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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数126件
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民間宇宙旅行が実現した近未来。
宇宙ホテルにて発見された無重力での首吊り状態の死体。 あらすじのキャッチが魅力的なので手に取りました。 まず正直な感想として、SFミステリーとして期待して手に取りましたがミステリーとしてはあまり面白くありませんでした。謎の説明不足や順序立てされた解説ではない為、おそらく突然の科学知識の紹介を読んだような気分になるのではないでしょうか。扱われている科学知識についてはそんなに難しいものではない所が選ばれているのは良いのですが、伏線なく突然出てくるような印象な為、「そうだったのか!」という驚きではなく「そうなんだ。」という感想。 登場人物表や舞台の見取り図も欲しかったです。状況がイメージし辛い読書でして、ミステリーとしては楽しめなかった次第。 ただ人情ものといいますか、登場人物の過去のエピソードを語り合う所は良かったですし、何故こんな事件を起こしたのかという思想的な話は納得できました。最後のセリフも〇。 なんとなく前作の『老虎残夢』の時も感じたのですが、謎や仕掛けのミステリより、キャラクター達の会話や物語の全体像が面白いなと感じました。 |
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記憶喪失ものの恋愛小説。
この手の組み合わせは昔から多くありますが、好みなのでついつい手に取ってしまう次第。 本書の特徴は“パズル病”という病。勉強や趣味で好きな事がジグソーパズルのピースのように剥がれ落ちて記憶を失っていく症状。 あらすじや帯にある通りキャッチフレーズとなる「私、先輩のことが世界で一番……嫌いです!」という妙な導入が面白い。好きなものを忘れる奇病。だから嫌いな先輩を頼るという可笑しさ。ライトノベル作品としての掴みはバッチリでした。 今風の作品として面白く、会話の砕け方やボケなどクスッとさせられましたし、イラストもオタク臭くなく丁度良くいい感じです。ラノベ好きな読者層には好感に映る要素が豊富でした。ミステリ好きの読者としては何がどういう風な結末を迎えるか予想できてしまう構成かと。気軽にサクッと読めるという意味では良かったです。 欲をいうと終盤はもっと丁寧に描いて欲しかったです。中盤以降は話が駆け足なのが気になりました。全てが良い方向でどんどん繋がるので、話が繋がるというより、描きたいシーンだけ並べましたというブツ切り感をとても感じてしまった次第。 話や真相は面白かったので、もう少し丁寧かつ話に惹きこまれる展開や演出があればもっと感動しただろうなと思います。最終章の4章は特にそうで、大事な話や展開が30ページだけで描くのは急過ぎです。商品として300ページ以内に収めたと思われますが、これにより味わい感動する間がなく終わってしまったのが勿体なく感じました。綺麗に終わる物語としては良かったです。 |
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大雨の中、バス事故で避難した先の廃墟にて発生する怪死事件。
スプラッターホラー映画のように惨殺されていく乗客たち。何が起きているのか理解不能のまま恋人を助けたいと渇望する主人公の身に起きたのはバス事故前を基点としたループ現象だった。 本書は怪異が存在するという事が前提状況にあるホラーミステリーのシリーズ4作目。 今作は怪異+SFお馴染みのループ現象という事で冒頭からのワクワク感が良かったです。バッドエンドを繰り返す序盤のテンポも〇。ループ現象での絶望の先でシリーズお馴染みの那々木悠志郎が登場と、気持ちがあがる展開が良かったです。 中盤は怪異説明の伏線なのか仏像の蘊蓄が多く語られるのですが、それも楽しく読ました。仏像話はとても参考になります。 さて、中盤までは凄く楽しかったのですが後半はちょっと低迷。 怪異や物語の真相はよく考えられており、読み終わってみればシリーズの中では一番凝った造りだと思われました。 ただ、個人的な気持ちとしてもどかしいのは伏線から論理的に探偵役が真相を導くのではなくて、なんというか突然の解説のように全部説明されてしまう事。ミステリで萎える展開の一つに犯人が全部解説するというのがありますがそんな感覚。色々と面白くなるはずの終盤が残念だった印象でした。勿体ない気持ちで終わりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2021年度のメフィスト賞受賞作。メフィスト賞らしく変わった趣向の作品で楽しめました。
