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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数538件
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ボストンの2人組私立探偵、パトリック&アンジーシリーズの第2弾。解説に「チャンドラーの嫡流」と書かれているように、正統派アメリカン・ハードボイルドの美点を完備した傑作で、シリーズ第1作以上にハラハラ(いろんな意味で)する、読み応えのあるハードボイルド作品だ。
マフィアとのトラブルに悩む精神科医からの依頼で問題解決に乗り出したパトリック&アンジーは、奇怪な連続殺人事件に巻き込まれ、マフィアとサイコキラーを相手に絶望的な戦いを繰り広げることになる…。そうしてたどり着いた真相には、自らのアイデンティティーにも関わってくる地域社会の暗部が隠されていた。 前作からの登場人物はもちろん、今回だけの登場人物も丁寧に造形されており、話は複雑だが非常に読みやすい。さらに、今回の悪役は、いかにも現代的な不気味さが強調されていて、ストーリー全体に緊張感が高くなっている。 また、アンジーがとうとうフィルとの離婚を決意したことで、パトリックとの関係に微妙な変化が現れるのだが、一方のパトリックには夢中になっているグレイスとその娘・メイがいるため、すんなりと結ばれるわけにはいかない。シリーズの重要なサイドストーリーである二人の関係は、果たしてどうなっていくのか? 次回作以降でも気になる点である。 |
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パトリック&アンジー・シリーズの第一作。「ミスティック・リバー」からルヘインを読み始めた者としては、こんなに単純明快な小説を書いていたのかというのが、一番の驚きだった。
ボストンのあまり品が良くない地域の教会の中に探偵事務所を構える、パトリックとアンジーの二人組。ある日、上院議員から「失踪した掃除婦が持ち去った重要書類を回収してもらいたい」という依頼を受ける。掃除婦の家を探し出してみると、すでに何者かに家捜しされたあとだった。重要書類を探しているのは、上院議員の他にも誰かいる・・・。 ボストンの暗黒街を駈け回って掃除婦と書類を探す二人の行く手を阻むのは、命知らずのメンバーを抱える二つのギャング団だった。二人を助ける、サイコパスの巨漢、時には助け、時には敵対する刑事達など、ハードボイルド探偵小説ではおなじみの登場人物が揃い、ウィットを競い合うような会話と激しいアクションとおびただしい死体が繰り広げられる、まさに典型的なストーリー展開といえる。 定石通りとも、王道とも言える作品だが、背景にあるものが深いため、けっして安っぽいハードボイルドで終っていないところが、さすがにルヘイン。しかも、本作が処女小説だというのだから驚きだ。 しばらくは、このシリーズを楽しみたい。 |
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「百舌」が登場しない「百舌」シリーズの第5作。主人公の倉木美希と大杉良太が警察内部の陰謀を暴いていくという、まあ、お約束のストーリーだが、今回は悪役がよく書けている分、面白く読めた。
暴力団を襲ってコカインや拳銃を強奪するという犯罪が続き、しかも現役の警官が関与している疑いがもたれ、大杉が捜査を進めるうちに陰謀に直面することになる。警察の捜査より、私立調査員の大杉の調査が事件の解明に通じるとあって、やや強引なストーリー展開が無きにしも非ずだが、犯人探しの面白さは十分に用意されている。 今回の悪役は、美人で評判の独身刑事、その奔放な異性関係に注意を与えるため倉木が面接するところからスタートし、お互いに探り合い、張り合うところが、もうひとつの読みどころと言える。 現在までのところ、本作が「百舌」シリーズの完結編となっているが、エンディングを見ると次作もありそうな…。 |
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終わってしまったと思っていたマット・スカダーシリーズの復活! それだけでも驚きだが、74歳になったスカダーがミック・バルーに思い出話を聞かせるという構成の妙に脱帽した。さすがに74歳でN.Y.での探偵稼業はきついとみえて、そこで編み出したが炉辺夜話ということで、スカダー45歳のときの物語が展開される。
