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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数66件
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発想の斬新さもさることながら、非常に全体の構成が巧みで、かつテンポの良いストーリーは読むものを退屈させない。
東野圭吾氏の才能というよりも、作家としての総合力の高さを見せ付けているような作品で、このサイトではあまり総合順位が高くないのが意外に感じます。 通常のミステリの流れでは終わらない、二転三転するストーリーと、真相でまさに気づかされるタイトルに込められた意味に唸らされました。 この作品は出来れば、話全体の長さ、続きが後どれぐらいなのかわからないような形式で読みたかったです。 (と言っても私は仮に電子などで読むにしても全体の分量がどれぐらいなのか読む前にどうしても気になっちゃうんですけどね) ▼以下、ネタバレ感想 |
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個々の話に直接の繋がりはないけれど、一貫したテーマと雰囲気を持った連作短編集という形の有名作品。
タイトルは個人的にはシリーズの総評である「花葬」の方が良かったのではないかなと思います。 いずれも「花」をテーマとして男女の情愛が絡んだ殺人(心中)事件を扱ったミステリ作品になりますが その美しい文章で紡がれる悲劇的な五編の物語は、まさに花が儚くも美しく散る様のようです。 純文学としても純ミステリとしても非常に質の高い作品だと感じました。 (純文学と呼ばれるジャンルの作品を普段から殆ど読まない私が言うのもなんですが) フーダニットよりホワイダニットに焦点が当てられた作品、というのは他人の感想でもよく目にしますが、 私はそれとは別に、「誰が犯人であるか」のフーダニットではなく、「本当に愛したのは誰だったのか」というフーダニットを全ての話に共通して感じました。 以下個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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戦後、政府の移民政策で、希望を抱きブラジルの大地へと渡った日本人たち。
しかしそこで待っていたのは国から聞いていた話とは全く異なる、地獄だった。 満足な耕地も住む場所も用意されないまま未開のジャングルの中に放り出されるような形となった日本人移民たちは極貧や病気に苦しみ、多くの者が命を落としていった…… それから時は流れ、二十一世紀。日本に地球の裏から3人の男たちがやってきた。 彼らの目的はかつて自分たちを、自分の父や母を、騙し見捨てた日本政府への復讐だった。 という戦後の日本のブラジル移民問題を取り扱った本作。 バリバリの本格好きで、社会派やハードボイルドはあまり好きではない私ですが、これは面白かったです。 まず第一章のブラジルでの話は、読む前から大まかな知識としては向こうに渡った人たちがとても苦労したことは聞いていたものの 詳しい実情を知らされると、そのあまりに過酷で悲惨な描写に、読んでいて辛くなる部分も多かったです。 それでも目を離せない、まさに読まされる文章とストーリーでした。 そしてこれは二章以降のストーリーのために、絶対に必要な描写であったと思います。 二章以降からは時代は一気に二十一世紀に飛び、一章の主役であった日本人移民の男の義理の息子であるケイへと主役が移ります。 見た目は日本人ながら中身は生粋のブラジル人である彼の、その豪胆さと快活さゆえに、題材こそ重いものの、決して陰惨なストーリーではなく、エンターテイメント性の高い話へと変貌したと感じました。 ジャングルで生まれ、原始人さながらの極貧の中で育ち、病気で死んだ両親が目の前で腐っていく様子を見たケイの境遇も親世代に勝るとも劣らぬ過酷さと悲惨さなのですが それでも明るく楽しそうに生きているのが、まさに一章から二章で主役が日本人からブラジル人に交代し、その民族的気質の違いを見たように感じました。 日本とブラジル、日本人とブラジル人、どちらの方が良いとは言えないと思いますが、物語の主役にして面白いのは圧倒的にブラジル人的な性格のキャラクターだと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「十五年前、とある高校で起きた、自殺と判断された女教師の墜落死事件は実は殺人であった」というタレコミの元、時効成立当日にして一大捜査が始まるという、これだけなら典型的な警察小説のストーリーの作品なのですが、その十五年前の事件の重要参考人になる、事件当夜、学校に忍び込んでいた不良三人組の回想が青春ミステリとしての要素も強めています。(個人的に社会派ミステリ……とはちょっと違うと思います)
