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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 101~120 6/27ページ

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No.438: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

古き良き骨太のノワール・ハードボイルド

シカゴを舞台にしたノワール・ハードボイルドで知られるイジーの第3作(邦訳では2作目)。マフィアに潜入していた捜査官が10年前の因縁から凶悪な強盗犯と対決する、男くさいハードボイルドである。
マフィアに潜入していた囮捜査官・ジンボは突然、作戦の中止を言い渡された。10年前にジンボが逮捕した強盗犯・ジジが刑期を終えて出所し、ジンボへの復讐を企てているのだという。マフィアの幹部・マイキーに取り入ることに成功し、壊滅まであと一歩と信じていたジンボは納得いかなかったが、ジジはマイキーの仲間であり、いつ顔を合わせるかわからないので中止になったのだった。ところが、中止を決めた検察官が記者会見でジンボの正体を発表してしまったため、復讐の執念に燃えるジジから執拗に命を狙われることになった…。
シカゴの暗黒街、犯罪組織や泥棒が主人公のクライムノベルを書いてきたイジーには珍しく、本作は刑事が主人公で警察アクションものの色合いもあるのだが、物語の本筋はジンボとジジの一対一の対決にあり、直接的な暴力による力の対決という、誠に古くさく、男くさいハードボイルドである。
正統派ハードボイルドやノワールのファンにオススメ。またジンボが古いギャング映画マニアとの設定で50年代〜70年代のギャング映画のトリビアがたびたび登場するので、そのあたりのファンなら更に楽しめるだろう。
無法の二人 (ミステリアス・プレス文庫)
ユージン・イジー無法の二人 についてのレビュー
No.437: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

エスニック趣味だけじゃなく、ミステリーとして面白い

作家、起業家、演劇監督など多彩な活動を見せるイギリス人作家の初ミステリー。ロンドンのインド料理店でウェイターとして働く元インド警察の刑事が大富豪殺害事件と、自分が刑事の職を追われる原因となった事件の謎を解く、本格ミステリーである。
故郷コルカタで担当したインド映画のスター殺害事件が原因で退職・出国を余儀なくされたカミルは、父の古い友人であるサイバルが経営するインド料理店でウェイターとして不法就労し始めて三ヶ月が過ぎた頃、サイバルの友人である大富豪ラケシュの60歳の誕生日パーティーに派遣された。ラケシュは倍以上の年下の女性ネハと結婚したばかりで、パーティーに来た元妻や息子とネハが衝突し、パーティーは不穏な雰囲気に覆われた。案の定、パーティー直後にラケシュの死体が発見され、新妻ネハが第一容疑者とされた。ネハはサイバルの娘・アンジョリの親友で家族ぐるみの付き合いがあり、カミルはネハの容疑を晴らすように依頼される。警察権限がない上に、不法就労がバレれば国外追放される身の上のカミルだったが、持ち前の深い洞察力を駆使して粘り強く調査を進め、ついには自分が故郷を追われることになったスター殺害事件との繋がりまで発見する…。
きちんとしたプロセスを辿って事件の真相が解明される本格謎解きミステリーである。インドとイギリスの文化や生活習慣の違い、珍しい食べ物などのエスニック要素ももちろん興味深いが、それ以上にミステリーとして高く評価できる。タイトルから連想するコージー・ミステリーではない読み応えがある。
インド・ミステリーの枠にとらわれず、良質なミステリーとして多くの人にオススメしたい。
謎解きはビリヤニとともに (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.436: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ソフトなネオ・ハードボイルドの傑作

アルバート・サムソン・シリーズの第4作。製薬会社のセールスマンである弟が事故で会社の病院に入院し、半年以上も面会謝絶になっている理由を調べてほしいという依頼を受けたサムソンが調査を進めるサスペンス・ミステリーである。
入院患者・ジョンの姉で依頼者であるドロシーはロフタス製薬が管理する病院に何度も面会を求めたのだが、無菌室に入院しているため面会できないと謝絶され続けてきたという。ジョンはセールスマンなのだが、事故に遭ったのは研究施設での爆発事故だという。面会できないことはもちろん、ジョンの担当する業務ではない研究所で事故に遭ったのもおかしい。さらに、関係者の医学的な説明も疑問だらけで納得できず、サムソンは強引な手法で謎の中心に突っ込んで行くことになった…。
事件の謎解きは複雑かつ精緻で、ミステリーとしての完成度が高い。さらに、13年ぶりに会ったという娘・サムが助手として加わり、サムソンの家族関係、過去が明らかになるところがシリーズ読者には気になるところだろう。ハードボイルドに欠かせない暴力、性的なシーンもあり、温和で温厚なサムソンのシリーズ中では異色作となっている。
シリーズのファンのみならず、ハードボイルドファン、ミステリーファンにもオススメする。
沈黙のセールスマン〔新版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMリ 2-13)
No.435:
(8pt)