ストーリーは、幼馴染を殺害した犯人を探す話で、探偵ものとして十分に合格点の出来なのだが、読んでいるうちに犯人探しはどうでもよくなってくる。なにより、スカダーの人間性、人生観、他者とのかかわり方、恋人との関係の感じ方などが深く心を打ってくる。 読み終わったらスカダーをもっと身近に感じるようになる、シリーズファン必読の一冊だ。 |
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スウェーデンを代表する警察小説・ヴァランダー警部シリーズの最新作。最新と言っても、翻訳が出たのが最新というだけで、本国での発表は1998年。今から14年も前の作品にもかかわらず、コンピュータ・ネットワークを駆使した経済犯罪と先進国をむしばむ社会の退廃の問題点が鋭く描かれており、社会派作家・マンケルの時代感覚の鋭さが光る作品である。
物語の発端は、19歳と14歳の少女によるタクシー運転手殺し。犯人の少女たちのあまりの社会性の欠如に愕然とし、苛立ったヴァランダーは取り調べ中に14歳の少女を殴ってしまったところを新聞記者に写真を撮られ、イースタ署内での居心地の悪さを感じるようになる。一方、取り調べ中に警察から逃げ出した19歳の少女は、変電所内で黒焦げ死体となって発見され、やがてコンピュータを駆使した不気味な犯罪につながっていく。 シリーズ第8作目の本作品では、ヴァランダー警部もついに50歳の大台に到達し、社会のIT化とグローバル化に着いていけない50男の苦悩にさいなまれ、何かにつけて苛立ち、怒りを相手にぶつけ、そのことに自分で傷つき、落ち込んでしまう。これまでも、何度も警察を辞めようと思ったり、1年以上の長期休職(精神的な理由での休暇)を経験したヴァランダーだが、今回は自分が「新しい芸を習うことができない老犬」であることを自覚しなければならない、新しい犯罪には新しい捜査指揮者が当たらなければならないとまで、自分を追い詰めるようになる。果たして老犬ヴァランダーは、これからも警察官として人生を全うできるのか? 最後の最後に、ヴァランダーをよみがえらせるエピソードが出てきて、シリーズファンは次作への興味を掻き立てられることになる。まだ、2作楽しめる。 |
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ニューヨーク市警の敏腕刑事で氷の天使と呼ばれるマロリー・シリーズの第6作。
マロリーの同僚・ライカー刑事の情報屋だった娼婦・スパローが口に自身の金髪を詰め込まれて天井から吊るされるという猟奇事件が発生し、マロリーはライカーとともに事件の解明を進めるが、単なるストーカー殺人と思われた犯罪は複雑な背景の連続殺人事件に発展し、マロリーは自分の過去にも直面することになる。 現在の犯罪と過去の犯罪が捜査の進展につれてリンクされるころから、マロリーと養父・マーコヴィッツ、さらにはライカーやスパローの過去と現在が複雑に絡み合い、信頼する仲間同士が傷つけあうような重く悲劇的なエピソードが展開されることになる。 現実の犯罪捜査とマロリーの過去をめぐる回想が入り組んで、最初の内は戸惑うことが多く、ストーリー展開も遅いので退屈だが、第三の被害者が狙われ始めるころから話のスピードがアップしてどんどん引き込まれていった。 実は、このシリーズは本作が最初だったため、マロリーと養父の関連などの知識がなかったので、前半が退屈に感じたのだと思う。シリーズの読者ならいろいろな発見があって楽しめたのだろう。 この作品だけでもミステリーとして十分に楽しめる出来ではあるが、やはり、シリーズ作品は最初から読まないといけないと再認識させられた。 |
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シリーズ4作目の本作は、主人公・ヴァランダー警部のキャラクターが際立つ、良質な警察小説に仕上がっている。
