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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数529件
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「どんでん返し職人ディーヴァーが初めて挑んだ歴史サスペンス」という裏表紙の解説にある通り、1936年のベルリンを舞台にした、ナチス幹部の暗殺を巡るサスペンス。2004年度の英国推理作家協会のスパイ・冒険小説部門賞を受賞したという、本格派の作品である。
マフィアの仕事を受けていた殺し屋ポールは、米海軍情報部の罠にかかって捉えられ、刑務所送りかドイツに渡ってナチス要人を暗殺するかの二者択一を提示された。ベルリン・オリンピックに参加する米国選手団と一緒にベルリンに着いたポールは、現地工作員と接触する際に誤って殺人事件をひき起こし、現地警察に追われることになる。凄腕の殺し屋とは言え、逃亡しながらでは思うように行動できず、暗殺計画を実行するのは不可能かと思われたのだが・・・。 物語自体はもちろんフィクションなのだが、時代背景、登場人物などは史実に基づいており、660ページという大作だが、緩むこと無く読者を引っ張って行くところはさすが。ただ、ライム・シリーズほどのどんでん返しの連続ではない。それでも、ベルリンに潜入してから脱出するまで、わずか4日間の緊迫したストーリー展開がサスペンスを高めて、最後までスリリングである。 第二次世界大戦時のスパイもの、逢坂剛氏のイベリア・シリーズなどのファンをはじめ、ラドラム・ファンなどにオススメしたい。 |
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「凍原」と同じく「北海道警釧路方面本部刑事第一課」の女性刑事が主役の長編ミステリーだが、ヒロインは前作の松崎比呂から大門真由に変わっている。
釧路の海岸で老人男性の変死体が発見された。被害者は札幌でタクシー運転手をしていた80歳の滝川という一人暮らしの男性と判明し、大門は先輩刑事の片桐とのコンビで、被害者の身元調査を担当することになった。老人のアパートに残された数少ない遺品や周辺への聞き込みから、滝川老人は青森出身で、半世紀以上前に八戸から北海道にわたってきたらしいことは分かったが、詳しい履歴はなかなか判明しなかった。生涯独身で人付き合いも少なかった老人が、なぜ釧路へ来て殺害されたのか? 大門と片桐の粘り強い調査で分かってきた被害者と釧路とのつながりは、あまりにも切なく悲しいものだった・・・。 Amazonのレビューでも指摘されているように、被害者と犯人の出会い、殺害動機などに弱点はあるものの、それを補ってあまりある魅力を持つ作品である。特に、ヒロインの大門刑事の背景設定が効果的で、事件の真相が解明されるたびにじわじわと胸が熱くなってくる。 フーダニット、ワイダニットの面白さとともに「人が幸せに生きるとは、どういうことか」を考えさせる重厚な作品として、多くの方にオススメしたい。 |
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著者のデビュー長編で、2001年の江戸川乱歩賞受賞作。死刑制度という重いテーマを一級のエンターテイメントに仕上げた傑作ミステリーである。
