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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数131件
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「暗殺者グレイマン」シリーズの第一作。最初から最後まで、徹底的に戦闘シーンにこだわったアクション・エンターテイメントである。
元CIAの極秘部門に属していたジェントリーは、よく分からない理由で解雇され、さらに「目撃しだい射殺」指令を出された。CIAの追跡を逃れてジェントリーはイギリスの民間警備会社と契約し、同社の暗殺を主とする闇の仕事を受けていた。その一つとしてナイジェリアの大臣を暗殺したことから命を狙われることになった。しかも、ジェントリーの命を狙うのは超高額な賞金を提示された、12の発展途上国の特殊部隊である。たった一人で100人を超える刺客に立ち向かうジェントリーの運命は…。 アクションもので主人公が超人的なのは当たり前だが、本作はちょっと度が過ぎる。使用する武器などは現実に基づいているのだがアクション、ストーリーともにリアリティがなく、まったくサスペンスがない。さらに、ヒーローの設定も矛盾だらけ。久々に無駄な読書時間を費やした。 武器マニア、サバゲーマニアなら楽しめるかもしれない。 |
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「エリカ&パトリック事件簿」シリーズが人気のスウェーデン女性作家の新シリーズ第1作。夫にないがしろにされた挙句に裏切られた女性が立ち上がって反撃する、激情サスペンスである。
不幸な過去を故郷に置き去りにしてストックホルムに出てきたフェイは名門大学で出会った青年・ヤックと結婚し、夫が起こした事業が大成功をおさめて富も名誉も得て、豪華マンションで娘と3人で他人がうらやむ生活を送っていた。しかし、結婚生活は自分を殺してひたすら夫に服従するばかりで、心の底にはむなしさを抱え込んでいた。フェイの苦悩も知らずヤックは浮気をし、バレると開き直って離婚を言い出した。財産分与もなく追い出されたフェイは怒りに燃え、徹底的な復讐を誓った。そして三年、自分の事業で成功したフェイはヤックを破滅させるために周到な計画を立案し、実行に移すのだった…。 夫に裏切られた妻の復讐劇であり、また社会的に抑圧された女性の反撃であり、さらに都会の勝ち組の皮相的な生き方を皮肉った辛辣なコメディでもある。それにプラスされるのが大胆なセクシーシーンで、まさにハーレクイン的エンターテイメントである。 「エリカ&パトリック事件簿」のファンにはちょっと物足りない作品で、2時間完結ミステリードラマのファンにしかおススメしない。 |
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8作品を収めたSF短編集。タイトルだけで「杉村三郎」系の作品かと思って読んだら、まるで違っていた。
作品のテーマは現代性、社会性があるものなのだが、いかんせんSFには興味も親しみもないため、真価を味わうことができなかった。 SFファン以外にはおススメしない。 |
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2015年から20年にかけて「小説新潮」に連載された長編小説。偶然見つけた古文書に書かれたドイツ浪漫派の作家・音楽家であるホフマンの謎を解明する、ビブリオミステリーである。
上下二段組みで680ページ、しかも最後の60ページほどは袋とじという凝った装丁の大作で、物語も19世紀初頭の作家・音楽家であるホフマンにまつわる謎と、古文書を読み解く現代の関係者たちの謎とが重なり合って展開されるという複雑な構成。しかも、19世紀のドイツ浪漫派、ホフマンの諸作の話が半分ほどを占めているので、そうしたジャンルに知識が無いものにとってはひたすら退屈。また、現代の登場人物たちのドラマもかなりご都合主義でちょっと白ける。 ドイツ浪漫派やホフマンに興味や知識がある方以外にはオススメしない。 |
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伊坂幸太郎の10冊目の長編小説。猫が喋り、鼠が交渉する世界で起きた戦争と国家支配と住民の不思議な物語である。
