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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 421~440 22/27ページ

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No.118:
(8pt)
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完成度が高過ぎるデビュー作

英国の大手出版社の小説創作コースを卒業したばかりの新人のデビュー作なのに、出版権が破格の高額で落札され、しかも英国での出版の前に25カ国での出版が決まったという、まさに前代未聞の話題を呼んだ作品。そんな大騒動も納得できる、素晴らしく完成度が高いサイコミステリーである。
テレビ業界で成功を収めている49歳のキャサリンは、息子の独立を機に、夫婦二人だけで暮らすために引っ越しをした。引越しからしばらく経って落ち着き始めた頃、自分では買った覚えの無い本を見つけて読み始めてみると・・・そこには、20年前の忌まわしい出来事と彼女のことが書かれていた。完全に隠して来たはずの出来事をここまで詳細に再現しようとするのは、あの男の家族なのか、知らなかった目撃者なのか? 動揺したキャサリンは事態も自分自身もコントロールできなくなり、仕事も家庭も崩壊の坂を転げ落ちだしてしまった。
前半では、キャサリンの視点からと本を送った人物の視点から交互に物語が展開され、隠された秘密が徐々に明らかにされて行く。本を送った老人の妻への愛情の濃さが過剰で辟易させられるが、動揺するキャサリンにも後ろめたい部分があるようで、20年前の秘密が徐々に明らかにされるごとにサスペンスが高まって行く。
物語の後半部分では、キャサリンと老人が直接的にコンタクトを取り、想像を絶するクライマックスを迎えることになる。
残酷なシーンや恐怖を呼び起こすような描写がある訳ではなく、克明な心理描写だけで愛に潜む狂気の恐さを生々しく実感させる、この筆力は特筆もの。女性作家ならではの心理サスペンスの醍醐味がたっぷりと味わえる大傑作。心理サスペンスファンには、文句なしのオススメだ。
夏の沈黙 (創元推理文庫)
ルネ・ナイト夏の沈黙 についてのレビュー
No.117: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

世界一嫌みな男に、意外な弱点が

近年、人気急上昇で様々な作品が紹介されるようになった北欧ミステリー(ノルディック・ノワールと呼ばれているとか)の中でも異彩を放つ「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズの第二弾。第一作より、さらにパワーアップした傑作エンターテイメントである。
ストックホルムで3件の連続女性強姦殺害事件が発生。その残忍な手口は、15年前にセバスチャンが追い詰めて逮捕された連続殺人犯ヒンデの犯行とそっくりだった。しかし、現在服役中のヒンデが事件を起こせる訳は無く、殺人捜査特別班はヒンデに強い関心を持つ模倣犯の犯行を疑った。一方、またまた自分勝手な理由から殺人捜査特別班に強引に入り込んだセバスチャンだったが、4人目の被害者が自分が関係したばかりの女性だったことで、これまでの3人の被害者もすべて自分と関係があった女性だと気がついた。「自分が狙われているのではないか?」、「ヒンデが関係しているのではないか?」と激しく動揺したセバスチャンの捜査は、さらに協調性を欠き、特別班のメンバーとの対立もいとわず、さらに暴走することになった・・・。
今回は、レクター博士にも負けない強烈なキャラクターのサイコパスとの息詰まる心理戦がメインだが、事件全体の構想がしっかりしているので、犯罪捜査ものとしても非常に面白く読める。また、主人公をはじめとする捜査側のメンバーのキャラクターが第一作を踏まえて、さらにくっきりしてきたし、引き続き登場する周辺人物も物語に深みを加えていて、シリーズ物としての完成度が高くなっているのも魅力と言える。特に、歩く傲岸不遜とも言うべきセバスチャンに人間的に意外な弱点が見えて来たところは、次作にもつながりそうで注目したい。
第一作とは別の事件の話だが、第一作をベースにしたエピソードが多いので、ぜひ第一作から順番に読むことをオススメしたい。
模倣犯〈上〉 (犯罪心理捜査官セバスチャン) (創元推理文庫)
No.116: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

