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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 381~400 20/27ページ

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(8pt)

ブラジル的結末

ブラジルの女性作家の本邦初訳作品。なぜかドイツミステリ大賞の翻訳作品部門で一位に選ばれたという異色のミステリーである。
ボリビアとの国境の田舎町でしょぼくれた生活を送っていた「俺」は、釣りに出かけたパラグアイ川で自家用飛行機の墜落に遭遇し、パイロットの青年を助けようとするが、青年は死んでしまった。機内にリュックサックと1キロほどのコカインを見つけた「俺」は、それを盗み出し、下宿先のインディオの男と組んでコカインを売りさばいて小金を稼いでいたのだが、欲を出したインディオの男に引っ張られてギャングと取引して失敗し、ギャングに借金の返済を迫られることになった。窮地に陥った「俺」は、警官でもある恋人を説得して、死体を使った詐欺を計画する・・・。
偶然見つけた墜落機から盗みを働いたことで人生が大きく狂ってくるというのは、かつてのベストセラー「シンプル・プラン」などでもおなじみの設定だが、さすがブラジルのミステリーだけあって、結末の付け方が意表をつく。良くも悪くも人間的というか、すべてに泥臭いのである。
スリルj、サスペンス、アクションや謎解きより、犯罪者心理が中心の作品を好む方にオススメだ。
死体泥棒
パトリーシア・メロ死体泥棒 についてのレビュー
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(8pt)

「被害者探し」ミステリー

オーストラリアのベストセラー作家の本邦初訳。「誰が、誰を殺したのか?」を解いて行く、ユニークなエンターテイメント作品である。
シドニー近郊の幼稚園での資金集めのパーティー会場で騒動が起き、父兄の一人が死亡した。この事件の被害者、犯人は誰か? 動機は?
騒動の背景には、6ヶ月前の子供同士のトラブルが原因で、幼稚園ママの派閥間の対立が激化したことがあった。さらに、それぞれの家庭には表に出せない秘密があり、ストレスにさらされ続けてきたママたちが、パーティーで出された強力なカクテルの影響もあって一気に爆発したのだった。
冒頭に殺人事件が起きたことがほのめかされ、背景となったトラブルから事件当時までの出来事が主要登場人物の視点で徐々に明らかにされ、さらに所々で関係者の証言が挿入されるのだが、最後の最後まで、犯人も被害者も秘密のままという、なかなかに意地の悪い構成で読者をぐいぐい引き込んで行く。さらに、人物のキャラクター、細かなエピソードがリアルかつユーモラスで飽きさせない。世界的なベストセラーを記録したというのも納得の面白さである。
ホームドラマに隠された暗い秘密系のミステリーが好きな方には絶対のオススメだ。
ささやかで大きな嘘<上> (創元推理文庫)
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(8pt)

ギャングに成功者はいない?

「運命の日」、「夜に生きる」に続く三部作(アメリカでは「コグリン・シリーズ」と呼ばれているらしい)の完結編。一作目の「運命の日」とはほとんど関連が無いが、前作「夜に生きる」の続編である。
前作から約10年が経過した、第二次世界大戦時のフロリダ州タンパでギャングファミリーの実権を親友のディオンに譲り、自らは顧問として裏稼業からは距離を置き、表のビジネスでも成功し、9歳の息子の良き父として生活していたジョー・コグリンだが、彼の命を狙う計画が進められているという噂を耳にする。自分のファミリーだけでなく、全米の同業者に利益をもたらしているはずのジョーが、なぜ狙われるのか? 根拠の無い噂と否定しつつも、ジョーは疑心暗鬼に陥っていく。時を同じくして、平穏だったタンパの街でジョーのファミリーと、友好的だった黒人ギャングとの間で抗争が勃発。ジョーは個人の問題だけでなく、組織の問題でも頭を悩ますことになった。
時代とともに変わってゆくファミリーの論理や人間関係に戸惑いながらも、持ち前の知恵と度胸で難局を乗り切ろうとするジョーの非情で孤独な戦いが、本書のメインテーマ。血で血を洗う暴力シーンに直面しながらも「善き父親」であろうとするジョーの息子への思いが、主要なサブテーマとなっている。その部分が前作と違い、ノワール小説でありながらハードボイルドのテイストが強く感じられる。
三部作ではあるが、「夜に生きる」を読んでいれば、「運命の日」が未読でも十分に理解できるだろう。サスペンス、ノワールのファンはもちろん、「父と息子」系のハードボイルドが好きな方には絶対のオススメだ。

