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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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「六人目の少女」でデビューしたイタリアのミステリー作家ドナート・カッリージの第2作。宗教風味豊かなオカルト陰謀ミステリーである。
ヴァチカンの秘密組織に属する神父マルクスは、連続誘拐殺人事件の新たな被害者の可能性があるローマの女子学生の捜索に乗り出す。一方、ミラノ警察の写真分析官サンドラは、5ヵ月前に事故死した報道カメラマンの夫が殺されたのではないかという情報を得て、単身、ローマに乗り込み独自の捜査を始める。古都ローマの歴史の闇の中で二人の捜査が交差したとき、キリスト教の永遠のテーマ「善と悪」の境界が揺らぎ始める・・・。 誘拐された女子学生の捜査とカメラマン殺害の捜査、それぞれにしっかりした構図を持っていて、どちらも読み応えがある。さらに、両方の捜査を影で動かす謎の「ハンター」が登場し、何層にも重なり合った犯人探しが楽しめる。また、カソリックの「告解」の奥の深さが物語に奥行きを与えていて、530ページの長編になったのもうなずける。 ただ個人的には、バチカンの神父も写真分析官も安易に家宅侵入を繰り返し、さらにそれが簡単に成功するところが興趣を削いだ。「イタリアの警察、あまりにも無能じゃないかい?」ということで、マイナス1点。さらに、まったく別の人物に成り替る「生物変移体」がキーになっているところで、マイナス1点。 「生物変移体」系の話が好きな人には絶対のオススメだ。 |
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チャンドラーの「プレイバック」には2作品がある。1958年発表の小説版(清水俊二訳)と、1948年に完成していた映画シナリオ(本書、小鷹信光訳)である。本作「過去ある女-プレイバック」は映画オリジナルとして書かれたシナリオ版だが結局映画化はされず、また本作品にはフィリップ・マーロウは登場しない。
舞台は第二次世界大戦が終了して間もない時期のカナダ・ヴァンクーヴァーの名門ホテル。ニューヨーク出身という謎の美女ベティが、彼女につきまとうジゴロのミッチェルと一緒に現れる。そのホテルには、ミッチェルの愛人、その愛人のパトロンの老紳士、ペントハウスに住む独身で大金持ちの紳士が滞在していた。ベティが到着した日の夜、ペントハウスでは恒例のパーティーが開かれ、関係者の間でさまざまな小さなトラブルが発生した。雷鳴が響く深夜、ベティの部屋のバルコニーにはミッチェルの射殺体が横たわっていた。 ミッチェル殺しの犯人は誰か、謎の美女ベティにはどんな過去が隠されているのか、ヴァンクーヴァー警察のキレイン警視が捜査を進めると、虚無的で悲しい世界があらわになってきた。 映画のシナリオということで、小説とは違って非常に分かりやすい。そこが、ハードボイルドファン、ミステリーファンには物足りないかもしれないが、40年代後半のフィルム・ノワールの雰囲気がたっぷり楽しめる傑作である。 |
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フォーサイスの最新作は、ネット上でイスラム聖戦を呼びかける「説教師」を狩り出す、サイバーテロリスト・ハンティングの物語。広大なサイバー空間に身を隠した「説教師」を追いかけるのは、米国政府の秘密軍事組織の一員で「追跡者」と呼ばれる男。米国、英国の秘密情報機関に加えて、天才ハッカーの協力を得ながら、じりじりとその正体に迫っていく。
現実の世界でもたびたび起こっている、国際的なテロ組織とは無関係な、西欧諸国で生まれ育ったテロリストによる犯行を題材にした、フォーサイスお得意のマンハント小説で、安定したレベルのエンターテイメントに仕上がっている。ただ同時に、それが弱点というか、人間的な側面が削がれた薄っぺらいドラマになっているところが不満といえば不満。あくまでも、情報技術を駆使したスパイ作戦の高度化に驚くだけで、人と人の駆け引きを楽しむル・カレの味わい深さは期待できない。 |
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リーバス警部シリーズで有名なイアン・ランキンの新シリーズ「警部補マルコム・フォックス」の登場作。今回も舞台はエジンバラ、主人公は警部補なのだが、警察官とはいいながら警官を監視する職業倫理班所属という点が、リーバス警部シリーズとは大きく異なっている。