相変わらず地味だが、サスペンスは高まった

イアン・ランキンの新シリーズ「警部補マルコム・フォックス」の第二弾。リーバス警部シリーズの新作ではすっかり嫌われものとして扱われているフォックスだが、本作品はリーバス警部に出会う前で、正義を貫く硬骨漢として骨のあるところを見せてくれる。
監察室のスタッフとして不良警官の同僚の調査に入ったフォックスたちは「仲間を売るような奴は許さない」という警察一家意識に邪魔をされ、思うような調査が進められなかった。仕方なく、不良警官を告発した外部の人間に聞き込みを始めると、様々な疑問がわいて来た。しかも、不良警官を告発した元警官が自殺に見せかけて殺される事件が発生。しかも、元警官と25年前に事故死したスコットランド独立運動の活動家との不可解な関係が浮かび上がって来た。警察の内部事情で現場を外されたフォックスは、独自のルートで調査を進めるうちにスコットランド独立運動の歴史に隠されていた秘密を暴くことになる。
警察内部の鼻つまみ者のフォックスだが、今回は信頼する二人の仲間がいて、ぶれること無く正義を貫いていくことができた。しかしながら、私生活では相変わらず父のこと、妹のことで悩み事が多く、気が晴れることが無い。このあたりの地味さは前作同様で、読みきるには相当の気力が要求される。
現在と過去の二つの殺人事件をつなぐ重要な要素に、ちょっと首を傾げたくなる安易な設定があるのがやや不満だが、全体の構成はよく考えられていて、いくつかのエピソードが見事に重なり合ってクライマックスを迎えるサスペンスの盛り上がりは、前作より数段読み応えがある。多くの警察小説ファンにオススメできる。
偽りの果実: 警部補マルコム・フォックス (新潮文庫)
No.115: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

正義が犯罪になる恐怖

スパイ小説界のレジェンド、ジョン・ル・カレの23作目の長編小説。2013年発表なので御年83歳での作品だが、まだまだ現役バリバリの密度の高いエンターテイメントである。
英領ジブラルタルで行われた極秘のテロリスト捕獲作戦に駆り出された引退間近の外務省職員ポール(偽名)は、現場での強引な作戦行動に疑問を感じるものの、「作戦は成功だった」と告げられ任務を解かれた。3年後、引退して妻の故郷で平穏に暮らし始めていたポールは、極秘作戦の現場指揮官だったジェブと再会し、恐るべき事実を告げられる。真相を探るため、ポールは手始めに当時の担当大臣の秘書官トビーに連絡を取ることにした。一方、若くて意欲的な外交官として活躍中だったトビーは、当時、大臣の不審な行動に疑問を抱き、違法な方法で情報を集めていた。ポールとトビー、二人の疑問が重なり合って、ジブラルタル作戦の真実が暴かれようとする・・・。
本作も、個人と組織、国家の軋轢をテーマに、キリキリと締め上げるようなサスペンスが展開される。ことに、「国益」を盾に公務員の守秘義務を厳密に適用して口封じをはかる法務官僚の不気味さは、「特定秘密保護法」が成立してしまった日本でも現実感ありありで、官憲がその気になれば「どんな正義でも犯罪として葬ることが出来る」恐さを実感させる。
ジョン・ル・カレは永遠に枯れないことを実感させる良質なエンターテイメントで、多くの方にオススメです。
繊細な真実 (Hayakawa novels)
ジョン・ル・カレ繊細な真実 についてのレビュー
No.114: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

神の不在を問う犯罪者たち

中村文則の初の警察小説。期待した以上に完成度が高い、純文学でもあり、エンターテイメントでもある傑作だ。
連続通り魔事件の捜査本部に属する二人の刑事、中島と小橋のコンビは、共に捜査本部では主流になれない訳あり同士である。目撃証言から犯人と目されている「コートの男」の実態がつかめないまま、模倣犯ばかりが増え、捜査は行き詰まってていた。そんな中、二人は事件関係者の接点を掘り下げる独自の捜査によって徐々に真相に近づいて行った。するとそこには、被害者と加害者が入り乱れる、深くて巨大な闇が広がっていた・・・。
前半は警察小説のスタイルをとっていて、捜査のプロセス、刑事たちのキャラクター設定も巧い正統派ミステリーだが、最後の1/3は犯人の独白による犯行実態の解明という意表をつく展開になる。この構成に違和感を感じる読者もいるだろうが、この部分がある種、ドストエフスキー的とでも言えばいいのだろうか「神の不在」を問う、作品の肝(キモ)になっている。
純粋な警察小説としては違和感があるものの、ミステリーファンにも純文学ファンにもオススメしたい。
あなたが消えた夜に (毎日文庫)
中村文則あなたが消えた夜に についてのレビュー
No.113:
(8pt)