死刑執行のトラウマを抱える刑務官・南郷は、冤罪の可能性がある死刑囚・樹原を救うための調査を高額の報酬で依頼されたのを機に早期退職し、傷害致死罪で服役後に出所したばかりの青年・三上を助手にして調査を開始した。再調査の手がかりになるのは、犯行時の記憶を失っていた樹原が思い出した「階段を上った」という根拠が無い記憶だけ。二人は、当時の関係者から話を聞き、犯行現場周辺を掘り返して調べるのだが、冤罪の証拠を見つけることはできなかった。一方、樹原の死刑執行命令書は役所の手続きの階段を踏み、執行の時間は刻々と迫っていた。南郷と三上の調査は、死刑執行に間に合うのだろうか・・・。 誰が、何故、どうやってという謎解きに、タイムリミットのサスペンスが加わって非常に読み応えがある。当然のこととして人の命を奪う業務を背負わされた刑務官、傷害致死の前科を持つ青年という異色の探偵役を設定したことで、罪と罰、法の正義と私怨、応報と更生という重いテーマがストーリーに無理無く取り入れられ、物語に厚みを増している。「誰が死刑囚を救う調査を依頼したのか」という、構成の肝になる部分がやや強引すぎる気がするが、作品全体から見れば大した問題ではない。 ジャンルを選ばず、幅広いミステリーファンにオススメできる。 |
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スウェーデンの歴史家、歴史小説家によるユーモラスな犯罪小説。本作の成功を受けてシリーズ化され、すでに第三作まで発表されたというのも納得の良質な犯罪小説である。
居住する老人ホームの待遇が悪くなったことに怒っていたコーラス仲間の5人は、テレビで刑務所のドキュメンタリーを見て「ホームより刑務所の方がましじゃない」と意見が一致し、大金を盗んで隠してから刑務所に入り、出所後に大金を使って豊かに暮らそうと目論み、平均年齢80歳?の犯罪集団を結成することになる。体力は無く、計画は行き当たりばったりながら老人ならではの知恵と厚かましさを発揮して、国立美術館からモネとルノワールの作品2点を誘拐(盗み出し)し、身代金を要求する・・・。 なんせ主人公がみんな、老人なのでスピード感はゼロ。ドンパチも殺人も無い(カーチェイスはあり)のだが、老人たちは金を手に入れられるのか、失敗するのか、犯行のスリルはなかなかで最後までハラハラさせられる。高齢者を主人公にしたハードボイルドやミステリーが散見される時代ではあるが、老人集団を主役にしたアイデアが秀逸。全体を覆う明るいユーモアも楽しい。 「もう年はとれない」や「フロスト警部シリーズ」がお好きなら絶対のオススメだ。 |
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1979年度のアメリカ探偵作家クラブ最優秀ペーパーバック賞受賞作。かなりヒネリが利いたディテクティブミステリーである。
ブリーザードが吹き荒れるニューヨーク州の地方都市で連続殺人事件が発生。自らをHOGと名乗る犯人は、車の事故、家庭内での事故、麻薬の使用ミスなどに見せかけながら、まったく共通項が見つからない被害者を殺害し、事件のたびに地元紙の記者にメッセージを送りつけてきた。捜査の方向性が見つからない警察は、犯罪学の研究者・ベイネディッティ教授に協力を要請し、教授は教え子の私立探偵ロンとともに調査に乗り出した・・・。 シリアルキラーものではあるが、サイコパスが登場するわけではない。殺人事件そのものには重点が置かれていないので、凄惨さや恐さは無い。ただ、犯人が見つかりそうで見つからないこと、捜査陣の中に裏切り者(犯人?)がいそうな疑惑がつきまとうこと、犯行の目的や動機がまったく推測できないことなどから、かなりジリジリさせられる。そして、真相が判明した時の意外性もなかなかで、読み応えがあるミステリーに仕上がっている。 サイコ系の連続殺人ものを読み慣れた今の時代の読者には、ちょっと生ぬるいかもしれないが、構成の上手さがそれをカバーしているので、謎解きもの、私立探偵ものなどオーソドックスなミステリーが好きな方にはオススメだ。 |
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メキシコの30年にわたる凄絶な麻薬戦争を描いた「犬の力」の続編。上下巻1200ページの全編にわたって凄まじい戦いが繰り広げられる、暴力で圧倒する作品である。
