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地下鉄道
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地下鉄道の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.81pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全24件 1~20 1/2ページ
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本屋で手に取って最初に読んだ本が「ハーレム・シャッフル」でした。遅ればせながら「地下鉄道」をAmazonで購入し読んで奴隷制度の長い歴史を再度考えさせられました。アメリカはイギリスより奴隷制度の撤廃が遅く、黒人は市民権を勝ち取るために大変でした。優生保護法のように黒人や障碍者が増えないようにした事やアンネのように逃げて屋根裏に身を隠した事など、もしかしたら人間は残虐性を持って歴史を繰り返しているのかも知れません。 | ||||
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ジョージアのランドル農場に生まれ育った黒人奴隷の女の子コーラが本作の主人公だ。畑区画への粗野な大人の侵略行為に手斧で反撃する反面、鞭打ちされた男の子を咄嗟に庇う優しい気性の持ち主だ。母親のメイベルは、幼いコーラを置いて農園から姿を消したままで、唯一逃亡に成功したと信じられている。 伝説の逃亡犯の娘ゆえに、逃亡黒人奴隷を捜索し連れ戻す生業のリッジウェイら奴隷狩り人に憎まれたコーラは、リッジウェイの猟犬並みの執拗な追跡に追い詰められ、殺人指名手配犯として文字どおり首根っこを押さえ込まれ、足枷に首輪まで嵌められる。 「地下鉄道」の乗客として遁走し、「次の旅の手筈が整うまでの」仮の新天地(サウス・カロライナ)で「自由」の幻影に長居してしまう様子に、大丈夫かいなこの子と心配したら案の定、追っ手が殺到する。 ノース・カロライナではウェルズ夫妻宅の蒸し暑い屋根裏部屋に潜伏するも、小間使いの密告を機に黒人の検挙と私刑(リンチ)を繰り返す騎士姿の警邏団員に嗅ぎ付けられ、またも奴隷狩り人リッジウェイの手に落ちる。脱走仲間(ラヴィーやシーザー)や逃走協力者(サム、マーティンとエセルのウェルズ夫妻)に益々犠牲者が増えてゆく。 銃を所持した黒人三人組(ロイヤル、レッド、ジャスティン)に危機一髪を救出され、インディアナのヴァレンタイン農場に身を隠したコーラだったが、農場集会日を狙った奴隷狩り人の急襲に遭い哀れロイヤルらが射殺され、秘密の幽霊トンネルまでリッジウェイに引き廻されたコーラに絶体絶命、年貢の納め時の瞬間が訪れる…。 女性略称ハティの検索を通じて秘密結社「地下鉄道」の「車掌」(先導者)として活躍した元逃亡黒人奴隷のハリエット・タブマンの事績を知り、黒人奴隷の逃亡を手助けする秘密組織が南北戦争前に存在した史実に驚かされたのは、十数年も前のことだ。 かつて「ルーツ」「アミスタッド」「アメイジング・グレイス」などの映画やTVドラマを観て、肌の色や言葉の違いを超えて自らの良心や信念に基づき、虐げられた人々に救いの手を差し伸べる登場人物たちに、感銘と尊敬の念を覚えた。 黒人への偏見と差別が渦巻く時代でも、人間性に重きを置く白人が存在したのは間違いない。有名な賛美歌「アメイジング・グレイス」を作詞したジョン・ニュートン牧師が、己の奴隷商人だった前半生を悔い改めた事例もある。本作では積極性に強弱はあるものの、コーラを匿い守ったサムやマーティンとエセルのウェルズ夫妻が義侠の白人に当たる。 独立戦争に勝って自由・平等・博愛の建国理念を高らかに謳い上げた「アメリカ独立宣言」に幾度か本作も触れる。「アメリカ合衆国」の礎となった白人移民たちの価値観がどうであれ、新国家の現実(有り様)は理念(理想)に遠く及ばなかった。 先住民たち(ネイティブ・アメリカン)や無理やり連れて来られた黒人たち(奴隷)の「自由」「平等」「博愛」は、一顧だにされなかった。それが現実なのだ。「良き隣人」には「助けを求める人々」も含まれるとのイエスの教えを聖書は伝えるが、都合のいい白人の解釈では、白人仲間と家族に止まったようだ。「袖振り合うも他生の縁」との謂いは、東洋だけのものなのか。 綿花摘みに大規模な農業労働力を必要とした新国家アメリカがアフリカで拉致した黒人奴隷を酷使するイギリス方式の悪弊を真似たために、その数を増やす黒人への白人の潜在的な恐怖感を生み、却って不寛容な人種差別の禍根を育んだ、と作者は指摘する。 