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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 81~100 5/27ページ

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No.458: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

シリーズ最終作なのに遠慮がちな主人公・ベックストレーム

スウェーデンの人気警察小説「ベックストレーム警部」シリーズの第4作にして、おそらく最終作。12年前、タイの大津波で死んだはずのタイ人女性の骨が見つかったのだが、その骨は5、6年ほどしか経過していないことが分かり、「人は二度死ぬことができるのか?」という難題にベックストレームたちが挑む、警察ミステリーである。
ベックストレームと同じアパートに住む10歳の少年が持ち込んできたのは、サマーキャンプで見つけた頭蓋骨だった。銃弾を受けた痕があったことから調べ始めると、12年前にタイで起きた大津波で死んだはずのタイ人女性の骨と思われた。女性の夫であるスウェーデン外務省職員によると現地でスウェーデン警察官が身元を確認し、埋葬したという。身元確認時の単なる手違いなのか、それとも隠された犯罪があるのか? ベックストレーム率いるチームは頑迷な検察官や官僚組織に悩まされながらも真相を求めて奮闘するのだった…。
死者の身元確認という技術的、鑑識的要素が重要な役割を果たすからか、本作でのベックストレームはちょっと引き気味である。その分、鑑識官のニエミ、データ分析のプロであるナディア、強力な突破力を誇るアニカなどが活躍し、本来の捜査小説的テイストが濃く、ミステリーとしてはシリーズ最高の作品である。
シリーズ愛読者にはもちろん、警察ミステリーのファンに自信を持ってオススメする。
二度死んだ女 (創元推理文庫)
レイフ・GW・ペーション二度死んだ女 についてのレビュー
No.457: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

謎解き、逃亡、コミックと盛りだくさんな掘り出し物

犯罪小説の巨匠・ウェストレイクの1969年の作品。60年代のニューヨークを舞台にノミ屋で穴を当てたタクシー運転手がノミ屋が殺されている現場を訪ねたことから大騒動に巻き込まれる、軽やかな犯罪小説である。
ギャンブル好きのタクシー運転手・チェットは乗客から聞いた穴馬情報を信じて、いつものノミ屋・トミーに申し込み、見事に大金を当てた。喜び勇んで配当を受け取りにトミーを訪ねてみると、トミーは射殺されていた。配当を受け取り損ねたばかりか、トミーの妻や警察から容疑者扱いされ、さらにトミーが関わっていた2つのギャング勢力から命を狙われることになった。必死で逃亡しながらもチェットはトミーの妹・アビーと組んで、真犯人を探し始めるのだったが…。
60年代のニューヨークらしい洒落た会話、アビーとのロマンス、ギャングからの必死の逃亡アクション、関係者を集めての謎解き、犯人当てなど、ミステリー・エンタメの要素を全てぶち込んだ大サービス作品。半世紀以上前の作品だが、全く古さを感じさせず楽しませてくれる。オススメだ。

