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トラ さんのレビュー一覧
トラさんのページへレビュー数47件
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男装の女剣士・毛利玄達と柳生十兵衛が、諸国を回りながら過去の剣豪たちの逸話や秘伝に付いての考察を行うと言う話で、3話の連作短編です。
「柳生十兵衛秘剣考」の続編になりますが、今回も玄達と十兵衛の掛け合いも面白く、剣術小説としても興味深い話になっています。 「一刀流“夢想剣”」 伊東一刀斎にまつわる逸話に関しての話です。 玄達と十兵衛が、一刀斎の後を継いだ小野次郎右衛門の墓前で偶然に出会った老人が、一刀流の継承を争った、次郎右衛門と善鬼の決闘に立ち会っていた同門の一人だったことから、一刀斎の経歴に異説が多いのはなぜか・・・と言う事を探っていくという話です。 この一刀流の継承を争った決闘は、私でも知っている有名な話ですが、その後の一刀斎については、何の話も残って居らず、その後どうなったのかという事も含めて、大胆な仮説を十兵衛が立てるという流れです。 剣術の流派の世界には、こういうこともあったのだろう・・・と思わせるような興味深い推理でした。 「新陰流“水月”」 一羽流の諸岡一羽の元で同門だった、根岸兎角と岩間小熊の「常盤橋の決闘」の話だそうですが、私はこの話は全く知りませんでした。 岩間小熊が根岸兎角を「常盤橋の決闘」で破ったことから、小熊は兎角が創設した微塵流道場の師範として迎えられますが、ある日、小熊は湯殿の中で血まみれで発見されます。 中からかんぬきが掛けられていたことから、密室の殺人と言うことになりますが、「実は、微塵流道場の者が、根岸兎角の敵討ちとして、丸腰で裸同然の小熊を殺害した」ということで、その後、微塵流道場の門弟が狙われることになります。 たまたまそういう現場に出くわした玄達と十兵衛が、その抗争に巻き込まれてしまい、密室殺人の謎を十兵衛が推理しますが、なぜ密室で殺人が起こったのかと言うところが面白い話になっています。 「二階堂流“心の一方”」 二階堂平法の松山主水(もんど)の謎にまつわる話です。 ちなみに、二階堂平法とは、初伝を「一文字」、中伝を「八文字」、奥伝を「十文字」とし、これら「一」「八」「十」の各文字を組み合わせた「平」の字をもって平法と称した・・・と言うことですが、私はこの話を中学生の頃に読んだ、白土三平のマンガ・「真田剣流」と「風魔」で知りました。 また、タイトルにある「心の一方」とは、瞬間催眠術のような秘術だということらしいです。 玄達は、「心の一方」の前では、どんな剣豪でもかなわないのではと考えますが、十兵衛は主水の奇怪な行動からある仮説を立てる・・・と言う話です 後日談ですが、松山主水は「荘林十兵衛」という人物によって、簡単に暗殺されてしまいます。 このような秘術を持った人物が、なぜ簡単に暗殺されてしまうのかと言う事も納得させられてしまう話になっていますが、この後日談を知らない人にとっては、中途半端な終わり方になっているので、ちょっと不親切な話ではないでしょうか。 |
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長編作の『切り裂きジャックの告白』で登場した、警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人が主人公の七編の連作短編集です。
「小説野性時代」に掲載された6話に、書き下ろしの1話が追加されて刊行されたと言う事です。『切り裂きジャックの告白』は未読なので、犬養隼人については予備知識はありませんでした。 目や唇の動きを見ただけで嘘を見抜く鋭い観察眼を持っており、男の犯人に限るなら検挙率は本庁で1,2位を争う捜査一課のエースだと言う事ですが、女には騙されてばかりいる・・・と1作目の「赤い水」で紹介されています。 全作ともホントに短い話です。 その中にどんでん返しが入って居るという事で、興味を持って読んでいきましたが、あっと驚くような「どんでん返し」では無く、事件を追っていく内に、捜査の流れの中で違う事実が判明した・・・と言う程度のものでした。しかも、一作目を読めば、その他の作品の展開もだいたい予想が出来てしまいます。 7作を一息に読んでしまったので、面白さが半減したのかも知れませんし、話が短すぎます。 不定期な形で、一作ずつ雑誌に掲載されている方が、それぞれの印象が良いのかも知れません。 また、主人公である警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人の特徴(というか特技)が、この話ではほとんど生かされていないように感じました。 自分が気になった事件には、管轄外であっても何処にでも顔を出してくる、出しゃばりの刑事だというだけの印象です(笑) ただ、最終話の書き下ろしの話は、それまでの話(どの話かは言えません)の続編という形で書かれていたので、ちょっと面白く読みました。 一度読んだ後、この話だけ2作続けて読みましたが、やはり、これぐらいの長さが無いと、話の深みが出てこないのかも知れないですね。 この短編集で興味深かったのは、「黄色いリボン」です。 性同一性障害の話を扱っていますが、1日に1度だけ女の子の格好をして、「ミチル」と言う名で外出しても良いと両親に許されている少年・桑島翔の視点で話が進んでいるのもユニークです。 でも、最後のどんでん返しが「普通」だったのが残念でした。 |
