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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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1993年~97年に雑誌掲載された7作品を収めた短編集。同じタイトルで3冊あるようだが、今回読んだのはポプラ文庫版(2016年)。
扱われているのは麻雀から手ホンビキ、ブラックジャック、バカラなど様々だが、いずれもギャンブラー心理をつかんだストーリー、心理描写で面白い。特に麻雀の読み、カジノでの必勝法などは実践的かもしれないが、ギャンブルをしない読者でも軽い読み物として十分に楽しめる。 |
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フランスの人気警察小説「マルタン・セルヴァズ警部」シリーズの第4作。セルヴァズの宿敵・ハルトマンが帰ってきて、命を賭けた戦いを繰り広げるサスペンス・ミステリーである。
ノルウェーの教会で発見された女性惨殺死体にオスロ警察の女性刑事シュステンの名前が記されたメモが残されていたため、シュステンは被害者が働いていた北海に浮かぶ石油プラットフォームに飛んだ。そこでシュステンは悪名高き殺人鬼・ハルトマンのDNAを発見し、さらに部屋に残されていた大量の隠し撮り写真を見つけた。被写体がフランスの警部・セルヴァズであることを知ったシュステンはフランスに赴き、セルヴァズとの合同捜査を申し込む。最初は反発を覚えたセルヴァズだったがシュステンの熱意に応え、捜査に力を入れ始めたのだが、丁度そのころ、セルヴァズが過剰な暴力をふるったという訴えがあり、自由に動き回ることが難しくなり始めた。それでも二人は力を合わせハルトマンを追い詰めるのだが、ハルトマンが張り巡らせた奸計が二人の前に立ちはだかった…。 文庫本で700ページ近い長編で前半部分は展開が遅く、中だるみもあり、物語の骨格となる部分にルール違反的な仕掛けがある(最後の方で判明する)のも白ける。それでも最後まで読み続けられたのは、何と言っても悪役・ハルトマンの存在感が際立っていること。レクター博士には及ばないもののなかなかのキャラクターである。シリーズ第1作~第3作は未読なのだが、十分に楽しめた。 フレンチ・ミステリー、北欧ミステリー、サイコ・サスペンスのファンにオススメする。 |
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ボッシュ・シリーズとしては第21作、深夜担当刑事・バラードものとしては第2作、二人がタッグを組むのは初めての作品。15歳の家出少女が殺害された未解決事件を、ボッシュ、バラードが協力して解決する警察サスペンス・ミステリーである。
バラードが深夜の出動からハリウッド署に戻ってみると、誰もいないはずのオフィスで古い事件ファイルを漁っている男がいた。ボッシュと名乗った男を追い出したバラードだったが、彼が見ていたファイルに興味を引かれボッシュとともに再捜査することになった。事件は、ボッシュの管轄外であるハリウッドで起きたものだったが、被害者の母親とボッシュにはある因縁があったのだ。またバラードは女性が被害者になった暴力事件を許すことができず、本来の職務以外の「趣味の捜査」として上司を説得し、日常業務外に寝る間も惜しんで捜査に取り組んだ。一方ボッシュも本来の仕事である地元のギャング絡みの事件を抱えており、その身辺には危険が迫っていた。二人それぞれの事情を抱えながらの捜査は困難を極めたが、粘り強く真相に近づいて行った…。 ボッシュ、バラードそれぞれの職務と共同で取り組む未解決事件とが入り混じり、やや散漫な印象があるもののオーソドックスな警察捜査ミステリーとして十分に楽しめる。ただ事件の派手さの割に犯人像が小粒なのが残念。 ボッシュ・シリーズ、バラード・シリーズのファンにオススメする。 |
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江戸川乱歩が高く評価したことで有名なイギリス本格派の古典的ミステリー。スコットランドの片田舎の古城に暮らす没落地主の墜死事件の真相を解く、トリッキーな謎解きミステリーである。
けた外れのケチとして地元民から疎まれていた没落地主ラナルドが、嵐(大雪と強風)の夜に自分の古城の塔から墜落死した。自殺か他殺か不明で、しかも一緒に暮らしていた姪のクリスティーンは事件の直前に恋人と駆け落ちしていた。謎に包まれた事件は、地元の関係者、雪を避けて偶然、白に身を寄せていた青年、地主の遺産相続にかかわる弁護士、捜査官らがそれぞれの視点から真相を語り、それらが合わさって複雑な物語が見えてくる。 舞台も時代も古色蒼然。ストーリー展開も極めてゆっくりで、前半部分は退屈と言える。しかし、事件を引き起こした背景、事件の様相が明らかになるとがぜん、ミステリー色が濃くなり、どんでん返しや伏線の回収も見事で読みごたえがある。1983年の作品だが、2021年の新訳(創元推理文庫)なのでとても読みやすい。 英国本格派謎解きミステリーのファンにオススメする。 |