妻に浮気された40歳の公務員が船で釣りに出て遭難し、気が付いたら体を縛り付けられており、しかも胸の上に乗っかった猫が「ちょっと話を聞いてくれ」と語りかけて来た。その話は、猫が住む国で起きた戦争と敗戦と占領と国民の間に伝わる伝説の兵士たちの物語だった。 現実とパラレルに出現する異世界で現実の世界を反映しためるくめくようなファンタジーが展開するという、伊坂幸太郎お得意の世界の話である。そこの部分を楽しめるか否かが、本作への評価の分岐点であり、個人的にはどっぷりと浸り込むことは出来なかった。 ファンタジックな物語で現実世界を照射するという伊坂ワールドが好きな人にはオススメする。 |
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これまでお目にかかったことが無かったニュージーランド発のミステリー。しかも、車椅子の素人探偵が未解決事件の謎を追ってアクション・シーンを展開するという珍しいことばかりの作品である。
ニュージーランド最南端の小さな町の人里離れたコテージに引っ越して来たフィン。ビジネスでは成功していたものの精神のバランスを崩し、酒に溺れた末に交通事故を起こして車椅子生活になり、すべて投げ出して移住して来たのだった。住み始めて間もなく、隣りの農場を訪れたフィンは、そこで出会った三兄弟・ゾイル家に強い違和感を覚える。さらに、フィンが住み始めたコテージの前の持ち主の女性の娘と夫が26年前に相次いで行方不明になり、しかも娘の骨の一部がゾイル家の敷地から発見されていたことを知り、事件を調べてみようとする。ゾイル家の三兄弟は取り調べを受けたものの起訴されることは無く、事件は未解決のままなのだが、フィンは三兄弟の犯行だと確信する。決定的な証拠が見つからない事件に焦燥を深めていたフィンは、今度は三兄弟から脅迫されるようになった。 ニュージーランド南端の荒涼とした風景をバックグラウンドに、不気味な登場人物、独特の文化的背景から生まれる人間関係が重苦しいドラマを展開する。さらに主人公が人生に絶望した車椅子生活者という点もどんよりした雰囲気を強めている。謎解きミステリーとしては一定のレベルに達しているのだが、周辺エピソードがあちこちに飛んでストーリー展開が遅いのが難点。珍しいニュージーランドの文化、自然、社会風俗の面白さはあるもののミステリーとしての面白さが削られる結果となっている。 謎解きミステリー、サスペンス作品のファンにオススメする。 |
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大傑作「模倣犯」から9年後、事件で主要人物だったライター・前畑滋子が再び難事件の謎を解く、真相解明ミステリーである。
事件から9年を経てライターとして再起し始めた前畑滋子のもとに、12歳の息子を交通事故で亡くした母親が訪ねて来て「息子には超能力があったのではないか。真実を知りたい」と依頼された。子を思う母の真摯さにほだされた滋子が、超能力の現れだという遺された絵を手がかりに調査を進めると、16年前に殺害され自宅の床下に埋められていたという少女殺害事件に遭遇した。娘の殺害を自供した土井崎夫妻は、なぜ娘を殺したのか、なぜそれを16年間に渡って隠し続けてきたのか? 二人の子供の死を巡り、物語は家族の愛憎、死の受容、そして再起への苦闘という壮大なテーマのドラマへ広がって行く。 事件の真相解明のプロセス、事件の背景となる状況の説得力は力強く、謎解きミステリーとして極めてハイレベルである。しかしいかんせん、事件発覚のポイントが12歳の子供の超能力(サイコメトラー)というのが、何とも残念。さらに、滋子が事件の真相を確信したのも超能力の存在を信じたからというのも、ファンタジー的で納得できなかった。それでも、最後まで引きつける物語としての魅力を失っていないのはさすがである。 「模倣犯」を読んでいてもいなくても楽しめる。超能力、サイコメトラーなどに関心がある人にはオススメだ。 |
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2018年に発表された書き下ろし長編。双子のテレポーテーションという、ちょっと微妙な裏技をメインにした勧善懲悪ミステリーである。
すぐに暴力を振るうクズの父親と自分の身を守るのに精一杯の母親の家で虐待されている双子の兄弟。兄の優我は勉強ができる論理派、弟の風我は運動が得意な直情派という性格の違いはあるが外見はそっくりで、本人たちも二人で一つと考えていたのだが、ある年の誕生日に二人が瞬間移動して入れ替わることに気が付いた。しかも、年に一回、誕生日の日に二時間おきに入れ替わるのだ。虐待される日々の苦しさを乗り越えるために、二人はこの特殊な出来事を利用することを考えた。そして青年となった時、因縁の父親と対決することになる。 親子間の虐待がメインで、さらに学校でのいじめや嗜虐的なサイコなど、暗くて陰惨なエピソードが多く、いつもの伊坂作品のようなふわっとしたストーリー展開が無い。読み通すのが辛くなる作品である。それでも、邪悪なものを許さない基本姿勢と人のトランスポーテーションというファンタジーで、最後まで飽きさせない。 積極的にオススメする要素は少ないが、伊坂幸太郎ファンなら読んで損は無いと言える。 |