ファジーな人間には辛い国・日本への別れの手紙

ナポリのスラムで母と暮らす19歳のマイコはパスポートはおろか国籍さえ持たない、幽霊のような存在だった。アジア、ヨーロッパの大都会の移民が暮らす街を転々とし、顔を変えるために整形を繰り返す母親に「他人と関わるな、本名を教えるな」と躾けられ、小学校を出たあとは学校にすら通っていなかった。そんなマイコだが、日本人が経営する漫画カフェに出会ったことから外の世界を知り、母親とぶつかって家出し、街で出会ったリベリアとモルドバからの難民であるエリスとアナの三人で犯罪に手を染めながら楽しく暮らすことになった。ところが、マイコが家出直後に出会った日本人カメラマンに写真を撮られていたことから、母親が必死に隠そうとして来た秘密が明らかにされそうになってしまった・・・。
自分は何者なのか? 自分の居場所はどこなのか? たった19歳のマイコが戦う「魂のサバイバルゲーム」は、自律した人間を嫌う日本社会への強烈なアンチテーゼの様相を呈してくる。退屈な前半から一変して、後半は読者をぐいぐい引き込んで行き、最後には強烈な解放感が待っている。ミステリーと呼ぶにはスリルとサスペンスに欠けるが、物語の背景が極めてミステリアスなのでミステリーファンにも十分に満足出来る作品だ。
夜また夜の深い夜
桐野夏生夜また夜の深い夜 についてのレビュー
No.112: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

祝! リーバス警部復活!

「最後の音楽」で定年退職したリーバス警部だが、5年ぶりに帰って来た! リーバス警部・シリーズの再スタートを告げる作品である。
退屈な年金生活に馴染めないリーバス元警部は、古い未解決事件の再調査グループに民間人として採用され、古い書類を読み込む毎日を過ごしていたある日、1999年に失踪した娘がまだ生きていると主張する母親に面会し、再捜査を依頼される。一方、順調に警部に出世して活躍中のシボーンはスコットランド北部で行方不明になった若い女性の事件を担当することになった。この二つの事件は共にスコットランド北部を走るA9号線で起きていた。二つの事件の共通性に注目したリーバスは、シボーンの迷惑も顧みず捜査に割り込んで行く。もはや警官の身分ではないリーバスだが、そんなことで躊躇する玉では無い。相変わらずのルール無視の強引な捜査で周囲を引っ掻き回し、それでもじわじわと真相に迫り、決着をつけることになる。
現役時代と変わらないリーバスの言動に、古くからのファンなら拍手喝采、「お帰りなさい、リーバス警部!」と歓呼の声を上げること間違いなし。英国ではもうすでに、次作が刊行されているというのは嬉しい限り。
また、イアン・ランキンの新シリーズの主役であるマルコム・フォックスが、本作では徹底的に「イヤミな奴」で登場しているのも面白い。
他人の墓の中に立ち―リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
イアン・ランキン他人の墓の中に立ち についてのレビュー
No.111:
(8pt)

北欧発の国際ミステリー

スウェーデンに新たな国際派ミステリー作家が誕生したことを告げる、完成度の高いデビュー作である。
アラブ系のスウェーデン人で「戦争下請け企業」について研究しているムーディ、ムーディの元の恋人で欧州議会議員のスタッフとして働いているクララ、ブリュッセルのロビイング会社で働くジョージという3人のスウェーデン人が主人公で、物語は2013年12月、クリスマス前の3週間ほどの間にブリュッセルからパリ、スウェーデンへとスピーディーに展開されて行く。さらに、物語の背景として1980年代から中東で活動してきた謎のアメリカ人スパイの回想が度々挿入され、3人が巻き込まれた陰謀劇に更なる奥行きが加えられる。
いわゆるスパイ小説というよりはアクション・ミステリーであり、悪役の素性が簡単に分かっても、逃避行のスリリングさで最後まで読者を引きつける。追跡もの、アクションもの、国際謀略もの好きにはオススメです。
スパイは泳ぎつづける (ハヤカワ文庫NV)
No.110: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

