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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 361~380 19/27ページ

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No.178: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

物語の展開に合わせて、じっくりと

いきなりスウェーデンと英国で新人賞を受賞したという、スウェーデンの人気作家のデビュー作。秋、冬、春、夏と続く「エーランド島四部作」の第一作でもある。
濃霧に包まれたエーランド島で幼い少年が行方不明になってから二十数年後、夫とも別れ都会で一人暮らしをしていた少年の母親ユリアに、島の介護施設で暮らす少年の祖父から「あの子のサンダルが届けられた」という電話が来た。誰にも心を開かない生活を送っていたユリアだったが、勇気を振り絞って島に帰り、祖父と一緒に少年の失踪の謎を解こうとする。体力も金もコネも無い二人だったが、古くからの友人たちに助けられながら調査を進め、やがて第二次世界大戦直後の事件に起因する暗く、陰鬱な真実に向き合うことになった。
物語のスパンが少年の失踪から20年、その遠因となる事件から約50年という長さで、しかも探偵役が介護施設にいるリューマチに悩む老人とほとんど鬱状態の中年女性ということで、ストーリー展開は超スローペース。舞台となっているのも、夏のバカンスシーズンを除けばほとんど人の姿を見ない寂れた島の寒村ということで、とにかく暗くて重く、最初は読み続けるのがしんどい作品である。がしかし、その分だけ人物や情景の描写が丁寧で、事件の背景が判明してくる中盤以降は謎解きと濃厚な人間ドラマにぐいぐい引き込まれていく。最後のどんでん返しも、派手ではないが説得力があり、ミステリーとしての完成度を高めている。
北欧ミステリーファンはもとより、人間ドラマを重視したミステリーが好きな人にはオススメだ。
黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ヨハン・テオリン黄昏に眠る秋 についてのレビュー
No.177: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

被害者にも加害者にも、行き届いた目配り

作者のデビュー作で、2005年の江戸川乱歩賞受賞作。選考委員全員一致で選出されたというだけのことはある、レベルの高い社会派エンターテイメントである。
4年前、赤ん坊だった娘の目前で3人の少年に妻が刺殺された桧山は、娘を保育園に通わせながらカフェを営み、平穏に暮らしていたのだが、店の近くで殺人事件があり刑事が訪ねてきた。殺人事件の被害者は、妻を殺した3人のうちの1人だという。事件を起こしたとき少年らが13歳だったため、逮捕もされず、補導と更生施設送りだけで済まされたことに憤慨し、テレビの前で「彼らを殺したい」と叫んだ桧山だったが、少年を殺してはいない。更生施設を出た彼らは、本当に更生したのか、何を考え、どう行動しているのかを知りたくなった桧山は、一人で関係者を訪ね歩くことにした。そこで出会った少年と被害者である妻を巡る真相は、思いも掛けないものだった・・・。
裁判では裁かれない少年犯罪の罪と罰というテーマは珍しくなく、ややもすると平板で理屈っぽくて退屈な物語になりがちだが、本作は読み応えのあるミステリーに仕上がっている。特に、終盤に掛けての展開の意外性と伏線の張り方の上手さは抜群で、この構成力の高さはとても新人作家とは思えない。この作品を書くきっかけになったのが、高野和明の「13階段」だったというエピソードがあるが、「13階段」の社会性にミステリーとしての面白さが加わった、第一級のエンターテイメント作品である。
社会派ミステリーファンにはオススメだ。
天使のナイフ 新装版 (講談社文庫 や 61-12)
薬丸岳天使のナイフ についてのレビュー

No.176:

流

東山彰良

No.176:
(8pt)