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ジョー・ピケット・シリーズの第9作(邦訳は8作目)。今回は、ジョーが猟区管理官としてより法執行機関の一員として派手な追跡アクションを繰り広げるアクション小説である。
悲惨な事件で死んだはずのエイプリルからシェリダンにメールが届いた。危険の状況にいるので電話は出来ない、メールだけで連絡するというエイプリルだったが、何とか見つけ出したいと願うジョー家族が調べてみると、エイプリルの行く先々で謎めいた殺人事件が起きており、エイプリルは犯人たちと行動をともにしているのではないかと思われた。無事にエイプリルを助け出すために、ジョーはシェリダンを伴ってエイプリルを探しに出かけ、さらには逃亡中のネイトの助けを借り、犯人たちを追跡する・・・。 エイプリルと犯人たちのパートとジョーたちのパートが交互に展開されるので、犯行の動機、社会的背景の深掘りではなく、犯人を追いつめるアクションが物語の中心になっている。さらには、死んだ少女が甦ってくるというあざとい技も使ってあり、犯人たちの犯行動機も粗雑だし、猟区管理官という特殊性を生かしたエピソードも少なく、いつものシリーズ作品とはテイストが異なっている。 ジョー一家の家族関係に大きな変化が訪れるという意味では、シリーズ読者には必読。それ以上でも以下でもない。 |
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限られた相手だけから仕事を受ける美貌の私立探偵・上水流涼子を主人公にした連作短編集。ヒロインの美貌と助手の知力で、訳ありの依頼人からの難題を次々に解決して行く、エンターテイメント作品である。
5作品それぞれにテーマは異なるものの、意表をつくアイデアと行動力ですいすいと問題を解決して行く様は痛快である。ただ、ストーリー展開の面白さだけの作品で、背景や動機などに対する深みはないため、全体に印象が軽い。 旅のお供として、空港や駅、車中で読むのには最適である。 |
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日本初紹介のアメリカ人作家のデビュー短編集。O.ヘンリー短編賞を受賞した作品を含む全10作品である。
どれも非常に凝った構成で、文章を理解し、ストーリーを追いかけるだけで非常に疲れる。エンターテイメント要素はほとんどなく、現代アメリカ文学の一側面を知りたい人以外には向かない気がした。 |
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シリーズ累計250万部突破とうたう「マスカレード・シリーズ」の第3弾。一作目に続く、刑事とホテルマン(実際はホテルウーマン)のコンビが主役の犯人探しミステリーである。
匿名の通報から始まった一人暮らしの若い女性殺害事件。警視庁捜査一課の新田刑事たちが担当になったのは、捜査本部に「犯人がホテルコルテシア東京で大晦日に開かれる仮装パーティに現われる」という密告状が届いたため、第一作で潜入捜査で実績を挙げた新田たちが再びホテルに潜入することになったのだった。現在はホテル・コンシェルジュとして活躍している山岸を始めとするホテル側スタッフの協力を取り付けた捜査陣だったが、参加者全員が仮装しているなかで、どうやって犯人を見つけ出すのか、顧客のプライバシーに神経を使うホテル側とトラブルを起こしながらも、じりじりと犯人に迫って行くのだった。 女性殺害事件は連続殺人だったのではないか、犯人と密告者の関係は何なのか、仮装パーティーを舞台にしたのはなぜか、など、ミステリー作品としての本筋はいくつかあるものの、本作品ではコンシェルジュ・川岸の働きぶりがメインとなっていて、ミステリーとしての印象が薄められている。さらに、殺害動機、事件の様態や背景などが最後に関係者の告白でまとめて説明されるという、ちょっと雑なというか、興趣を削ぐ構成になっているのが残念。東野圭吾というより、一発屋ミステリー作家みたいで白ける。 シリーズ中で一番出来が悪い作品だが、謎解きよりホテルという舞台の裏側を見てみたいという人にはオススメできる。 |
