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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1137件
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デビュー作ながら様々なミステリー賞にノミネートされたという、英国ミステリーの大型新人のデビュー作。リタイア族が暮らす施設の趣味のクラブメンバーが現実の殺人事件の謎に挑戦する、ユーモラスだが王道をゆく謎解きミステリーである。
暇に飽かせて元警察官の入居者が持ち込んだ捜査ファイルを基に未解決事件を解き明かそうという「木曜殺人クラブ」。元看護師、元労働運動家、元精神科医、経歴不詳の切れ者女性など、メンバーは全員癖のある老人ばかりが集まって楽しんでいたのだが、施設運営者の一人が撲殺されるという事件が発生し、自分たちで犯人を捜そうと張り切りだした。推理には自信があるものの情報に乏しいため、現役の巡査を丸め込み捜査情報を手に入れようとする。機動力や科学的捜査力はないものの人生経験と人間観察力に優れた彼らの調査は、警察には想像できなかったルートで真相に迫っていく…。 老人(高齢者)が主役のミステリーは今や立派に一ジャンルとして確立されているが、本作はそれに新たな華を添えるインパクトがある作品である。犯人捜し、動機の解明というミステリー要素はきちんと押さえられ、さらに高齢者ならではのユーモアと悲哀が効果的にちりばめられており、味わい深いエンターテイメント作品となっている。 王道の英国ミステリーのファン、ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。 |
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ドイツでは大人気の警察ミステリー「ヴァルナー&クロイトナー」の第2作。殺人事件被害者と過去の事件が複雑に絡み合う警察ミステリーである。
クロイトナー上級巡査は偶然、殺人の現場に居合わせた。被害者は顔見知りの男で、2年前に失踪した恋人にDVを加えていた乱暴者だっただけに、容疑者の数に不足はなかった。しかし、殺される直前に「ある弁護士が、失踪した恋人の行方を知っている」と告げられていたクロイトナーは、自分が事件を解決すると張り切って独自の捜査を進めようとする。一方、ヴァルナー首席警部は被害者の身辺調査から容疑者を絞り込もうとして、2年前の出来事が複雑に関係していることに興味を持った。事件の背景には弁護士の詐欺まがいの金銭トラブルが絡んでいたのだが、警察はその真相を知らず、捜査は混迷するばかりだった…。 デビュー作「咆哮」同様に本筋は犯人捜し、動機の解明という王道の警察ミステリーだが、肝心の警察の捜査力に難点があり、ミステリーとしてはやや物足りない。代わりに、被害者を中心にした人間ドラマの側面は複雑で面白い。また、シリーズ作品らしく登場人物の関係性が変化を見せていくのも読みどころ。特に、堅物・ヴァルナー首席警部が恋に陥るエピソードは今後の展開に興味を持たせるものである。 派手ではないが読みごたえがあり、北欧ミステリーのファンにはおススメできる。 |
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4年ぶりに邦訳が出たV.I.ウォーショースキー・シリーズの第19作。身近な人々が巻き込まれたトラブルを解決するためにヴィクが体を張って駆け巡る、アクション・サスペンスである。
敬愛するロティの甥の大学生が殺人犯の容疑をかけられたとして、ヴィクに助けを求めてきた。頑迷な保安官を相手に四苦八苦しているところに、さらに元夫の姪が「シカゴにいる姉が行方不明になったので探すのを助けてほしい」と頼み込んできた。どちらも金にならない事件だが、正義を求めるヴィクは困っている人を放っておけず調査を進めることにした。気乗りしない調査だったが事件の中身を知るほどに巨悪の姿が見え隠れし、さらにヴィク自身の身体の危険も迫り、全身全霊をかけて真相に迫ることになった…。 もうとっくに50歳を過ぎたヴィクだが激しい気性と行動力は変わらないというか、ますます激しさを増し、次から次へと命を賭けたアクションが展開される。しかも、そのアクションの背骨になっているのが社会的不公正に対する激しい怒りなので、正義が貫かれる最後はすっきりと気持ちがいい。 シリーズ愛読者には文句なしのオススメ。ハードボイルドファン、社会性のあるアクション・サスペンスのファンにもオススメしたい。 |