戦後台湾が舞台の「坊ちゃん」

2015年の直木賞作品。しっかりした構成と巧みな文章力が印象的な骨太の青春小説であり、傑作エンターテイメントである。
国共内戦で国民党兵士として戦い、台湾に逃れてきた祖父を持つ主人公・秋生は、17歳の高校生のとき、自分を寵愛してくれた祖父が殺されているのを発見する。秋生は、誰が祖父を殺したのか、何故殺されたのかを知りたいと思うのだが、自分が成長して行くことに精一杯で、その疑問は心の中でずっと引きずったままだった。やがて青年となり、結婚を決意し始めた時、秋生は疑問の答えを求めて祖父の故郷である中国・青島を訪れた。そこで発見した真実の物語とは・・・。
祖父の殺害から始まって、犯人が判明して終わるという構成だが、ストーリーの比重は犯人探しミステリーより、17歳の高校生の成長物語に置かれている。頭はいいのだが無鉄砲で一本気な若者が、個性的な周囲の人々と触れ合う中で、様々な愛と人生を学んで行くという、絵に描いたような青春小説である。ただし、その中味が凡百の青春小説とは大違いで、実に読み応えがあり、味わい深い。
読後感も爽やかで、ミステリーファンに限らず、多くのエンターテイメント小説ファンにオススメしたい。
流
東山彰良 についてのレビュー
No.175:
(8pt)

周りと違うことの生きづらさを(非ミステリー)

すでに映画でもテレビドラマでも高評価を得ている、角田光代の代表作。幼児誘拐の話ではあるが、ミステリーではない。
不倫相手の子どもをおろした希和子は、男の家族が住むアパートを隠れて訪れているうちに夫婦の行動パターンを知り、二人が留守の間に衝動的に忍び込み、生後6ヶ月の娘を誘拐した。薫と名付けた子どもと、実の親子と偽って学生時代の友人宅に緊急避難したのを皮切りに、名古屋、奈良、小豆島へと逃避行を続けることになる。薫が5歳になり、小豆島での生活も落ち着いていたある日、アマチュアカメラマンが撮った写真から居場所がバレて、希和子は逮捕され、薫は実の両親の下に戻されることになった。
それから16年、大学生になった薫はアルバイト先から帰る途中で、奈良の女性団体にかくまわれていた時代の幼なじみに声をかけられた。千草と名乗った彼女は、薫の誘拐事件のことを本にしたいという。乗り気ではなかった薫だったが、千草の熱意に負けて自分の半生をたどってみることにした・・。
子どもを産み、育てることと、結婚し家庭を維持することのどちらが大事で、どちらが人間的なのか? 生物としての本質と社会制度の間で軋みが生じたとき、尊重されるべきはどちらなのか? 簡単に優劣がつけられる問題ではなく、いつの時代にあっても人間の苦悩の素になる問題だが、特に女性にとってはよりリアルで深刻なテーマである。
周りの蝉がみんな七日で死んでしまう中、八日目まで生き延びた蝉は何を感じるのか? 幸せなのか、不幸なのか? 希和子と薫、血のつながらない「親娘」の奇妙な類似性が暗示しているのは何か?
ミステリーではないがサスペンスフルな傑作である。
八日目の蝉 (中公文庫)
角田光代八日目の蝉 についてのレビュー
No.174:
(8pt)

弱気の疫病神・・ではない

疫病神シリーズの最新作。やっぱり面白いシリーズだ。
疫病神・桑原は二蝶会を破門され、堅気になっているのだが、二宮が受けた地方議会選挙と極道がらみのトラブルを、いつものコンビでさばくことになる。代紋を失い、自称「素っ堅気」になった桑原だが、その本質はまったく変わっておらず、地方政治家やヤクザを相手ににイケイケどんどんで突っかかって、どうにもならない状況を切り開いて行く。そして最後には、それなりのシノギを得て、二宮にもおこぼれが回ってくることになる。
いや〜、このシリーズはまだまだ好調で、期待に違わない面白さだ。特に今回は、悪役がヤクザより品が無い地方政治家とその周辺の有象無象で、彼らが桑原にしてやられるところは、胸がすっとする。暴対法や暴排条例で、楽な仕事では無くなった暴力団の切なさもリアルで、このシリーズも先は桑原の破壊的な暴力一辺倒ではいかないだろうと予感させるが、どうやら破門をとかれそうな桑原の暴れん坊ぶりはまだまだ続きそうだ。
疫病神シリーズのファンはもちろん、ノワール、ヤクザアクション系が好きなミステリーファンにオススメだ。
喧嘩
黒川博行喧嘩 についてのレビュー
No.173:
(8pt)