ギャンブラーが多すぎる (新潮文庫)
No.456: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

テーマは重いが一気読みの面白さ

2017年から21年にかけて小説誌に連載した作品を加筆した長編小説。善良で温厚で真っ当な父親たちが殺人犯と被害者になったのはなぜか? 被害者・加害者の子供、警察が、謎だらけの犯行動機を解明していくヒューマン・ミステリーである。
刑事弁護士として評価が高かった白石弁護士が刺殺死体で発見された。家族や職場でも思い当たる動機が見つからなかったのだが、警察が身辺捜査を進めると事件前に白石氏が土地勘がない、仕事でも縁がなさそうな隅田川テラスや門前仲町などで不可解な行動をとっていたことが判明した。行動履歴を丹念に追いかけた警察は白石の事務所に一度だけ電話してきた、愛知県に住む倉木という男に注目し、捜査員を派遣した。そこで捜査員が門前仲町にある富岡八幡宮のお札を見つけたのだが、倉木は誰かにもらったというだけで言葉を濁すばかりだった。倉木と白石は繋がりがあると睨んだ警察が倉木の身辺を調べると、倉木は門前仲町にある居酒屋に常連として通っていたことが分かった。愛知で隠居生活している倉木が、なぜ門前仲町の居酒屋に通うのか? その理由は、30年前に愛知県で起きた殺人事件に起因するものだと判明し、倉木を問い詰めると犯行を自供した。事件は解決し警察は祝杯をあげ、あとは裁判を待つばかりになったのだが、倉木が自供した犯行動機に納得できない倉木の息子・和真は、なんとか真相を知ろうと独自に調査を進めていた。また、被害者の娘・美令も倉木の自供に納得できず、警察や弁護士相手に孤独な挑戦を続けていた。やがてある時、事件現場で和真と美令が遭遇し…。
至極真っ当な人物だと信じていた父親たちが、なぜ犯人や被害者になったのか? 家族として謂れのない誹謗中傷に晒されながらも真相だけを追求する二人の若者が中心だが、事件の解明プロセスは警察ミステリーの流れである。それはそれで面白いのだが、本作の読みどころは罪と罰、正義の目的なら犯罪も許されるのかという、永遠に解答の出ない哲学問答にある。問題が難問だけに、クライマックス、犯人像には賛否いろいろあるだろうが、そこまで一気に読者を引っ張っていく力を持った傑作であることは間違いない。
東野圭吾ファンのみならず、幅広いジャンルのミステリー愛好家にオススメする。
白鳥とコウモリ(上) (幻冬舎文庫)
東野圭吾白鳥とコウモリ についてのレビュー
No.455:
(8pt)

暴力と狂信。アメリカの暗い底流が見える

54歳でデビューした遅咲き作家の長編第1作。60年代のアメリカ中西部を舞台に、環境に翻弄される青年と暴力と狂信に支配された人々の出口のない日々を容赦なく描いたノワールである。
狂信的な父親に支配されて少年期を過ごしたアーヴィンの成長を中心に、彼を取り巻く碌でもない人々の奇行、蛮行を積み重ね、60年代アメリカのどうしようもなさ、今に続いている暴力と狂信の底流が暴かれる。人間はどこまで愚かで、悪魔的になれるのかを否応なく突きつけられる。決して読後感の良い作品ではないが、長くインパクトを残す作品である。
好悪がはっきり分かれる作品で、ノワール愛好家にしかオススメできない。
悪魔はいつもそこに
No.454: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

とんでもないクリフハンガー(前作も、本作も)にビックリ!

イギリスに暮らすムスリムの生きづらさをエンターテイメントにした「ジェイ・カシーム」シリーズの第2作。前作「ロスト・アイデンティティ」でショッキングな最後を迎えていたジェイが、再び絶望的な戦いを繰り広げるアクション・サスペンスである。
MI5にいいように使われて民族的、政治的なストレスに押しつぶされたジェイはぐうたら公務員として働きながら、穏健なイスラムの仲間たちの集会に参加し、彼らが過激思想に走るのを防ごうと勤めていた。だが、年少メンバーのナイームがガールフレンドのライラとバスに乗っていた時、白人差別主義者と遭遇し、辱めを受けたライラが自殺する事件が起きた。絶望したナイームは復讐を誓い、集会仲間のアイラと共に行動に出ようとする。ナイームの心情は理解するものの「テロリスト」と呼ばれることを阻止したいジェイは、ナイームの行動を思いとどまらせようと奮闘する。一方、ジェイがMI5に協力したことを知ったイスラム系テロ組織はジェイの抹殺を、ロンドンに潜伏しているスリーパーのイムランに指示した。イギリス生活に慣れ、一児の母である白人のシングルマザーとの結婚を夢見るイムランだったが、組織の命令は絶対であり、新しい家族を守るためにも指示を実行しようと決意する…。
前作同様、イギリスで暮らすムスリムの苦悩がベースにしながら民族間対立の解消という出口のない難問を、ユーモアを交えた軽快なアクション・エンターテイメントに仕上げている。さらに、親子や家族、恋人など濃密な人間関係のドラマも効果的に挿入されており、殺伐としたサスペンスとは一線を画した人間味が印象的である。
前作を受けたストーリーなので、ぜひ「ロスト・アイデンティティ」から読み進めることをオススメする。
テロリストとは呼ばせない (ハーパーBOOKS)
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(8pt)