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マンチェスター市警エイダン・ウェイツシリーズの第3作。エイダンが警備中に病院で殺害された殺人犯を巡る謎に、エイダン自身の過去が絡んできて先が見えないサスペンスが続く警察小説であり、権力と暴力の醜悪な関係を映したノワールである。
12年前の一家惨殺事件で服役していた男が末期がんと分かり、病院に収容された。エイダンと相棒のサティは厳重な警備を命じられていたのだが、男が火炎瓶で襲撃されて死亡し、サティも重体に陥った。しかも、男は死ぬ間際にエイダンに「俺じゃない」という一言を残していた。エイダンは新たに相棒となったナオミ・ブラック刑事とともに事件を解明しようとするのだが、それは男を殺害した犯人捜しであると同時に、12年前の事件の謎を解くことでもあり、両方の事件に関係する人物たちの秘密を暴いていく困難な作業だった。さらに、捜査の途中からエイダンは何者かに監視され、命を狙われていることに気が付いた…。 過去の事件の関係者が殺されて再度捜査が進められるという警察捜査小説の王道の謎解きに、エイダンの過去と現在にまつわる因縁の人間関係から生まれるハードボイルドな展開が加えられた、非常に重厚で複雑なサスペンス・ミステリーである。前2作の登場人物やエピソードが重要な役割を果たすこともあり、ぜひとも第1作から読むことをオススメする。 |
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「ワニ町」シリーズの第4作。おなじみの湿地チームの3人がドタバタと難問を解決する、安定のユーモア・ミステリーである。
シンフルに潜伏し始めて三週間がたち、嫌な出会い方をしたイケメン保安官助手・カーターとも仲良くなり、初デートに臨むことになったフォーチュン。アイダ・ベル、ガーティに大騒ぎの末にデート衣装を整えられ、いざ雰囲気の良いレストランへとなったところでカーターに連絡が入り、フォーチュンの唯一の同世代仲間であるアリーの家が火事になったという。急遽、デートは中止。アリーは無事だったのだが火事の原因が放火と分かり、フォーチュンは燃え上がる。カフェの店員で人柄がよく、だれからも恨まれるはずがないアリーがなぜ狙われたのか? シンフルの平和を守る老嬢コンビのアイダ・ベル、ガーティとともに、フォーチュンは事件の解明に乗り出した。猪突猛進が信条の三人組は、カーターの警告を無視し、激しいアクションを繰り広げることになる…。 移り住んでから三週間で4つ目の事件とあって、テーマも展開もまさにマンネリそのもの。変化と言えばフォーチュンとカーターの恋物語ぐらいだが、それでも十分に楽しめる、安定のエンターテイメント作品である。アメリカではすでに20作まで刊行されたというのが、シリーズの魅力を物語っている。 どんでん返しやクリフハンガーの連続に疲れた方にオススメする。 |
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2018年から19年に雑誌掲載された4作品を集めた短編集。家族、友人、職場、地域社会など逃げ切れないことが分かっているものから衝動的に逃げ出す人々を描いた人間ドラマである。
4作品とも極悪人は出てこず、ただちょっとしたすれ違い、魔が差した瞬間にとらわれた人の愚かさと弱さがドラマを生む。じっくり読めば、人間に対する著者のまなざしの温かさが心に響いてくる良作である。 |
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「朽ちないサクラ」に続く、米崎県警・森口泉シリーズの第2弾。念願かなって警察官になった森口泉が仲間と力を合わせて警察組織と上層部の闇に挑む、熱血警察サスペンスである。