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吉田修一のデビュー作「最後の息子」のその後をファンタジーのような、リアルなような浮遊する世界観で描いた連作短編集。途中に挿入されているモノクロ写真が示唆するようにカルチャー雑誌のエッセイのような心地よさと冷たさを持った物語である。
吉田修一ファンならぜひ、というほどの作品ではない。 |
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スウェーデンを代表するミステリー作家の邦訳第2弾。2014年にイギリスの北欧ミステリーを対象にした賞を受賞し、シリーズ化された「ベックストレーム警部」シリーズの第1作である。
本邦初訳の前作「許されざる者」が素晴らしかったので期待して読み始めたのだが、ものの見事に肩すかしを食らってしまった。ユーモア警察小説の金字塔・フロスト警部路線を狙ったのだろうが、警察小説としても、ユーモアミステリーとしても中途半端、虻蜂取らずというしかない。物語の基本となる殺人事件捜査がいやになるほど進展がなく、最後の真相解明もただ説明を並べただけで、それまでの捜査プロセスは一体なんだったのかというお粗末さ。さらに、肝心の主人公のキャラクター、言動の面白さもかなり的外れで古臭い。 次の邦訳もベックストレーム・シリーズになるということが、考え直して、前作のヨハンソンが主役のシリーズにした方がいいのではないか? |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第3作。野生動物殺害から始まり家畜、さらには人間にまで及んできた猟奇的殺害事件に、ジョーが合理的な思考で挑んで行くサスペンス・ミステリーである。
娘たちと釣りに出かけた山中でジョーは奇妙な状態のムースの死骸を発見する。周囲には足跡がなく、掃除屋の動物にかじられた跡がなく、しかも皮膚や性器が外科手術のように鮮やかに切断されていた。原因が分からないままの数日後、近くの牧場で十頭以上の牛が同様に死んでいるのが見つかった。更に今度は、近くの牧場のカウボーイと近隣の郡の水質検査会社社長が、同じように殺害される事件が発生し、住民はパニックに襲われた。急遽設置された対策本部に検察、保安官、FBIなどが集まったのだが、テロリスト、危険な宗教団体、政府の陰謀、変質者など様々な犯人説が唱えられ、さらにはエイリアンの仕業とまで言われ始めるのだった。必ず合理的な説明がつくはずだと信じるジョーは、捜査機関の間の壁を越え、いつも通り周辺に波風を立てながらも全力で真相解明をめざすのだった・・・。 事件の様相が超常現象っぽく、さらにジョーの長女シェリダンや鷹匠ネイトが見る夢がところどころに挿入され、全体としてオカルト風味が加えられたのが、これまでのシリーズとは異なっている。本筋となる事件の解明は論理的なのだが、どこかに人知を超える物の存在を暗示しているため謎解きミステリーとしての醍醐味が薄まっているのが残念。大自然の保護とエネルギー開発の対立、史実としての家畜惨殺事件という2つのテーマを無理につなげようとして成功しなかった印象だ。 シリーズの一作として、シリーズ愛読者にはオススメするが、単体で読むにはちょっと物足りない作品である。 |
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「パーフェクト・ブルー」に続く元警察犬・マサが主役の雑誌掲載と書き下ろしで構成された中短編集。人間の言葉を理解する犬が探偵事務所の調査に協力するという、ファンタジーっぽい人情ミステリーである。
各作品ごとにテーマが異なり、犯罪の態様や背景もいろいろで退屈させないのだが、基本的に犬が人語を解するという童話的設定なのでミステリーのサスペンスは望むべくも無い。事件の舞台や関係者もご近所さんばかりで、物語の広がりや深さが無い。 前作が気に入った人、犬や動物が大好きな人、時代物で人情ものの宮部作品が好きな人にはオススメできる。 |
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「フランスのカー」と言われる作者の代表作「ツイスト博士シリーズ」の第1作。2003年の文春ミステリーベスト10の2位、このミスの4位にランクされた本格派ミステリーである。
