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(短編集)

インスマスの影: クトゥルー神話傑作選



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【この小説が収録されている参考書籍】
インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)

インスマスの影: クトゥルー神話傑作選の評価: 3.95/5点 レビュー 22件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.95pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全16件 1~16 1/1ページ
No.16:
(5pt)

禍々しい空気感がもの凄く、ぞくぞくする読みごたえを堪能しました。

到底理解し得ない異形のものどもを前にして、孤立感を深めていく登場人物たち。
腐朽のすさまじい悪臭を振りまき、禍々しき邪悪の精神交感で人間を操り、この世界への侵略をもくろむ異世界の怪物たち。
ラブクラフトが描き出す〈クトゥルー神話〉のおぞましさ、禍々しい空気感がもの凄く、ぞくぞくしながら頁をめくってました。

収録七篇のうち、「異次元の色彩」「ダンウィッチの怪」「闇にささやくもの」「インスマスの影」の四篇の読みごたえは素晴らしく、作品にみなぎる世界観の深さ、ひたひたと押し寄せてくる恐怖の雰囲気に圧倒されました。
わけても、「異次元の色彩」「闇にささやくもの」の二篇が凄かった! 不穏な空気が次第に高まっていく恐さに、ごくり、ぞくりと、息を殺しながら読んでましたよ。

M!DOR! が描いた文庫本表紙カバーの装画も良いっすね。ラヴクラフトの作品の中に出てくるアイテムをちりばめて、雰囲気のある装画に仕上がっているなあと。拍手!

南條竹則の訳文は、ところどころ分かりづらい文章、訳語はありましたけれど、全体としてさほど違和感を感じず、読み進めていくことができました。

編訳者による巻末の解説に従って、収録された七篇のタイトル(作品発表年)【原題】を記しておきます。

インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)より
4102401415
No.15:
(5pt)

良質な翻訳。クトゥルー神話の入り口にオススメ。

本作は、ラヴクラフトのクトゥルー神話を現代訳し、傑作を集めた短編集。
同一世界で、登場人物やシチュエーションが様々に変わっていくオムニバス的な進行なので、どれから読んでも問題ない。
このシリーズは本作の他、「狂気の山脈にて」「アウトサイダー」の3巻構成になっている。

クトゥルー神話は「宇宙的恐怖」がテーマになっていて、人智の及ばない存在、奇妙な人物、現象との遭遇などが取り扱われる。
意志疎通もできない、抗いようのない絶対的恐怖が見どころ。
薄気味悪く、掴みどころがなく、ジワッとした雰囲気が独特で、先が読めない展開が面白い。
情景描写が秀逸で、本当にありえるんじゃないか、または、作者が実際こういったことを垣間見た体験談なのではないか、と思ってしまうほどリアリティ溢れ、読者の想像力を掻き立てる。

現代的に改変された翻訳は分かりやすく、それでいて砕けすぎず、オリジナルの良さも崩れていない。
ストーリーのチョイスも良く、良いとこ取りの作品。
しかも、紐のしおり付きという嬉しい仕様。

オリジナルはもうかなり古い作品で、言葉が古く、表現が回りくどい部分が多いため、今から初めて読むならこのシリーズはオススメ。
どれから読むべきか悩んでる人にも是非。
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4102401415
No.14:
(5pt)

面白い!

読みにくいという意見もありますが、私はこの本はとても読みやすかったです。短篇集なので短時間で読み切れるので是非読んでみて下さい。
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4102401415
No.13:
(5pt)

HPL傑作選

クトゥルフ神話の創造者の傑作選です。
HPLの独特な持って回った表現が上手く表されている訳だと思います。文体が苦に成らないならばオススメ出来る一冊だと言えます。
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4102401415
No.12:
(5pt)

手が震えた

表題作は、恐ろしさのあまり本を持つ手が震えた。
本当です。

同シリーズ2の『狂気の山脈にて』も素晴らしかったです。
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4102401415
No.11:
(5pt)

翻訳文がかなり流麗

昔読んだ翻訳作品の日本語が気になってきて、ときどき複数の読み比べをやっているのだが、欧文脈丸出しの英語の自習書みたいなのや日本語の使い方がなってないのがあるとせっかくの名作も台無しになる。誰とは言わないが、出版社のチェックを通さずに電子出版したものには、相当ひどいものも見られる。その点やはり一度刊行されたものはしっかり編集者の手が入っていて安心である。この本の訳者は英国怪談などに造詣の深いだけあって、読みやすかった。
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4102401415
No.10:
(4pt)

