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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数529件
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前作では、ラトビアでスパイアクションを繰り広げたヴァランダー警部。今回の物語の舞台のひとつが南アとあって、またまた国外での活動が中心になるのかと思ったが、さすがに南アは遠すぎたようで、スウェーデン国内にとどまっての大活躍を見せてくれる。
物語は、地元イースタでの女性殺害事件の捜査と、南アのテロをめぐる謀略の二重構造で進められる。2つの作品になってもおかしくない内容で、文庫700ページの大作なので、正直、前半は読み続けるのが辛いところもあったが、二つの話のつながりがはっきりして役者が出そろった後半からは物語世界にぐんぐん引き込まれていった。 女性殺害事件の方は、いつものメンバーのキャラクターの作りこみがさらに深まったこと、悪役のキャラが際立っていること、アクションが派手になったことなどが合わさって、非常に出来の良い警察小説に仕上がっている。 また、南アのテロの方は、暗殺者小説の王道を行く構成で、これまたなかなかの傑作と言える。「解説」では、マンケルが影響を受けた作家としてジョン・ル・カレの名があがっているが、なるほどと思わせた。 作者・マンケルとしては南アの人種差別の問題を書きたかったのだろうが、一読者としては警察小説の出来のよさに満足した。 |
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デンマークの警察小説シリーズ「特捜部Q」の第三作は、シリーズものならではの面白さがぐんぐん迫ってくる、快作だ。
メインテーマは、宗教と人格とでも言えばよいのか、規律の厳格な新興宗教が遠因となって引き起こされた連続誘拐殺人という悲劇。犯罪の残酷さ、犯人の狡猾さ、犯人の生い立ちの悲劇性が際立ち、「悪役のキャラが立つほどミステリーは面白い」という原則通りで、一気に読めた。 ストーリーの始まりは、誘拐された子供からのボトルメールが13年後に特捜部Qに届けられたところから。しかし、13年の間に破損されたメールは判読が難しく、カール・マーク警部は捜査に気乗り薄だったが、助手の怪人アサド、奇人ローセの熱意もあって文面が解読され、やがて本格的な捜査が開始されると、驚くべき犯罪が明るみに出てくる・・・。 本筋の犯罪捜査もスリリングだが、それ以上に本作の魅力になっているのが、おなじみの特捜部Qの面々。主役のカールは警察小説のキャラクターとしては実に頼りなく、さらに優柔不断になってきて、アサド、ローセに引きずり回される始末。相変わらずミステリアスなアサドは、ここぞという場面で頭脳も肉体も力を発揮し、主役を奪いそうな活躍ぶり。さらに、奇人ローセが無断で休暇を取ると双子の姉というユアサが登場し、ローセ以上の奇行でカールとアサドを驚かせる。まさに、シリーズものでしか味わえないキャラクターの変貌がたっぷりと盛り込まれていて、シリーズのファンにはたまらない内容と言える。 未読の方は、ぜひ、第一作から読み始めることをオススメします。 |
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最近、翻訳が多くなった北欧ミステリーだが、今度はデンマークの本格警察小説の登場だ。コペンハーゲン警察本部の殺人捜査課長コンラズ・シモンスンシリーズの第一作は、期待以上の本格社会派ミステリーだった。
秋休み中の学校の体育館に男性5人の遺体が吊り下げられていたという、衝撃的なシーンからスタートした物語は、警察小説の常道である地道な身元調査、あらゆる情報の収集と分析、捜査班の共同作業での犯人追求と進んで行くが、被害者が全員、小児性愛犯罪者だという情報が流され、社会には犯人擁護、警察の捜査妨害の雰囲気が作り出され、捜査は一層の困難に直面する・・・。 最後の、警察が犯人を罠にかける(おびき出す)部分には多少?がつくものの、犯行の動機、犯罪のありよう、捜査のプロセスなど、きわめて緻密に構成されており、捜査側、犯人側の人物像もよく描かれており、大型の社会派警察小説と呼ぶにふさわしい作品だ。 シリーズは、すでに三作目まで出版されているとのことで、今後の翻訳出版が非常に楽しみだ。 |