新シリーズもやはり正義と再生の物語である

「ザ・プロフェッサー」に始まった「トム・マクマトリー」四部作を受け継ぐ新シリーズの第1作。トムの教え子で親友の黒人弁護士・ボー・ヘインズが主役を務める、熱血リーガル・サスペンスである。
師であるトムばかりか愛妻のジャズまで亡くし、さらに二人の子供の親権まで奪われたボーがトムから受け継いだ老犬を相手に酒浸りの生活を送っている農場を、かつてボーを殺人で起訴した(第二作「黒と白のはざま」)無敵の検事長・ヘレンが訪ねてきた。女子高生レイプ事件で街の有力者・マイケル・ザニックを起訴しようとしていたヘレンは、元夫が殺害された事件の第一容疑者として逮捕されそうになっていた。圧倒的に不利な証拠が並べられ、絶体絶命の危機にあるヘレンは「最も信頼できる弁護士」が必要で、ボーに力を貸せと言う。失意のどん底にあったボーだが、立ち直って子供たちの親権を取り戻すためにも、ヘレンを助けようと決意した。しかし、保守的な街の有力者たちの嘘や思惑、策謀に惑わされ、裁判は不利な状況が深まるばかりだった…。
メインテーマは、「トム・マクマトリー」シリーズ第1作と同じく弁護士の正義をかけた再生物語で、それに南部の人種差別、中絶を巡る偏見が重なり、なかなか激しく感情を揺さぶる作品である。「トム・マクマトリー」シリーズの愛読者には絶対のオススメ。また、法律的な問題より情熱や人間が主題となる法廷もののファンも満足できるだろう。
前シリーズを受け継いだキャラクター、エピソードが多いので、できれば前シリーズを読んでから本作を読むことをオススメする。
嘘と聖域
ロバート・ベイリー嘘と聖域 についてのレビュー
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(8pt)

窒息するほど濃密な人間関係が支配するネブラスカの田舎町で

2022年のエドガー賞最優秀新人賞に輝いた作品。1985年11月、冬を迎えるネブラスカ州の田舎町で起きた女子高校生失踪事件が巻き起こした町の人々の動揺、疑心暗鬼、摩擦や衝突、許しや受容をシビアに描いたヒューマン・サスペンスである。
美人で成績優秀なチアリーダーとして人気の女子高生・ペギーが失踪した。田舎町から出たいと常々語っていたペギーは家出したのか、あるいは事件に巻き込まれたのか? 憶測と噂が駆け巡る町では、ペギーに片想いしていた知的障害の青年・ハルに疑惑の目が集まって来た。頼りにならない実母に代わってハルの保護者となっていた農場主のクライルとアルマ夫妻は、必要な自己弁護ができないハルの代弁者として無実を証明しようと奮闘する。一方、ペギーの弟・マイロも大好きな姉を見つけるために、町の人々の言動に細心の注意を払い、不可解な姉の行動の記憶を思い出していた。お互いが全てを知り尽くしているような濃密な人間関係が支配する田舎町で起きた事件は、人々が隠してきた秘密を明らかにし、否応なく新たな日々へ人々を導くのだった。
女子高生が失踪し、周りの偏見から被差別状態に置かれていた青年が犯人視されるという、珍しくないパターンの作品だが、登場人物の関係性、個性、それぞれの悩みや秘密、葛藤がリアリティ豊かに描かれており、最後まで目が話せないサスペンスフルなヒューマン・ドラマを楽しめる。読者はきっとクライル、アルマ、ハルの誰かに感情移入し、ハラハラドキドキしながら結末を迎えることだろう。
謎解きより人間ドラマに惹かれる人にオススメする。
鹿狩りの季節 (ハヤカワ・ミステリ)
エリン・フラナガン鹿狩りの季節 についてのレビュー
No.451: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

