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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数538件
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ミネソタの保安官、コーク・オコナーシリーズの第7作。もっとも、本作ではコークは保安官を辞めて私立探偵のライセンスを取っているので、私立探偵コークシリーズと呼ぶべきかもしれないが。
今回は、これまでシリーズの重要なサブキャラクターを務めてきた、オジブワ族のまじない師メルーが病に倒れ、いまわの際の願いとして「まだ見ぬ息子を探して欲しい」と依頼するのが、メインストーリー。70年以上前に、生まれる前に別れた息子が、カナダのオンタリオ州にいるらしい。手がかりは、年齢、母親の名前、母親の写真が入った金時計だけだという。コークは、メルーの話に合致する男を探し出すが、その男はカナダ有数の大企業を育て上げ、現在は社会的なつながりを一切断って隠遁生活を送っている奇人だという。コークはメルーの願いに応えるために単身カナダに乗り込むが・・・。 メルーは、なぜ、今ごろになって息子に会いたがるのか? メルーと息子の間には、どんな事情があったのか? メルーがコークに語ったのは、70年前のインディアンが置かれていた過酷な社会状況だった。 さらに、家族を再建するために保安官を辞めたコークだったが、現実の家庭は彼が夢見たような平穏無事なものではなかった。 物語は三部構成になっており、全体を貫くテーマとして家族とは、父親とは何かという問いが設定されている。家族思いでありながら武骨な中年男コークの不器用で懐の深い生き方が、ミネソタからカナダまで広がる厳しくて優しい大自然の情景と相まって、厳しくても清々しい共感を呼び起こす。 シリーズファンはもちろん、初読の人にもオススメだ。 |
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1989〜92年に書かれた10編の連作小説。テーマはいわゆる「劇場型犯罪」だが、ストーリーを進めるのが「各編の主役が持っている財布!」という設定で読者を驚かせる。そして、その奇抜なアイデアが素晴らしい効果を上げている。
事件は、轢き逃げされた会社員に巨額の保険金が掛けられていたことからスタートする。受取人になる妻が疑われるのだが、彼女には完璧なアリバイがあった。捜査を担当する老刑事はやがて、彼女の不倫相手を探り出し、その男の周辺で奇妙な事故が起きているのに遭遇する。保険金目当ての相互殺人ではないかという疑惑が深まり、メディアの報道が過熱していく一方で、捜査陣は決定的な証拠を発見することが出来ず、メディアを利用して冤罪を訴える二人に振り回されることになる。 という、まあ、どこかで見たようなお話なのだが、10のエピソードを10個の財布が一人称で語るうちに全体のストーリーが展開し、完結するという構成が秀逸。財布の視点からの語りでありながら、それぞれの財布の持ち主の性格や行動が見事に描き出されており、その上手さには舌を巻く。アイデア、テクニックともに、「さすがは、宮部みゆき」と脱帽させられた。 |
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タイトル通り、結婚詐欺事件をテーマにしたエンターテイメント小説。文庫の裏表紙には「傑作サスペンス」とあるが、サスペンスではない。また、ミステリーというには、謎解き部分が重視されてはおらず、刑事物、人情物に分類されるジャンルだろうか。
ストーリーは、プロの結婚詐欺師がターゲットを次々に見つけ、見事に金を引き出す詐欺の話と、事件を扱うことになった、平凡な刑事の必死の捜査が並行して進められる。ターゲット(詐欺被害者)の一人が刑事と昔わけありの女性だったことから、単純な犯人追跡だけではすまない愛憎劇の様相を呈してくる。果たして、警察は詐欺師を検挙、起訴できるのだろうか? 刑事を主役として読めば詐欺師を追いつめる捜査物であるが、詐欺師を主役として読めば男女間のコンゲーム小説である。事実、文庫の最後には新潮文庫編集部による「詐欺師のくどき文句『つかみ』の研究」という付録がついている。読む人の好みで、どちらで読んでも満足できるところが、この作品の魅力といえる。 |
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1984年に発表された、佐々木譲がバイク小説からハードボイルド、ミステリーへの飛躍を遂げた記念すべき作品。バブル経済の初期、熱に浮かされたような狂乱が繰り広げられていた歌舞伎町を舞台にした、鮮烈な読後感を残すハードボイルドである。
