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THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ
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THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全36件 21~36 2/2ページ
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矢作俊彦はもちろん、ベテランの作家である。1950年生まれで、高校生のときに既に漫画家デビューしている。普通、ベテラン作家の作品というのにはどこかしらに「馴れ合い感」とか「熟れすぎ感」があったりするのだけど、この作家の場合は、どの年代の著作を読んでもデビュー作のようにみずみずしい。作家としての気概、時代に流されない反骨精神のようなものを感じる。前作の『ららら科學の子』の主人公は中国の山奥で現代日本を知らずに過ごした男で、『ロング・グッドバイ』の主人公は、いまどきにもなって携帯電話も持っていない男である。刑事なのに。 作家の時代意識は、冒頭にひかれたヘミングウェイの言葉にもあらわれている。 <現代生活はしばしば人に機械的抑圧を与える。酒はその唯一の機械的解毒剤なのである> 原語の「Relief」を、矢作はわざわざ「解毒剤」と訳している。要するに、矢作にとって現代は「毒」なのだ。そういえば、盟友の大友克洋の『AKIRA』の中の現代/近未来も相当毒々しかった。 ところで『ロング・グッドバイ』が名作であるとすれば、それは、「毒」ではなく「解毒」に焦点があるからでる。要は、ヘミングウェイにあやかって酒を飲むシーンがとても多いわけだが、全編を通じてそこに強い解毒作用、カタルシスがある。 | ||||
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矢作俊彦はもちろん、ベテランの作家である。1950年生まれで、高校生のときに既に漫画家デビューしている。普通、ベテラン作家の作品というのにはどこかしらに「馴れ合い感」とか「熟れすぎ感」があったりするのだけど、この作家の場合は、どの年代の著作を読んでもデビュー作のようにみずみずしい。作家としての気概、時代に流されない反骨精神のようなものを感じる。前作の『ららら科學の子』の主人公は中国の山奥で現代日本を知らずに過ごした男で、『ロング・グッドバイ』の主人公は、いまどきにもなって携帯電話も持っていない男である。刑事なのに。作家の時代意識は、冒頭にひかれたヘミングウェイの言葉にもあらわれている。<現代生活はしばしば人に機械的抑圧を与える。酒はその唯一の機械的解毒剤なのである>原語の「Relief」を、矢作はわざわざ「解毒剤」と訳している。要するに、矢作にとって現代は「毒」なのだ。そういえば、盟友の大友克洋の『AKIRA』の中の現代/近未来も相当毒々しかった。ところで『ロング・グッドバイ』が名作であるとすれば、それは、「毒」ではなく「解毒」に焦点があるからでる。要は、ヘミングウェイにあやかって酒を飲むシーンがとても多いわけだが、全編を通じてそこに強い解毒作用、カタルシスがある。 | ||||
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矢作俊彦の描くハードボイルド小説のストーリーを簡潔に伝えることは不可能だ。ともすれば、読んでいる最中でさえもよく分からなくなってしまう。小説の中の探偵が先を読めずに苦労するように、読者も苦労を強いられる。 作者が理想とする読者像がどのようなものであるのかは見当がつかないが、ハードボイルド小説には、バーボンでも傾けながら、葉巻でもくゆらせて、書斎でくつろぐ姿が良く似合う。しかし、現実にはそんな読者など望むべくもなく、せいぜいが満員の通勤電車で読まれるのが関の山だ。現に私はこの小説の半分を通勤電車で、残りの半分をバーボンならぬ発泡酒と安ワインで酩酊した頭で読んだ。しかも、一気にではなく、途切れ途切れにだ。ただでさえも複雑なストーリーは細切れになってアルコールで隙間だらけになった脳髄のあちらこちらに散らばってしまった。まるで丸山昇一が脚本を書いた昔の東映セントラルの映画みたいに。 かといって、この本が出来の悪い本かと言うと、とんでもない。通勤電車の中を横浜の夜の裏通りに変え、(どんなところか行ったことはないけれど)、酩酊した頭にはサイゴンの蒸し暑い風が流れる。ばらばらであるかに見えたストーリーはジグソーパズルのようにつながり(はしないけど)、読後には、まるで鈍器で殴られた二村警部補みたいな重い疲労感が。 通勤電車の往復で読んでしまえるような軽い本が多い中、どっと疲れる、しかし最高のハードボイルドでした。 | ||||