前2作が警察小説というより国際謀略小説みたいな展開になっていて、面白くはあるんだが小さな違和感が残っていたのに対し、本作は地元・イースタにとどまり、地道な捜査を重ねて巨悪を暴くという警察小説の王道の作品である。 前作で、正当防衛とはいえ人を殺したことに悩むヴァランダーは、一年半もの引きこもり休暇を過ごした末に立ち直ることができず、とうとう警察を辞める決心をする。引きこもっていたデンマークの海岸に訪ねてきた知人の弁護士の「弁護士である父親の交通事故死に疑問があるので捜査してもらいたい」という依頼も断り、イースタに戻って辞職願を出そうとする。ところが、当日の新聞で知人の弁護士が射殺されたことを知り、依頼を受けなかったことの罪悪感にさいなまれたヴァランダーは、再び捜査の現場に復帰する。 ストーリーの本筋は弁護士親子を殺害した犯人捜しだが、その背景には個人を超越して利益を追求するグローバル経済と個人の良心の対立があり、社会の変化についていけない警察組織の不協和音があり、ヴァランダーは常に悩み、苛立つことになる。さらに、妻とは離婚し、一人娘は家を出て独立し、身近に住む父親とは良好な関係が維持できない、孤独な中年男の悲哀が重なり、小説全体のトーンは重く、暗い、まさにスウェーデンの冬のようになっていく。 しかし、最後には、ヴァランダーの獅子奮迅の活躍で犯人を捕らえることができ、読者はほっとすることができる。 常連登場人物のキャラクターの深化に加えて新たなヒロインも登場し、シリーズの方向性が確立され、これからますます面白くなるという期待が膨らんでくる。 |
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今や“ドイツミステリの女王”と呼ばれているネレ・ノイハウスの本邦デビュー作。本作品は実はシリーズ全5作の3作目で、日本では次には4作目が出版されるという。シリーズものなので、警察小説ではおなじみの組織の軋轢や人間関係なども読みどころではあるが、事件捜査ものとしてきわめて高いレベルで完結しているので、シリーズの途中から読み始めたという違和感はまったく感じなかった。訳者によれば「ノイハウスの真価が分かる」作品から日本に紹介しようということのようだが、本作品だけでいっぺんにファンになりシリーズ全部を読みたくなったのだから、その作戦はずばり成功したといえるだろう。
物語は、ホロコーストを生き延びアメリカ大統領顧問まで努めた著名なユダヤ人が射殺死体で発見されたところから始まる。現場には「16145」の数字が残されていた。さらに、司法解剖の結果、この被害者がナチス親衛隊員だったことが発覚した。そして、第二、第三の殺人現場でも「16145」の数字が残され、連続殺人事件へとつながっていく。果たして、犯人は、動機は? ホーフハイム刑事警察署捜査十一課のメンバーは暗中模索の捜査活動に乗り出して行くが・・・。 ドイツでは総計200万部を突破している警察小説シリーズの一作だけあって、実に面白いストーリーに驚嘆し、緻密な構成にうならされ、本当に読み応えがあった。 最近、スウェーデン、デンマークなどのミステリを読む機会が増えていたが、今度はドイツのミステリの面白さを発見した。ノイハウス同様に評価が高いフォルカー・クッチャーも含め、今後の翻訳出版が大いに楽しみである。 |
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どんでん返しの天才・ジェフリー・ディーヴァーのノンシリーズの新作は、ノンストップ追跡劇だ。
読み終った後では多少の疑問点が無きにしもあらずだが、最初から最後まで予断を許さず、読者の予想を裏切り続ける、女性保安官補と殺し屋の緊迫感に満ちた追跡劇がたっぷり楽しめる。 いい意味で「裏切られ」続けることの快感に酔いしれてもらいたい。それ以上の感想は、あえて要らない。 |
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前作では、ラトビアでスパイアクションを繰り広げたヴァランダー警部。今回の物語の舞台のひとつが南アとあって、またまた国外での活動が中心になるのかと思ったが、さすがに南アは遠すぎたようで、スウェーデン国内にとどまっての大活躍を見せてくれる。
物語は、地元イースタでの女性殺害事件の捜査と、南アのテロをめぐる謀略の二重構造で進められる。2つの作品になってもおかしくない内容で、文庫700ページの大作なので、正直、前半は読み続けるのが辛いところもあったが、二つの話のつながりがはっきりして役者が出そろった後半からは物語世界にぐんぐん引き込まれていった。 女性殺害事件の方は、いつものメンバーのキャラクターの作りこみがさらに深まったこと、悪役のキャラが際立っていること、アクションが派手になったことなどが合わさって、非常に出来の良い警察小説に仕上がっている。 また、南アのテロの方は、暗殺者小説の王道を行く構成で、これまたなかなかの傑作と言える。「解説」では、マンケルが影響を受けた作家としてジョン・ル・カレの名があがっているが、なるほどと思わせた。 作者・マンケルとしては南アの人種差別の問題を書きたかったのだろうが、一読者としては警察小説の出来のよさに満足した。 |
