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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数359件
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『このミス』の紹介で知りました。無意識に一般文芸書として認識していたのか、今まで視界に入っていませんでした。
こういう作品でミステリのランキングに入らないのが勿体ない。そして作家さんの事を調べてびっくり。宣伝先や情報源や読者層が違うのだと思いました。 ミステリとして見事な作品。夢中で一気読みでした。 本書の構成は、AGE22とAGE32の2冊が上下巻ものとして1セットです。 1冊の本ではなく分冊しており、"上巻""下巻"と表記せずにAGEで分けている所は、読者が時代をハッキリ分けて認識させる効果を演出していました。 AGE22の物語は、就活に失敗した22歳の光太がホスト人生を歩む話。 就活失敗の嘆き、自分を落とした会社への不満、家庭のお金の問題、恋人や家族との関わり。負の心情が溢れ返ります。 光太はお金の為に働かなければならず、金の魅力からホストという未知の世界へ入り込みます。この様子は分りやすい動機と共に、視点が読者の目線と合って描かれる為、面白く読めます。 夜のお仕事系のお話ではよくある展開ですが、読みやすさと嫌な感じがしない文章表現によって違った味が楽しめました。で、ホストの世界でとある事件が発生する流れ。 AGE32の物語は、その10年後の話。AGE22から順番に読みましょう。 上下巻もの作品は長くて苦手なのですが、本書は飽きる事無く楽しめました。その要因として謎と解決が何度も発生する事。大きな事件ではなく疑問や関係性の小規模な出来事なのですが、謎としての魅せ方や解決するテンポの良さが巧いのです。さらに、謎が明かされても気持ちが晴れる事なく、新たな謎に翻弄される展開がよい。いつの間にか社会の闇に触れているような怖さを感じました。AGE32を迎え、徐々に見えてくる人間模様や話の関連性は、ミステリ好きには伏線回収やどんでん返しといった姿として映る事になるでしょう。 必然性ある設定の数々が素晴らしかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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閻魔堂沙羅の推理奇譚の第4弾。シリーズものですが1巻読んだ後はどの巻から読んでも問題なしです。2018年で4冊一気に刊行したのは凄い。
今回の1話目『向井由芽編』は読者応募の犯人当てクイズが開催されました。 本シリーズの構成は問題編⇒推理編⇒解答編⇒後日談という構成なので問題編だけWEBに公開され、犯人当てクイズ企画が行われたのです。推理を楽しむ作品なので、読者への挑戦ものが好きならこのシリーズは楽しめます。 さて、今回クイズに応募した身でして、何度も繰り返し読んだので思い入れが強いです。正直な所、クイズとしてみると手がかりが希薄なのと、犯人特定のロジックが論理的ではなく登場人物の思いつきとそれが正しい前提なので納得し辛いです。詳しくはネタバレで書きますが、P75からの数行における容疑者選定は突然過ぎて後付けを感じてしまいます。推理の前提条件が被害者が知っている事からなのに対して、知っている情報ではなく推測の想像となっています。かつその想像が正しい前提で話が進むのです。これは深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』のような疑惑を感じる次第。。。 と、応募クイズとしてみると不満を感じる所ではありますが、物語としては面白くまとまっています。安定の面白さでした。 本書は短編2作+番外編(沙羅の日常)。いつもは短編3作なので少し物足りなさもあります。 番外編に関しては、沙羅の日常が見える楽しさとともに品が無くなっていく様に困惑ですが、沙羅のキャラはいいですね。ツンと優しさと説法の加減が魅力的です。 色々思う所を書いているわけですが、不満で文句というわけではなく、それだけ作品を楽しんでいるという事を誤解なくお伝え。推理が楽しめる小説は面白い。次回作も楽しみです。 ネタバレで自身の応募内容など書きます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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記憶ネタのホラーミステリ。