過ぎ去りし世界 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
デニス・ルヘイン過ぎ去りし世界 についてのレビュー
No.155:
(8pt)

真実と嘘、嘘と真実

ドイツのベテラン脚本家の長編ミステリーデビュー作。ドイツ推理作家協会の新人賞を受賞した他、世界25カ国で出版され、映画化権も売れたというのも納得できる良質なエンターテイメント作品である。
ベストセラー作家のヘンリーには、妻マルタとだけ共有している重大な秘密があった。実は、ヘンリー名義で書かれた作品はすべてマルタが執筆したものであり、ヘンリーはひと文字たりとも書いたことは無かった。外見が良く、社交性に優れたヘンリーと内向的で独自の世界を生きているマルタは、お互いにその状態に満足し、穏やかに愛し合って生活していた。
新作長編小説が完成間近となったある日、ヘンリーは愛人関係にある編集者ベティから妊娠を告げられる。最初は妻に真実を告げて別れてもらおうと考えたヘンリーだったが気が変わり、ベティとの関係を清算しようと考えるようになる。そして、ベティーとの待ち合わせ場所で崖の縁に停まっているベティの車を見たとき、ヘンリーの中で眠っていた悪魔が目を覚ました・・・。
犯罪者となったヘンリーは、あるときは罪を告白しようとし、またあるときは罪を隠蔽しようとし、真実と嘘、嘘と真実の境界が溶けあう世界に暮らすようになる。同時に読者も、ヘンリーが語る嘘と真実のどちらを信じれば良いのか迷うことになる。
ヘンリーの犯罪は暴かれるのか、どう証明されるのかというストーリ展開の面白さに加え、主人公のヘンリーをはじめ登場人物が全員と言っていいほど個性的で、非常にドラマチックな物語に仕上がっている。幅広いミステリーファンに安心してオススメできる秀作だ。
悪徳小説家 (創元推理文庫)
ザーシャ・アランゴ悪徳小説家 についてのレビュー
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(8pt)

アルゼンチンの暗黒の現代史が爆発する

フランスの人気ミステリー作家による、アルゼンチン現代史の暗部をテーマにした強烈な怒りと復讐の物語。全編に渡って作者の激しい憤りが伝わってくる、熱気ある作品である。
主人公は、かつて軍事独裁政権下で父と妹を逮捕・拷問・殺害され、自身も逮捕・拷問された経験を持ち、現在では軍事政権下で行方不明になった人々の捜索をしている私立探偵のルペンと、スペイン人に迫害されたマプチェ族の血を引くインディオの彫刻家ジャナの二人。ある日、ジャナは親友である女装家のパウラから「友人のルスと連絡が取れなくなった」と相談され、探しているうちにルスが惨殺されているのを発見した。オカマやインディオの事件には冷淡な警察に業を煮やしたジャナは、ルペンに調査を依頼する。自分の専門外であるとして気乗りのしなかったルペンだが、自ら調査中の事件との関連が見つかり、またジャナの心の奥に存在する深い怒りと悲しみに共感したことから、二人は協力して二つの事件の真相を究明しようとする。
これまで軍事独裁政権下で暴虐の限りを尽くした軍人、政治家、経済人、キリスト教関係者が今なお隠然たる勢力を誇っているアルゼンチンでは、過去の罪を暴こうとする者には容赦ない暴力が加えられ、命の危険にさらされる。それでもなお、ルペンとジャナは怒りをパワーに変え、巨大な敵に立ち向かって行った・・・。
ストーリーのあちらこちらから、アルゼンチンを始めとする南米の軍事独裁政権に対する作者の怒りがほとばしり、また全編を覆う暴力の凄まじさに顔色を失い、さらに650ページというボリュウムにも圧倒され、読み通すには体力・気力が要求される。それでも、読む価値がある傑作であることは間違いない。
アクション系、社会派系、サスペンス系ミステリーファンには、自信を持ってオススメだ。
マプチェの女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
カリル・フェレマプチェの女 についてのレビュー
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(8pt)