古くて楽しくて男臭い、正統派のバディ物語

シカゴを舞台にしたクライム・ノベルの作家ユージン・イジーの邦訳第3弾。シカゴNo.1の金庫破りボロが、息子同然に育てた弟子のヴィンセントと組んで超高層ビル・シアーズタワーの90階の金庫を破る、ハードボイルド・サスペンスである。
シカゴ・マフィアのトップを巡る陰謀に絡んでマフィアのボスの金庫破りを依頼されたボロが、自分の命を預ける相棒にヴィンセントを選んだのは、これが最後の大勝負と決めたからだった。真冬のシアーズタワーの90階にビルの壁面を伝って外から侵入するという危険極まりない荒仕事だけに成功報酬は莫大で、成功すればボロは引退し、ヴィンセントも足を洗って恋人と家庭を築けるという目算だった。しかし、組織内での権力争いからマフィアのメンバーが暴走し、さらにマフィア退治に執念を燃やす二人の刑事が絡んできて、事態は複雑で先が読めなくなってくる…。
まず第一に、超高層ビルの90階で外壁を伝って侵入する、しかも雪と強風が吹き荒れる真冬の早朝にという、手に汗握る舞台設定が抜群。さらに、自らの死期を意識したボロと、親子のように接してきたヴィンセントとの年齢差を超えたバディ物語が感動的で、感涙ものの超一級ハードボイルド作品である。また、主人公に絡むマフィアや刑事、泥棒仲間のキャラクターが秀逸で、ストーリー中に挟まれるエピソードが生き生きと躍動している。
パターン通りの展開でも飽きさせない、古くて面白いハードボイルドを探している読者に自信を持ってオススメする。
地上90階の強奪 (ミステリアス・プレス文庫)
ユージン・イジー地上90階の強奪 についてのレビュー
No.434:
(8pt)

暴力に立ち向かえるのは暴力だけなのか

壊れたアメリカの暴力を描き続けてる人気作家・スローター、久々のノン・シリーズ作品。23年前のトラウマにとらわた姉妹が過去に決着をつけるために壮絶な暴力で自分を守ろうとする、バイオレンス・サスペンスである。
幸福な家庭生活を送っている弁護士・リーに突然、陰惨なレイプ事件の弁護が命じられる。容疑が濃厚だが無罪を主張する被告が、公判の直前になってリーの弁護を依頼してきたという。なぜ自分が指名されたのかいぶかりながら被告に会った途端にリーは、23年前の悪夢が蘇り、激しい衝撃に打ちのめされる。被告・アンドルーは、リーが生涯隠し通すはずだった、あの秘密を握っているようだったのだ…。
弁護士としては被告・アンドルーを無罪にする責務があるのだが、ひとりの女性としてはレイプ魔を許せず、刑務所に送り込みたいという、究極のジレンマに苛まれるリー。その理由が順々に明らかにされ、再生への歩みを追うのがメイン・ストーリーで、事件の舞台として未知のウィルスによるパンデミックに怯えるアメリカ社会の動揺が置かれている。ただし、コロナ禍の部分は、言ってみればどうでもいい背景で、主題は子供や女性への性暴力との戦いという、スローターが追求してやまないテーマである。また、精神的・肉体的な暴力の凄惨なシーンが続出するのも、いつものスローターの世界である。
スローター・ファン、現代の社会病理が絡むサスペンスのファンにオススメする。
偽りの眼 上 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター偽りの眼 についてのレビュー
No.433: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