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デンマークの警察小説シリーズ「特捜部Q」の第三作は、シリーズものならではの面白さがぐんぐん迫ってくる、快作だ。
メインテーマは、宗教と人格とでも言えばよいのか、規律の厳格な新興宗教が遠因となって引き起こされた連続誘拐殺人という悲劇。犯罪の残酷さ、犯人の狡猾さ、犯人の生い立ちの悲劇性が際立ち、「悪役のキャラが立つほどミステリーは面白い」という原則通りで、一気に読めた。 ストーリーの始まりは、誘拐された子供からのボトルメールが13年後に特捜部Qに届けられたところから。しかし、13年の間に破損されたメールは判読が難しく、カール・マーク警部は捜査に気乗り薄だったが、助手の怪人アサド、奇人ローセの熱意もあって文面が解読され、やがて本格的な捜査が開始されると、驚くべき犯罪が明るみに出てくる・・・。 本筋の犯罪捜査もスリリングだが、それ以上に本作の魅力になっているのが、おなじみの特捜部Qの面々。主役のカールは警察小説のキャラクターとしては実に頼りなく、さらに優柔不断になってきて、アサド、ローセに引きずり回される始末。相変わらずミステリアスなアサドは、ここぞという場面で頭脳も肉体も力を発揮し、主役を奪いそうな活躍ぶり。さらに、奇人ローセが無断で休暇を取ると双子の姉というユアサが登場し、ローセ以上の奇行でカールとアサドを驚かせる。まさに、シリーズものでしか味わえないキャラクターの変貌がたっぷりと盛り込まれていて、シリーズのファンにはたまらない内容と言える。 未読の方は、ぜひ、第一作から読み始めることをオススメします。 |
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最近、翻訳が多くなった北欧ミステリーだが、今度はデンマークの本格警察小説の登場だ。コペンハーゲン警察本部の殺人捜査課長コンラズ・シモンスンシリーズの第一作は、期待以上の本格社会派ミステリーだった。
秋休み中の学校の体育館に男性5人の遺体が吊り下げられていたという、衝撃的なシーンからスタートした物語は、警察小説の常道である地道な身元調査、あらゆる情報の収集と分析、捜査班の共同作業での犯人追求と進んで行くが、被害者が全員、小児性愛犯罪者だという情報が流され、社会には犯人擁護、警察の捜査妨害の雰囲気が作り出され、捜査は一層の困難に直面する・・・。 最後の、警察が犯人を罠にかける(おびき出す)部分には多少?がつくものの、犯行の動機、犯罪のありよう、捜査のプロセスなど、きわめて緻密に構成されており、捜査側、犯人側の人物像もよく描かれており、大型の社会派警察小説と呼ぶにふさわしい作品だ。 シリーズは、すでに三作目まで出版されているとのことで、今後の翻訳出版が非常に楽しみだ。 |
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ドイツの高名な刑事弁護士が自身の弁護体験をベースに書き上げた短編小説集。ドイツを始め、世界各国でベストセラーを記録しただけあって、実に奥深く、味わいのある作品集だった。
全編、ミステリーというよりは犯罪者の心理を探って行くことに主眼が置かれている。著者が体験した事件弁護なので、起きた事象、犯人などは分かっているのだが、問題は「犯人は、なぜこうした事件を起こしたのか?」ということ。淡々とした文体で、丁寧に心理を分析して行く中で次第に明らかになるのは、人間の不条理とでもいうべき、精神の闇の世界である。ただ、著者は基本的に人間に対する優しさをもち続けている人なのであろう、精神の闇を切り捨てていないところに、読後の救いがあった。 実は、第二作品集「罪悪」の方を先に読んでいたのだが、本作の方がヒューマンな色合いが濃く感じられた。人間の不気味さという点では、「罪悪」の方がよく描かれている気がした。 |
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期待通りの社会派警察小説の傑作だ。多くの方が言及しているように、スウェーデンの警察小説といえば「マルティン・ベック」シリーズ。その1990年代版と呼ぶにふさわしい新シリーズの登場である。