事件現場で収集した情報を分析しプロファイリングを行って刑事捜査を支援する機動分析係を志願した森口だったが、実技テストに失敗した。しかし、係長の黒瀬警部の引きで合格とされ、個性が強すぎる班のメンバーの最下位に加わった。するといきなり県警本部会計課の金庫から1億円近い現金が紛失するという事件が発生。警察内部の犯行という疑いが濃く、極秘の捜査が進められてたのだが、確たる証拠が見つからない内に重要参考人と考えていた元会計課長が死体で発見された。さらに、捜査の責任者だった黒瀬警部が不明瞭なタレコミをもとに謹慎処分をくらい、捜査から外されるという非常事態となった。黒瀬と行動を共にし、ある疑惑を追っていた森口は、事件の裏にとんでもない闇が潜んでいるのを知り、捜査を進めると命までかけなければいけないのではないかと危惧する。それでも、正義感に突き動かされる森口は信頼する仲間とともに、ひたすら事件を解明しようとする…。 現場の一捜査員が警察組織の悪を暴くという、よくあるパターンで物語の構成に新鮮さはない。さらに、場面展開や刑事の心理描写で同じような小技の表現が繰り返し登場することもあり、ストーリー全体がやや冗長。しかも、ヒロインをはじめとする正義の側が2時間ドラマみたいな薄っぺらさでリアリティがない。ただただ正義を追及するヒロインの熱量の高さが、物語を動かしているところが読みどころである。 柚月裕子の警察小説ではあるが、「虎狼の血」を期待してはいけない。検事・佐方シリーズのファンにならオススメできる。 |
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本作品が長編3作目というアメリカの新進作家の本邦デビュー作。ひょんなことから友人になった老嬢二人が孫娘も巻き込んで、マフィアの金を横取りして逃げるバディもののハードボイルドである。
マフィア幹部の未亡人・リナは言い寄ってきた隣人の男をガラスの灰皿で殴りつけ、男の車を奪って娘の家に逃げ込もうとしたのだが、もともと折り合いが悪かった娘・エイドリアンはリナを追い返そうとする。そこに娘の隣家に住む引退したポルノ女優・ウルフスタインが声をかけ、隣家に入れてくれ、ほっと一息つく。だが、エイドリアンの愛人のリッチーがマフィアの金を強奪して逃げたため、リッチーを殺そうとするマフィアの殺し屋が襲ってきて、エイドリアン、リッチーと15歳の孫娘・ルシアが逃げ込んできた。さらに、ウルフスタインが金をだまし取った男も登場し、カオス状態になった現場からリナとルシア、ウルフスタインの3人は問題の金を奪い、車も奪って逃げ出した。深夜のハイウェイを必死で逃げる三人組とそれを追いかける男たちのサスペンス・アクションは予想を覆すドラマを生み出した…。 まず第一に、登場人物が魅力的。主役の三人はもちろん周辺人物もキャラが際立ち、生き生きと動き回っている。物語のメインは逃亡する女たちと追いかける男たちの追っかけっこなのだが、話の展開がスピーディでぐんぐん引き込まれて行く。さらに舞台に選ばれたニューヨークの街や映画を中心にしたポップカルチャーにも味わいがある。 熟女が主役のハードボイルドであり、バディものであり、しかもアクション・サスペンス。ハリウッドのコメディタッチのアクション映画が好きなら、絶対のオススメだ。 |
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雑誌掲載された作品の文庫版。緊縛師が死体で発見された事件を題材にしたミステリーの体裁をとった観念小説である。
緊縛師の死体が発見されたアパートに残されていた品物は、刑事・富樫が心をとらえられている女性・桐田麻衣子につながるものだった。麻衣子を救いたい一心で富樫は現場を偽装するという暴挙に出る。さらに、偽の指紋まで提出して捜査の方向を麻衣子から逸らそうとしたのだが、同僚刑事・葉山に疑問を持たれ、富樫は追い詰められていく。そして、事件の裏側を探り続けた葉山がたどり着いた驚愕の真相は…。 ミステリーとしては犯人捜しの捜査もので、刑事による偽装というスパイスが効いているものの、作品におけるミステリーの重要度は高くない。作品の要点は緊縛やSMの世界で、常識を超越した個人の性癖、生き方の激しさと深さの追及にあり、官能小説、観念小説の側面が強い。 観念的ポルノグラフィのファンになら満足してもらえるだろうが、読者を選ぶ作品であることは間違いない。 |
