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ドリーム・マシン



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ドリーム・マシンの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
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No.1:
(7pt)
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映画『マトリックス』の原型?

1977年に発表された本書は一世を風靡し、映画を変えたとまで云われた『マトリックス』の原型となる作品だろうか。

リドパス投射器という死体安置所の抽斗のようなところに寝かされ、投射された人々はウェセックスという仮想世界でそれぞれの仕事に就き、生活を営むのだ。

それはセカンド・ライフのような仮想空間であるが、催眠状態に陥って自身の意識がその空間に飛び、体感する有様はまさに『マトリックス』のようだ。
仮想空間に飛んだ人々は回収係という人間によって強引に引き戻される。それは鏡を使って誘導されるのだが、これが『マトリックス』の電話と同じ役割のようだ。

ただ『マトリックス』では仮想空間マトリックスにいる間も現実世界の記憶を留めたままなのに対し、本書では投射世界で現実世界での記憶を忘れてしまうところだ。ただ出逢った人間によってお互いが初めて逢う人間ではないといった既視感や懐かしさを感じたりするのだ。

しかしこの投射世界という想定された未来世界に人を投入するウェセックス計画の内容が読者に解るのは150ページを過ぎたところ。つまり物語の約4割を過ぎたあたりからだ。それまではジューリア初め、他の参加者たちが投射される目的が全く分からないまま物語は進行する。

そして特徴的なのは仮想の投射世界と現実世界のやり取りがシームレスで交互に語られることだ。つまり読者には物語の世界が現実世界の事なのか投射世界でのことなのか区別がなかなかできなくなってくるのだ。
特に物語の鍵を握るポール・メイスンが介入してきた後半はその特性が高まる。なぜなら投射世界の中に投射器が出てくるからだ。そして現実世界ですら、投射世界から投射されたもう1つの投射世界ではないかという混乱をももたらす。
そして物語の最終局面に至ってはデイヴィッドのいる投射世界の投射器の中に再び投射されたジューリアの肉体が収容されているというパラドックスが訪れる。そして果たしてどちらが現実でどちらが仮想世界なのか、ますます混乱を来してくるのだ。
逆にこれこそが作者プリーストの狙いなのだろう。2つの世界を行き来する登場人物たちが抱く感覚を読者にも共有することが。そしてこの狙いは成功していると云えよう。

しかしこの物語で登場するポール・メイスンとは何と云う卑劣漢だろう。主人公ジューリアの元恋人でハンサムでカリスマ性のある人物像だが、自己愛が強く、自分の願望を満たすために強引な手も厭わない。そして自分を嫌いになる人などは存在しないと思い、好意を持たない人物には徹底的に苛め、破滅させようと追い込む。
クーンツ作品によく出てくる絶望的なまでな悪意を備えておきながらも当事者以外には好人物として振舞うエゴの権化のような悪党だ。

この2つの区別のつかない世界を与えられた時、そして仮想空間の方が心地よい居場所だった時に、その人にとって現実とは果たしてどちらなのか。これが作者の本書におけるメッセージであると思う。
1977年に書かれた本書は今のネット社会を予見させる内容だ。現にネット社会に耽溺し、廃人となる人々もいる。全く以て余談だが、私もオンラインゲームを嗜んでいるが、日々の雑事で週末の休日ぐらいしか訪れない。しかしそれでも常にそこにいるユーザーが居て、この人たちは一体現実世界ではどのように生活しているのだろうかと訝ることもしばしばだ。

閑話休題。

しかしこの2つの世界を行き来するという設定の基礎となるウェセックス計画と云うのが今いち弱いと感じる。
数年後の想定未来に被験者は行って、どうやって現代の社会問題をクリアしたのかを調査するのがこの計画の目的というのはいささか難がある。なぜなら想定未来自体が作られた物であり、今直面している危難や社会問題のない世界、つまり理想郷だからだ。そうなるべき姿にどうやってなったのかを調べるというのはつまりは人間の意識下における創造の産物にしかならない。
あ、そうか、これは弁護士や経済学者、生化学者などの専門分野の人々を集めて投射世界という理想郷に送り、問題解決の方策が書かれた文献の調査と云う名目でその実、彼らの意識の奥底にある解決への道を考えさせるというのが本来の目的なのかもしれない。

しかし作者がそこまで考えていたのかは甚だ疑問だ。やはりこの設定には苦しさを感じてしまう。

また私は本書を別な方法で物語を閉じる方が良かったように思う。特に360ページ辺りでジューリアが投射世界の投射器に入った自分を発見する件では、世界がひっくり返るような眩暈を覚えたものだ。

結局物語は何も解決せずに終わった。なんとも厭世観濃いこの結末にまだ戸惑ってしまう自分がいるのだった。



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Tetchy
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