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ドイツの高名な刑事弁護士が自身の弁護体験をベースに書き上げた短編小説集。ドイツを始め、世界各国でベストセラーを記録しただけあって、実に奥深く、味わいのある作品集だった。
全編、ミステリーというよりは犯罪者の心理を探って行くことに主眼が置かれている。著者が体験した事件弁護なので、起きた事象、犯人などは分かっているのだが、問題は「犯人は、なぜこうした事件を起こしたのか?」ということ。淡々とした文体で、丁寧に心理を分析して行く中で次第に明らかになるのは、人間の不条理とでもいうべき、精神の闇の世界である。ただ、著者は基本的に人間に対する優しさをもち続けている人なのであろう、精神の闇を切り捨てていないところに、読後の救いがあった。 実は、第二作品集「罪悪」の方を先に読んでいたのだが、本作の方がヒューマンな色合いが濃く感じられた。人間の不気味さという点では、「罪悪」の方がよく描かれている気がした。 |
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期待通りの社会派警察小説の傑作だ。多くの方が言及しているように、スウェーデンの警察小説といえば「マルティン・ベック」シリーズ。その1990年代版と呼ぶにふさわしい新シリーズの登場である。
スウェーデン南部、人口1万人にも満たない小さな田舎町のイースタ警察署の中年刑事・ヴァランダーが主人公。けっしてスーパーヒーローではない警察官が、生活にも、自分の体調にもさまざまなトラブルを抱えながら、それでも警察官であることの誇りを失わず、事件の真相究明に必至に頑張るところが、いたく共感を呼ぶ。第一作だけに、ヴァランダーのキャラクターを確立させようとしてさまざまなエピソードが盛り込まれているが、そのエピソードが錯綜し過ぎていて、いまひとつ、キャラクターが際立ってこない気もしたが、魅力的な主人公であることは確かだ。 イースタ郊外の片田舎の農村で老夫婦が惨殺され、被害者が最後に「外国の・・」と言い残す。犯人は外国人なのか? 人種差別的な人々を刺激することを恐れたヴァランダーは、このことを公表しないまま捜査を進めようとするが、警察内部からの情報洩れにより「犯人は外国人か?」という報道が流れ、移民排斥の動きが強まり、ついに移民逗留所への放火やソマリア人が射殺されるという事態を引き起こしてしまう・・・。スウェーデンといえば、移民や難民にはきわめて寛容な社会と思われていたが、90年代にはやはり外国人に対する反感が強まっていたようだ。そんな社会状況を敏感に反映したストーリー、エピソードはリアリティたっぷり。実に読み応えのある作品だった。 主人公を取り巻く警察仲間、家族のキャラクターも詳細に描かれており、シリーズとして成長していくだろうという予感がたっぷりで、第二作以降への期待が高まっている。 |
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筆者お得意の警察小説だが、これまでとは趣を変えて、事件現場の街の特色を生かしたストーリー構成と事件の謎解きに中心を置いている。そう、まるで東野圭吾の加賀刑事が登場しそうな作品だ。
舞台となるのは、四ツ谷荒木町。知る人ぞ知る、かつての東京では有数の花街である。現在でも、入り組んだ通りや路地に一種の隠れ家的な飲食店が軒を連ねており、大人に人気の街でもある。その街で、バブル崩壊後に地上げ絡みと思われるアパート経営の老女殺しが起き、15年の時効を迎えたのだが、時効の廃止を受けて再捜査することになる。 捜査を担当するのは、警視庁捜査一課の警部補ながら、上司と衝突して謹慎中だった水戸部裕と、退職した所轄の四谷署刑事で現在は相談員の加納良一。この訳ありコンビが記録と記憶を再調査し、街の深部を掘り起こして行く。そこで徐々に明らかになるのは、一筋縄の解釈では測れない、花街の複雑な人間関係だった。 街の特性とそこに根差した物語づくりは、まさに刑事・加賀シリーズとそっくり。ただ、本作の方が、人情ばなしより刑事物の謎解きに重点を置いている印象を受けた。 今後、シリーズ化されるようなので、佐々木譲の新境地として期待したい。 |