左足用の長靴だけで歩む人生は苛立たしい

北欧を代表する作家・マンケルの最後の作品で、CWAインターナショナルダガー受賞作。70歳の孤独な男が過去に囚われながら現在に苛立ち、やがて来る死を受容するヒューマンドラマである。
医師を引退し、祖父母から受け継いだ小島に一人で暮らしていたフレドリックの古い家が全焼した。住む家も思い出の品々も全てを失ったフレドリックは、同じ島に娘のルイースが置いて行ったトレーラーハウスで不自由な生活を余儀なくされる。さらに、火事の原因は放火と断定され、フレドリックが保険金目当てに自作自演したのではないかと疑われた。唯一の身内であるルイースが島を訪れ、しばらく一緒に生活していたのだが、ある日突然、姿を消してしまった。暮らしを再建するために細々とした用事をするとともに放火犯を見つけようとしたフレドリックだが、何も判明しないうちに、ルイースから「フランス警察に逮捕された、助けてくれ」というSOSを受け取り、急遽、パリへ赴いた。
70歳の孤独な男が暮らしを再建する中で家族との関係、親子の関係を回顧し、悩み、後悔し、さらにかつて何度も訪れたパリでも過去に囚われながら、娘との新しい関係性を作り出そうとするのがメイン・ストーリー。それに放火犯探し、さらには30歳ほども年下の新聞記者・リーサへの恋情が絡んで来る。ミステリー要素は重視されておらず(放火犯は、途中で予測がつく)、70歳を過ぎて左足用の長靴2個だけで人生を歩むような男の不安感、焦燥感、諦観を丁寧に描写した老境小説と言える。前作「イタリアン・シューズ」を受けた作品だが、独立した作品であり、前作を読んでいなくても問題ない。
ミステリーというより、老いの受容の物語として、ある程度の年齢以上の方には共感を呼ぶ作品である。
スウェーディッシュ・ブーツ
No.450: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

状況設定が上手い、展開が上手い

アイルランドの新進作家による長編第5作で、本国を始め英語圏では高く評価された2021年の作品。2020年、コロナのパンデミックに襲われたダブリンを舞台に、出会いと別れ、お互いの秘密と恋情、過去と現在が複雑に絡み合い、どうしようもなく悲劇の結末を迎えてしまった男女の恋愛サスペンス・ミステリーである。
コロナによるロックダウン中のダブリンの集合住宅で、死後2週間以上経ったと思われる男性の腐乱死体が発見された。住人であることは間違いないようだが、身元がはっきりしなかった。その56日前、スーパーのレジで出会ったオリヴァーとキアラはすぐに意気投合し、ぎこちないながらも付き合いをスタートさせた。お互いに恋愛下手を自認するふたりだったが、自由に出歩けないロックダウンという事態に急かされ、オリヴァーの家で同居することになる。だが、関係が深まるとともに、それぞれが抱えているらしい秘密が垣間見えてきて、もどかしい思いに苛まれるようになる。一方、警察が身元調査により特定した被害者は、かつて有名な少年事件の当事者だった。過去と現在が交錯しながら明らかにされた事件の真相は…。
男女の出会い、恋愛の深化、そして悲劇の死へ、というプロセスはありきたりの恋愛サスペンスだが、ロックダウンという異常な舞台、過去と現在を行き来しながら明かされるお互いの秘密というスピーディーなストーリー展開が見事で、緊迫感のあるタイムリミット・サスペンスに仕上がっている。オリヴァーとキアラ、どちらが真実を語り、どちらが作為で騙っているのか? 最後までハラハラさせて読者を引っ張っていくパワーがある。
イヤミスではない、恋愛サスペンスのファンにオススメする。
56日間 (新潮文庫)
キャサリン・R・ハワード56日間 についてのレビュー
No.449: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

