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テラ・アルタの憎悪



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【この小説が収録されている参考書籍】
テラ・アルタの憎悪 (ハヤカワ・ミステリ)

テラ・アルタの憎悪の評価: 4.63/5点 レビュー 8件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.62pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全8件 1~8 1/1ページ
No.8:
(4pt)

スペイン近現代史を背景としたミステリーだが、警察小説としては疑問が残る

原題は「テラ・アルタ」。これはバルセロナのあるカタルーニャ州最南西の僻地とのこと。
カタルーニャ州といえば、数年前にスペインからの独立投票をめぐって大きなニュースとなったが、本書でも警察内に「独立派」と「スペイン主義者」がいたり、当時のプチデモン州首相が登場したりして、ホットな話題となっている。
また、この地は20世紀前半にはスペイン内戦の舞台ともなり、共和派とフランコ派の血で血を洗う戦争の記憶が語り継がれている。
実は、こうしたスペイン近現代史がミステリーの重要な背景となっている。

このテラ・アルタの支配的実業家夫婦の惨殺事件がミステリーを紡ぐ縦糸なのだが、犯人も惨殺の動機も最後に明らかにされるまで推理の手がかりが見えない。ミステリーの企みといえば巧みではあるが、やや不親切か。
他方、実業家夫婦惨殺事件と並行して、主人公の刑事の物語が語られるが、著者はここでヴィクトル・ユゴーのあの『レ・ミゼラブル』を重要なライトモチーフとして用いている。
主人公はジャンバルジャンのような生い立ちながら、敵役のジャベール警部に心酔して刑事を目指すという意表を突く設定だが、これは正義を徹底的に貫こうとして挫折する若者を通じて、正義とは何かを問題にする意図であろう。実際、最後に主人公はジャベール崇拝を捨てる。

警察小説としては、捜査会議などのディテールが丁寧に描かれているのが素晴らしいが、他方で、重大事件とはいえ現職の刑事が法を犯した捜査に踏み込んでしまい、それが露見しても注意程度で黙認されてしまうのは、やはり疑問である。上司の言葉どおり正義にはその形式、すなわち手続的正義も不可欠であり、違法捜査で得られた証拠は裁判で証拠能力が否定されるからだ。
適正手続の枠内で刑事たちが苦労しながら証拠を積み上げていくのが警察小説の醍醐味ではなかろうか。

なお、主人公の母親殺害事件の犯人と、主人公を少年時代から庇護し続ける刑事弁護士の正体は謎のままだが、本書は3部作の第1作ということであり、今後明らかにされるのだろう。
『レ・ミゼラブル』のような19世紀的大ロマンの復権を期待したい。
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No.7:
(4pt)

読んでみな、スペインミステリー

スペインのミステリーを読むのは、はじめてだ。最近、ヨーロッパのミステリーがおもしろいと感じる。物語は、重層的で背景となる社会や人間関係も深い。
 さて、この作品だが。主人公の母が娼婦で何者かに殺されたことは、マイクル コナリーのハリー ボッシュシリーズと似ている。このことが彼を警官にさせ、捜査のモチーフとなっていることも似ている。
 しかし、物語に通奏低音として、「レ・ミゼラブル」のテーマが流れていることがおもしろい。これ以上書くとネタバレになりそうなのでやめておく。
 読んでみな、スペインミステリー!
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No.6:
(5pt)

映画化されるべき作品

善とは何か、悪とは何か、ビジュアルにして
完成するのでは。
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No.5:
(5pt)

翻訳が素晴らしい

白川貴子氏の翻訳が見事。 主人公メルチョールは娼婦の子で前科者の刑事という設定。しかも刑務所時代からの愛読書がユーゴーの『レ・ミゼラブル』で、心酔するのが作中主人公のジャン・バルジャンではなく敵役のジャベール警部。余談ながら、自分は本作を読みながらマイクル・コナリーの『ハリー・ボッシュ・シリーズ』と2019年のドイツ映画『コリーニ事件』を思い出した。これ以上言うとネタバレになるので割愛。訳者の白河氏は英語・スペイン語・ポルトガル語を操る才媛。スペイン語の原書を流れるように訳してくれている。脱帽。
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No.4:
(4pt)

安心して読める。

今風の造りではなく、ちょっと前の、小説がまだ信じられていた時代の造りだから、安心して身を任せて読める。が、今を期待して読む人にはちょっと物足りないかも。
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No.3:
(5pt)

