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梁山泊 さんのレビュー一覧
梁山泊さんのページへレビュー数88件
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この作者の作品は「悪人」に次いで2作目。
「悪人」もそうだったのですが、この作品もどこか淡々と物語が進みます。 表面に露見する事こそないのですが、登場人物の内面にグツグツと煮えたぎっているような感情をすごく上手く表現できる方だなと思いました。 ですから読後しばらくかなりその余韻に浸れますし、印象にもずーっと残っているって感じの作品です。 こういう作品を読ませてくれる作家さんってそういないように思いますね。 凶悪殺人犯が逃亡中で日々報道される中、異なる3地点に全く無関係で前歴不詳の3人の男を登場させ、そんな彼らと関わる人々を描いた物語です。 それぞれの場所で、ただ人に言えない過去を持つというだけで、周りの人間達とも何の問題もなく過ごせている3人。 「もしかしたらこの人・・・」という思いから破綻していく人間関係。 「人を疑う」事に対する覚悟やその重さ責任、そういうものを表現したかったのでしょうね。 私には犯人の「怒り」の理由が結局分からなかったのですが、簡単じゃないというか難しいというか、こういうのも読後の余韻に浸れていいですね。 |
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山岳小説というと面白いがワンパターンだったりする。
指摘されている方もいるように、山岳アクションでありながら舞台は冬ではなく夏。 障害となるのは、そのワンパターンの根源である雪ではなく風、雨、雷となる。 山が怖いのは何も冬だけではないというところで、雪がないことが新鮮であるだけでなく迫力も十分。 あと主人公のハードボイルド風な人物造形もよかった。 こういう舞台で最後生き残るのは彼のようなタイプでしか有り得ないかな、ってくらいまで魅了されました。 最後の最後まで緊張感たっぷり楽しませて腐れます。 お薦めします。 |
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「最後の証人」で弁護士として登場した主人公佐方の検事時代の話を中心に描いた連作短編集。
佐方シリーズ2作目となります。 「相手に真実を吐かせようと思ったら、人間として向き合うべきでしょう」 人を裁く事のできる立場の人間として、人を見て、事件の背景に何が潜んでいたのかを見極めようとする佐方の姿勢に共感。 そして、深掘りされていく被疑者たち。 性善説が前提で描かれている気がするのが若干気になりますが、主人公の佐方だけが突出しているわけでなく、他にも魅力的な人物が多数登場します。 「人間って捨てたもんじゃない」って、思わせてくれる良著です。 |
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【ネタバレかも!?】
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「十角館の殺人」を読んで感銘を受けた人は、この本を読んだら似たようなレビューを書いてしまうよね・・・と予め予防線を張っておきます。
帯には「21世紀のそして誰もいなくなった」とあります。 クローズドサーキットものなんだな、ってのはそれで分かるのですが、読み始めると「そして誰もいなくなった」っていうより「十角館の殺人」だよねこれ、になりませんかね。 プロローグでの犯人の独白、クローズドサーキット内外を交互に進める構成などなど。 そして、これもあの1行を意識していると思われる「あの一言」 「ばんだいんです」に聞こえなくもない(笑) ・・・ウソです、相当に無理がありました。 これも既に指摘されている方がいますので恐縮ですが・・・ これもミスリードと言うんでしょうか、「そして誰もいなくなった」もそうですが、「十角館の殺人」から、ある先入観を持って読んでいると、なかなかに楽しい驚きを与えてくれますね。 それを考えると、「十角館の殺人」だけでなく「そして誰もいなくなった」も先に読んでおいた方がいいと言えるでしょうね。 クローズドサーキット内外の物語に時間軸のずれがありますが、こういう「十角館の殺人」との相違点に気づくと、そこには作者のアレンジというか「勝負」のニオイを感じることが出来て、そんな事を色々考えながら読むのが非常に楽しかったですね。 トリックなんかもかなり練られていて、それを考えると「十角館の殺人」って「一発芸」なんですが、その「一発芸」を超える作品未だなし、なんですよね。 |
