■スポンサードリンク


ポイントブランク



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
ポイントブランク (集英社文庫)

ポイントブランクの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前作以上に007シリーズのオマージュ盛り沢山

14歳の少年スパイ、アレックス・ライダーシリーズ第2作。
今回のアレックスの任務はある実業家の息子に成りすまして、世界有数のエレクトロニクス会社々長と元KGB将軍2人の不審死の謎を探ることだ。

他人の息子に成りすまして謎多き寄宿学校に潜入するというホロヴィッツは今回もこの14歳の少年スパイという特殊設定を存分に活かしたストーリーを用意したというわけだ。

そしてエンタテインメント・ジュヴナイル小説として実に王道を行く内容でそこここに少年少女をくすぐるようなアイテムが織り込まれている。

例えば本家007同様にMI6の武器開発者のスミザーズから今回も秘密兵器がアレックスに渡される。断熱効果抜群の防弾、衝撃吸収機能を備えたスキー・スーツに赤外線暗視機能付きのスキー・ゴーグル。あとCDが電動ノコに変わって何でも切断でき、更にはSOS信号も送れるCDプレーヤー(流石にこれは時代を感じるが)に小型爆弾機能付きのピアス。そしてとどめは麻酔銃になる特装版『ハリー・ポッターと秘密の部屋』だ。

更には007の本歌取りは今回も踏襲されており、上に書いたようにアレックスが渡されるアイテムの中にスキー・スーツがある時点でお馴染みの雪山でのアクションがお約束通り繰り広げられる。スノーモービルを操る警護兵にアレックスがスキーではなく手製のスノーボードで逃げるのは現代風だ。

更にはヘリコプターで逃げるグリーフ博士も007シリーズではもはや定番と云っていいだろう。それを阻止するためにアレックスがジャンプ台を利用してスノーモービルを逃げようとするヘリコプターにぶつけて爆破するのも007のみならず多数のアクション映画で観たシーンであり、この辺りはあまりに定型的すぎるとは感じたが。

また私が感心したのは冒頭のアレックスが麻薬の売人を警察に突き出すのに彼らが麻薬製造に使っている艀を大型クレーンで吊って近くの警察署まで運ぼうとする場面で、きちんと艀の重さがクレーンのブーム長さによって決められる許容吊り荷重を越えていないと書かれている点だ。
単純にクレーンを使って艀を吊り上げて警察署まで吊り上げると云う、いわば物語の掴みの派手なシーンにおいて単純な発想に終始したものでなく、現実的に可能であることを説明している作者の姿勢には感心した。これは専門知識を知っているか、もしくはきちんと取材していないと書けない内容だ。

また007のオマージュと云えばジョーズとかオッド・ジョブやニック・ナックといった個性的な怪人が現れるが、本書ではポイントブランク・アカデミーの女性副校長エバ・シュテレンボッシュ女史がそれにあたる。なんせ女性でありながら風貌はゴリラそのもので5年連続南アフリカの重量挙げチャンピオンである怪力を誇る。つまり通常の男性は格闘では歯が立たず、アレックスもまた手も足も出ないほどに叩きのめされる。

またキャラクターと云えば主人公に仲間が増えていくのがシリーズ作品の面白さの1つであるが前作でアレックスがスパイの訓練のために入ったSASのキャンプで虐め役となったウルフが再登場する。訓練の最後ではアレックスがウルフを救ったことで2人は友情を深めることになったが彼がポイントブランク・アカデミー殲滅作戦の指揮を採る。

またアレックスのいわば目の上のタンコブ的存在のMI6局長アラン・ブラントが相変わらずスパイに対して非情な態度を示すのに対して―アレックスがSOSを送ってもしばらく様子を見ようとして、半ば見捨てるような発言をする―、秘書のジョウンズ夫人がアレックスに同情を示すようになったのが大きな変化だ。今後ジョウンズ夫人がアレックスの隠れた支援者としてどのように関わってくるのかも気になるところだ。

冒頭の麻薬売人の派手な捕物シーン、他人への成りすましのための訓練とそこで出遭ったお嬢さまとの恋愛ニアミス、そして悪の巣窟への潜入捜査、そこからの脱出に巣窟への襲撃と囚われの息子達の救出と敵たちとの戦いと殲滅。更に意外なところで再び現れた敵との戦いと頭から尻尾までぎっしりと餡子が詰まったエンタメ小説。
本当にホロヴィッツは本家007を忠実に擬えてこのアレックス・ライダーの物語を綴っている。読書好き、アクション映画好きの少年少女たちがこのアレックス・ライダーシリーズが思い出の作品になっているのかは不明だが、彼ら彼女らを愉しませようと計算して作られているのは解る。
しかしその教科書通りの展開は水準ではあるが突出した何かを残すものではないのが残念だ。

さて本書のタイトルだがPOINT BLANCというフランス語から来ており、英語のPoint Blankもこれに由来しているとのこと。意味は「至近距離からの直射」、「直撃」、「あからさまな」、「率直な」という意味のようだ。

スパイという身分を偽り、時には非情な判断を下す稼業を14歳という若さで就くことになったアレックス・ライダーがいつまでその実直さを保てるのか。死と隣り合わせのスパイという職業をカッコいいだけでなく、道具のように扱う上司もあしらうことで大人の世界の汚さも見せるこの作品はある意味思春期の少年少女達の大人への通過儀礼の意味合いもあるかもしれない。

いややはりそれは考え過ぎだろう。この明らさまなまでにエンタテインメントに徹したアレックスの活躍をただただ愉しむのが吉だ。

純なスパイ、アレックスの次回の活躍を愉しみにしていよう。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!