正義は善だ。しかし極端な善は、悪に転じてしまう。

かつて麻薬組織の一員として起訴されて服役する少年は刑務所内で読書の喜びと出会うことで、勉学に励みついに正義を執行する側の警察官となる。服役中に母親を殺した犯人捜しを単独でしながらも大手柄を立てて警察のヒーローとなるが、復讐を警戒する幹部たちは異動を命じて、大都会バルセロナからカタルーニャの田舎に赴任する、というところからめまぐるしく物語は進み出す。

地元の大富豪が惨殺されて捜査に邁進するが謎は深まり、迷宮に入りこんでしまう。そこを突破するために見落としや罠を見つけられるか?

というおおまかなストーリーだけを書く。壮大なスペイン内戦時代からの歴史、幸福な読書、家族を持った喜び、見返りを求めない援助を寄せてくれるひとたちなどたんなるミステリーを超えた「スペイン(カタルーニャ)版大河冒険小説」として高い完成度を誇る。

ぜひぜひ続編2つも翻訳、刊行を強く希望する。
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No.2:
(5pt)

(2024-15冊目)「小説の半分は著者が書いているが、残りの半分は読み手が埋めるんだ」

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 スペイン・カタルーニャ州の田舎町テラ・アルタの刑事メルチョール・マリンは、15歳年上の妻オルガと幼い娘コゼットの3人で暮らしている。ある日、地元の名士として知られる印刷会社経営者で80歳を超えるアデル氏が妻とともに自宅で惨殺される。住人が互いに顔見知りだという小さな町で起こった凶悪事件に、人々は震撼するが、捜査は進展せず、迷宮入りするかに見えた。しかしメルチョールは、捜査打ち切りの指示を無視して、独り密かに捜査を続行するのだが……。
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 スペイン内戦を描いた『 サラミスの兵士たち 』(河出書房新社)で知られるハビエル・セルカスが、警察小説を物していたとは知りませんでした。しかもスペイン本国ではベストセラーとなり、3部作として書かれたのだとか。今月(2024年1月)、早川書房から邦訳が出たと聞き、早速手にしました。

 物語は2つの時間軸で進みます。
 ひとつは、娼婦の子ととして生まれ、成長途上で道を踏み外した少年メルチョールが、ある事件をきっかけに更生の道を歩み、刑事となってテラ・アルタへ赴任するまでを描く回想軸。もうひとつは、アデル夫妻惨殺事件の捜査をたどる時間軸です。

 まず回想軸がなんといっても魅力的です。特異な出自と恵まれない暮らしの中で荒んでしまった少年が、文学を介して自らを見つめ直し、人生を立て直していくのです。
「小説の半分は著者が書いているが、残りの半分は読み手が埋めるんだ」(61頁)
 そう言われて文学にのめり込むメルチョールは、娘に『レ・ミゼラブル』の少女の名をつけ、ジャン・バルジャンではなく、ジャベール警部に共感していくというのですから、興味深いことです。そしてこの『テラ・アルタ』でメルチョールは、正義の追及のためには自分にも他者にも妥協しないジャベール的な捜査官として描かれるのです。
 物語のこのように展開するのを目にして、すぐれた教養小説(ビルドゥングスロマーン)を読む思いがしました。

 もうひとつの時間軸である、殺人事件の捜査について、私は読み始めてしばらくした段階で、この事件の背景にある史実についてはおおよその予想がつきました。そして事実、最後に明かされる真相は、私の推測を大きく裏切ることはありません。ただ、だからといってこの物語が、ミステリーとしては劣っていると言うつもりは私には毫もありません。むしろ、低俗な私怨や利己的な計略によって起こった殺人事件ではなく、関係者の多くが皆、スペイン史の大きなうねりに抵抗し難く巻き込まれてしまった犠牲者であるという強い思いが残りました。遠い過去の出来事が、今も人々の心を苛み続けることの哀しさを読者に突きつける物語だと感じます。

 そのほか、「生クリームをつめたロスコン」だの、ミルクココアの「カカオラット」だのといった食文化や、主人公メルチョールが東方三賢王のひとりメルキオールに由来することなど、スペイン好きの私にとっては彼(か)の国の匂いを伝えてくれるくだりの数々に胸踊りました。

