■スポンサードリンク


梁山泊 さんのレビュー一覧

梁山泊さんのページへ

レビュー数136

全136件 21~40 2/7ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.116: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

出口のない海の感想

横山秀夫といえば警察小説ですが、そんな作者が描いた戦争小説。
さすがに期待は裏切りません。「永遠の0」が神風特攻隊ならば、こちらは人間魚雷。
背景的な意味合いを持つエピソード。
この作品では、大好きな野球、大好きな女性、なんですが、 物語に何ともいい味わいを出しているように感じましたね。
ただの戦争一色の作品ではないですよ。
人間魚雷として死という運命を目の前にした主人公が吐露する本懐に涙せずにはおれなかったです。
ホントに馬鹿な時代があったものです。国ごときのために捨てていい生命などないのですから。
昭和初期の、もはや時代遅れ、時代錯誤も甚だしい思考をお持ちの国、組織が今でもあるようですが、こういう作品を読んでみればいい。

出口のない海 (講談社文庫)
横山秀夫出口のない海 についてのレビュー
No.115:
(9pt)

プラチナタウンの感想

商社で出世ルートを外された主人公が故郷の町長として、借金まみれの東北の田舎町の財政再建のため一大ビジネスに乗り出すという物語です。
前町長の時代に「ハコモノ」を造りまくったおかげでインフラだけは十分にあるけれども、観光客は来ないどころか地元民すら利用しない、また企業も工場を建てたがらない。
こういう町って日本中に山のようにあるのだろうな、って思いながら読みました。
地方再生もあるのですが、それに加えて、来るべき高齢化社会への1つの解決策としての作者の提案なんでしょうね。
田舎ならでわのしがらみなんかもあったりして面白かったですね。
伊吹元衆院議長が当時の地方創生相・石破茂に「地方創生相なら読んどけ」と薦めた本らしいですよ。
惜しむらくは、後半端折りすぎだったって事でしょうかね。でもお薦めします。

プラチナタウン (祥伝社文庫)
楡周平プラチナタウン についてのレビュー
No.114:
(9pt)

サイレント・ブレスの感想

大学病院から「訪問クリニック」への左遷を命じられた女医が主人公。
新しい勤務地は、在宅で「死」を迎える患者への訪問診療専門。
そこで主人公は、もう二度と治る事なく言わば死を待つだけの患者と向き合い、無力感を味わいますが、終末医療の大切さを知ります。
患者の立場から、最期にどういう医療を受けたいのか、見送る立場から、どういう医療を受けさせたいのか。
この作品は、「生きたい」と「救いたい」の間にある微妙なギャップを教えてくれます。
作者が現役のお医者様だということもあり、余計に身につまされる思いで読むことが出来ました。
特に、印象に残ったのは、死にゆく人よりも寧ろ家族の立場というか立ち位置と言うか・・・その描き方にリアリティを感じました。
出産、命の誕生によって生命への考え方に変化が生じるなんて事はよくフューチャされていますが、じゃあ消滅するする時、失う時はどうなのよ。
今後のことを色々考えさせてくれる良著だと思いました、

サイレント・ブレス
南杏子サイレント・ブレス についてのレビュー
No.113:
(9pt)

タックスへイヴン Tax Havenの感想

タイトルからも想像できる通り金融小説です。
作者の作品を読むのは初めてですが、Wikiで調べてみると「投資や経済に関するフィクション・ノンフィクションの両方を手がける」とある。
確かに、現実の出来事であるあの原発事故に絡めていたり、某国のあの人が実名で記載されていたりと、ノンフィクションではないかと錯覚してしまう程、リアリティを感じますね。
まぁ近いことは実際起こってるんでしょうね。
主人公が思いっきりハードボイルドしているのですが、相手はヤクザの比ではないわけで、そんな気取っていられるわけ無いですよね。
そこが少し現実離れしているかなと思いました。
読んでいて違和感感じたのはそれくらいで、金融に対する知識がなくとも十分楽しめますよ。
タックスへイヴン Tax Haven (幻冬舎文庫)
橘玲タックスへイヴン Tax Haven についてのレビュー
No.112: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

夜想曲(ノクターン)の感想

ロジックに酔ってください!!