配送が、、、

本のレビューではなく、梱包について。
本の角が破損している場合が多いので、複数購入はしない方が良いと思います。
環境に悪いですが、カバーが好きなのでショックでした。
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No.9:
(4pt)

柔らかい文章で読みやすい

一読した印象は「柔らかい文章で読みやすい」です。
ラヴクラフトとかクトゥルーとか聞いた事あるけど読んだことない、という人にお勧め出来ると思います。
これを読んで面白いと思ったら
創元推理文庫のラヴクラフト全集 全7巻でも
青心社の暗黒神話大系クトゥルー 全13巻でも
読みたい物を読んでみれば良いと思います。

「柔らかい文章で読みやすい」のも大切な事ではありますが、あまり文体が柔らかくなると恐怖感が薄れますね。
おどろおどろしい恐怖感や逃げ惑う切迫感なんかは古めかしい、固い文体の方が私は好みです。
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4102401415
No.8:
(5pt)

創元社よりも読みやすくてクトゥルー神話を存分に楽しめました(^-^*)/

去年出版された新訳のクトゥルフ神話ベストセレクト集です。
クトゥルフ神話は以前創元社の物を読んだら翻訳が読み辛くて断念しましたが、こちらの新訳は創元社よりも読みやすくて楽しめました(^-^*)/

ただ、ホラー作品としてはかなり古いので、怖さよりも雰囲気を楽しむものであり、クトゥルフのボードゲーム好きとしては面白かったですが、世界観が好みじゃない限り今の時代に読むのは物足りないかなとは思います。
この作品がきっかけで調べたらクトゥルフ神話集は青心社版もあると知り、試しに1巻を読んだら読みやすかったので全13巻を大人買いしました。
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4102401415
No.7:
(5pt)

魚の顔(インスマス面)をした人間たち

2020年の今日の新型コロナウイルスの世界的な大流行とよく似た疫病の話が、
本書の中の「インスマスの影」(1936年)という作品に載っていました。

また、米国人の人種的偏見が、何十年も経てもいっこうに変わっていないことにも驚きました。

「インスマスの影」の舞台は、米国マサチューセッツ州の古い港町インスマス。

「これは1846年に疫病(えきびょう)が大流行する前の話で、疫病ではインスマスの人間の半分以上があの世に連れて行かれた。何が原因だったのか、はっきりしたことはついにわからずじまいだったが、たぶん、シナかどこかから船で持ち込まれた外国の病気だったんだろう。そりゃアまったくひどいもので――病気をめぐって暴動が起こり、町の外にはけして伝わらなかったと思うが、ありとあらゆる恐ろしいことが行われたんだ――それで、町はひどいありさまになっちまった。けしてもとには戻らなかった――今じゃ、あそこに住んでいる人間は三百人か四百人を越えないはずだ。
 しかし、ここいらの連中の気持ちの底にあるのは、本当を言うと、ただの人種的偏見なんだ――私はそういう偏見を持つ人間を責めているわけじゃない。私だって、インスマスの奴らは大嫌いだし、あいつらの町へ行きたいとも思わない」(398頁)

「インスマスの影」の物語は、1936年に書かれたものですが、
2020年の今日読んでも、なぜ人種的偏見が米国で無くならないのか、
考える上で参考になるところがあります。

この本を読んで、人種的偏見が皮膚の色だけでなく、
人種特有の<臭い>とも関係しているのではないかな? と感じました。

本書カバーの装画(M!DOR!)に感動しました。
魚の顔(インスマス面)をした人間たちがみごとに描かれていたからです。
手鏡に写った魚の顔が心に残りました。目を向いて瞬きしない目が怖い。
本書のカバー装画は、大成功です!
インスマスのホテルや街並みの描写も良いと思います。気に入りました。
黒い岩山とダイヤ(宝飾品)もコントラストが効いていて良い。
魚の尻尾に、海中遊泳を思わせる動きがあって、うまい画です。
満天の星の夜空が、宇宙を描き切っています。
本書の雰囲気を含め、最高のまとめの表象になっています。