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アメリカ占領期の混乱した東京の闇に分け入る「東京三部作」の完結編。戦後最大の謎と言われる下山事件を題材ににした戦後史ノワールである。
「小平事件」、「帝銀事件」、「下山事件」という、いまだに人々を引き付けてやまない事件をエンターテイメント性の高い犯罪小説シリーズに仕上げた作者の着想や力量は素晴らしいが、きわめて読みづらい文体なのが惜しい。その文体こそが作者の文学的技法であるだろうし、翻訳は実に懇切丁寧なのだが、それでも減点せざるを得ない。だが、事件の真相解明ができたか否かは別にしてノワール・ミステリーとしての完成度は高く、読んで損はない。 忍耐力のある読書家にオススメする。 |
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イギリスの新人のデビュー作。女子高校生がSNSを駆使して事件の真相に迫る謎解きミステリーであり、児童文学賞候補になった青春小説の傑作でもある。
平和で楽しい家庭で暮らす元気な女子高校生・ピップが自由研究のテーマに選んだのは、5年前に町を騒がせた17歳の女子高生・アンディ失踪事件だった。死体は見つかっていないものの、アンディの恋人だったサル・シンが警察の事情聴取の後で睡眠薬を飲み、頭からビニール袋を被った死体で発見されたことから、サルがアンディを殺して自殺したとされてきた。しかし、サルと親しかったピップはサルが犯人とは思えず、サルの無実を証明するために関係者へのインタビューを行い、それをレポートにまとめようとするのだった。何の権限もない高校生のピップだが、徹底的にSNSを調べ上げ、サルの弟のラヴィの助けも借りて事件関係者が隠してきた真実を次々に明らかにする。そしてたどり着いた結末は……。 誰もが顔見知りの小さな町での少女失踪事件は、昔から繰り返されてきた話だが、本作は探偵役が女子高校生ということで新鮮な作品となっている。特に、SNSを駆使して真相に迫るプロセスはユニークで軽快、ピップのキャラクターの良さもあり、爽やかな読後感をもたらしてくれる。また謎解きの部分も高レベルである。 若い世代だけでなく、幅広い年齢層の謎解きミステリーファンにオススメしたい。 |
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昭和29年の大阪を舞台にした書き下ろし長編ミステリー。新人刑事が堅物の上官と組んで連続猟奇殺人事件を追う、バディものの警察小説である。
代議士の秘書が頭に麻袋をかぶせられて殺害されるという猟奇事件が発生し、捜査班に組み込まれた大阪市警視庁(当時は存在した)の新人刑事・新城は、テロ事犯を疑う国警から派遣されてきた警部補・守屋とコンビを組むことになった。上級公務員で東京から転勤してきたばかりの守屋はすべてに四角四面で融通が利かず、新城とは正反対の性格で、新城は先が思いやられるのだった。担当する聞き込みに回ると案の定、守屋は不器用で新城はしりぬぐいに汗をかかされるのだった。事件は、同様の手口で殺害された遺体が次々に発見され連続殺人の様相を呈してきたのだが、被害者の共通点が見つからず 捜査は難航した。それでも、新城たちの粘り強い聞き込みから、戦前の満州にさかのぼる背景が浮かび上がってきた……。 堅物上司と人情派の部下という、よくあるパターンのバディもので、そこに新味はない。しかし、かつて戦後の一時期だけ存在した自治警察と国家警察という歴史的背景が上手くいかされていて、なかなか読みごたえがある。 警察小説のファン、近代史ミステリーのファンなら十分に楽しめる作品としておススメだ。 |
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本邦初紹介のアメリカ人作家の作品。引退前の最後の仕事にする予定だった請負強盗を生業とする男が、もう一仕事を強制され、仲間とともに命がけで戦うアクション・クライム・サスペンスである。