古さを感じさせない、青春ノワール

ゴダール監督の長編映画「はなればなれに」の原作となった、1958年の作品。若く軽薄な三人が軽いノリで立てた現金窃盗計画が思わぬ結果を招いてしまう、サスペンスフルなクライムノベルである。
22歳の前科者同士のスキップとエディは職業訓練のための夜間学校で17歳のカレンと出会い、彼女の養親である老婦人の家に大金が隠されていることを知った。金の持ち主はラスベガスのカジノ関係者らしいのだが、たまにしか顔を見せず、しかも現金は無防備に保管されているという。「ちょろい仕事」だと考えたスキップはエディを仲間に引き込み、カレンをそそのかして深夜に忍び込む計画を立てる。誰も傷つけず、一晩で大金をせしめるはずだったのだが、スキップが同居する叔父で前科者のウィリーに計画を漏らしたことから歯車が狂い始め、思いもかけない結末を迎えることになる…。
無軌道な若者がちょっとしたことで運命を狂わせていく、青春ノワールではよくあるパターンの物語だが、関係してくる大人たちが癖のある人物ばかりで、そこに生じる複雑な人間ドラマ、心理ドラマが作品の味わいを深くしている。ゴダールの映画(優れた作品だが、優れたサスペンス映画ではない)に比べると数段サスペンスフルなミステリーである。
映画の原作という評価は関係なく、古さを感じさせない青春ノワールの傑作であり、多くのクライムノベル・ファンにオススメしたい。
はなればなれに
ドロレス・ヒッチェンズはなればなれに についてのレビュー
No.448: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

「タワーリング・インフェルノ」への見事なオマージュ作品

後書きと謝辞にある通り映画「タワーリング・インフェルノ」にインスパイアされた、超一級のパニック小説。日本が舞台のパニック小説はさほど面白くないものが多いが、本作はそんな思い込みを覆す傑作エンターテイメントである。
東京の新たなランドマークとなる地上100階建て、高さ450メートルの超高層タワービルが営業初日に火災に襲われる。ショッピングフロア、ビジネスフロア、ホテルフロアには数万人が押し寄せており、しかも100階のホールでは千人を集めたオープニング・セレモニーが行われていた。最新の防災設備を備えた超高層タワーで火災が起きるはずがない、そんな思い込みや願望から初期対応が遅れ、最上階の1000人が取り残された…。
これまで誰も経験したことがない大災害に必死に立ち向かう消防士たちの死力を尽くした戦いがメインで、物語としては単純だが最後まで息をつかせない緊迫感が見事。さりげなく散りばめられていたエピソードが俄然、重要な要素になっていくストーリー展開も素晴らしい。
パニック小説のファンには、文句なしのオススメである。
炎の塔 (祥伝社文庫)
五十嵐貴久炎の塔 についてのレビュー
No.447: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

刑事であろうとなかろうと、熱過ぎるボッシュ

高レベルなハードボイルドを発表し続ける「ハリー・ボッシュ」シリーズの第9作。ロス市警を退職したボッシュが心残りな未解決事件に個人的に決着を付ける、ハードボイルド・ミステリーである。
刑事を引退したボッシュの私立探偵としての日々は退屈でしかなかった。そんな時、ずっと心に引っかかっていた4年前の女性殺害事件に関する情報が、引退した元同僚刑事からもたらされた。被害者は映画製作会社に勤める若い女性で、数日後、その映画会社のロケ現場で200万ドルの現金強奪事件が起き、事件捜査中のボッシュが現場に居合わせたという因縁があった。たとえバッジを身に付けていなくても被害者の無念を晴らすのが使命であると再確認したボッシュは、私人として捜査を始めたのだが、ロス市警とFBIから手を出すなと警告され、さまざまな妨害を受ける。それでも怯むことなく、あの手この手で真相に近づいていったボッシュだったが、たどり着いた真相は、あまりにも苦く切ないものだった…。
警官ではなくなり、しかも誰かに依頼されたわけでもないのに、ひたすら正義のために粉骨砕身するボッシュが熱いこと。これぞハードボイルドの真髄が味わえる作品として、ボッシュ・シリーズのファンにはもちろん、すべてのハードボイルド・ファンに必読!とオススメしたい。
暗く聖なる夜(下) (講談社文庫)
マイクル・コナリー暗く聖なる夜 についてのレビュー
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(8pt)

やばい、“P分署のろくでなしたち”がまともな刑事に見えてきた!