残念なのは、美し過ぎて、なまぐさい臭いなどの悪臭が、
カバー装画から感じられませんでした。
目に見えない<臭い>ですから、装画では表現できないのかもしれません。

音も目には見えませんが、
原作者ラヴクラフトは意味不明の奇妙な<オノマトペ>で文字にして表現しています。

臭いの表現は、音よりもはるかに難しそうです。
本書では、言い古された言葉で<臭さ>が書かれているだけです。
「悪臭」なんてえ言葉では、<クッサー>さの度合いは伝わらないような気がします。
臭いに敏感で、執拗に臭さを繰り返し書き綴るラヴクラフト。
しつこい臭さについて、新鮮でクリエイティヴな表現がほしかったです。ゲエ(吐き気)。
ラヴクラフトは死んでしまいましたので、あとは和訳者に期待するのみ。
いやな臭いを表す漢字がないかなあ。

《備考》 臭(くさ)い臭(にお)い

「井戸水がもう駄目になっているのに気づいた。悪臭(わるぐさ)いというのともちがうし」(31頁)
「そこは非常に息苦しく、悪臭がして」(37頁)
「悪臭が耐えがたかったので」(38頁)
「山の頂上に環状に並んだ石柱のそばに行くといやな臭いがする」(67頁)
「生まれてからこの方あんなひどい臭いは嗅(か)いだことはない」(78頁)
「人は時に匂いによって〝かれら〟がそばにいることを知り得るが」(90頁)
「目に見えず、悪臭を放って歩く」(90頁)
「汝(なんじ)らは〝かれら〟を悪臭を放つものとして知るであろう」(91頁、94頁)
「見えざる存在が、悪臭を放っておぞましくもニューイングランドの峡谷を駆け抜け」(93頁)
「部屋にはまだ不浄な、得体の知れぬ臭気が漂っていた」(94頁)
「その臭いは、三年ほど前、ホウェイトリー農場を訪問した時、彼に吐き気を催させた臭いと同じだった」(94頁)
「恐るべき悪臭がこもっていた」(97頁)
「悪臭に満ちた読書室に入るのを見合わせた方が良いと説得していた」(101頁)
「凄(すさ)まじい臭いも消えかけていた」(102頁)
「嗅ぎ慣れない悪臭」(102頁)
「空気に妙な臭いが漂っているのに気づいた」(103頁)
「雷様みてえな匂いがして」(104頁)
「それに匂いがひどかったよ」(104頁)
「タールみたいな、ひどい匂いのするものに被われていて」(105頁)
「奇妙な、いやな臭いのする農家の残骸」(108頁)
「遠くから、何とも言えない悪臭がかすかに匂ってくるだけだった」(108頁)
「恐ろしい悪臭と犬がさかんに吠え立てる声に目を醒まし」(109頁)
「遠くからぼんやりした音が聞こえて、悪臭が漂って来たと報告した」(111頁)
「ただ、ひどい悪臭とタール状のねばねばした液体があるだけだった」(113頁)
「あんな足跡はあるし、匂いはするし」(125頁)
「でっかい足跡を見つけた時に嗅いだのと同じ、あのひでえ匂いがした」(128頁)
「それから急に恐ろしい匂いがするって言い出した」(129頁)
「ホウェイトリーの家の廃墟で嗅いだ匂いにそっくりだとわめいてる」(129頁)
「悪臭とタール状のねばねばしたものが残っているその場所」(133頁)
「群衆は死ぬほどの悪臭に弱り、窒息しそうになって、足元もおぼつかなかった」(141頁)
「悪臭はすぐに消えたが、植物はそれ以来けして正常に戻らなかった」(142頁)
「悪臭を放つ海には大渦と水泡(あわ)が立っていて」(202頁)
「千の墓をあばいたような悪臭がして、一つの音が聞こえたけれども」(202頁)
「それから、ゾッとするような臭(にお)いがした」(266頁)
「今まで嗅(か)いだこともないほどひどい臭いがした」(266頁)
「たぶん、ある種の妙な匂(にお)いがすると思ったからかもしれない――もっとも、古い農場はどんなに立派なところでも、たいてい黴臭(かびくさ)い匂いがする」(303頁)
「部屋はまことに気持ちが良く、調度もととのっていて、黴臭い匂いもしないし」(309頁)
「あの奇妙な臭いと振動の感じがこの部屋にはなくなっていることに気づいた」(339頁)
「病的な臭いと震動を発しながら、闇にささやいていた者!」(341頁)
「真っ暗な、奇妙な悪臭のする空間に懐中電灯の弱々しい光を投げかけた時」(375頁)
「雷撃の前に耐えがたい悪臭が流れ込んで来た」(384頁)
「恐ろしい臭いがする……五感が変容した」(388頁)
「彼は魚市場で働くか、ぶらつくのが好きらしく、特有の匂(にお)いをプンプンさせていた」(411頁)
「下の魚臭い浜辺で貝を掘っているのを見たし」(416頁)
「想像もできないほどひどい、吐き気を催すなまぐさい臭(にお)いだった」(417頁)
「悪臭の不快も、脅威と反撥(はんぱつ)の感覚もほとんど忘れてしまった」(417頁)
「この町も、なまぐさい臭いも、こそこそした人間たちも嫌いである」(422頁)
「死と敗滅の空気はおぞましく、なまぐささは耐えがたいほどだった」(437頁)
「高潮になれば、なまぐさい臭いがそれほどきつくないかもしれないからだ」(453頁)
「彼の眼は私を通り越して、不快な臭いのする海を見ていたが」(461頁)
「この悪臭のする、恐怖の影におおわれたインスマスを抜けだしたら」(464頁)
「実際には、死ぬほどの黴臭さが町全体のなまぐささといやらしく混じり合って」(467頁)
「あたりに満ちていた吐き気を催すなまぐさい臭いが、突然、劇的に強くなった」(475頁)
「なまぐささはたまらないほどで、気を失わずに我慢できるだろうかと思った」(481頁)
「いたるところに立ちこめるなまぐさい臭いが急速に強まって来たためだった」(487頁)
「束(つか)の間(ま)弱まっていたなまぐさい臭いがまた急に強くなって、息が詰まりそうだったが」(489頁)
「なまぐさい臭いはいっとき慈悲深い微風(そよかぜ)に吹き払われていたけれども、今また気が狂いそうになるほど強く迫って来た」(490頁)
「インスマスのおぞましくもなまぐさい臭いは薄れていった」(493頁)
「その時、あの忌々しいなまぐさい臭いがまた強烈になった」(495頁)
「やがて、悪臭も音も激しくなって来たため、私は歩みを止めて震えながら」(496頁)
「この地域のいたるところに立ちこめる悪臭のさなかでは、それは不可能だった」(496頁)
「悪臭はたまらないほどになり、音は高まって、ゲロゲロ、ウーウー、ワンワン」(497頁)
「悪臭に呪われた死せる通り」(498頁)
「なまぐさい臭いも消えていた」(502頁)
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4102401415
No.6:
(5pt)