主人公は前作と同じ、DEA捜査官のケラーと麻薬王のパレーラで、アメリカで囚われていたパレーラがメキシコに移送され、脱獄するところから物語が始まる。再び、メキシコの麻薬の世界に戻ったパレーラは、自らのカルテルをまとめ、他の勢力との戦闘状態に入って行く。一方、修道院に紛れ込み静かな生活を送っていたケラーだが、DEAによって麻薬戦争の現場に引き戻された。運命の糸に結ばれたように二人は、命をかけた戦いを繰り広げることになる。 麻薬戦争とは、何か? 「麻薬」と「戦争」という2つの禍々しきものが掛け合わされたとき、そこから生まれるのは、勝者も敗者も無く、戦争の出口すら見つからない絶望でしかない。その無意味さと狂気が、読者を圧倒する。「人間がカルテルを動かしているのではなく、カルテルが人間を動かしている」という一文が、麻薬との戦いの救いの無さを表わしている。 読後の疲労感はハンパではないが、世界の麻薬の問題に関心を持つ人には、絶対のオススメだ。 |
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2001年に「著者略歴」でデビューし、高評価を受けながら、なかなか次作が発表されなかったジョン・コラピントの長編第二作である。
大して人気ではないミステリー作品シリーズを書き続けてきたウルリクソンだったが、娘の出産時に妻が脳卒中になり、車椅子生活を余儀なくされてからの日々を描いた自叙伝が大ヒットし、一躍、時の人となり、TVのインタビュー番組にも出て注目を集めるようになった。そんなある日、若き日に関係を持った女性が亡くなり、その娘である17歳の少女クロエから「親子関係の確認と保護」を求める召喚状が届いた。驚いたウルリクソンだったが、DNA鑑定の結果でも娘であることが証明され、クロエを新しい家族として迎え入れることを決心する。裁判所で初めて会ったクロエはあどけなさとコケティッシュな魅力を併せ持つ美少女で、ウルリクソンはしだいに心を奪われるようになり、とうとう最後の一線を越えてしまうことになってしまった・・・。 クロエの裏には弁護士崩れの悪人デズがいて、DNA鑑定も含めて全てがウルリクソンを陥れるための罠であることは最初から明らかにされており、ストーリーの中心は罠の仕組みを解くミステリーではなく、誠実で家族想いの好人物であるウルリクソンが壊されて行くプロセスのサスペンスに置かれている。 ウルリクソンが罠に気付き、自分を取り戻そうとする物語の最後の部分がやや急ぎ過ぎで尻すぼみな感なのが惜しいが、非情に良くできた心理サスペンス作品である。アメリカで賛否両論(というか、否定的論調の方が圧倒的に強かったようだが)を呼んだというが、巻末の解説にもあるように、近親相姦や未成年者との性愛というタブーがアメリカでは反感を招いたということで、日本の感覚からすると特に問題視するほどの内容ではない。多くのサスペンスファンにオススメだ。 |
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米国ミステリー界の異色の才人、パット・マガーの1950年の作品。まったく古さを感じさせないエンターテイメント作品である。
人気コラムニストのラリーが、NYのコンドミニアムに4人の女性を招待して開いたディナー・パーティー。その4人とは、ラリーの先妻、現在の妻、年上の愛人、次に結婚しようとしている19歳の女性という、訳ありの面々。ラリーは、その中の一人を事故に見せかけて殺害するために、バルコニーの手すりに仕掛けを施していた。そして、深夜のNYの路上に誰かが落下した・・・。 冒頭に事件が起きたことが提示されるのだが、被害者が誰かが最後の最後まで明らかにされない「被害者捜し」は、デビュー作からのマガーお得意のパターンだという。前作は読んでいないのだが、本作は凝縮された時間の流れ、濃密な人間関係、登場人物のリアルな描写、意表をつく結末など、すべてにレベルが高い傑作だ。「被害者捜し」ミステリーとしてはもちろん、ハーレクイン(読んだこと無いけど)的なラブロマンス、主人公の成上がりの物語など、多面的な要素を含んだ作品として楽しめる。 戦後すぐの作品とは思えない、現代でも十分に楽しめる作品として、多くの人にオススメだ。 |