十五年前の殺人事件だけにとどまらず、丁度当時時効をむかえたあの「三億円事件」も物語に関わってくるという盛りだくさんなストーリーで、実質的な処女作にも関わらず、数多くの伏線に、二転三転する真相と非常に練りこまれた大作でした。 個人的には警察が必死こいて追っている事件よりも、不良三人組の試験問題を盗む計画、「ルパン作戦」のパートの方が本筋以上に面白かったです。 ただ喜多たち三人は、ただの不良の高校生のスケールを越えている連中で、ケンカでは米兵二人をブチのめせるほどの強さに加え、喜多も十分不良とは思えない頭の良さだけれど、それに輪をかけ橘は天才的な機転の持ち主で、正直こいつらは今更「試験問題盗む」なんて程度のことを必死になってやるような器じゃなくないか?と思ってしまいました。 プロットを分解すると2つ3つの作品が書けてしまうのではないかと思うほどの作品ですが、むしろ「盛り込みすぎ」で若干話の展開に無理があったり、リアリティに欠けると感じる所はありました(いくらなんでも時効成立一日前でここまで捜査が進むのは……それ以前にタレコミだけでここまで警察は必死に動くものなの?という疑問が沸きました)しかし「フィクションなんだから細かいところはいいんだよ」と割り切ってしまえるパワーとエンターテイメント性がある作品だったと思います。 |
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殺人犯の汚名を着せられ、真犯人に口封じに殺されようとしている、別れた妻・通子を救うため、主人公の刑事・吉敷が孤軍奮闘するストーリーです。
満身創痍になり、文字通り血を吐く思いをしながら、過酷な冬の北海道で通子を探し続ける吉敷の姿は痛々しく、読んでいるこちらも苦しくなるほどでしたが、「惚れた女のためだろ!頑張れ!」と前向きな気持ちで読み続けることができ、ラストには吉敷も読者も報われる、いろんな意味でのカタルシスが待ち受けていた作品でした。 全体的な作風はハードボイルド寄りなのですが、不可能犯罪を可能とする驚きのトリックは実に島田氏らしいですね。 すでに彼の作品はそれなりに読んでいたので、なんとなくどんなトリックかは察しがついたし、人によってはこういうのを「バカトリック」と呼ぶのでしょうが、私は好きですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『国名シリーズ』の4作目ですが、時系列的には大学を卒業したたてのクイーンが本格的に犯罪捜査に関わった最初の事件とされている作品であり、それゆえにまだ彼が探偵としても人間としても未熟な面が多々あり、後期クイーン問題とはまた違った苦渋を舐めさせられることになるお話です。
クイーンに限らず、なぜ名探偵は何かに気づいていながらもったいぶった言動で最後まで真相を告げず、周囲の人間や読者をイラつかせるのか、という答えを提示してくれていると言ってもいい作品です。 この事件は作中人物が、どいつもこいつもとにかく嘘つきだらけです。 そして真犯人を筆頭に事件の中心にいる人物ほど、重要かつ高度な嘘をつくので、探偵と犯人の壮絶な知略戦に読者は巻き込まれることになります。 ロジカルさもさることながら、まさに二転三転していく真相は凄まじいものがあり、戦前ですでにこんな作品があっては、欧米ではとっくに本格推理というジャンルが廃れてしまったのもやむなしか……と思うほどでした。 クイーンの中で「最長」の作品でもあり、海外古典で500ページクラスとなると少し読むのに尻ごみしましたが、序盤から終盤まで話の動きが大きかったので退屈せずに読めました。ただ、登場人物が多いわりに人物相関がわかりにくいのが難点かなと。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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まさにタイトルの大誘拐の通り、100億円という莫大な身代金を巡り日本全土を巻き込み、さらには世界規模にまで注目を集める絶大なスケールの誘拐事件が題材の大作ミステリです。