21世紀の87分署シリーズことイタリアP分署捜査班シリーズの第三作。アパートの一室で仲の良い兄妹が殺害された事件を、存続の危機にあるP分署のろくでなし刑事たちが解決する、チームワーク警察ミステリーである。
史上稀に見る寒波がナポリを襲った朝、若き研究者の兄とモデルの妹が同居しているアパートの別々の部屋で殺されているのが発見された。居直り強盗とも性的目的とも考えられず、凶器は見つからず、さらに死体を発見した兄の友人やアパートの住人から事件前に兄が誰かと言い争っていたとの証言を得た刑事たちは、被害者の人間関係から糸口をつかもうとする。決定的な証拠はないものの容疑者を三人に絞り込んだ捜査班だったが、解決を急ぐ市警上層部から捜査権を返上するように圧力をかけられ、ついにはタイムリミットを設定されてしまった…。
時間が限られるなか、警察のお荷物扱いされていた“P分署のろくでなしたち”が刑事本来の使命感を取り戻し、見事なチームワークで成果を上げるところが読みどころ。前二作にはなかったメンバーの生き生きとした捜査活動が新鮮である。さらに、メンバーそれぞれが抱える家族や私生活の問題に変化が見えてくるのも、シリーズものならではの面白さ。ろくでなしたちも居場所を見つければ生き返るという、再生の物語にもなっている。
前二作よりパワーアップした警察群像小説であり、ヨーロッパ系警察ミステリーのファンならきっと満足できる傑作としてオススメする。
寒波: P分署捜査班 (創元推理文庫)
No.445: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

英国警察小説の遺伝子を受け継ぎ発展させた傑作

イギリス国家犯罪対策庁重大犯罪分析課の刑事「ワシントン・ポー」シリーズの第二作。6年前に犯人逮捕して解決したはずの殺人事件の被害者が生きて現れた! ポーの捜査が間違っていて犯人は冤罪だったのか? 信念の男・ポーが信頼する仲間と共に不可能犯罪の謎を解く、サイコ・サスペンス警察ミステリーである。
6年前、18歳のエリザベスが行方不明になり死体は見つからなかったのだが、経営するレストランにエリザベスの血痕があったことからポーは、父親でカリスマ・シェフとして知られるジャレド・キートンを逮捕し、ジャレドは実刑判決を受けた。ところが、殺されたはずのエリザベスが現れ、血液検査の結果、本人であることが確認された。ジャレドはサイコパスであり真犯人だと確信するポーは納得できず、血液検査の再鑑定や化学検査など求めたのだが結果は変わりなく、冤罪との見方が強まってきた。さらに、またもやエリザベスが姿を消したため、ポーは殺人容疑までかけられた…。
DNAの一致という致命的な証拠を前に絶体絶命の窮地に陥ったポーだったが、決して諦めず、前作でもコンビを組んだ分析官のティリー、理解がある上司のフリンの助けを借りて犯人に辿り着く、正統派の警察ミステリーである。それにサイコ・サスペンスの不気味さと科学捜査の意外性が加えられ、さらに場面転換もスピーディかつ衝撃的で、物語はハラハラ、ドキドキでテンポよく進行する。シリーズものらしく、登場人物の身辺の物語が徐々に明らかになるのも読みどころ。
イギリス警察小説、サイコ・サスペンスのファンなら絶対に満足できる作品であり、できるだけ第一作から読むことをオススメする。
ブラックサマーの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
M・W・クレイヴンブラックサマーの殺人 についてのレビュー
No.444: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ハードボイルドとベースボール。これぞアメリカ!