主人公は1968年、「新宿米タン闘争」の際に機動隊に追われて逃げ込んだ歌舞伎町のジャズの店のマスターにかくまわれて以来、新宿に住み着き、歌舞伎町の片隅で流行らないスナックの雇われマスターとして過ごしてきた。その店が今日で閉店という6月末の土曜日、開店準備をしていた店にケガをした若い女が逃げ込んできた。彼女は不法滞在のベトナム難民で、売春目的に彼女を拉致した暴力団組長を撃って逃げてきたという。歌舞伎町では暴力団員たちが血眼で探し回り、事件を知った警察も暴力団より先に彼女を確保すべく歌舞伎町一体を包囲し始めた。事情を聞いた主人公は、店の常連客の協力を得ながら、彼女を脱出させようとする・・・。 第一に、二人の出会いから脱出まで、わずか6時間ほどの間に繰り広げられる、人間的で密度の濃いストーリー展開がサスペンスを高める。さらに、バブル期の歌舞伎町の無法地帯ともいえる猥雑さがハードボイルドさを際立たせる。 ハードボイルドファンにはかなりオススメだ。 |
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お人好し編集者・杉村三郎の素人探偵シリーズ三部作の完結編。685ページというボリュームもさることながら、内容的にも盛り沢山だし、完結編にふさわしい『落ち』がしっかり付けてあり、三作品の中では一番面白かった。
三作とも徹底して「巻き込まれ型』の事件が中心になるのだが、今回はたまたま乗り合わせたバスが老人にジャックされるという、まあ奇跡的に「トラブルを呼び込む人」でなければ遭遇しないような事件が発端となる。バスジャック自体はたった3時間ほどで解決されるのだが、人質となった7人に、事件現場で自殺した犯人から「慰謝料」が送られてくる。なぜ送られてきたのか、誰が送ってきたのか、慰謝料の出所はどこなのか? 三たび、素人探偵が調査に乗り出すことになる。 バスジャック犯の老人の背景を探りながら現代社会の病巣を描き出すのが第一のストーリーで、サブストーリーして杉村三郎の個人生活の葛藤が描かれ、最後はちょっと苦い結末を迎えることになる。 最初の老人によるバスジャックという設定から最後の甘く切ないエンディングまで、伏線を上手に生かしたストーリーでミステリーファンには十分に満足してもらえると思う。ただ、サブストーリーの杉村三郎の個人生活はシリーズの前2作を読んでいないと面白さが半減してしまうので、ぜひ前2作を読んでから手に取ることをオススメします。 |
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ジョン・ル・カレが2008年に発表した21作目の長編。1931年生まれなので、77歳での作品なのだが、老いをまったく感じさせない、エキサイティングな国際謀略小説に仕上がっている。
イギリスで誕生し、現在はハンブルグに拠点を置くプライベート・バンクの2代目オーナー、トミー・ブルーは、ドイツ人女性弁護士、アナベルから面会を求められ、「わたしの依頼人は、あなたが救ってくれると信じています」と告げられる。その依頼人とは、テロの容疑者としてロシア、トルコの刑務所で拷問を受け、脱走してハンブルグに密入国したチェチェン人とロシア人のハーフの青年イッサで、ブルーの銀行の秘密口座の番号を書いた紙を所持していた。 イスラムの過激派として国際手配されているイッサがハンブルグにいることを発見したドイツの諜報機関は、イッサを利用したある諜報作戦を進めようとする。だが、その作戦はドイツ内部の権力争い、イギリス、アメリカの諜報機関からの介入によって、思い通りにはいかなくなってしまう。果たして、トミーとアナベルはイッサを救うことが出来るのか? 最後の最後に訪れたのは・・・。まるで映画のような幕切れが印象深い(すでに映画化されており、2014年中に日本でも公開予定という)。 ル・カレの作品にしては分かりやすい筋書きで、どんどん物語の世界に引き込まれて行く。また、お得意のスパイの世界での駆け引きもたっぷりと描かれていて、古くからのファンも満足できるだろう。 |
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ミステリーファンには何の説明も不要なスウェーデンの超傑作警察小説シリーズが、全巻新訳になるという。その第一弾(シリーズ4作目)は、シリーズの中でも傑作の評価が高い「笑う警官』で、30数年ぶりに再読したが、期待にたがわぬ面白さだった。