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1950年代のイギリスの「新本格派」とされているエリザベス・フェラーズの1955年の作品。謎解きミステリーであると同時に人間ドラマとしても面白く、古さを感じさせない作品である。
ロンドン近郊の村で暮らす元女優のファニーは、理解ある夫に支えられ、田舎の主婦として満ち足りた日々を送っていた。同居する歳の離れた弟が婚約し、その婚約者ローラが訪ねてくるというので、親しい友人たちへの紹介を兼ねてカクテルパーティーを開くことにした。当日、パーティーの時間になるとローラは頭痛を訴えてパーティーを欠席した。ファニーは得意料理のロブスター・パイを出したのだが、口にした参加者はみんな「苦い」といって食べるのを止めてしまった。そんな中、隣人のサー・ピーターは「美味い」といって食べ続けたのだが、食事の後で死亡し、パイにヒ素が混入されていたことが疑われた。 ヒ素を混入したのは誰か、なぜ引退したマスコミ界の大物サー・ピーターが狙われたのか。動機と手段を巡って、パーティーの参加者がさまざまな推理を展開し、それぞれの人物が抱える人間関係の問題が徐々にあらわになってくる。怪しい人物は二転三転し、最後の最後に思いがけない動機と犯人が判明する。 被害者が狙われた動機が不明で、ほとんどの登場人物にヒ素を混入するチャンスがあるため、全員が怪しく見えてくる。しかも、誰かが推理を語るたびに事件の様相がどんどん変化してしまう。登場人物のキャラクター設定が巧みで描写も優れているので、全員が生き生きとして立ち上がってくる。殺人の動機、犯人判明までのプロットもよくできていて、最後まで読者を引っ張っていく強さがある。 謎解きミステリーのファンはもちろん、ヒューマンドラマ好きの方にもオススメだ。 |
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ホラー小説の巨匠・キングが挑戦した本格ミステリー。1015年度エドガー賞の最優秀長編賞に選ばれた実績が示すように、読み応え十分の傑作である。
2009年4月の霧の早朝、就職フェアに参加するために徹夜で集まっていた求職者の列にメルセデス・ベンツが襲いかかり、死者8名、負傷者多数を出す事件が発生。ピエロのマスクをかぶっていた運転者は、別の場所にベンツを放置して逃走した。凶行に使われたベンツは盗難車で、捜査は行き詰まり警察は犯人を捕らえることができなかった。 それから一年以上が経過した頃、当時の捜査を指揮したホッジスは警察を退職し、妻と娘が出て行った自宅で、一人寂しく、拳銃を口にくわえることを夢想するような日々を送っていた。ところがある日、メルセデス・キラーを名乗る人物から捜査の失敗を嘲笑し、ホッジスを負け犬とののしる手紙が届けられた。この手紙を契機に、ホッジスの刑事魂が蘇り、警察とは別に、単独で犯人を追い始めることになった・・・。 退職した警官とサイコキラーとの攻防という、よくあるパターンというか、あえてオーソドックスなハードボイルドの構成を取りながらまったく飽きさせないところは、さすがに希代のストーリーテラーである。さらに、犯人のキャラクター設定、ホッジスを助ける、ハーバードをめざしている黒人青年ジェローム、精神的に不安定な中年女性ホリーという助演者も効果的で、サイコもの、警察もの、私立探偵ものとして楽しめる。 本作は、ホッジス、ジェローム、ホリーのトリオが登場する三部作の第一部で、残りの二作もすでに刊行済みとのことで翻訳が待ち遠しい。 実は、ホラー嫌いなので、キング作品は初めて読んだのだが、これは多くのミステリーファンに自信を持ってオススメできる。 |
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今や北欧を代表するミステリー作家となったジョー・ネスボの新作。オスロを舞台にした警察小説であるが、ハリー・ホーレ・シリーズ外の単発作品である。
