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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数210

全210件 101~120 6/11ページ

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No.110: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

君の望む死に方の感想

内容は石持浅海らしい作品でストーリーを追うのも、登場人物たちの会話を楽しむのもいつもどうりのことで飽きずに読める。この人の書く作品は視点の面白さだと云える様に感じる。倒叙形式のミステリとしても幾分変わった様子で描かれている。
意思は通じ会っている様に見える殺人を考えている男と殺されることを望んでいる男。この対比がまず不思議だし、そこに不穏な空気を感じてさりげなく邪魔をする碓氷優佳という存在。変わった面白いこの構図で物語りは進むわけだがさりげなく殺人の餌を撒く殺されたい男の内なる思いと、各人の会話からひとつの仮説を立てズバリと読み解く碓氷優佳の存在がこの物語の終焉がどのようになるのかと非常に興味が持たれる。結局事件は起こるのだが碓氷優佳が何をしたのかがこの物語のある意味芯の部分であり、解決としてのバックグランドはそのエピソードが用意されているので消化不良の感じはしない。著者の言葉にあるように事件が起こるまでを丹念に描いた内容なのですが、たったひとつ云えるのは言葉のキャッチボールから仮説を立てる碓氷優佳が「僕の身体にも『うだうだ言う前に相手のところに飛んでいけ』というDNAが受け継がれていましてね・・・。」と云う梶間の言葉をスルーしている点だ。この重大なセリフを何故碓氷優佳は聞き逃したのかが疑問だ。小説的ご都合主義といえばそれまでだが、この著者にそれは無いはずだと思うが。他の言葉にはすべて反応して仮説を組み立てる材料にしている彼女がこの言葉だけ無視しているのは不自然である。どうなんです石持浅海さん?それはまあともかく事件は起きているのでこの後碓氷優佳はいったいどのようにするのか、そこを考えると決して後味の良い物語とは云えない。

▼以下、ネタバレ感想
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君の望む死に方 (祥伝社文庫)
石持浅海君の望む死に方 についてのレビュー
No.109: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

鬼畜の家の感想

ホラー的な要素が感じられ、どうしても貴志祐介の「黒い家」が頭に浮かんでしまう。単なる悪女ものだったらつまらないしと思っていたが、なかなかどうしてけっこう面白かった。打算だけの女、その女が医者であった夫の死後三人の子供たちと暮らしてきたその凄まじさが関係者へのインタビューといった形で明らかになってくる。各人の視点で語られる女の異常さ。確かに上手く描かれ読ませるところはあるけれど、このままだったら良くある内容で新鮮味も何もない。そう危惧していたらこちらの予想を見事にひっくり返してくれた。しかも、周到な伏線も用意されていて後半はミステリ度がぐんと上がる内容だった。

▼以下、ネタバレ感想
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鬼畜の家 (講談社文庫)
深木章子鬼畜の家 についてのレビュー
No.108: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

十角館の殺人の感想

読んだのはずいぶん昔で、あまりにも頻繁にレビューが出るので再度読み直してみた。当時なら新本格というフレーズに頷く作品だと思う。しかし、今回読み直してみての感想はそう手放しで絶賛と云うほどでもないような気がする。構成をもっと変えたほうがあの一言の衝撃が生きると思った。最後のページであの一行があれば文字どうり口をあんぐりという状態になると思う。

▼以下、ネタバレ感想
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十角館の殺人 (講談社文庫)
綾辻行人十角館の殺人 についてのレビュー
No.107: 7人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

楽園のカンヴァスの感想

最後に意外性を用意したりとミステリのテイストを楽しめる面白い読み物といった印象でした。美術にはとりわけ知識も豊富ではなく美術館に足を運んだことも正直一度もありませんが、そんな自分にも楽しく読める内容で著者の絵画に対する
思いなどが素直に伝わってきます。はるか昔に生き生涯を終えた人のことに関してあれこれと知識として知るというのは個人的には好ましく楽しいと感じます。芸術に命を捧げた人たちが居た、そんな人生を選択し送った人たちの声が間近に聞こえるようなそんな気がしました。天才だったのか日曜画家だったのか評価が定まらないルソーを主人公にした謎解きミステリとした感じもこの本の良いところだと思います。真贋を競う二人の人物にも縁がありそれらが物語の幅を広げることになっていてそれぞれの人物描写が緊迫感を生みだすストーリーは読み応えがあります。ハッピーエンドとしたのもこの本には当然で次を読んでみたいと思いました。次は真絵を主人公にした新しい冒険の旅を読ませて欲しいと思いました。
初めて読んだ作家であり本でしたがこの本に限っては自分の好みの範囲でした。
楽園のカンヴァス (新潮文庫)
原田マハ楽園のカンヴァス についてのレビュー
No.106: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