体力、気力を充実させて読むべし

山本周五郎賞を受賞した1995年の「家族狩り」オリジナル版を再版した2007年版。現状を顧みず家族を賛美する風潮に怒りを込めたという執筆の背景通り、家族であることは幸いなことなのか、家族に必然的に生じる歪みは無視できるのか、という問題意識をストレートにぶつけた重苦しい家族小説である。
上下2段組560ページのボリュームかつ全編にわたって猟奇的でグロテスクなシーンが展開されるため、読む側に体力、気力が求められるが、読み終えた時、ずっしりした重さを感じること間違いない力作である。
誰もが避けて通りたいような重苦しいテーマだが、ミステリー仕立てのストーリーが成功して、エンターテイメント作品としても高く評価できる。
現在の家族の在り方、社会状況に興味を持つ方に、先入観なしで読むことをオススメする。
幻世(まぼろよ)の祈り―家族狩り〈第1部〉 (新潮文庫)
天童荒太家族狩り についてのレビュー
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(8pt)

黒人が主役という以上に、真のハードボイルドとして高評価する

2作目となる本書でアンソニー賞など各賞に輝き、彗星の如くデビューした新進作家の本邦初登場。アメリカ南部で裏社会から足を洗い、今では自動車修理工場を営む黒人主人公が経済的な苦境から再び犯罪に手を出し、ギャングの抗争に巻き込まれていく傑作ハードボイルドである。
かつて裏社会で名の知れたドライバーだったボーレガードは真っ当な仕事と家族を持ち、平穏な日々を送っていたのだが、経営する修理工場が行き詰まり、金策に苦労するようになっていた。そこに昔の仕事仲間が現れて宝石店強盗を持ちかけられ、ボーレガードの運転テクニックを駆使した逃走で強盗に成功する。だが、宝石店を経営していたのはギャングのボス・レイジーで、ボーレガードたちは追われ、家族の命まで危険に晒された。窮地に追い込まれたボーレガードは愛する家族を救うために、レイジーが取引を持ちかけた、ギャング相手の危険な仕事に挑まざるを得なくなった…。
ストーリーは「これぞ、ハードボイルド」というシンプルかつオーソドックスなものだが、登場人物、エピソード、物語の展開スピードが素晴らしい。主人公の生き方、人間性、周囲の人物のキャラクター、そこに生まれる人情ドラマが生きている。それに加えて、アクション、特にカーアクションが抜群。車好きにはたまらないないだろう。さらに、タランティーノ映画を想起させるノワール風味が加わり、すぐに映画化権が話題になったというのも納得できる。
アメリカン・ハードボイルドの正統を受け継ぐ傑作としてハードボイルド、ノワールのファンには絶対のオススメだ。
黒き荒野の果て (ハーパーBOOKS)
S・A・コスビー黒き荒野の果て についてのレビュー
No.431: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

売られた喧嘩は全て買い、売られてない喧嘩も買うヴィク

シカゴのハリネズミ探偵V. I. ウォーショースキー・シリーズの第20作。ホームレス女性と関わったことからシカゴの政財界の闇に切り込んでいくヴィクの孤軍奮闘を描いたハードボイルド・ミステリーである。
おもちゃのピアノを弾くホームレスがかつて大ヒットを出した歌姫・リディアで、銃乱射事件で恋人を失ってから精神を病んでいることを知ったヴィクは救いの手を差し伸べようとするがリディアは心を開かず、逃げるばかりだった。さらに、リディアの保護者を買って出ている男・クープが現れ、ことあるごとにヴィクと衝突を繰り返すようになっていた。行方をくらませたリディアをヴィクが探している間に、名付け子・バーニーの友人のレオが殺された。レオは何かの情報を掴んだために殺されたのではないか、ということは、情報を知っている可能性があるバーニーも危害を加えられるのではないか? 危険を感じたヴィクはバーニーを避難させ、一人でレオ殺害の背景を探り始めたのだが、さらにレオの環境問題団体仲間の一人も死体で発見され、事態は複雑になるばかりだった…。
シカゴの都市開発を巡る陰謀にカンザス州での銃乱射事件が重なり、それに巻き込まれたバーニーやヴィクも容疑者扱いされるようになり、ストーリーはあちらこちらに飛び跳ねていく。また、登場人物やエピソード、舞台となる場所も多彩で物語はどんどん広がって行くのだが、基本はいつも通りヴィクの正義感がまっすぐに貫かれるところで揺るぎなく、安定感というか、マンネリというか、読者を裏切らない。
シリーズ・ファンには安心してオススメする。
ペインフル・ピアノ 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ・パレツキーペインフル・ピアノ についてのレビュー
No.430:
(8pt)