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このシリーズの二作目・「黒龍荘の惨劇」を先に読んでいましたが、シリーズの一作目が文庫で発売されたと言うことで、購入しました。
二作目の「黒龍荘の惨劇」は、取って付けたような時代背景でしたが、本書は、明治憲法発布を見据えた頃という時代の様子も興味深く書かれており、それなりに良く出来ているように思います。 登場人物には、伊藤博文だけで無く、津田うめや大山捨松だったり、半玉時代の川上貞奴までが顔を出していますが、調べて見ると、津田うめが伊藤への英語指導や通訳のため雇われて、伊藤家に滞在していたと言うことも事実だったそうで、日本初のチャリティーバザーでの資金をもとに、日本初の看護婦学校を設立した等々・・・、そういうこともストーリーに上手く取り入れてあり、明治という時代を何気なく感じてしまう話になっています。 ミステリとしては、殺人のトリックもイマイチだし、メインとなるトリックも何度も使われたようなものだったうえに、読者には犯人探しが出来ないようになっている点は少し残念でした。 そう言った意味では、ミステリとしての評価は、二作目の「黒龍荘の惨劇」よりは低いのかも知れませんが、小説としては、時代背景を上手く絡めて話が進められているのにも感心しました。 私はこちらの方が面白かったし、楽しく読みました。 |
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前作の「ハートブレイク・レストラン」が面白かったので、その続編と言うことで期待して購入しました。
六編の連作ミステリですが、最後の二編は書き下ろしだと言うことです。 前作が良く出来た連作短編集だったので、期待しすぎたのかも知れませんが、最初の短編から面白くありませんでした。 謎にしても、それほど興味を引くような話でも無いし、背景にある登場人物の人間関係もイマイチよくわかりません。 特に、今回から老画家と女性の刑事が登場しますが、薄っぺらな感じです。 最後の書き下ろし分の二編で、この二人を中心にした話が出てきますが、何かとってつけたような話で、謎が解決したのかどうかわからないまま終わってしまうと言う中途半端な話だし、二人の態度もよくわかりませんでした。 どうしても前作と比べてしまいますが、やはり今回は、前作に比べインパクトに欠けるような話ばかりのうえに、すっきりしない終わり方なので、読後の印象も良くないですね。 |
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本書は、「完全黙秘の女 弁護士探偵物語」を文庫化にあたり改題されたもので、第10回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作・「弁護士探偵物語 天使の分け前」の、続編です。
前作の出来が、大賞受賞作とは思えないほど、あまりにもひどいし、主人公である弁護士の「私」が、ちょっと鼻持ちならない人物だったので、次作の購入はないかな・・・と思っていましたが、2作目の文庫が出版されていたのを本屋さんで見かけて、つい購入してしまいました。 前作を読んでいるので、癖のあるセリフを吐く「私」については、そういう奴だとわかっていましたが、前作に増してその発言が全面に出てきましたので、イライラしながら読んで行きました。 それでも、ストーリーは前回よりは興味を引く展開だったし、終盤に出てきた法廷の場面は、読んでいても緊張感があり、楽しめました。 完全黙秘をする容疑者が、なぜ黙秘を続けるのか・・・と言う事から、DNA鑑定に絡んだ事件に繋がっていくところは、興味を引きましたし、新人弁護士の土田有里が、少しずつ成長していく様子もなかなか良かったと思いました。 もっとも、えん罪という大きなテーマを扱っている割には、都合良く話が進んでいくのには、ちょっと違和感がありました。 作者は、主人公の「私」に、気の利いたセリフを吐かせているつもりなのかも知れませんが、そのところが好き嫌いの分かれるところでは無いでしょうか。 そういう部分を抜きにすれば、本書は前作よりは良く出来た作品だと思います。 |
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本書は、「神楽坂謎ばなし」の続編と言うことで、文庫書き下ろしとして刊行されましたが、前作の「神楽坂謎ばなし」は未読です。