南北戦争の最中にリンカーン大統領が黒人徴兵に資する「奴隷解放宣言」を発布した後も、黒人差別は厳然と生き延びる。第二次世界大戦の戦勝国アメリカは世界のリーダーだと称揚されたが、M.L.キング牧師らの公民権運動が根強い人種差別の撤廃を目指したように、民主主義の基盤の後れが露呈する。 まさに本作は、地下に機関車を走らせるファンタジー要素を加味しつつ、黒人奴隷制度というアメリカの[負の遺産]をスリリングな逃亡活劇に仕立て上げた一級のサスペンス小説であり、かつまた、自由・平等・博愛を謳った国の「暗黒史」を復習させる、黒人作家が手掛けた一種の復讐劇に外ならないのだ。 自由への渇望と飽くなき闘魂により虐げられた身分からの脱却を試みた黒人奴隷たちの、逆境、非情、暴力、非道、理不尽さ(それらを是とする白人一般)に対する復讐の雄叫びとして記憶される作品である。 | ||||
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町山智浩氏が本作品を原作とするドラマを紹介していたのを聞き本作品を購入。 合衆国の奴隷制度の酷薄さがこれでもかと描かれる。凄惨なエピソードが連なるが町山氏によればそれぞれが事実に即しているとのこと。何となくわかっているつもりでいたが何も知らなかったことを思い知らされる。 そのような社会的に重いテーマに対して物語はいきなり蒸気機関車が地下のトンネルを疾走する。鮮やかなほどにあり得ない設定の上で物語の展開にハラハラドキドキする。高畑勲氏(「アニメーション折に触れて」岩波現代文庫)の言葉を借りれば「あくまでも正常な想像力を働かせた他者への〈思いやり〉的な感情移入 同書228p」に即した「思いやり」型としてとてもハイレベルだ。 地名を題名とした章は主人公の物語そのものを構成するが、人名を題名とした章は他の登場人物の紆余曲折を描いている。物語世界が悲惨な状況であっても主人公が生還してハッピーエンドとなれば、その悲惨さが割り引かれて変えてツォれが美化されてしまう恐れがあるが、主人公以外の登場人物の生活歴が人名の章として列挙されることで本作品では悲惨さが薄められずに保たれている。 このような作品がドラマ化もされて商業的に成功するとは合衆国も捨てたものではないな、と思っていたが、上記のように書き出してみたら売れて当然と思い直した。それはそのまま人種差別という主題が現在においてもヒリヒリと生々しいからでもあろう。 | ||||
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地下鉄道という存在はタナハシ・コーツさんの「ウォーターダンサー」を読んで知りました。 どちらも黒人奴隷を題材にしており、逃亡が主軸のストーリー展開なので似た点はありますが、最終的に描こうとしているものは明確に違うように感じましたね。 ウォーターダンサーで描かれるのは「先祖の記憶を取り戻すことで、奴隷制度に対抗する」話です。 そして地下鉄道で描かれるのは「アメリカという病理が、奴隷制度を構築している」話でした。 前者のテーマの建付けはこうです。 アフリカから誘拐された者たちは言葉や文化を奪われ、奴隷としての生活を強いられるうちに、苦しい記憶を忘れ、美しい記憶を封印することでどうにか生き長らえた(=心から奴隷となった)。しかし命懸けの逃走の過程で、彼らは偉大なアフリカの記憶を取り戻し、アメリカの白人たちによる支配に抗っていく、という感じです。 そのため基本的に奴隷制度を敷く白人=悪で、勧善懲悪的な趣きがあります。 しかし、本作品の視点では白人=悪ではありません。みなすべて「綿花の奴隷」です。 現代風にいえば経済の奴隷ですね。 白人が黒人奴隷を使うのは綿花の摘み手を安く雇うためであり、安く従順なら労働者は何の人種でもいい。奴隷制度を維持しようとする者たちも結局は金のためにそうしているのであり、同じく金を持つ立場になれば、それが黒人であっても必ずしも制度撤廃派になるわけではない、ということです。 そのため、主人公のコーラが出会う黒人奴隷たちは必ずしも味方とは限りません。家を奪おうとしたブレイク、強姦犯であるエドワードとポッド、奴隷狩り人のホーマー、努力しない黒人は切り捨てるミンゴ、母の敵であるモーゼス。 誰もが自分の小さな利益を守ろうと必死です。 そしてその点においては白人たちも変わりません。黒人を擁護しながら断種政策を認めるルーシーとカーペンター、恩人であるはずのマーティンとエセルを売るフィオナ、そして自分たちも奴隷だと認めながらそれを良しとするリッジウェイ。 そのすべてが経済の奴隷です。 救いのないテーマの掘り下げ方ですが、個人的には強烈なリアリズムを感じました。 特に白人の中でも貧困層(プアホワイト)をきっちり描いているのが良いですね。