この作者の作品は初読でしたが、あの泡坂氏の弟子なんですね。
「読者への挑戦」付きの本格推理小説。凄い奇術を見せてくれました。
ある意味、「多重解決」と言っていいでしょうか。
読み終えてみて、ありそうでなかった、って気がしています。少なくとも私は知らないです。
それにしても見事ですね。
読中、違和感は感じていたんですよね。「昨日の今日なのに何故ザワザワしない」とか。
でも、このトリックには気付きませんでした。
途中で何となく気づいた、なんてレビューを多く見かけますが、いえいえ、この作品は「騙された者勝ち」じゃないでしゅか。

「犯人は誰か」の他に、もう1つ「主人公に作中作となる作品を読ませた理由」という謎があります。
こちらについては、正直このパターンは好きではないのですが、この作品に限っては、あの大技を見た後って事で、それ程不快感は感じなかったですね。
でも、そこで1点減点。

夜想曲(ノクターン) (角川文庫)
依井貴裕夜想曲(ノクターン) についてのレビュー
No.111: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

怒りの感想

この作者の作品は「悪人」に次いで2作目。
「悪人」もそうだったのですが、この作品もどこか淡々と物語が進みます。
表面に露見する事こそないのですが、登場人物の内面にグツグツと煮えたぎっているような感情をすごく上手く表現できる方だなと思いました。
ですから読後しばらくかなりその余韻に浸れますし、印象にもずーっと残っているって感じの作品です。
こういう作品を読ませてくれる作家さんってそういないように思いますね。

凶悪殺人犯が逃亡中で日々報道される中、異なる3地点に全く無関係で前歴不詳の3人の男を登場させ、そんな彼らと関わる人々を描いた物語です。
それぞれの場所で、ただ人に言えない過去を持つというだけで、周りの人間達とも何の問題もなく過ごせている3人。
「もしかしたらこの人・・・」という思いから破綻していく人間関係。
「人を疑う」事に対する覚悟やその重さ責任、そういうものを表現したかったのでしょうね。
私には犯人の「怒り」の理由が結局分からなかったのですが、簡単じゃないというか難しいというか、こういうのも読後の余韻に浸れていいですね。

怒り(上) (中公文庫)
吉田修一怒り についてのレビュー
No.110: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

狼は瞑らないの感想

山岳小説というと面白いがワンパターンだったりする。
指摘されている方もいるように、山岳アクションでありながら舞台は冬ではなく夏。
障害となるのは、そのワンパターンの根源である雪ではなく風、雨、雷となる。
山が怖いのは何も冬だけではないというところで、雪がないことが新鮮であるだけでなく迫力も十分。
あと主人公のハードボイルド風な人物造形もよかった。
こういう舞台で最後生き残るのは彼のようなタイプでしか有り得ないかな、ってくらいまで魅了されました。
最後の最後まで緊張感たっぷり楽しませて腐れます。
お薦めします。

狼は瞑らない (ハルキ文庫)
樋口明雄狼は瞑らない についてのレビュー
No.109: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

検事の本懐の感想

「最後の証人」で弁護士として登場した主人公佐方の検事時代の話を中心に描いた連作短編集。
佐方シリーズ2作目となります。
「相手に真実を吐かせようと思ったら、人間として向き合うべきでしょう」
人を裁く事のできる立場の人間として、人を見て、事件の背景に何が潜んでいたのかを見極めようとする佐方の姿勢に共感。
そして、深掘りされていく被疑者たち。
性善説が前提で描かれている気がするのが若干気になりますが、主人公の佐方だけが突出しているわけでなく、他にも魅力的な人物が多数登場します。
「人間って捨てたもんじゃない」って、思わせてくれる良著です。

検事の本懐 (角川文庫)
柚月裕子検事の本懐 についてのレビュー
No.108: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

ジェリーフィッシュは凍らないの感想

「十角館の殺人」を読んで感銘を受けた人は、この本を読んだら似たようなレビューを書いてしまうよね・・・と予め予防線を張っておきます。
帯には「21世紀のそして誰もいなくなった」とあります。
クローズドサーキットものなんだな、ってのはそれで分かるのですが、読み始めると「そして誰もいなくなった」っていうより「十角館の殺人」だよねこれ、になりませんかね。
プロローグでの犯人の独白、クローズドサーキット内外を交互に進める構成などなど。
そして、これもあの1行を意識していると思われる「あの一言」
「ばんだいんです」に聞こえなくもない(笑) ・・・ウソです、相当に無理がありました。

これも既に指摘されている方がいますので恐縮ですが・・・
これもミスリードと言うんでしょうか、「そして誰もいなくなった」もそうですが、「十角館の殺人」から、ある先入観を持って読んでいると、なかなかに楽しい驚きを与えてくれますね。
それを考えると、「十角館の殺人」だけでなく「そして誰もいなくなった」も先に読んでおいた方がいいと言えるでしょうね。
クローズドサーキット内外の物語に時間軸のずれがありますが、こういう「十角館の殺人」との相違点に気づくと、そこには作者のアレンジというか「勝負」のニオイを感じることが出来て、そんな事を色々考えながら読むのが非常に楽しかったですね。