前作は、江戸落語と落語家の話と言うことだったのでスルーしましたが、本書は、「手妻」と「太神楽」ということで、ちょっと興味があったので購入しました。 前作のだいたいの流れは、本書でも説明されているので、読んでいなくっても困らなかった・・・というよりむしろ、前作は人間関係がややこしいような感じだったので、読まなくて良かったと思っています。 ところが、前作の流れとして、少しどろどろした話が絡んで来るので、ちょっと水を差されたような気分になりかけましたが、その話はいつの間にかどこかに消えてしまいました。 おそらく、その絡みは、また次作に続いていくんでしょうね。 舞台で行われる芸事の話と、それにまつわるちょっとした謎だけで終われば楽しく読めたのですが、主人公の武上希美子の周辺で起きた出来事が突然出てくるので、ちょっとしらけた部分もありました。 それぞれの中編では、「手妻」と「太神楽」の舞台での様子が面白く描かれ、それを読むだけでも楽しかったのですが、そのうえにちょっとした謎が含まれているので、楽しく読みました。 「高座の上の密室」では、手品と手妻の違いについて理解できましたし、二重の(葛篭と舞台上の)密室状態の中で、少女が消えてしまうと言う謎も、なかなかユニークでした。 また、「鈴虫と朝顔」では、舞台上で、一人前の太神楽師としてやっていけるのかというテストをし、希美子にその判断を任されると言う話ですが、海老一染之助・染太郎さんの傘回しを思い出しながら読みましたし、その歴史にも触れることが出来て楽しかったです。 |
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一年で辞めると決めて就職した田舎の町役場で、新藤結子が配属された部署は「広報課」。
最初は勝手がわからず、嫌々ながらしていた仕事なのに、回を重ねるごとにその魅力にとりつかれていくという話です。 五編の連作短編からなっていますが、最終話以外は、広報を発刊するために取材に行ったさきで、ちょっとした謎に遭遇し、それとなくその謎を結子が解いてしまう・・・と言う展開です。 最終話に、それまで各話に散らばっていた伏線を総括したような話が展開しますが、それぞれの短編には、興味を引くような謎があるわけでも無く、なにかバタバタしながら話が進んでいくので、それほど面白い話ではありませんでした。 ずいぶん前のことですが、私自身が「ガリ版」で小冊子を作っていたこともあり、その頃の緊張感を思い出しながら読んでいましたので、広報作りの楽しさだけじゃ無く、苦しさも十分伝わって来ましたし、その反面、やりがいを感じると言うことも、良く理解できました。 本書に、「(広報が)鍋敷きにちょうど良い」と言う台詞が出てきたのには、思わず笑ってしまいました。私もそんなことを言われた経験がありましたので・・・(笑) ということで、私は結構好きな作品です。 |
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タイトルにある「ラプラス」というのは、学生時代に、微分方程式に関することで、「ラプラス変換」と言うのを関数論の時間にかじったことがありましたが、その数学者・ラプロスから取ったものなんだろうな・・・と思いながら読み始めました。ということはさておき・・・。
前半は大変時間がかかりました。 話自体は面白いのですが、最初から最後まで、5~6人の視点で話が展開していきます。 話の視点がコロコロ代わり、誰がこの物語の主人公なのかがわからないので、戸惑いながら読みました。 もっとも、そういうことは作者が意図的になされているのだとは思いますが、それが何をもくろんでの意図なのかは、残念ながら最後まで私にはわかりませんでしたので、戸惑うばかりでした。 主人公が居ない話って、登場人物に深く入り込めないので、イマイチ気持ちが入って行きませんでしたが、後半は、こういう設定なんだと割り切ってストーリーを追っていくだけにしました。 大層な問題提起を設定した割には、ちょっとお粗末な結末(どんなお粗末なのかは言えません)だったので、拍子抜けしました。 でも、全体像が見えてきた後半あたりからは、話の展開はそれなりに面白いので退屈はしませんでした。 この話は、映像化すれば面白いドラマになるのかも知れませんね。 二時間もののサスペンスドラマには、ちょうど良いのでは無いでしょうか。 |
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第22回鮎川哲也賞受賞作でもある「体育館の殺人」は読んでいますが、二作目の「水族館の殺人」は、文庫待ちにしています。
一作目の読後は、二作目も買う予定でしたが、見送りました。なぜか学園ものって、好きじゃ無いですね。 本書は、このシリーズの三作目になります。紙の本じゃなく、電子書籍で読みましたが、前作・「水族館の殺人」を読んでいないとわからない話が少し出てきますし、舞台設定や登場人物なども共通しているので、やはりシリーズものは中抜きだとちょっと読みづらい・・・と、今更ながら納得です。 「もう一色選べる丼」 誰かが、学食の外へ持ち出して食べたどんぶりが、きちんと返却せずに置き去りにされていたのはなぜかと言う話です。好きな具が二つ選べる学食名物の「二色丼」と言うことですが、私なら、カツ丼と牛丼の二色です(笑) この話は、時間的には、「体育館の殺人」と「水族館の殺人」の間に位置する話のようです。 なかなかよくできていると思ったのは、「なぜ」置かれていたのかと言うところもそうですが、「誰」が置いたのかという犯人捜しになっているところです。 話の流れとしては面白いのですが、いくら嫌いなおかずが入っているからって、捨てるのはどうかと思います。 