最後のシーンでもイギリス出身の白人=金持ち、アイルランド出身の白人=貧困層、黒人=奴隷という流れでコーラの前を過ぎていきます。特に黒人奴隷を苛烈に攻撃していたのは白人貧困層だったらしいので、それが題材に強い説得力を与えているように思えます。 実際、現代のアメリカも同じようなものではないでしょうか? メキシコ移民を安くこきつかっておきながら、トランプ政権下になれば「仕事を奪っている」などとして追い出しにかかり、プアホワイトたちの熱烈な応援を集めたわけで。 コーラの安住の地を探す旅はまだ続くのかもしれません。 作品としては☆5だったのですが、翻訳は引っかかる部分がそこそこありました。 具体例でいうと358Pの下記一文。 「農園でシーザーは、手足の機能を損なわれた老人や老女たちのなかに、自分の父母を待っているものを見るのだった」 わかりやすくするなら「手足が動かなくなった老人たちに、両親の将来を見た」でしょうか。 こういう直訳っぽい表現が多く、何度か読み返して意味を理解する必要がありました。 またこれ以外にも妙に漢字を使いがちで「甘藷」「砂糖黍」「玉蜀黍」などが頻出します。 それぞれ農作物で「サツマイモ」「サトウキビ」「トウモロコシ」です。 19世紀という時代にあわせて単語を選んだのかもしれませんが、そこは内容的に重要ではないので、わかりやすさを優先してほしかったですね。 | ||||
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話題の本だったので初版でゲット。読み始めると止まらなかった。 スリリングな展開の中にアメリカで昔行われていた奴隷制度の核心を見た気がした。 人は優しくも成れ残酷を楽しむようにも成る。それらは紙一重なのか民族性なのか。 強いものを恐れる主人達。その強さとは力ではなく読み書き頭脳だった、等様々な当時の世相を細かく描写しつつ、物語は力強く進む!残酷なシーンも多々有るので心してこの史実に向き合って欲しい。 私の中の10選に入る名著を貴方は死ぬまでに読めるか! 読んでね! | ||||
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これほどまでに黒人が奴隷として(インディアンも)凄惨な弾圧を受けていたとは衝撃だった。 米国では人種差別が今もなお根深い問題として続いている。 アメリカ独立宣言でも聖書でも人は皆平等であるといいながら奴隷は人ではないとしている。 読み始めこそ翻訳のぎこちなさがみられたが総合的に翻訳を感じさせない素晴らしい翻訳であった。 著者は時折 絶妙なタイミングで登場人物の過去を回想させその背景をあぶり出してその人物に立体感と重量感を与えている。エンターテイメント&アドベンチャー的な要素も巧みに盛り込んで読後の暗い絶望だけの印象に終わらせず希望へとつなげている。 恐ろしい本である。 自分がコーラのように壮絶な逃亡を続けられるか 自分が白人であったとしても命がけで家族を巻き添えにしてまでも黒人をかくまえるか 逃げる手助けができるだろうか 首吊り用台車をはずす役を拒めるだろうか 常に自分に問いを突き付けてくる。 | ||||
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翻訳が悪いという意見が散見されますが、私の読んだ限り、読者の理解を意識した良心的な翻訳だと思います。 センテンスも長すぎずまとまってますし、直訳調でもない。 すごい良い翻訳ではないかもしれませんが、確実に及第点以上はあります。 翻訳が悪いと言われている方は、具体的に文を提示して、どこが悪いのか明示していただきたいです。 内容は少なからず複雑なので、整理する必要がありますが、複雑で理解できないのを翻訳のせいと責任転嫁しているのでは、と思ってしまいます。 この名作の普及において、根拠なき翻訳へのネガティブな批判が邪魔にならないことを願っています。 | ||||
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物語の形でしか、真実は伝わらないのか。 胸が苦しくなったら、辛くなったら、一旦降りて旅を続けてもいいし、途中下車してもいい。という円城塔さんの解説が優しい。 息が詰まりそうな緊張感と、笑うシーン。緊張と緩和のバランス。 ハイチ革命についての本を読む。 | ||||