酒と鎮痛剤が正義を支える、北欧ノワール

フィンランドの傑作ミステリー「カリ・ヴァーラ」シリーズの第4弾。作者の急逝によりシリーズ最終作となった本作は、前作よりさらに暴力的で、完全にノワール小説の世界に入っている。
前作の事件での負傷が原因で体がガタガタになった上に、愛妻ケイトがPTSDで家を飛び出し、家庭も崩壊状態になったカリ。不自由な体で娘アヌの世話に孤軍奮闘していたのだが、何者かにカリのみならず家族の安全まで脅迫されたため、追い詰められたカリはミロ、スイートネス、ミルヤミ、イェンナの助けを求めて対抗することになった。そんな中、エストニア人の女性から売春組織にさらわれた娘を助けて欲しいと依頼される。家族と自分の命を守るため、正義を実行してケイトとの関係を修復するため、カリと仲間は強大な敵に全身でぶつかって行くことになった。
ほとんど半身不随状態で杖を手放せないにも関わらず、アルコールと鎮痛剤でごまかしながら動き回るカリを支えるのが、これまたアルコール依存のスイートネスと薬物依存のミロなので、全編、アルコールと薬が切れることが無い。さらに前作以上に法規を無視した暴力で問題を解決して行く強引さ。貫かれているのはカリ自身の正義感なのだが、その行動は完全に警察活動の域を脱しており、ノワールの世界というしか無い。
シリーズ読者には必読。先に「解説」を読んでから本編を読めば十分にストーリーを追えるので、シリーズ未読のノワールファンにもオススメだ。
血の極点 (集英社文庫)
ジェイムズ・トンプソン血の極点 についてのレビュー
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(8pt)

捜査のために職を辞した刑事の執念

今、円熟期を迎えているといって差し支えないであろう巨匠・ウィンズロウの新作ミステリー。事件捜査の面白さ、主人公のキャラクター、サスペンスフルな構成など、すべてに一級品のエンターテイメント作品である。
ネブラスカの田舎町の刑事・デッカーは、5歳の女の子・ヘイリーの失踪事件を担当する。誘拐された子どもは時間が経つにつれて生きて発見される可能性が低くなるめ、必死で探しまわるのだが、時間が経つにつれ周りは遺体の発見と犯人逮捕を重視するようになり、あくまで少女の発見にこだわるデッカーは周囲から浮き上がってしまう。そんな中、第二の少女誘拐が発生し、被害者は遺体で発見された。事件の責任を感じ、また警察の捜査方針に納得がいかないデッカーは、刑事を退職し、単独でヘイリーを探し始める。
雲をつかむような情報を頼りに全米を走り回ること一年、ニューヨークに近いある田舎町のガソリンスタンドでの目撃情報から、事件の鍵を握ると思われる二組の人物を発見し、あらゆる手段を使って事件の真相に迫ってゆく・・・。
前半は、中西部の田舎の素朴で濃密な人間関係に及ぼす事件の波紋、デッカー刑事のキャラクター設定が中心で、後半は一転して、大都会ニューヨークの金と権力が生み出す醜悪な人間関係を中心に物語が展開する。その間、一貫しているのがデッカーの単純明快な正義感(作中の表現を用いれば「昔かたぎ」)であり、最後の解決方法もシンプルすぎるほどの勧善懲悪で、読者を安心させる。
ストーリーも文章もすっきりして読みやすく、誘拐された少女が生きたまま発見されるかどうかのサスペンスも効果的で、多くのミステリーファンに安心してオススメできる。
失踪 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ失踪 についてのレビュー
No.151:
(8pt)