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主人公の男女が中学二年生であり、序盤は単なる中二病の話かと思っていましたけど違いました。
背伸びをしてとか、大人ぶってとか、青臭いとかではなく、もうこれは深い深い真っ暗な闇、マイナス方向に振り切れている感じです。 しかし、これは間違いなく恋愛小説なんですね。相当に「歪」ですけど。 それに気づかされる読了間近はゾッとせずにおれませんでした。 作者を知らずに読んでいれば、間違いなく乙一の作品だと思ったでしょう。 乙一テイストな作品に、辻村深月が描く強烈な女の世界が融合した感じ。 黒辻村全開のえげつない作品だと思います。 辻村作品を読んでいると、時々、女に産まれなくてよかったと思う事がありますね。 精神的な成長は女性の方が早いと思っていたのですけどね。 面倒くさいし、ホントに怖いです。 まぁ、この年代の女性が全部そうではない事は分かってますけど。 |
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冤罪をテーマにした作品ですが、冤罪被害者とその家族にとどまることなく、日本の司法制度そのものに一石を投じた社会派ミステリーです。
メッセージ性の高い作品を多く世に出す作者ですが、その中でもこの作品は際立っているかも知れません。 テミスは、右手に権力を意味する剣を、左手には正義を測る秤を携える法の女神。 警察官、弁護士、裁判官。 彼ら或いは彼女らは、普通の人が持ち得ない「人を裁く力」を持っている特殊な人種である事を改めて思い知らされる。 そんな彼らが過ちを犯した。 人一倍に責任を感じてしまう者、開き直る者、狡猾に他人を陥れようとする者、そして模範囚の仮面を被って出所してくる改心ゼロの真犯人。 更に、一方で全てを隠蔽せんとする巨大な力。 権力に媚びず、組織に背を向け、自分の信念を貫く一人の刑事。 この異端児を格好いいとは思えなかった自分は未熟なのだろうか。 全編通してずっしりと重く、決して面白い作品ではないのだが、色々考えさせられた作品である。 高野和明「13階段」を読んだ時と同じ胸のつっかえを感じた作品。 それにしても、この作者さんの作品は最初から順番に読んでいかないとダメですねー。 作品間のリンクが半端ない。 |
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途中、主人公の女性のキャラが変わったなとは感じていました。
死に直面している人物であり、別に不思議ではないと思いましたが、私は多重人格を疑ってしまいました。 なわけで、気持ちのよい騙され方と言いましょうか、ヤラレタ感満載でしたし、人並み以上に「上手いなぁ」と感じてしまったかもしれません。 「毒の連鎖」というタイトルからも「死」というか「自殺」の連鎖が想像でき、死のセールスマンは誰で目的は何なのかに着目してしまいがちですが、そういうミステリ的な事が主眼なのではなく、更に言うと「死」よりも「生」をテーマにした作品だったという気付きがあります、そういった反転ですね。 それだけでなく、自殺願望のある女性が語り手なわけで、必然的に重く暗くなっているのですが、毒を手に入れるまでの一年間で変わる女性を描いた作品だった事に気づいた時に、作品への印象もそうですが、読後感にも大きな変化をもたらしていますね。 同じような境遇から、死を選択した女性と、生を選択した女性。 どこが違うのか、とか色々考えさせられますね。 自分の気持ちなんて誰も分かってくれない、とは言うものの、人間やっぱり一人じゃ立ち直るきっかけは得られないんですね。 |
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「臓器移植問題」をテーマとして、その影となる部分を描いている社会派サスペンスです。