クトゥルー神話の取っ掛かりとして◎

クトゥルー神話を何から読み始めればよいか、と思っている私のような者が初めて読むものとして非常にバランスのいい選集ではないかと思いました。クトゥルー神話の取っ掛かりとして読みやすかったです。
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4102401415
No.5:
(4pt)

謎解きクトゥルー神話

(以下は、レビュアーの思いつき程度のものですが、念のため、「ネタバレ注意」としておきます。)

・アメリカには極端に違う2つの顔がある。一つは、ハリウッドやシリコン・ヴァレーに代表される進歩的で華やかな産業文化である。もう一つは、禁酒法に象徴される清教徒ゆかりの保守的・禁欲的な国民性である。ラヴクラフトは、1980年、アメリカ東北部の端に位置するニューイングランドのロードアイランド州の古都プロヴィデンスに生まれた。ニューイングランドは、「当世風に染まった地域のように外国人もいなければ、工場の煙や広告看板も、コンクリートの道路もない」(「闇にささやくもの」p290)という、時代から取り残されたような地域だった。ラヴクラフトは、生涯、故郷・プロヴィデンスの街並みを愛したらしいが、同州の主産業であった漁業を嫌い、労働者である外国人を嫌った。もともと、嗜好的に魚介類が嫌いで、漁港にただよう生臭い臭いは、その後、彼の小説中で「最悪」を意味する常套句となった。彼にとって、アメリカに内在する進歩vs.保守という極端な2項対立は、生涯のモチーフとなった。

・資本主義経済の新しい波は、1908年、デトロイトで製造されたT型フォードによって、時代の幕開けを告げた。しかし、保守的なラヴクラフトは、新しい産業がもたらす有色人種の労働者や伝統の破壊に不快感を覚えた。そのためか、小説の舞台として、あのニューイングランドの町や村がいつも選ばれるのであった。小説の深層にあるテーマは、伝統ある町や村をさびれさせてしまう、目に見えない時代の力であった。当時の時代の気分は、「世の中の張りつめた空気は恐ろしかった。政治的、社会的な大変動の時節に、凄まじい肉体的な危険が身にふりかかりはしないかという、奇妙な重苦しい不安が加わった。」(「ニャルラトホテプ」p208)というものであった。大転換期への人々の不安は、ラヴクラフトが生存中(彼の没年は1937年であった)の1929年10月、不幸にも、世界恐慌の勃発というかたちで的中したのであった。