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矢作俊彦の描くハードボイルド小説のストーリーを簡潔に伝えることは不可能だ。ともすれば、読んでいる最中でさえもよく分からなくなってしまう。小説の中の探偵が先を読めずに苦労するように、読者も苦労を強いられる。 作者が理想とする読者像がどのようなものであるのかは見当がつかないが、ハードボイルド小説には、バーボンでも傾けながら、葉巻でもくゆらせて、書斎でくつろぐ姿が良く似合う。しかし、現実にはそんな読者など望むべくもなく、せいぜいが満員の通勤電車で読まれるのが関の山だ。現に私はこの小説の半分を通勤電車で、残りの半分をバーボンならぬ発泡酒と安ワインで酩酊した頭で読んだ。しかも、一気にではなく、途切れ途切れにだ。ただでさえも複雑なストーリーは細切れになってアルコールで隙間だらけになった脳髄のあちらこちらに散らばってしまった。まるで丸山昇一が脚本を書いた昔の東映セントラルの映画みたいに。 かといって、この本が出来の悪い本かと言うと、とんでもない。通勤電車の中を横浜の夜の裏通りに変え、(どんなところか行ったことはないけれど)、酩酊した頭にはサイゴンの蒸し暑い風が流れる。ばらばらであるかに見えたストーリーはジグソーパズルのようにつながり(はしないけど)、読後には、まるで鈍器で殴られた二村警部補みたいな重い疲労感が。 通勤電車の往復で読んでしまえるような軽い本が多い中、どっと疲れる、しかし最高のハードボイルドでした。 | ||||
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もう待つことさえ諦めていた、二村刑事シリーズの第3作。横浜に生まれ住む僕にとって、矢作俊彦は特別な作家だ。隣に住んでいる、とっぽいお兄ちゃんが書いているのかと思わせる、ウチの隣近所を舞台にした物語と、チャンドラーのパクリを隠そうともしないその傾倒ぶりに、プロットだのなんだのはもう関係なくなる。そんなシリーズがまた読めるとは、予想だにしていなかった。ひとこと、うれしい。 物語はタイトルにある通り。「長いお別れ」へのオマージュそのもの。初めて読む人は、ちとアクの強すぎる台詞と、僕にはお馴染み過ぎるくらいの固有名詞や地名の羅列に面食らい、腹を立てるかも知れない。しかし、チャンドラーだってあれほどLAを細やかでリリカルに描かなかったら、今僕たちには読まれていなかったのかも知れないのだ。そういう世界にどっぷりとハマることができれば、この作品は名作となる。いい歳をして愚直なまでにチャンドラーをパクる、矢作俊彦の熱狂的な稚気に乾杯。 なお、舞台設定は実在の町や建物を下敷きにはしてあるけれど、微妙に設定を変えているので探してもムダ。でも老婦人のバー「カーリンヘンホーフ」は実在する。店名と営業形態は違うけれど、ポテト・サラダは本当に美味いですよ。 | ||||
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もう待つことさえ諦めていた、二村刑事シリーズの第3作。横浜に生まれ住む僕にとって、矢作俊彦は特別な作家だ。隣に住んでいる、とっぽいお兄ちゃんが書いているのかと思わせる、ウチの隣近所を舞台にした物語と、チャンドラーのパクリを隠そうともしないその傾倒ぶりに、プロットだのなんだのはもう関係なくなる。そんなシリーズがまた読めるとは、予想だにしていなかった。ひとこと、うれしい。物語はタイトルにある通り。「長いお別れ」へのオマージュそのもの。初めて読む人は、ちとアクの強すぎる台詞と、僕にはお馴染み過ぎるくらいの固有名詞や地名の羅列に面食らい、腹を立てるかも知れない。しかし、チャンドラーだってあれほどLAを細やかでリリカルに描かなかったら、今僕たちには読まれていなかったのかも知れないのだ。そういう世界にどっぷりとハマることができれば、この作品は名作となる。いい歳をして愚直なまでにチャンドラーをパクる、矢作俊彦の熱狂的な稚気に乾杯。なお、舞台設定は実在の町や建物を下敷きにはしてあるけれど、微妙に設定を変えているので探してもムダ。でも老婦人のバー「カーリンヘンホーフ」は実在する。店名と営業形態は違うけれど、ポテト・サラダは本当に美味いですよ。 | ||||