人それぞれに、守るべき秘密と生きるための光がある

021年、イギリスでベストセラーランキングに入ったという、女性作家の文芸ミステリーデビュー作。1990年にスコットランドの孤島の灯台で忽然と三人の灯台守が消えたという史実をベースに、大胆な構成力で仕上げた謎解きミステリーかつ男と女の物語である。
1972年のクリスマス直前、イギリス南西部の孤島の灯台に補給船が到着してみると、いるはずの灯台守三人の姿が消えていた。容易に人が近づける場所ではなく、灯台の扉は内側から施錠されており、誰かが侵入したとは考えづらかった。さらに、食卓には手付かずの食事が残されており、内部で争いがあったような形跡もなかった。一体何が起きたのか、全く不明のまま事件は迷宮入りした。その20年後、海洋冒険小説家が事件の謎を解くと宣言し、関係者にインタビューしてまわり始めたのだが、遺族たちの口は重く、さらに遺族間に微妙な対立があり、真相は簡単には明らかにならなかった…。
絶海の孤島に男三人だけで24時間顔を突き合わせて暮らす灯台守、その留守を守る妻たち。それぞれに守るべき秘密と生きるための光があり、光は同時に闇を生み、人間と家族の物語の陰影が描かれていく。フーダニット、ワイダニットがストーリー展開の軸ではあるが、それと同等、あるいはそれ以上に家族の物語がスリリングである。
謎解きミステリーにとどまらない人間ドラマとして、多くの人にオススメできる。
光を灯す男たち (新潮クレスト・ブックス)
エマ・ストーネクス光を灯す男たち についてのレビュー
No.429: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

作者の掌で転がされる楽しさ

「ときどき私は嘘をつく」、「彼と彼女の衝撃の瞬間」に続く、イギリス女性作家の邦訳第三作。結婚後10年以上が過ぎ、お互いに結婚生活に疑問を抱き出した夫婦が、関係の修復を目的に人里離れた古いチャペルに出かけたのだが、それぞれの思惑とは異なり、思いがけない事態に遭遇するサスペンス・ミステリーである。
多少は売れている脚本家のアダムは仕事中心の生き方がたたって、妻のアメリアとの関係に危機が訪れていた。そんな状況を修復すべくアメリアは人里離れた場所での二人だけの休暇を提案する。愛犬・ボブと共に出かけてきた二人だったが、長旅に悪天候が加わり次第に険悪な雰囲気になっていく。しかも、泊まる予定のチャペルはドアに鍵がかかっており、管理人に連絡することもできなかった。二人のストレスがどんどん高まるばかりという悲惨な状況に加え、アダムとアメリアにはそれぞれに秘密の企みがあったのだった…。
夫婦それぞれの視点とアメリアからアダムへの「渡されない手紙」の三つの語りで進められる物語は、思いがけないチェンジ・オブ・ペースと捻りに満ちており、最後まで読者に正体を明かさない。前作「彼と彼女の衝撃の瞬間」と同様、読む側の先入観をきれいに裏切って見事なクライマックスを見せてくれる。
作者の仕掛けに乗って騙されることが苦にならない読者にオススメする。
彼は彼女の顔が見えない (創元推理文庫)
No.428: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

傷を負ったハリネズミ、ボッシュの原点を描く

L.A.市警のはぐれハリネズミ・ボッシュの第4作。大地震で家を失いかけ、署内トラブルで仕事を失いかけているボッシュが、自身の運命を決めた母親殺害事件の謎を解く警察ハードボイルド・ミステリーである。
捜査に関わるトラブルで上司を暴行したボッシュは強制的に休職処分となり、復帰のためのカウンセリングを受けさせられていた。その退屈を紛らわすため、33年間、ずっと心に居座っている実母・マージョリーが殺害された事件の真相を暴こうと決心する。ボッシュには何の捜査権限もない事件であり、当然のことながらボッシュの捜査は周囲との軋轢を引き起こし、上司や内務監査部門から厳しい目を向けられる。それでもボッシュは強引に、時にはルールを無視しながらあらゆる障害を乗り越え、33年間隠されてきた事件の闇を明るみに出すのだった…。
第1作から小出しにされてきたボッシュの生い立ち、常に傷を負ったハリネズミのような怒りを充満させている性格が形成されるまでの背景がメインテーマである。そういう面でも、本書はボッシュ・ファンは必読。また、本作だけでも十分に楽しめる傑作ハードボイルドとして、本シリーズ未読の方にもオススメする。
ラスト・コヨーテ〈上〉 (扶桑社ミステリー)
マイクル・コナリーラスト・コヨーテ についてのレビュー
No.427:
(8pt)