同じ警官仲間からは「イヌ」と蔑まれ、忌み嫌われながら仕事を遂行するマルコムは、私生活でも過去のアルコール依存症と離婚歴、金のかかる介護施設にいる老いた父親、DV被害にあっている妹など、さまざまな問題を抱えていた。 新たな任務として、児童ポルノ犯罪を手がける部署から「児童ポルノのオンライン取引にかかわっている疑い」のある警官ブレックの調査を依頼された。ところが、妹に暴力をふるっていた同棲相手が死体で発見される事件が発生し、ブレックが捜査を担当することになる。さらに、その捜査過程で、妹を守るためにマルコムが殺したのではないかという容疑が浮上した。 「警官の犯罪」をテーマにしたミステリーは数多くあるが、本作品がユニークなのは、警官の不正を捜査する警部補自身も捜査対象となることだろう。児童ポルノ容疑のブレック、殺人容疑のマルコム、二つの事件は相互に絡み合って、予想も出来なかったきわめて複雑な展開をみせていく。 700ページを越える長さで、最後にはエジンバラの古い体質に起因する陰謀も絡んできて、読み終えるにはかなりの力技が必要だった。正直、もう少し簡略な方が好みではある。 本シリーズはすでに4作目まで発表されており、しかも3、4作目ではリーバス警部も登場するという。今後に期待したい。 |
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2010年に刊行された連作短編集に、伊坂幸太郎氏へのロングインタビューをプラスした文庫で読了。
二股ならぬ五股を掛けてきた男が、止むを得ない事情で別れを告げるために、婚約者(実は、男を監視するために某組織から送り込まれた怖い女)と一緒に五人の恋人を訪れる5つの物語と、男と婚約者との物語を合わせた、全6編。設定も、エピソードも、キャラクターもぶっ飛んでいて面白い。ただ、ミステリーではないので、このサイトの採点としては低くした。 |
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イギリスの片田舎の町で長年閉ざされていた教会が再開されることになり、新任の司祭・ハリーが赴任した。ある日、教会に隣接する墓地と隣の一家との境の塀が崩落し、塀際にあった少女の墓が暴れてみると、そこには三体の子供の遺体が埋められていた。しかも、その内の二体は最近埋められたもののようで、いずれも頭がい骨に深い傷を負っていた。遺体は、誰なのか? また、何のためにここに埋められたのか?
一方、隣家の子供たちは正体不明の誰かが一家に接してくるのを感じており、ハリーも、教会の中で誰かに見られている気配を感じていた。この教会には、あるいはこの古い町には、どんな因縁が隠されているのだろうか? 前半はゴシック的というか、オカルト的というか、「ひょっとして幻想小説?」と思わせるのだが、途中からは地縁・血縁に縛られた閉鎖的な社会が作り出す、不気味で切ない物語へと変わっていき、最後には読者を驚かせる秘密が明かされる。 犯人探し、動機探しのミステリーとしてはちょっと物足りなく感じるが、ホラー風味のミステリーとしてはストーリーがしっかりしていて面白い。 |
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谷根千で暮らす二人の前科者、芭子と綾香コンビのシリーズ第二弾。
それぞれに仕事や生き甲斐を見つけたような気がして張り切っていた二人だが、ふとすれ違った人たちから強い衝撃を受け、暮らしに大きな波紋が生じてくる。ひたすら平穏な暮らしを願っているだけの二人なのに、世間は放っておいてはくれないのか? ムショ帰りであることを隠しながら生きている二人のほのぼのとした、しかし切ない4編のホームドラマ集である。表紙の折り返しに「シリーズ、大好評につき第二弾!」とあるように、前作「いつか陽の当たる場所で」を受け継ぎながらキャラクターの成長が加味されて、一段と面白くなっている。 ぜひ、第一弾から読むことをオススメする。 |
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発表されたのが1992〜3年、東野圭吾が大きく変身し始めていたのが実感できる力強い作品である。