スウェーデン南部、人口1万人にも満たない小さな田舎町のイースタ警察署の中年刑事・ヴァランダーが主人公。けっしてスーパーヒーローではない警察官が、生活にも、自分の体調にもさまざまなトラブルを抱えながら、それでも警察官であることの誇りを失わず、事件の真相究明に必至に頑張るところが、いたく共感を呼ぶ。第一作だけに、ヴァランダーのキャラクターを確立させようとしてさまざまなエピソードが盛り込まれているが、そのエピソードが錯綜し過ぎていて、いまひとつ、キャラクターが際立ってこない気もしたが、魅力的な主人公であることは確かだ。 イースタ郊外の片田舎の農村で老夫婦が惨殺され、被害者が最後に「外国の・・」と言い残す。犯人は外国人なのか? 人種差別的な人々を刺激することを恐れたヴァランダーは、このことを公表しないまま捜査を進めようとするが、警察内部からの情報洩れにより「犯人は外国人か?」という報道が流れ、移民排斥の動きが強まり、ついに移民逗留所への放火やソマリア人が射殺されるという事態を引き起こしてしまう・・・。スウェーデンといえば、移民や難民にはきわめて寛容な社会と思われていたが、90年代にはやはり外国人に対する反感が強まっていたようだ。そんな社会状況を敏感に反映したストーリー、エピソードはリアリティたっぷり。実に読み応えのある作品だった。 主人公を取り巻く警察仲間、家族のキャラクターも詳細に描かれており、シリーズとして成長していくだろうという予感がたっぷりで、第二作以降への期待が高まっている。 |
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筆者お得意の警察小説だが、これまでとは趣を変えて、事件現場の街の特色を生かしたストーリー構成と事件の謎解きに中心を置いている。そう、まるで東野圭吾の加賀刑事が登場しそうな作品だ。
舞台となるのは、四ツ谷荒木町。知る人ぞ知る、かつての東京では有数の花街である。現在でも、入り組んだ通りや路地に一種の隠れ家的な飲食店が軒を連ねており、大人に人気の街でもある。その街で、バブル崩壊後に地上げ絡みと思われるアパート経営の老女殺しが起き、15年の時効を迎えたのだが、時効の廃止を受けて再捜査することになる。 捜査を担当するのは、警視庁捜査一課の警部補ながら、上司と衝突して謹慎中だった水戸部裕と、退職した所轄の四谷署刑事で現在は相談員の加納良一。この訳ありコンビが記録と記憶を再調査し、街の深部を掘り起こして行く。そこで徐々に明らかになるのは、一筋縄の解釈では測れない、花街の複雑な人間関係だった。 街の特性とそこに根差した物語づくりは、まさに刑事・加賀シリーズとそっくり。ただ、本作の方が、人情ばなしより刑事物の謎解きに重点を置いている印象を受けた。 今後、シリーズ化されるようなので、佐々木譲の新境地として期待したい。 |
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名作「警官の血」の続編に位置づけられる作品だが、大河ドラマ風だった「警官の血」とは趣を異にした、正統派の警察小説だ。
主人公は、前作で三代目警官としてエピローグを飾った安城和也(現在は昇進して警部になっている)と、彼が告発したことで警視庁を追われた悪徳警部・加賀谷仁。東京の麻薬密売組織で何かが動き始めている・・しかし、規律重視で組織を変更し、捜査態勢が硬直化しセクショナリズムの弊害に悩む警察は、その動きを深く把握することができず、捜査の実を上げることができないでいた。そこで警視庁は、かつては切り捨てた丸暴担当のエース・加賀谷に復職を依頼する。おりしも、安城警部が指揮した捜査で密売組織に潜入していた警官が殺されるという事態が発生。責任を問われた安城は、なかなか成果があげられず焦りを募らせていく。それに引き換え、裏社会の組織に食い込んだ加賀谷は重要な情報を次々に手に入れ、ぐんぐん真相に迫っていく。密売組織摘発の栄誉を最後に手に入れるのは、加賀谷か、安城か? ストーリーの本筋は、麻薬密売組織の正体を追いかける警察小説だが、その過程で、警察組織がもつ官僚機構独特の問題点や自分の父親に対する安城の愛憎などが絡んできて、単なるミステリーではない厚みが感じられた。 「笑う警官」以来の作者の積み重ねを背景に、「警察官にとっての正義とは何か?」、「警察組織の本音と建前」を追求した、意欲的で読みごたえのある作品だった。 |
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「百舌」シリーズの第4作。
