不快な夕闇
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不快な夕闇の総合評価:
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終始不穏で、妙な陰鬱感を残す名作。 若干悪童日記っぽさもある。 オランダ人の小説って久々読んだかも。 Sid Lukkassenとか気になっている哲学者とかもいるから、もっと翻訳されてほしいね。 | ||||
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新品で買ったのに、届いた時に、表紙のスレ、ヘコミ、小口の汚れなどがあって、非常に残念でならない。スレ、汚れのある中古かと思った。もう利用したくないと思う。素晴らしい本なのに、この本を雑に扱って購入者に届けた事が遺憾でならない。 | ||||
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本書『不快な夕闇』の表紙カバーのイラストがこころに残りました。 青白い顔の人間は、白人。その不安そうな目は、きょろきょろと落ち着かない。 何を見ているのでしょう。 おとなの世界をのぞき見ている目のようです。 黄色い金髪は女性。主人公の少女「ヤス」を描いたイラストでしょう。 裏表紙カバーのソデには、 著者マリーケ・ルカス・ライネフェルトのカラー顔写真が載っています。 金髪の著者ライネフェルト自身は 「男女の性別は自認も公表もしていない」(346頁)そうです。 自らを指す代名詞は he/him としているので、自称男性の女性かも。 性別という属性にこだわる外界への著者独自の反発かもしれません。 赤いジャケットの襟にあごを埋め、鼻の上まで引っぱりあげている人間。 「怖さよけのジャケットに包まれたばかげた自分」(235頁) 大人になり切れない中学生。 「おまえの汚ねえジャケット」(245頁)をマスクにして、 大人の世界の「不快な」においを嗅ぎたくないようです。 この本では、何が「不快」かって? 「くさい軟膏」(7頁) 「汚ならしいったらない」(10頁) 「きったない」(25頁、129頁) 「きもちわるい虫」(36頁) 「ゲロと下痢」(41頁、69頁) 「ヒキガエルの毒液とそっくりな気持ち悪いものが出てくる」(47頁) 「汚くてくさいスウェットのやつ」(49頁) 「ぺっちゃんこのカエルたちの死骸を見て気分が悪くならなかったか」(51頁) 「ゲロみたいだ」(59頁) 「気持ち悪い」(72頁) 「き・も・ち・わ・る・い」(72頁) 「固まってこびりついたおしっこみたいな黄色」(88頁) 「液肥を撒いた翌日に家のまわりに漂う息のつまるにおいみたいな死」(95頁) 「ハエの糞のようなしみ」(97頁) 「吐き気がする」(116頁) 「わたしは鼻の穴をほじって、小指を口の中に入れる」(129頁) 「オートミールみたいなゲロ」(155頁) 「高校男子の汗くささ、なにかが腐ったようなにおい」(178頁) 「悪臭」(235頁) 「そんなの、きったねえだろうが!」(242頁) 「でも、牧師さんが言うには、不快なのはいいことで、不快の中にいるのがほんとうのわたしたちなんだって」(162頁) 確かに。子どもたちのなかには、きたないタオルを口にあてながら 安心して眠る子だっていますよね。 お母さんが汚いからとそのタオルを洗濯をしてしまうと、 不安になって、夜、眠れなくなってしまう子もいます。 「わたしはジャケットを脱ごうって気にだってなるかもしれない。しばらくは気持ちよくないだろうけど」(162頁) お父さんは大声でわたしに言いました。 「あした、おまえはそのジャケットを脱げ。そしておれはそれを焼く。それでもうその話はしない」(313頁) お父さんの、この言葉で、「わたし」は極度の不安に陥ります。 「わたしは地下室のドアをそっとたたいてささやく」(332頁) そして、冷凍庫のとんでもなく重い扉を開けて、 「あの湖の氷の割れた穴みたいなところに体をねじこむ」(335頁) 「わたし」は「またもパンパンに腫れているお腹の上に」(335頁) 手を組み合わせて祈ります。 「大好きなマティース、すぐ行くからね」(336頁) 「わたし」のお腹は、今度は便秘で腫れているのではない、と思います。 《備考》 <主な登場人物> おばあちゃん(34頁) お父さん(10頁) 「ミュルダー家」(136頁)。「父さんと母さんは四十五歳」(244頁) お母さん(7頁) 一番上の兄「マティース」(9頁) スケート大会で、湖の氷の穴に沈んで死亡。 「下の兄のオブ」(10頁) 「高三」(50頁)。「十二歳」(272頁) わたし(7頁) 「ヤス」(94頁、134頁)。主人公で語り手。「十二年もの」(154頁) 「中一のクラス」(50頁)。「ミュルダー家の娘」(131頁)。「女の子」(154頁) 「ヤスが椅子に変装している」(305頁) 「妹のハンナ」(10頁) 「七歳」(18頁)。「小四」(50頁) ベル(119頁、144頁) 「ベルのTシャツの下のおっぱいがふくらみだして」(145頁) 隣りのリーンおばさん(136頁、173頁) ご主人のケースおじさん(144頁) ハムスター 「ティーシェ」(178頁、275頁) ウサギ 「ディウヴェルチェ」(145頁、177頁、245頁、271頁、277頁、322頁) | ||||