「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」 夏祭りの屋台で300円のたこ焼きをかって、500円を出したら、50円玉4枚のおつりが来たと言う話で、調べてみるとどの屋台でもだいたい50円玉でおつりを出しているようだとわかります。 この話は、若竹七海が実際に体験したという「五十円玉二十枚の謎」に通じるところもあり、興味深く読みました。 「なぜおつりは50円玉ばかりなのか」という謎を解くと言うことで話は進んでいきますが、真っ先に探偵役の裏染天馬の取った行動が、お店の人に聞く・・・と言うことだったのには、思わず笑ってしまいました。 ただこの設定では、一件のお店じゃ無く、夏祭りの屋台全部と言うことになるので、大量の50円玉をどうやって各店に配布したのかと言うような疑問点は残ってしまいますし、ちょっとせこい話になっています。 「針宮理恵子のサードインパクト」 体育館の殺人」に少し登場した、ちょっと不良っぽい外見の針宮理恵子を主役としたエピソードです。 彼女がこっそりつきあっている、ブラスバンド部に入っている一年下のちょっと頼りない男子・早乙女が、クラブの先輩たちにいじめられているのではという疑問を持つ話です。 ミステリとしての出来はイマイチかと思いますが、ちょっとありそうな話なので、私としては面白く読みました。 「天使たちの残暑見舞い」 演劇部のOBが部室に残したノートに書かれていた、教室に居た二人の女子生徒が消失すると言う謎を解くという話ですが、その時の状況を実際にさせてみるというところが、ちょっと可笑しかったです。 消失事件の解釈としては、それなりに良く出来ているとは思いますが、こういう設定はどうも嘘っぽくていけません。 でも、最後に出てきた袴田柚乃の推理の方は、なかなか楽しめました(笑) 「その花瓶にご注意を」 私立緋天学園中等部に在籍する、天馬の妹・裏染鏡華を探偵役とする話です。どうやら彼女は、「水族館の殺人」に登場しているんですね。 放課後、廊下に飾られていた大きなガラスの花瓶が、床に落ちて割れているのが見つかり、その犯人捜しと言うことです。 花瓶の割れた音がしなかったと言うことから、一人の生徒に目星をつけ、対決しますが、「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」で出会った裏染鏡華とは、イメージがまるで違うので驚きです。 でも、読者が参加できないような謎は良くないですね。 「世界一居心地の悪いサウナ」 おそらく裏染天馬とおぼしき人物が、スパなどの温泉施設のサウナで、「世界に二番目に会いたくない相手」と遭遇した一幕の話です。 よくわからない内容ですが、この話が次作に繋がっていくのでしょうか? それにしても、それじゃ、世界で一番会いたくない相手って誰なんでしょうね・・・? |
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この作品は、「第1回新潮ミステリー大賞」の最終候補作となったものの、大賞は取れませんでしたが、新潮文庫nexより刊行されたという事です。
前座(?)となる短編四編と、話のメインとなる第五話目の中編「流霊島(りゅうれいとう)事件」、そして最後の第六話目に短編という構成の、全六話の連作ミステリかと思いながら読みましたが、長編と考えた方が面白いし、わかりやすいのかも知れません。 と言うのも、最初の四編の短編が、あまりにもバカバカし過ぎます。 アヤタこと田中綾高と灯影院(ほかげいん)の二人が、大学に探偵同好会を設立すべく、彼らの周辺で起こった日常の謎を解こうとしますが、灯影院の探偵ぶりは、見事にハチャメチャですし、その上、灯影院のボケにアヤタが面白くない突っ込みを入れるという展開が続くので、途中でイヤになって、なかなかページが進みませんでした。 でも、二つほどは、私の笑いの壺に入った話もありましたが・・・。 それでも、第5話で、彼ら二人だけの探偵同好会に、頼み込んで入会してもらった坂本先輩の実家があるという流霊島に行き、そこで起きる事件がそれまでの雰囲気を一変させ、(それまでがダメだったということもあり)ちょっと良い感じで話が進んでいきましたし、探偵役である灯影院が、やっと事件の解決となるような推理を展開するので、それなりに楽しめました。 ところが、最終話の短編で、アヤタと灯影院の共依存的な関係が明らかになり、そこで、前半の謎解きが、なぜハチャメチャだったのかということがわかってきます。 前半の短編部分では、途中で投げだしてしまおうと何度も思いましたが、読後は、こういう謎の設定もありかな・・・と言う気もしてきました。 |
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文庫書き下ろしの長編ミステリだと言うことです。「狂おしい夜」と言う、ちょっと変なタイトルから、あまり面白い話じゃ無いとは想像していましたが、それでも少しは期待して、発売日を待って買ってきました。