しかし作中では誰も死なず、登場人物に根っからの悪人も一人もいない、「安心して読める」ミステリでもあります。 自分は普段は登場人物が悪人やキチガイだらけで、皆で憎しみあって殺し合うような作品ばっか読んでますが、同じ犯罪小説でもこういう真逆の作品もいいものだと思いました。 ただそれだけに誘拐を題材にした作品に、最終的な犯人の生死や人質の安否が読めない緊迫感を求める人には逆に物足りないものがあるかもしれません。 70年代発表の作品と言うことで、随所に時代を感じはしますが、悪い意味での古臭さは感じず、あくまで当時という時代を舞台にした現代にも通じる名作だと思います。 とにかく本来人質であるはずの刀自のスーパーおばあちゃんっぷりが痛快でしたね。 途中の外国人記者のインタビューの場面でカタカナ交じりの文章が数ページだけとはいえ、読みにくくてしょうがないところだけがちょっと不満でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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同作者の『告白』のブラックさが面白かったのでこちらも読みました。 それぞれ事情やコンプレックスを持つ二人の少女が「人が死ぬところを見たい」というなんとも不純な動機でそれぞれ、老人ホームと小児病棟を訪れる……あらすじの時点でロクでもない予感のするお話。 今作も期待を裏切らず、いろいろと酷い話なのになぜか暗さや胸糞の悪さは感じずむしろ笑えるという、独特のブラックユーモアが健在で面白かったです。 本当にこの作者はひねくれているな……と思い、そしてひねくれた私はこの作風が大好きです。 ちょっと*ごとに頻繁に一人称が入れ替わるのが最初判りにくく、冒頭20ページぐらいを一度読み直すことになりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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まず最初に「とうとう平成生まれの推理作家が出てきたか……」と思いました。
そしてまさに今時の子(?)と言うべきか、オタクという設定の探偵による漫画やラノベのサブカルネタがふんだんに盛り込まれ、むしろ往年のミステリファンがついていけない空気になっています。これは本筋的にはあってもなくてもどうでもいいものですし、賛否両論かもしれません。(かくいう自分は全く自慢になりませんが「おっはよほほ~ん」含めほぼネタが判ったので下手な衒学趣味とかより楽しめましたけどね) しかし内容そのものは、この上なくオーソドックスな正統派本格ミステリで、クドいくらいのロジックにより導き出される真相はまさに新たな「日本のクイーン」の登場を思わせました。 「○○館の殺人」というタイトルはまるで綾辻氏の「館シリーズかよ!」と思ってしまいますが、タイトルに全く偽りなく、ストレートに学校の体育館で起こった密室殺人が題材で、逆に新鮮で面白いと感じました。 手頃な分量と読みやすい文章で良くまとまっていますが、長編小説で殺人が一件、その後も特に大きな出来事などはないので少し物足りない感はありました。 あと探偵役は個性的ですが、主人公(?)の女の子はちょっとキャラが弱すぎるかなぁと。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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時代設定は昭和30年前後くらいの日本でしょうか。
いずれも名高い資産家の令嬢と、彼女たちが集う読書サークル「バベルの会」を題材とした五つの物語で構成される短編集です。 どの話も終盤ではいろんな意味で裏切られるような衝撃的な展開が待っています。 文章そのものはライトで読みやすいですが、内容は割りとヘビーで、一気読みすると精神にクるものがあるかもしれません。 しかしどの話も面白く、長編のネタにしてもいいぐらいレベルが高い作品だと感じました。 「読書サークル」が共通の題材であるため、作中で多くの古典が引用されますが、私の場合読書傾向が偏りすぎなのもあり、元ネタは3分の1もわかりませんでした。 この辺が全てわかるような人はより楽しめるのかもしれませんね。 ※以下、個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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昭和中期を舞台に、日本の土着・民俗学を題材としたホラーと本格ミステリが見事に融合し、独特の世界を作り出している『刀城言耶シリーズ』の第一弾です。