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名作「警官の血」の続編に位置づけられる作品だが、大河ドラマ風だった「警官の血」とは趣を異にした、正統派の警察小説だ。
主人公は、前作で三代目警官としてエピローグを飾った安城和也(現在は昇進して警部になっている)と、彼が告発したことで警視庁を追われた悪徳警部・加賀谷仁。東京の麻薬密売組織で何かが動き始めている・・しかし、規律重視で組織を変更し、捜査態勢が硬直化しセクショナリズムの弊害に悩む警察は、その動きを深く把握することができず、捜査の実を上げることができないでいた。そこで警視庁は、かつては切り捨てた丸暴担当のエース・加賀谷に復職を依頼する。おりしも、安城警部が指揮した捜査で密売組織に潜入していた警官が殺されるという事態が発生。責任を問われた安城は、なかなか成果があげられず焦りを募らせていく。それに引き換え、裏社会の組織に食い込んだ加賀谷は重要な情報を次々に手に入れ、ぐんぐん真相に迫っていく。密売組織摘発の栄誉を最後に手に入れるのは、加賀谷か、安城か? ストーリーの本筋は、麻薬密売組織の正体を追いかける警察小説だが、その過程で、警察組織がもつ官僚機構独特の問題点や自分の父親に対する安城の愛憎などが絡んできて、単なるミステリーではない厚みが感じられた。 「笑う警官」以来の作者の積み重ねを背景に、「警察官にとっての正義とは何か?」、「警察組織の本音と建前」を追求した、意欲的で読みごたえのある作品だった。 |
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「百舌」シリーズの第4作。
これまで、「百舌」シリーズはずいぶん前に第一作を読んだだけだったので、いきなり「よみがえる」を読んだのはちょっともったいなかった。間の二本の作品のエピソードを知っていた方が、数倍面白かったと思う。 死んだはずの伝説の殺し屋「百舌」が現れたのをきっかけに、どんでん返しの連続の捜査活動が繰り広げられる。「百舌は、誰か?」がキーポイントだが、それらしき疑いをもたれる人物が続々と登場し、しまいにはヒーロー、ヒロインも疑わしくなってくる。このあたりのストーリー展開は実に上手い。 最後は壮絶な殺し合いの場面になるのだが、主人公側と犯人側の秘術を尽くした戦いがスピーディーに繰り広げられ、一気に読ませてくれる。 時代状況を巧みに取り入れた社会派小説としても、良くできている。 |
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前作「犯罪」で衝撃のデビューを飾ったシーラッハの第2短編集。刑事弁護士が現実の事件に材を得て書き上げたというのがシーラッハの売りだが、この全15編の異様な物語を読んでの印象は「果たして、こんなことがあるのだろうか?」という驚きに尽きる。
もちろん、理解しやすい動機の犯罪もあるのだが、ほとんどは常人の常識を越える理由や動機から発生した犯罪であり、犯人や被害者の特異性に驚嘆させられる。が、しかし、実は常識にちょっと目をつむって見れば、それほど奇異な現象ではないのかも知れないという気にさせられた。人は他人を完全に理解することは不可能なのだと思う。 15作品の中では「解剖学」と「秘密」が、どちらも超短編ながらひねりが効いていて面白かった。 |
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通常のミステリーや戦争物を想起して読み始めると違和感があると思うが、途中からきっとそんなことは忘れて、物語の世界に引き込まれるだろう。