自分勝手で小心者、週刊現代読者の自画像か?(非ミステリー)

週刊現代に連載された長編小説。男女の愛憎と悪人を描かせたら抜群の冴えを見せる桐野夏生の本領が発揮された、初老男の悶々滑稽小説である。
大手銀行から町の中小企業に転籍したものの、その会社が大成功して、今や一部上場企業の財務担当取締役になった薄井は、妻と愛人の間を上手く渡り歩いているつもりだったのだが、自分を引っ張ってくれた会長から「社長のセクハラスキャンダルを処理して欲しい」と頼まれたことから、思いもよらぬトラブルに巻き込まれることになる。まあ、巻き込まれる理由の半分以上は、小心なクセに女性にもてたい、自分はモテると妄想して先走ってしまう薄井本人にあるのだが、その言動のスケールの小ささは、まさに週刊現代読者のカリカチュアとして上出来。こういう底意地の悪さは、さすがに桐野夏生である。
主人公の敵役として登場する占い師のばあさんの胡散臭さが、ちょっとだけミステリー、ノワールっぽいが、全体としては滑稽話(ユーモアではない)である。定年を前にさまよう男たちの哀感を、厳しくもおかしく描いた風俗小説として読むことをオススメする。
猿の見る夢
桐野夏生猿の見る夢 についてのレビュー
No.172:
(8pt)

1964年と2020年、何にも変わってない?

2008年に単行本が刊行され、吉川英治文学賞を受賞した、奥田英朗の代表作。昭和39年の東京オリンピックを題材に、当時の社会状況をサスペンスに表現した傑作エンターテイメントである。
昭和39年(1964年)夏、アジア初のオリンピックを開催し、敗戦国から一等国に成り上がろうとする日本の首都東京。次々と建設される競技場や高速道路、新幹線などに、日本人は感動し、うきうきした気分で沸き上がっていた。しかしその裏には、人権も人格も無視して奴隷か牛馬のように働かされている地方からの出稼ぎ労働者の大群が隠されていた。そんな出稼ぎ者の一人がヒロポンで死亡し、種違いの弟で東大大学院生の島崎国男は遺骨を引き取り、葬儀のために故郷に帰ることになった。そこで見た現実は、東京の復活とは全く無縁の、敗戦時から一つも変わっていない貧困な故郷の姿だった。東京と故郷の格差に打ちのめされた島崎は、オリンピックを人質に国家権力から身代金を奪う計画を立てた・・・。
スケールの大きな計画犯罪なのに、島崎には思的な主張も金銭欲も名誉欲もなく、淡々と計画を実行して行くところがアナーキーでサスペンスフルである。政治的な主張を掲げるテロリストであれば、その主張に対する賛否があり、好悪が生まれてくるのだが、島崎国男の場合はすべてが虚無の塊のようで、物語の主人公でありながらキャラクターに対する共感や反発が生まれて来ない。ただひたすら、犯罪計画が実行されるプロセスのタイムリミットのサスペンスで読者を引っ張って行く。
当時の時代状況を物語るエピソードがノンフィクションのようなリアリティをもってちりばめられているのも、社会派ミステリーとして成功している。貧困と格差を抑圧した「繁栄の神話としてのオリンピック」という構図は、2020年もまったく同じではないのだろうか?
社会派ミステリーファンには絶対のオススメだ。
オリンピックの身代金
奥田英朗オリンピックの身代金 についてのレビュー
No.171: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