1940年代後半、そこに住んでいた夫人が自殺したことから「幽霊屋敷」と呼ばれていたイギリスの片田舎にあるダーンリー屋敷に、霊能者を名乗る夫婦が引っ越してきた。夫婦は、屋敷の主・ヴィクター、隣家の住人で妻を事故で亡くしたばかりのアーサーなどを巻き込んで、密室での交霊実験を行うことにしたのだが、そこで新たな死体が発見された。続発する怪奇現象、密室殺人・・・名探偵ツイスト博士は、重なり合う謎を解くことが出来るのだろうか? 1987年の作品だが、カーに対するリスペクト、本格派をめざしたというだけあって、全体的に古過ぎる。ストーリー展開はまずまずだが、トリック、謎を解く探偵の推理など、どれも退屈と言わざるを得ない。 いわゆる本格派マニアの方以外にはオススメしない。 |
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百舌シリーズの第8作にして完結編。これまでの物語の総仕上げにしてはサスペンス不足の感が否めない、やや期待はずれの作品である。
政界を引退し静かに暮らしていた大物政治家が、首筋に千枚通しを突き刺されて殺害された。かつての事件で絶滅したはずの「百舌」が復活したのか? 大杉、倉木、残間ら関係者は、それぞれの立場から事件の真相を追いかけるのだが、犯人に迫る寸前に行方をくらまされ、さらに「百舌」に関係したものたちが次々に殺害されていくのだった。 好評だったシリーズの完結編ということで、事件の背景や黒幕の陰謀などが明らかにされ緊迫したクライマックスを迎えるかと思っていたら、あっけない幕切れで、いささか期待外れ。殺害される人数は多いものの、それに見合う説得力もサスペンスも不足している。このシリーズ、「のすりの巣」で終結していた方が良かったと思う。 シリーズの最後を見届ける意味で、シリーズ愛読者にオススメする。 |
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新聞連載を単行本化した作品。平凡な家族と愛車が事件に巻き込まれ、ドタバタしながらも正義感のある結末にたどり着くという、ファンタジー・ミステリーである。
シングルマザーである母・郁子、気がいい大学生の長男・良男、反抗期の長女・まどか、沈着冷静な10歳の次男・亨という家族の愛車は緑のデミオ。免許取り立ての良男が助手席に亨を乗せてドライブ中にデミオに突然乗り込んできたのが、有名な女優・荒木翠だった。しかも、荒木翠がデミオから降りたあとでパパラッチから逃げる途中に事故死したため、一家は事件に巻き込まれてしまった。 基本的には不可解な事態が起き、悪人が横暴に振る舞い、それに対して善良な人物たちが知恵を絞って抵抗していくという、いつも通りの伊坂ワールドの作品なのだが、本作は喋る車が狂言回しとなっているのがユニーク。車が感情を持ち、車同士で会話する、そこを面白いと感じられるか否かで、本作に対する評価は全く異なって来る。 ミステリーとしてはさほど深みはなく、ファンタジー作品、青春ミステリーに親和性がある読者に向いた作品と言える。 |
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フランスの女流ミステリー作家の代表作「アダムスベルグ警視」シリーズの第2作。ミステリーの常識を無視した、ファンタジー系の警視が主役という作品である。
フランス・アルプスの山村で羊がかみ殺される事件が連続し、その噛み痕の巨大さに村人たちは超大型の狼か、あるいは狼男の仕業かと噂し合っていた。そんな中、村外れで孤独な生活を送っている変人・マサールが狼男ではないかと言っていた女牧場主・シュザンヌが殺害され、その喉には巨大な噛み痕がついていた。マサールが犯人だと信じたシュザンヌの養子・ソリマンと牧場の羊飼いの老人・ハリバンは、行方が分からなくなったマサールを追いかけようとする。シュザンヌの友だちだったカミーユは、車の運転が出来ないソリマン、ハリバンのために運転手として同行することになった・・・。 三人によるマサール追跡がメインストーリーなのだが、さらにカミーユがカナダ人の野生動物研究家・ローレンスと同棲していること、カミーユがアダムスベルグかつての恋人だったことが物語の重要な構成要素となっている。なので、本作については、主役はカミーユと言える。しかし、事件を解明するのはアダムスベルグである。で、肝心のアダムスベルグの捜査であるが、これがもう直感としか言いようがない迷推理で唖然とさせられた。伏線の張り方、事件の背景の解明、犯罪動機の掘り下げなど、ミステリーの基本が無視されており、果たしてこれはミステリーなのかと疑問だらけである。 このシリーズは、もう読まないことにした。 |
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