ラスベガスのカジノホテルのアーケードに2台のバイクで突入し、超高級宝石店を襲撃したアレックスとその仲間だったが、居合わせた少年が犯行の一部を撮影した動画が世界中に広まってしまった。この仕事を最後に、身分を隠し続ける生活から引退しようと思案していたアレックスは、偶然出会った女性・ダイアンに心を惹かれる。二人がいい雰囲気になり、ダイアンの家に行ったとき現れたダイアンの息子・トムを見て、アレックスは凍り付く。トムは20数年前に亡くなったアレックスの親友・クレイの生き写し、つまりクレイの忘れ形見だったのだ。そのショックを乗り越えたアレックスとダイアンはトムも一緒に、休暇を過ごすためにメキシコのリゾートに赴き、離れて暮らすアレックスの娘・パオラや仕事仲間たちと平穏なバカンスを楽しんでいた。ところが、メキシコの麻薬カルテルが接触してきて、ある人物の誘拐を依頼される。引退を理由に断ったアレックスだったが、カルテルはトムとパオラを人質に任務を強制する。子供たちを救うために、アレックスは仲間たちと無理を承知で誘拐作戦を実行することになった……。 ドン・ウィンズロウやエルモア・レナードを思わせるケイパー小説との紹介もあるが、そこまでのレベルではない。話の展開の速さ、アクション・シーンの華やかさはなかなかで、ハリウッド映画になれば面白そう。ただ、物語のキーポイントになるアレックスとダイアンの出会いがあまりにも都合がよすぎるし、登場人物のキャラクターは立っているのだが心理描写が陳腐なため、イマイチ話に没入できないのが残念。それでも、最後のひねりは面白かった。 スピーディーなアクション小説のファン、アクション映画のファンにオススメする。 |
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ボッシュ・シリーズの第22作。さらにボッシュ&バラードものとしては第2作。それに加えて、リンカーン弁護士・ハラーも登場する豪華キャストのミステリー長編である。
新人刑事時代の恩師の葬儀に出席したボッシュは未亡人から、故人が自宅に持っていた殺人事件調書を渡された。恩師が20年以上も前の未解決事件の調書を隠し持っていたのはなぜか、その謎を解くべく、ボッシュは現役刑事であるバラードに協力を依頼する。同じころ、バラードはホームレスが火事で死亡した事件を担当し、事故死で処理しようとしたのだが、調べを進めるうちに殺人ではないかとの疑いを持つようになった。一方ボッシュは、犯行を自供した上にDNAが一致して有罪間違いなしと思われた判事殺害事件の被告弁護人となったハラーに頼まれ、被告側に有利な証拠集めを進めていた。時代も状況も背景も全く異なる三つの事件だったが、捜査が進むにつれ複雑な関係が重なり合い、絡み合っていることが分かってきた……。 それぞれに主役を務めるシリーズを持つ3人が共演するという贅沢な構成だが、裏を返せば、69歳になるボッシュ一人では厚みがあるミステリー・サスペンスにはならないということか。三つの事件は個々にストーリーが成立しているものの、小粒な感が否めないし、無理やり結び付けたような違和感がある。とはいえ、ボッシュ・シリーズとして合格レベルであることは間違いない。 シリーズはまだまだ続くようで、ボッシュ・ファンには読み逃せない作品と言える。 |
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2021年発表の書き下ろし長編。構想10年という力が入った作品だが、ミステリーであり、性愛小説であり、女の一生であり、すべてに今一つ物足りないもどかしさを感じる作品である。