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「地下鉄道」が存在するのなら、終点まで乗っていけば簡単に逃げられるじゃん! こう思っていました。読む前までは。 それでも、逃げられない。 何故か? 問題は逃げるための「手段」にあるのではなく、差別を行う人の「心」にあるからだ。 この小説はフィクションの形を借りることで、問題の根源を浮かび上がらせている。 21世紀の今、手段(技術)は変わった。 人の心は、どうか? | ||||
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"『この国がどんなものか知りたいなら、わたしはつねに言うさ、鉄道に乗らなければならないと。列車が走るあいだ外を見ておくがいい。アメリカの真の顔がわかるだろう』"2016年発表、数々の賞を受賞した本書は、19世紀アメリカ南部の奴隷少女コーラの"地下を走る鉄道"での逃亡の旅を描いた傑作。 個人的には、第八回ツイッター文学賞海外編での受賞や、周りの方の高評価が気になって著者の本は初めて手にとりました。 さて、そんな本書は19世紀前半、南北戦争後に奴隷制が廃止される30年ほど前のアメリカ南部の大規模農園で働かされる奴隷少女のコーラが同じく奴隷の青年シーザーに逃亡を助けてくれる、文字通り地下を走る"地下鉄道"の話を聞き共に逃亡、さまざまな州をわたりながら、自由が待つという北を目指していくのですが。 まず、後書きによれば【実在の記録】である衝撃作『ある奴隷少女に起こった出来事』と【風刺物語】『ガリバー旅行記』から着想を得たらしい本書。なるほど奴隷逃亡を手伝う組織の"暗号名"だった地下鉄道を"もし本当に地下の鉄道だったら"と大胆に虚構として登場させている事が象徴するかの様に【リアルな黒人差別】を描きつつも、逃亡中にめぐるアメリカの各州がそれぞれ【別の異世界】として描かれ、その都度コーラ、そして読み手に【難題を突きつけてくる】構成になっているのに感心しました。 また"実際の逃亡奴隷を探す新聞記事"をそのまま使った各章とは別、主な語り部であるコーラ以外の名前が冠した各章も、それぞれの人生を早送りするかのような【痛ましくも無常感溢れる描き方】になっているのが印象に残りました。淡々としつつ詩的な翻訳は【好みがわかれるかもしれませんが】重たい題材ではあるも、一方でエンタメ作品でもある本書に個人的には合ってるように思いました。 分断が進行したトランプ前政権下でおおいに読まれた話題の一冊として、また歴史的事実に大胆に虚構を取り入れた意欲的なハイブリッド小説としてオススメ。 | ||||
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奴隷の少女が逃亡を誘われ・・・というお話。 アメリカの奴隷が逃亡するのに地下鉄道があって、ただ実際の地下鉄ではないのは知っておりましたが、ここでは敢えてそういう風な物があった様に書かれており、また他の部分でも虚実ない交ぜな記述になっていると思わしき歴史改変小説でした。個人的にはドクトロウ氏の「ラグタイム」なんかを思い出しました。 著者のその奔放なイマジネーションについていけるかどうかで、評価が判れそうですが、個人的には気にいりました。特に理性的だけど冷たくならない感じの文章が良かったです。謝辞によると、ソニック・ユースやデビッド・ボウイを聴きながら創作したというのも何となく嬉しかったです。 最近も、ブラック・ライブズ・マター運動などで、アフリカ系や白人以外の有色人種の運動が盛んになっておりますが、この小説もその流れに竿をさす役割を果たすかも。 今こそ読むべき歴史改変小説。是非ご一読を。 | ||||
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現在、世界中の注目が集まっている 「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)」運動。 その背景には何があるのか、人種差別の実態、 黒人奴隷の歴史について知りたくて購入。 一読し、激しい衝撃をうけました。 「農園では監督官が、畑で働く労働者の名前を筆記体できっちりと記録した。 すべての名前が財産であり、呼吸する資本金であり、肉体からなる利潤だった」(267ページ) 奴隷制におけるアメリカ黒人の過酷な歴史がよくわかります。 理不尽な暴力により簡単に殺される奴隷仲間や支援者の白人。 特に「ノース・カロライナ」の章は、読んでいて苦しかったです。 アメリカ南部の綿花農園の奴隷として生まれた主人公の少女コーラの壮絶な人生を通じて、 今行われている人種差別の残酷さや理不尽さをより深く理解することができます。 超おすすめです。 | ||||