これまで、「百舌」シリーズはずいぶん前に第一作を読んだだけだったので、いきなり「よみがえる」を読んだのはちょっともったいなかった。間の二本の作品のエピソードを知っていた方が、数倍面白かったと思う。 死んだはずの伝説の殺し屋「百舌」が現れたのをきっかけに、どんでん返しの連続の捜査活動が繰り広げられる。「百舌は、誰か?」がキーポイントだが、それらしき疑いをもたれる人物が続々と登場し、しまいにはヒーロー、ヒロインも疑わしくなってくる。このあたりのストーリー展開は実に上手い。 最後は壮絶な殺し合いの場面になるのだが、主人公側と犯人側の秘術を尽くした戦いがスピーディーに繰り広げられ、一気に読ませてくれる。 時代状況を巧みに取り入れた社会派小説としても、良くできている。 |
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前作「犯罪」で衝撃のデビューを飾ったシーラッハの第2短編集。刑事弁護士が現実の事件に材を得て書き上げたというのがシーラッハの売りだが、この全15編の異様な物語を読んでの印象は「果たして、こんなことがあるのだろうか?」という驚きに尽きる。
もちろん、理解しやすい動機の犯罪もあるのだが、ほとんどは常人の常識を越える理由や動機から発生した犯罪であり、犯人や被害者の特異性に驚嘆させられる。が、しかし、実は常識にちょっと目をつむって見れば、それほど奇異な現象ではないのかも知れないという気にさせられた。人は他人を完全に理解することは不可能なのだと思う。 15作品の中では「解剖学」と「秘密」が、どちらも超短編ながらひねりが効いていて面白かった。 |
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通常のミステリーや戦争物を想起して読み始めると違和感があると思うが、途中からきっとそんなことは忘れて、物語の世界に引き込まれるだろう。
終戦から60年目の夏、司法試験に失敗してニート状態にある26歳の男が、ゼロ戦パイロットとして特攻作戦で戦死した祖父の軌跡を、当時の戦友達へのインタビューでたずねるというのがメインストーリー。写真の一枚すら残されていない祖父の実像を探ろうとする旅は、いきなり「奴は海軍航空隊一の憶病者だった」という衝撃的な証言からスタートすることになる。ひたすら「生きて帰る」ことを願っていた憶病者が、なぜ最後は「十死零生」の特攻機に乗り込んだのか。読み進むほどに祖父の人間性が明らかになり、同時に、戦争や軍隊の非人間性があぶり出されてくる。 フィクションとノンフィクションを入り交じらせながら、現在の視点から戦争の病理や戦時を生き抜く人々の葛藤を描き出した筆者の物語構成力は“素晴らしい!”の一言だ。とてもデビュー作とは思えない。 あの戦争を引き起こし、最後は日本を破滅に追い込んだ軍部、官僚、政治家の愚かさ、頑迷、思い上がりには絶望的になる。だがしかし、それはあの戦争とともに終ったことではない。今回の原発事故をみるとき、我々日本人はあの失敗から何も学んでこなかったのかと、暗澹たる気持ちにさせられる。 新しい日本への歩みを始めるためにも、多くの人に本書を読んでいただきたい。 |
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薬物(鎮静剤)中毒のリハビリで一年以上、弁護士業務から離れていた弁護士ハラーが復活した途端に、きわめて厄介な(しかし、金になる)弁護を引き受けて・・という、リンカーン弁護士シリーズの第二作。
ゆっくりしたペースで業務に慣れて行こうともくろんでいたミッキー・ハラーだったが、射殺された友人の弁護士のケースを引き継ぐことになったことから、いきなり全米の注目を集める映画スタジオ経営者の事件(経営者が妻と、妻の愛人を射殺したとして起訴されている)を担当することになり、その訴訟準備の間に自分も命を狙われることになる。果たして、スタジオ経営者は有罪か、無罪か、はたまた友人の弁護士を殺し、自分の命を狙っているのは誰なのか? 二転、三転して手に汗握るタイプのストーリーではないが、読み応えがある法廷ミステリーであるとともに、殺人事件の謎解きミステリーとしても良くできている。 しかも、マイクル・コナリーのもう一人の人気シリーズ・キャラクター、ハリー・ボッシュが登場するという、マイクル・コナリーファンにはたまらないオマケ付き。最後の最後には、ボッシュとハラーの超〜〜意外な関係が明らかにされ・・・シリーズの三作目、四作目への期待はいやが上にも高まって行く。 |
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