歴史に「もしも」は無い

巨匠スティーブン・キングが挑んだ、タイムトラベルものの超大作。ケネディ大統領暗殺阻止という重大な任務に挑戦する高校教師の大冒険を描いた、上下合わせて1000ページを越えるボリューム満点のエンターテイメント大作である。
2011年の世界に暮らす高校教師ジェイクは、友人であるダイナーの経営者アルから「オズワルドによるケネディ大統領の暗殺を阻止して欲しい」と依頼された。アルの話では、ダイナーの倉庫には過去につながる「兎の穴」があり、1958年9月19日に行くことができ、また現在に戻ってくることもできるという。半信半疑で「穴」を通ってみたジェイクは本当に1958年を体験し、アルの依頼を受けて「11/23/63」の運命の日まで過去に滞在して、悲劇を防ぐために死力を尽くすのだった・・・。
タイムトラベルと言っても、自由に過去を移動するのではなく、常に1958年9月19日に行き、どれだけ長く過去に過ごしても、現在に戻ると2分しか経過していないという設定が面白い。この不自由さから生み出される過去と現在の因果関係が、物語をどんどん複雑で味わい深いものにしている。さらに、「過去は改変を好まない」、「歴史はバタフライ効果で無限に変化する」という2つの大きな命題に縛られるところも、単なるハッピーエンドに終わらせない、重みのある作品につながっている。
週刊文春、翻訳ミステリー大賞をはじめ、日本国内でも数々のベストテンに選ばれているだけのことはある傑作エンターテイメントとして、ホラー以外のミステリーファンにオススメだ。
11/22/63 上 (文春文庫 キ 2-49)
スティーヴン・キング11/22/63 についてのレビュー
No.170: 10人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

全国民への問題提起だ

著者の長編ミステリーデビュー作で、2012年の日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作。壮大な問題意識を魅力的なミステリーに仕上げた、社会派ミステリーの傑作である。
2016年に日本中を震撼させた「津久井やまゆり園」事件を想起させる「要介護老人連続殺人事件」をテーマに、犯人、検事、被害者家族、介護関係者それぞれの視点から事件の背景と真相が語られて行く。そこに表われるのは、「そうなることは分かっていたのに」何も手を打って来なかった、真剣に考えることを逃げてきた社会の無責任と、それが引き起こした生きづらさ、矛盾、不幸、絶望、善悪の基準の崩壊である。
「全国民への問題提起」と言いたくなる重い社会性を持ちながら、ミステリーとしても非常に完成度が高い。「介護と殺人」という紹介文で読むのを回避するのはもったいない。ミステリーファンに限らず、多くの人にオススメしたい。
ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中顕ロスト・ケア についてのレビュー
No.169: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ディーヴァーにしては大人しい展開(笑)

「どんでん返し職人ディーヴァーが初めて挑んだ歴史サスペンス」という裏表紙の解説にある通り、1936年のベルリンを舞台にした、ナチス幹部の暗殺を巡るサスペンス。2004年度の英国推理作家協会のスパイ・冒険小説部門賞を受賞したという、本格派の作品である。
マフィアの仕事を受けていた殺し屋ポールは、米海軍情報部の罠にかかって捉えられ、刑務所送りかドイツに渡ってナチス要人を暗殺するかの二者択一を提示された。ベルリン・オリンピックに参加する米国選手団と一緒にベルリンに着いたポールは、現地工作員と接触する際に誤って殺人事件をひき起こし、現地警察に追われることになる。凄腕の殺し屋とは言え、逃亡しながらでは思うように行動できず、暗殺計画を実行するのは不可能かと思われたのだが・・・。
物語自体はもちろんフィクションなのだが、時代背景、登場人物などは史実に基づいており、660ページという大作だが、緩むこと無く読者を引っ張って行くところはさすが。ただ、ライム・シリーズほどのどんでん返しの連続ではない。それでも、ベルリンに潜入してから脱出するまで、わずか4日間の緊迫したストーリー展開がサスペンスを高めて、最後までスリリングである。
第二次世界大戦時のスパイもの、逢坂剛氏のイベリア・シリーズなどのファンをはじめ、ラドラム・ファンなどにオススメしたい。
獣たちの庭園 (文春文庫)
ジェフリー・ディーヴァー獣たちの庭園 についてのレビュー
No.168:
(8pt)