人ならざるものの仕業としか思えぬ怪異、しかしその真相はこの上なく本格ミステリのロジックで解決する二面性がまさに「黒」と「白」あるいはそれらが混ざり合ったそれぞれのカラーの魅力を感じるシリーズです。 また、このシリーズは作者が非常に綿密な取材で知識を身につけ作品を描いていると感じますが、それはあくまで物語にリアリティと説得力を持たせるためであり、よくある衒学趣味的な蛇足さや嫌味さがないところが個人的に好きですね。(あくまで個人の感想です) 序盤から次々に起こる怪異の怖さから、終盤の怒涛の謎解きまで楽しく読めましたが ・物語の視点が目まぐるしく入れ替わって時系列も前後するため混乱する。 ・名前が同音異句の「サギリ」という女性が大量に登場してややこしい。 ・部屋の間取りや村の地図が頭に入りにくい(図があっても) など、全体を通してちょっと読みにくい、わかりにくい部分が多いのが難点ですね。 これは後のシリーズでは改善されていった点だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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・作中人物が構想を語る「AがBに殺され、BがCに殺され、CがDに殺され、最後にDがAの生前仕掛けたトリックによって殺され、4つの密室殺人が起こる」という筋書きの推理小説。
・その小説の構想どおりに実際に次々起こる殺人を、まさに「読者目線」で、事件を他人事のように好き勝手に推理していく素人探偵たち ・今日に至るまで、推理小説の定番のアンチテーゼとなるような作中人物のとある主張 作中作、ミステリ議論、読者に訴えるようなメタな台詞……とあらゆる意味でアンチミステリ的な題材、作風であり『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』と並ぶ三大奇書と呼ばれている作品ですが、その2作に比べればいい意味で普通のミステリだと思いました。 おそらく発表当時は極めて画期的、前衛的な作品だったのでしょうが、今はそれこそこの作品の影響を受けて似たような手法、題材を使った作品が増えているため、そこまで奇抜な作品とは映らないのでしょうかね。 読みやすさという点でも三大奇書の中ではこれが圧倒的に読みやすいので(他2作が読みにくすぎとも言えるのだけれど)初心者向き、とまでは言えませんが、ミステリ好きを公言できるぐらいの、中級者を自称する段階になったら読んだ方がいいのかなと感じました。 個人的には「奇書」というよりは普通に「名作」「大作」と呼ぶべき作品ですね。 結構な分量の作品ではありますが、それに見合った内容の濃さなので、冗長さなどは感じませんでした。 非常にたくさんの密室殺人とトリックが登場し、一つ一つは今見ると大したものではない(当時にしても既存の名作などの焼き直し?)ですが密室トリック好きにはそれだけでお腹いっぱいになれる作品でもありますね。 どうでもいいことですが、主要登場人物の中で最年少とはいえ、もう高校を卒業する年齢の男性が、他者から徹底的に、地の文でまで「藍ちゃん」呼ばわりされるのはちょっと違和感を覚えるのですが、この時代の小説ではよくあることなのでしょうか? ▼以下、ネタバレ感想 |
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「甲賀」と「伊賀」。
2つの忍びの里から各十人ずつ、超人的な忍の術、技を身に着けた総勢二十名の忍者たちが殺し合いを行うという、現在では漫画やラノベなどでメジャーなジャンルとなった、能力バトル、バトルロワイヤル系の作品ですが、この小説の発表は1958年とかなり古い作品です。 能力バトル系の作品が市場に多く見られるようになったのは『ジョジョの奇妙な冒険』の三部(1989年)のあたりから。 バトルロワイヤル系が市場に多く見られるようになったのはタイトルどおり『バトルロワイヤル』(1999年)あたりからだと思われるので、この作品はまさに30年、40年時代を先取りしたと言っても過言ではない、とんでもない作品だと思います。 むしろ当時は時代を先取りしすぎたゆえ、十分に評価されなかったのではと思ってしまうほどです。 実は私は漫画版の方を先に読んだのですが、てっきり漫画版はある程度「現代風に」アレンジして書かれているのかな、と思ったのですが、原作の小説を読むと漫画はきわめて忠実に、原作ほぼそのままのストーリーで書かれていたことに驚きました。 また文章も非常に読みやすく、全く古くささを感じませんでした。 本当に現代の作者がタイムスリップして発表したのでは?とさえ感じるような一冊でしたね。 ただこの作品は自分の中ではどう考えても「ミステリ」という分類にはできないですね。 これがミステリだったらもうバトル漫画やラノベもみんな「ミステリ」です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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長男と客人の2人の傴僂男、激昂すると平気で刀や銃を持ち出す2人の夢遊病者、監禁された精神異常者、精神薄弱者とやばい人だらけの名家で起こる連続首斬り殺人事件という、横溝御代らしい、おどろおどろしくも惹きつけられるストーリーが展開される今作は、『獄門島』と『八つ墓村』というシリーズ1,2を争う人気作に挟まれて発表された作品です。