トリックなんかもかなり練られていて、それを考えると「十角館の殺人」って「一発芸」なんですが、その「一発芸」を超える作品未だなし、なんですよね。

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)
市川憂人ジェリーフィッシュは凍らない についてのレビュー
No.107: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

孤狼の血の感想

この作者の作品は「最後の証人」に次いで2冊目。
「期待を遥かに超えた作品」で10点満点だった「最後の証人」を超える評価でこの作品も10点満点にしました。
この作者の作品を読み漁ろうと思ったのですが、市の図書館で全ての作品が貸出中。
さすがみなさんよくご存知で・・・


文句なしですね。
暴力団同士の抗争や、マル暴とヤクザを題材にした小説は巷にあふれています。
暴力団との癒着を噂される破天荒な刑事が主人公で、破天荒ながらも実は人間味あふれる・・・てのが、この手の作品のパターンでもあります。
この作品もまさにその通りなのですが、正義感あふれる新入りの相棒視点で描くという手法により、より圧倒的な存在感を醸し出していますね。
まさかのフェードアウトには絶句しましたが、なる程「血」ね、とありきたりなラストと思いながらもどこか納得しているというか、感動しているというか。

各章の冒頭に、何箇所かを塗りつぶした日記を配しています。
相棒の日記であり、何か意味があるなというのは誰にでも分かるでしょうが、ラストその理由がわかった時には唸りました。
そう言えば「最後の証人」も最後唸らされたなぁ・・・と。
プロットを効果的に魅せる仕掛けって言うんですかね。完全に魅了されてしまいました。

孤狼の血 (角川文庫)
柚月裕子孤狼の血 についてのレビュー
No.106: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

絶叫の感想

超絶オススメの作品。

主人公である一人の女の転落人生を描いた作品、なんて感じながら読んでいましたが、それだけならこんな高評価な訳がないですね。
3つの視点と時系列で物語は進行します。
気になって仕方ないのが、主人公の転落人生、すなわち彼女の過去が描かれるパートなのですが、ここだけ二人称で描かれています。
普通、どこか叙述系のトリックを警戒してしまいがちですが、そういう技巧に走ったモノではありませんでした。
二人称である事の意味がラストに明らかになりますが、最近多い技巧に走る作品が稚拙に思えてしまうほどでした。
その必然性を感じる事が出来て、ストンと綺麗に腹落ちしましたね。これが個人的にツボでした。

たかが「自分のための居場所」を求めるがために、身体を売る、殺しに加担する、自らが殺人者となる・・・という不幸な女の3段活用は、よくありがちかなと。
ですが、この作品の場合、プロットもなかなか面白いんだなぁ。
非の打ち所なし。

絶叫 (光文社文庫)
葉真中顕絶叫 についてのレビュー
No.105: 10人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

ロスト・ケアの感想

これからの超高齢化社会に警鐘を鳴らす傑作。

43人もの連続殺人を犯した介護職員。
さて、この犯人を凶悪犯と感じた読者はどれ程いただろうか。
正直私は犯人がそれ程悪い事をしたとは思えないのです。寧ろ正義の使者にすら思えてしまう自分が怖い。
被害者家族、介護関係者視点のパートが衝撃的なわけだが、これが現実ではないだろうか。
私のような人間がいる限り、これは小説の中の絵空事ではない。

明らかに来る事が分かりきっていた高齢化社会。
年金問題も合わせて、国はどんな手を打とうとしているのか、そもそも破綻した時に責任を取るつもりがあるのか。
政治家どもよ、庶民に負荷をかけるだけかけておいて、でめえらは安全地帯から傍観しているなんぞは絶対に許されないぞ。

ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中顕ロスト・ケア についてのレビュー
No.104: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

最後の証人の感想

タイトルからも想像付くように法廷モノです。
裁判が始まってもなお、加害者、被害者の名を明確にしない。
何か趣向が凝らされている事は見え見えだし、そのパターンも限られているため「さぁかかってきなさい」な気分で読んでいましたが、ラストは自分にとって想定外の衝撃でした。
ただそんな趣向がなくとも本筋だけでも読み応え抜群の作品です。

我が子の大切な命を奪った者が裁かれない。そんな理不尽に対しての怒りは理解できる。
ただ、そこで母親が命をかけた復讐劇はもはや執念。
父親はただの協力者、というか傍観者だった、と言った方がしっくり来るかも。
その発想は、もう男の思考の範囲を超えているのではないかとすら思えただが、夫婦の絆の強さの成せる業か。
裁かれるべきは誰なのか、正義とは何か。
期待を遥かに超えた作品で超満足。