記憶を消すことができる新薬『レーテ』。その臨床試験の為に集められた被験者達が閉ざされた施設で7日間過ごす話。 各章は1日の出来事が描かれる。被験者は毎日記憶がリセットされる為、各章の初めは、同じような目覚め、同じような会話が繰り返される。が、そこで事件は起きる。そしてそれを眺める読者は前後日の不整合に違和感を感じていく……。 これは著者の持ち味が出ている作品で楽しめました。 デビュー作の『バイロケーション』のホラー&SFミステリから始まり『リライト』以降は繰り返しもの作品が世に出てきたわけですが『リライト』以降のシリーズ作品は分り辛く好みからどんどん逸れて行った為、著者作品を敬遠していました。 本作は単体作品なので久しぶりに手に取った次第。 読んでいて何が起きているのかわからない。記憶喪失者の毎日を眺めている読者。読者は全貌が見えている立場なのに前後の食い違いを感じ取り、読者自身も記憶が曖昧になる。なんだこれ?という良い意味で嫌な感覚が巧い。同じ事を繰り返している筈なのに何かがおかしい。『リライト』で味わった奇妙な感覚が、記憶喪失ネタの本作でも味わえます。 この奇妙な味わいを作風とみるか、文章力とみてしまうかで好みが分れる次第ですが、本作はなかなか楽しめました。 大仕掛けがあるわけではない。読み終わってしまえば理解しやすい単純な話。でも読書中はさっぱり意味不明で混乱。記憶ネタのホラーミステリとして面白い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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個人的に作者買いの一人。不思議な世界観と男女の心情や世の中との距離感を素敵な文章で紡いでいく小説としての良さがあり好み。本作も健在でとても素敵な作品でした。
記憶改変できる世界での恋のお話。 舞台は、サプリメント摂取のように薬を飲むことで架空の記憶を移植できる世界。楽しかった事、嫌な事、これらは記憶の中の思い出による感情であり、記憶の追加・削除により人生を豊かにしたり、欠落した虚無感を補える世の中となっています。記憶がテーマとした土台の上で、世の中から距離を持った青年視点の物語となっています。 偽物の記憶であるはずの幼馴染の彼女が現実世界に現れた謎はありますが、読みどころは青年の心模様。人を信じられない卑屈な動きにヤキモキしますが、極端な例により孤独感や拠り所となる彼女の存在をとても感じます。登場人物については基本的に孤独で悲観的で心のどこかが欠如している傾向があります。人生を謳歌していてウェーイ!という感じな人にはまったく刺さらなそうな作風なのですが、寂しさや心に傷を持ったりした時には染み渡る独特の中毒性があります。 相変わらずの他人から見たらバットエンド模様だけど当事者にはハッピーエンド…のような絶妙な物語。『三日間の幸福』とは違ったアプローチで、生き方や考え方を感じさせられました。 著者作品はアイディアも然ることながら独特の世界観とそれを表現する文章が好きです。 過去作を読んできてますが、今作は伝えたい大事な想いは前後に空白行を入れて強調したり、会話文をあえて増やしたり、または無くしたり、改行を取っ払って溢れ出す思いを描いたりと、多様な表現が目に留まりました。技術的な事はわからないですが、文章やセリフ回しが読みやすく毎回不思議な世界観に浸れる読書が心地よいです。 あと表紙の女性も綺麗。作中には出てきていない永遠の愛を意味する桔梗を持つ儚い女性。著者の作品に出てくる女性ってこういう脆さを感じる雰囲気でマッチしていますね。 久々の新作で早川レーベルになった影響もあるかもしれませんが、色々と洗練されより深く心に残る作品でした。よかったです。 |
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メフィスト賞受賞作。かなり尖がっている奇抜な作品でした。
ライトノベルではお馴染みの『異世界転生』ジャンルを用いたメタフィクション小説。作者・読者・現実世界・空想世界を認識し、影響まで起こせるような構造設定となっています。この世界観の作り方がとても巧い。 あらすじにある通り、主人公は小説投稿サイトに小説を投稿している作者。自分の作品世界と現実世界を行き来できる現象に出くわします。自分の作品のどの章からでも入れるというわけではなく、序章から時間軸に沿って転生できます。自分の書いた小説通りに話が進行するので未来がわかる神様視点の作者。姫と良い関係を築いている所で、姫の母親が黒騎士に殺されてしまうシーンを書いている事を思い出します。姫を悲しませないように、現実世界へ戻り小説投稿サイトの編集機能で内容の変更を試みるわけですが、ここの構成はSFやセカイ系作品でおなじみのタイムパラドックス・過去改変物なのです。 現代的な要素を用いて、やりつくされた感がある古典の再構築というのはとても素晴らしく刺激的でした。