高額なアルバイトの内容はスマホにインストールしたスイッチを押しても押さなくても毎日1万円が手に入り、1カ月後にはさらに100万円が支給されるというもの。誰かがスイッチを押したら報酬がなくなるわけではない。ただしスイッチを押すとある家族が破滅するという内容。"悪意"の存在についての実験です。 あらすじがデスゲームのような内容だったので興味を引かれて手に取りましたが、中盤からは違った物語が展開された印象でした。世の中の多くのレビューの声にある通り、心理学から善悪や宗教に関する考え方が作品内に色濃くでてきます。個人的には思っていた作品と違うイメージでしたが本書の個性として面白く読めました。読み易い文章であり、考え方や説明が理解しやすかったのも好感でした。 メフィスト賞らしい広義のミステリーの物語として味わいました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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多くの人に知られている赤ずきんを主人公&探偵役としたシリーズ2作目(著者の童話シリーズとしては4作目)。シリーズ順序は関係ないので本作から読んでも大丈夫です。
皆の知っているキャラクターを用いる事で読者を得やすくなっている作りを感じました。 今回扱われる題材は『白雪姫』『ハーメルンの笛吹き男』『三匹の子豚』。そしてタイトルにある『赤ずきん』『ピノキオ』。これらのキャラクターを混ぜ込んで作られた著者流の童話となります。個人的にはミステリというより大人向けに再構築されたオリジナル童話という印象でした。 木でできた人形の右腕を拾った事から始まり、赤ずきんはピノキオの部品探しをする先々で各童話の世界に入りそこで事件に遭遇するという流れです。 元の童話とは全然違う話でありキャラクターも多く出てくる為か、話がわかりやすそうで分り辛いという変な気持ちの読書でした。キャラクターは分かるけど、キャラがどこで何をしているのか情景が浮かび辛い物語だったのが正直な気持ちです。各物語の事件概要が把握し辛いのですが、結末側は読み易く描かれているので何が起きていたのかが後でわかるという読後感でした。 良かった点として各物語は前作よりもちゃんと童話をモチーフとした仕掛けがあるミステリーとなっていたのが好感でした。ただ童話の世界なので魔法のような現象で何でもありな世界になっていて、ミステリとしてはルール説明不足な気がするのが難点に感じました。 話の構造として『ハーメルンの最終審判』が好み。物語の背景や各人の行動の意味が明かされる物語として面白かったです。 |
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特殊設定もの作品で薔薇の表紙に惹かれて手に取りました。
あらすじや帯に記されているのですが、"ミステリ"ではなく"ミステリー"と書かれており、これはあえて表記していると感じる読後感。謎解きものではなく、個人的に感じたジャンルはSFの医療小説です。 物語は「オスロ昏睡病」と呼ばれる難病にかかると昏睡状態になり記憶を失ってしまうという病気がある世界。ただ本書は冒頭で既にその病気の解決策が見つかっていて、その治療の副作用として身体に薔薇のような腫瘍が生まれるという設定。その腫瘍を持った人々が次々に襲われるという事件が起き、それの調査からミステリーが始まります。 まずこの世界の設定を序盤で読み易く展開されるのが良かったです。どういうルールが適用されているのか説明が巧いので苦なく読み進められました。著者は物語の説明がとても巧いです。複雑な世界を分かりやすく伝えていると感じる所が多々ありました。 先程医療小説と挙げた理由は、事件の謎よりも腫瘍を基点とした物語をメインに感じた為です。腫瘍の謎もありますが、治療方法や腫瘍を持った人々の交流など、空想要素を取り除けば身近にないめずらしい病気の医療物語の印象です。薔薇や腫瘍などの設定がミステリとして必須アイテムというわけではなく物語の表現や演出寄りに感じた次第。 SFの医療小説+青春ものの物語として手に取ると良いと思います。 著者の作品は初めてだったのですが、読みやすく物語の世界が独特で気になる為、他の作品も手に取って見ようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『いけない2』が話題なので1作目を予備知識なしで手に取りました。