函館生まれで札幌の大学に通う18歳の鞠子は、母親の自殺を巡る謎を解くために、昔父親が通った東京の大学を訪れて、父親の過去を探り始めたが、その途中で自分と瓜二つの女性がテレビに出ていたことを知らされる。東京の女子大生20歳の双葉は、アマチュアバンドでテレビに出演することになったが、なぜか母親からテレビに出ることを強く反対される。母親の反対を押し切ってテレビに出た双葉だったが、その後、轢き逃げされて死亡した母親の遺品を整理していて不思議なスクラップブックを発見、さらに母親の過去を知っているという旭川の大学教授から誘われて母親の秘密を探るために旭川に出掛けることになる。 誰もが見間違えるほどそっくりな顔形、体型の鞠子と双葉。二人には、本人たちがまったく知らなかった強い結びつきがあった。それぞれが自分の出生にまつわる謎を解明するために、鞠子は東京で父親の、双葉は北海道で母親の過去を探し始めるが・・・。 タイトルや物語のイントロから分かるように、人口受精やクローン作成が主テーマだが、作者の巧みな構成力によって、単なる医学技術批判の物語だけには終わらない、謎解きとサスペンスが楽しめる、エンターテイメントしても良質な作品に仕上がっている。 |
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名無しのオプシリーズの記念すべき第一作。プロンジーニが、1970年代のいわゆる「ネオ・ハードボイルド派」の新人として注目を集めるきっかけとなった作品である。
サンフランシスコに事務所を構える一匹狼の主人公は、息子を誘拐された金持ちの父親から依頼され、犯人に身代金を届ける仕事を引き受ける。簡単に終わるはずの仕事だったが、金の引き渡し現場で殺人が起き、主人公もナイフで切りつけられるハメになる。身代金を奪われた上に息子が解放されなかったため、主人公は引き続き調査を進めることになり、やがて事件の醜い背景をえぐり出す・・・。 誘拐事件の構図は比較的シンプルで、まあさらっと読めるのだが、主人公のキャラクター設定がネオ・ハードボイルドの真骨頂ともいうべきユニークさで実に魅力的である。47歳、独身、唯一の趣味がパルプマガジンの収集というだけでも個性的なのだが、さらに、恋人との関係、多量の喫煙による“いやな咳”に悩まされているという。霧深いサンフランシスコの街並みとともに主人公の葛藤がじわじわと心にしみてくる、味わい深いミステリーである。 |
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いわずと知れた大傑作映画の原作。もともと映画の企画としてスタートし、小説として完成してから監督と作家が協議してシナリオ化したとのこと。映画を見たのは、もう40年ほど昔のことなので詳細は覚えていなかったが、本作を読むに連れて甦るシーンも数多かった。
映画の名シーンの記憶が鮮烈なため、小説を読むより映画のあらすじを読んでいるようで・・・。作品のテーマ、ストーリーはレベルが高いのだが、映画の記憶が邪魔をしてミステリーとしての楽しみは減殺されてしまった。 |
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イギリスの田舎町の新聞記者ドライデン・シリーズの第3作目は、なかなか渋いミステリーだ。
第二次世界大戦中に捕虜収容所があった場所での遺跡発掘作業中に、トンネルと骸骨が発見された。トンネルは脱出用で、遺骨は脱出しようとしたイタリア兵と思われたが、奇妙なことに、遺骨は収容所の中に向かう格好で死んでいた。さらに、頭には銃撃された跡があり、盗品と思われる真珠や銀の燭台を持っていた。果たして、この骸骨は誰なのか? なぜ、収容所の中に向かっていたのか? 犯人探しではなく、記事にするための調査を進めたドライデンは、戦後、収容所から解放されて地域に住み着いたイタリア人社会に接触し情報を集めていく。すると、収容されていたイタリア人捕虜による窃盗事件が頻発していたことを知り、さらに今度は、発掘を指揮していたイタリア人教授が殺されるているのを発見することになった。 第二次世界大戦当時からの因縁が絡み合い、一筋縄ではいかない複雑な事件の様相が明らかにされるプロセスは実にお見事! 最後にはすっきりした(解決した)感覚が得られること間違い無し。いわゆる「英国本格派ミステリー」好きにはオススメだ。 |
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ご存知、リーバス警部シリーズの第16作。2005年、G8サミットが開催されたエジンバラでの出来事を濃密に描いた、大型警察小説である。