ドイツ語圏ミステリーに、新たな大型シリーズ登場

2012年に発表された、遅咲きのベテラン作家レフラーのデビュー作。極めて完成度が高い、プロファイラーものの警察ミステリーである。
ケルンで猟奇的な連続殺人が発生。被害者は全員、内臓や体の一部が失われていたため「解体屋」事件と名付けられた。ケルン警察の捜査を助けるため、変人ながら凄腕の事件分析官(プロファイラー)アーベルと、アーベルに分析手法を学びたいという女性分析官クリストが派遣された。プロファイリングに懐疑的な地元警察との衝突を繰り返しながらも、アーベルは犯人像を絞り込み、クリストは自分勝手なアーベルに反発を覚えながらも、その手腕を信頼するようになった。自らを「人形遣い」と名乗る犯人を追い詰め、逮捕にこぎ着けようとしたとき、警察内部のふとしたミスから事態は急展開を見せることになった。
「羊たちの沈黙」を読んで以来、ドイツが舞台のリアルなミステリーを書きたいと思っていたと作者が語っている通り、伝統的に刑事警察ミステリーが充実しているドイツ語圏で、新たに「プロファイリング」の分野を開拓した作品である。犯人追跡のミステリーとしての完成度が高く、それに二人の主人公の個性的なキャラが重なって、読み応えがある。本国ではシリーズ化され、いずれも好評だという。
サイコスリラー的な要素が色濃い作品だが、主眼はあくまでも事件分析(プロファイリング)にあるので、警察ものファンを始め、多くの方にオススメできる。
人形遣い (事件分析官アーベル&クリスト) (創元推理文庫)
No.150:
(8pt)

ドイツ語圏の童謡殺人事件

オーストリアを代表するミステリー作家となったグルーバーの邦訳第三弾。ミュンヘンの女性刑事ザビーネとドイツ連邦刑事局の事件分析官(プロファイラー)スナイデルの二人を主人公とするシリーズの第一作である。
ミュンヘンでザビーネの母が誘拐され、教会のパイプオルガンに縛り付けられてインクを飲まされて溺死させられているのが発見された。しかも、容疑者として父親が逮捕された。犯人の手がかりを求めてザビーネは、アクセス権がない連邦刑事局のデータベースを覗こうとしたが失敗。さらに、身内が絡むことを理由に、ザビーネは事件捜査から外されることになった。そこでザビーネは、連邦から派遣された偏屈で嫌われ者の事件分析官スナイデルの捜査に無理矢理便乗することにした。
一方ウィーンでは、心理療法士ヘレンの下に切断された女性の指が届けられ、犯人から「あんたの知っている人物を誘拐した。48時間以内に誰を、何で誘拐したのかを答えなければ、その人物を殺す」という脅迫電話がかかってきた。なぜ自分が選ばれたのか、脅迫者は自分のクライアントなのか、ヘレンは必死で手掛かりを探し始めた・・・。
代表作「夏を殺す少女」と同じく、ドイツとオーストリアの事件が並行して進められ、やがては大きなひとつの流れに集約され、おぞましい連続殺人の謎が解明される。ウィーンの事件もユニークな仕掛けで読ませるのだが、本筋はザビーネとスナイデルの型破りな捜査に置かれている。
事件解明の謎解きだけでも十分に面白いのだが、本書の一番の読みどころは、スナイデルの変人ぶりだろう。スウェーデンが生んだ奇人プロファイラー・セバスチャンに匹敵するキャラクターの濃さで印象に残る。シリーズはすでに第4作目までが刊行、計画されているというので、更なる二人の活躍に期待したい。オススメです。
月の夜は暗く (創元推理文庫)
アンドレアス・グルーバー月の夜は暗く についてのレビュー
No.149: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