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矢作俊彦の新作は懐かしの二村永爾が主人公のハードボイルドである。 タイトルからして凄い。 レイモンド・チャンドラーの「THE LONG GOODBYE」の向こうをはって「THE WRONG GOODBYE」なのだから。 ストーリーの展開も似ている。明らかなオマージュなのだが、 刑事である二村が意気投合する飲み友達ビリー・ルウはテリー・レノックスを思わせるし、 二人が飲むカクテルもギムレットならぬパパ・ドーブレ。 おっと、パパとはヘミングウェイのことで彼の好きだったダイキリをダブルで、って頼み方なんですけどね。 細部の会話にも小技がビシバシ決まりまくりで、痛快です。 「リンゴォ・キッドの休日」、「真夜中へもう一歩」を読みなおし、 ついでに「長いお別れ」まで再読したくなる、そんな大傑作です。 昔、資生堂の男性用化粧品のCFに小さなランチ(ってもう言いませんか、モーターボートですね)に乗って三船史郎が港に戻ってくるのがあって、 そのコピーが「帰ってまいりました」というだけで異常にカッコ良かったのを思い出してしまいました。 | ||||
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矢作俊彦の新作は懐かしの二村永爾が主人公のハードボイルドである。タイトルからして凄い。レイモンド・チャンドラーの「THE LONG GOODBYE」の向こうをはって「THE WRONG GOODBYE」なのだから。ストーリーの展開も似ている。明らかなオマージュなのだが、刑事である二村が意気投合する飲み友達ビリー・ルウはテリー・レノックスを思わせるし、二人が飲むカクテルもギムレットならぬパパ・ドーブレ。おっと、パパとはヘミングウェイのことで彼の好きだったダイキリをダブルで、って頼み方なんですけどね。細部の会話にも小技がビシバシ決まりまくりで、痛快です。「リンゴォ・キッドの休日」、「真夜中へもう一歩」を読みなおし、ついでに「長いお別れ」まで再読したくなる、そんな大傑作です。 昔、資生堂の男性用化粧品のCFに小さなランチ(ってもう言いませんか、モーターボートですね)に乗って三船史郎が港に戻ってくるのがあって、そのコピーが「帰ってまいりました」というだけで異常にカッコ良かったのを思い出してしまいました。 | ||||
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横浜、横須賀。アメリカ人、中国人が、闊歩する街。主人公はその街の刑事。酒場で知り合い、消えた友人は、本当に自分に犯罪の片棒を担がせたのか?圧力や妨害を受けながら、一人、主人公は、真相を探します。暗躍する公安やアメリカ軍、やくざ。最後の最後まで、深まる謎。真相を探る過程で明らかになる事実、発生する事件がつながり、そして真相は・・・? 孤高の主人公、自分の掟へのこだわり、友情、約束、過去を抱える人々、酒、拳銃、さめた文体、COOLなユーモア、まさに、正統派のハードボイルド!でした。 かなり丁寧にかかれた本という印象です。読み終わった後、またすぐ読み返したくなるような傑作でした。 | ||||
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横浜、横須賀。アメリカ人、中国人が、闊歩する街。主人公はその街の刑事。酒場で知り合い、消えた友人は、本当に自分に犯罪の片棒を担がせたのか?圧力や妨害を受けながら、一人、主人公は、真相を探します。暗躍する公安やアメリカ軍、やくざ。最後の最後まで、深まる謎。真相を探る過程で明らかになる事実、発生する事件がつながり、そして真相は・・・?孤高の主人公、自分の掟へのこだわり、友情、約束、過去を抱える人々、酒、拳銃、さめた文体、COOLなユーモア、まさに、正統派のハードボイルド!でした。かなり丁寧にかかれた本という印象です。読み終わった後、またすぐ読み返したくなるような傑作でした。 | ||||