G8に反対する大規模なデモで騒然とするエジンバラで、連続殺人と思われる事件が発生した。ひたすらG8の成功を願う警察上層部は、事件が大きな話題になるのを避けようとするが、老刑事・リーバスには、それが我慢できなかった。同僚・シボーンの協力を得て、上司に盾突きながら捜査を押し進めていくリーバスの前には、宿敵のギャング・カファティ、ロンドンの公安の責任者、防衛産業の大物などが立ちふさがる。 本作の読みどころは、定年まであと一年になったリーバスの磨きがかかった頑固さだろうか。政治的、社会的な権力からの圧力に屈することなく、ありとあらゆる知恵を使って捜査妨害をはねのけていく。それは、「犯人を逃がさない」という刑事としての使命感であり、そのために家族や自分の生活を犠牲にしてきた歴史を無価値にしないためでもある。 事件の真相を明らかにしてからのリーバスの孤独と執念深さに、一匹狼の美学とペーソスがよく表れていた。また、シボーンの両親が登場し、彼女の家族関係や家族観が明らかになるのも、新しい面白さだった。 シリーズ愛読者にはもちろん、警察小説ファンにもオススメ。 |
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「夏を殺す少女」で日本デビューしたアンドレアス・グルーバーが、「夏を〜」以前に書いていた保険調査専門探偵ホガート・シリーズの第一作。シリーズはすでに第2作が発表されており、全3部作で計画されているという。
ウイーンの探偵ホガートが依頼されたのは、プラハの美術館に貸出した絵画が焼失した事件と、それを調査するためにプラハに派遣され、「焼失した絵画は偽物だ」という連絡をよこした後に行方不明になった保険会社調査員を探し出すこと。プラハでの調査を開始したホガートは、行方不明の調査員の足取りを追う中で、地元の女性探偵イヴォナと出会い、彼女が調査している猟奇連続殺人事件に関わることになる。 物語は途中から、保険会社からの依頼はそっちのけで連続殺人の捜査が中心になり、「あれ?」と思っているうちに意外な形で両者がつながり、一応の辻褄はあってくるのだが、やや強引な感じがするのは否めない。この点を始め、全体的に粗削りな印象を与えるが、古いモノクロ映画を偏愛する主人公のキャラクター設定が成功して、読み応えは十分。猟奇殺人のサイコパスが主題になっていることに加えて、「(プラハの中心を流れる)ヴルタヴァ川の霧の中では夢と現実の境界はあいまいになる」といわれるプラハの街も重要な役割を果たしている、やや重い印象のホラー風味サイコミステリーである。 |
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佐々木譲が1986年に発表した初期のハードボイルド作品。円熟期を迎える前の甘さが感じられるといえば大作家には失礼かもしれないが、ロマンチックな要素が強いハードボイルドである。
台風が接近する那覇に到着した主人公・泰三は、執拗な追手から逃れるために小さくて目立たないホテルに投宿し、那覇からの脱出の手段を模索する。ところが、ホテルの専務・順子は10年前、泰三が真剣に惚れながら挨拶もなしに別れざるを得なかった相手だった。嵐の那覇で再会した二人は、それぞれの10年の歴史を背負いながら交差し、海外脱出への道を突っ走る。 非合法組織から逃げる泰三を主人公にしたマンハントが本筋のサスペンスという作品の位置付けだが、私には、順子を愛しながら捨てざるを得なかった泰三の自分を締め上げるような生き方を中心に据えたハードボイルド作品と読めた。泰三を追う組織、泰三が追われる理由などがはっきり書かれていないことも、作者がサスペンスを重視していないことの現れだと思う。 台風に直撃された那覇の二日間に凝縮された、二人の人生。南国の花の甘さが香るハードボイルドである。 |
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現代アメリカ文学の巨匠・マッカーシーが書き下ろした映画脚本。リドリー・スコット監督、主演がマイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルスという豪華な陣容で映画化された(日本でも公開済み。未見)が、評判はいまいちだったようだ。
濡れ手に粟の金もうけのためたった一度のつもりで麻薬密輸に関わった弁護士が、ある手違いが生じたために麻薬マフィアの報復を受けるハメになり、凄絶な暴力の世界に巻き込まれてしまう・・・。物語の始まりこそ穏やかで美しいが、中盤からは一気に、正義や倫理など無縁の暴力が連続し、いつも通りのマッカーシーの世界が繰り広げられる。そして最後に微笑むのは・・・。 本作はあくまで脚本であって、小説ではない。つまり、セリフとト書きだけで構成されており、心理描写は省かれている。したがって、映像的なイメージはありありと思い浮かべられるが、行間を読み込む楽しみは欠けている。この点が、小説好きには物足りないだろう。 |