この題材に対して、現代に甦った「切り裂きジャック」が移植した臓器を取り出す、という料理の仕方。 この作者の着想には正直感心させられました。 ドナーとレシピエントは単に臓器を受け渡しした関係だけではないって事なんですね。 ドナーは自らの意志で臓器を提供するわけですが、ではドナーの家族の気持ちはどうか。 そんな事、考えたことなかったです。 生き長らえたレシピエントが不健全な生き方をしていたら・・・ この作品を読んで、その気持ちがわかるようになりました。 レシピエントとドナーの家族は、ドナーがいなくなった後の時間を共有するべきなのでしょうか。 問題提起という意味でも、自分にとって相当にインパクトのあった作品でした。 たくさんの人に読んでもらいたい作品ですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「中国残留孤児」と「生体腎移植」というかなり重いテーマを扱った作品です。
更に主人公の視点人物が全盲の老人という事で、作品に色がないと思えるくらいに「暗い」というか最早「黒い」です。 これは上手いと言うべきなのだろうか。 ただ、そんな彼の視点は、描写がどこか「手探り」で、かなりくどいところがあり読んでいてイライラさせられる事もしばしばでした。 「一体何が真実で何が嘘なのか、そして誰が味方で誰が敵なのか」 主人公は、暗い闇の中、色々な人達の嘘に翻弄されます。 「見えない」という事が、人間不信を生み、一つの疑問から疑心暗鬼の底にズブズブとハマっていくのですが、やがて一つの真実から全ての謎が明らかになった時、綺麗に何もかもが反転します。 見方を変えれば悪も善に、というこの構成は見事で、初めに「暗い」と表現した小説の世界観に一気に光がさします。それは眩しいほどに。 乱歩賞受賞作品。 トリック自体は驚くほどのものではないのですが、構成力は凄いと思いましたし、デビュー作にこんな難解なテーマを取り上がる事自体、作者の懐の深さを窺い知ることが出来ます。 少し取っ付きづらい作品ですが、国と時代を超えた家族の愛と感動の物語です。お薦めします。 |
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時代小説です。
この作品、一言で言ってしまうと「生き様」 タイトルからも想像できると思いますが、ある人物の「影」となって生きるということ。 まさに光と影、相手に悟られることなく命をかけ影に徹したた究極の自己犠牲と言っていいでしょう。 日本人が共感しやすい物語と言えると思いますが、これを現代の設定で描いたらどうだったでしょうか。 私は「白夜行」の亮司を思い浮かべてしまいましたが、このようにどうしても黒さ、暗さがつきまとってしまうか、或いは、ちょっと嘘っぽいペラペラの薄い話にしかならなかったのではないでしょうか。 「ここまで自己犠牲に徹し影の存在になる」という動機の点でも、この時代設定であればしっくり来ます。 下流身分の下士ながらも、次男である自分よりも、という事でしょうか。 現代人にはとても真似のできない生き様、というより厳しい時代でした、というしかないですね。 このテーマの作品を読ませるならこの時代設定、という事なのでしょう。 その時点で作者の勝ちですわ。 時代小説を敬遠している人にでも十分楽しめる作品です。 |
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二部構成になっています。
一部が探偵役の良き理解者である三橋荘一郎視点、二部が名探偵瀬川みゆき視点になるのですが、この視点の切り替えにも意味があります。 第一部は、作中作である「メルヘン小人地獄」の見立て殺人。 見立て殺人を乗っ取りアリバイ工作するというプロットは面白いと思ったのですが、名探偵によりあっけなく解決に導かれてしまう点、容疑者と思しき人物が相当に限定されてしまっている点、そして何より凶器となる毒薬の(異常なほど)ユニークな属性がどこにも活かされていない点・・・ 解説によると第一部は後付けらしいのですが、何処かもったいないですね。 第二部では、第一部で名探偵ぶりを遺憾なく発揮してみせた瀬川みゆき視点。 