・ラヴクラフトにとって、時代の急激な転換は、いかがわしく嫌悪すべきものであった。ある日、ふと気がついたときには、すでに懐かしい町や村の衰退が始まっており、その地はだれかに乗っ取られたかのように風俗が低俗化していった。彼は、この衰退の様相を、若者が怪物たちに追われながら港町から抜け出す脱出劇に仕立てたこともあった(「インスマスの影」)。この脱出劇のなかで、夜の町の「怪物」たちの生態にリアリティをもたらしたのは、当時のクー・クラックス・クランといった秘密結社の活動の活発化や、禁酒法などを背景とするギャングたちの暗躍であった。

・ラヴクラフトは、少年時代から天文学を嗜好し、時代の転換の発端を、資本主義経済の展開にではなく、「宇宙」からの飛来物に求めた。短篇「闇にささやくもの」は、宇宙から持ち込まれたクトゥルーの謎の機械がメインテーマとなっており、それはこう描写されている。「手短かに、はっきり言えば、真空管と共鳴板のついた機械が語り出したのである。」「その声は大きく金属的で、生気がなく、発声のあらゆる細部が明らかに機械でつくられたものだった。」(p318)。しかし、この機械の正体は、疑いもなくラジオであった。この短篇が発表されたのは、NBCがラジオ放送を開始した1926年から5年後のことであった。おもしろいことに、ラヴクラフトは、ラジオの本質を「人間の発声という機能を分離するもの」と解釈していたらしく、小説の結末には、人体の機能を分離したことによる気味の悪いシーンが登場する。彼は、この短篇の結末でラジオという文明の利器を皮肉っぽく批判したつもりでいた。

・南太平洋の小島に存在したクトゥルーの古代都市の描写では、20世紀初頭の前衛美術の「未来派」が引用される。「ヨハンセンは未来派美術がどんなものか知らなかったが、この都市のことを語る時、それに近いことをやり遂げた。」「青年が言うには、彼が見た夢の場所の幾何学は異常で、ユークリッド幾何学ではなく、我々の世界のものとはかけ離れた球面や次元が、胸の悪くなるほど満ちあふれていた。」(「クトゥルーの呼び声」p197)。この奇妙な古代都市の姿は、未来派ではなく、キュービズム(立体派)のピカソの作品を思い浮かべることで何とかイメージができるが、ラヴクラフトにとって、それは「胸の悪くなる」ものであった。

・ある農場に落下した隕石は、周辺の森林を含め、広範囲の土壌を汚染させるが(「異次元の色彩」)、この農場の惨状からSF的な意匠をはぎ取ってしまえば、日本の足尾鉱毒事件や水俣病などの公害事件の惨状と瓜二つであった。また、ある山村に出現した怪物は、目に見えないが、家屋を簡単に押しつぶす破壊力を持っていた(「ダンウィッチの怪」)。この目に見えない怪物の破壊力とは、勃興する資本主義経済が山村に及ぼす圧倒的な影響力のメタファーであった。

・ラヴクラフトの小説は、たいてい、村や町の人々の小さな噂話から開始する。ラヴクラフトは、大転換期への人々の不安が世界恐慌の勃発というかたちで的中したように、根も葉もない噂話にも真実が含まれているとみなし、噂話につきものの「尾ひれ」をヴィジュアルな怪物や怪現象として造形していった。つまり、名もない庶民の噂話こそが、クトゥルー神話のプロトタイプであった。そもそも、アメリカは、神話も英雄も歴史的に存在しない新興国家であったので、ヨーロッパや中東などとは違って、怪物や怪現象の出自を悠久の歴史の彼方に求めるのは不可能に近かった。20世紀の資本主義経済は、歴史の長短に関係なく、確実に、伝統ある村や町を衰退に導いていったが、そうはいっても、アメリカの国土は途方もなく広大であり、いまも清教徒ゆかりの禁欲的な伝統は脈々と生きている。ラヴクラフトが創造したクトゥルー神話は、アメリカに内在する進歩vs.保守という魅力的なテーマとして、多くの追随者を生み出すこととなった。もちろん、なかには興味本位だけの野次馬的参加も含まれるのかもしれないが。
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4102401415
No.4:
(5pt)