裕福な両親の愛情に包まれ健やかに育っていた百々子が12歳の時、何者かに両親が殺害されるという悲劇が襲ってきた。純粋無垢に生きてきた幸せな日々が突然失われたものの百々子は、信頼する家政婦・たづの家族やただ一人身近に感じる叔父の佐千夫らに支えられ、美しく聡明で芯の強い女性に育ち、恋を楽しむようになっていた。だが、そんな日々の裏側には常に殺人事件の影がまとわりついており、さらに犯人のどす黒い想念が百々子の周りから消えることはなかった……。 事件の犯人が信頼する叔父だったことは物語の早い段階から明かされていて、謎解き・犯人捜しの面白さはない。さらに犯人捜しに執念を燃やす老刑事が登場するのだが、犯人対刑事の知恵比べというサスペンスも中途半端。途中までは百々子に対する佐千夫の妄執が主題になっているのだが、最後にはあいまいな決着がつけられ、背筋を凍らせるような情念の強さは感じられない。なので、波乱万丈な女の一生を描いたものということになるのだが、これも「終章」の独白できれいにまとめられて終わってしまいやや物足りない。ミステリーとしては薄味だが、構想の面白さ、文章力のすばらしさから十分に読みごたえがあるエンターテイメント作品といえる。 小池真理子ファンにオススメする。 |
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イギリスの最北、シェトランド諸島を舞台にしたジミー・ペレス警部が主人公のシリーズの第7作。先の四部作「シェトランド四重奏」に続く新シリーズ四部作の第3作である。
ペレス警部と浅からぬ因縁のあった老人の葬儀の最中に長雨による地滑りが発生し、被害を確認していたペレス警部は土砂に流された空き家で女性の死体を発見した。身元不明の死体を検視すると地滑りの前に絞殺されていたことが判明し、警察は身元の確認と犯人捜しを並行して進めることになった。わずかな遺留品を基にした身元捜しは遅々として進まず、しかも死んだ女性の行動を調べていくとプロセスは、シェトランドの住民家族のプライバシーを暴くことになり、さらに第二の殺人事件につながってきた……。 物語の主題は、スコットランドから遠く離れた小さな島々の濃密な人間関係と、そこに隠されていた人間だれしも覚えがある小さな秘密、些細な嘘が巻き起こすドラマである。殺人事件の解明もきちんと進められるのだが、そちらはあくまでもサブ・テーマで、主人公・ペレス警部をはじめとする登場人物たちの悩みや苦悩から生まれるヒューマンドラマが主役と言える。さらに、舞台となるシェトランド諸島の特異な風土も読みどころである。 警察官が主役で地道な捜査の積み重ねで事件を解決するオーソドックスな警察小説のファンにオススメする。 |
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インドの女性作家のデビュー作であり、2021年度エドガー賞の最優秀長編賞受賞作。しかし、ミステリーというより少年冒険小説ととらえるべき作品である。
インドのスラムに暮らす9歳の少年・ジャイは、同じ地域の同級生が行方不明になったのに学校も警察も真剣に対応しようとしないことから、親友二人を助手に誘って探偵団を結成し、張り切って捜査に乗り出した。親から行ってはいけないと言われている地域にも出かけ、怖い人や親切な人たちに話しかけ、同級生を見つけようとするのだが、何の成果も上がらないうちに他にも子供が失踪する事件が相次いだ。事件の背景には恐ろしいたくらみが隠されており、やがては安全なはずのジャイの家族にも災いが訪れようとしていた……。 ジャーナリストとして教育や子供の問題の取り組んできた経験に基づき、インドの貧困がもたらす悲劇を追及した作品だが、9歳の少年の目を通すことで社会悪断罪一辺倒の書にはならず、子供の夢や希望にも目を配ったエンターテイメントに仕上がっている。通常の報道では目に触れないインド下層社会のリアルが読みどころと言える。 謎解きやサスペンスは期待せず、未知の世界に旅するような好奇心で読むことをオススメする。 |
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2020年に週刊誌連載された長編小説。家族を守るために秘密を抱えた人々の葛藤と謎解きの面白さを兼ね備えたヒューマン・ミステリーである。