切ない真相が心を打つ

「凍原」と同じく「北海道警釧路方面本部刑事第一課」の女性刑事が主役の長編ミステリーだが、ヒロインは前作の松崎比呂から大門真由に変わっている。
釧路の海岸で老人男性の変死体が発見された。被害者は札幌でタクシー運転手をしていた80歳の滝川という一人暮らしの男性と判明し、大門は先輩刑事の片桐とのコンビで、被害者の身元調査を担当することになった。老人のアパートに残された数少ない遺品や周辺への聞き込みから、滝川老人は青森出身で、半世紀以上前に八戸から北海道にわたってきたらしいことは分かったが、詳しい履歴はなかなか判明しなかった。生涯独身で人付き合いも少なかった老人が、なぜ釧路へ来て殺害されたのか? 大門と片桐の粘り強い調査で分かってきた被害者と釧路とのつながりは、あまりにも切なく悲しいものだった・・・。
Amazonのレビューでも指摘されているように、被害者と犯人の出会い、殺害動機などに弱点はあるものの、それを補ってあまりある魅力を持つ作品である。特に、ヒロインの大門刑事の背景設定が効果的で、事件の真相が解明されるたびにじわじわと胸が熱くなってくる。
フーダニット、ワイダニットの面白さとともに「人が幸せに生きるとは、どういうことか」を考えさせる重厚な作品として、多くの方にオススメしたい。
氷の轍 (講談社文庫)
桜木紫乃氷の轍 についてのレビュー
No.167: 7人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

人はなぜ死刑求めるのか?

著者のデビュー長編で、2001年の江戸川乱歩賞受賞作。死刑制度という重いテーマを一級のエンターテイメントに仕上げた傑作ミステリーである。
死刑執行のトラウマを抱える刑務官・南郷は、冤罪の可能性がある死刑囚・樹原を救うための調査を高額の報酬で依頼されたのを機に早期退職し、傷害致死罪で服役後に出所したばかりの青年・三上を助手にして調査を開始した。再調査の手がかりになるのは、犯行時の記憶を失っていた樹原が思い出した「階段を上った」という根拠が無い記憶だけ。二人は、当時の関係者から話を聞き、犯行現場周辺を掘り返して調べるのだが、冤罪の証拠を見つけることはできなかった。一方、樹原の死刑執行命令書は役所の手続きの階段を踏み、執行の時間は刻々と迫っていた。南郷と三上の調査は、死刑執行に間に合うのだろうか・・・。
誰が、何故、どうやってという謎解きに、タイムリミットのサスペンスが加わって非常に読み応えがある。当然のこととして人の命を奪う業務を背負わされた刑務官、傷害致死の前科を持つ青年という異色の探偵役を設定したことで、罪と罰、法の正義と私怨、応報と更生という重いテーマがストーリーに無理無く取り入れられ、物語に厚みを増している。「誰が死刑囚を救う調査を依頼したのか」という、構成の肝になる部分がやや強引すぎる気がするが、作品全体から見れば大した問題ではない。
ジャンルを選ばず、幅広いミステリーファンにオススメできる。
13階段 (講談社文庫)
高野和明13階段 についてのレビュー
No.166:
(8pt)

これぞ、高齢化時代のノワール小説?

スウェーデンの歴史家、歴史小説家によるユーモラスな犯罪小説。本作の成功を受けてシリーズ化され、すでに第三作まで発表されたというのも納得の良質な犯罪小説である。
居住する老人ホームの待遇が悪くなったことに怒っていたコーラス仲間の5人は、テレビで刑務所のドキュメンタリーを見て「ホームより刑務所の方がましじゃない」と意見が一致し、大金を盗んで隠してから刑務所に入り、出所後に大金を使って豊かに暮らそうと目論み、平均年齢80歳?の犯罪集団を結成することになる。体力は無く、計画は行き当たりばったりながら老人ならではの知恵と厚かましさを発揮して、国立美術館からモネとルノワールの作品2点を誘拐(盗み出し)し、身代金を要求する・・・。
なんせ主人公がみんな、老人なのでスピード感はゼロ。ドンパチも殺人も無い(カーチェイスはあり)のだが、老人たちは金を手に入れられるのか、失敗するのか、犯行のスリルはなかなかで最後までハラハラさせられる。高齢者を主人公にしたハードボイルドやミステリーが散見される時代ではあるが、老人集団を主役にしたアイデアが秀逸。全体を覆う明るいユーモアも楽しい。
「もう年はとれない」や「フロスト警部シリーズ」がお好きなら絶対のオススメだ。
犯罪は老人のたしなみ (創元推理文庫)
No.165: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ジリジリ、イライラさせられた