で、単純な過去改変作品というわけではなく、現実世界・小説世界を認識する作者。そして投稿サイトの存在や本書を読む読者の世界などなど、世界の階層構造が本書によって一体化するような不思議な作品だと感じました。メタ構成の作品は世の中いろいろありますが、本書は現代的な要素を用いた新しさを生み出しています。 正直な所、最初の数ページの文章の砕け具合を読んだ所では好みに合いそうにないと感じる読者は多いと思います。立ち読みでサラッと数ページ読んで違うと思って買われなさそう。そんな出だし。ラノベやファンタジーの「設定」に許容がある必要もあります。ただ、奇想の変わった作品に触れてみたい方にはアリかと思います。 その他思う所として、読書中は舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』を思い出しました。駆け抜ける世界のごちゃまぜと、細かい事を気にさせないで一気に収束させちゃう流れ。あんな感じをライトに楽しめた作品でした。好みは人それぞれですが、奇抜な『メフィスト賞』をとても感じさせる作品で記憶に残ります。なんだかんだで凄いものを読んだ気がして面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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分厚い本なので読むのを躊躇していました。読んでみると一気読みであっという間。
社会的な問題を盛り込んだ本書は一見難しそうに感じますが、ストーリー作りや読みやすい文章なので苦に感じません。著者の力量を感じます。 女性一人の人生を通して、家庭崩壊、貧困ビジネス、保険金、売春などなど、不幸と転落の数々を描いていきます。読書の良さとは人の人生を体験し学べる点がありますが、本書は数人分もの物語を体験した感覚でとても刺激的でした。特に保険金や貧困ビジネスについては仕組みの勉強になった気分でした。 社会的な側面がある一方、ミステリの物語として殺人事件を絡めてより飽きさせない作りにしているのは巧いです。著者の『ロスト・ケア』も好みですが、同様に読書中は社会問題を読ませる物語として楽しみ、読み終わってみると構造がミステリになっており作り方や技法に唸らされます。 総じて雰囲気が重い本ですし、ページ数も多めなので躊躇してしまいますが、ミステリ好きなら一読の価値があります。 社会派として扱うテーマが盛り沢山で、ミステリとしても伏線や構成の妙を楽しめる素晴らしい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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久々の西尾維新。キャラ造形や設定作りが巧いなと改めて思う。
ドラマ化やらで何かと耳にしていたのですが未読でした。文庫化されたので手に取りました。 前向性健忘症で眠ったら記憶が戻ってしまう探偵の掟上今日子と、頻繁に事件に巻き込まれる隠館厄介。探偵&助手の定番フォーマットですが、記憶障害の女の子探偵&巨漢の大男という設定や対比の面白さが新しさを感じます。キャラの名前についても西尾維新らしいと感じてしまう所が、個性の確立で凄いと改めて思いました。 5編からなる連作短編集。 1話目『初めまして、今日子さん』については、最初なので作品傾向の認識から始まります。キャラや物語設定紹介+軽めの事件。研究データの紛失事件という事で殺伐としない日常の謎といった所。 純粋に推理を始めるかと思いきやアンチミステリというか古典的な犯人特定法を用いるので、読者はこの作品がどういう種別のミステリなのか戸惑うと共に、ありきたりではない先の展開に興味が沸くかと思います。 2話目も日常の謎傾向の短編。3~5話は連続した物語。全編読んで感じるのは『記憶』というガジェットを一貫して扱っている事。キャラ設定についても、行動心理についても、事件そのものについても関わってきます。こういう拘りはとても好感です。 語り部の隠館厄介について。性格が戯言シリーズの"いーちゃん"を感じました。最終話の行動が正にそう思いますとともに、一筋縄では行かないと予感させる今後の物語展開にも期待が持てます。 全体的に殺伐さがない日常の謎寄りの探偵物語です。続編の文庫化も待ち遠しいです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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かなり骨太な医療ミステリでした。