尊敬していた警察官の父親が「自分は汚職警官である」と書き置きして自殺し、ショックを受けた母親も後を追うように亡くなってから息子・サニーは麻薬に溺れ、今は刑務所に収監されていた。刑務所では誰とも争わず、静かに囚人仲間の聴罪司祭のような役割りを果たしていたのだが、ある囚人からサニーの父は殺されたという秘密を聞き、刑務所を脱獄して、次々と敵を殺していく凄絶な復讐劇を開始した。 一方、サニーの父と仲の良い同僚だったケーファス警部は定年を目前にした殺人課の警部で、愛する妻が失明の危機にさらされており、その手術費用を工面するのに苦慮する日々を送っていたが、刑務所付き牧師の殺害事件を捜査しているうちに、連続して起きた殺人事件の裏にはサニーの復讐劇があることに気がついた。 本作は、一人の若者が犯罪組織や富豪を相手に復讐を果たすサスペンスアクションであり、頑固者のベテラン刑事が一匹狼的に捜査を進める警察小説であり、父と子、仲間たちの愛憎の物語でもある。いくつものストーリーが重なり合い、見事な伏線の回収があり、意表をつくどんでん返しがあり、最後まで楽しめる上出来のエンターテイメントである。 ノンシリーズなので、ジョー・ネスボは初めてという読者にもオススメだ。 |
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ブラジルの女性作家の本邦初訳作品。なぜかドイツミステリ大賞の翻訳作品部門で一位に選ばれたという異色のミステリーである。
ボリビアとの国境の田舎町でしょぼくれた生活を送っていた「俺」は、釣りに出かけたパラグアイ川で自家用飛行機の墜落に遭遇し、パイロットの青年を助けようとするが、青年は死んでしまった。機内にリュックサックと1キロほどのコカインを見つけた「俺」は、それを盗み出し、下宿先のインディオの男と組んでコカインを売りさばいて小金を稼いでいたのだが、欲を出したインディオの男に引っ張られてギャングと取引して失敗し、ギャングに借金の返済を迫られることになった。窮地に陥った「俺」は、警官でもある恋人を説得して、死体を使った詐欺を計画する・・・。 偶然見つけた墜落機から盗みを働いたことで人生が大きく狂ってくるというのは、かつてのベストセラー「シンプル・プラン」などでもおなじみの設定だが、さすがブラジルのミステリーだけあって、結末の付け方が意表をつく。良くも悪くも人間的というか、すべてに泥臭いのである。 スリルj、サスペンス、アクションや謎解きより、犯罪者心理が中心の作品を好む方にオススメだ。 |
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オーストラリアのベストセラー作家の本邦初訳。「誰が、誰を殺したのか?」を解いて行く、ユニークなエンターテイメント作品である。
シドニー近郊の幼稚園での資金集めのパーティー会場で騒動が起き、父兄の一人が死亡した。この事件の被害者、犯人は誰か? 動機は? 騒動の背景には、6ヶ月前の子供同士のトラブルが原因で、幼稚園ママの派閥間の対立が激化したことがあった。さらに、それぞれの家庭には表に出せない秘密があり、ストレスにさらされ続けてきたママたちが、パーティーで出された強力なカクテルの影響もあって一気に爆発したのだった。 冒頭に殺人事件が起きたことがほのめかされ、背景となったトラブルから事件当時までの出来事が主要登場人物の視点で徐々に明らかにされ、さらに所々で関係者の証言が挿入されるのだが、最後の最後まで、犯人も被害者も秘密のままという、なかなかに意地の悪い構成で読者をぐいぐい引き込んで行く。さらに、人物のキャラクター、細かなエピソードがリアルかつユーモラスで飽きさせない。世界的なベストセラーを記録したというのも納得の面白さである。 ホームドラマに隠された暗い秘密系のミステリーが好きな方には絶対のオススメだ。 |