生きづらさに押しつぶされそうな時に

あまり邦訳が出ていないアメリカの作家の短編集。純粋なミステリーではないが、犯罪に関わった、巻き込まれた人々の切なさとやるせなさ、怒りや不全感を描いた、それぞれに味わい深い10作品が収められている。
どれも謎解きやサスペンス、テックニックやアイデアを誇る作品ではなく、人種も性別も年齢も異なる各作品の主人公たちが社会と自分に絡め取られ、思い通りに生きられない鬱屈した思いがメインとなっている。とはいえ、あくまでもエンターテイメント作品であり、ただ重苦しいだけの「私小説」ではない。10作品ともレベルが高く優劣つけ難いが、ギャンブル中毒のダメ男が主役の「万馬券クラブ」が一番面白かった。
短編好きの読者、何か納得できない日々を過ごしている方にオススメする。
彼女は水曜日に死んだ
No.426: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

熱くなりすぎる男・ボッシュ、罠にハマる

ハリー・ボッシュ・シリーズの第12作。ボッシュが取り憑かれてきた未解決事件に新展開があったのだが、ボッシュたちのミスが発覚し、さらにパートナーのキズは負傷、ボッシュは自宅待機を命ぜられる。それでも不屈の刑事・ボッシュは解決に向けて一人奮闘するという、王道の警察ミステリー・サスペンスである。
女性のバラバラ死体を車に載せていて逮捕された男が、ボッシュが13年前から追いかけ続けている事件の犯人だと自供したのだが、それはボッシュが犯人だと目星をつけていた人物とは異なっていた。しかし、男の供述は具体的で、しかもボッシュたちの初動捜査にミスがあったことが発覚し、ボッシュは自分の捜査に自信が持てなくなる。さらに、現場検証の場で犯人に逃げられただけでなく、キズが撃たれて負傷してしまった。この事態を受けてボッシュは自宅待機にされたのだが、ボッシュは捜査資料を自宅に持ち帰り、FBI捜査官・レイチェルの助けを借りて独自の捜査を続け、捜査の裏に隠された巧妙な陰謀に気が付いた…。
さすがロス市警のはぐれ者・一匹狼のボッシュ、今回も周りと衝突を繰り返しながらひたすら捜査を進め、ついに巨悪を突き止める。いわばいつものボッシュ・シリーズなのだが、本作ではボッシュが罠に嵌められて苦悩するところが目新しい。また、レイチェルとヨリを戻していい関係になるのも、シリーズならではの読みどころと言える。物語の構成、ストーリー展開、スピード感、ミステリーの緻密さなど、すべての面でレベルが高く、各種ミステリーランキングなどで高評価を得ているのも納得できる。
ボッシュ・ファン、コナリー・ファンは必読!
エコー・パーク(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリーエコー・パーク についてのレビュー
No.425: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

無罪ではない、無実を証明するためにハラー・ファミリーが大集結

ミッキー・ハラー・シリーズの第6作。殺人容疑で逮捕されたハラーの無実を証明するためにファミリーが集結し、拘置所のハラーを中心に必死の戦いを繰り広げる傑作法廷ミステリーである。
パトカーに停められたハラーのリンカーンのトランクから射殺体が発見され、さらにガレージからは銃弾が見つかったことでハラーは殺人容疑で拘置所に収監されてしまった。身に覚えがないハラーは誰かの陰謀、罠に嵌められてしまったことを証明するために、獄中からの本人訴訟を選ぶ。頑固な検察だけでなく、看守や収監者からも嫌がらせや脅迫を受け、さらに思い通りに動けないハンディを抱えるハラーだが、強力なファミリーが力を合わせることで壮絶な裁判闘争を戦い、潔白を証明するのだった…。
拘置所に収監されるという絶体絶命の危機をいかにして乗り越えるのか。ハラーの知識と知恵と度胸をかけた死に物狂いの法廷闘争が抜群に面白い。アメリカの裁判は裁判長を含めた関係者のキャラクターで全く展開が違ってくる、まさに法廷ドラマであることがよくわかる。殺人や暴力のシーンがなくてもサスペンスが盛り上がることを証明する作品だ。
ミッキー・ハラーのファンというかコナリーのファンには絶対のオススメ。法廷ミステリー・ファンにも強力にオススメしたい。
潔白の法則 リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)
No.424: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