小料理屋を営む藤原幸人のもとにある日、脅迫電話がかかってきた。一人娘・夕見を守るために、幸人が必死で隠してきた秘密を知っており、金を渡さなければ娘にばらすという。脅迫のストレスに耐えきれずダウンした幸人はしばらく店を休業し、気分転換のために夕見と出かけることにしたのだが、夕見が行きたいといった場所は、30年前に幸人家族が逃げるようにして出てきた故郷だった。そこには幸人の母の死、さらに幸人と姉の事故を巡る深い闇が残されているのだった…。 主人公が隠していた秘密は物語の最初に明らかにされ、謎解きの本題は「母の死を巡る」一連の出来事である。母の死と、その一年後に起きた毒キノコによる殺人事件の責任はだれにあるのか? 素人探偵が地道に聞き込みと推理を重ねて行くプロセスは、もどかしいもののサスペンスがある。そして、最初の脅迫という伏線の回収もあっけないが面白い。 家族の秘密をテーマにした人間ドラマのファンにオススメする。 |
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「時計仕掛けの歪んだ罠」で日本でも人気が出始めた「サム&モリー」シリーズの第2作。前作以上に複雑な展開で読者を驚かすサスペンス・ミステリーである。
前作の結末から警察を退職したサム・ベリエルが収容されていた精神科病院から脱走を試みるが失敗し、サムを捜索していた公安警察に逮捕されるという衝撃のオープニングだが、すぐに元警察官のサムとは別人であることが判明する。そのころ元警官のサム・ベリエルはスウェーデンの最深部、電話の電波も届かない北極圏にあるロッジで元公安警察の潜入捜査官だったモリーに匿われ、絶対に警察の検索網にかからないようにひっそりと暮らしていたのだが、かつての相棒であるディアが訪ねてきたことから事態は一変する。ディアは、彼らが関わった事件で捜査ミスがあったことを示唆する手紙を受け取り、そこには無視できない事実が書かれているというのだ。犯人が逮捕され、すでに終結した事件であり、公式には再捜査できないため自由に動けるサムとモリーに非公式の捜査を依頼したいというのだった。あくまで私立探偵として捜査に協力し始めたサムとモリーだったが、すぐに連続殺人事件に巻き込まれ、公安警察に加えて見えない犯人からの危機にさらされることになった……。 ストーリー(謎解きのプロセス)がどんでん返しの連続で、どう書いてもネタばらしになりかねない作品である。ただ、どんでん返しに無理がなく、ジェフリー・ディーヴァー作品のようなあざとさが無いので、展開のスピードとサスペンスに心地よく身をゆだねることができる。 北欧ミステリーのファンには絶対のおススメ。またサイコ・サスペンスのファンにもオススメしたい。 |
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ヤングアダルトやロマンス作品では絶大な人気という、アメリカの女性作家の初サスペンス作。売れない女性作家がベストセラー作家(女性)の夫から共著者になるよう依頼され、その豪邸に行き資料を探していてベストセラー作家の自伝を見つけたことから疑心暗鬼にとらわれていくという、サスペンス・ロマンスである。
家賃にも事欠くほど困窮していたローウェンももとに、大ヒットシリーズを持つ作家ヴェリティの共著者になってもらいたいという依頼が舞い込んできた。高額の報酬は魅力だが、なぜ自分が選ばれたのか疑問を持ち、いったんは断るつもりだったのだが、交渉の場に現れたヴェリティの夫・ジェレミーの熱意にほだされ、ヴェリティの仕事部屋に泊まり込んで資料を整理することになった。そして訪れた豪邸の仕事部屋でローウェンが見つけたのは、事故で寝たきりになっているヴェリティが書いたらしい自叙伝の原稿だった。ヴェリティをよく理解するためにと思って読み始めたローウェンだったが、読むうちに恐るべきヴェリティの心の闇に触れ激しく動揺するのだった……。 自叙伝を書いたヴェリティはもちろん、そこに登場するジェレミー、さらに原稿に触発されるローウェンの三人がそれぞれに深い心の闇を抱えていて、それが重なり合うことで物語は全く先が見えないダークな世界に迷い込んでいく。そこがサスペンスフルといえばそうなのだが、あまりにもサイコ・ファンタジー的な展開で、ミステリーとしては白けてしまう。 ヤングアダルト、ロマンス・ミステリーのファンなら楽しめるかもしれない。 |
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