「事件を解決する事が、全ての人を幸せにする訳ではない」 この手の探偵の苦悩を描いた作品はこれまでにも何度か目にした事はあります。 この作品の場合、読中から名探偵自身にとって辛い結末になる事は目に見えていたのですが、二転三転の末、最も辛い結果になりましたかね。 表面的には相変わらずの冷静っぷりですが、探偵視点でこれを描くことにより、心理状況が読み手に筒抜けになっています。 この見せ方は面白いと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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F県警強行犯捜査第一課を舞台にした連作短編集。
上司である捜査第一課長田畑に 「この3人と同時期に現場にいなくて良かった」とまで言わせる個性的でデキる常勝軍団3人の班長。 理論派朽木、冷血漢楠見、直感の鬼村瀬。 班長が視点となる作品もあるが、部下を視点にする作品が多く、そうする事で、班長の次元の違う存在感をより際立たせている。 特に楠見には、柳広司氏のシリーズに登場する結城中佐のような絶対的な存在感を感じた。 横山さんの警察小説には、人事や広報や似顔絵捜査官など、一風変わった人物を主人公にする作品が多い。 彼らは、現場の刑事とは違う臭いを持っている事もあり本来の警察小説とは違った切り口を味わうことが出来て、それはそれで面白いのですが、個人的には、やはりこちらに軍配。 更に言えば3人はライバルでもあるわけで、お互いを意識した駆け引き、腹の探り合いが、たまらなく面白い。 「横山秀夫の短編にハズレなし」という意見は色んなサイトで見かけます。 確かにその通りであり、その横山氏の短編集の中でもこの作品がNo.1だと私は思う。 どの作品が1番良かったか、と聞かれても困ってしまう。 それくらい全てのレベルが高い。 |
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これは読み手は選ぶと思いますが斬新な作品かと。
それにしてもこの作者は変わった作品を描く人ですね。 まぁ作者名を知らずに読んだら「麻耶雄嵩」と断言したとは思いますが・・・ 問題編にて小出しに情報が与えられ、交互に登場する解決編で、我こそはのミステリマニア達が早押し形式による推理合戦を行うというもの。 題材は、嵐の館での密室殺人という典型的なグローズドサークル。 賞金をゲットできるのは最初に正解した人のみという事で、まだまだ物語も序盤、事件の全容も明らかにされていない段階であるにも関わらず、どんどん推理が披露されていく。 マニア達が、これまでの経験から、これから起こるだろう事を推測し予想を披露していくのですが、ほぼほぼ叙述トリックの打破が主眼に置かれます。 様々な解決が提示される多重解決ものになりますが、驚くべきは、その数がなんと15パターンにまで及び、そこには「ハサミ」「葉桜」「人形館」などなど、ミステリ好きならみんながよく知る、あんな事そんな事が、てんこ盛りなのです。 情報量が増える度に、新しい推理が展開されるのですが、当然、以前に提示された情報に対しても辻褄が合っている必要があります。 15種類といっても、15回の連鎖が必要な訳で、これは半端な労力ではないでしょう。 よく考えたもんだと感動すらおぼえます。 満点にしなかったのはラストの収束のさせ方ですかね。 臓器移植云々をどうこう言うレビュアーの方もいて、私もそれには否定はしないのですが、 ついでなんでいっその事、「樺山桃太郎は不可謬ですので、僕の結論も当然無謬です」と鮎さんよろしくブラックで押し通して欲しかった。 |
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当然ながら高いハードルを設定して読ませていただきました。