普通のミステリとは違う為、これは少しどういう本か予め知ったうえで手に取るとよいです。 ネタバレなしであらすじの範囲で説明しますと、各短編の最後の1ページに写真があり、その写真を見ると真相が推理できるという仕掛け本です。注意点としては写真を見れば全てが理解できてあっと驚くような快感が得られるわけではなく、あくまで【最後に推理のヒントが得られる】作り。最後の得られたヒントを元に、もう一度読み直しながらセリフや状況を分析して真相を自分で解き明かす構造です。ひと昔前のゲームブックを思い出しました。 個人的な難点は、最後にヒントが得られる構成の為に初読では叙述トリック作品のように何かが隠された物語の描き方で内容の把握が難しく、かつ読みづらく感じたのが本音です。 本書は自分で推理をしたい&問題を解きたいという人にオススメな本。 真相は分からずモヤモヤする人には不向きです。この点を踏まえて手に取ると良いでしょう。 物語の雰囲気は初期の頃の道尾秀介の作風で、ちょっと暗く嫌な気持ちにさせられました。真相がわかっても気持ちが晴れるわけではなく、むしろ気分はどんよりと沈むような気持です。 真相がわかないとモヤモヤする為、何度か本を読みなおしました。2章がスッキリしませんが最終章および1,3章はこういう話だなと理解できたような読後感です。個人的には手に取る気持ちの準備不足とタイミングが悪かったのもありますが、謎も物語もスッキリしない気持ちが少し好みに合わずでした。 著者作品をみると『いけない2』や『N』のような、本として意味がある事や読者を楽しませる仕掛けを考えた作品でしてとても好感でした。自分で謎を解きたくなったら『いけない2』を手に取って見ようと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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メフィスト賞受賞作。コンビニを舞台としたミステリ。
先に2作目の『謎を買うならコンビニで』を読んでからの読書でした。その感覚だと2作目は大分読み易く物語も把握しやすくなっていたという印象でして、1作目の本書は物語が"複雑"という表現ではなく"粗削り"で書きたい事が雑然している印象でした。ただ良い所は沢山あり、本書はコンビニを舞台としてコンビニで働く者を主題とした本書ならではの個性的な作品で好感です。 著者自身が高校生からずっとコンビニ店員である実体験が活かされております。店員からの視点、バイト仲間、お客さん、起こり得る事件の範囲、レジやらお金の扱いなど、これらを活用したミステリであるのは面白く読めました。ただちょっと把握し辛いのは難かもしれません。 個人的にはミステリよりもコンビニ店員である事の感情の描き方が印象的でした。著者の想いが噴出しているのかもしれませんが、社会との距離、フリーター&バイトである事の後ろめたさと言った負の感情がリアルに感じました。いわゆる青春小説として同じ年代の仲間との交流や恋愛などの物語を学園で行わず、バイト先のコンビニを舞台で描いている様は、学園や社会人を遠い存在の憧れ(?)の様な距離で一線が引かれており、でも体験したい、自分もそうなりたいという感情によって本書の物語が生み出されているように感じました。 ネタバレではなく関係ない要素なのでここで書きますが、6章辺りの人を信じられない主人公の疑心暗鬼の様子も中二病やこじらせ系と言えばそれまでですが、でもそんな単純な言葉ではおさまらず、表向きでは他人との距離感を放ち、でも内面では仲間を信じたい気持ちもあるという反発する感情が描かれていたのが印象的。ミステリよりこの感情を溢す様が強く心に残る作品でした。 |
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やり直しがきかない裁判とタイムリープを組み合わせた異色作。