「被害者はだれか?」で読ませる、珍しい趣向

イギリスの新鋭女性作家の本邦デビュー作。音楽、カルチャー系の雑誌のライター、編集者出身で、イギリスのポップミュージック、特にパンクやゴスを背景に置いた作品を発表しているとのことで、本作も1980年代前半を舞台にしたノワール小説である。
1984年、イギリスの海辺の小さな観光地で16歳の少女コリーンが同級生殺人の犯人として逮捕され、治療のため精神科の施設に収容された。20年後の2003年、新たなDNA検査によって、殺害現場に第三者がいたことが判明。再審をめざす弁護士の依頼によって私立探偵が再調査のために町を訪れ、関係者に話を聞いて回り始めた。すると、終わったはずの事件が蘇り、隠されていた真実が暴き出されることになった。
ストーリーは、事件当時の少年少女たちの友情や葛藤のドラマと、現在の謎の第三者探しおよび犯行動機の解明プロセスを行き来して展開される。つまり、20年前の部分は青春ノワールであり、現在の部分は私立探偵ものであるという二重構造で、しかもどちらでも犯人は分かっているのに被害者が不明という、このジリジリさせる構成が実にうまいサスペンス効果を上げている。さらに、事件関係者の20年前と現在とのつながりが、見事なクライマックスを演出するところも印象的である。
ノワールよりミステリーに比重が置かれているので暗過ぎるということは無く、多くのミステリーファンにオススメできる作品である。
埋葬された夏 (創元推理文庫)
キャシー・アンズワース埋葬された夏 についてのレビュー
No.148: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

意表をつく「仕掛け」が抜群!

フランスで人気の新進作家の実力のほどが伺える、傑作ミステリーである。
1980年のクリスマス直前、トルコからパリに向かっていた飛行機が墜落し、墜落の衝撃と火災によって乗客乗員全員が死亡した、ただひとり、生後三ヶ月の女の赤ちゃんを除いて・・・。赤ちゃんは「奇跡の子」としてフランス中の注目を集めたのだが、実は同機には髪の毛の色も瞳の色も同じで誕生日もほとんど一緒の二人の女の子が乗っており、どちらも両親は死亡しているため、それぞれの祖父母が「自分たちの孫である」と主張して、裁判沙汰になった。片やパリに住む富豪の一族、片や田舎町の貧しい一家で、最終的には貧しい一家の孫娘エミリーと認定された。諦めきれない富豪一族は私立探偵を雇い、自分たちの孫娘リズ=ローズである証拠を探させようとする。
そして18年後の1998年、雇用契約が終わりを迎える前日に、私立探偵は18年間の謎を解明できそうな、ある驚愕の事実を発見した。
最初から最後まで「奇跡の子はだれなのか?」というテーマで展開される物語なのだが、多種多様な仕掛けで文庫で650ページという長さを感じさせないところは、お見事。現在であればDNA鑑定で決着がつき、何のドラマもなさそうな出来事だと思ってしまうが、物語の後半ではちゃんとDNA鑑定が登場し、さらにドラマを盛り上げる。そして、謎を解くのが、18年間、誰でも見ることが出来た、事故を報じる新聞の一面だったという「仕掛け」の上手さに脱帽。
スリルやサスペンス、アクション、ホラーではなく、ただただ面白いミステリーを読みたいという読者にオススメだ。
彼女のいない飛行機 (集英社文庫)
ミシェル・ビュッシ彼女のいない飛行機 についてのレビュー
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(8pt)

人は、いつ死ぬのか(非ミステリー)

脳死を巡る家族と社会の物語。ミステリーではないが、どんどん引き込まれていく傑作エンターテイメントである。
離婚を前提に別居生活していた和昌、薫子夫婦は、娘、瑞穂がプールで溺れて緊急病院に運ばれ、意識不明のまま回復の見込みなしと診断され、臓器提供の意志を問われる。一晩話し合った二人は臓器提供を申し出るが、脳死判定のための最後のお別れの場面で、娘の手が動いたと感じたため、急遽、脳死判定を断った。莫大な費用と労力をかけてまったく意識のない娘を生かし続けることを選択した二人だったが、その選択は間違っていなかったかどうか、常に苦悩することになった。
「脳死」と「臓器移植」をテーマに、「人が死ぬとは、どういうことなのか」、医学的、生物学的、哲学的、人情的、法的、社会的な判断基準の多様性、曖昧さの間隙をついて、物語は思わぬ方向に展開され、クライマックスでは極めて重い問いかけを投げかけてくる。日頃何気なく新聞やテレビで目にする「脳死」、「臓器移植」について、もう一度、深く考える契機となる作品だ。
とは言え小説としてのレベルも高く、多くの読者にオススメしたい。
人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)
東野圭吾人魚の眠る家 についてのレビュー
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(8pt)