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2000年前後に雑誌掲載された3作品を収めた短編集。3作とも「青春小説」というくくりに入るのかもしれないが、全編に行き場のない、やるせない、重苦しい雰囲気が横溢し、読後感はあまりよくない。それでも一応は読ませるのは、吉田修一ならではの独特な視点が効いているからか。
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2020年の英国推理作家協会シルバーダガー賞候補になったという、日本初紹介作家の作品。アイルランド沖の島での結婚式を舞台にした、犯人捜し、被害者探しの孤島ミステリーである。
アイルランド沖の小さな孤島で女性起業家とテレビスターという、今を時めく二人の豪華な結婚式が行われた。似合いのカップルを祝福するために家族、友人が集まったのだが、それぞれの人に隠された過去や思惑があり、パーティーが進むほどにそれが表面化し、ぶつかり合うことになる。そして宴たけなわとなった嵐の夜、ついに殺人事件が発生した…。 誰が殺したのか、なぜ殺したのかはもちろん、誰が殺されたのかもなかなか明かされないのがユニーク。主要な登場人物たちの視点から語られるエピソードの積み重ねで物語が進行するのだが、ストーリーが展開するたびに想定する犯人、被害者が入れ替わっていくのが読みどころ。英国本格派謎解きミステリーの系譜を受け継ぎながら舞台や人物が現代的なところも面白い。 古典的ミステリーのファン、軽めの謎解き物のファンにオススメする。 |
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元プロのスカッシュ選手という異色の経歴を持つ新進女性作家の初邦訳作品。ロサンゼルスに暮らす6人の女性たちの、どうにもならない悲しみをドラマチックに描いたヒューマンドラマである。
LAのサウスウエストで起きた連続女性殺人事件は13人の犠牲者を出したところで新たな事件が起こらず、犯人が不明のまま捜査打ち切りとなった。それから15年後、同じ手口の事件が発生した。同一犯人が、また犯行を再開したのか? なぜ犯行が中断されていたのか? かつて事件に直接、あるいは間接的に関係していた6人の女性たちは再び事件に巻き込まれ、運命を狂わされていくことになった。 15年前に襲われながら生き残った女性、娘が犠牲者となった女性、新たな犠牲者、捜査に携わる女性刑事など、6人のそれぞれに異なる悲劇と生きづらさの告白が連続短編集のようなつながりで展開され、やがては事件の解明につながるという構成で、犯人捜し、謎解き、サスペンスというより、現在でも繰り返されている女性差別への怒りの方が印象に残る。 2021年のエドガー賞最優秀長編賞の最終候補となった作品だが、ミステリーとしてはいまいち。卑しい街で生きていかざるを得ない女性たちのドラマとして読むことをオススメする。 |
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映画化されて話題になった「眺めのいい部屋売ります」の作家によるミステリー風味のロマンス小説。
少女が幼い弟を焼殺したという衝撃的な事件の陪審員となった50代の女性カメラマンが同じ陪審員仲間の40代の医師に惹かれ、情事におぼれていくというのがメインストーリーで、サブとして裁判で事件の真相解明が進んで行く。少女が真犯人か否かという興味はあるものの、事件の解明は中途半端。しかし、ヒロインの女性の情事に流されていく心理描写は綿密でリアリティがある。 秘めた情事が明かされていくプロセスがミステリーと言えば言えなくもないが、ミステリーだけを期待して読むと肩透かしである。 |
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2020年に発表された北海道警・シリーズの最新作。大通警察署のおなじみの面々が、雪まつり前夜の札幌市内で外国人実習生を食い物にする犯人を追跡する警察ミステリーである。
雪まつりを翌日に控えたあわただしい札幌の街中で2台の車がカーチェイスを繰り広げ、拳銃が発射された。その数時間前、ドライバーがコンビニに寄った隙に車を盗まれるという盗難事件が発生していた。拳銃を発射した方の車が盗難にあったものだったことから二つの事案はつながり、背景に外国人支援団体の姿が見え隠れした。人道的支援団体がなぜ狙われたのか? その糸を操っているのは外国人実習生制度を悪用する暴力団だった…。 おなじみのメンバーが日本の警察らしく法規にのっとって犯人を割り出していく、王道の警察ミステリー。驚くようなことは起きないが、その分、安心して読むことができる。 シリーズ読者はもちろん、日本の警察ミステリーのファンには絶対満足できる作品である。 |