終戦から60年目の夏、司法試験に失敗してニート状態にある26歳の男が、ゼロ戦パイロットとして特攻作戦で戦死した祖父の軌跡を、当時の戦友達へのインタビューでたずねるというのがメインストーリー。写真の一枚すら残されていない祖父の実像を探ろうとする旅は、いきなり「奴は海軍航空隊一の憶病者だった」という衝撃的な証言からスタートすることになる。ひたすら「生きて帰る」ことを願っていた憶病者が、なぜ最後は「十死零生」の特攻機に乗り込んだのか。読み進むほどに祖父の人間性が明らかになり、同時に、戦争や軍隊の非人間性があぶり出されてくる。 フィクションとノンフィクションを入り交じらせながら、現在の視点から戦争の病理や戦時を生き抜く人々の葛藤を描き出した筆者の物語構成力は“素晴らしい!”の一言だ。とてもデビュー作とは思えない。 あの戦争を引き起こし、最後は日本を破滅に追い込んだ軍部、官僚、政治家の愚かさ、頑迷、思い上がりには絶望的になる。だがしかし、それはあの戦争とともに終ったことではない。今回の原発事故をみるとき、我々日本人はあの失敗から何も学んでこなかったのかと、暗澹たる気持ちにさせられる。 新しい日本への歩みを始めるためにも、多くの人に本書を読んでいただきたい。 |
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薬物(鎮静剤)中毒のリハビリで一年以上、弁護士業務から離れていた弁護士ハラーが復活した途端に、きわめて厄介な(しかし、金になる)弁護を引き受けて・・という、リンカーン弁護士シリーズの第二作。
ゆっくりしたペースで業務に慣れて行こうともくろんでいたミッキー・ハラーだったが、射殺された友人の弁護士のケースを引き継ぐことになったことから、いきなり全米の注目を集める映画スタジオ経営者の事件(経営者が妻と、妻の愛人を射殺したとして起訴されている)を担当することになり、その訴訟準備の間に自分も命を狙われることになる。果たして、スタジオ経営者は有罪か、無罪か、はたまた友人の弁護士を殺し、自分の命を狙っているのは誰なのか? 二転、三転して手に汗握るタイプのストーリーではないが、読み応えがある法廷ミステリーであるとともに、殺人事件の謎解きミステリーとしても良くできている。 しかも、マイクル・コナリーのもう一人の人気シリーズ・キャラクター、ハリー・ボッシュが登場するという、マイクル・コナリーファンにはたまらないオマケ付き。最後の最後には、ボッシュとハラーの超〜〜意外な関係が明らかにされ・・・シリーズの三作目、四作目への期待はいやが上にも高まって行く。 |
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ひと言では言い表わせない、複雑な味わいの作品だ。
まず、獄中の連続殺人鬼の軌跡を追いながら事件が発生して行くという「羊たちの沈黙」を思い出させる、サイコスリラー系のミステリーとして読める。さらに、主人公の売れない中年作家の心情をユーモラスに描いた都会派の人情小説でもある。さらにさらに、ミステリーを始めとするエンターテイメント小説論でもある。しかも、途中途中に挟まれている、主人公が書いたSFポルノやヴァンパイア小説まで楽しめる。 なによりも、これだけ盛りだくさんでありながら構成が破綻しておらず、構成要素のすべてがかなりの水準であるところがすばらしい。また、登場人物のキャラクターが生きているので、読みながら人物の顔や服装がありありと浮んできた。まさに、様々な味わいで最後まで楽しませる「幕の内弁当」とでも言えばよいのだろうか。かなりの技巧派である。 これがデビュー作というので、今後が大いに期待できる新星が誕生したといえるだろう。 |
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米倉涼子主演のドラマが人気を呼んだので、あらすじはよく知られていると思うが、頭と度胸で銀座の夜をのし上がってゆく女の浮き沈みを描いた、一級のサスペンス作品。30年以上前の作品のため、時代背景には古さは否めないものの、そんなことは気にならないほど面白かった。
平凡な(平凡以下の扱いしか受けていなかった)女子銀行員のヒロインが、堂々と銀行の金を横領して銀座に店をオープンする幕開けからスリル満点。店の運転資金や、より大きな店を手に入れるために、脱税している医者や予備校経営者を陥れて行く手順も、良質なコンゲームとして抜群に面白い。 しかも、ラストに待ちかまえる衝撃の展開に向けて、要所要所で周到な伏線が張られているところも見事としか言いようが無い。最後の最後、“落ち”まで強烈なインパクトを残し、さすがに松本清張と感嘆した。 |