人生を完全に間違えてしまった人々

幻冬者創立20周年記念の特別書き下ろし作品。200ページ弱と短めだが読み応えがあるミステリーである。
二人の女性を焼き殺したとして死刑判決を受けた写真家の男についての本を書くために、刑務所に面会に訪れたライターの「僕」は、被告の異様さに圧倒される。さらに、取材を進めるうちに、被告に大きな影響を与えた姉、謎めいた人形師など事件関係者たちが何かを隠しているような気がして、事件そのものに違和感を覚えるようになる。被告は本当に二人を殺したのか? 殺したのだとしたら動機は何なのか?
ストーリーの途中で登場人物が入れ替わるような展開もあって、多少理解しづらい部分もあるのだが、最後まで読み切ると「なるほど」と腑に落ちる。被害者も加害者も人生を間違えてしまったことで引き起こされた事件だが、日常に潜む「狂気」は普通の人の中でもいつの間にか育てられているという恐さが伝わってくる。
中村文則作品の中ではミステリーとしての完成度が高く、多くのミステリーファンにオススメしたい。
去年の冬、きみと別れ
中村文則去年の冬、きみと別れ についてのレビュー
No.145: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ツッコミどころと思ったら、伏線だった

イギリスの冒険小説家として名声が高いボブ・ラングレーが1980年に発表したスパイ小説。英国スパイ小説ではあるが、ル・カレなどの正統派とは少し違い、冒険小説のテイストが濃い戦争小説である。
退官を間近に控えたCIAの老兵・タリーは、亡命を希望する東ドイツ諜報機関の大物から指名されて身柄引き受けのためにパリに赴いた。何故、現場から離れて久しい自分が指名されたのか疑問に思っていたタリーだったが、その大物から託されたという古いライターを見て、大戦末期に携わった極秘作戦の記憶が呼び覚まされた。それは、身分を隠してアメリカ軍の捕虜になったナチス・ドイツの情報将校の作戦意図を探るために、ドイツ兵に扮して米国内に設置された捕虜収容所に単身で潜り込むという、危険きわまりないものだった。
スパイ小説なので、騙しが一杯仕掛けられている上に、最後の最後にはあっと言わせる大仕掛けまで用意されており、騙される快感をたっぷり味わえる。さらに、アメリカ南部の湿地帯という自然を相手にした冒険にもハラハラドキドキ。最後までスリリングな展開が楽しめる。
英国正統派のスパイ小説ファンよりは、冒険アクション小説ファン向けではあるが、一級のエンターテイメント作品であることは間違いない。
オータム・タイガー【新版】 (創元推理文庫)
ボブ・ラングレーオータム・タイガー についてのレビュー
No.144:
(8pt)

新シリーズ、なかなか頑張っている

世界的ベストセラー「ミレニアム」が作者の急死によって三部作で途切れ、第4部の未完の構想が残されているという話はあったものの、様々な事情から刊行は無理だと思われていたのだが、勇気ある出版社と書き手によって続編が登場した。前三部作の人気、完成度の高さを考えると、作者が代わってどうなるのか、不安の方が大きかったのだが、なかなか完成度が高い新シリーズが誕生した。
雑誌「ミレニアム」は経営危機に陥ったことから、ノルウェーの大手メディア企業の支援を受け、編集方針にまで口を挟まれる事態を迎えていた。看板記者ミカエルも「時代遅れ」と揶揄されるようになっていたのだが、ある男から「世界的な大スクープになる」情報がもたらされる。超高度な人工知能開発の鍵を握っている大学教授バルデルに会えというのである。その話の中でミカエルは、ずっと音信不通だったリスベットが絡んでいることを知り、俄然、やる気を出すのだった。
というところでシリーズの主役が揃い、世界的な悪を相手に、緊張感あふれる戦いが繰り広げられていく。
想像していた以上に、これまでのテイストを崩さない、見事な続編である。主要人物だけでなく、周辺のキャラクターもよくできている。ただひとつだけ不満を述べるなら、悪のキャラクター造形がやや物足りないでもないが、それは欲張り過ぎだろう。
すでに第5部、第6部も刊行予定が発表されており、今後の展開が楽しみである。
ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)
No.143: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