1979年度のアメリカ探偵作家クラブ最優秀ペーパーバック賞受賞作。かなりヒネリが利いたディテクティブミステリーである。
ブリーザードが吹き荒れるニューヨーク州の地方都市で連続殺人事件が発生。自らをHOGと名乗る犯人は、車の事故、家庭内での事故、麻薬の使用ミスなどに見せかけながら、まったく共通項が見つからない被害者を殺害し、事件のたびに地元紙の記者にメッセージを送りつけてきた。捜査の方向性が見つからない警察は、犯罪学の研究者・ベイネディッティ教授に協力を要請し、教授は教え子の私立探偵ロンとともに調査に乗り出した・・・。
シリアルキラーものではあるが、サイコパスが登場するわけではない。殺人事件そのものには重点が置かれていないので、凄惨さや恐さは無い。ただ、犯人が見つかりそうで見つからないこと、捜査陣の中に裏切り者(犯人?)がいそうな疑惑がつきまとうこと、犯行の目的や動機がまったく推測できないことなどから、かなりジリジリさせられる。そして、真相が判明した時の意外性もなかなかで、読み応えがあるミステリーに仕上がっている。
サイコ系の連続殺人ものを読み慣れた今の時代の読者には、ちょっと生ぬるいかもしれないが、構成の上手さがそれをカバーしているので、謎解きもの、私立探偵ものなどオーソドックスなミステリーが好きな方にはオススメだ。
ホッグ連続殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.164: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

絶望的なまでの暴力

メキシコの30年にわたる凄絶な麻薬戦争を描いた「犬の力」の続編。上下巻1200ページの全編にわたって凄まじい戦いが繰り広げられる、暴力で圧倒する作品である。
主人公は前作と同じ、DEA捜査官のケラーと麻薬王のパレーラで、アメリカで囚われていたパレーラがメキシコに移送され、脱獄するところから物語が始まる。再び、メキシコの麻薬の世界に戻ったパレーラは、自らのカルテルをまとめ、他の勢力との戦闘状態に入って行く。一方、修道院に紛れ込み静かな生活を送っていたケラーだが、DEAによって麻薬戦争の現場に引き戻された。運命の糸に結ばれたように二人は、命をかけた戦いを繰り広げることになる。
麻薬戦争とは、何か? 「麻薬」と「戦争」という2つの禍々しきものが掛け合わされたとき、そこから生まれるのは、勝者も敗者も無く、戦争の出口すら見つからない絶望でしかない。その無意味さと狂気が、読者を圧倒する。「人間がカルテルを動かしているのではなく、カルテルが人間を動かしている」という一文が、麻薬との戦いの救いの無さを表わしている。
読後の疲労感はハンパではないが、世界の麻薬の問題に関心を持つ人には、絶対のオススメだ。
ザ・カルテル (上) (角川文庫)
ドン・ウィンズロウザ・カルテル についてのレビュー
No.163:
(8pt)