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「運命の日」、「夜に生きる」に続く三部作(アメリカでは「コグリン・シリーズ」と呼ばれているらしい)の完結編。一作目の「運命の日」とはほとんど関連が無いが、前作「夜に生きる」の続編である。
前作から約10年が経過した、第二次世界大戦時のフロリダ州タンパでギャングファミリーの実権を親友のディオンに譲り、自らは顧問として裏稼業からは距離を置き、表のビジネスでも成功し、9歳の息子の良き父として生活していたジョー・コグリンだが、彼の命を狙う計画が進められているという噂を耳にする。自分のファミリーだけでなく、全米の同業者に利益をもたらしているはずのジョーが、なぜ狙われるのか? 根拠の無い噂と否定しつつも、ジョーは疑心暗鬼に陥っていく。時を同じくして、平穏だったタンパの街でジョーのファミリーと、友好的だった黒人ギャングとの間で抗争が勃発。ジョーは個人の問題だけでなく、組織の問題でも頭を悩ますことになった。 時代とともに変わってゆくファミリーの論理や人間関係に戸惑いながらも、持ち前の知恵と度胸で難局を乗り切ろうとするジョーの非情で孤独な戦いが、本書のメインテーマ。血で血を洗う暴力シーンに直面しながらも「善き父親」であろうとするジョーの息子への思いが、主要なサブテーマとなっている。その部分が前作と違い、ノワール小説でありながらハードボイルドのテイストが強く感じられる。 三部作ではあるが、「夜に生きる」を読んでいれば、「運命の日」が未読でも十分に理解できるだろう。サスペンス、ノワールのファンはもちろん、「父と息子」系のハードボイルドが好きな方には絶対のオススメだ。 |
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ドイツのベテラン脚本家の長編ミステリーデビュー作。ドイツ推理作家協会の新人賞を受賞した他、世界25カ国で出版され、映画化権も売れたというのも納得できる良質なエンターテイメント作品である。
ベストセラー作家のヘンリーには、妻マルタとだけ共有している重大な秘密があった。実は、ヘンリー名義で書かれた作品はすべてマルタが執筆したものであり、ヘンリーはひと文字たりとも書いたことは無かった。外見が良く、社交性に優れたヘンリーと内向的で独自の世界を生きているマルタは、お互いにその状態に満足し、穏やかに愛し合って生活していた。 新作長編小説が完成間近となったある日、ヘンリーは愛人関係にある編集者ベティから妊娠を告げられる。最初は妻に真実を告げて別れてもらおうと考えたヘンリーだったが気が変わり、ベティとの関係を清算しようと考えるようになる。そして、ベティーとの待ち合わせ場所で崖の縁に停まっているベティの車を見たとき、ヘンリーの中で眠っていた悪魔が目を覚ました・・・。 犯罪者となったヘンリーは、あるときは罪を告白しようとし、またあるときは罪を隠蔽しようとし、真実と嘘、嘘と真実の境界が溶けあう世界に暮らすようになる。同時に読者も、ヘンリーが語る嘘と真実のどちらを信じれば良いのか迷うことになる。 ヘンリーの犯罪は暴かれるのか、どう証明されるのかというストーリ展開の面白さに加え、主人公のヘンリーをはじめ登場人物が全員と言っていいほど個性的で、非常にドラマチックな物語に仕上がっている。幅広いミステリーファンに安心してオススメできる秀作だ。 |
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フランスの人気ミステリー作家による、アルゼンチン現代史の暗部をテーマにした強烈な怒りと復讐の物語。全編に渡って作者の激しい憤りが伝わってくる、熱気ある作品である。