"タイムリープ"を扱う作品の印象から軽めの法廷作品かと思って手に取ったのですが、中身はどっぷりと法律を扱う社会派小説でした。 予想と違う本でしたが読み辛さはなく、日常で馴染みのない法律について確かな知識を物語を通して学べて為になったというのが読後にまず思った感想です。 有罪判決のあとに冤罪の可能性がでてもやりなおす事ができない日本の法。裁判官という仕事の特性。普段馴染みのない法曹の話がリアルに描かれており楽しめました。事件内容や捜査模様、推理の流れといった小説の展開がミステリとも警察小説とも違ってリアルな法律にそっているのが特徴的。これは著者の持ち味だと感じます。 著者のデビュー作『法廷遊戯』より読み易く楽しめたのが好感。中身の法律を主軸にした話展開は同じなのですが、登場する人物の心情が多く描かれているので法律知識だけではなく物語としてちゃんと楽しめました。 "タイムリープ"という言葉に目が行きますが、読んだ感覚としてはアドベンチャーゲームでした。 1つの物語を違う選択肢から眺めて手がかりとなる情報を得て最後にトゥルーエンドへ向かう。ゲーム系と違うのは中身がリアルな法律と事件を扱う事。小説の構造はライトで事件内容が重い。これは悪い印象ではなく、今後もこうした形で難しいと感じる法律のイメージを物語を通して払拭し学べるならいいなと思いました。 |
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近未来警察小説。
警察小説によくある組織や立場の対立など描かれているのは前提とし、そこに近未来というフィクションを織り交ぜる事で、警察が雇う傭兵という新たな対立要素、搭乗兵器によるロボットアクションなどが新鮮に映った作品でした。 ハヤカワ・ミステリワールドに属する推理小説のシリーズに含まれる作品であったので、本書の設定ならではのミステリ的な仕掛けを期待してしまった所があり、そこは期待と違いました。推理小説というより新たな警察小説というニュアンスが正しく、その系統が好きな方はとても楽しめる作品です。 第一章の事件開始の導入はパニック感やスピード感があり抜群に面白かったです。中盤以降は雰囲気が変わり、人間模様、組織、事件の捜査、などがどっしりとした歩みで展開され、少し好みとは違いました。 シリーズを見越した作品であるので、本書単体だけですべてが丸く収まり解決するという事はありませんでした。各キャラクターの過去や組織の物語に謎を秘めたまま終わる為、悪い意味ではスッキリせず、良い意味では続巻が楽しみになる作りは好みの別れ所です。 個人的に重厚な作品で内容は好きなのですが、時間をかけて読み終わってもスッキリしない点が多いのは楽しかったよりも疲労を感じてしまい、続巻を手に取るのを躊躇してしまう気持ちが残りました。 |
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ミステリ・フロンティアに属する作品ですが、ミステリというよりファンタジーを用いた青春小説でした。
物語は社会人となった主人公が、駅のホームで高校時代の同級生の女性を目撃する所から始まります。 ただし違和感がある所は、その女性は高校生の姿のままである事。他人の空似、見た目が若い、姉妹、というわけではなく、言葉通り18歳の高校生のままという事。本作品はこの状況を現実的な解釈を用いるのではなく、こういう世界であるとファンタジーな事象を日常の1コマのように捉えているのが面白いです。 ミステリとして見るなら「何故彼女は18歳の高校生のまま変わらないのだろうか?」という謎を起点とした物語となります。 ただ読書して感じた事は、ミステリを描いたのではなく"年齢"に着目したテーマや想いが主要である事。年齢という呪縛。同世代や異なる世代のずれ、年齢と共に忘れてしまった思いなどを強く感じました。 印象的な一文は「年齢というものは、その人間の性格よりも、能力よりも、本質よりもずっと手前に陣取っている憎いやつだ。」というもの。社会人となった主人公の悩み同様に、年功序列、能力社会といった社会的なテーマを感じた一幕でした。 当時のままの同級生という設定からくる物語は、姿だけでなく高校生の頃の想いを思い出させます。大人へのあこがれや希望、やりたい事の夢、そういった光に対して現実の闇を対比させて考えさせるテーマ性を帯びている為、本作品を読む読者の年代によって響く所が異なるのではないかと感じました。 一昔前ならタイムトラベルもの作品で同様なテーマが描かれそうですが、今の時代に合わせた内容や不思議な世界の描き方は現代的な作品となっていました。この描き方は著者の持ち味で面白いなと思います。 |
