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(短編集)

あくむ



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【この小説が収録されている参考書籍】
あくむ
あくむ (集英社文庫)

あくむの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

悪夢も色とりどり

幻聴、幻視、白昼夢、幻覚、正夢といった5つの“悪夢”を集めた短編集。

冒頭の「ホワイトノイズ」はエアバンド・レシーバーという電波傍受機器を購入したぼくが盗聴を繰り返すうちにやがて柳原美嶺子という名の女性が浮気相手からの執拗な電話に困っている会話を傍受し、美嶺子を助けようと一大決心をするが・・・といった話。
次の「ブラックライト」は交通事故に遭った画家が、入院に見せかけた誘拐ではないかと疑い、脱出を試みる話。
吸血鬼を主人公に据えた「ブルーブラッド」は数学教師として普通の人間として暮らす野津原は、血を吸いたいという欲望を夢の中でのみ満たしていたが、同僚の女性教師とデートする長い夢を見るうちに現実と区別がつかなくなるといった話。
「ゴールデンケージ」は財閥の御曹司のエリートの兄と不良の弟を主人公に据えた話。
そして最後の「インビジブルドリーム」はエキストラで日銭を稼ぐ劇団員のカップルに訪れた奇妙な出来事を語る。それは相手の見た夢が正夢となって男に降りかかるのだった。次第にそれはエスカレートしだし・・・。

それぞれの短編はヴァラエティに富んでおり、作者が終始ホラーに徹したのが軸がぶれずによかった。しかし、内容はホラーというよりも“奇妙な味”といった方が正確だろうか。作者の用意した結末やストーリー展開はどこか歪だ。
というのもここに収められた短編の主人公全てが自らに起こった錯覚に対して自覚的ではない。夢や幻覚であることを認めない、もしくは逆に悪い現実を悪夢としてしか認めないのだ。だから作品は全てどこか夢心地のまま、終わる。

特に「ゴールデンケージ」の結末はなんともいえない後味の悪さが残る。
出来のよい兄と不良の弟のよくある設定を据え、不良の弟を主人公に据えながら物語が展開するかと思いきや、一転してエリートの賢介のストーリーが始まる。物語はこの兄に訪れる幻覚がメインなのだが、導入部に据えられたナイフで自傷する血まみれの兄の真相よりもそれがもたらす兄弟たちへの影響が残酷。救いようがないとは正にこのことだ。この作品に本書のタイトル「あくむ」が象徴的に表れているように感じた。

各5編のうち、ベストは「ブルーブラッド」か。いきなり導入部から自身が吸血鬼である事を明かしている事で、その設定を受け入れやすかったのも一因だが、何よりも夢として語られる女性教師とのデートシーンがかつての自分を思い出させ、むずむずするやらワクワクするやらで非常に面白かった。とはいえ、本書のタイトルの方向性を違えることなく、結末は悲劇的なのだが・・・。
「インビジブルドリーム」も設定自体は面白いが、最後の最後で不条理小説になってしまったところに戸惑いを覚えた。

こういったことからも作者の拵えた設定・世界にノレるかノレないかで評価が分かれる作品集だろう。私は五分五分といったところだろうか。

Tetchy
WHOKS60S

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