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いつしか失われてしまった汚らしく危なっかしくも魅力満点だった横浜の街。 20年ほど前、著者はそれを悼むように繰り返しこの街のデテールをハードボイルド作品に登場させてきた。 著者の「あの頃」にかろうじて引っかかる世代の私も、近頃は私も死んだ子の齢を数えるのをやめてしまい、同時に矢作作品からも遠ざかってしまっていた。 今頃、気まぐれに検索したamazonで二村永爾に再開するとは思っても見なかった。 読んでみて「今の横浜だって捨てたもんじゃないよな」と思った。 まあ、「あの頃」を彷彿とさせる実再には存在しないロケーションも多々出ては来るのだが・・・ 寧ろ著者よりずっと若い私の方が、かつての港町への憧憬が強すぎて今自分が暮らす街を楽しめていないんじゃないかと感じ、矢作流に言えばそんな自分に少し腹が立った。 パズルのピースがだんだんと揃って構図が浮かび上がってゆくような展開、生き生きしたリアルな人物描写と、対照的にフィクションだからこそ存在可能なヒロインの存在。 昔わくわくしながら読んだシリーズの良さもちゃんと兼ね備えている。 著者と横浜が大好きな者は必ず読むべし。 | ||||
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いつしか失われてしまった汚らしく危なっかしくも魅力満点だった横浜の街。20年ほど前、著者はそれを悼むように繰り返しこの街のデテールをハードボイルド作品に登場させてきた。著者の「あの頃」にかろうじて引っかかる世代の私も、近頃は私も死んだ子の齢を数えるのをやめてしまい、同時に矢作作品からも遠ざかってしまっていた。今頃、気まぐれに検索したamazonで二村永爾に再開するとは思っても見なかった。読んでみて「今の横浜だって捨てたもんじゃないよな」と思った。まあ、「あの頃」を彷彿とさせる実再には存在しないロケーションも多々出ては来るのだが・・・寧ろ著者よりずっと若い私の方が、かつての港町への憧憬が強すぎて今自分が暮らす街を楽しめていないんじゃないかと感じ、矢作流に言えばそんな自分に少し腹が立った。パズルのピースがだんだんと揃って構図が浮かび上がってゆくような展開、生き生きしたリアルな人物描写と、対照的にフィクションだからこそ存在可能なヒロインの存在。昔わくわくしながら読んだシリーズの良さもちゃんと兼ね備えている。著者と横浜が大好きな者は必ず読むべし。 | ||||
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もはや一冊の本としては刊行されまい、と半ば諦めていた二村永爾シリーズの新作。それを読める日が現実に来たのだ、いったい何人の矢作俊彦の愛読者が狂喜したことだろう。小説好きにおいては未だ少数派であるにせよ。 前作から19年経ち、学生時代は野球で神宮へ行き現在は神奈川県警本部捜一勤務の二村警部補も確実に歳を重ねている。再開発が進み変貌を遂げる横須賀や横浜に意地でも無関心を決めこみ、IT機器を使いこなす旧友に心底驚くあたりがその証左か。 その一方、二村が“フリーの警官”として依頼人の為にプライヴェートな捜査をする事でハードボイルド探偵小説のアイデンティティを獲得している点が本シリーズの肝なのだが、今回は“別組織への出向”という形でこの課題を巧みに処理している。事件の背後に見え隠れする在日米軍の影、これも一作目からの継続事項だ。 そして、題名からも明らかなように、本作品はレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』へのオマージュとなっている。他の書き手ならいざ知らず、矢作が本腰を入れてこの趣向に取り組んだのは今回が初めてではないだろうか。なにしろ原典がチャン師匠の代表作なのだ、安易に手を出すのは今まで控えていたと邪推する。その甲斐あってか、細部はもちろん異なるにせよ、物語の骨格や雰囲気は『長いお別れ』をきちんと踏まえ折り目正しい本歌取りに仕上げている。テリー・レノックスの矢作的変奏もプラスに働いていると思う。ギムレットからダイキリへの変更など、如何にもこの作家らしい遊びではないか。 30年前、「ニュー・ハードボイルドの旗手」としてデビューを飾った矢作俊彦。近年は『あ・じゃ・ぱん(!)』でハードボイルドパロディの頂点を極め、続く『ららら科學の子』ではミステリそのものからの離陸さえ予感させたが、ことここに至って何と原点回帰を思わせる作品を出してきた。かつてのような比喩の多用からは遠ざかった文体、いささか錯綜しすぎたプロットなど不満な点はあるものの、ひさびさの直球勝負で来たことに変わりはない。ここは作者の気まぐれを素直に享受すべきだろう。“基地と港の街のキャッチャー”は今も依頼人の名誉と自分の信条を守り続けているのだ。 | ||||