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虚実混交による怪談ミステリ。
著者が小説新潮から怪談小説の執筆依頼を受けた所から物語が始まります。 新潮社がある神楽坂。そこから始まる怪談物語。 短編集の構造で、それぞれの短編は実際に2016年から『小説新潮』に掲載された短編たち。時系列や各人達の関り方が活用されており、現実と虚構を曖昧にしているのが面白い。 いつから企画構成が練られていたのかはわからないですが、実際の日常と共に怪奇に遭遇していく話の展開は面白く、巧い企画の作品だと思いました。 当時、著者のTwitterにて怪奇に悩む投稿があるなど演出が凝っています。 それぞれの物語は非現実的な怪談を扱ってはいるものの、起きている事象を論理的に解釈すると、怪奇とはいえどういった部類の怪奇現象なのかが導かれる為、その展開はミステリを感じました。謎と結末が怪談要素というのも良かったです。 これって本当の話?あの人やこの現象はどうなるの?といった一昔前のオカルト体験が楽しめます。ホラーにしてはサクサク読めるのも好感でした。 |
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あらすじ通り2度読み系の恋愛小説でした。
"宝石病"という体内に結晶を溜め込んでしまう難病を患った女の子の、残された時間の青春物語です。 恋がしたい女の子の恋愛小説を起点としますが、読んだ印象としては自己犠牲や相手を想う気持ちを表した作品だと感じました。 難病ものなので何となく結末は予感させつつも、あらすじには"ハッピーエンド"と書かれているので、どのような結末になるか楽しみでした。読者の期待する結末と沿うかどうかが好みの別れ所になるかと思われます。 個人的には期待するものとは違った作品でした。ただもう一度読む楽しみがある本ではあるので、ライトミステリとしての面白さは備わっています。そこに惹かれる人もいると思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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青春ミステリ模様が現代的で面白かったです。
まず、主人公である女子高生のピップは性格も行動力もよく読者の視点となる探偵役として読んでいて気持ちがよかったです。犯罪にぐいぐい足を突っ込む行動力は危なさで不安になりますが、物語の主人公としてはアリかと思う。携帯の履歴、SNSのフォロワー、パソコンの操作など、時代に合わせた捜査力は中々ナイス。コツコツ地道に自身の考えを読者に提示していくので謎解き小説として楽しめる構造になっていました。 ただ、個人的な心境として期待し過ぎてしまったのと、内容が好みではなかったのが正直な気持ち。読書が長く感じました。 驚きの真相や派手な仕掛けがあるタイプではなく、ティーンエイジャー視点での犯罪と捜査模様が展開される作品です。2022年度のミステリ各誌にランクインしていたのもあり余計な期待を抱いてしまっていました。 謎解きミステリとして街で起きた過去の事件が明かされる様子はスッキリするのですが、一方、明かされた事により人間関係の闇や若者の社会的犯罪を見せられるのはあまり気持ちよくないもの。 学生を読者ターゲットとしてその年代の犯罪と解決が描かれているので、そういう意図の作品としてはアリ。そんな感想でした。 |
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ミステリ愛に溢れた作品でした。