その2作に比べると人気、知名度で遥かに落ちるのですが、個人的にはもっと評価されるべき名作だと思います。 傴僂や精神異常者が全面に押し出されてるストーリーがおそらく後年問題視されたのが痛いのだと思いますが、それだけに今は読めない当時の作品ならではの楽しみ方が出来る貴重な一冊だとも言えますね。 一方で古い作品ながら文章はとても読みやすいので、今のミステリファンにもぜひ読んで欲しいと感じる一作です。 300ページ強とそれほど長くない分量ながら、顔の無い死体に始まり、アリバイトリック、密室トリック(焦点になるのは人間でなく凶器ですが) など本格ミステリ定番の美味しい要素が多数盛り込まれ、かつ、それらは全て添え物に過ぎず、メインのどんでん返しが待っているという、非常に贅沢な作品と言えると思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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妻の殺害容疑をかけられた男のアリバイを唯一証明するのは、その日一夜限りを一緒に過ごした名も知らぬ女。
しかしその女のことを第三者は誰も「そんな女は見ていない」と証言し、女の存在はまるで幻のように消えてしまう。 死刑の判決を受けた男を救うため、彼の親友が立ち上がり「幻の女」の行方を追う…… 有名な海外古典の中ではクリスティ作品と並んで抜群の読みやすさだと思います。 無駄の無い緊迫感のある展開の連続、意外な犯人と驚愕の真相。 時代を超えて読み継がれるべき名作でしょう。 私が読んだのはハヤカワ文庫版ですが、日本語訳もセンスが良かったと思います。 ようやく幻の女の足取りを掴んだ時の「やっとこ、さっとこ、つかまえた。やっとこ、さっとこ、つかまえた」が秀逸ですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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中世ヨーロッパに近い世界観で、現実には存在しない魔法や種族などが登場するガチガチのファンタジー世界で起こった殺人の調査を行う本格ミステリ作品です。
「ファンタジー世界で本格ミステリ」という発想そのものはおそらくそこまで突飛で斬新なものではなく、多くの作家が「書いてみたい」と考えているシチュエーションだと思います。 しかし本格ミステリは現実及び先人の作品による捜査方法や事件解決にいたるまでのノウハウが構築されているからこそ、後世の作家は完成度の高い作品を書けるという実情があるため、ファンタジー世界では設定レベルでプロットを一からに近い形で練らなければいけないという点で実際に書いてみるのは非常に難しいでしょう。 よって大抵の作家は断念するか、書いても見向きもされない駄作となってしまう中、このような完成度の高いものを書き上げた作者の、構成力と発想力の高さが伺える作品だと思います。 戦争パートもそれ自体は緊迫感があって面白かったのですが、きわめてまっとうに本格ミステリしている作品なだけに、どちらか一方に集中した方が良かったのかな、と思わなくも無いです。 また、登場キャラクターが非常に多いですが、個性的なのであまり混乱することなく読めました。 続編も期待したい作品ですが、書くにしても思いっきり今作のネタバレになってしまいそうなのがネックですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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西澤氏のお得意の現実の物理法則から乖離した特殊設定ミステリです。
「同じ一日を何度も繰り返してしまう」「その中で何とか誰かの死の運命を変えようとする」という話は、SFではよく見ますが、それを本格ミステリに組み込んだのは非常に斬新で、また完成度の高い仕上がりになっていると思います。 背景は遺産と情欲、さらには過去の確執も絡み合った一族が骨肉の争いの果てに、必ず死人を出すという『犬神家』や『グリーン家』のようなやはり本格推理では定番の金だけはあるロクでもない一族の物語なのですが、基本的にユーモアミステリで、喧嘩する様子も傍から見る分には笑えるもので、家族連中は主人公を除きやはりみんなロクでもない性格なのに、どこか憎めない方々です。 主人公は頭が悪いという設定になっていますが、名探偵とは言えないまでも、十分賢い範疇だと思いましたけどね。 同じ日を8回(9回?)も繰り返すのは、最後の方は流石にやや冗長な印象もありましたが、展開の変化は富んでおり楽しく読めました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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鉄道トラベルミステリー作家としての地位が固まる前の西村京太郎氏の名作。