著者ふたりは、シリーズ10作でスウェーデンの10年の同時代史を書き残すという意図を持っていたといわれるが、再読してあらためて、ふたりのジャーナリスティックな視点の鋭さを感じさせられた。さらに、エンターテイメントとしてのレベルの高さがいささかも古びていないことにも驚嘆させられた。 シリーズを初めて手に取る方にはもちろん、再読の方にも文句なくオススメ。今後の新訳の登場が非常に楽しみである。 |
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フィンランドの硬骨の捜査官カリ・ヴァーラ警部シリーズの第2作。前作同様に重苦しく、真相を解明してもカタルシスは味わえない、それでも読者を引き付ける傑作警察小説である。
前作での事件解決の功績により、ヘルシンキ警察殺人捜査課に異動したカリは、上司である国家警察長官から奇妙な極秘捜査を命じられた。それは、ホロコーストへの加担を疑われてドイツから身柄引き渡しを求められている旧フィンランド公安警察職員を調査し、証拠をもみ消せというものだった。その理由は、この老人が戦時中のフィンランドの英雄として知られる人物であり、フィンランドがホロコーストに関わった事実をほじくり返されたくないという政府の意向でもあった。さらに、カリの尊敬する祖父が、この老人と同じ時期に同じ任務に着いていたことも告げられた。複雑な心境のまま調査を始めたカリだが、すぐにロシア人実業家の妻が惨殺された事件の捜査も担当することになり、私生活を犠牲にして捜査に没頭せざるを得なくなる。そんな苦労に苦労を重ねた末にたどり着いたところは、前作同様、真相解明が救いにはならないような事実だった・・・。 物語は、2つの捜査が並行しながら進んでいくのだが、もうひとつ、カリの妻ケイトの出産が迫っていること、カリに原因不明の頑固な頭痛がつきまとっていることなど、私生活のトラブルも重要なエピソードとなっている。特に、ケイトの出産を祝うためにアメリカからやってきたケイトの妹弟との「異文化の衝突」が興味深い。 物語の最後では、カリは国家警察長官から新たな秘密警察を組織することを命じられ、さらに頭痛の原因を探るための検査で思い掛けない事態に直面することになる。これは、次回作が見逃せない。 |
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ポール・リンゼイが別名で発表した、「元FBI捜査官スティーブ・ヴェイル」シリーズの第一作。残念ながら、2011年に作家が亡くなったためシリーズは2作で終わってしまっている。
TV司会者が殺され、FBIに100万ドルを要求する脅迫状が届き、支払われない場合には政治家を殺すと脅迫してきた。FBI捜査官がニセの金を持って指定の場所に赴くが、犯人は捜査官を殺害して逃走し、数日後に予告通り政治家が殺害された。次に犯人は、指名したFBI捜査官が200万ドルを持参するように要求するが、本物の200万ドルとともに捜査官が消えてしまった。捜査に行き詰まったFBI高層部は、犯人追跡に特異な才能を持っていた元捜査官スティーブ・ヴェイルに協力を依頼する。FBIの捜査手法を熟知し、さらに内部情報をつかんでいると思われる狡猾な犯人を相手に、ヴェイルは知力の限りを尽くした戦いを挑む。 ストーリーが明快でテンポ良く展開されるので、非常に読みやすい。また、それぞれのシーンが目に浮かぶように描写されており、登場人物も美男美女で、まさに映画向きのアクションミステリーといえる。 |
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フィンランド北極圏にある小さな町の警察署長カリ・ヴァーラ警部シリーズの第一作。アメリカ生まれでフィンランド在住という異色作家の実質的なデビュー作である。
一日中太陽が昇ることが無いという真冬の極北の村で、ソマリア人女優の惨殺死体が発見された。性犯罪でもあり、人種差別犯罪でもあるというやっかいな事件の捜査に取りかかったカリだが、容疑者として浮かび上がったのが、カリの前妻を奪った男性だったことから、微妙な立場に立たされることになる。さらに、第二、第三の殺人が起き、事件はいっそう複雑な様相を呈してくる。 二十四時間闇が続く極夜を、人々は家に隠り、酒を飲んでひたすら耐え忍ぶ。そんな極北の村の重苦しさに押し潰されそうになりながら懸命に捜査するカリに、小さなコミュニティならではの複雑な人間関係と、人種差別に敏感なフィンランド社会で政治問題化することをおそれる警察上層部からのプレッシャーがのし掛かってくる。さらに、カリのアメリカ人妻は妊娠中で、初めての出産への不安とフィンランド社会に溶け込めないことへの焦燥から情緒不安定になってきた。そんな八方ふさがりのカリが苦闘の末に見いだした事件の真相は、「真相を見つけなければ良かった」と思うほど重く、切なく、やり切れないものだった・・・。 スウェーデンのヴァランダー警部シリーズに通じる、社会派の色が濃い警察小説であり、今後の翻訳出版が待ち遠しいシリーズである。 |