まず世界の設定が発明もので良かった。 それは『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界。どんなに怪しい犯人でもアリバイがあれば無罪になるのと同様に、密室の謎が解けなければその人には犯行が不可能であるとし無罪となる世界線。この設定が発明ものです。この設定のおかげで密室を作る理由を考えなくてよく、密室殺人が多発する理由にもなります。 ミステリ小説において密室ネタは出し尽くされ古臭いものと扱われますが、あえてそこに脚光を浴びせた意欲作だと感じます。 舞台は雪の山荘、クローズドサークル内での連続殺人。現場にはトランプや見立てやらで古き良きミステリの雰囲気を味わえます。登場人物達の雰囲気は個人的に好きなゲーム『かまいたちの夜』の印象でして、怪しい面々と砕けた会話は良い意味でライト。陰鬱さはなく連続殺人でもサクサク進行します。 そんな好みの雰囲気であるコテコテのミステリだったのですが、好みにそぐわなかった点として、あえての悪い言い方で恐縮ですが、トリックの問題集になってしまっている事。それぞれの事件に関連性もなくバラバラな印象だった点もよりそう感じてしまった次第。 他本と比較するのもアレですが、トリックを連撃しながらも問題集にならず名を残しているミステリは、それ+αの要素があります。ホラーやエログロなどで感情への刺激を加算するものや、キャラクター性を強めるもの、社会派と組み合わせて考えさせたりなどなど。本書は密室トリックを主体としながらそれだけで勝負しているのは好感でもあるのですが、最後の最後まで出し惜しみした仕掛けのインパクトが非常に弱いものだったので(演出力なのかもしれませんが)、肩透かしを食らってしまった気分でした。なので物語になっているような印象はなくトリックの問題集に感じた次第でした。 終盤より途中のドミノに囲まれた密室は面白かったです。トリックがというよりその状況のシチュエーションが新鮮でした。ミステリ読者程その他で使われた内容を考察する作品は読み慣れてしまっているので、こういう内容の方が面白く映るのではないかな。 というわけで、密室トリックというミステリ要素についてはあまり印象的ではなかったのですが、ミステリに対する著者の想いやミステリ好きだと感じさせる要素要素の数々は好きなので、デビュー作後の2作目でどうなるか期待です。 あとタイトルと表紙がとてもミステリ好きに刺さるので、これは編集者がナイスだなと思いました。特徴的なので書店も売りやすそう。商品として巧いと思った。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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高校生の日常におけるちょっとした一コマの出来事をミステリ仕立てにした短編集です。
表題『早朝始発の殺風景』は、始発の電車で遭遇した普段あまり話さない同級生との一コマ。 『メロンソーダ・ファクトリー』はファミリーレストランでクラスメイトと学園祭準備の打合せでの一コマ。 『夢の国には観覧車がない』は部員達と遊園地に遊びに来たときの一コマ。 という具合で高校生活の日常の1場面を切り抜いてそこで起こる日常の謎を扱います。 これといった印象強い派手な要素はないのですが、高校生活における空気感や友人達の微妙な距離感が見事に描かれており雰囲気を楽しむ事ができました。テーマが揃った短編が集まっている為、短編集として整った作品であると感じます。 個人的には『夢の国には観覧車がない』が好み。 人物配置、場所、状況、何故そうしたか、全てに無駄なく高校生活の日常としても合っていて良かったです。 エピローグも巧く作品全体をまとめており、各人達のその後が見えてなんだか嬉しいサービスに感じました。 |
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SFにおける時間要素と恋愛小説を掛け合わせた短編集。
新版では8作品収録されています。短編集タイトルになっている『美亜へ贈る真珠』に至っては1970年代の作品。 80年代、90年代、そして現代に至るまで、時を扱った作品は小説や映画や漫画やアニメなど数多くあります。それらの時間要素と恋愛作品を絡めた作品の歴史において、本書は外せない1作という情報を得て手に取りました。 確かに読んでみると数多くの作品を思い浮かびます。このネタはあれだ。あの映画もこのネタなのか。などなど。SFとしての時間要素は昔からあれど、そこに恋愛要素を加えて淡く叙情的なドラマを感じさせているのは中々見事で楽しめました。 ただ一方、既存作品に慣れているから仕方がないですが、原点的な本書を読んでも新鮮な読書にはなりませんでした。文章が少し古いというか固く難しいので面白かったかどうかと聞かれればSF作品×恋愛の歴史としてこういう作品があったのかと知識として体験した感想。 ミステリで例えると、2000年代のミステリから入った若い人へモルグ街や海外古典を読んで大絶賛するか……という話で、ちょっと違う気がするような感覚。なのでそのジャンルの歴史を体験したという感想でした。 個人的に好みだったのは 『詩帆が去る夏』と『梨湖という虚像』での恋人の再現。 『玲子の箱宇宙』『"ヒト"はかつて尼那を……』という、多次元や宇宙を扱った物語。 ここらが読み易く印象に残りました。 |