軽くとは行かないまでも、それをクリアしてくれた作品です。 昭和64年に起きた未解決の誘拐事件の話だという前知識はあり、さぁガッツリ誘拐事件、と思っていたのですが、そうではありませんでした。 物語の核となるのは、寧ろ、捜査の主役刑事部と事務方警務部の衝突です。 主人公の三上は、元刑事の広報官で事務方に属しています。 この「元刑事」というのがミソで、かつて所属し今も復職したいと願う刑事部と現在の所属である警務部の板挟みにあい自分の立場を見失いそうになります。 この手の警察小説の主人公は、自分の信念を曲げないビシっと1本筋の通った人物が多いのですが、三上はそうではなく、正直格好良くありません。 また事件解決に力を発揮できるポジションでないだけでなく、実際に彼の視点では今捜査状況がどうなっているのかも分かりません。 他の主要登場人物は筋が通っているだけに余計に・・・という感じです。 そんな人物の視点で彼の内面が長々語られる前半は少々退屈ですし、ラストのおいしいところも持って行かれます。 寧ろ奥さんの方が最後印象的な言葉を吐きます。 正直異色の切り口だとは思いましたが、個人的には正解だったのか若干疑問でした。 それでもこの作品に満足できたのは、ラスト100ページを切ってからの怒涛の展開。 一気に回収される伏線だけでなく、一つの事件に賭ける関係者の執念が爆発する。 残った者、去った者、去らざるを得なかった者、そして廃人にしか見えなかった者までが・・・ 読んでるこちらまで、グワーッと込み上がってくる。 この作者の作品に泣きの要素を入れたら無敵だと思った。 ここでも主人公は蚊帳の外だった気がせんでもないが・・・まぁいいか。 |
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新聞記者としてノンフィクションを書いてきた横山秀夫さんの処女作。
元新聞記者という先入観がそうさせるのか、横山さんの描く警察小説の緊張感や迫力は、フィクションだとは分かっていてもノンフィクションだと錯覚させられるような説得力を感じていました。 しかし、この作品は、これまで読んできた横山作品とは全く違う。 やはり処女作というところか。 が、面白くないのではない。 寧ろ凄く面白い。 ただ「らしくない」というか、落ち着いて考えてみると、正直この作者らしくない突拍子もないプロットだと思えます。 「処女作にしてさすが」なんていうレビューも散見されますが、それはちょっと違うんじゃないかな。 全然らしくないですよね。 もしかしたら、とてつもなく貴重な作品なのかもしれない、と個人的に感じております。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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エイジとツカちゃんとタモツくんそしてタカやん。
「ちゃん」と「くん」と「やん」 何となくだがエイジとの距離感を上手く表せている気もしました。 で、「やん」が少年Aに。 被害を受ける側を気遣うツカちゃんに対して被害を与える側の気持ちが気になるエイジ。 そして無関心なタモツくん。 エイジは少年Aを可哀想な奴とも思わないし、許せない奴とも思わない。 そして、心の中では相手の背中にコンパスの針を刺しているエイジ。 心の中に潜在意識として存在している「キレる」が表に出たか出ていないか。 少年Aと自分の差はわずかこれだけ。 「ぼくもいつかキレてしまうんだろうか?」 設定が中学生の妙だろう。 精神的にクラスメートよりも少し先に大人になりかけているのですが、「多感」という2文字では表現しきれないくらい不安定なのです。 半分大人、半分子供。 そして幼い連中が多く残るなかでエイジの葛藤が際立っています。 また、自分を束縛するものに何とか贖おうと親、特に母親には冷ややかな態度を取ってしまう一方で好意を寄せる異性に対する接し方の幼さ。 そうそう、この青さが中学生なんだよ。 自分もそうだったかなぁ・・・なんて思い出しながら読みました。 |
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作中「アマゾン牢人」「棄民」という言葉で揶揄されるブラジル移民の悲劇、ずしりと重い歴史問題がまず提示されます。