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これはもうカール・ハイアセンにしか書けない、カール・ハイアセンの世界。読者を選ぶ作品だ。これまでの彼の作品の愛読者ならツボにはまること間違い無し。あとは、フロスト警部などのドタバタコメディー系ミステリーが好きな人にはオススメ。
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フランスの片田舎、サンドニ村の唯一人の警察官にして警察署長であるブルーノ・シリーズの第三弾。この地方の貴重な特産品であるトリュフに中国産の粗悪品が混入されているという疑惑の調査が、フランス現代史の暗部に端を発した凄惨な殺人と移民間の抗争にまで発展し、愛する村の平穏な生活を守るためにブルーノは全身全霊をかけて戦うことになる。
シリーズ初読なので断言は出来ないが、超人的な推理や科学的な捜査ではなく、鋭い人間観察と冷静な判断力で問題解決に当たる主人公ブルーノ署長のキャラクターが、本シリーズの一番の魅力ではないだろうか。事件の捜査というより、村の治安の維持を重視した言動はまさに田舎のお巡りさんそのもので好感が持てるし、別れた恋人との再会や現在の恋人との行き違いに悩む姿も微笑ましい。かといってただ優しいだけじゃなく、危険な場面でもひるむことなく派手なアクションも見せてくれる。主人公を始めとする登場人物のキャラクターが秀逸で、さらにストーリーも波乱に富んだ、読み応えのある警察小説だった。 それにしても、随所で登場する黒トリュフ料理の美味そうなこと! 「さすがフランス!」と言いたくなるグルメ小説というのも、本シリーズのもう一つの魅力である。 |
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またまた北欧・スウェーデンの新人作家のデビュー作。文末の解説によると、「英訳原稿が百頁しか無い段階で注目を集め、数ヵ月で26ヶ国に翻訳権が売れ」、「映画化権も売れた」というが、それも納得。「ミレニアム」に通じる派手さがあるアクション小説だ。
主人公はシングルマザーの看護師・ソフィー。交通事故で入院しているエクトルに惹かれ、軽い付き合いを始めたが、エクトルは実は国際犯罪組織の大物だった。何も知らないソフィーだったが、やがてその身辺に国際犯罪組織間の争いの火の粉が降りかかり、さらには警察からも接触され、ついには最愛の一人息子・アルベルトまで巻き込まれる事態になった。 平凡な看護師が犯罪組織に関わってしまう話、国際犯罪組織間の争いの話、スウェーデン警察の内部事情の話という3つの話が絡み合う物語の始めはゆったりした展開で退屈だが、3つの話の全体像が見えてくる中盤からは壮絶な殺し合いやカーチェイスのクライマックスに向かって突っ走っていく。作品紹介の「クライム・スリラー」というより、「クライム・アクション」と呼びたいスピード感だ。 解説によると「ソフィーを主人公にした三部作の第一弾となる予定」ということだが、捜査員でも私立探偵でもなく、ましてや犯罪者でもない、平凡な看護師が主人公でいったいどういう展開になるのか? その行方がいまとても気になっている。 |
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ローレンス・ブロックの14年ぶりのノンシリーズ作品。ストーリーとしては、連続殺人事件とそれにかかわりを持った人々の生き方を描いているのだが、真の主役は9.11の悲劇を経験したあとのニューヨークの街と人だろうか。登場人物がみんな、相当にエキセントリックであることが、あの悲惨な出来事が与えた絶望感の大きさと再生の難しさを物語っていると感じた。
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今さら説明の必要はない古典的名作だが、新訳が出たのを機に再読し、あらためて名作だと思った。
荷揚げ中の樽が落ちて破損し、金貨と女性の死体が見つかるという幕開けから捜査の進展、真相解明まで、緊張感のあるストーリーでまったく古びたところはない。 本格ミステリーファンなら必読とオススメする。 |