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スウェーデンを代表する人気作家の3冊目の邦訳、ベックストレーム警部シリーズの第2作。折り紙付きの無能警部がなぜか難事件を解決してしまう、ユーモア警察ミステリーである。
アル中で一人暮らしの年金生活者の男が殺された。ほかに手すきの警部がいなかったため捜査を担当することになったベックストレームたちは極めてありふれた事件だと思ったのだが、被害者の友人や同じアパートの住人は曲者ぞろいで捜査は思惑通りには進まなかった。さらに、事件の第一発見者である配達員が死体で見つかり、話は複雑怪奇になっていく…。 前作同様、クソみたいな人格欠陥者で怠け者のベックストレームがいつの間にか事件を解決し、国民的英雄になるという法螺話的な物語なのだが、前作に比べると謎解き部分がしっかりしており、ミステリーとして楽しめる部分が多く、これならシリーズとして継続していけるだろう。 ユーモア・ミステリーのファンにおススメする。 |
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2019年から21年にかけて文芸誌に連載された長編小説。ブラジル移民の間で繰り広げられた「勝ち負け抗争」をテーマにした現代史サスペンスである。
1934年、親族とともにブラジルに移民した12歳の比嘉勇は移住した殖民地で同い年の南雲トキオと出会い、意気投合し、無二の友として切磋琢磨しながら青年期を迎える。だが、日本の戦争の影響がブラジルまで及んできて、二人は別々の道を歩むことを余儀なくされた。さらに、ブラジルの日本人社会では日本が戦争に勝ったのか負けたのかを巡る「勝ち負け抗争」が起き、二人は決定的に対立することになった…。 今の時点で振り返れば考えるだに馬鹿馬鹿しい「日本は勝った」という風説が優勢だったという状況は、いかにして生まれたのか。日本の勝利を信じるしか自尊心を保つ道がなかった移民たちの悲しみがじわじわと伝わってくる。いつの時代でも「人は自分が信じたいものだけを見る」という愚かしさは、現在のネット言論の異常さを見れば明らかで、情報量の多寡とは無関係であることがよく分かる。読み取るべき教訓が極めて多い作品である。 歴史に埋もれてきた興味深いエピソードを、現代的テーマに沿って読みやすく仕上げた傑作エンターテイメントとして、多くの方にオススメしたい。 |
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「ブルース」の続編となる連作短編集。ブルースの主人公・影山博人の義理の娘・莉菜が義父の亡き後を継いで釧路の街を制御しながらも、最後には街を出てゆく、ダークヒロインの半生記を描いたハードボイルドである。
自分のミスで義父を殺害されたという贖罪意識を抱えたまま莉菜は、父に代わって釧路の裏側に君臨し、ひたすら父の子である松浦武博を一流の政治家に育てることを目指す。目的のためには冷酷非情に振る舞い、信念を貫き通した莉菜は、武博が一人前に育ったのを目撃すると自ら釧路の街から姿を消した。 「ブルース」で強烈な印象を残した6本指の男・影山博人の後継者にふさわしい莉菜のキャラクターが、前半部分の読みどころ。後半は、アウトローの道を歩んできた女が自分で自分に決着をつける孤独とプライドが泣かせるハードボイルドである。 前作「ブルース」を踏まえた物語なので、先に「ブルース」を読むことをオススメするが、本作だけでも問題なく楽しめる。 |
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ドイツでは大人気の警察ミステリー「ヴァルナー&クロイトナー」の第2作。殺人事件被害者と過去の事件が複雑に絡み合う警察ミステリーである。
クロイトナー上級巡査は偶然、殺人の現場に居合わせた。被害者は顔見知りの男で、2年前に失踪した恋人にDVを加えていた乱暴者だっただけに、容疑者の数に不足はなかった。しかし、殺される直前に「ある弁護士が、失踪した恋人の行方を知っている」と告げられていたクロイトナーは、自分が事件を解決すると張り切って独自の捜査を進めようとする。一方、ヴァルナー首席警部は被害者の身辺調査から容疑者を絞り込もうとして、2年前の出来事が複雑に関係していることに興味を持った。事件の背景には弁護士の詐欺まがいの金銭トラブルが絡んでいたのだが、警察はその真相を知らず、捜査は混迷するばかりだった…。 デビュー作「咆哮」同様に本筋は犯人捜し、動機の解明という王道の警察ミステリーだが、肝心の警察の捜査力に難点があり、ミステリーとしてはやや物足りない。代わりに、被害者を中心にした人間ドラマの側面は複雑で面白い。また、シリーズ作品らしく登場人物の関係性が変化を見せていくのも読みどころ。特に、堅物・ヴァルナー首席警部が恋に陥るエピソードは今後の展開に興味を持たせるものである。 派手ではないが読みごたえがあり、北欧ミステリーのファンにはおススメできる。 |