『このミステリーがすごい!』大賞作品に対する個人的なイメージはもっとライト層向けでミステリも軽い印象だったのですが、本書は本格医療小説+社会派+ミステリという感覚です。 表題となっている、癌が何故消滅したのか?という謎は序盤で仮説として明かされます。その後も謎が展開されてますが、方法は読者が思いつくような一発ネタトリックではなく、医学的な知識を用いたものなので謎解きを楽しむというより、医療現場を知れるような物語です。 医療小説ですが、出てくる言葉は専門用語過ぎず、読者がついてこられる塩梅なので、知的好奇心をくすぐる感覚で楽しめました。 癌とはそもそも何か?医療保険とは?検査では何が起きているか?それらに関わる人たちの物語として楽しめ、社会派小説としての訴えも感じられました。 医療ミステリに関しては、あまり多くを読んだわけではないですが、本書は経験上かなり高品質な作品であると感じます。 近年のキャラ小説もしくはライト設定として医療を扱う作品ではなく、直球の医療小説ミステリとして優れています。著者がそもそも、国立がん研究センターや医療系出版社勤務の方なので、専門性はバッチリなのです。ミステリとしても楽しみましたが、医療の知らない事を知れて勉強になった感覚を得た作品でした。 |
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閻魔堂沙羅の推理奇譚の第2弾。刊行ペース早いですね。相変わらず安定した面白さでした。(☆7+1好み補正)
構成は1作目と同じで、 ・各主人公のエピソード⇒ 死んでしまう⇒ 表紙の閻魔大王の娘登場⇒ 推理編⇒ 解答編⇒ 後日談。 という流れ。 本書は変化球ケースのストーリー。沙羅は皆に蘇りのチャンスを与えているの?普段はどうしているの?みたいな読者が疑問に思うようなストーリーを先に提示した物語である印象です。あらすじ内容含む3篇の物語。 どの話も、ミステリとしても人間ドラマとしても分かりやすくて読みやすい。このバランス感覚が巧く気持ちよいです。 変化球としては2話目の悪党が主人公のケース。 死因が不明。どうやって死んだのか?を問題のミステリとして楽しみつつ、悪党に対する閻魔堂の対応も楽しめる作品でした。 どの話から読んでも楽しめるシリーズとなりそうです。 マンネリ化しないようにバラエティー豊かになる今後を期待。今はまだ簡単な謎解きレベルですが、驚愕な仕掛けがあればもっと知名度あがりそう。 色々期待ができる作品として続編も楽しみです。 |
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第55回メフィスト賞受賞作。
これは面白かった。閻魔様が出てくるプチ異世界もので現代テイスト。殺伐さは無し。続編やドラマ化しやすい作り。読後感もよい。 万人向けのミステリです。 表紙とあらすじからは予想できませんでしたが、本書は推理する事を楽しむ90年代の新本格ミステリを読んでいるような楽しさを感じました。プラス、現代風な味付けとなっており、ミステリ初心者には特におすすめです。 短編集であり、各物語はミステリの問題集のように楽しめます。 構成をざっくり言うと、 ・各主人公のエピソード⇒ 死んでしまう⇒ 表紙の閻魔大王の娘登場⇒ 推理編⇒ 解答編⇒ 後日談。 という流れ。 よくある流れではありますが、この手順がしっかり仕分けされているのがポイント。 各主人公達は死んでしまうのですが、なぜ?誰に?と言った理由は、エピソード内に手がかりが用意されており、推理可能な内容となっています。 「読者への挑戦」は挿入されていませんが、それぐらいフェアな手がかりが提示されています。 各主人公達は、なんで死んでしまったのか訳が分からない。理由を教えて!と閻魔の娘に懇願しますが教えてくれません。手がかりはすべてそろっているから推理して当てたら願いを叶えてもいいよと情けをかけてくれます。主人公達と読者は同じ目線にあり、手がかりを推理して真相に迫る流れが楽しめました。探偵が唯一無二の完璧な解答を示すのではなく、素人推理で読者とシンクロしていく展開が巧いです。 登場する閻魔大王の娘の沙羅もよいキャラクターをしています。 冷徹で淡々と仕事をこなすキャラかと思わせておいて、ドジっ子で人情味を感じさせる可愛い個性があります。意味はちょっと違うけどツンデレ的。登場シーンのページ数は少ないのですが、非常に印象に残り魅力的でした。 敢えてマイナスになりそうな点を挙げるとすれば、手がかりが簡単すぎて結末が読める事と、骨太志向の方へは深みがない作品である事。レーベル然りライトミステリの分野です。ミステリ的な衝撃やトリックみたいなのは今後に期待です。本書は閻魔の娘との絡み、各主人公達の人情的なドラマに魅せられます。先に書いたドラマ化しやすそうな印象を受けたのはこの為です。 あと余談ですが、ゲーム『トリックロジック』を知っている方がいましたら、正にそれの小説版と言った感じです。 手がかりを読んで、推理して、閻魔様に生き返らせてもらう。好きなゲームなのですが、この楽しい要素に新たに触れる事ができた本書は大変好みでした。 サクッと読める本格ミステリが好きな方は是非どうぞです。続編も楽しみです。 |