主人公の秋野愛美は、会社の飲み会で遅くなった帰宅途中に暴漢に襲われ、頭をハンマーで殴打された後遺症で、記憶を一時失ってしまいますが、その彼女が病院のベッドで目覚めると、そこに母だと名乗る女性がおり、その母から現状を少しずつ話されて、自分の置かれている立場を理解していきます。 ところが、その彼女の前に、「自分こそが恋人だ」と言う男性が三人も現れ、そのうちの一人は、事件があった日に入籍したという住民票をもっているという、ちょっとおかしな話に展開していきます。 でも、殴打された日に入籍したと言うことは、普通に考えても結婚詐欺でしょうね。入籍した日に会社の飲み会には普通は行かないだろうし、遅くなったからって、暗い道を一人で帰るわけがありません。 しかも、入籍した日の飲み会なら、会社の飲み会仲間が入籍の事実を知らないはずはありません。 その後、一人暮らしをしている、記憶をなくした女性に対して、どう考えてもこういった展開にはならないだろうと言うような話に進んでいきますので、読みながら戸惑うばかりでした。 会社の同僚や友人も居るだろうし、少し時間をかければ解決しそうな問題をそのままにしたまま、おかしな方に都合良く話が進んでいくのは、ちょっとしらけてしまいます。 しかも、話は会話の部分がほとんどなので読みやすいですが、その会話にしても、あまり意味の無い話が展開するだけです。 余命幾ばくも無い資産家の人物が、秋野愛美の実の父だということで、遺産相続の問題が絡んできますが、ハンマーでの殴打事件は、遺産相続がらみの問題だと警察が考えている割には、ほとんど捜査が進展していないのも、ちょっとおかしいです。 最後に、殴打事件と遺産相続に関わっての問題が片付きますが、この程度のからくりなら警察が本腰を入れれば、すぐに見抜けることです。 しかも、資産家の残した財産が、「預貯金や有価証券が約三億円。不動産が時価二億円。合わせた総資産は五億円」と言うことですが、この程度で、莫大な財産ですか・・・?資産家と言うには、ちょっとしょぼい額ですね。 ということで、タイトルから想像できるような展開も含んでおり、都合良く混乱する方向に話が進んでいくので、途中で何度も投げ出したくなりました。 詳しい内容もわからないまま出版日を待って購入したのですが、もうしばらく待てば良かったと後悔しています。 |
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ちょっとしたきっかけで、ふと「妖異金瓶梅」を思い出してしまいましたので、1984年に購入した本書を再読しました。
現在発売されている角川文庫版には、単行本未収録の異稿版「人魚灯篭」も含まれているようですが、私が所持している本には、残念ながら含まれておりませんでした。 さて、本書は、中国四大奇書の一つに数えられる「金瓶梅」(「水滸伝」のスピンオフ物語)の登場人物を使って書かれたミステリ(なので18禁)で、14編の連作短編です。 豪商・西門慶(せいもんけい)は世の乱れをよそに、その邸内に8人の愛妾を住まわせ、楽しい日々を過ごしていますが、その中で殺人事件が起きるという設定です。 探偵役には、西門慶の元悪友で、今は落ちぶれて太鼓持ちをして居ると言う応伯爵(おうはくしゃく)。 彼は事件の真相を見抜きますが、なぜか真犯人を告発しないで黙っていると言う、ちょっとユニークな探偵です。 第一話の「赤い靴」では、謎解きを中心に据えた普通のミステリだと思って読んでいましたが、第二話の「美女と美童」以降、ちょっと変わった形式になって行きます。 二話以降では、第一話からの話の流れで、読者には犯人だろうと思われる人物が予想できるように描かれていて、倒叙ミステリのような犯罪小説のような話でした。 初めて読んだ時は、あまりにも簡単な動機で殺人が行われてしまうし、その方法も中国の話には良く出てくるような残酷な様子なので、あまり気持ちよく読める作品ではありませんでした。 でも、今回読み返して見て、探偵役の応伯爵がちょっとユニークな人物だし、主人公の一人・潘金蓮(はんきんれん)と言う女性が、とても生き生きと描かれているので、(30年前と較べると、許容範囲が広くなっているのか)結構面白く読みました。 ただ「凍る歓喜仏」以降の4編は、それまでの短編とちょっと様子が違い、梁山泊のメンバーも登場し、西門慶の死をきっかけに、その愛妾たちも亡くなってしまい、崩壊していく様子が書かれています。ちょっとした長編を読んでいるような感じです。 今回、30年ぶりの再読ですが、今でも十分楽しめました。 |
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横溝正史ミステリ大賞受賞の受賞第1作として書かれたミステリで、そのときのタイトルは「たゆたいサニーデイズ」でした。文庫化に際して、このタイトルになったと言うことですが、こちらの方が良いタイトルだと思います。
さて、本書ですが、「春のしずく」、「夏のにおい」、「秋のとばり」、「冬のむこう」と言うタイトルがつけられた四つの季節ごとの章と「エピローグ」から出来ていて、それぞれの章に、ちょっとした謎が入って居ます。 部員が二人しか居ない合唱部の一人で、二年生になったばかりの葉音梢(はおと こずえ)の視点で話が進んでいきます。 作者は男性のはずなのに、女子高校生の目線で書かれていることに読んでいても違和感が無く、しかも高校生の気持ちの揺れようがとても上手く書かれているように感じました。 探偵役となる、合唱部の三年生・部長の宮本耕哉の描き方も、本気なのかおとぼけなのかよくわからないような態度ですが、なかなか良い味を出しています。 