逃げる幻の感想

人間消失と密室殺人とあるが、これで興味を惹かれ本を手にした人はまんまと騙されることになる。そんな仕掛けが隠されたストーリーである。登場人物14名でこの中から殺害される人物が2名。わりとシンプルな構成とストーリー。
だが事件の目撃者であり語り手として読者をこの物語に誘う人物には少し問題がある。それはマドンナの存在で彼はこのマドンナにひと目惚れしてしまう。このため結果として彼の眼は少し曇った状態で廻りを、事件を見るようになる。
当然読者も彼の目線になって物語を追うわけだから同様に少し目が曇る。作者の緻密な計算の上での書き方で伏線もさりげなく見せられるため中々気付かない。物語の舞台となる土地や時代背景など興味深い史実など用いながら女性らしい精細な筆致で情景や雰囲気を表わしていてとても読み易い。ことの真相には意外性は充分で二人の人物の態度やもの言いもそれはそのとうりで無理なく筋が通っていて、結果として真相に近づくヒントでもありまた逆の作用にもなっている点が興味深い。心理のアヤなどをうまく使い読者の目くらましになっているところが作者の技を感じる。本国刊行年が1945年であるが今読んでも色あせず楽しめるミステリと思う。語り手のダンバー大尉は精神科医で関係者の格好、顔つき、仕種、経歴、会話の内容などからあれこれ分析するのだがその彼に依ってミスリードされる読者という構図がこの本のすべてだといえる。こう書いたからといってこのミステリの面白さを阻害するとは思えないので興味のある方は一読をおススメ。
逃げる幻 (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイ逃げる幻 についてのレビュー
No.105: 9人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
【ネタバレかも!?】 (3件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

その女アレックスの感想

本の帯にあなたの予想はすべて裏切られる、とあるのでこれはどうしても手にとって読まなければと思った。まんまと乗せられているのだけれど後悔はしない面白さで読んで良かったと思う。
ただの誘拐監禁ものでは無く、隠された部分にストーリーの上で重大な仕掛けがあり、それが読んでいると徐々に浮かび上がって来ると云う良くあるパターンの書き方だろうとは予想が付いていた。
バイオレンス的なところは刺激が強いけれど確かに隠されていたところは予想の範囲を超えていた。これは読めない。
そして本当の悪を懲らしめるために必殺仕事人のような仕置きをするラストもこの物語の性格ではアリだと思う。ただ、余りにも現代風の国内作家の本のような訳はどうだろう。海外小説の味が殺されているので
あちらのミステリが好きで良く読むといった人には返って味気ない文章になっているのじゃないのか。
いずれにしても流れるようなストーリー展開で、捜査チームのキャラクターのユニークさとアレックスの謎がラストに向かって怒涛のように進む構成は読み応え充分だ。

その女アレックス (文春文庫)
ピエール・ルメートルその女アレックス についてのレビュー
No.104: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

戻り川心中の感想

五つの短編が収められた本書。影の主役に花を据えて書かれたミステリです。特筆なのは、その情感たっぷりの文章です。これは最近の自分の読書傾向からすると、とても新鮮でした。美しい古典文学のような話し言葉や周りの
情景を映し出す言葉の数々。悲哀に満ちた時代を写す物語。そして意外な裏側の本当の形。今読んでも色あせないむしろ新鮮な気持ちで読める五つの物語。表題作の戻り川心中がある意味怖い話でその近松の世界のような雰囲気が
崩れる有様はとても異様で驚きます。どの話も花が絡んでいますが、花の命をモチーフに人の心と心情をうまく絡めたストーリーです。こういったミステリも楽しむことはとても有意義であると思います。
戻り川心中 (光文社文庫)
連城三紀彦戻り川心中 についてのレビュー
No.103:
(8pt)