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冷酷な父親に「この世界を不幸にする存在」、「邪」の家系を継ぐ者として育てられた少年は、愛する者を守るために父親の殺害を決意する・・・。数年後、大人になった少年は再び、愛する人のために、自分を捨てて行動を開始する。「愛する人のために殺人を犯すことは罪なのか?」という大きなテーマの意欲作である。
13歳の少年による父親殺害計画、大人になってからの整形手術による変身と愛する人を守るための連続殺人など、物語の基本構成とストーリー展開は非常に面白いのだが、終盤になってから尻すぼみの感があった。思うに、主人公の「邪」のスケールが小さいことと、本筋に絡んでくるテロ組織に現実感も恐怖感も感じないことが、尻すぼみの原因だろう。主人公の前に立ちふさがる老刑事、主人公をサポートする探偵など、魅力的なキャラクターが登場しているだけに、主人公の心理の振れ幅のスケールアップにもうひと踏ん張りして欲しかった。 |
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「OUT」、「柔らかな頬」以降、2005年までに書かれた短編集。どれも、一筋縄ではいかない女性たちが登場し、黒々とした毒が充満した、その後の桐野ワールドを想像させる。
好き嫌いがはっきり別れそうな作品集である。 |
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アメリカでノアール小説への貢献ということで受賞した、中村文則の2作品のひとつ。中村文則という作家は知らなかったのだが、ノアール小説好きとしては見逃す訳にはいかず、手に取ってみた。読後感を一言でいえば、「え、もう終わり?」というところ。テーマ、ストーリー、キャラクター、いずれも文句無く面白いのだが、エンターテイメントとしては短か過ぎる。少なくとも倍以上のボリュウムで書き込んでもらいたかった。
掏摸(すり)のテクニックは詳細で緊迫感のある描写で読ませるが、ストーリーの肉付けが薄いのが物足りない。主人公の生い立ち、別れた女、重要な役割を担う少年との関わり、主人公が強制される犯罪の背景など、エンターテイメントとして膨らませていける要素がいっぱいあるだけに、残念な気がした。 |
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愛情の無い家庭で育児放棄された状態で育ちながら、鋭敏な美意識だけは発達させてきた美青年と、子供の時に母親が殺された現場に居合わせるという悲惨な経験がトラウマになっている美少女が、偶然の出会いから付き合い始め、やがては悲劇的な結末を迎える・・・。心理サスペンスの巨匠・レンデルの真骨頂ともいうべき、日常に潜む怖さと不気味さを感じさせる作品だ。
美を求める心が過剰であったときに生み出される悲劇は、三島由紀夫の「金閣寺」でも描かれたが、本作品では美の対象が人間であるだけにじわじわと迫ってくる恐怖感に圧倒された。 |
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デンマーク人作家のデビュー作だが、舞台はアイルランド。自分が漠然と持っているアイルランドの雰囲気が生かされた、幻想的でミステリアスな物語だった。
ダブリン近郊の小さな町の郵便配達員が配達先の家で死体を発見し、さらに同じ家に2体の女性の死体があったことからストーリーが始まる。3人はその家の主の女性と姪にあたる姉妹で、現場の状況から、家の主が姉妹を監禁していて最後に殺し合った結果だと思われた。なぜ、家族同士で殺し合うようなことになったのか? 警察は動機を解明できなかったが、同じ郵便局に勤めるオタク青年・ナイルが監禁されて殺された姉・フィオナの日記を手に入れたことから、3人を襲った悲劇の全貌が明らかになっていく・・・。 全体の構成は事件の動機を解明していく“ワイダニット”だが、作品の主眼は捜査プロセスではなく、複雑怪奇な動機に置かれている。サイコスリラーとファンタジーが入り交じったとでも言えばいいのか、物語性を楽しむ作品である。 |
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