もし事情が違っていたら

ドイツでは知らない者はいないという超人気作家の長編ミステリー。日本では5年ぶり、2作目の紹介である。
イギリス・ヨークシャーの寒村に建つ広大な屋敷では、休暇のたびに、夫同士が同級生という三組のドイツ人家族が一緒に過ごしていた。三人の夫を中心に信頼と友情に結ばれている九人のグループだったが、ある日、三人の大人と二人の子供が惨殺されるという悲劇に見舞われた。グループの残された四人は全員、アリバイが無かった。また、突然現れて、この屋敷の相続権を主張してきたみすぼらしい男の姿が、屋敷の周囲でたびたび目撃されていた。犯人はだれか、その動機は何なのか?
三組の家族はそれぞれ家族内の問題を抱えており、さらにグループ内の人間関係に隠されていた古くて陰鬱な問題が影を落としていた。また、屋敷の相続権を主張する男は恋人との間でトラブルが頻発していた。作者は、このいわば四組の人間関係ドラマを丁寧に、濃密に描き出し、人間心理の複雑さと不可解さ、強さと脆さを読者に突きつけてくる。謎解きの部分はさほど卓越したものではないが、人間ドラマの面白さは圧巻。「ドイツミステリの女王」の呼称はダテではない。
非アクション系ミステリーや心理ドラマの愛好者には、絶対のオススメだ。
沈黙の果て〈上〉 (創元推理文庫)
シャルロッテ・リンク沈黙の果て についてのレビュー
No.109: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

予想を裏切る(笑)面白さ!

ディック・フランシスの晩年、最後の4作を共著者として支えた次男のフェリックス・フランシスが、単独長作としてスタートさせた「新・競馬シリーズ」の第一作である。大昔、ファンを興奮させたディックの衣鉢を継いだというか、出藍の誉れというか、想定以上の面白さの競馬ミステリーだ。
将来を嘱望された若手だったのに落馬事故で騎手を断念し、今はファイナンシャル・アドバイザーとして活躍する主人公・フォクストンが同僚のハーブと競馬場にいたとき、すぐ横にいたハーブが射殺された。なぜかハーブの遺言執行人に指名されていたフォクストンはハーブの遺産を整理しようとして、多数のクレジットカードを発見する。さらに、何者かに脅迫されていたことをうかがわせる紙片も見つかった。フォクストンは、ハーブ殺害の謎を解くために警察には頼らず、独自の調査を始めることになる。同じころ、フォクストンの顧客のひとりである騎手のサールが急に投資金の回収を迫ってくる。さらに、事務所の重要な顧客であるロバーツ大佐が自分の巨額投資に疑問を抱き、フォクストンに極秘調査を依頼してきた。次次に登場する謎を追い掛けるフォクストンは、ついには命まで狙われる事態になる・・・。
警察からは事件への関与を疑われ、さらには同棲する恋人との関係にも疑念を抱くようになったフォクストンが、それでも冷静沈着に絡み合った謎を解いていくさまは、まさにブリティッシュ・ハードボイルドの王道で、黄金期の競馬シリーズを彷彿とさせる。ディック・フランシスファンにはもちろん、クールなミステリーを読みたいと思っている人にもオススメだ。
強襲 (新・競馬シリーズ)
フェリックス・フランシス強襲 についてのレビュー
No.108: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ミステリーより心理劇として

スウェーデンの人気ミステリー作家アンナ・ヤンソンの本邦初登場作。スウェーデンでは現在15作目まで刊行されているという「マリア・ヴェーン」シリーズの第8作目で、このシリーズは新作が必ずベストセラーになり、何本ものテレビドラマが制作されているというが、なるほどと思わせる作品である。
人気観光地であるゴッドランド島の海辺の街で三家族が集まったホームパーティーの夜、集まったうちのひとりで9歳になる少年アンドレアスが行方不明になった。家族はもちろん、警察も必死で行方を探すのだが、少年の足跡はどこにも残っていなかった。夏の間だけゴッドランド島警察で臨時勤務していたマリアは、離婚して離れて暮らしている自分の息子と同年代のアンドレアスが二重写しになり、心を痛めていた。
事件の背景には三家族、それぞれが抱える複雑な家族関係があり、誰もがアンドレアスの身を案じながらも正直な告白をためらったため、捜索は難航し、ストーリーも二転三転し、犯人と目される人物も二転三転する。このよじれ具合が一番の読みどころで、犯行の動機や様態が判明するまでのプロセスは、どちらかといえば付け足しのような印象を受けた。
とはいえ、スウェーデンでの人気が納得できる傑作ミステリーであることは間違いない。
消えた少年 (創元推理文庫)
アンナ・ヤンソン消えた少年 についてのレビュー
No.107: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