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著者作品のイメージが良い意味で変わりました。
デビューからの3作品、〇殺、虹の歯ブラシ、RPGまで読んで、ネタや意図しないエロや悪ふざけ感が好みから逸れて行ったので手に取っていませんでした。 先日新作のAI探偵を読んで面白かった為、著者の作品を手に取り始めたわけですが、本書4作目は1~3の持ち味を生かしつつ大真面目に描かれたミステリであり、敬遠していた苦手要素が払拭された作品でした。 あらすじにある通り大きく分けて2つの視点が存在します。 1つ目は資産家の令嬢と恋に落ち彼女の家でこっそり夜を共にした所、主に見つかり社会的権力を駆使して淫行条例で逮捕されてしまう主人公。エロミスというジャンルを描く中で淫行条例を含めた話の展開は社会的なテーマを扱う側面を見せていきます。エロ×社会派。 2つ目はシリーズ主人公の上木らいちがメイドとして風車型の館に招待され殺人事件に巻き込まれるというエロ×館もの本格ミステリ。 小説において別視点の物語は後半何かしらで結び付くというお約束がありますが、本書はやられた系の驚きではなく話のまとめ方・結びつきが巧すぎて感心してしまう驚きを受けました。1つ目、2つ目、それぞれのお話はそれ程珍しいテーマではないです。著者も分かっておりこれらは読者へのわかりやすいサンプル。これはデビュー作『〇殺』の時からの悪戯心ですぐ見抜くでしょ?という気持ちが感じられます。 読んだ人にはわかると思いますが、著者はミステリという空想の世界設定を現実世界に当て込めるとこういう事が起きるという斬新な物語を生み出しました。これはとてもよかったです。 援助交際探偵・上木らいちというネタやファンサービス的だと思われていた要素が本書では意味を成している点も良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても好みな作品。面白い作品でした。☆7+1(好み補正)。
著者の作品は久々の読書。4年前のデビュー作『○○○○○○○○殺人事件』で笑撃を受けて、『RPGスクール』でちょっと好みと外れてしまい、それから手に取っていませんでした。気になる作家さんでしたが3年ぶりの読書。今回は非常に満足です。また他のも読んでみたい気持ちになりました。 本書は時事ネタとも言える、"人工知能"や"ディープラーニング"を題材とした現代的なミステリです。 人工知能を題材とした作品はSF含めればいっぱいありますが、それらに特有な学術的な難度、堅苦しさ、硬派な文体と言った敬遠されがちな要素が難点でした。本書はそれら苦手要素がまったくない。良い意味でラノベ的キャラクター小説、読みやすく、AI要素については衒学さは皆無であり、AIにミステリを学習させて事件を解決!ぐらいの気持ちで読めます。ですが軽すぎもせず、"ディープラーニング"の特徴やプログラム的なバグというか衝突の穴をコミカルに描いている点もよいです。一方、SF小説や硬派な人工知能作品を読んでいる方には不自然で物足りなさを感じる側面があるかもしれません。出版レーベル然り、ライトに楽しみたい方向けであります。 探偵AIの"相以(あい)"と犯人AIの"以相 (いあ) "。解決役と問題役として互いで学習する対の存在。その犯人AIの以相がテロリストに奪われ、次々と難事件が襲い掛かるという話。近年、Googleのディープラーニングが囲碁で活躍したニュースがありましたが、人工知能同士で互いに学習するネタ等をこんな風にうまく絡めて世界観を作っているのが面白い。ここだけで最強の探偵VS犯罪者という構図を現代風のオリジナルで生み出したのは勝ちでしょう。続編がいっぱい生まれそうです。 探偵AIの相以(あい)ちゃんが人工知能っぽい所と、ドジっ子的な可愛さを持っているのが好み。序盤での「ふえーん、フレーム問題のエラーが出てましたぁ」のセリフから滲み出るキャラの可愛さはとてもいい。このあたりから雰囲気にのまれて好んでいきました。いきなり最強の探偵AIが出てくるのではなく、学習して育っていく成長が見える点も面白いです。 キャラ作りについては西尾維新を彷彿とさせる二つ名がくどくて苦手。二つ名にも何か意味のある仕掛けがあればよいのですがイタイだけの印象でした。表紙について、新潮nexからの出版ですが、講談社の西尾維新の物語シリーズのイラストを担当している人を採用しているので、キャラ作りは西尾維新っぽさを売りにしているんだとは感じますね。キャラものは好きですが、読み辛さをとても感じたので今後に期待です。 扱う事件のネタについて、正直な所、斬新な仕掛けは感じず既存のミステリを人工知能が解析したらどうなるのか?という印象の面白さを感じる話でした。 とはいえ、扱うネタの多くから、著者がすっごくミステリが大好きな事を感じます。ディープラーニングの画像解析の結果から生まれる、完全無欠の黒タイツとか笑えました。たくさん引用したくなるぐらい小ネタが豊富で楽しかったです。 続編希望です。 |
