ネイティヴ・サン: アメリカの息子
- 人種差別 (28)
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点8.00pt |
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1940年に出版された「20世紀アメリカ文学最大の問題作」と言われ、日本では「アメリカの息子」の邦題で出版されながら長らく絶版になっていた作品の新訳版。貧しい黒人青年が偶発的に富豪の娘である白人女性を殺害して逃走、逮捕、裁判にかけられ死刑になるまでの黒人差別を犯人視点で語り尽くした、熱情あふれる社会派ミステリーである。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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"『俺は殺したくなかったんだ!』とビッガーが叫んだ。『でも、俺が何のために殺したかというのは、それ自体が俺だからなんです!ものすごく奥深くにあるものが、俺に殺しをさせた!(略)』"1940年発刊の本書は、映画化もされた20世紀アメリカ文学の問題作、オリジナル版翻訳。 個人的に主宰する読書会の課題本として手にとりました。 さて、そんな本書は20世紀アメリカ黒人文学の先駆者、ブラックパワーという言葉をつくったことや、晩年は俳句に凝った事でも知られる著者による一冊で、1930年代、大恐慌下のシカゴを舞台にアフリカ系アメリカ人の青年、ビッガー・トーマスが資本家令嬢で、共産主義に傾倒する白人女性を意図せず誤って殺害してしまった事で人生を転落していく姿が『恐怖』『逃亡』『運命』と三部仕立てで描かれているのですが。 せっかく運転手という理想的な仕事を得たにも関わらず、勤め初日にあっという間に殺人、衝動的な死体隠蔽にいたってしまう第一部の展開の早さにまず驚きました。 一方で、第三部。弁護士マックスとのやりとりでビッガーが心を開いていく様子、またマックスのドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を彷彿させるような法廷での弁論の様子は確かに心に響く部分がありました。 今も続く人種差別抗議運動『Black Lives Matter』の背景理解をしたい方や、アメリカ文学における新しい黒人像を創出した一冊としてオススメ。 | ||||
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※巻末の「訳者あとがき」は、かなりネタバレしているので未読の方はご注意を。 1930年代のシカゴを舞台に、追い詰められた状況ではからずも大罪を犯してしまう、貧しい黒人地区に暮らす二十歳の青年ビッガーの流転と、当時の黒人差別社会の実像を彼の視点で描いた物語。 700ページを超える大著だけれど、迫力のある筆力と翻訳の良さも相まって、ストーリーの牽引力は最後まで衰えません。 黒人ビッガーの白人に対する恐怖と憎悪の感情が、強い現実感をもって表現されていて、この熱量と暴力性はおそらく、作品発表時30代前半だった著者の若さのなせる技でしょう。 富裕層や共産主義者(今ならリベラリスト)からの偽善的な同情や施しを、黒人が恥辱や怒りをもってとらえる描写からは、持つ者と持たざる者との間にある、認識の溝の深さを思い知らされます。 白人社会による抑圧の中で生きて来たため、憎悪が血肉となってしまっているとはいえ、物語中盤のビッガーの狡猾さと凶悪さはこちらの想像を超えていて、彼への共感を阻むものがあります。 最後まで自身の暴力の犠牲者たちに対し罪悪感を抱くことはなく、むしろそれらの反倫理的行為は正しいことだとさえ言い切り、考えるのはおのれのことばかり。 なぜ、このような人物造形にしたのか。 最後も近い場面のある人物のセリフで、「白人は黒人を抑圧し搾取することで自分たちの権益を守っていて、そのことに対して罪悪感を抱いてはいない」というようなものがある。 つまりビッガーの悔恨の念のなさは、白人社会全体も彼と同じである、という抗議の意味なのでしょうか。 あるいは、白人が望む従順で慎ましやかな黒人像への、著者の抵抗なのか。 いずれにしても、凶悪で繊細なこの黒人青年のキャラクターは、黒人作家だからこそ創り得たものなのだろうと思います。 終盤で、ビッガーを擁護する人物と敵対する人物が、お互いの主張をぶつけ合う場面がある。 強硬保守である敵対側の言い分は、多分に差別と偏見に満ちていて承服しかねるものなのだが、擁護側の論理もまた、正論である一方、詭弁的でもあり、共産主義者である自らの思想の実現に、ビッガーを利用しているようにも感じてしまう。 おそらく本書で提示される問題の正解は、お互いの主張の中間あたりにあるのだろうけど、敵対する両極端の人々がそこに寄りそうことは、物語と同じく現実でも難しいと思われる。 本書の出版から80年以上が経過し、黒人は社会的権利こそ手に入れたが、現在のアメリカの人種をめぐる状況は建設的な方向にシフトしているとは言いがたく、明るい未来も見えにくい。 今でも世界では、多くのメディアが、共存共栄こそが人類の正しいあり方であると発信し続けている。 確かにそれは表面的には正しい。 しかし、人種問題の現状と本書が描く現実からは、違う人種と違う価値観を持つ人々が同じ場所で生活することが、果たして本当に人類全体の幸せにつながるのだろうか、今の人類にそれが可能なのだろうかと、そんな感想を抱かせられました。 当事者でもない者のこのような考え方は、批判されるかもしれないけれど。 | ||||
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アメリカ小旅行等で感じていた差別が、 黒人の言葉で理解出来た。 勿論長期でアメリカ滞在等他で、もっと理解は、 出来ないので、少理解としました。 | ||||
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1930年代のアメリカ、シカゴが舞台だが、2020年代の日本でもこの小説と変わらない社会の分断と憎悪が渦巻いているのではないか。殺人を犯した黒人の少年(20歳)を弁護するユダヤ人弁護士の答弁の一言一言が響いた。 人を階級や外見によってステレオタイプな枠にはめて判断し、偏見に基づいて憎悪をつのらせ、存在を社会から消してしまおうとする人々(とくに権力者とメディアとそれに扇動された人々)の恐ろしさも響いたが、社会にある壁をなんとか打ち壊そうとする人の、素手で岩を砕こうとするような必死の努力も響いた。 いまこそ読むべき一冊ではないか。 あらたな翻訳もすばらしい。 | ||||
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1930年代シカゴでの黒人による殺人事件を扱ったものだが、米国の差別問題ばかりでなく、異なる世界の間で生じる「憎悪⇔恐怖」の増幅スパイラルとして読むと、現代の多くの課題に当てはまりそうに思う(例えば、LGBTの人たちに対する考え方なども同様の要素があるのではないか)。コミュニストの弁護士の演説はいかにも正論ではあるが、その正論が通らないのも現実社会の特徴という点も、同じく現代にも通じるところか。 | ||||
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