最後の証人 (角川文庫)
柚月裕子最後の証人 についてのレビュー
No.103: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

百年法の感想

これは面白かったです。
もしかしたら、これまで読んだ本の中でNo.1かも知れません。
評論家の大森望さんが、その感想の中で「ライバルは20世紀少年か」と言われていますが、私も読中「20世紀少年」を想起していました。
それくらい、いやそれ以上のスケールの作品だと思いました。

HAVIにより人間が不老不死を手に入れた世界。
それに対抗する、生存可能期限を百年と定めた百年法。
まず、この設定に強烈に引き込まれます。
読み始めて数十ページで「これは面白いぞ」となります。
そして、その大層な設定に対して、大風呂敷を広げたままで終わらず、予想以上の展開が待ち構えています。

上の人間がいつまでも居座り新陳代謝を起こさない社会。
それは、近い将来日本に間違いなく訪れる高齢化社会を暗喩しているように思いました。
更に、ファミリーリセット、医療制度の崩壊、民主主義の限界からの大統領による独裁政治などなど、普通では考えられないような展開が次々起こるのですが、それら全て、必然なものとして辻褄が合っているのです。

義務として無理矢理、死の時期を決められる運命となった人間ですが、その死生観は様々ってのがまた面白い。
実際、そんなもんなんだろうな、と納得してしまうし頷かざるを得ない。
特権階級のみは百年を超えても生きてよしという、国民を蔑ろにする強者の欺瞞あり、絶望し自殺する者もあり、一方でやはり、生を求め逃げる者もいると。
「阿那谷童仁」という偶像の神格化なんてのは、藁をも掴むっていう人間心理が現れていてとても興味深かった。

スケールはでかいんですが、現実離れしてるとも思えないところが、20世紀少年と違うところかな。
設定、構成、展開、バランス・・・全てよし。 全力でお薦めします。

百年法 上
山田宗樹百年法 についてのレビュー
No.102: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

オーダーメイド殺人クラブの感想

主人公の男女が中学二年生であり、序盤は単なる中二病の話かと思っていましたけど違いました。
背伸びをしてとか、大人ぶってとか、青臭いとかではなく、もうこれは深い深い真っ暗な闇、マイナス方向に振り切れている感じです。
しかし、これは間違いなく恋愛小説なんですね。相当に「歪」ですけど。
それに気づかされる読了間近はゾッとせずにおれませんでした。
作者を知らずに読んでいれば、間違いなく乙一の作品だと思ったでしょう。
乙一テイストな作品に、辻村深月が描く強烈な女の世界が融合した感じ。
黒辻村全開のえげつない作品だと思います。

辻村作品を読んでいると、時々、女に産まれなくてよかったと思う事がありますね。
精神的な成長は女性の方が早いと思っていたのですけどね。
面倒くさいし、ホントに怖いです。
まぁ、この年代の女性が全部そうではない事は分かってますけど。

オーダーメイド殺人クラブ (集英社文庫)
辻村深月オーダーメイド殺人クラブ についてのレビュー
No.101: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

テミスの剣の感想

冤罪をテーマにした作品ですが、冤罪被害者とその家族にとどまることなく、日本の司法制度そのものに一石を投じた社会派ミステリーです。
メッセージ性の高い作品を多く世に出す作者ですが、その中でもこの作品は際立っているかも知れません。
テミスは、右手に権力を意味する剣を、左手には正義を測る秤を携える法の女神。
警察官、弁護士、裁判官。
彼ら或いは彼女らは、普通の人が持ち得ない「人を裁く力」を持っている特殊な人種である事を改めて思い知らされる。
そんな彼らが過ちを犯した。
人一倍に責任を感じてしまう者、開き直る者、狡猾に他人を陥れようとする者、そして模範囚の仮面を被って出所してくる改心ゼロの真犯人。
更に、一方で全てを隠蔽せんとする巨大な力。
権力に媚びず、組織に背を向け、自分の信念を貫く一人の刑事。
この異端児を格好いいとは思えなかった自分は未熟なのだろうか。
全編通してずっしりと重く、決して面白い作品ではないのだが、色々考えさせられた作品である。
高野和明「13階段」を読んだ時と同じ胸のつっかえを感じた作品。

それにしても、この作者さんの作品は最初から順番に読んでいかないとダメですねー。
作品間のリンクが半端ない。

テミスの剣 (文春文庫)
中山七里テミスの剣 についてのレビュー
No.100: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