学校を舞台にした話って、高校生の目線では無く、大人の目線で高校生を書いている場合が多いので、あまり好きでは無いのですが、本書を読んでいると、ふと自分たちの世代の高校生活を思い出してしまいました。(そういう意味では今の時代には合わないのかも知れませんが・・・) 何か特別なことがあるのでも無く、誰にでもあるごく普通の高校生活を送っている様子が、ほのぼのと感じらます。 最後に、各章に書かれていたちょっとした謎が一つにまとまってきて、違った解釈がなされてきますが、この話も、少し間違えばどろどろした変な感じの話になってしまいそうな流れなのですが、とても爽やかにまとめられているのも良いです。 ミステリとすれば、少し物足りないところはありますが、少し前に読んだ「夕暮れ密室」でも感じたことですが、高校生たちの世界が興味深く書かれているのに感心しました。 読みやすい文体で、最初から最後まで気持ち良く読みました。オススメとまでは行きませんが、私はけっこう気に入って居ます。 |
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寝てしまうと、それまでの記憶を無くしていまうという、「忘却探偵・掟上今日子(おきてがみ きょうこ)」が登場する、五編の連作短編ミステリです。
語り手は、いつも事件に巻き込まれると、自分が犯人だと疑われてしまうという青年・隠館厄介(かくしだて やくすけ)で、彼が事件に巻き込まれてしまったときに役立つように、携帯電話には名探偵の名前がぎっしり詰まっているそうです。 事件解決率100%という有名な名探偵も登録されているそうですが、このシリーズでは、解決するのが最速の探偵(朝起きてから、夜眠るまでに解決する)である、掟上今日子に事件の解決を依頼します。 でも、そのたびに、彼女と依頼主の厄介とは初対面と言うことになってしまうところが面白いですね。 一話と二話は、厄介が依頼した個別の事件を書いたものですが、三話から五話までは、あるミステリ作家の新作に関する、一連の事件についての話になります。 朝に目覚めると記憶がリセットされているので、彼女の記憶のバックアップとして、左腕に油性のペンで、「私は掟上今日子。25歳。置手紙探偵事務所所長。白髪、眼鏡。記憶が一日ごとにリセットされる」と書かれており、毎朝これを見て自分を思い出していると言うことです。 でも、読みながら気になっていたのは、どの時点の記憶までが残っているのかと言うことでしたし、なぜ、眠ってしまうと記憶がなくなってしまうのかと言うところも不思議なところです。 しかも、なぜ探偵をしているのかという事もよくわからないまま話が進んでいくだけではなく、話が進んでいくと、実際には、彼女が何歳で、どういう人物なのかと言うことまでわからなくなっていきます。 事件の謎もちょっとユニークでしたが、それよりも、彼女の謎の方が面白いミステリでした。 このあと、「忘却探偵シリーズ」として、続編が書かれるのでしょうか? ちょっと楽しみにしています。 |
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「忘却探偵シリーズ」の第2弾で、「掟上今日子の備忘録」の続編です。
最初は、三編の連作短編かと思いましたが、読んでみると、全三章の長編小説のよう(プロローグ的な短編と二章の長編)だとわかりました。 語り手が、前回の青年・隠館厄介(かくしだて やくすけ)では無くって、親切(おやぎり)守という警備会社に勤める青年に変わっています。 そのために、掟上今日子の特徴などが、一から紹介される形になっています。 シリーズ第2段とは言え、この本から読み始める読者も居るので、最初からの詳しい紹介があっても良いとは思うのですが、私としては、前作を読んだときに、彼女の過去のことがほとんど触れられていないまま話が進んでいくので、次作以降に少しずつ、もう少し突っ込んだ話がされるものと期待していました。そういう意味では、少し肩すかしを食ったような感じで読み終えました。 唯一、彼女はお金に対する執着心が強い・・・、と言うことだけは、よくわかりました(笑) また、本作には、登場人物も限られているので、犯人捜しという興味も薄らいできていました。 話は、親切守の視点で話が進んでおり、登場人物は、探偵役の掟上今日子を含めても4人なので、残る二人のうち、一人は被害者で、もう一人が犯人でしかあり得ない・・・と思いながら読み進めていきましたが、はたして・・・? 今回の話では、彼女の特徴である、寝て起きてしまうと、それまでのことはすべて忘れてしまうという、「忘却探偵」だと言うことでの面白さが前回ほどには感じなかったのは、やはり目新しさがあまり無かったからでは無いでしょうか? とは言え、それでも最後まで楽しく読めましたし、第三章の「推薦する今日子さん」というタイトルの意味も納得しましたので、次回も期待したいと思っています。 次回は、この回で登場してきた親切守が、ワトソン役として定着するのでしょうね。 |
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第一回の「新潮ミステリ-大賞」の受賞作と言うことですが、本書を本屋さんでたまたま見かけるまで、こういう賞が新設されていたのを全く知りませんでした。