法廷闘争だけで一気読みさせる、巨匠の実力

リンカーン弁護士シリーズの第4作。徹頭徹尾、裁判に焦点を絞りながら最後までハラハラドキドキが止まらない、傑作リーガル・サスペンスである。
不況の影響で(笑)刑事弁護案件が激減したことから民事、住宅差押え案件を取り扱うようになったミッキー・ハラーは、差押えの依頼人のひとりであるリサ・トランメルから殺人事件の弁護を頼まれた。リサは、彼女の家を差し押さえようとしていた銀行の担当重役を撲殺した疑いで逮捕されたのだが、徹底的に無実を主張し、無罪判決を求めていた。次々と彼女には不利な証拠が見つかるのだが、どれも状況証拠ばかりで、決定的なものではなかった。優秀なスタッフの助力を得ながら、リンカーン弁護士は驚くべき戦術で困難に挑戦する。
いつものことながら、アメリカの裁判のドラマチックな展開に驚かされる。弁護士も検察官も、裁判官さえも個性的で、徹底的に論理で争うところから生じるドラマが面白い。同じ証拠が、弁護側と検察側の主張によって正反対の意味を持つようになり、有罪か無罪かの印象が刻々と変化して行くところは、まさにリーガル・サスペンスの真骨頂といえる。
シリーズ物としては、事務所を構えたり、無罪判決を勝ち取る以外に社会的正義を考えたりといった、ハラーが見せはじめた従来とは異なる側面が次回作以降、どう展開していくのか楽しみである。
絶対に退屈させないリーガル・サスペンスとして、多くの方にオススメだ。
証言拒否 リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)
No.142:
(8pt)

あり得たかもしれない、震災後の日本

東日本大震災、津波、原発事故で影響を受けた日本人と日本社会のダークサイドを描いた、桐野夏生の「震災履歴」。あれだけの被害を出しながら誰も責任を取らず、被爆も津波被害もなかったことにして、オリンピックや復興特需に狂奔する社会への怒りの告発でもある。
40代を迎えて独身の木下沙羅は、大学の同級生・田島優子と一緒にドバイの幼児密売マーケットに出かけて東洋系の女の子「バラカ」を購入し、「光」と名付けたが、養女は一向に沙羅に懐かなかった。沙羅の母親の死を契機に、かつて田島優子の恋人だった同級生の川島雄祐と結婚することになった沙羅は、「光」を優子に預けて川島の転勤先である宮城県名取市に移住し、津波で命を落とすことになった。
「光」ではなく「バラカ」と呼んで可愛がっていた優子だが、震災の日、突然訪ねてきた川島にバラカを連れ去られてしまった。数日後、被災地で遺棄された犬猫保護活動に従事していた「爺さん決死隊」がバラカを発見し、身元不明の少女として、決死隊のメンバー・豊田老人が育てることになった。
震災から8年後、小学生になった豊田薔薇香は豊田老人とともに、決死隊のメンバーだった村上老人の農園を訪ね、地元の学校に通いながら穏やかな日々を過ごしていたのだが、甲状腺ガンの手術を受けたバラカを反原発の象徴として、あるいは原発被害は無くなっていることの象徴として利用しようとする、さまざまな大人たち、さらにバラカの行方を追い続けている実の父親、いつでもバラカを第一に考え、保護してくれる豊田老人など、バラカの周辺では敵味方が入り乱れて激しい争いが繰り広げられる・・・。
原発事故の詳細が公開されず、その影響についても曖昧なまま、何ごとも無かったように再稼働を進める社会に対し警鐘を鳴らす作品であるが、社会派サスペンスとしても十分に楽しめるエンターテイメント作品でもある。
バラカ 上 (集英社文庫)
桐野夏生バラカ についてのレビュー
No.141: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ハリー・ボッシュ、登場