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「ワニ町」シリーズの第4作。おなじみの湿地チームの3人がドタバタと難問を解決する、安定のユーモア・ミステリーである。
シンフルに潜伏し始めて三週間がたち、嫌な出会い方をしたイケメン保安官助手・カーターとも仲良くなり、初デートに臨むことになったフォーチュン。アイダ・ベル、ガーティに大騒ぎの末にデート衣装を整えられ、いざ雰囲気の良いレストランへとなったところでカーターに連絡が入り、フォーチュンの唯一の同世代仲間であるアリーの家が火事になったという。急遽、デートは中止。アリーは無事だったのだが火事の原因が放火と分かり、フォーチュンは燃え上がる。カフェの店員で人柄がよく、だれからも恨まれるはずがないアリーがなぜ狙われたのか? シンフルの平和を守る老嬢コンビのアイダ・ベル、ガーティとともに、フォーチュンは事件の解明に乗り出した。猪突猛進が信条の三人組は、カーターの警告を無視し、激しいアクションを繰り広げることになる…。 移り住んでから三週間で4つ目の事件とあって、テーマも展開もまさにマンネリそのもの。変化と言えばフォーチュンとカーターの恋物語ぐらいだが、それでも十分に楽しめる、安定のエンターテイメント作品である。アメリカではすでに20作まで刊行されたというのが、シリーズの魅力を物語っている。 どんでん返しやクリフハンガーの連続に疲れた方にオススメする。 |
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2018年から19年に雑誌掲載された4作品を集めた短編集。家族、友人、職場、地域社会など逃げ切れないことが分かっているものから衝動的に逃げ出す人々を描いた人間ドラマである。
4作品とも極悪人は出てこず、ただちょっとしたすれ違い、魔が差した瞬間にとらわれた人の愚かさと弱さがドラマを生む。じっくり読めば、人間に対する著者のまなざしの温かさが心に響いてくる良作である。 |
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「朽ちないサクラ」に続く、米崎県警・森口泉シリーズの第2弾。念願かなって警察官になった森口泉が仲間と力を合わせて警察組織と上層部の闇に挑む、熱血警察サスペンスである。
事件現場で収集した情報を分析しプロファイリングを行って刑事捜査を支援する機動分析係を志願した森口だったが、実技テストに失敗した。しかし、係長の黒瀬警部の引きで合格とされ、個性が強すぎる班のメンバーの最下位に加わった。するといきなり県警本部会計課の金庫から1億円近い現金が紛失するという事件が発生。警察内部の犯行という疑いが濃く、極秘の捜査が進められてたのだが、確たる証拠が見つからない内に重要参考人と考えていた元会計課長が死体で発見された。さらに、捜査の責任者だった黒瀬警部が不明瞭なタレコミをもとに謹慎処分をくらい、捜査から外されるという非常事態となった。黒瀬と行動を共にし、ある疑惑を追っていた森口は、事件の裏にとんでもない闇が潜んでいるのを知り、捜査を進めると命までかけなければいけないのではないかと危惧する。それでも、正義感に突き動かされる森口は信頼する仲間とともに、ひたすら事件を解明しようとする…。 現場の一捜査員が警察組織の悪を暴くという、よくあるパターンで物語の構成に新鮮さはない。さらに、場面展開や刑事の心理描写で同じような小技の表現が繰り返し登場することもあり、ストーリー全体がやや冗長。しかも、ヒロインをはじめとする正義の側が2時間ドラマみたいな薄っぺらさでリアリティがない。ただただ正義を追及するヒロインの熱量の高さが、物語を動かしているところが読みどころである。 柚月裕子の警察小説ではあるが、「虎狼の血」を期待してはいけない。検事・佐方シリーズのファンにならオススメできる。 |
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雑誌掲載された作品の文庫版。緊縛師が死体で発見された事件を題材にしたミステリーの体裁をとった観念小説である。
緊縛師の死体が発見されたアパートに残されていた品物は、刑事・富樫が心をとらえられている女性・桐田麻衣子につながるものだった。麻衣子を救いたい一心で富樫は現場を偽装するという暴挙に出る。さらに、偽の指紋まで提出して捜査の方向を麻衣子から逸らそうとしたのだが、同僚刑事・葉山に疑問を持たれ、富樫は追い詰められていく。そして、事件の裏側を探り続けた葉山がたどり着いた驚愕の真相は…。 ミステリーとしては犯人捜しの捜査もので、刑事による偽装というスパイスが効いているものの、作品におけるミステリーの重要度は高くない。作品の要点は緊縛やSMの世界で、常識を超越した個人の性癖、生き方の激しさと深さの追及にあり、官能小説、観念小説の側面が強い。 観念的ポルノグラフィのファンになら満足してもらえるだろうが、読者を選ぶ作品であることは間違いない。 |