ちょっと尻すぼみだけど、読ませる

2001年に「著者略歴」でデビューし、高評価を受けながら、なかなか次作が発表されなかったジョン・コラピントの長編第二作である。
大して人気ではないミステリー作品シリーズを書き続けてきたウルリクソンだったが、娘の出産時に妻が脳卒中になり、車椅子生活を余儀なくされてからの日々を描いた自叙伝が大ヒットし、一躍、時の人となり、TVのインタビュー番組にも出て注目を集めるようになった。そんなある日、若き日に関係を持った女性が亡くなり、その娘である17歳の少女クロエから「親子関係の確認と保護」を求める召喚状が届いた。驚いたウルリクソンだったが、DNA鑑定の結果でも娘であることが証明され、クロエを新しい家族として迎え入れることを決心する。裁判所で初めて会ったクロエはあどけなさとコケティッシュな魅力を併せ持つ美少女で、ウルリクソンはしだいに心を奪われるようになり、とうとう最後の一線を越えてしまうことになってしまった・・・。
クロエの裏には弁護士崩れの悪人デズがいて、DNA鑑定も含めて全てがウルリクソンを陥れるための罠であることは最初から明らかにされており、ストーリーの中心は罠の仕組みを解くミステリーではなく、誠実で家族想いの好人物であるウルリクソンが壊されて行くプロセスのサスペンスに置かれている。
ウルリクソンが罠に気付き、自分を取り戻そうとする物語の最後の部分がやや急ぎ過ぎで尻すぼみな感なのが惜しいが、非情に良くできた心理サスペンス作品である。アメリカで賛否両論(というか、否定的論調の方が圧倒的に強かったようだが)を呼んだというが、巻末の解説にもあるように、近親相姦や未成年者との性愛というタブーがアメリカでは反感を招いたということで、日本の感覚からすると特に問題視するほどの内容ではない。多くのサスペンスファンにオススメだ。
無実 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョン・コラピント無実 についてのレビュー
No.162:
(8pt)

ドロドロの愛憎劇は2時間ドラマみたいだけど、傑作

米国ミステリー界の異色の才人、パット・マガーの1950年の作品。まったく古さを感じさせないエンターテイメント作品である。
人気コラムニストのラリーが、NYのコンドミニアムに4人の女性を招待して開いたディナー・パーティー。その4人とは、ラリーの先妻、現在の妻、年上の愛人、次に結婚しようとしている19歳の女性という、訳ありの面々。ラリーは、その中の一人を事故に見せかけて殺害するために、バルコニーの手すりに仕掛けを施していた。そして、深夜のNYの路上に誰かが落下した・・・。
冒頭に事件が起きたことが提示されるのだが、被害者が誰かが最後の最後まで明らかにされない「被害者捜し」は、デビュー作からのマガーお得意のパターンだという。前作は読んでいないのだが、本作は凝縮された時間の流れ、濃密な人間関係、登場人物のリアルな描写、意表をつく結末など、すべてにレベルが高い傑作だ。「被害者捜し」ミステリーとしてはもちろん、ハーレクイン(読んだこと無いけど)的なラブロマンス、主人公の成上がりの物語など、多面的な要素を含んだ作品として楽しめる。
戦後すぐの作品とは思えない、現代でも十分に楽しめる作品として、多くの人にオススメだ。
四人の女【新版】 (創元推理文庫)
パット・マガー四人の女 についてのレビュー
No.161:
(8pt)

狙われたのは、誰か?

1950年代のイギリスの「新本格派」とされているエリザベス・フェラーズの1955年の作品。謎解きミステリーであると同時に人間ドラマとしても面白く、古さを感じさせない作品である。
ロンドン近郊の村で暮らす元女優のファニーは、理解ある夫に支えられ、田舎の主婦として満ち足りた日々を送っていた。同居する歳の離れた弟が婚約し、その婚約者ローラが訪ねてくるというので、親しい友人たちへの紹介を兼ねてカクテルパーティーを開くことにした。当日、パーティーの時間になるとローラは頭痛を訴えてパーティーを欠席した。ファニーは得意料理のロブスター・パイを出したのだが、口にした参加者はみんな「苦い」といって食べるのを止めてしまった。そんな中、隣人のサー・ピーターは「美味い」といって食べ続けたのだが、食事の後で死亡し、パイにヒ素が混入されていたことが疑われた。
ヒ素を混入したのは誰か、なぜ引退したマスコミ界の大物サー・ピーターが狙われたのか。動機と手段を巡って、パーティーの参加者がさまざまな推理を展開し、それぞれの人物が抱える人間関係の問題が徐々にあらわになってくる。怪しい人物は二転三転し、最後の最後に思いがけない動機と犯人が判明する。
被害者が狙われた動機が不明で、ほとんどの登場人物にヒ素を混入するチャンスがあるため、全員が怪しく見えてくる。しかも、誰かが推理を語るたびに事件の様相がどんどん変化してしまう。登場人物のキャラクター設定が巧みで描写も優れているので、全員が生き生きとして立ち上がってくる。殺人の動機、犯人判明までのプロットもよくできていて、最後まで読者を引っ張っていく強さがある。
謎解きミステリーのファンはもちろん、ヒューマンドラマ好きの方にもオススメだ。
カクテルパーティ (論創海外ミステリ)
No.160:
(8pt)

