていく。謎解きミステリーとして、はみ出し刑事の警察アクションとして、さらには人格崩壊寸前で踏みとどまる刑事・エイダンの自律への戦いの物語として、さまざまに読むことが出来る。
警察小説、ノワールのファンにオススメするが、前作「堕落刑事」から読むことが必須であると忠告したい。
笑う死体 マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ (新潮文庫)