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アメリカ占領期の混乱した東京の闇に分け入る「東京三部作」の完結編。戦後最大の謎と言われる下山事件を題材ににした戦後史ノワールである。
「小平事件」、「帝銀事件」、「下山事件」という、いまだに人々を引き付けてやまない事件をエンターテイメント性の高い犯罪小説シリーズに仕上げた作者の着想や力量は素晴らしいが、きわめて読みづらい文体なのが惜しい。その文体こそが作者の文学的技法であるだろうし、翻訳は実に懇切丁寧なのだが、それでも減点せざるを得ない。だが、事件の真相解明ができたか否かは別にしてノワール・ミステリーとしての完成度は高く、読んで損はない。 忍耐力のある読書家にオススメする。 |
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本邦初紹介のアメリカ人作家の作品。引退前の最後の仕事にする予定だった請負強盗を生業とする男が、もう一仕事を強制され、仲間とともに命がけで戦うアクション・クライム・サスペンスである。
ラスベガスのカジノホテルのアーケードに2台のバイクで突入し、超高級宝石店を襲撃したアレックスとその仲間だったが、居合わせた少年が犯行の一部を撮影した動画が世界中に広まってしまった。この仕事を最後に、身分を隠し続ける生活から引退しようと思案していたアレックスは、偶然出会った女性・ダイアンに心を惹かれる。二人がいい雰囲気になり、ダイアンの家に行ったとき現れたダイアンの息子・トムを見て、アレックスは凍り付く。トムは20数年前に亡くなったアレックスの親友・クレイの生き写し、つまりクレイの忘れ形見だったのだ。そのショックを乗り越えたアレックスとダイアンはトムも一緒に、休暇を過ごすためにメキシコのリゾートに赴き、離れて暮らすアレックスの娘・パオラや仕事仲間たちと平穏なバカンスを楽しんでいた。ところが、メキシコの麻薬カルテルが接触してきて、ある人物の誘拐を依頼される。引退を理由に断ったアレックスだったが、カルテルはトムとパオラを人質に任務を強制する。子供たちを救うために、アレックスは仲間たちと無理を承知で誘拐作戦を実行することになった……。 ドン・ウィンズロウやエルモア・レナードを思わせるケイパー小説との紹介もあるが、そこまでのレベルではない。話の展開の速さ、アクション・シーンの華やかさはなかなかで、ハリウッド映画になれば面白そう。ただ、物語のキーポイントになるアレックスとダイアンの出会いがあまりにも都合がよすぎるし、登場人物のキャラクターは立っているのだが心理描写が陳腐なため、イマイチ話に没入できないのが残念。それでも、最後のひねりは面白かった。 スピーディーなアクション小説のファン、アクション映画のファンにオススメする。 |
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ボッシュ・シリーズの第22作。さらにボッシュ&バラードものとしては第2作。それに加えて、リンカーン弁護士・ハラーも登場する豪華キャストのミステリー長編である。
新人刑事時代の恩師の葬儀に出席したボッシュは未亡人から、故人が自宅に持っていた殺人事件調書を渡された。恩師が20年以上も前の未解決事件の調書を隠し持っていたのはなぜか、その謎を解くべく、ボッシュは現役刑事であるバラードに協力を依頼する。同じころ、バラードはホームレスが火事で死亡した事件を担当し、事故死で処理しようとしたのだが、調べを進めるうちに殺人ではないかとの疑いを持つようになった。一方ボッシュは、犯行を自供した上にDNAが一致して有罪間違いなしと思われた判事殺害事件の被告弁護人となったハラーに頼まれ、被告側に有利な証拠集めを進めていた。時代も状況も背景も全く異なる三つの事件だったが、捜査が進むにつれ複雑な関係が重なり合い、絡み合っていることが分かってきた……。 それぞれに主役を務めるシリーズを持つ3人が共演するという贅沢な構成だが、裏を返せば、69歳になるボッシュ一人では厚みがあるミステリー・サスペンスにはならないということか。三つの事件は個々にストーリーが成立しているものの、小粒な感が否めないし、無理やり結び付けたような違和感がある。とはいえ、ボッシュ・シリーズとして合格レベルであることは間違いない。 シリーズはまだまだ続くようで、ボッシュ・ファンには読み逃せない作品と言える。 |
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