ロサンゼルス市警のはぐれデカ「ハリー・ボッシュ刑事」シリーズの第一作。ストーリーの面白さもさることながら、主人公ハリーが鮮烈な印象を残す傑作ミステリーである。
ジャンキーの死体が発見された現場に駆けつけたハリーは、被害者がベトナム時代の同僚メドーズであることを知る。ヘロインの過剰摂取による事故死と判断されたが、納得できないハリーは上層部の指示を無視して独自に捜査を進めようとしたが、銀行強盗事件に関連してメドーズを追跡していたというFBIが関与してきて、女性捜査官エレノアと組んで捜査に当たることになる。その銀行強盗事件とは、地下トンネルを掘って金庫室に侵入するという手口であり、ハリーとメドーズはベトナム時代はベトコンのトンネルを捜索する専門部隊に属していたのだった。
銀行強盗を実行したグループの手がかりも得られず、捜査が難航する中、ハリーとエレノアはメドーズの死体が遺棄されるのを目撃した少年を見つけ出すのだが、確たる証拠を掴めないうちに、少年が殺害されてしまう。捜査陣の中に情報を漏らしている者がいるらしい・・・。
一匹狼の刑事が、周囲と軋轢を起こしながら突っ走るという話はありがちなパターンだが、主人公のハリーはけっして暴力的な訳でも、やたらと法を無視したり銃をぶっ放したりする訳でもなく、捜査手法は警察捜査の王道を行く地道なものである。さらに、戦争の後遺症に苦しみながらも弱者への共感を持ち続けている、なかなか高感度の高いキャラクターであり、その点で、単なるアクションものに終わらない良質なハードボイルドミステリーに仕上がっている。
警察小説、ハードボイルド、社会派ミステリーのファンにオススメだ。
ナイトホークス〈上〉 (扶桑社ミステリー)
マイクル・コナリーナイトホークス についてのレビュー
No.140: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

殺人犯には、どんな刑罰を与えるべきか?

タイトルはあまり感心しなかったが、罪と罰の難問に真摯に取り組んだ、硬質で面白い社会派ミステリーである。
フリーライターの女性が帰宅途中の路上で刺殺された。犯人が2日後に自首し、金目当ての短絡的な犯行だと自供した。しかし、被害女性が過去に、仮釈放されて間がない強盗犯に自分の娘を殺害された経験があったことから、警察から被害者の元夫・中原に連絡があり、犯行動機に疑問を持った中原は元妻の取材活動に本当の動機があったのではないかと調べ始める。一方、有名大学病院の小児科医・仁科は、この事件の犯人が妻の父親であったことから、周囲からさまざまな圧力を受けるようになる。
中原と仁科、被害者の遺族と加害者の親族という二人の人物を中心に、裁判や量刑に対する被害者と加害者の思いの違い、死刑という刑罰の犯罪抑止効果、罪を償うとはどういうことか、罪は償えるのか、などの重い課題が議論される。誰が考えても正解は出ないけれど、誰もが考えなくてはならない難問を、見事なエンターテイメントで提起する作者の力量に舌を巻いた。
多くのミステリーファンにオススメしたい。
虚ろな十字架 (光文社文庫)
東野圭吾虚ろな十字架 についてのレビュー
No.139:
(8pt)

シリーズ物の醍醐味、脂がのって来た!

大阪一の極道と弱気な(実はけっこうしぶとい)コンサルタントの疫病神シリーズの第4弾。ストーリーもキャラクターも脂が乗り切ったようで、500ページを一気読みの面白さである。
今回、桑原が金のにおいを嗅ぎ付けたのは、巨大宗教の内紛に起因する絵巻物の争奪戦。宗教内部の権力争いが引き起こした宝物と大金のやり取りに、強引に首を突っ込んだ桑原と、桑原に引きずり込まれた二宮が東京のヤクザを相手に大活躍を見せる。知恵と度胸の突っ張り合いで、最後に勝利するのは誰か?
いつもの二人に加えて、今回は若頭の島田がさすがの貫禄を示すのだが、その「若いものは意地を通して弾けるが、幹部はいつでも金勘定で駆け引きする」という考え方が、現代ヤクザの本質を表しているようで、本シリーズの通奏低音にもなっている。
本作では、二宮に淡い恋の予感が・・・と思わせながら、最後はいつも通りの「浪速の寅さん」というオチもお約束で楽しめる。
主役の二人の関係の面白みを堪能するために、ぜひ第一作から読むことをオススメする。
螻蛄
黒川博行螻蛄 についてのレビュー