主人公は、かつて軍事独裁政権下で父と妹を逮捕・拷問・殺害され、自身も逮捕・拷問された経験を持ち、現在では軍事政権下で行方不明になった人々の捜索をしている私立探偵のルペンと、スペイン人に迫害されたマプチェ族の血を引くインディオの彫刻家ジャナの二人。ある日、ジャナは親友である女装家のパウラから「友人のルスと連絡が取れなくなった」と相談され、探しているうちにルスが惨殺されているのを発見した。オカマやインディオの事件には冷淡な警察に業を煮やしたジャナは、ルペンに調査を依頼する。自分の専門外であるとして気乗りのしなかったルペンだが、自ら調査中の事件との関連が見つかり、またジャナの心の奥に存在する深い怒りと悲しみに共感したことから、二人は協力して二つの事件の真相を究明しようとする。 これまで軍事独裁政権下で暴虐の限りを尽くした軍人、政治家、経済人、キリスト教関係者が今なお隠然たる勢力を誇っているアルゼンチンでは、過去の罪を暴こうとする者には容赦ない暴力が加えられ、命の危険にさらされる。それでもなお、ルペンとジャナは怒りをパワーに変え、巨大な敵に立ち向かって行った・・・。 ストーリーのあちらこちらから、アルゼンチンを始めとする南米の軍事独裁政権に対する作者の怒りがほとばしり、また全編を覆う暴力の凄まじさに顔色を失い、さらに650ページというボリュウムにも圧倒され、読み通すには体力・気力が要求される。それでも、読む価値がある傑作であることは間違いない。 アクション系、社会派系、サスペンス系ミステリーファンには、自信を持ってオススメだ。 |
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フィンランドの傑作ミステリー「カリ・ヴァーラ」シリーズの第4弾。作者の急逝によりシリーズ最終作となった本作は、前作よりさらに暴力的で、完全にノワール小説の世界に入っている。
前作の事件での負傷が原因で体がガタガタになった上に、愛妻ケイトがPTSDで家を飛び出し、家庭も崩壊状態になったカリ。不自由な体で娘アヌの世話に孤軍奮闘していたのだが、何者かにカリのみならず家族の安全まで脅迫されたため、追い詰められたカリはミロ、スイートネス、ミルヤミ、イェンナの助けを求めて対抗することになった。そんな中、エストニア人の女性から売春組織にさらわれた娘を助けて欲しいと依頼される。家族と自分の命を守るため、正義を実行してケイトとの関係を修復するため、カリと仲間は強大な敵に全身でぶつかって行くことになった。 ほとんど半身不随状態で杖を手放せないにも関わらず、アルコールと鎮痛剤でごまかしながら動き回るカリを支えるのが、これまたアルコール依存のスイートネスと薬物依存のミロなので、全編、アルコールと薬が切れることが無い。さらに前作以上に法規を無視した暴力で問題を解決して行く強引さ。貫かれているのはカリ自身の正義感なのだが、その行動は完全に警察活動の域を脱しており、ノワールの世界というしか無い。 シリーズ読者には必読。先に「解説」を読んでから本編を読めば十分にストーリーを追えるので、シリーズ未読のノワールファンにもオススメだ。 |
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今、円熟期を迎えているといって差し支えないであろう巨匠・ウィンズロウの新作ミステリー。事件捜査の面白さ、主人公のキャラクター、サスペンスフルな構成など、すべてに一級品のエンターテイメント作品である。
ネブラスカの田舎町の刑事・デッカーは、5歳の女の子・ヘイリーの失踪事件を担当する。誘拐された子どもは時間が経つにつれて生きて発見される可能性が低くなるめ、必死で探しまわるのだが、時間が経つにつれ周りは遺体の発見と犯人逮捕を重視するようになり、あくまで少女の発見にこだわるデッカーは周囲から浮き上がってしまう。そんな中、第二の少女誘拐が発生し、被害者は遺体で発見された。事件の責任を感じ、また警察の捜査方針に納得がいかないデッカーは、刑事を退職し、単独でヘイリーを探し始める。 雲をつかむような情報を頼りに全米を走り回ること一年、ニューヨークに近いある田舎町のガソリンスタンドでの目撃情報から、事件の鍵を握ると思われる二組の人物を発見し、あらゆる手段を使って事件の真相に迫ってゆく・・・。 前半は、中西部の田舎の素朴で濃密な人間関係に及ぼす事件の波紋、デッカー刑事のキャラクター設定が中心で、後半は一転して、大都会ニューヨークの金と権力が生み出す醜悪な人間関係を中心に物語が展開する。その間、一貫しているのがデッカーの単純明快な正義感(作中の表現を用いれば「昔かたぎ」)であり、最後の解決方法もシンプルすぎるほどの勧善懲悪で、読者を安心させる。 ストーリーも文章もすっきりして読みやすく、誘拐された少女が生きたまま発見されるかどうかのサスペンスも効果的で、多くのミステリーファンに安心してオススメできる。 |