七つの会議の感想

ビジネスエリートの物語。でもミステリじゃあない。けっこうシビアな話で読後感はあまりよろしくない。各人の視点でストーリーが進み、ある秘密が明らかになってくるが最後は水戸黄門とか大岡越前とかの感じで終息する。これって
著者は少しの必要悪も世の中には有るべきではない、そう云いたいのかなと感じてしまう。多少世間の荒波にもまれた身としては世の中「だったら良いのにね。」と思ってしまう。清廉潔白な成功者ってそうはいないだろう。程度の差こそあれ
ダークサイドに足を踏み入れなければ企業のトップには上り詰めないだろうと思うがどうだろう。激烈な競争社会で勝ち残るのは何かを犠牲にしなければ出来ないはずだ。悪魔に魂を売るのも選択肢の一つだと思う。今、現実社会でも
ある会社の問題が話題になっている。文字どうり会社の存亡に係わる問題だ。なぜこうなったのか、誰の責任なのか。ノホホンとサラリーマンは気楽な稼業と考えている学生がいたらこの本で目が覚めるだろう。説得力のある物語を読ませてくれる
作家だ。
七つの会議 (集英社文庫)
池井戸潤七つの会議 についてのレビュー
No.102: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

七つの海を照らす星の感想

先に「アルバトロスは羽ばたかない」を読んでいた。そのためパターンが解かっていたのだけれど、それでもなお楽しめたのは筆者の力量が並ではない証拠だと思う。児童擁護施設「七海学園」を舞台にした連作ミステリの
形になっていて、それぞれのエピソードで謎の解決は付くのだけれど、最後の章でこれまでの話がすべて繋がり大きな謎が隠されていたことに読者は気付く、そんな仕掛けのあるストーリーとなっている。パターンが解かっていたと
書いたのはこのことです。コージーミステリ+社会派といった格好だけれど、その舞台に選んだ養護施設の子供たちの生活と抱える問題をサラリと見せるので、読んでいて心が重くなることも無くしかし考えさせることになるので、この辺は
作者のアプローチの仕方の上手さだと感じる。登場人物もみんな生き生きと描かれ、読んでいてその様子の画が自然に頭の中に映し出された。文章を読んで頭の中に情景が映し出されるのはその文章とこちらの感情というか気分がその文章と
シンクロしているからだと思う。これは面白いなと感じながら読んでいる時に多くあることなのでこの本も自分にとって面白い本と云える。ミステリをかたどる謎は他愛も無いといえばそうかも知れない、だが登場人物にそれぞれの役割が
キチンと与えられており、まず読み物として面白いそんな感想を持てる内容です。ななかわかなん、何の意味を隠したペンネームなのか少し気になる。
七つの海を照らす星 (創元推理文庫)
七河迦南七つの海を照らす星 についてのレビュー
No.101: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

二重螺旋の誘拐の感想

この本のキーワードは、過去のトラウマ、新薬開発、名前、親子の確執、誘拐犯、そんなところ。云ってみれば、あの本とこの本を上手くミックスさせたような内容だ。具体的な本のタイトルを書くとそれでネタバレに繋がる
ので書けないけれど、要するに斬新なアイデアのもとに書かれた誘拐ミステリではないけれど、とてもミスリードが上手くドンデン返しが効いているストーリーだということ。実際に地の文ではキチンと正直に書かれているのだが、読んでいる
コチラはまったく気付かなくてすっかり騙されてしまった。まぁ。その辺のテクニックは中々のものと評価できる。文章も読みやすく人物の書き分けもしっかりしているのでスラスラ読める。ただ、伏線は周到に張ってあり読後にその辺の
上手さに感心するのも事実。良く出来たミステリと評価できる。その意味ではもう少し話題に上っても良い作品ではないかと思った。この著者のファン以外に読まれないとしたらもったいない作品だと思う。
二重螺旋の誘拐
喜多喜久二重螺旋の誘拐 についてのレビュー
No.100: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ぼっけえ、きょうてえの感想

ホラー大賞受賞作だけれどありきたりのホラーの内容ではなく、ミステリの味付けもした内容でとても面白かった。語り口の岡山弁の表現も効果的で雰囲気にピッタリ合い子供のころ大人から聞かされた昔話のような感じがした。
怖いのは物の怪でも怪異でもなく人の心と貧しい社会だという、そのリアリティが断然読む物に迫ってくる。応募作の「ぼっけえ、きょうてえ」の他に書き下ろしの三編が収められているがこの三編もすごい内容で、この人の筆力に
圧倒される。すべての物語が読み応えがありなんともいえない読後感を持つ。京極夏彦とはまた違う世界の話しだけれどこういった物語は好きだ。単にホラー小説と思って手に取らない人にはおススメしたい。人それぞれ違うだけれど
ある種の感銘は受ける物語と思う。
ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)
岩井志麻子ぼっけえ、きょうてえ についてのレビュー
No.99:
(8pt)