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アメリカ南部の綿花農場で奴隷として働くコーラ。彼女の母親は幼いコーラを置いて、農場からの脱走に成功する。コーラも少し大きくなってから脱走する。地下鉄道は奴隷を救うネットワークで、本書では本物の鉄道として描かれる。逃亡した奴隷を捕まえる輩がしつこくコーラを追いかけ、苦しい逃亡生活を過ごす。人種差別の恐ろしさを描く一方で、地下鉄道を運営する人々の暖かさや覚悟に、胸を打たれた。奴隷制度が廃止されたのって、歴史上の出来事かもしれないけど、写真が残るほど最近の出来事なんだよなと、時間軸を考えると、本作品のようにきっちりと奴隷制度について伝えていくことは意義がある。日本人は奴隷になったことはないし、奴隷を所有したこともない。ただし、アジア人(黄色人種)差別をされることは、海外にいくと大小あれど経験することだ。差別からの脱出を力強く描く本作品は、白人に是非読んでほしいし、我々アジア人も読んでおくべきだ。 | ||||
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本書は、アメリカで絶大な影響力を誇るオプラ・ウィンフリーが2016年の夏に紹介し、大ベストセラーになったそうです。 主人公は黒人の少女です。強い心を持っていますが、ありえないほどの精神的・肉体的虐待に合います。逃げ続ける彼女が見るのはディストピアに次ぐディストピア。 ファンタジー的な要素もあります。納屋の地下にやってくるのは… 是非手に取って確かめて下さい。 | ||||
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すみずみまで丹精で精緻さのみなぎる文章は、時折ハッとするほど美しかったり、唸らされる哲学的な機知に富んでいて、数ページに一度は美しい名文を摂取させてくれる稀有な作品。 だけど自分は、逃げた奴隷とそれを追う賞金稼ぎとのチェイスを期待しちゃって(だって地下鉄道(アンダーグラウンド・レイルロード)をめぐるロードノヴェルで、奴隷ハンターなんてものも出てくるんですよ!)、文学というよりも映画的なサスペンスドラマとしての期待感を寄せて読んでしまったので、その意味では食い足りなさもあった。あと翻訳の問題ではないと思うのだけれど、あと一言、置いておいてほしい言葉を置いてくれない、がためにリーダビリティが損なわれるという面がしばしばあった。例えば、登場人物のそれぞれが、白人なのか黒人なのか、という点。追跡者のリッジウェイは? 屋根裏に主人公を匿う夫妻は? 旅すがらで出会う人々は? きっちりと読んでいけば描写があるのかと思うが、たびたびあれどっちだっけ?とわからなくなり、それってけっこう明文化しておいてほしいところなので困った。そのあたりを暈かすところに著者の文学的な意図があったのかもしれないが、私にとっては妨げになってしまった。 とはいえ、文章は素晴らしいです。アメリカの裏面史、隠蔽されがちな真実を抉りだす鋭さや強度も申しぶんない。 こうした作品がピュリッツアー賞を受賞するというところが、アメリカという国の真の強靭さを裏打ちしているのだと思う。トランプの時代に文学が浴びせるカウンター、素晴らしく知的でクリティカルで、尊い。 | ||||
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黒人奴隷少女の悲惨であり力強い逃走劇だが、当時は存在しなかった地下鉄がそこにあったのなら、、、 とても読み応えがあり色々と人間のあり方について考えてしまいます。 ただ、翻訳がとても読みづらい。正直、翻訳がもっと現代的な解釈を持って分かりやすく訳されていれば数倍面白い作品となったのではないかと感じました。別の人の翻訳で改めて読んでみたいと切に感じました。 | ||||
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こんな理不尽が許される時代があったのかと衝撃でした。 また、自分に直接関係がないのにその理不尽に立ち向かう人もいた。 当たり前のように思える平和。ちょっとしたことで失われてしまうかもしれない脆いもの。 多くの犠牲の上に生かされている自分なんだとしみじみ思いました。 後半部分は物語としてうまくまとめたなと思います。最後の3台の馬車の意味はなんだろう。 | ||||
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文章は淡々として美しく、翻訳もよい。静謐な文章で凄惨な暴力が語られるのは、黒原敏行―コーマック・マッカーシーを思わせる痛快さ。 文体のリズムが良く、翻訳文学ならではの過度にローカライズしすぎないひねりのきいた味わいがある。この訳者にぜひ同じ作者のほかの作品も手掛けてほしい。 特に印象に残った一文を引用します。 「奴隷使役者たちが畑の畝に植えるよう命じたのは海島綿だが、その種のあいだには暴力と死の種も蒔かれ、この作物の成長は早かった。」 あと単なる好みですが、個人的に「洗い熊」という表記を選ぶのがなんだか奇妙でセンスある!と思いました。 | ||||