クリスティの名作中の名作『そして誰もいなくなった』に挑んだ作品で、今日に至るまで同作のオマージュ作品は無数に存在していますが、それの草分け的存在として、本作もまた『十角館の殺人』などの多くの作品に影響を与えた作品であると思います。 『そして誰もいなくなった』の「孤島」と並ぶ、もう一つのクローズドサークルの大定番「雪の山荘」を舞台に、招待された客たちが一人、また一人と殺されていくまさに王道展開ですが、この作品の大きな特徴として、一番最初に「双子の入れ替わりがメイントリックとして使われている」と明かされていることがあります。 しかしそんな重要な部分が予め作者によってネタバレをされていても実際の犯人やトリックを見破るのは一筋縄ではいかない(むしろより混乱する?)巧みな構成となっています。 また、雪に閉ざされた山荘での連続殺人が起きているのと時を同じくして、東京の街でも奇妙な双子の強盗事件を警察が追うパートが同時進行し、一見無関係な二つの事件が物語の中でどう交差するのかという疑問も読者に投げかけられます。 (この「閉ざされ舞台」と「開かれた舞台」が平行してやがて交差する構成は後の『十角館の殺人』に受け継がれた手法と感じました) まさに日本のクローズドサークルミステリの名作古典であると言ってよいと思いますが、ちょっと今読むと言葉遣いなどに古臭ささを感じて辛い所もありました。 あと『そして誰もいなくなった』の真相部分を完全にネタバレしてしまうのは、当時はまだそういう配慮があまりされなかったということでしょうかね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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江戸川乱歩の長編でも最高傑作と名高い評価を得ており、実際彼が最もやりたい放題やった、まさに乱歩の魅力がぎっしり詰まった一作だと思います。
ストーリーは大まかに二部構成になっており、前半は密室殺人と衆人環視の元の殺人という二つの不可能犯罪から大胆なトリックと意外な犯人が導き出される本格推理で、後半はその事件の裏に潜む黒幕との対決のために財宝の眠る島に向かうという冒険小説のような構成となっており、全体を通した流れを見ると荒唐無稽なのに加え、かなりあっちへ行ったりこっちへ行ったりの支離滅裂なストーリーなのですが、物語の面白さゆえにそれも魅力だと割り切れてしまえます。 全編を通して奇形やら同性愛やらタブー視されそうな題材の目白押しで、そりゃ戦中は検閲にひっかかるし、今は今でこんな話絶対無理だなぁという内容で、おそらく乱歩御大はこの時が一番作家として幸せだったんでしょうね。 物語後半の奇形人間がたくさん住んでいる島で、同性愛者の友人といろんな意味でハラハラドキドキの冒険宝探しという、少年の心を持った大人の読み物といった内容は、絶対に子供には見せられないような小説を書く一方で、後に児童文学でも日本を代表する作家となった江戸川乱歩という作家をまさに象徴している作品であると感じました。 |
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海外では『xの悲劇』などの方が評価が高いようですが、日本ではとにかく人気な海外ミステリ作品ですね。
私もクイーンの作品の中ではこれが一番好きです(そこまでたくさん読んでるわけじゃないですが……) とにかくキチ○イ一家たちのキャラが立ってて面白いですし、予想外で衝撃的な結末に驚かされた作品でした。 今読んでも面白いと思う一方「狂った一族に流れる犯罪者の血が~」などという差別と偏見に満ちた発言を、完璧超人のように描かれる探偵役がさも客観的事実として口にしてしまっているのは違和感を覚えずにはいられないですね。 DNAと遺伝子の関係すらわかっていなかった当時を踏まえれば、現代の価値観で批判してはいけないということはわかるのですが…… この作品が日本人好み、というのは日本の推理小説の巨頭である横溝御代の『金田一耕助シリーズ』にも多大な影響を与えているであろう所からもうかがえるかと思います。 条件によって分配が変化する奇妙な遺言状によって過熱する骨肉の争いという面は『犬神家の一族』 一族から不遇の扱いを受けた末に変死した男が、実は生きていて復讐しているかのように事件に不気味な影を匂わす展開は『悪魔が来たりて笛を吹く』 そしてその一連の殺人計画のシナリオは……という面では『×××』と ▼以下、ネタバレ感想 |
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