そして、そこから生き延びた人間たちが日本に戻り国に復讐するという物語。 スケールの大きいクライムノベルです。 冒頭の100ページ余りの地獄絵図の描写は読むのに多少の苦痛を伴いますが、復讐者達に感情移入するには相当に効果的です。 ハードボイルドまたはバイオレンスとも言えなくはない。 確かに、その手の作品にありがちな暴力とセックスの描写もある。 ただ、ガチガチの・・・ではなく、復讐劇と言うには全編どこか軽く読みやすい。 派手にぶちかますのかと思いきや彼らのやり方はどこか紳士的。ここで更に読み手を味方につける。 読み終えて感じたのだが、この軽さが最後の爽快感を生んでいるのではないかと思った。 3人の実行犯。 それぞれが違った結末を迎えるというのも凝っている。 特筆すべきはケイと松尾のキャラクター。 負の境遇を共有し目指すところは同じでも、何もかもが正反対。 人間の人格は育ちの環境が形成するのだなと興味深く彼らの活躍を楽しんだ。 まぁ彼らと比べると日本の女子アナのなんと稚拙なこと。 |
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読み進めていくうちに、その作品のスケールのデカさというか奥行きの深さに圧倒されていく作品。
筆致自体は終始淡々としているのになぁ。 その時代を代表する女達の力強さって事なのかな。男にはない強さってやつ。 万葉、毛鞠、瞳子・・・製鉄一家に嫁いだ、或いは産まれた女三代の物語です。 読み出してしばらくは「何これ?日記?単なる伝記?」だったのですが、次第にはまっていきました。 自分が真ん中、2代目毛鞠世代な事も大きかったのかも知れませんね。 「男の時代」「可能性と進出の時代」そして作中の言葉を借りれば「語るべき物語を持たない時代」 それぞれの時代の女の生き方を描きつつ、製鉄産業の栄枯盛衰の物語もその脇を添えています。 男性陣も各世代個性的な人物が登場するのですが、時代の流れに乗れなかった男たちは自然と淘汰され、時代の流れに乗り仕事に全てをかけた男たちも、その存在感をなくしいつの間にか死んでいる。 どこか哀れだ。 今の日本を作ってきたのは男たちだが、時代を作ってきたのは女なんだな。 なんて思いながら読みました。 第3部になっていきなりミステリ的な展開があり、「おっ!」と思って期待したが、ミステリとしては正直大したことないです。 そんな事より、第3部が始まると否応なしに押し寄せてくるリアリズム。 自分の時代がはるか昔であるかのような錯覚に襲われてしまいました。 何なんだこのギャップは。 さすがこれが「語るべき物語を持たない時代」ということなのか。 これまでの「時代を作ってきた」という印象が一転「時代に支配され翻弄されている」という感じかなー。 一見「自由で奔放」に見えますが、どこか抑圧されてるような。 明らかに浮いてるぞ現代。 第3部のちょっとしたミステリチックな趣向は、これまでの物語の流れから浮いている現代と過去を上手くつなげるのに大きな役割を果たしていたように思います。 大したミステリである必要なかったというか、もっと大切な役割を担っていたのではないかと。 万葉の千里眼の「謎」も最後上手くおさまりましたしね。そのための千里眼だったんでしょうね。 今から数年後、今の若者達は何か時代を築け残せているんでしょうか? 作者のそんな皮肉もどこか伺える気がしましたけど・・・違うかな。 |
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ミステリではないですが、ハズレのない短編集です。
人を石にしたり、妄想により創りだされた人物が具現化したり、ぬいぐるみが動いたり、刺青で描かれた犬が生きていたり・・・ 何れも非現実的なおとぎ話のような設定なのですが、子供だましで終わらない。 大人が読んでも、そんな世界観に引き込まれてしまいます。 読中は、少女やぬいぐるみに心を動かされてしまう。大人がですよ。 どんな生き物にも心の奥の奥の方には必ず優しさが潜んでいて、この作者は、そんな優しさを表まで引っ張り出してくる。 読み手はそれに触れてグッときてしまう。 「暗いところで待ち合わせ」もそんな作品だったなぁ・・・とか思い出しながら。 そして、単なるハッピーエンドなお話で終わらせないのがまた上手いんだろうなぁ。 何れもどこか儚く、虚しく、悲しい終わり方をします。 せつないです。 余韻が半端ない。 個人的には「BLUE」がお薦めです。 |
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