バブルの本質を喝破した作品

1993年の山本周五郎賞を受賞した作品。時代状況や作中に登場する道具立てなどに古めかしさを感じるのは仕方ないが、カード社会の問題点を鋭く指摘したテーマが今なおずっしりと重い現実感を持って読めるところがすばらしい。
怪我とリハビリのために休職中の刑事・本間は、遠縁の男から「突然姿を消した婚約者を探して欲しい」と頼まれた。ごく普通のOLだったはずの彼女は、自らの痕跡を徹底的に消して失踪していた。なぜ、そこまでして姿を隠さなければいけないのか? 調査を進めるうちに明らかになったのは、庶民のカード破産の凄惨な実情だった。
本筋である人探しはスリリングだし、カード社会の問題点をえぐり出した事件の背景もリアリティにあふれていて非常に読み応えがある。
さらに、佐高信氏の「解説」にもあるように、人情の機微に分け入って行く描写もすばらしく、「面白いミステリーを読んだ」という以上の満足感を与えてくれる。多くの人にオススメしたい。
火車 (新潮文庫)
宮部みゆき火車 についてのレビュー
No.106: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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事実も小説も「奇なり」

現実に起きた事件を予告した小説として有名になった作品。「後妻業」という言葉も、ここからポピュラーになったのではないか。もちろん純然たるフィクションであり、実在する事件とは全く関係ないのだが、実際に類似した事件が起こっているため、「事実は小説より奇なり」というより「事実も小説も奇なり」という感想を持たざるを得なかった
連れ合いを亡くした孤独な老人をたぶらかして財産を奪う女が主人公かと思っていると、実は結婚相談所の所長が黒幕として絡んでいるため、仕掛けも犯様も徹底的に悪質で、物語の前半は「悪の力」で読者をぐいぐい引き込んで行く。死亡した老人の遺族側が反撃に出る後半は、法律論と私立探偵による調査で犯罪者を追い詰めて行くスリリングな展開でサスペンスを盛り上げて行く。
結末のほろ苦さも秀逸で、犯罪小説好きには絶対のオススメだ。
後妻業 (文春文庫)
黒川博行後妻業 についてのレビュー
No.105: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

弱小サラリーマン応援小説

気弱なサラリーマンが主人公の勧善懲悪小説。犯人探しのミステリー要素もしっかり書き込まれていて、読み応えがある。
銀行から融資先へ総務部長として出向中の倉田は真面目だけが取り柄という中年サラリーマンだが、ある日、電車に割り込もうとした男に注意したことからトラブルに巻き込まれることになる。逆恨みからストーカー行為を繰り返す男に様々な嫌がらせを受けた倉田一家は、家族で協力して犯人探しを始めた。その頃、出向先では、実力者の営業部長による不正疑惑が持ち上がり、総務部長としての責任を果たすべく奮闘するのだが、社長の非協力もあって倉田は窮地に陥ることになった。地位も権力も度胸も無い中年サラリーマンが二つの難題を同時に解決することができるのか? 池井戸潤は、信頼できる家族や部下を応援団に付けることによって、弱者の反撃物語を完成させた。
経理を中心とするビジネス上のサスペンスだけではなく、家族の平穏を守るために名無しの犯人の悪意と戦う社会的サスペンスも加わって、ミステリーファンにもオススメの作品である。
ようこそ、わが家へ (小学館文庫)
池井戸潤ようこそ、わが家へ についてのレビュー
No.104:
(8pt)