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スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビ作家の代表作である「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの最新作。日本でもすでに3作品が翻訳されているというが、初めて手に取った。
本作の主役は、ストックホルム市警にリクルートされた密告屋のパウラ。スウェーデンの刑務所内での麻薬密売の独占を狙うポーランドマフィアを壊滅させる使命を受けて組織中枢に潜入、組織の任務として刑務所に入り、麻薬の持ち込みにも成功する。ところが、組織の信頼を得るために居合わせた麻薬取引現場で、ポーランドマフィアが別の潜入者を射殺するのを目撃することになり、秘かに警察に通報した。この事件の捜査を担当することになったグレーンス警部は「簡単には諦めない男」の本領を発揮し、捜査の手をパウラに伸ばしていく。もしパウラが密告屋であることがばれたら、潜入捜査が失敗し、パウラは刑務所内で間違いなく命を狙われることになる。潜入を指示した警察上層部と政府は、グレーンス警部の捜査を妨害しようとするが不首尾に終わり、ついにパウラを切り捨てる非情な決断をする。正体をばらされたパウラは執拗に命を狙われ、生き延びるために孤独な戦いを強いられた・・・。 物語の前半は潜入捜査と通常の捜査の対立が中心の警察小説、後半は刑務所を舞台にした凄絶なサバイバル小説という趣だが、どちらの面も読み応え十分。密告屋、警察の双方とも人物造形が巧みだし、何よりストーリー展開がスリリングで、さまざまに張り巡らされた伏線も見事というしかない。 シリーズ作品らしく、過去の事件や人間関係が影響しているシーンもいくつかあるが、これまでの作品を読んでいなくても興をそがれることはない。むしろ、日本とはあまりにも異なる刑務所の状況に戸惑うことの方が、読者に違和感を引き起こす要因となるかもしれない。 |
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アダム・ダルグリッシュ警視シリーズでは4作目にあたり、初めてシルバーダガー賞を受賞した、P.D.ジェイムズの出世作。閉鎖的な人間関係の中に潜む愛憎を冷徹に暴いていく、P.D.ジェイムズの真骨頂といえる作品だ。
ビクトリア朝時代の遺物のような外観の看護婦養成所・ナイチンゲールハウスで発生した、2件の看護学生変死事件。明確な動機は不明ながらどちらも殺人を疑われ、しかもナイチンゲールハウスに関係する誰もが事件に関与する機会を持っていた。ダルグリッシュ警視は緻密な聞き取りを重ねていくことで、濃密な人間関係の中に隠されていた醜悪な人間性を暴き出し、驚くべき事件の真相を解明する。 白衣の天使の裏側に邪悪な小悪魔が潜んでいるというのは、ありがちな話ではあるが、P.D.ジェイムズの非凡な観察眼は人間性の小さなヒダを克明に描き出し、登場人物ひとりひとりの個性を際だ立たせて、非常に厚みのある物語となっている。ダルグリッシュの捜査が進むほどに疑わしい人物が増えていき、謎解きの面白さはぐんぐん加速する。さらに、犯人と動機の解明部分では、それまでに張り巡らされていた伏線の巧みさに舌を巻くことになる。犯人が分かったあとの事件処理については、様々な異論があるだろうが、イギリス本格派ミステリーの王道を行く作品であることは間違いない。 |
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未解決事件を再捜査する警視庁特命捜査対策室・水戸部警部補シリーズの第2弾。人手をかけられない特命捜査対策室の水戸部が、対象となる事件捜査に関係していたベテラン捜査員の助けを借りながら、事件が起きた街と住民の暮らしを粘り強く掘り起こし、地道な聞き込みと鋭い捜査感で謎を解いて行く、というシリーズとしての骨格が見えてきた気がした。