面白いです

気になっていたクトゥルーのことが、分かりました。傑作選2を期待しています
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4102401415
No.3:
(5pt)

絶妙な訳文

ラヴクラフト作品の邦訳は数々あるが、「この翻訳が良い」と人に薦められるものがようやく出版された。
 それも廉価な文庫である。代表作を精選して収録しているので、「著者に興味はあるがどれを読めば良いか」と迷っている初心者には最適だろう。
 英文学に造詣が深く、ことにマッケンやブラックウッドなど幻想文学の翻訳で評価の高い訳者の仕事だけあって、ところどころ古雅な言葉をちりばめながらも大仰に構えることなく、原作者が難解さや、異様さを意図したレトリックまで自然な日本語に移しているのは、敬服するほかない。
 たとえば巻頭の「異次元の色彩」の最初の二ページを、東京創元社『ラヴクラフト全集4』所収の「宇宙からの色」と読み比べてみれば、本書の訳文が流麗でイメージを鮮やかに伝えていることが、おわかりいただけるだろう。(余談ながら、同作の原題は"The Colour Out of Space"であり、本書の訳題の方が作品内容に則している。)
 ぜひ出版社には、同じ訳者によるラヴクラフト選集の続刊をお願いしたい。
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4102401415
No.2:
(5pt)

新潮文庫からラヴクラフトが出るなんて、夢のようです!!

しかし、驚きましたね!!新潮文庫からラヴクラフトの選集が出るなんて、夢のようです!!
 しかも収録作品は、一部不満はあるものの、異次元の色彩、ダンウィッチの怪、インスマウスの影、
 など代表作が含め、全7編が収録されています。
 後、一部作品を差し替え、チャールズ・ウォードの奇怪な事件、ランドルフ・カーターもの、
 狂気の山脈、個人的好みとしては、アウト・サイダーを入れてもらえば最高だったんですが!!
 私がラヴクラフトの作品で最初に読んだのは、アウト・サイダーで、これにはビックリしましたね!!
 しかし、当時は、ラヴクラフトの作品がほとんど翻訳されておらず、
 かろうじて読めたのが、ダンウィッチの怪とインスマウスの影、位でしたかね!
 しかし、コリン・ウィルソンが、「夢見る力」でラヴクラフトの作品を取り上げたころから、
 徐々に認知され、現在では全集も出ているといった状態になってきているのです。
 しかも、日本ではコミック化され、本もたくさん出ています。
 ラヴクラフトの作品は、旧神、大いなる旧支配者、ネクロノミカン、等いろんな仕掛けがあり、
 独自の世界を形成していて、
 そのため、カルト的な人気があるようなのです。
 本作品でもそのような特徴がよく出ていて、特に、異次元の色彩、ダンウィッチの怪、
 クトゥルーの叫び声、インスマウスの影、等は必読でしょうね!!
 また、全編南條氏の新訳というのも注目すべきでしょう。
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4102401415
No.1:
(5pt)

意外なことに、文庫本で手軽に読めるラブクラフトはこの一冊だけ

あれほど有名なラブクラフトなのに、手軽に読める文庫本が、実はありませんでした。

文庫で手に入るのは創元推理文庫の『ラブクラフト全集』しかなくて、「全集」とあるせいでハードルが高い。有名な作品だけ読みたい人は、どこから手をつけていいのかわからない。おまけに、文字が小さくてつらい…。小説、アニメ、ゲームなど、様々な作品で引用されたり、パロディになったりしているのに、意外なことです。

そのような状況に風穴を開けたのがこの本です。すばらしい! ありがたい! うれしい! しかも、500頁以上もあるのに810円とは、お買い得にもほどがある。さらに、南條竹則先生がてがけられたのですから、信頼感もばっちし。

まだ読みかけなので、読み終わったら翻訳の雰囲気とか、レビューに書き加えます。日本では翻訳の独特さも含めてラブクラフトが読まれてきたので、違和感を感じる人も多いかもしれませんね。南條先生の翻訳は誠実なものだと思いますが、今まで積み重ねられてきたサブカル文脈の中ではどう評価されるのでしょうか。

まずはうれしさを伝えたくて、いてもたってもいられず、レビューしました。
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4102401415

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