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現状、ちょっとしたことがあって悲しみにうちひしがれていて、そんなときに「不快な夕闇」を読んだ。初めは物語の方向性が掴めなくてもやもやしたけれど、ページを閉じても、不思議とまた読みたくなる。物語がよく分からないのに読みたくなるという経験は初めてだった。 それはこの物語、ヤスが語りかける言葉の底に、切実なものが潜んでいたからだろう。その切実さは、まるで希死念慮を抱えた人が話す、最後の明るい言葉のようだ。 (明るい気分にいる人、人生前向きでいま楽しい人、ポジティブシンキングに親しんでいる人は、一度落ち目に遭ってから読んだ方がいい。まさに「この門をくぐる者は一切の望みを捨てよ」だ。 悲しさや寂しさが晴れない人、孤独な人、死について考えている人は、この本がこころの底に何かをもたらしてくれる。) 物語の序盤はいろんなものごとがぼんやりとしている。長男マティースの死に悲しむ親の姿を見ていたのに、ヤスにはその真似ができなくて、途方に暮れているようにも見える。それこそ夕闇にいるみたいに。 「だれもわたしのこころを知らない。」 ヤスが自分のこころを意識し始めたところから、こころと対立する他人や物が、はっきりとし始める。ヤスのこころの姿とは、ジャケットに閉ざされた暗い体の内側に浮かぶ、白いたましいだろう。豚の貯金箱を壊せと母親に命じられ、金づちで無理矢理に壊したヤスの白っぽく力んだ手の甲が、そのまま彼女のたましいの色である。 白いたましいは、マティースの死や、母親やクラスの同級生が自分に向けた誤解や侮蔑などに共感することもなく、それらを拒むという形で存在し続ける。ヤスは拒むことしか知らない。 ヤスの白いたましいの鋳型を担うのは、聖書の言葉だ。聖書の言葉は、それだけで聖性を持つと信じられているのに、時には現実を誇張したり、あるいは現実に埋もれた寓意を、粗野に写し出したりする。そこにあるのは理屈の上の正論で、正しさに矛盾するはずのほんとうの人間性が意図的に排除されており、真実がない。その分、ヤスの回りにいる大人たちや子供たちの言動の歪さが浮かび上がって、彼らの家畜と並ぶ獣じみた性質が露になる。ヤスの白いたましいは、彼らの獣じみた情操を受け入れまいとする。 親にとって生まれる筈のなかった子供(また父親にとって「早く家から出ていってほしい」拒まれた子供)として存在していることを知っていることも、己を出さずに他者を拒んで自己実現を図ることと、関係しているのかもしれない。 同じクラスの友達も、実の父親や母親でさえ、ヤスのジャケットの内側の世界を知ろうとしない。そして、ヤスはジャケットの内側に白いたましいを抱えてはいるものの、自分でもその正体を知らないのである。ヤスは白いたましいの赴くままに物を見て、物を考えているに過ぎない。 この独り言の小説を読むことは、ヤスが語りかける、ヤスにとっては唯一たましいの孤独に共感してくれると感じられる、世界の外側にいる私たち読者が(それはヤスにとって、聖書の言葉と同じように自分の世界の外側に存在している絶対的な存在)、 ヤスに信頼されながらも、同時に試されるということである。“ねえ、どこまで私のたましいが分かる?”と。 それはあたかも、日記を通して親愛なるキティに話しかけ続けたアンネのようだ。 不快に居る人間を見ることは、とても辛い。 でも、誰だって幸せばかりで生きているわけではなく、各々の不快の中にいるだろう。つまり不快とは、私たちの人生の中で最も拒まれるものであり、それがあることを都合よく見落とされがちだが、それがなければ人生足り得ないという、矛盾した二重構造を持つものである。 不快とは自然なものなのだ。 「牧師さんがいうには、不快の中にいるのがほんとうのわたしたちなんだって。」 あなたはどこまで、不快に対して「やさしく」なれるのか。 不快に陥っていく人間を、己のこころを削りながら、なす術もなく見守るという「やさしさ」を、あなたは持っているか。 | ||||
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