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獣により赤ずきんが食べられてしまうという童話モチーフのわかりやすさ。帯に書かれている裏切り者の存在による謎解き要素の仕掛けあり。タイトルとキャッチフレーズが分かりやすく、表紙のイラストも良い感じである為、書店で目に留まり衝動買いした1冊。なかなかの掘り出し物でした。
知能を持った獣に襲われる絶望感、赤ずきん達の秘薬による攻防がメインとなるお話。童話のモチーフを絡めた能力もの×パニックホラーの作品ですが、世界観の設定がしっかり錬られており、ただのドタバタではなくファンタジー的な要素も意味のある存在として示される後半は面白く読めました。裏切り者については、誰がどうやって何の為に?と言った疑問が面白さに繋がり魅力的でした。 ミステリとして見ると心もとないですが、この手の作品での活用としてはとても効果的でした。 難を言うと設定と展開を眺めている気持ちでした。誰かに感情移入やドキドキ感という刺激は無かったです。 キャラクターで印象に残ったのがツバキずきんぐらいで、他は能力の設定のみでキャラを感じさせなかったのが残念。多少チューリップのお姉さん感はありますが、あまりキャラクターの印象は残りませんでした。もう少し人を感じさせられると、護ってあげたくなり、獣から逃げなきゃという使命感が増すかと思いました。 物語の設定がとても面白い故、そんな事を思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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奇術師、手品師、それらを犯人に設定した作品は作者の意気込みをとても感じます。
総じてマジシャンと呼ばれる職業は相手を騙す仕掛けのプロ。単純な事件の犯行トリックでは作品が物足りなくなる為です。読者の期待に応えねばなりません。 その点、本書は満たしており、お腹いっぱいになるぐらいの展開と魅力に溢れた作品でした。 本作の魔術師(イリュージョニスト)という異名をつけられた犯人は第一の犯行から人間消失トリックを用いて現場から消えます。対する探偵役である犯罪学者のライムは現場で見つかった微細証拠物件による科学捜査を用いてトリックを暴き犯人を追い詰めていきます。消失トリックは速攻で仕掛けが明かされていく贅沢仕様であり、引き続き魔術師の連続犯行に対する探偵と警察捜査の攻防が繰り返していく様子は1作目を彷彿させて非常に楽しい作品でした。 アドバイザーのイリュージョニストのカーラの助言において、マジックにおける相手を欺く騙しの数々を解説していくのも見物です。エフェクトとメソッドの違い。物理トリック、心理トリック、見せるもの・見せないもの、行動を欺く誤導については作品のキモとなっています。 本書で少し気になる点としては、『犯人を追い詰める』事に趣が置かれた作品であると感じます。 理由は犯人がかなり神出鬼没であり、どうやって侵入したの?と疑問を感じる点が多々ある為です。侵入模様は特に描かず、犯人が現れた!捕まえろ!逃げられた!という展開が出来すぎておりちょっと興が覚めます。とは言え、前向きに捉えればこの犯人を追い詰める緊張感が本書は続くので、先が気になるジェットコースターミステリとしてみれば大満足でして、些細なことは気にしないでいいや。という気分にもさせられました。 シリーズ作品として、1作目の登場人物を把握した後なら、いきなり本書5作目を読んでも問題ありません。 犯人との対決や、ヒロインのサックスの物語としても楽しめました。 上下巻物でボリュームある為、毎回読むのを躊躇するのですが、読めば面白いのは相変わらず。また時間が取れたら続きを読もうと思います。 |
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好きな作家に岡嶋二人がいます。この作家の作品は昔たくさん読んでいるのですが、解散後の井上夢人作品は殆ど手付かずでした。
