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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 301~320 16/27ページ

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No.238: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

今回はストーリーが最高

ボッシュ・シリーズとしては「ナイン・ドラゴンズ」に続く2011年の作品。前作とは違い、ホームグラウンドであるLAで事件捜査に活躍する本格的な警察小説である。
未解決事件班に戻ったボッシュは、新たな相棒になったチュー刑事と、DNA鑑定で有力な手がかりが見つかった20年以上前の強姦殺人事件を担当することになった。被害者の体に着いていた血痕が、ある性犯罪常習者のDNAと一致したという。ところが、その容疑者は当時8歳の少年だったのだ。なぜ、8歳の子どもの血液が成人女性である被害者の遺体に着いていたのか、本格的に捜査を始めようとしたとき、ボッシュたちは市警本部本部長から呼び出され、警察に影響力を持つ市議会議員の息子が高級ホテルから転落死した事件の捜査を命じられる。市議と警察上層部の両方からプレッシャーを受けたボッシュは、2つの事件を並行して捜査しようとするのだが、市議会と警察の政治的な駆け引きにも巻き込まれ、事態は複雑になるばかりだった。
厳しい状況にもめげず冷静に正義を貫こうとするハードボイルドな刑事・ボッシュが戻ってきた、警察小説の王道を行く作品である。派手なアクションは無く、緻密な推理と徹底した証拠固めで事件の真相に迫るボッシュには、一種の神々しさもある。ボッシュも派手に立ち回るには歳をとり過ぎたという理由もあるのかもしれないが、それでも女性関係では現役バリバリで、まだまだ活躍しそうである。
シリーズ読者には必読。本格派の警察小説ファン、ミステリーファンにもオススメできる。
転落の街(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー転落の街 についてのレビュー
No.237:
(8pt)

狂ひけん人の心(非ミステリー)

谷崎潤一郎の晩年を、三番目の妻の妹の視点から描いた私小説風の物語。作家という人種の業の深さを感じさせる作品である。
登場人物のキャラクターが明確で、ストーリー展開も波乱に富んでいて最後まで読み飽きることが無い。谷崎潤一郎に興味があろうと無かろうと関係なく楽しめる、一級品のエンターテイメント作品である。
デンジャラス
桐野夏生デンジャラス についてのレビュー
No.236:
(8pt)

死にとりつかれたヒロイン

ジュリア・ロバーツが惚れ込んで映画化を進めているという売り文句の作品。ヒロインが個性的で、ストーリーも面白いハードボイルドなサスペンスミステリーである。
従軍したイラク戦争のPTSDに悩まされている元ヘリパイロットのマヤは、二週間前に公園で富豪の御曹司である夫を目前で射殺された。しかも、4ヶ月前には姉のクレアも殺されていた。身辺に不安を覚えたマヤは、二歳の娘の安全のために親友の勧めで自宅に監視カメラを設置したのだが、そこに死んだはずの夫の姿が映っていた。さらに、姉を殺した銃と夫を殺した銃が同一であることを、警察から知らされた。警察には犯人と疑われ、監視カメラ映像で夫の姿を見たことをPTSDによる幻覚ではないかと指摘され、動揺し、混乱しながらもマヤは、夫と姉の殺人の真実を探ろうと奮闘する。その調査はやがて、イラクでの自分の行動が巻き起こした波紋、17年前の夫の高校時代の出来事にまで遡っていった。
まず第一に、イラク戦争のPTSDに悩む女性兵士という設定がユニーク。戦争の後遺症に悩む男性主人公は数多くいるが、女性というのは珍しい。しかも、この女性が精神的にも肉体的にもタフで、行動力があり、感情を動かされることがほとんどないという、まさに現代ハードボイルドの王道である。また、事件の謎解きもきちんとしており、複雑な伏線の回収も見事。様々なエピソードやストーリー展開も映像的で、ジュリア・ロバーツが活躍するシーンが目に浮かんでくる。
ハードボイルドファン、サスペンスミステリーファンには、絶対のオススメだ。
偽りの銃弾 (小学館文庫)
ハーラン・コーベン偽りの銃弾 についてのレビュー
No.235:
(8pt)

北の大地の女たち(非ミステリー)

桜木紫乃のデビュー作「雪虫」を始め、6作品を収録した短編集。どれもさびしく、悲しく、それでも温もりを感じる男と女の物語である。
全作品が、作者のホームグラウンド北海道を舞台に展開される男と女の物語ばかりだが、どれも物語の軸になっているのは女の生き方である。まさに桜木紫乃の原点が見える作品集といえる。
桜木紫乃ファンには必読。生きることの苦さを否定しない方にもオススメだ。
氷平線 (文春文庫)
桜木紫乃氷平線 についてのレビュー
No.234:
(8pt)

不惑は揺れる(非ミステリー)

