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(短編集)

クルンバーの謎



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クルンバーの謎の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
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No.1:
(7pt)

ドイルの古代宗教への造詣の深さを知る

東京創元社のコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ以外の隠れた短編を集めた傑作集もこれで3冊目。
しかし前巻が出たのが2004年の12月であるから2年半後の刊行である。正直なところ、発行部数が伸び悩んで打ち切りになったと思っていた。
1,2巻は以前読んだ新潮文庫の傑作集と重複する物もあったが、本作に収められた5作の中短編は手元にそれらの文庫が無いのではっきりしないが、記憶に残っている限り、初めて読む作品群だ。

今回の中短編にはある一貫したテーマがある。それはアジアを中心とした諸国に古くから信仰されている古代宗教に伝わる呪術をモチーフにした怪異譚であること。
まず冒頭の「競売ナンバー二四九」はオックスフォード大学近くにある下宿屋に住む学生の1人がエジプトで発掘したミイラをある秘法によって操る話。
次の「トトの指輪」は不死の能力を手に入れた古代エジプト人が永遠の死を模索する話。
「血の石の秘儀」はイギリスはウェールズの山奥の村である夫婦が体験したドルイド教の生贄の儀式の話で、続く「茶色い手」は彷徨えるインド人の霊魂の話。最後の表題作はインド高僧を殺害したかどで夜毎死の恐怖に怯えるイギリス将校の話。

上記に述べたようにこれら作品に使われているモチーフは21世紀のこの世においてもはや手垢のついたテーマ以外何物でもない。実際、読後した今、これらを読んだ事で新たなる驚き、衝撃が走るような物は1つも無かった。
しかし、これら中短編群はドイルという作家の一側面を語るのに貴重である事は確かだ。

この中に語られている古代宗教に対するドイルの考察は19世紀後半当時、かなり刺激的ではなかったのではないだろうか?特に欧米人にとって未知の領域とされていたエジプト文化、インドのヒンドゥー教に関する記述に関してはかなり詳細に記載され、それを怪異譚に結びつけ、作品へと結実したところにドイルという作家の価値があると思う。
特に最後200ページ弱の分量で以って語られる表題作「クルンバーの謎」は将校が何に怯えて堅牢な城郭を拵えるのかという物語の主題よりもその物語を飾り立てるインド宗教に関する薀蓄の詳細さに驚いた。しかも本作では他の作品が怪異を怪異のままで終わらせているのに対し、何故そのような怪異が起こりえたのかを当時得られたであろう最高の研究成果を基に叙述している。それがこの物語の成功に寄与しているか否かは別として、この中身の精緻さはドイルが如何にこの分野に興味を深く示し、また造詣が深かったかを表している。

そういえば晩年のドイルは心霊学に傾倒し、神秘研究に没頭していたと聞く。何年か前にフェイクである事が発覚したコティングリー村の妖精騒動もドイルがその信憑性を補完する発言を行ったことでつい最近まで真実だと信じられていた。そういった背景も考えるとやはりドイルは古代宗教の研究においても権威であり、当時この作品群は読者たちの注目を集め、またドイルの名を高める一助になっていたに違いない。
2巻目までの感想は単なるコレクターアイテムとしてこの作品に付き合っていこうというぐらいの気持ちでしかなかったが、本作を読むとなかなか面白いし、まだまだドイルの未読作品も捨てた物ではないなと感じた。出版元の東京創元社には根気よくシリーズの刊行を続けて欲しいものだ。

Tetchy
WHOKS60S

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