本が分厚く上下巻ものが多いので敬遠しがちなのです。今回、時間が取れたので手に取りました。率直な感想はやっぱ面白い。ほんとすごいな。 作品を一気に読むと勿体ないから今後も時間をみて手に取る事にしようと考えを改めました。 ジャンルはごちゃまぜ。SFやウィルス災害やパニックやミステリやファンタジーやら。強いて特徴を述べるなら超能力ものです。 あらすじ通り、未知のウィルスが発生しそのウィルスにより死者は数百名を超えるという、現場に居合わせた序盤は災害もの。何が起きているのかの不安感が読ませる。そしてそのウィルスに感染しながらも生き残った数名には特殊な能力が身についていた。という話。 設定だけならよく見る内容でしょう。要所要所におけるストーリーのポイントを伝えてもアニメやファンタジーのような印象を受けるかと思います。 著者の凄い所は、設定に対して綿密に考えられた導線で違和感なく読ませて惹き込む所ですね。辞め時が見つからず、早く先が読みたくなる小説としての素晴らしさがありました。この文章の読みやすさと想像のし易さは凄いなと思う。超能力者のやりたい事、葛藤、世間とのずれ、生き方などなど、読者が簡単に思うような所は先回りして描き潰してあるように感じます。読んでいて楽しい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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金田一小学生編の第二弾。
小学生読者をターゲットとしたミステリ作品として非常にバランスが良い作品だと感じます。 黒板に大きく描かれた落書き事件から始まり、『どくろ先生』『どくろ桜』と言った学校の七不思議を交えたイタズラ事件の謎を冒険クラブの金田一が挑むという流れ。小学生視点で考えれば、普段の学校内で起きた黒板の落書きだけでも事件ですし、"どくろ"の気味悪さに怖がったり、友達との調査は立派な冒険で、小学生の雰囲気をとても感じます。大人なら単純で気づきそうなネタなのですが小学生だからこそ不思議な怪談となる仕掛けのバランスがとても良かったです。『どくろ先生』のネタはこの点がとても巧いと思います。 一方難を示すと金田一知らずの大人が読んでも物足りない作品です。謎解き好きな小学生向けか、金田一ファンの読者がターゲットですね。 事件の結末や背景も、本作は後味よく綺麗に収束させているのも巧いです。 シリーズファンとしては千家君登場が感慨深い。 千家君は生徒会長とはいえ小学生とは思えない立派な振る舞いでした。ここは小学校から生徒会制度があるのか。とか思いながら読書。 相変わらずの金田一で楽しめました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本格的な仕掛けがあるようなデスゲームではなく、ホラーやパニック系のB級要素のデスゲームなので、ミステリ寄りなデスゲームを望む人には不向き。
見た事あると言われそうな定番要素が多いのですが、それぞれの設定がよく考えられていて作品として巧くまとまっているので好みした。 人に薦めても良い反応はされなさそうだけど、個人的に良かったからいっか。そんな感覚。 まず、デスゲーム要素は『7名が犯した罪を告白し、それの主犯となる人物を投票せよ。』というもの。最多票の人物は死。 何故こんな状況になったのか? 過去に何があったのか?7名が記憶を頼りに自分たちが犯した罪を思い出す様子は、過去を検証するミステリっぽい雰囲気でよい。と同時に、デスゲームお約束の序盤の、これってイタズラだろ?という定番のおちゃらけた雰囲気から、友人の死を見てからのパニックへの展開、そして疑心暗鬼のコテコテのデスゲーム模様が分かり易くて〇。 登場人物名には、"赤星""緑子"青史"と言った具合にそれぞれ色が含まれている名前の為、人物の混乱がないのもよい。 また、結婚式の途中で拉致されたという状況設定が巧く、 人物達はドレスコードをして衣装で飾っているので視覚的な想像がし易いのが良い。 あと、偏見ではないが、女性の感情的なパニック、男性の論理的な場の納め方、男女の話の合わなさがリアルで面白かったです。 さて、先に良い所を挙げてみました。 ここまでのパッと見状況から、よさそうな作品だと期待される所ですが、世の中の知名度や評判が振るわないと思われる決定的な原因があります。 それは、人物達の性格がクズなのです。もう救いようがない人々。そして告白される罪が、いじめやレイプやらそういう類の話。そんな罪の告白を読まされるので、読者的には誰が死んでもいいや!という状況になるわけです。デスゲームにおいての心理戦を楽しむのではなく、観測者同様、場の被害者達を眺める感覚の読書です。 ここが好みの分かれ所な気がします。映像化もしやすそうですが性格と罪の内容で不満が発生しそうなのが残念。 ただ、ラストの展開は、それまで感じていた不満を解消できるので、これも敢えての狙いなのかなと作者の巧さを感じる次第です。 デスゲーム作品としては、読み易く、おかしな所もなく、グロさもない。物語として整った作品なので、デスゲームの初心者向けとしてはアリかと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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先が気になる面白さというのはこういう本ですね。