期待を裏切らない、キングの意欲作

ホラー小説の巨匠・キングが挑戦した本格ミステリー。1015年度エドガー賞の最優秀長編賞に選ばれた実績が示すように、読み応え十分の傑作である。
2009年4月の霧の早朝、就職フェアに参加するために徹夜で集まっていた求職者の列にメルセデス・ベンツが襲いかかり、死者8名、負傷者多数を出す事件が発生。ピエロのマスクをかぶっていた運転者は、別の場所にベンツを放置して逃走した。凶行に使われたベンツは盗難車で、捜査は行き詰まり警察は犯人を捕らえることができなかった。
それから一年以上が経過した頃、当時の捜査を指揮したホッジスは警察を退職し、妻と娘が出て行った自宅で、一人寂しく、拳銃を口にくわえることを夢想するような日々を送っていた。ところがある日、メルセデス・キラーを名乗る人物から捜査の失敗を嘲笑し、ホッジスを負け犬とののしる手紙が届けられた。この手紙を契機に、ホッジスの刑事魂が蘇り、警察とは別に、単独で犯人を追い始めることになった・・・。
退職した警官とサイコキラーとの攻防という、よくあるパターンというか、あえてオーソドックスなハードボイルドの構成を取りながらまったく飽きさせないところは、さすがに希代のストーリーテラーである。さらに、犯人のキャラクター設定、ホッジスを助ける、ハーバードをめざしている黒人青年ジェローム、精神的に不安定な中年女性ホリーという助演者も効果的で、サイコもの、警察もの、私立探偵ものとして楽しめる。
本作は、ホッジス、ジェローム、ホリーのトリオが登場する三部作の第一部で、残りの二作もすでに刊行済みとのことで翻訳が待ち遠しい。
実は、ホラー嫌いなので、キング作品は初めて読んだのだが、これは多くのミステリーファンに自信を持ってオススメできる。
ミスター・メルセデス 上 (文春文庫)
No.159:
(8pt)

正義のための連続殺人?

今や北欧を代表するミステリー作家となったジョー・ネスボの新作。オスロを舞台にした警察小説であるが、ハリー・ホーレ・シリーズ外の単発作品である。
尊敬していた警察官の父親が「自分は汚職警官である」と書き置きして自殺し、ショックを受けた母親も後を追うように亡くなってから息子・サニーは麻薬に溺れ、今は刑務所に収監されていた。刑務所では誰とも争わず、静かに囚人仲間の聴罪司祭のような役割りを果たしていたのだが、ある囚人からサニーの父は殺されたという秘密を聞き、刑務所を脱獄して、次々と敵を殺していく凄絶な復讐劇を開始した。
一方、サニーの父と仲の良い同僚だったケーファス警部は定年を目前にした殺人課の警部で、愛する妻が失明の危機にさらされており、その手術費用を工面するのに苦慮する日々を送っていたが、刑務所付き牧師の殺害事件を捜査しているうちに、連続して起きた殺人事件の裏にはサニーの復讐劇があることに気がついた。
本作は、一人の若者が犯罪組織や富豪を相手に復讐を果たすサスペンスアクションであり、頑固者のベテラン刑事が一匹狼的に捜査を進める警察小説であり、父と子、仲間たちの愛憎の物語でもある。いくつものストーリーが重なり合い、見事な伏線の回収があり、意表をつくどんでん返しがあり、最後まで楽しめる上出来のエンターテイメントである。
ノンシリーズなので、ジョー・ネスボは初めてという読者にもオススメだ。
ザ・サン 上 罪の息子 (集英社文庫)
ジョー・ネスボザ・サン 罪の息子 についてのレビュー