以前、新潮社が主催した公募の長編ミステリーの新人賞で、1996年から2000年まで全5回実施された「新潮ミステリー倶楽部賞」というのがありましたが、その後継として創設されたのでしょうね。 ちなみに、この「新潮ミステリ-大賞」の選考委員でもある伊坂幸太郎氏は、『オーデュボンの祈り』で、第五回(2000年)の「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞されています。 さて本書ですが、ます冒頭から驚かされました。 旧仮名遣いで書かれたホラー小説ような章(しかも最終章)に、思わず引きつけられてしまいました。 この部分は、戦前から「在庭冷奴(あらばれいど)」のペンネームで、売れない怪奇小説などを書いていた、主人公の荊庭紅(いばらばこう)の祖父・零(れい)が書いた「サナキの森」という小説の一節だと言うことが後ほど判明します。 でも、こういう話が旧仮名遣いで書かれていると、雰囲気があって興味を引きますね。 亡き祖父の本棚から紅に宛てた、「遠野市の佐代村の神社に隠してあるべっ甲の帯留めを探し、自分の墓に供えてほしい」と書かれた手紙が見つかります。 その意をくんで、祖父が書いた小説・「サナキの森」に書かれていたような凄惨な事件があったという遠野の旧家・東条家を訪れ、そこで中学生の泪子(るいこ)と出会います。 二人は、紅の祖父が書いた小説を手がかりに、現実に、泪子の家・東条家の庭にあった納屋で起きた80年前の「密室殺人」の謎を追って行きます。 この密室を構成しているのは、ちょっとした盲点を突くような謎でした。言われてみて、初めて気づかされましたが、読んで居るときには全く気がつきませんでした。 祖父が書いた旧字体の「サナキの森」と、紅の視点で書かれた話が交互に登場しますが、十代の泪子と二十代の紅の掛け合いがなかなか面白くって、この年頃の女性の雰囲気が良く出ています。 また、読後に、旧仮名遣いの部分・「サナキの森」だけ通して読んでみましたが、ホラー小説としても良く出来ているのには感心しました。 二つの異なった文体が登場し、どちらも上手く書かれているのには脱帽です。 ベースになっている話は、悲惨な怪奇小説なのですが、紅が思いを寄せる「陣野せんせー」や十代の泪子との関係も楽しくって、なぜか読後感が爽やかでした。 また、個人的にも、共感できるところが多々あって、楽しく読みました。 余談ですが、私の学生の頃は、戦前のミステリ(例えば「黒死館殺人事件」など)を読むと、ほとんどが旧仮名遣いで書かれていましたので、本書のその部分はさほど苦にはなりませんでしたが、旧仮名遣いに慣れていない読者には大変だったろうと想像します。 でも、だからといって、その作品がダメだって事になってしまうと、ちょっと残念です。 |
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何度も途中で挫折しかけたので、読み終えるのに時間が掛かりました。
退職後のヒマを持ち余している状態なので、何とか読み終えましたが、仕事をしていた頃なら、途中で放り出していたかもしれません。 いくら面白い、良く出来た話しであっても、登場人物に共感できなければ、話しに身が入りません。 話しは、最後には上手く行き着くことろにおさまり、読後感が良いように書かれて居るのですが、それも気に入りません。 あまりにも都合が良すぎるので、すべて絵空事のようです。 もっとも、これは小説なので、ほとんどが嘘っぱちだと言われてしまえばそれまでですが、それでもそれなりに読者を納得させなければ面白くありません。嘘をいかに本当らしく見せるか・・・と言うところも、作者の腕の見せ所です。 話しとしては、面白くなる要素がたくさんあるのですが、あり得ないエピソードの積み重ねだし、しかも、最終的にそれらが上手く円満におさまってしまうと言うのは、どうなのかな・・・と思ってしまいます。 |
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日本推理作家協会賞の候補には幾度となく挙がってくるのですが、やっと短編「暗い越流」で受賞されました。
その受賞作を中心に、5編の短編を集めた短編集です。 1作目の「蠅男」と5作目の「道楽者の金庫」は、「プレゼント」という連作短編集に登場してきた女性の探偵・葉村晶が活躍する話となっています。 1作目の「蠅男」を除いては、最後の数行であっと言わせるような仕掛けがされていますが、これがなかなか面白いです。 表題作の「暗い越流」では、登場人物の性別が良くわからないまま話が進んでいきましたが、最後でその落ちとともに性別が明らかにされ、ちょっと驚かされました。確かに良く出来ている作品です。 でも、私としては「幸せの家」と「狂酔」がなかなか気に入っています。 特に、「幸せの家」は、これからの高齢社会では起こりそうな話のような気がしますし、あってもおかしくない話です。でも、犯罪に結びつかないような形で収まれば良いのかなとか思ったりしました。 「狂酔」は、過去にこういう事件があったような、なかったような・・・と、そういう話です。 読んでいて、宮部みゆきさんの「ペテロの葬列」をふと思い出しましたが、最後のところはちょっとゾ~とする落ちになっています。 それにしても、久々に若竹七海さんの(ずいぶん旧作を読み返していました)新作を読み、やはり話の持って行き方がうまいなぁと、改めて感心しました。 |