貴族探偵の感想

筒井康隆に「富豪刑事」があるので「貴族探偵」とくれば二番煎じの感は免れないと思うけれど、設定はともかく五編すべてが麻耶雄嵩らしいトリッキーなスタイルの物語で読み応えがある。相変わらずミステリにおける約束事
とかタブーなどを逆手にとったような一癖も二癖もある内容で、たったひとつの事柄が完璧とおもわれた形を破壊する様など上手いなあと感心する。そう、ファン心理が行う行為が致命傷になる「こうもり」などね。
この人の短編はあまり読んだことがないけれど、この本に収められている五編はみんなレベルの高い作品でロジックで解決を図るという遊びがとても楽しい。「ウィーンの森の物語」など単純な話だけれど実はロジックだけで
この絡まった紐を解いていくのはかなりの高等テクニックだと思う。限定された人数を白か黒かロジックで証明する執事がすごい。文章も摩耶雄嵩ってこんな書き方をするんだったかと感じたほど物語を読ませる部分は読み易い。
ミステリらしいミステリが収められたこの本はミステリファンなら読まないことがミステリだ。

貴族探偵 (集英社文庫)
麻耶雄嵩貴族探偵 についてのレビュー
No.98:
(8pt)

死者の裏切りの感想

ジャンルでいえば倒叙ミステリになる内容で、犯行を隠そうと必死に策略を巡らす妻と愛人二人の様子が描かれている。しかし、最後には明らかになってしまうというお決まりのパターンだけれど、その過程がどれほど読み応えがあるかが
この形式の勝負どころだ。結論からいうとかなり良く出来ている。二転三転する調べる側と隠そうとする側の攻防がとても上手く書かれている。単なる失踪の状況であれば警察は介入してこないので世間の目は誤魔化せると考えていた
妻と愛人だったが、継母と義兄が雇った探偵が色々と調べ始めて不審の目を妻に向ける。この探偵を遠ざけるために苦肉の策で警察が公開している身元不明者の情報を探り死んだ夫に会う死体を探し出して失踪した夫だとすることにした。
しかし、しつこい探偵のせいで事態は悪くなる一方。その他にも妻にとっては思いがけないことが次々と明らかになって追いつめられていく。最後の裏切りにもちょっと驚かされるが伏線はちゃんとあった。迷走する妻と愛人だが二人の駆け引きが
このミステリの醍醐味で倒叙ものは最近あまり見ないのでけっこう楽しめて読んだ。事態があれこれ動く要素も考えられていて探偵の個性も強くできばえは中々と思う。
死者の裏切り
桂修司死者の裏切り についてのレビュー
No.97: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

沼地の記憶の感想

クックとくれば「緋色の記憶」なんだろうけれど、この「沼地の記憶」も似たようなスタイルの物語だった。年老いた元教師が過去を回想するという手法で物語が始まる。何かで読んだけれどクックという人は展開の激しいスピーディな物語のミステリは自分では好きでないので、このような時間をゆっくり辿っていくようなものを書いているといっていた。これもフラッシュバックのように過去の出来事を回想し徐々に全体像を見せていくというスタイルである。ときおり現在の生活の
様子が描写されているが、それが伏線とはまったく油断も隙もない。ただ、誰もが予想する展開を裏切りそっち?と面食らわせてドキドキさせておいて肩透かしの末に何となく想像した結果をひっくり返したりとミステリのツボを得た
ストーリーの上手さは今回も楽しめる。品の有る上質な文章も健在でバタバタした展開のミステリに疲れたらこの人の本がおススメです。
沼地の記憶 (文春文庫)
トマス・H・クック沼地の記憶 についてのレビュー
No.96:
(7pt)