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V.I.ウォーショースキー・シリーズの最新作は、期待にたがわぬ快作だ。
毎回、米国が抱える病巣を鋭く描いている本シリーズだが、今回はイラン戦争の帰還兵をテーマに兵士と銃後の社会、戦争産業の問題を取り上げている。「沈黙の時代に書くということ」というエッセイ集を出している筆者らしく、9.11以降のアメリカ社会の閉塞感に対する異議申立てが強く感じられた。 しかし、50代に突入したヒロイン・ヴィクの元気さには驚嘆するしかない。自分の体力に対する愚痴をこぼしながらも(事実、アクションシーンでは若い仲間の手を借りなければ、致命的な窮地に陥るところだった)、仕事も恋も現役バリバリ、前作からレギュラー入りした20代の従妹のペトラに負けていないのである。さらに、社会的不公平、マイノリティーへの差別に対する怒りはますます沸騰し、徹底的に突っ張り切っていくところが、格好いい! シカゴのダウンタウンで鍛えられたストリート・ファイターは衰え知らずなのである。 閉塞の時代に窒息気味の日本の中高年には、特にオススメかもしれない。 表紙も、前作「ミッドナイト・ララバイ」に比べれば(まあ、前作がひど過ぎるのだが)ぐっとリアリティがあり、数段出来が良い。 |
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ソビエト国家保安省捜査官・レオのシリーズ三部作完結編。
捜査官を辞め、今は工場長として平凡に(やや屈折し、覇気は失ってはいるが)、しかし、愛妻ライーサと二人の養女と一緒に幸せに暮らしていたレオに、思いがけない、身を引きちぎられるような不幸が襲いかかる。果たして、レオはこの不幸から立ち直れるのだろうか? 前半は、レオとライーサの出会いを中心にした恋物語からスタートし、思いがけない悲劇の勃発まで、冷戦時代の情報戦のお話が続き、比較的静かな展開で進む。それが後半になると、一気に“怒りのアフガン”ではないが、アフガニスタンでの冒険に変化し、不屈の男・レオの本領発揮となる。トム・ロブ・スミスという作家は、前二作と同様、本作でも徹頭徹尾レオを厳しい状況に追い込んでゆく。そんな苦境をいかにして脱出するのか・・・驚嘆すべきレオの知恵と体力と精神力が発揮される。 思想と人間性、国家と個人、夢と妥協など、さまざまに考えさせられる小説だが、アクション小説としても一級品なので、一気に読み通すことが出来る。 ラストシーンは、かなり悲しい。 |
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他の方の評価はあまり高くないようだが、個人的には面白く読めた。
東西冷戦時のベルリン、ハイテクメーカー横浜製作所のダミー会社の社員・神崎は、ココム違反の証拠隠滅を図る親会社によって命を狙われ、上司殺人犯の汚名を着せられたまま東ベルリンへの逃亡を余儀なくされた。それから五年、関係者の元へ神崎からの手紙が届き、神崎を追い続けている警視庁公安部員を含めた全員が小樽に集まって真相究明のときを迎えることになる・・・。 前半はベルリンでのスパイアクション、後半は小樽での真相究明サスペンスで、それぞれに楽しめる。ことに、警察が包囲網を敷く中で、神崎は果たして日本に帰ってこられるのか、どうやって小樽の地を踏むのかという部分は、非常にサスペンスがあった。謎解きの部分(絶対に先に結末やネタばれ感想を読まないことをおすすめする)では、きっと賛否両論があるだろうが、これはこれで、小説としては良くできていると思った。 神崎、神崎の母、殺された上司の娘などのいわば追われる側と、親会社社員、公安、フリーライターなどの追う側との人格の対比がかなり露骨で、作者の立ち位置がよく見えてきたのが面白かった。 |
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真珠湾攻撃をめぐる米国スパイの活躍を描いたスパイアクション小説。当然のことながら読者はみんな、真珠湾攻撃の奇襲が成功したことを知っている訳だが、それでも読ませる傑作だ。