真相を知ることが幸せなこととは限らない

ドイツの女性作家ボルマンの本邦初訳作品。2012年のドイツ・ミステリ大賞で1位を受賞したというだけあって、全編に無駄が無い、中身が濃い作品である。
父の遺品を整理していた医師・ロベルトは、父の捕虜解放証明書と一緒にナチス親衛隊員の身分証明書、セピア色になった若い女性の写真が大事にしまわれていたのを発見する。「父はなぜ、他人の身分証明書を持っているのか? この女性と父との関係は何だろうか?」 写真館の名前だけを手がかりに父の過去を探ろうとしたロベルトは、探索中に出会ったジャーナリストのリタに調査を依頼することになる。ところが、何かを発見したらしいリタが殺害されてしまった。殺人まで引き起こすほどの大きな謎が、父の過去には隠されているのだろうか?
謎解きは、1930年代後半のナチス時代と現代を行き来しながら進行し、静かで平和な村の青年たちの間で起こった悲劇が徐々に明かされて行く。わずか250ページほどの長さ、しかも非常に分かりやすい文章でとても読みやすいが、書かれている内容はけっして軽くない。誰も悪人ではなかったはずなのに、いくつもの殺人が起きてきた時代と人間の悲劇がひしひしと伝わってくる。
本作品はボルマンの長編ミステリーとしては4作目ということで、他の作品の翻訳が待ち遠しい。
沈黙を破る者
メヒティルト・ボルマン沈黙を破る者 についてのレビュー
No.103: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

音楽史の門外漢でも楽しめる

ヴァイオリン職人ジャンニ・シリーズの第二弾。今回は、天才ヴァイオリニスト・パガニーニと名器・カノン(大砲)を巡る歴史ミステリーである。
ジャンニの工房に、パガニーニ音楽コンクールの優勝者である若きロシア人エフゲニーが、名器・カノンの修理を依頼するために訪れた。修理は上手くゆき、エフゲニーのリサイタルは大成功をおさめる。その翌日、リサイタルに来ていたフランス人美術品ディーラーがホテルで殺害されているのが発見された。彼がホテルの金庫に預けていた黄金の箱から発見された、エリーザという女性がパガニーニに宛てた1819年の古い手紙には、エリーザがパガニーニに何かを贈ったことが記されていた。果たして、この贈り物が事件を解明する鍵になるのだろうか? 素人カルテット仲間である刑事アントニオに依頼され、ジャンニはヴァイオリンの歴史の知識を駆使して謎解きに挑むことになる。
ストーリーは、現時点での殺人事件捜査と天才演奏家パガニーニの波乱万丈の生涯の謎解きとを行き来するタイムトラベルで進行するのだが、音楽史部分の説明が丁寧なので、音楽史の知識が無くても問題なく楽しめる。さらに、エフゲニーと母親の葛藤、美術品売買業界の裏話などのサブストーリーも充実している。
前作同様、唯一知識と推理力だけを頼りに進められる捜査は華々しいところはひとつもなく、徹頭徹尾地味ではあるが、景色のいいベランダで香り高いコーヒーを楽しむような、静かで味わい深い喜びを与えてくれる。
ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密 (創元推理文庫)
No.102:
(8pt)

空戦がロマンチックだった時代

零戦が登場する以前、まだ複葉の戦闘機が主力の時代、パイロット同士が顔を見ながら戦った空戦の時代のロマンチックな冒険小説である。
1937年7月、北京郊外の盧溝橋で発生した日中の軍事衝突は全面的な戦闘に発展し、海軍航空隊のパイロット麻生中尉は艦載機部隊の一員として上海、南京などの攻撃に参加する。一方、アメリカ陸軍航空隊を退役した飛行士デニスは、高額の報酬につられて中国義勇航空隊の一員として中国の防空戦に参加する。敵同士の二人は、何度か交戦するうちに互いを強く意識するようになり、単騎格闘戦へと突入することになった。
本作は、零戦を主役にした凡百の小説とは異なり、1930年代のクラシックな戦闘機が主役になっているところが味わい深い。機械が人を振り回すのではなく、人が機械を操って戦う時代の武士道的ロマンにあふれている。また、愚昧な大本営、暴走する現地軍、誤った作戦を繰り返し反省することが無い軍隊組織に対する鋭い批評精神に貫かれているところも小気味好い。
いわゆる戦記ものファンではなく、冒険小説ファンにオススメだ。
鷲と虎 (角川文庫)
佐々木譲鷲と虎 についてのレビュー
No.101:
(8pt)