一千兆円の身代金の感想

現実的なテーマを扱った誘拐事件のお話。リアルな問題に絡めて起きる誘拐事件を追う警視庁特殊班の刑事や各人の視点で進む展開だけれど、そのリアルな内容に囚われすぎて人物が少し掘り下げ方が弱いと云うか通り一遍の
描写に感じられて共感度は低い。圧倒的なボリュームで今の日本の現実を書き表しているが、こういったテーマのものには必ず参考資料が偏っているとか、一面しか見ずに取り上げているとかの批判が出てくるが
それは違うと思う。その問題だけを論じるのならともかくフィクションの物語のバックボーンであり人物を動かす材料なわけで、有る程度の部分を取り上げて背景として書いているだけだからそう神経質になる必要はないと思う。
個人的に興味があるのは、今は選挙権のない十代の人がこれを読んだらどの様な感想を持つだろうかと云う事。肝心のミステリとしての部分はそう謎解きもサスペンスも感じられず経済小説のような雰囲気だけれど警察内部の
動きや捜査のあり方はキッチリ書き込まれていて読ませる。ラストにどれだけの共感を得られるかが少し心配。女刑事も初めだけであまり目立たずに脇役どまりの感じで、どうもこういった点からも登場人物の配置とか動かし方が
中途半端に感じる。経済問題の資料にエネルギーを使い過ぎたのかな。個人的におススメは三好徹の「コンピューターの身代金」「モナ・リザの身代金」「オリンピックの身代金」と本田靖春「誘拐」天藤 真「大誘拐」ってところです。
一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
八木圭一一千兆円の身代金 についてのレビュー
No.95: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

黒龍荘の惨劇の感想

金田一の世界のような本格的ミステリです。舞台は明治の時代です。北村 薫の「鷺と雪」も昭和初期の時代のお話でしたが、あれは単に物語の舞台として背景としての設定でした。これは明治時代という設定自体が内容の根幹に係わってくる
お話です。理由は、そうです現代では昔懐かしい本格ミステリは書き様がないからです。今の世の中では余りにも制約が多すぎます。交通が遮断した山荘で起きる連続殺人。警察の介入はなく助けを呼べない孤立した状況。このシチュエーション
だけでもサスペンスが盛り上がります。しかし、ケータイやパソコンで情報が直ぐにも外部に流れます。ミステリは成立しません。ならば時代を遡るしかありません。伊藤博文公の書生だった二人が探偵とワトソン役になって連続殺人の謎に
迫る物語です。政界をうまく泳ぎまわり利権を手にしていた男に脅迫状が届き、やがて屋敷内で首を切断された死体で発見されます。捜査に乗り出した二人ですが、次々と殺人が続きます。広大な屋敷にいる妾四人と座敷牢に閉じ込められている男。シチュエーションはこれ以上ないミステリ色満載です。死体を発見し隣の部屋に全員を集めて探偵が警官を呼びに行く。ワトソン役が全員を見守っているとやがて警官が来る。隣の部屋の死体を確認しに行くと首が切断されていた。いつの間に・・・。何故? 最後に六人の犠牲者がでても探偵はこれまでの出来事に16の謎が有るといいます。確かに不可解な謎が16もありますがこれをどう説明するのか最後のページまで興味は付きません。前作は読んでいませんが探偵とワトソン役のこの二人の様子や雰囲気も懐かしいミステリの世界で、続編を用意しているのでしたらこのままこの世界感で書き続けて欲しいものです。これはこれで成功と感じる内容でした。

黒龍荘の惨劇 (光文社文庫)
岡田秀文黒龍荘の惨劇 についてのレビュー
No.94:
(8pt)