なかなか読ませる、高齢者ミステリーの新パターン

ヤングアダルト小説をベースに活躍するアメリカの女性作家が73歳で発表した、長編ミステリー。裕福な退職者たちが暮らすシニアタウンで起きた殺人事件の犯人探しと、事件を発見してしまった女性が隠してきた秘密を明らかにするサスペンス・ミステリーである。
住民同士の交流が盛んなシニアタウンに暮らすヘレンが、いつも安否確認のためにメールを交換する隣人・ドムから連絡がなかったため、預かっている合鍵を使って隣家に入ってみると本人の姿が見えなかった。家の中を探し歩いているうちに、ガレージに奇妙なドアがあり、ドムのガレージが別の隣家・コブランド家に繋がっているのに気がついた。好奇心に駆られたヘレンが、いつも住人不在のコブランド家に入るとテーブルの上に美しいガラスパイプがあり、ヘレンは思わず携帯で写真を撮り、姪の子供たちに送信した。ところが、パイプはマリファナ吸引道具であり、麻薬密売に関わる品であることが分かった。当然、警察に通報すべきなのだが、実はヘレンには現在の名前は盗んだもので警察にバレると50年前の事件に関与していたことが明らかになってしまうという秘密があった。窮地を脱するためにヘレンは策を巡らすのだが上手く行かず、次々と難問に直面することになる…。
70代の女性が主役で最近目にすることが多い高齢者ミステリーの一つと言えるが、ヘレンの抱える過去が複雑でインパクトがあり、単なるお婆ちゃん探偵で終わっていないのがいい。作者自身が生きてきた60年代のアメリカの暗黒面と、現在のシニアタウンに暮らす高齢者たちの元気溌剌さが好対照を見せ、フーダニットの面白さと軽やかなユーモア小説の二面性が調和している。
謎解きサスペンスとして、また老人が主役のユーモアミステリーとして、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメしたい。
かくて彼女はヘレンとなった (HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 1)
No.423: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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古臭い素材(交換殺人)に時代のスパイスを効かせて巧妙

マスカレード・シリーズの第4作。事件の舞台をホテルに置いて、客のプライバシー保護と捜査を対立させて、最後は真相を明らかにするという、いい意味でも悪い意味でもマンネリのストーリーだが、前作よりは読み応えがあるミステリーである。
同じような手口の殺人事件が短期間に発生し、警察は被害者の共通項を探るうちに組織的な連続報復殺人ではないかと疑問を持った。被害者の背景を調べると、いずれも殺人事件を起こした過去があり、しかも比較的軽い刑罰で社会に復帰していたのだ。そこで彼らが加害者となった事件の遺族のアリバイや関連性を探っていると、数人の遺族がクリスマスイブにホテルコルテシア東京を予約していることが判明した。次の事件はクリスマスイブに計画されていると確信した警察は三度となる潜入操作を、新田警部に命じるのだった…。
シリーズではお馴染みのホテル従業員・山岸尚美が登場して、新田とお馴染みの攻防を繰り返すし、事件の構造は交換殺人という使い古されたものなのだが、容疑者たちの繋がり、報復感情の持ち方などに今風の味付けがあり、新鮮な物語として読める。シリーズ3作目までは右肩下がりになっていくのかと危惧したが、本作でやや盛り返した印象だ。次作は、警察を辞めた新田がホテルの警備責任者になるということで、どういう展開を見せるのか楽しみにしたい。
シリーズ愛読者はもちろん、軽めの警察ミステリーのファンにオススメする。

マスカレード・ゲーム (集英社文庫)
東野圭吾マスカレード・ゲーム についてのレビュー
No.422: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ディーヴァーは短編の方が面白いかも?

米国では一冊で発刊されたディーヴァーの第三短編集「トラブル・イン・マインド」を分冊にしたうちの上巻。短編6本と著者まえがき付き。キャサリン・ダンス、リンカーン・ライムなどお馴染みの主人公ものから単独作品までヴァラエティ豊かで、どれもひとひねりがあって楽しめる。
分冊の上巻「死亡告示」のレビューでも書いたが、短編だとディーヴァー得意のどんでん返しが何度も繰り返されることがないのでうるさくなく、まさに「twisted」の魅力を楽しめる。ミステリーファンなら、好きなジャンルを問わずどなたにもオススメしたい。
フルスロットル トラブル・イン・マインドI (文春文庫)
No.421: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