 翻訳を担当した白川貴子氏の訳文は抜群です。白川氏はこれまでも、ドロレス・レドンド『 バサジャウンの影 』(ハヤカワ・ミステリ)、イバン・レピラ『 深い穴に落ちてしまった 』(東京創元社)、マルク・パストル『 悪女 』(創元推理文庫)といったスペインの小説を見事な日本語に移し替えてきてくれました。
 テラ・アルタ三部作の残りの2作も白川氏による安心の翻訳でいずれ読むことができるものと信じています。

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 この小説に関連して以下の書を紹介しておきます。
◆ネレ・ノイハウス『 深い疵 』(東京創元社)
:ドイツでベストセラーとなった警察小説です。殺人事件の被害者は92歳にもなる地元では高名な男性。そしてさらに第2、第3の殺人が発生し、いずれも被害者は高齢のドイツ人という共通点が浮かび上がる。果たして、犯人は誰で、どんな意図から高齢者を狙い続けるのか……。
 このドイツの小説が、スペインの『テラ・アルタの憎悪』に重なって見えて仕方ありませんでした。

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4150019991
No.1:
(5pt)

メルチョールへ。私は常に教会の扉は開いていると誰かから教わりました

スペイン産の警察小説として読み始めました。途中の展開は、(浅はかながら)ジェイムズ・エルロイのスペイン・ヴァージョンなのかと思いながら、しかし読み終えてみると想起していた以上に文学的な膨らみを受け取ることができました。背景は「レ・ミゼラブル」の持つ十九世紀文学の香気に覆い尽くされています。
 舞台は、カタルーニャ州、テラ・アルタ。人を寄せつけない鄙びた場所で凄惨な事件が発生します。町一番の富豪、「アデル美術印刷」の社長夫妻が拷問の末虐殺されます。果たして強盗による犯行なのか?しかしながら拷問されていたという事実が強盗による犯行とは矛盾するように思えます。
 捜査にあたるのは主人公、テラ・アルタ署の刑事、メルチョール・マリン。彼は過去に(娼婦だった)母親を殺害された刑事としてのキャラクターを背負って、相棒のサロームと共に事件の真相解明に向けた追跡を続けます。
 ストーリーの前半は静かに展開し、途中、メルチョールのこれまでの過去が語られ、その<過去>には一癖も二癖もあるスペインの現実と歴史がうねりながら存在するわけですが、ここでそれを語ることはできません。また、その<過去>の中に「レ・ミゼラブル」との出会いがあって、この事件の解明と同時に母親を殺した犯人を捕まえるという命題を抱えながらテラ・アルタへと辿り着いた彼のサブ・ストーリーが語られていきます。
 その複雑なキャラクターを与えられたメルチョールの存在が<正義>と<悪>という二元論を超えてジャン・バルジャンとジャベールをそれぞれなぞらえるようにして考察されていきます。スリラーという枠を超えてそのことがこの物語をとても読み応えのあるものに変貌させ、「正義とは何か?」というテーマと共に己がアイデンティティを発見しようとするメルチョールの姿に何故か心を動かされる自分がいることに気づくことになるでしょう。
 魅力的な登場人物たちが登場します。図書館司書でやがてメルチョールの妻になるオルガ。(私もまたオルガと共に夜っぴて「レ・ミゼラブル」を、「ブリキの太鼓」を語りたい(笑)。)メルチョールを愛情を込めてバックアップする弁護士のビバレス。彼らはエルロイ的で、あまりに複雑なメルチョールを理解しようと常に胸襟を開き、揺らぐことがありません。それは、酷薄で先行きの見えないこの世界の中にあっても<愛>と呼べるものなのではないでしょうか?(私にはよくわかりませんが(笑))
 ストーリーの後半については、スリラーである限りやはり語ることができません。お読みください。
 2022/11月に見たスペイン映画「パラレル・マザーズ」(監督:ペドロ・アルモドバル)。娘を取り違えられた二人の女性の物語がやがて「スペイン内戦」というテーマへと反転するダイナミズムが、例えテーマは違えども、この「テラ・アルタの憎悪」の後半に存在しています。ヨーロッパを理解し、ラテンに傅きながら、スペインに触れ、カタルーニャを語ろうとする時の複雑性が主人公メルチョールに憑依しています。
 メルチョールへ。私は常に教会の扉は開いていると誰かから教わりました。
 □「テラ・アルタの憎悪」(ハビエル・セルカス 早川書房) 2024/1/16。
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