七人の敵がいるの感想

始めにお断りしておきますがこれはミステリではありません。よってここで読後のレビューを書くのはサイトの趣旨からは逸脱していますが大変面白い本でありますので敢えて書きます。「ささらさや」を読んで
この作家の作品に惹かれたのでこの本も手にしました。超リアルな題材を扱っているのですがこれが痛快で楽しく笑いありホロリとさせたりとエンターティメントとして上々の作品です。編集者としてバリバリ働く女性が
主人公で担当の作家からブルドーザーとあだ名されるほどですが、その生き方にはある種爽快感があります。のほほんと苦労知らずに生きている人がいたらこの本を読むように意見したい気分です。缶コーヒーのCMじゃないですが、
世界は誰かの仕事で出来ている。そう、そのとうりです。お笑い芸人の言葉にあるように小さなことからコツコツとです。リアルな話ですが真正面から取り組んでいます。専業主婦もフルタイムで働く主婦も子供がいれば避けられない
問題です。七つのお話で構成されていますが男は一歩家から外に出ると七人の敵がいる、という有名な言葉に引っ掛けて主人公の山田陽子が遭遇する、あるいは自ら招くトラブルを真摯にそして面白おかしく描いています。群れない、井戸端会議に夢中の女たちを軽蔑する、そんな真っ直ぐで独自のポリシーを持った陽子ですが簡単に敵を作ります。ケンカ上等の精神ですが陽子も云っているように多くの無駄話のなかにたった一つ重要な情報が入っている。それを逃しているのは自らの生き方の所為とはいえやはり悔やまれるとそんなプチ教訓などもあります。女性の住む世界は男社会とは別に厳しいものですがその処世術なども学べるような気がします。視点を変えればサラリーマンの立身出世物語にも通じるような爽快感があります。群れないといっていた陽子ですが最後には知り合った愉快な人たちとしっかりネットワークを作っているところも笑いを誘います。ラスト七人目の敵から言われます七人の敵がいる・・・その後の言葉を知っている?されど八人の
仲間がいる。ラスボスとの気持ちの良い会話で七つ目のお話が幕を閉じますが、この作者のますますのファンになった自分を自覚しました。おススメです。(特にこれから結婚する若い女性に、子育てとは何か?それをこの本で学んで下さい)。
七人の敵がいる (集英社文庫)
加納朋子七人の敵がいる についてのレビュー
No.93: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

人格転移の殺人の感想

ややこしいことこの上ない。次々と人格が移るので誰が誰だか把握するのに大変だ。芯のネタと云うかトリックは単純だが舞台装置がとにかく派手だ。こんなネタ良く思いついたと思ったが後記でその辺のところを書かれている。だろうね、まるでゼロからこんな発想早々できるものじゃない。しかし、上手く世界を作っているのがステキだ。ラストのオチも良いので読後感は上々だ。良く考えれば最初に犯人が薄々読めるところだけれど、目くらましが巧みなせいで意識がそこから
離れてしまう。この辺は筆者の腕の確かさが現れている。展開がテンポ良く書かれているのもその辺のテクニック。先へ先へと読者の目を向けさせるようにして真犯人へ辿り着かせないようにしている訳だ。こういうSFチックな舞台設定のものは
あまり好きじゃないけれどこれは楽しめた。西澤マジックの所以だろう。森 博嗣の解説も脱力ぎみで楽しめる。二人に交友があるようだけれどこんな解説ありか?
人格転移の殺人 (講談社文庫)
西澤保彦人格転移の殺人 についてのレビュー
No.92: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

白ゆき姫殺人事件の感想

格好はちゃんとしたミステリではあるが、かなり冒険的なレイアウトで書かれている。この作品に合った手法なのでこの場合は良いと思うが、このスタイルはこれだけにして欲しい。人が人を評価するのはその人の主観でしかない。
だから色々な人物像が語られる。しかし、その人の本質を的確に表現することは非常に難しい。そしてしょせん他人事という無責任さがオーバーな表現になったり、見当違いな見方になったりする。肉親であってもこの点は避けられない。
マスコミに追いつめられる一人の女性。ネット社会の弊害こそが問題であると作者は思っているのかな。すぐ実名を晒す無責任な掲示板好きの輩。この物語の中に出てくる人間はみんな歪だ。ルポライターという職業の人間でさえ
許しがたい軽薄さで動く。救いの無い物語であるが主人公のモノローグがこの本のすべて。身も心もキレイな美人女性はこの世にはいない、独身男性はこの教訓を忘れずに。
白ゆき姫殺人事件
湊かなえ白ゆき姫殺人事件 についてのレビュー
No.91: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人の感想

読み終わって一息後「お疲れ」と作者に云いたい。その執念には敬意を表するしかない。これこそがバカミスだと思った。でもなぁ三崎はともかく連続密室殺人て・・・ウソつけ。妙な記述が多いなと思っていたら・・・。
泡坂妻夫の「喜劇悲喜劇」を思い出した。知ってる?★きげきひきげき★上から読んでもきげきひきげき、下から読んでもきげきひきげき。これも労作だと思うけれど、この三崎~も凝りに凝った労作だと思う。
ま、空前絶後の一冊としてその存在価値を保ち続ける作品でしょう。二度読む気はしないけれど・・・。
三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)