現代文学作家として知られるポール・オースターの幻のデビュー作。1980年代のニューヨークを舞台にした正統派のハードボイルドである。
冴えない私立探偵・マックスの事務所を訪れたのは、絶頂期に交通事故に遭って引退し、今は議員候補と目されている元大リーガー・チャップマンだった。命を狙うという脅迫状を受け取ったという。脅迫状は殺意を匂わせているのだが抽象的で、さらに5年前の約束を守れというのだが、チャップマンは心当たりがないという。犯人の意図を探るために関係者に聞き込みを始めたマックスはいきなり危険な雰囲気の男たちから脅迫された。男たちをよこしたのは誰か? 調査を進めると5年前の交通事故、チャップマンの妻の不倫などを巡って不可解な事態がいくつも判明し、背景には複雑な人間関係があるようだった…。
私立探偵、マフィア、警官、弁護士、郊外住宅の富裕層など完璧な道具立てで、登場人物のセリフ、行動も全て古典的なハードボイルドを踏襲している。それにさらに、メジャーリーグが絡んでくるのだから、アメリカン・エンタメの完成品というべきだろう。
正統派ハードボイルのファンに絶対のオススメである。
スクイズ・プレー (新潮文庫)
ポール・ベンジャミンスクイズ・プレー についてのレビュー
No.443: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

読み通すのが辛いけど、読み通す価値あり!

1940年に出版された「20世紀アメリカ文学最大の問題作」と言われ、日本では「アメリカの息子」の邦題で出版されながら長らく絶版になっていた作品の新訳版。貧しい黒人青年が偶発的に富豪の娘である白人女性を殺害して逃走、逮捕、裁判にかけられ死刑になるまでの黒人差別を犯人視点で語り尽くした、熱情あふれる社会派ミステリーである。
大恐慌下にあった1930年代のシカゴ、失業中の黒人青年・ビッガーは運転手として雇われた不動産業の富豪・ドルトン家で働き始めたその日に、一人娘のメアリーを殺害する事態に陥った。恐怖に駆られたビッガーはメアリーの遺体を暖房炉で焼いて証拠隠滅を図ろうとする。さらに死体が発見される前に身代金を取ろうとして脅迫状を届けた。しかし、事件は発覚し、警察に追われて必死で逃走したものの逮捕され、群衆の憎悪の嵐の中で裁判にかけられる…。
黒人青年はなぜ殺害したのか、死体を焼こうとしたのか、何を考えながら逃走し、勾留中はどのような心理だったのか? 制度や法として黒人差別が当たり前だった時代に生きる黒人の恐怖心がとてつもなく重い。「自分の意志が、この恐怖と殺人と逃亡の日夜ほど自由であったことはなかったのだ」というビッガーの独白の救いのない重苦しさは、現在のアメリカ(に限らないが)の人種差別を考えると、ほんの少しも軽くなっていないことが恐ろしい。アメリカの読書界を震撼させたというのも納得できる力作である。
780ページ超の重厚長大作だが絶対に読む価値ありとオススメする。
ネイティヴ・サン: アメリカの息子 (新潮文庫 ラ 20-1)
No.442: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

組織の壁を超えて結束した、はみ出し警官たちの矜持

北海道警シリーズ第10作。組織のメインストリームから外されながらも警察官としての矜持を失わない3組の警官たちが、職務権限の壁を越えて結束して事件を解決する警察ミステリーである。
男性が轢き逃げされたとの通報で駆けつけた機動捜査隊の津久井は、ドラレコなどから事故ではなく拉致・暴行事件ではないかと判断する。生活安全課の小島は別居中の父親に会いたい一心で旭川から札幌に一人で来た9歳の少女を保護する。刑事課盗犯係の佐伯は住宅街にある弁護士事務所の窃盗事件に臨場したのだが、犯人たちの狙いが金銭ではないことに気づき、弁護士の業務を調べるうちに、轢き逃げされた男性が弁護士に相談事を持ちかけていたことを知る。無関係に見える三つの事象だが、警察官としての嗅覚を研ぎ澄まし、組織の壁など気にしない彼らには徐々に全体像が見えて来た…。
いつものメンバーが独自の責任感と使命感でベストを尽くすうちに強力なチームとなり、埋もれていた犯罪を明らかにしていく安定したストーリー運びで、読んでる途中も読み終わった後も爽快感がある。
シリーズ未読でも問題なく楽しめる作品であり、警察ミステリーファンならどなたにもオススメしたい。
樹林の罠
佐々木譲樹林の罠 についてのレビュー
No.441: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ニューイングランド版の「仁義なき戦い」