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もはや一冊の本としては刊行されまい、と半ば諦めていた二村永爾シリーズの新作。それを読める日が現実に来たのだ、いったい何人の矢作俊彦の愛読者が狂喜したことだろう。小説好きにおいては未だ少数派であるにせよ。 前作から19年経ち、学生時代は野球で神宮へ行き現在は神奈川県警本部捜一勤務の二村警部補も確実に歳を重ねている。再開発が進み変貌を遂げる横須賀や横浜に意地でも無関心を決めこみ、IT機器を使いこなす旧友に心底驚くあたりがその証左か。その一方、二村が“フリーの警官”として依頼人の為にプライヴェートな捜査をする事でハードボイルド探偵小説のアイデンティティを獲得している点が本シリーズの肝なのだが、今回は“別組織への出向”という形でこの課題を巧みに処理している。事件の背後に見え隠れする在日米軍の影、これも一作目からの継続事項だ。 そして、題名からも明らかなように、本作品はレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』へのオマージュとなっている。他の書き手ならいざ知らず、矢作が本腰を入れてこの趣向に取り組んだのは今回が初めてではないだろうか。なにしろ原典がチャン師匠の代表作なのだ、安易に手を出すのは今まで控えていたと邪推する。その甲斐あってか、細部はもちろん異なるにせよ、物語の骨格や雰囲気は『長いお別れ』をきちんと踏まえ折り目正しい本歌取りに仕上げている。テリー・レノックスの矢作的変奏もプラスに働いていると思う。ギムレットからダイキリへの変更など、如何にもこの作家らしい遊びではないか。 30年前、「ニュー・ハードボイルドの旗手」としてデビューを飾った矢作俊彦。近年は『あ・じゃ・ぱん(!)』でハードボイルドパロディの頂点を極め、続く『ららら科學の子』ではミステリそのものからの離陸さえ予感させたが、ことここに至って何と原点回帰を思わせる作品を出してきた。かつてのような比喩の多用からは遠ざかった文体、いささか錯綜しすぎたプロットなど不満な点はあるものの、ひさびさの直球勝負で来たことに変わりはない。ここは作者の気まぐれを素直に享受すべきだろう。“基地と港の街のキャッチャー”は今も依頼人の名誉と自分の信条を守り続けているのだ。 | ||||
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探偵小説としての出来が素晴らしいのは勿論のこと、 『ららら科學の子』以降の力強い第一歩として記憶されるべき作品。 チャンドラー『長いお別れ(The long Goodbye)』を底本に、 二村永爾が複雑な一つの話を物語る。 アクセントに自作『新ニッポン百景』等も加えつつ、なお洗練されている、 というのは驚異を通り越して感嘆させられる。 通底するテーマ、不本意を生きざるを得ない人間(とその中での誇り) も作品にコクと鋭さを与えている。携帯電話を巧く用いているのも凄い。 そして今回は、二村永爾が。(以下乞うご期待風に) | ||||
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探偵小説としての出来が素晴らしいのは勿論のこと、『ららら科學の子』以降の力強い第一歩として記憶されるべき作品。チャンドラー『長いお別れ(The long Goodbye)』を底本に、二村永爾が複雑な一つの話を物語る。アクセントに自作『新ニッポン百景』等も加えつつ、なお洗練されている、というのは驚異を通り越して感嘆させられる。通底するテーマ、不本意を生きざるを得ない人間(とその中での誇り)も作品にコクと鋭さを与えている。携帯電話を巧く用いているのも凄い。そして今回は、二村永爾が。(以下乞うご期待風に) | ||||
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