フロスト警部に近づいた? だんだん面白くなってきた第3作。

スウェーデンを代表するミステリー作家の「ベックストレーム警部」シリーズの第3作。全く関係がないような3つの事件が奇妙につながり、複雑に絡み合うのだが、ベックストレームが独自の勘と欲得とで事件を終わらせてしまう、ユーモア警察ミステリーである。
犯罪組織の弁護士として悪名高い男が鈍器で激しく殴られて死んでいるのが発見された。さらに飼い犬まで殺害されていたのだが、奇妙なことに、犬は主人が死んでから4時間ほど経ってから殺されたようだった。犯人はなぜわざわざ現場に戻ってきたのか? ベックストレームたち捜査部は頭を悩ませていたのだが、そこにさらに、老婦人がウサギを多頭飼育して放棄したとして告発された事件、王室に連なる男爵がオークション・カタログで殴られたという事件まで持ち込まれ、捜査陣はてんやわんやになってしまう。トラブルを避けることが信条のベックストレームはあれこれと言い訳を捻り出しては業務を部下に任せ、優雅なランチタイムと昼寝に精を出し、金の匂いがした時だけ真剣に頭を働かせるのだったが、なぜか事件の真相に辿り着くのだった。
シリーズも3作目になり脂が乗ってきたというか、話の展開、ベックストレームのキャラが切れ味良く、第1作のような凡庸でどんよりした雰囲気が無くなった。事件のミステリー要素も明確になり、ユーモアとミステリーのバランスが取れてきた。このジャンルの傑作「フロスト警部」シリーズにはまだ及ばないものの、満足できるレベルになっている。
ユーモアミステリー、ほら話的ミステリーが嫌いじゃなければ、オススメできる。
悪い弁護士は死んだ 下 (創元推理文庫)
No.420:
(8pt)

ネイトの分まで大暴れする、怒りのジョー・ピケット

ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第15作。娘エイプリルを傷付けた犯人に報いを受けさせるため、ジョーがこれまでにはない実力行使を見せる、アクション・サスペンスである。
過去に少女暴行に関わった噂があるロディオ・カウボーイのダラスと駆け落ちしたエイプリルが頭を殴られ、意識不明の状態で側溝に捨てられているのが発見された。怒りに駆られたジョーはダラスを逮捕しようとするのだが、ダラスの両親から「息子はエイプリルとは別れていたし、ロディオで大怪我を負っていたので犯人であるわけがない」と言われる。さらに、エイプリルの持ち物が陰謀論者でとかくの噂がある男の住居で発見された。犯人はダラスではないのか、疑問を持ちながらジョーは真相解明のために調査を進めていた。その頃、FBIとの取引で釈放されたネイトは鷹匠のビジネスを始めたのだが、依頼主のところで襲撃され瀕死状態で病院に運ばれた。強力無比の相棒の助けが得られない中、ジョーは一人で戦いを進めることになった…。
いつもは暴力担当として危機を救ってくれるネイトがいないどころか、ネイトの恋人まで危機に陥り、ジョーが孤軍奮闘するのが、これまでのシリーズ作品にはない新鮮さである。さらに、常に事件の背景に社会的な問題を置いてきた本シリーズでは珍しく、個人的な報復感情が前面に出ているのも面白い。それでも、ジョーはあくまでも正義感と責任感の塊、融通が効かない男で、それを優しく包み込むファミリーの物語も心温まる。
シリーズ愛読者は文句なしに必読。シリーズ未読であっても、本書からジョーのファンになれること請け合いの傑作アクション・サスペンスとしてオススメする。
嵐の地平 (創元推理文庫)
C・J・ボックス嵐の地平 についてのレビュー
No.419: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

文句なしに面白い!

米国では一冊で発刊されたディーヴァーの第三短編集「トラブル・イン・マインド」を分冊にしたうちの下巻。なので、サブタイトルが「トラブル・イン・マインド Ⅱ」。収録された5本の短編と1本の中編は、どれも甲乙つけ難い傑作揃いである。
唯一の中編「永遠」は並の警察ミステリーなら一冊分の内容が詰まっており、他の短編もみんな起承転結がきちんとした構成で、最後にあっと言わせるのはさすが。というより、長編では鼻につくこともある「どんでん返しの魔術師」の技の連続がない分、どんでん返しを素直に楽しめた。
オススメです。
死亡告示 トラブル・イン・マインドII (文春文庫)