今回の「コールドケース」は、17年前に代官山のアパートで発生した女性殺害事件。警視庁は被疑者死亡で処理したのだが、新たに発生した川崎市での強姦殺人事件の現場で採取された精液のDNAが代官山事件で現場に残されていたDNAと一致したことを、神奈川県警から知らされる。川崎の犯人が、警視庁が終わらせた事件の犯人だったら、取り逃がした犯人が二度目の犯行を犯したことになり、警視庁の面目は丸潰れになる! 警視庁上層部としては、何が何でも、神奈川県警より先に犯行の実相を解明したいのだが、一度終結させた事案を公式に再捜査することはできず、従って組織的な再捜査は不可能だった。そこで、特命捜査対策室・水戸部に「偶然による解決」の依頼(実質的には命令)が持ち込まれることになった。専従で捜査できる相棒は朝香千津子巡査部長、ただひとりという心細い状況から水戸部の捜査がスタートした。 17年前と現在の強姦殺人に、さらに西日暮里での女性看護士殺人事件を加えた三つの事件が細い糸でつながれていく捜査のリアルさと面白さは、まさに警察小説の醍醐味。最後までだれることなく読み応えがあり、一気読みだった。 おしゃれな街に憧れる若者と周辺の大人たちが作り上げてきた「代官山幻想」の底部には、何が隠されていたのか? 街の再開発と絡めながら、表向きの華やかさと対照的な人間模様が明らかにされてゆく過程は実に味わい深く、シリーズとしての完成度が高まっていると感じた。 |
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33年間、海外諜報活動に従事してきた元CIA局員の著者が、自身の体験をベースに冷戦後の米ロスパイ活動の実態を描いたスパイアクション小説。近々映画化されるというが、ヒットすること間違いないだろう。
主役は、類い稀な美人のロシア諜報員・ドミニカと若きCIA局員・ネイト。ハニー・トラップ要員の養成学校「スパロー・スクール」を卒業したドミニカは、ロシア諜報機関の中枢に浸透しているスパイ「マーブル」の正体をあぶり出すために、「マーブル」の連絡員を務めるネイトに接近する。ところがネイトは、ドミニカをCIAのスパイにリクルートする指示を受けていた。お互いに腹のうちを探り合いながら接触した二人は、各々の使命や立場とは裏腹に徐々に惹かれあって行く。しかし、二人を取り巻く環境がそんな感情を許す訳はなく、二人の関係は過酷な運命にほんろうされることになる・・・。 諜報員同士の駆け引きと恋愛を軸に、米ロそれぞれが抱える大物スパイの正体追求合戦、ロシア諜報機関内部の権力争いが加わった、スパイ小説の王道を行くスリリングなストーリーだけでも十分に楽しめるが、それに加えて著者の実体験に基づくリアルな(に思える)スパイテクニック、神経戦の描写が一層の面白さと迫力を加えている。 ポスト冷戦のスパイ小説はル・カレを始めとして「対テロ」を描く方向に向かっているが、本書は久々に大国同士のスパイ合戦をテーマにした、オーソドックスなスパイ小説として高く評価したい。 |
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2001年に発表されたダルグリッシュ警視シリーズの第11作。サフォーク州の人里離れた海岸沿いに建つ神学校を舞台にした殺人事件をきっかけに、限られた人物間の歴史的かつ複雑な関係を紐解いて真犯人に到達するという、徹頭徹尾、P.D.ジェイムズ・ワールド全開の本格ミステリー。英国国教会の歴史と現状を背景にした物語なので、読み通すには少し骨が折れるが、その労苦に十分に応えてくれる読み応えたっぷりの大作だ。
海沿いの崖の下で砂に埋もれた神学生の死体が発見され事故死として処理されたが、死因に疑問を持った神学生の父親がロンドン警視庁に乗り込み、非公式の捜査を依頼する。その神学校で何度も少年時代の夏休みを過ごしたことがあり、ちょうど休暇でサフォーク州を訪問する予定だったダルグリッシュ警視長が捜査を担当することになり、神父、神学生、関係者らの聞き込みを開始した。ところがその翌日、神学校に付属する教会内で殺人事件が発生し、ケイト、ピアースの両警部、ロビンズ部長刑事らおなじみのメンバーが呼び寄せられて事件を捜査することになった。 教会内で殺された人物は神学校の閉校を画策している国教会の大物(大執事)で、当然ながら神学校関係者からは憎まれており、殺害の動機を持つ人物は何人もいた。さらに、学生の事故死、大執事の殺人で学校が閉鎖されれば、莫大な学校の財産を誰が受け継ぐかを巡って様々な憶測が渦巻いていた。物的証拠が乏しい中、ダルグリッシュとチームの面々は関係者のささやかな証言を基に複雑なジグソーパズルを組み立て、ついに真犯人と動機を解明する。 P.D.ジェイムズ、81歳時の作品とあって「このシリーズがまだまだ続いていくのかどうかがファンの関心を集めている」と訳者の解説に書かれているが、その後も新作が発表されてきたのは、ご存じの通り。なんせ、ダルグリッシュが恋に落ち、高校生のようなぎこちない告白をするという、続きを読まないではいられないシーンで本作を終わらせているのが、作者の決意を示す何よりの証拠だろう。 |
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