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廃墟となった遊園地が舞台のクローズドサークルもの。
廃墟コレクターの資産家よって集められた男女10名。当初のイベントは廃墟を舞台にした宝探し。だがそううまくいかず殺人事件が発生する。廃墟になる原因となった観覧車からの銃乱射事件との関りは……?という流れ。 舞台である遊園地の雰囲気はとても良かったです。 CCの環境で起きる本格ミステリはとても面白い。仕掛けもよいですし、物語の真相となる何故事件が起きたのか?という背景の作り込みがとてもよくて好感でした。 主人公の探偵能力がコンビニのアルバイト経験で表現されるのが面白くてツボ。この主人公キャラを活かして今後も『廃墟シリーズ』として続編が出る事を願います。 さて、物語や雰囲気と事件模様はとてもよいのですが、評価としては芳しくない気持ちでした。 それは校閲漏れがいくつか見られる事。事件現場の情景のイメージ付かなかった事。この2点。例えばP28の序盤で登場人物達の初めましてで名前を名乗っていないのに、相手の名前が描かれている。知り合いなのか?と変な違和感を得るけど、少し読むとこれはミスだと気づく。そのような文章が他にもあるが、そっちは実は伏線で活用されたりする。おそらく小説作りの後半で文章を並び替えたりしてのミスだとおもうのですが、ミスなのか伏線なのか混乱してしまい、後半の真相でこれは伏線でしたと言われても、あの表現はミスだと思ってた……と感じる事がありました。情景がイメージし辛い所もあり、混乱する読者が多いと思いました。 登場人物の名前についてはちょと癖が強くて読みづらい。登場人物一覧を見ながら読書でした。※人物一覧があるのは良かった。 渉外担当だから渉島。売店担当だから売野。編集長だから編河。と分かりやすいようにしている気がするのですが、読書中はイメージし辛い。資産家の十嶋庵(としまいおり)は、"としまあん"⇒豊島園(としまえん)遊園地のもじりかな?とか気づく所は面白いのですが。。 といった具合で読み辛さで残念に感じる所が多かったです。是非とも文庫化の時は加筆修正してもらいたいです。ミステリとして面白いし、見取り図が遊園地のパンフレットになっているなど拘りが楽しい反面、地の文がおかしいと残念な気持ちになります。 廃墟を舞台にしたミステリ。主人公のキャラクター性。遊園地やリゾート開発の背景を含めた村との物語。ここら辺は抜群によくできていて面白かったので、『廃墟シリーズ』として続編を希望です。 |
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序盤苦労しましたが、読書した結果は面白い物語でした。
江戸川乱歩賞受賞の本作。乱歩賞は社会派の作品が多いので勝手なイメージから最初はコテコテ中国の歴史ものかと思いきや、読み終わってみれば若い世代を狙ったライトな能力もの作品と感じました。 江戸川乱歩賞というより同じ版元の講談社ならメフィスト賞のような印象。ここ数年ミステリ界隈では『特殊設定ミステリ』がもの珍しさから流行っている為、江戸川乱歩賞としても新たな読者を得るべく、その設定を取り入れた本書を採用したのかなという思いを感じました。その為のダブル受賞というのを感じます。 序盤の感想として、武侠小説に馴染みがなかった為か開始30ページで挫折でした。最初の1ページから読み辛い漢字の羅列。非現実的で意味不明の環境や会話。正直読むの迷いました。江戸川乱歩賞受賞だから再度読む事に決め、そもそも武侠小説とはどういう物なのか調べてから本書を読み直す事にした次第です。 同じ思いの人がいましたらコツとしてお知らせですが、わかりやすく説明すると本書は能力ものです。 武侠小説×ミステリとすると難しく感じますが、能力もので、超能力・ファンタジーを扱っていると考えたら理解しやすい作品でした。 私のように武侠小説に慣れていない人の為のお伝えメモとして、出てくる能力の説明を。 ・外功(がいこう)という能力は、力・筋肉の物理能力。 ・向功(ないこう)という能力は、防御・治療の回復系能力。 ・軽功(けいこう)という能力は、体重を軽くする能力。達人になる程、高く飛べたり水面も歩ける。 ちなみにこれらの言葉はwikiにも存在しており中国武術の一般知識でした。 そりゃこういう能力が成り立ったらファンタジーになっちゃうから"ノックスの十戒"も中国人を禁止したくなるわと思い出しました。一方、こういうものだと設定として認識できてしまいえば本書はとても読み易く楽しめます。 能力ものと認識できればアニメやラノベをイメージしてスラスラと描かれているシーンが浮かびました。軽功の優れた能力者は湖の横断は船ではなく歩いて渡ったり、『踏雪無痕』という能力になると足跡を付けずに雪の上を歩ける。向功の達人には毒が効かない。ふむふむ、だんだんとミステリの設定条件になってきた。そんな具合で理解です。 これらは序盤で一応説明されますが、文章ゆえか理解し辛いのが本音。登場人物も見慣れない名前でイメージし辛い。 是非文庫化する時は、簡単な能力表、登場人物表、周辺地図や現場の図を添えると評判がより良くなると思います。手に取って最初の数十ページの印象が難解過ぎます。50ページぐらい読むと雰囲気と会話文主体で読み易くなりました。文章の雰囲気が違うので加筆して調整したのかな。 中盤以降は、限られた個性的な人物達のやりとりがキャラものとして読ませますし、謎の提示やそれぞれの立場からの議論は面白く読めました。ただミステリとして残念なのがファンタジーの能力ものの条件が曖昧な事。何ができて何ができないのか、現実とは異なる能力が存在する世界なので、条件が定まっていないと、実はこんな事ができます・起きていましたと言われても後出しに感じるのです。 "江戸川乱歩賞"として見ると違和感があるのですが、ミステリを気にせず1つの物語としては本書は面白かったです。 『老虎残夢』というタイトルはカッコよく内容に合ってるのが好感です。表紙のイラストもよくて、今までの乱歩賞のイメージを変える作品に位置付けられているんだなと感じました。宣伝方法から新しい読者を得たい気持ちを感じますが、最初の数ページが難解で、試し読みで敬遠されてしまいそうなのが気がかりにも感じました。 1つの物語として完結していますが、紫苑を主人公とした異なる物語をもっと読んでみたいなと思いました。旅物語ならシリーズ化できるぐらい良い設定と魅力ある舞台です。次作があるなら楽しみです。 |
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堂シリーズ完結。
メフィスト賞を受賞してデビューした『眼球堂の殺人』は理系の本格ミステリとしてシリーズを期待させるものでした。2,3作目と少しパワーダウンしましたが、4作目『伽藍堂の殺人』からは物語を様変わりし最後に向けて出来る中での物語を作り上げて、ちゃんと完結させたという所は評価です。 毎回の読後感は謎の勿体なさを感じる気持ちで不満が多いのですが、読みたくなる魅力は備わっていました。数学的な話や本格ミステリ、キャラクター達は気になる方々。今回最終回ということで主要な人物達を出してまとめているのは改めて最後なんだなと寂しさを受けました。 ミステリの仕掛けについて思う所として、4作目ごろから本作品は理系の本格ミステリ傾向の中、題材やトリックは数学的な机上の空論であり、実際にそれができるのかという物理的制約が無視されているのが気になりました。面白くて派手ならいいでしょという感覚が見え透いております。物語は数学なのにミステリの解決は論理的ではなく、トリックは物理的なのに現実では実現できない。このちぐはぐが残念な印象を受けました。 本作ではシリーズに出てくる大ボスの数学天皇の藤衛が登場しました。最終回という事で風呂敷を閉じる意味で出てきたのもありますが、なんというかしょぼい幕切れかなと。 このシリーズをリセットさせたいのか、読者に好まれるキャラクターがいなくなってしまっているのが残念。個人的に好むキャラは善知鳥神ぐらいでした。十和田も1-2作目の頃は好きですが、それ以降はちょっとね。 途中で辞めず最後まで読みたくなったシリーズとしての魅力。物語が完結したという所の評価で☆6。 |
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