厚さを忘れる面白さだ

いわゆる「イベリアシリーズ」の第一作。
1940年、独ソ不可侵条約を結んだあと、英仏と開戦したナチスドイツは、スペインに対して枢軸国側から参戦するように圧力をかけていた。内戦から復興途上のスペインは戦力としては頼りないものの、地中海航路の要衝・ジブラルタルの英軍基地を攻略すれば、戦況は一気にドイツに有利になるため、スペインの動向を巡って英独の諜報戦は熾烈を極めていた。さらに、フランコ独裁に抵抗する人々による総統暗殺計画も進められていた。
様々な思惑が入り乱れるマドリードに現れた日系ペルー人・北都昭平。表向きは独立した宝石商として上層階級の人々に取り入りながら、実は日本の参謀本部のために情報員として働く北都昭平はフランコによって実の兄が処刑されたという、個人的な怨恨も抱いていた。
フランコ総統は暗殺されず、スペインが参戦しなかったことは史実として分かっているのだが、史実を超える物語性が読者を引きつける。ル・カレなどの正統派スパイ小説ではないが、時代背景、社会状況、民族性などに説得力があり、登場人物のキャラクター、エピソードも魅力的で、歴史冒険小説として楽しめる。
文庫で700ページ超という超大作だが、その厚さを忘れる面白さだった。

イベリアの雷鳴 (講談社文庫)
逢坂剛イベリアの雷鳴 についてのレビュー
No.100: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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テーマもテクニックも古いが、読ませる

刑事・加賀恭一郎シリーズの2013年の書き下ろし作品。今回、捜査の主体が従兄弟の松宮刑事なので、スピンオフと言えなくもないが、登場人物が加賀を軸にしていることや、捜査の方向性を決めるのが加賀であることを考えると、加賀シリーズの作品と言える。
自作の舞台を明治座で成功させた演出家・角倉博美は、つい数日前に、30年ぶりに自分を訪ねてきた故郷の中学時代の同級生が葛飾区小菅のアパートで殺害されたことを知らされる。被害者の身辺捜査の過程で、松宮たち捜査陣は角倉博美が何らかの事情を隠しているのではないかと疑問を持ち始める。さらに捜査陣は、新小岩のホームレス殺害事件との関連性を発見したが、その事件の証拠物の中に、数年前に仙台で死んだ加賀の母親の遺品と関連するものがあった。果たして、犯人は加賀の関係者、あるいは角倉博美の関係者なのだろうか・・・。
テーマは、不幸な生い立ちの子供が成功したのだが、その絶頂のときに、影に隠されてきた悲しい過去が露呈して行くという、これまで数限りなく繰り返されてきたものだし、ホームレスの人物入れ替わりというのも、東野圭吾自身も書いてきたテクニックである。だからといって凡庸な作品にならないところが、東野圭吾の実力。謎解きも含めて、最後まで飽きさせない。
祈りの幕が下りる時 (講談社文庫)
東野圭吾祈りの幕が下りる時 についてのレビュー

No.99:

代償 (角川文庫)

代償

伊岡瞬

No.99:
(8pt)

悪人の造形が秀逸

伊岡瞬の書き下ろし作品。正義の側より悪の側のインパクトが強く、歯応え十分な本格的なクライムノベルである。
都内の中流家庭の一人息子としてのほほんと暮らしていた奥山圭輔だが、母親の遠縁の一家が近くに引っ越してきて、同い年の達也が遊びにくるようになったときから、達也が苦手で心穏やかではいられなくなっていた。さらに小学六年生のとき、自宅の火事で両親を亡くし、達也の家に預けられ非道な扱いを受けたことから、中学に入学してからは生きる気力さえ失いかけていた。そんな圭輔に友人として接してくれたのが諸田寿人と木崎美果だった。
圭輔が25歳になり、新人弁護士として働いていたある日、達也から「冤罪で逮捕されているので弁護して欲しい」という手紙が届く。過去のいきさつから依頼を断りたかった圭輔だが、強引な達也に押し切られて弁護を引き受けることになる。本心では「達也は有罪だ、一生刑務所に入ればいい」と思いながら始めた裁判で圭輔は、達也の意を受けた証人に裏切られ、弁護士生命を失いそうな危機に陥った。そのとき、ジャーナリスト修行中だった寿人が助けの手を差し出してくれ、二人で達也に反撃することになった。
本作品の魅力は何と言っても、悪役の達也のキャラクターが強烈なこと。自分は手を出さず、いわゆるマインドコントロールで多くの人に罪を起こさせる様相が、近年の日本各地での同種の事件を想起させてスリリングである。それに引き換え、正義の側の圭輔が弱々しく、途中で圭輔を叱咤激励したくなった。
クライムノベル好きにはもちろん、ミステリーとしての構成もしっかりしていて最後まで緊張感が途切れることがないので、多くのミステリーファンにオススメだ。
代償 (角川文庫)
伊岡瞬代償 についてのレビュー