構造は犯人視点の倒叙ミステリ+被害者視点で展開するミステリ。 妻の浮気に憤慨するテッド。空港のバーにて酔った勢いで見知らぬ女性リリーに妻を殺してやりたいと気持ちを溢すと協力を受けてもらえる事に。 この出会いのシーンから面白く、空港での一時の出会いの相手にとって、何を話してもどうせ覚えていないし冗談と思われるだろうという気持ちや、殺してやりたいなんていう殺伐な気持ちを溢したい心境がよく伝わってきます。 本書の魅力は登場人物達の語り口や内面を細かく描く心理描写。後日テッドとリリーが再開し、ミランダを殺害する計画を立てて準備をしていく犯行までの倒叙ミステリの面白さはもちろんの事、テッドやリリー、殺害ターゲットのミランダはどういう人物なのか?各人のエピソードを章区切りで交えて絡ませる飽きさせない作りが楽しめました。 仕掛けやトリックがある話ではないので、そういうのを求める人には不向き。サスペンス寄りで要素要素を述べるとごく普通の殺人事件です。ただ、それを構成や心理描写で巧く調理している為、小説としての面白さがあります。 お約束というか安心感というか、結末もしっかり締めており、満足な1冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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アイディア勝ちな作品で面白かった。
現代と江戸の雰囲気、江戸の奉行や商人などキャラ立ちもよい。現代の科学捜査担当の友人もいい味出している。現世からタイムトラベルしているおゆうと江戸の伝三郎の男女物語あり。知名度があればドラマ化しそうな作品だと思いながらの読書でした。 "科学捜査"と書かれていますが専門的な話はなし。血液判定や指紋検査など今では一般的な内容の事です。ですが舞台を江戸時代にすれば非常に有効な手掛かりとなるわけです。答えはわかるが江戸の人に証拠として伝えられないので、それとなく真実へ誘導する面白さがある。 本書の巧いなと思うのは、おゆうの素性や証拠や行動に深入りしない雰囲気が作られている事。現代での科学捜査をする友人は分析マニアの研究者で、分析事以外は気にしないで頼み事を聞いてくれたり、江戸の面々も深くは突っ込まず信頼・納得しておゆうの話を聞いてくれる事。この雰囲気作りが非常に巧く、話がトントン拍子におゆうの希望通りに進んでいても違和感なく楽しめました。 本書がデビュー前の応募作という事もあってか、作者はネタを出し惜しみせず、もっと続巻で小出しにしておいた方がよい設定が明らかになっており、これは贅沢なような勿体ないような複雑な心境でした。 あっと驚く意外な展開はないですが、一歩一歩丁寧に物語が進む様が良かったです。2作目も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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海外警察小説×ファンタジー作品。
手に取った切っ掛けは宝島社出版の『この警察小説がすごい!ALL TIME BEST』の中に異色なファンタジー作品が掲載されていた事。 ラノベもアニメも許容範囲ですし、表紙のおっさんと王女様?の雰囲気に興味を惹かれ読書。 読んでみると、なるほどこれは警察小説です。警察組織の上司部下や、規律に縛られないハードボイルド風味の主人公の捜査模様。 もっと突飛なファンタジーを想像していましたが、土台は馴染みやすい警察小説。 よくある話を元に例えると、得体の知れない麻薬取引事件や、人種の違う少女と共にする主人公物語、地下社会や国同士の対立なんて要素が、非合法な妖精の売買取引や異世界の王女と捜査を共にすることになった主人公話という感じで、小道具をファンタジー色にして新鮮さを出している作品となります。 まぁ、特に先が気になる!とか、不思議な謎、仕掛けというミステリ的な要素は弱いです。誘拐事件(妖精)の捜査模様はあれど、異世界と繋がった世界観や、刑事と女騎士の進展の方が楽しく読めました。 SFのファーストコンタクト物で例えてしまいますが、言葉の問題や科学と魔術の相互理解や魔法と銃の戦いとか、互いにない技術・思想を用いた異文化交流の背景がしっかりしているので、単純なラノベとは一味違う骨太感がいいです。あと表紙絵の雰囲気凄く好み。2人のキャラが絵・文章ともに魅力的でした。 |
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