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19世紀初めころのアメリカ南部を舞台に15歳の黒人奴隷少女による農園からの脱出を描いた物語である。奴隷たちは日々暴力にさらされ、人間以下の扱いを受けており、逃げ出せば見せしめに殺害されていた。それでも逃亡を企てる奴隷はあとを絶たなかた。当時、逃亡奴隷をかくまって北部へ移送する秘密組織があったが、その史実を作者は奴隷救出のための地下鉄道が存在したとの大胆なフィクションに変換した。本書は歴史的事実を下敷きに、類まれなる想像力を駆使して、奴隷少女の逃亡を描いた大スペクタクルの長編小説である。人種問題が再燃するアメリカ、いや世界中で、いま最も注目される作品となっている。 息をのむような凄惨な場面がふんだんに出てくる。奴隷の命は家畜よりも軽い。どれだけ暴力で抑えつけられてもコーラは自由を求めて北へ逃げる道を選んだ。絶望的な状況から心を奮い立たせて、人間の愛を信じ、自由への脱出を敢行する姿は強く美しい。しかし、農園主はすぐに奴隷狩人を雇って彼女を追跡させる。コーラは力を振り絞って何度も危機を乗り越えていく。聡明さと勇気が状況を切り開いていく。逃亡奴隷を助ければ命がないことを知りながら支援する白人がいる。そして密告によって犠牲者が幾人も出てくる。安住の地を見つけたと思えば、たちまち姿を現す奴隷狩人。どこまで逃げればコーラは助かるのか。この暴力とスピード感あふれる展開は上質のサスペンスであり、文体には文学の香りがただよう。 「盗まれた土地で盗まれた人が働かされている」 「アメリカこそが、もっともおおきな幻想である。白人種の人は信じているーこの土地を手に入れることが彼らの権利だと心の底から信じているのだ。インディアンを殺すことが。戦争を起こすことが。その兄弟を奴隷とすることが」 登場人物が発する上記の言葉は著者の声だろう。アメリカはヨーロッパ人がネイティブ・アメリカンを殺戮して奪った土地にネイティブ・アメリカンと黒人奴隷を使役してつくられた暴力の国であると告発するのだ。虐げられ、殺された幾千万人の代弁者として著者コルソン・ホワイトヘッドは本書を著したのである。 本書はピューリッツアー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞などめぼしい文学賞を総なめしている。この受賞歴が現在のアメリカの置かれている状況を象徴しているはずだ。正にいま読むべき第一級の書である。同時にホワイトヘッドも参考にしたという「ある奴隷少女に起こった出来事」(ハリエット・ジェイコブス、大和書房)も併せてお勧めしたい。こちらは実在した黒人女性の手記である。 | ||||
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奴隷制度と関わる形での“地下鉄道”のことは知っていたので、読み進めながら少々首をかしげることが多かった(「訳者あとがき」を読んで納得した)。ただ、1800年代の前半、アメリカにおける奴隷制度、白人と黒人の考え方、“インディアン”に対する考え方などは、リアルなものだろうと感じられた。 農園で奴隷として働くコーラは、仲間のシーザーから誘われて、逃亡を決意する。その道は、母メイベルも辿ったはずの道だ。逃亡は上手くいったかに思えたが、奴隷狩り人リッジウェイはコーラを執念深く追い続ける。逃亡の途中で様々な人物に出会い、彼らの持つ黒人に対する考え方を知ることによって、コーラは少しずつ変わっていく… 奴隷制度、逃亡奴隷を助ける“地下鉄道”、アメリカが黒人や“インディアン”に対して行ってきた残虐行為など、いくつかの史実を背景に、著者は奔放な想像力を駆使して、コーラの逃亡をドラマチックに描いていく。「訳者あとがき」にあるように、先行作品や様々なモデルを巧みに織り込むことで、最後までスリリングだ。 個人的にはリッジウェイが印象に残る。血も涙もない「奴隷狩り人」だが、農園主テランス・ランドルや黒人へのリンチで差別意識をむき出しにする白人たちの“黒人差別”とは違う側面が感じられる。もちろん彼の行為は許されるものではないが、何かが明らかに違っている。ある意味で、彼の存在こそがこの物語を支えているような気がする。 | ||||
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