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2012年に発表された、遅咲きのベテラン作家レフラーのデビュー作。極めて完成度が高い、プロファイラーものの警察ミステリーである。
ケルンで猟奇的な連続殺人が発生。被害者は全員、内臓や体の一部が失われていたため「解体屋」事件と名付けられた。ケルン警察の捜査を助けるため、変人ながら凄腕の事件分析官(プロファイラー)アーベルと、アーベルに分析手法を学びたいという女性分析官クリストが派遣された。プロファイリングに懐疑的な地元警察との衝突を繰り返しながらも、アーベルは犯人像を絞り込み、クリストは自分勝手なアーベルに反発を覚えながらも、その手腕を信頼するようになった。自らを「人形遣い」と名乗る犯人を追い詰め、逮捕にこぎ着けようとしたとき、警察内部のふとしたミスから事態は急展開を見せることになった。 「羊たちの沈黙」を読んで以来、ドイツが舞台のリアルなミステリーを書きたいと思っていたと作者が語っている通り、伝統的に刑事警察ミステリーが充実しているドイツ語圏で、新たに「プロファイリング」の分野を開拓した作品である。犯人追跡のミステリーとしての完成度が高く、それに二人の主人公の個性的なキャラが重なって、読み応えがある。本国ではシリーズ化され、いずれも好評だという。 サイコスリラー的な要素が色濃い作品だが、主眼はあくまでも事件分析(プロファイリング)にあるので、警察ものファンを始め、多くの方にオススメできる。 |
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オーストリアを代表するミステリー作家となったグルーバーの邦訳第三弾。ミュンヘンの女性刑事ザビーネとドイツ連邦刑事局の事件分析官(プロファイラー)スナイデルの二人を主人公とするシリーズの第一作である。
ミュンヘンでザビーネの母が誘拐され、教会のパイプオルガンに縛り付けられてインクを飲まされて溺死させられているのが発見された。しかも、容疑者として父親が逮捕された。犯人の手がかりを求めてザビーネは、アクセス権がない連邦刑事局のデータベースを覗こうとしたが失敗。さらに、身内が絡むことを理由に、ザビーネは事件捜査から外されることになった。そこでザビーネは、連邦から派遣された偏屈で嫌われ者の事件分析官スナイデルの捜査に無理矢理便乗することにした。 一方ウィーンでは、心理療法士ヘレンの下に切断された女性の指が届けられ、犯人から「あんたの知っている人物を誘拐した。48時間以内に誰を、何で誘拐したのかを答えなければ、その人物を殺す」という脅迫電話がかかってきた。なぜ自分が選ばれたのか、脅迫者は自分のクライアントなのか、ヘレンは必死で手掛かりを探し始めた・・・。 代表作「夏を殺す少女」と同じく、ドイツとオーストリアの事件が並行して進められ、やがては大きなひとつの流れに集約され、おぞましい連続殺人の謎が解明される。ウィーンの事件もユニークな仕掛けで読ませるのだが、本筋はザビーネとスナイデルの型破りな捜査に置かれている。 事件解明の謎解きだけでも十分に面白いのだが、本書の一番の読みどころは、スナイデルの変人ぶりだろう。スウェーデンが生んだ奇人プロファイラー・セバスチャンに匹敵するキャラクターの濃さで印象に残る。シリーズはすでに第4作目までが刊行、計画されているというので、更なる二人の活躍に期待したい。オススメです。 |
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