第二次世界大戦のスパイアクションといえば、先ず第一が「針の眼」だが、本作は和製「針の眼」といっても過言ではない。 |
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デンマークの警察小説「特捜部Q」シリーズの第二作。カール・マーク警部補とアシスタント・アサドのコンビに女性アシスタント・ローセが加わって、特捜部Qがさらにパワーアップした大活躍を繰り広げる。
このローセの、「警察学校を最優秀で修業しながら運転免許試験に落ちて警察官になれなかったため、秘書として警察に入った」という設定が笑える。そのキャラクターも、アサドに負けず劣らずユニークで、シリーズとしての面白さに一味も二味も新味が加わったといえる。 今回の主題は、二十年前の殺人事件、それも犯人が服役中の事件の再捜査である。犯人がひとりではなく、共犯者として同じ寄宿制学校の複数の同級生、しかも、いずれも社会的な成功をおさめている人物がいることを確信した特捜部のメンバーが、警察上層部をはじめとする様々な圧力を受けながらも真相にたどり着いて行く。事件の背景は、社会的エリートの秘められた暴力性という、まあ、ありがちな設定だが、メンバーのひとりが女性で、しかもわざと路上生活者として生きているというのがユニークで、ストーリーに変化をもたらしてくれる。 ところどころで、犯人達の精神構造を表現する重要な道具として「時計じかけのオレンジ」が使われているのが、あの映画をリアルタイムで観た世代として非常に興味深かった。 次回以降の作品への期待は高い。 |
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結婚式の一ヵ月半前に突然、「ごめん。もう、会えない」と電話して姿を消した婚約者・刑事を捜して日本中を駆け巡るヒロインの純愛(?)物語。最後の最後に婚約者が失踪した理由が明かされるのだが、その真実がやや説得力が弱いため、ミステリーとしては満点を付けられなかった。しかし、読みごたえのある作品であることは間違いない。
山の手のお嬢様であるヒロインが、婚約者を捜してドヤ街や私娼窟を訪ね歩いたり、捜査関係者との触れ合いで徐々に人間性、社会性を深めて行くところは好感がもてた。また、娘を殺害された老刑事・韮山の怒り、苦悩、再生の物語は、これだけでも一作品になるのではないかと思うほど読みごたえがあった。「涙」ということでは、ヒロインが流す涙より、韮山が流す涙の方が共感する部分が多かった。 時代設定が、東京オリンピックに沸く1964年からの2年間で、しかも時代の出来事や風俗が重要な要素として頻繁に登場するので、もろに同時代を生きた者としては、そのときどきの自分を思い出すことが多く、懐かしさを感じる楽しいタイムトリップだった。 |
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女刑事・音道貴子シリーズの長編第2作は、デビュー作以上に読み応えがある作品だった。
音道が大量殺人犯グループに拉致・監禁されるという、とんでもないお話だが、監禁物ミステリーとしても、警察の捜査小説としても、はたまた音道の成長物語としても、一級品の読み物に仕上がっている。デビュー作の「凍える牙」は、犬を重要登場人物に据えたこともあって(個人的には)非常にファンタジー色が強い作品と評価したが、本作は、犯行動機や犯行手段、犯人の背景などの面で社会派ミステリーとしての完成度が高く、個人的にはこちらの方が高く評価できる。 デビュー作でコンビを組み、さんざん音道を悩ませた皇帝ペンギン・滝沢刑事が、こんどは警察の救出チームのメンバーとして登場し、大活躍を見せるのが面白い。相変わらず、女性刑事と組むことには難色を示しながらも、音道が刑事として優れた資質を持ち仲間として信頼できることを断言し、そんな仲間の救出のために全身全霊をかけて奮闘する。その言動の端々には、父親の娘に対するような愛情が見え隠れし、なかなかにハードボイルドでカッコいい! いやいや、カッコよ過ぎる。 シリーズとしてはもちろん、単発作品としても十分に楽しめる警察ミステリーだと思う。 |
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