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葉村晶が登場する、久々の長編ミステリです。
第66回日本推理作家協会賞の短編賞を受賞した作品を収めた短編集・「暗い越流」の中にも、葉村晶を主人公にした二編の短編が収めてありましたが、これまで、葉村晶が主人公として登場した本は、「プレゼント」(1996年短編集)「依頼人は死んだ」(2000年短編集)「悪いうさぎ」(2001年長編)の三作です。 長編作品としては、「悪いうさぎ」以来となる13年振りの登場ですが、今回は文庫書き下ろしだということもあって、出版後すぐに購入しました。 話の中心となるのは、元スター女優から依頼された、20年前に失踪した彼女の娘探しです。 冒頭からチョットしたトラブルが発生し、そのことがきっかけで、元女優から娘捜しを依頼をされると言うことになりますが、その娘を探す過程で、次々に様々なトラブルや謎が発生し、それをその都度解決すると言う展開です。 登場人物が、それぞれ一癖も二癖もあるような人ばかりで、最初は、ハードボイルドのような感じで進んでいきましたが、小さな事件が上手く絡み合って、最後に事件の真相が判明するという流れで、いろんな謎が次々登場してくるので、途中で退屈することなく、楽しく読み終えました。 それにしても、話の流れと言いテンポと良い、今更ですが、さすがに上手いです。 失踪事件から殺人事件に発展し、その話の展開の中で、登場人物たちがそれぞれ引き起こす事件やトラブルが発生するといった面白さが、一杯詰まった話になっています。 話が、葉山晶の視点で書かれて居るので、一緒に事件を追って行けるというのも、読んでいて楽しかったところです。 でも、こんなのが文庫書き下ろしで提供されるとは・・・、チョット感激です。 ということで、オススメの一冊です。 余談ですが、本文中に、「三大倒叙ミステリ」の一つ、リチャード・ハルのミステリのタイトルが、東京創元社では「伯母殺人事件」で、早川書房では「伯母殺し」と訳されていると言う話がありましたが、他にも、エラリークイーンの「中途の家」と「途中の家」や、アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」と「アクロイド殺害事件」などがあります。 早川ポケットミステリよりも、創元推理文庫の方が手頃な値段だったので、私は、両方から出版されている本は創元推理文庫の方を買っていました。そのせいで、「アクロイド殺し」というタイトルには、未だに違和感があります。 |
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文化祭当日の朝、森下栞が女子シャワールームで死体となって発見されます(第二章)が、彼女の視点で、その二週間前に行われたバレー部の大会でのエピソードが語られていくところ(第一章)から物語が始まります。
第二章以降、森下栞の死体発見の様子やその後のことが、各章ごとにクラスメートたちの視点で語られて行くという構成になっています。 第一章から感じられる森下栞は、爽やかで聡明な女子高生だったので、こんな高校生だったら男女の別なく、みんなから好かれるんだろうなぁ・・・と思いながら第一章を読んでいましたが、その二週間後の第二章で、森下栞が死体で見つかるのは、ちょっとショックでした。 というのも、第一章を読む限りでは、てっきりこの少女が今回の探偵役だと、勝手に想像していたからです。 章を追って、同じ場面がいろんな生徒の目から再現されて語られていきますが、クラスメートそれぞれが、自分が探偵にでもなったように、密室の謎を考え、犯人を捜し出す作業をしているという様子は、なかなか面白く読みました。 殺人事件が起きてから、犯人が特定できるまでの二週間、警察や学校は何をしていたんだ・・・という気もしますし、密室トリックについては、いささか疑問点もないわけじゃありません。 でも、高校生たちの世界(友情や受験、恋愛など・・・)が興味深く描かれており、事件が起こった前後の人間模様も含めて、よく書けているのじゃないかと思います。 このミステリは、第23回の横溝正史大賞に応募されましたが、その23回は「受賞作なし」という年でした。 翌年、本書の作者・村崎さんは「風の歌、星の口笛」で第24回横溝正史ミステリ大賞を受賞されています。 ちなみに、過去を振り返ると、岡嶋二人氏の江戸川乱歩賞受賞作「焦茶色のパステル」より、その前年に佳作となった「明日天気になれ」の方が面白く読みましたし、第四回サントリーミステリー大賞を受賞した黒川博行氏の「キャッツアイころがった」よりも、第一回佳作になった「二度のお別れ」の方が私は好きです。 こういうところは、選出者の好みもあるので、必ずしもいい作品が大賞となることはないですね。 江戸川乱歩賞の最終候補まで行き、賞をとらなかったものでは、中井英夫氏の「虚無への供物」や島田荘司氏の「占星術殺人事件」などもあります。誰が審査員かと言うことも大きいのではないでしょうか。 ミステリ新人賞の最終候補に残った作品が、手を加えられて新たに出版されるのはうれしいです。 |
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