ギャング小説の巨匠・ウィンズロウの新たな三部作の第一部。ロードアイランド州の小さな都市を舞台にアイルランド系とイタリア系のマフィアが壮絶な戦いを繰り広げるバイオレンス・ノワールである。
1986年、ロードアイランド州の州都プロヴィデンスはアイルランド系とイタリア系のマフィアが共存共栄の関係を保っていたのだが、一人の美女をきっかけに小さな綻びが生じ、両組織が血で血をあらう抗争に突入した。アイリッシュ・マフィアの前ボスの息子・ダニーは一兵卒の地味な立場に甘んじながらも戦いの中で頭角を表し、やがてはボスの位置に押し上げられていく。両組織ともに内部に権謀術策が渦巻き、裏切り、仲間割れなど不協和音を出しながらも破滅まで止まらない抗争に明け暮れることになる。そして…。物語は1990年代にまで続くスケールの大きな叙事詩となる予定で、第二作、第三作への期待を高める結末となっている。
メキシコの麻薬戦争もの、ニューヨーク市警ものという複雑で分厚い物語を書いてきた最近のウィンズロウだが、本作はマフィアの抗争を主題にした、よりシンプルで読みやすいノワール・エンタメ作品である。暴力と謀略で裏社会の世代交代が進められていくところは、東映映画の傑作「仁義なき戦い」と通じるところがあり、日本人読者にも理解しやすい。
ノワールのファンには自信を持ってオススメする。
業火の市 (ハーパーBOOKS)
ドン・ウィンズロウ業火の市 についてのレビュー
No.440: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

今回も期待に違わぬ傑作。

大阪府警シリーズの中でも独自の世界を築いている上坂刑事のバディもの。2019年から22年にかけて雑誌連載された長編警察ミステリーである。
中小企業経営者・篠原が行方不明になったという届出があり、妻・真須美によると篠原は資金繰りに苦しんでおり、自殺の恐れがあるという。しかも、振り出した手形が闇金に渡り脅迫されていたらしい。闇金がらみということで担当となった暴犯係の上坂、磯野コンビが捜査に着手するとすぐ、高速の非常駐車帯に駐められていた車で篠原の遺体が発見された。車は篠原のもので、ドアはロックされており自殺と判断されかけたのだが、篠原に掛けられていた巨額の生命保険、手形をめぐる異常で複雑な動き、篠原の周辺に出没する怪しげな輩などが次々に判明。背後に犯罪が隠れていることを察知した上坂、磯野コンビは、今にも途切れそうな細い糸をたぐって全貌を明らかにしようとする…。
相変わらず絶好調の大阪府警シリーズ、今回も期待は裏切られない。目の前で躍動する刑事たちのキャラクター、絶妙なテンポの会話のキャッチボール、意外と真剣で細やかな捜査プロセスなど読みどころ満載。最後まで一気読みの傑作エンターテイメントと言える。
黒川博行ファンなら必読。警察ミステリーのファンにも絶対の自信を持ってオススメする。
連鎖 (単行本)
黒川博行連鎖 についてのレビュー
No.439: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

江戸下町が舞台の見事なPIハードボイルド!

時代小説の名手(間違いない称号)藤沢周平が初めて挑んだハードボイルド小説。時代は江戸でも主人公はアメリカン・ハードボイルド全盛期のPIという、傑作エンターテイメントである。
ヒーローの陰影に富んだキャラクターがまさに最良のハードボイルドのものであり、ストーリー展開もスリリングで謎解き、アクションも切れ味鋭く、途中途中に挟まれるエピソードも情感がある。
とにかく予備知識なし、先入観なしで読めば絶対に満足できる傑作として、全てのハードボイルド・ファンにオススメしたい。
消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)
藤沢周平消えた女 についてのレビュー