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さらわれたい女



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【この小説が収録されている参考書籍】
さらわれたい女 (講談社文庫)
さらわれたい女 (角川文庫)

さらわれたい女の評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

変則的な誘拐物と見せかけて

誘拐ミステリも数あるが、今回歌野氏が仕掛けたのは狂言誘拐。それも夫の愛情を確かめたいがための誘拐という、ちょっと浮世離れしたお嬢様育ちの容姿端麗の人妻の変わった依頼で幕を開ける。

1992年というバブルの名残ある時期に書かれた本書。そこここに時代を感じさせる記述が散見されて懐かしさを覚えた。
偽装して現れた誘拐の捜査をする警察官が来ていたのがアルマーニ調のスーツ(となぜかアタッシェ・ケースにクマのぬいぐるみを携えての登場と、逆に目立つような恰好なのがよく解らないのだが。とにかくパーティーや女性へのプレゼントが横行していた当時こんなアンバランスな恰好が普通だったのか?)だったり、まだ携帯電話は普及しておらず、自動車電話やショルダーフォンがセレブの持ち物となっていた時代だ。そんなまだアナログ社会で狂言誘拐を頼まれた便利屋が立てた方法がなかなか機知に富んでいて面白い。

警察からの逆探知を逃れるために今では災害時に使われるようになったNTTが提供する伝言ダイヤルサービスや今は無き悪名高いダイヤルQ2を利用して、録音やパーティラインによるやり取りで直接電話を繋げないようにしたり、自宅ではなく会社の方に電話したりするなど、工夫が凝らされていて読み手の予想の斜めを行く展開でどんどん読まされてしまった。

しかしそんなコミカルなムードも物語半ばで一転する。

若奥様の旦那への嫉妬から悪戯心で起こした狂言誘拐、それを利用して大金をせしめた便利屋、それが殺人事件に発展するという展開は悪事が雪だるま式に転がって肥大していく様を思い描かされる。
最初はほんの悪戯だったのが、金が絡み、そして人の命を奪うまでに発展する。本書の中でも云っているが悪い事はできないものだ。そして悪い時には悪い事が重なるものだ。そんな人生転落劇のような様相を呈してくる。

便利屋が負うことになった死体遺棄の一部始終は息詰まる内容であり、更に自分に捜査の手が及ぶまでにその後事件の発覚を恐れて殺人者を見つけ出して殺害することを決意するなど、物語のトーンはどんどん暗くなっていく。
しかし便利屋による犯人捜査の顛末は私立探偵による人捜しの面白さを彷彿させる。

さらにその後の展開も読者をさらに迷宮に誘う。

誘拐する側とされる側の側面で描きながら、いつしか殺人の罪を着せられ、やがて殺人事件の捜査へと転じるツイストの効いた作品。
そう、本書は誘拐あり、殺人あり、人捜しありの実に贅沢なミステリなのだ。

しかしこの頃歌野氏は本書の前に『ガラス張りの誘拐』という同じく誘拐を扱った作品を書いている。誘拐ミステリはなかなか数多く書かれるものではないのでこれは非常に珍しいと思える。
そしてそちらも本書同様意表を突く展開でなかなか事件の様相が掴めなかった。しかしその反面アイデアに走り過ぎて作品としてのバランスに欠けるような印象も拭えなかった。

しかし好評を以って迎えられた乱歩の文体を模した『死体を買う男』を経た本作は『ガラス張りの誘拐』で覚えた消化不良感を払拭する出来栄えでとにかく謎から謎の展開でクイクイ読まされてしまった。
ただやはり結末の付け方は慌ただしく、読書の余韻としては物足りなさを感じた。アイデアはいいものの、物語としては不十分。つまりこの頃の作品には『葉桜~』に至る以後の歌野晶午作品の萌芽が見られる貴重な作品群といえるだろう。

信濃譲二というシリーズ探偵物でデビューした歌野晶午氏の本質はそういった典型的な本格ミステリよりもこのように二転三転して読者の思いもかけなかった事件の様相が明らかになる、サスペンス風本格ミステリの方にあるように思えてならない。現代の歌野ミステリのルーツは『ガラス張りの誘拐』や『死体を買う男』と本書へと連なっていると思われるのでまずは『長い家の殺人』以降の3作品よりもこちらを読むことをお勧めしたい。
まあ、私が信濃譲二をあまり好きではないことも一因としてあるのだが。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]  ネタバレを表示する

軽快なテンポの誘拐作品

大きな仕掛けのミステリと言うよりはテンポの良いサスペンスです。
男性が女性にひどく振り回されている印象を受けました。

今の世では携帯電話が普及していて馴染みがないかもしれませんが、本書が書かれた90年代の電話サービスが上手く活用された作品で、仕掛けもなかなか面白かったです。

なっつ
9KCW4J9X

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