スロウハイツの神様の感想

この作者の作品は、私にとって好き嫌いがはっきりと分かれるんですよね。
嫌な女を描かせたら恩田陸さんと双璧だと思っていて、そういう女性が主人公の作品はどうも私には合わないのです。
この作品も、正直嫌な女が主人公と言っていいでしょう。
上巻を読んでいた時は、私には合わない作品かなと思っていましたが・・・

長編で登場人物が多いですが、一人一人個性的でしっかり描かれている。
この作品は、私が好きな作品「冷たい校舎の時は止まる」「子供たちは夜と遊ぶ」系で、この2作品を超えようかという作品です。

何気なく描かれていて忘れかけていたような、エピソードとも呼べないような、ワンシーンや一つの台詞を、物語の最後の最後、衝撃の事実に繋げているんですね。
そういうのを「伏線」って言うんでしょうが、普通の伏線とは一緒にして欲しくないような伏線ですね。
この作者さんはこういうの上手いですね。
「お久しぶりです」が好きですねー。
上巻と下巻で、ガラッとその印象を変える事になる人物が、少なくとも4名いますよ。
指摘されているレビュアーの方もいらっしゃるように、つまるところ上巻と下巻は別物と言っていいと思います。
この作者の作品では、これまで読んだ中ではNo.1かな。

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)
辻村深月スロウハイツの神様 についてのレビュー
No.99: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

チェーン・ポイズンの感想

途中、主人公の女性のキャラが変わったなとは感じていました。
死に直面している人物であり、別に不思議ではないと思いましたが、私は多重人格を疑ってしまいました。
なわけで、気持ちのよい騙され方と言いましょうか、ヤラレタ感満載でしたし、人並み以上に「上手いなぁ」と感じてしまったかもしれません。

「毒の連鎖」というタイトルからも「死」というか「自殺」の連鎖が想像でき、死のセールスマンは誰で目的は何なのかに着目してしまいがちですが、そういうミステリ的な事が主眼なのではなく、更に言うと「死」よりも「生」をテーマにした作品だったという気付きがあります、そういった反転ですね。
それだけでなく、自殺願望のある女性が語り手なわけで、必然的に重く暗くなっているのですが、毒を手に入れるまでの一年間で変わる女性を描いた作品だった事に気づいた時に、作品への印象もそうですが、読後感にも大きな変化をもたらしていますね。

同じような境遇から、死を選択した女性と、生を選択した女性。
どこが違うのか、とか色々考えさせられますね。
自分の気持ちなんて誰も分かってくれない、とは言うものの、人間やっぱり一人じゃ立ち直るきっかけは得られないんですね。

チェーン・ポイズン (講談社文庫)
本多孝好チェーン・ポイズン についてのレビュー
No.98: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

ラバー・ソウルの感想

湊かなえを彷彿とさせる、調書、独白、インタビュー形式の構成。
登場人物達が語るストーカー、そしてそれが引き金となって起こった殺人事件。
その中心にいるのが、一人の女性に心を奪われた、社会との関わりを持たない男。
「社会との関わりを持たない(或いは持てない)」というところがミソで、それこそが最後の壮絶な大どんでん返しをより見事に成功させているのだ。
井上夢人版「容疑者Xの献身」というべきか、いやあの「容疑者Xの献身」こそ、東野圭吾版「ラバーソウル」というべきだ。
言いすぎかも知れないですが、個人的にそれくらいの衝撃作。


▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
ラバー・ソウル
井上夢人ラバー・ソウル についてのレビュー
No.97: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人の感想

「臓器移植問題」をテーマとして、その影となる部分を描いている社会派サスペンスです。
この題材に対して、現代に甦った「切り裂きジャック」が移植した臓器を取り出す、という料理の仕方。
この作者の着想には正直感心させられました。

ドナーとレシピエントは単に臓器を受け渡しした関係だけではないって事なんですね。
ドナーは自らの意志で臓器を提供するわけですが、ではドナーの家族の気持ちはどうか。
そんな事、考えたことなかったです。
生き長らえたレシピエントが不健全な生き方をしていたら・・・
この作品を読んで、その気持ちがわかるようになりました。
レシピエントとドナーの家族は、ドナーがいなくなった後の時間を共有するべきなのでしょうか。
問題提起という意味でも、自分にとって相当にインパクトのあった作品でした。
たくさんの人に読んでもらいたい作品ですね。



▼以下、ネタバレ感想
※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[] ログインはこちら
切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 (角川文庫)