40代の中間管理職を主人公にした5作品の短編集。不惑と言われる年代の男たちの迷いと戸惑いをユーモラスに描いた、良質なエンターテイメント作品である。
恋に、仕事に、家族に、友情に揺れ動き、時に暴走し、時に立ち止まる。男たちの馬鹿さと可愛さが真に迫って、思わず苦笑してしまう。
老若男女を問わず、オススメだ。
マドンナ (講談社文庫)
奥田英朗マドンナ についてのレビュー
No.233:
(8pt)

悲しくて強い女たち(非ミステリー)

厳しい北海道の自然や社会状況に押しつぶされそうになりながら、それでも生き延びて行く悲しい女(と、それに関係する男)を描いた、短編集。7つの作品すべてに共通するのが「過ぎちゃえば、いろんなことがどうでも良くなる」という女の悲しさと強さである。
人生に生きづらさを感じたとき、「あなただけではないよ」と言ってくれるような作品集である。
誰もいない夜に咲く (角川文庫)
桜木紫乃誰もいない夜に咲く についてのレビュー
No.232: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

まさに「英国本格派」ミステリー

イギリス本格ミステリーの正統な後継者として人気が高まっている「フィリップ・ドライデン」シリーズの第4作。緻密な構成の謎解きが楽しめる、本格派ミステリー作品である。
歴史的な寒波に見舞われたイングランド東部の街の公営アパートで、すべての窓を開け放った状態で住人の男・デクランが凍死しているのが見つかった。閉所恐怖症で室内の扉を全部取り払っていたというデクランは、飲酒癖があり、過去に自殺を図ったことがあったことから警察は自殺と判断した。しかし、部屋のコイン式電気メーターに硬貨がたっぷり補充されていたことから自殺説に疑問を抱いたドライデンが調査を始めると、デクランの親友も奇妙な事故死にあっていた。さらに、二つの事件の関係者は、ある過去の出来事でつながっていたことが判明。その謎の解明は、ドライデン自身をも巻き込み、思いもよらない展開を見せるのだった。
伏線の張り方、読者をミスリードするエピソードの入れ方、謎が謎を呼ぶ展開の膨らませ方など、まさに英国本格派の真骨頂。しかも、現代的な社会問題を背景に置くことで、古臭さを感じさせないのも見事である。
シリーズの4作目だが、本作から読み始めても何の問題もない。英国本格派ファン、謎解きミステリーファンには絶対のオススメだ。
凍った夏 (創元推理文庫)
ジム・ケリー凍った夏 についてのレビュー
No.231:
(8pt)

死刑は正義なのか?

スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビによる「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第3作。日本では2011年に刊行され絶版になっていたのが2018年に再文庫化された作品である。グレーンス警部のチームによる捜査より死刑制度に焦点を当てた社会派ミステリーである。
スウェーデンで暮らすカナダ国籍の男が暴力事件で逮捕された。ところが捜査を進めると、ジョン・シュワルツと名乗るこの男のパスポートは偽造されたものだった。しかも、6年前にオハイオ州の獄中で死んだアメリカ人死刑囚であることを示す証拠が出てきた。もし、死を偽装して逃走した死刑囚であれば、アメリカ政府は引き渡しを要求し、死刑を実行するだろう。だが、EUの一国であるスウェーデンは死刑を廃止しており、死刑制度がある国への死刑囚の送還は禁止されている。とは言え、アメリカと良好な関係を維持したいスウェーデン政府は、引き渡しを拒めるだろうか? 死刑制度に反対のグレーンス警部たちは、あの手この手で送還を阻止しようとするのだが・・・。
事件捜査自体は単純で、グレーンス警部らは捜査より政治的な駆け引きに奮闘する。一方、ジョン・シュワルツの地元、オハイオ州の田舎町では被害者の父親を筆頭に死刑の実行を求める声が高まり、ジョンの引き渡しと死刑の実行は当然のことと思われている。このアメリカとスウェーデンの意識の違いが、物語を面白くしている。死刑制度が当然と捉えられている日本では、アメリカに近い世論が形成されるのだろうが、そこに小石を投げ入れるぐらいの波紋は起こしそうな問題提起を含んだ作品である。
警察小説としても合格点レベルに達しているし、シリーズ作品ならではのメンバーたちの様々な変化も興味深い。シリーズ愛好者には必読。社会派ミステリーファンにもオススメだ。
死刑囚 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド死刑囚 についてのレビュー
No.230:
(8pt)

老いることは無敵になること?

「犯罪は老人のたしなみ」に続く、スウェーデンの老人犯罪集団シリーズの第二作。今回も、奇想天外でユーモラスなノワールが楽しめる。
前作でラスベガスに逃げた老人たちだったが、ギャンブル生活にも飽き、里心がついてスウェーデンに帰ることにした。しかし、犯罪の動機だったスウェーデンの福祉への支援の資金が足りていないことから、帰国前のひと仕事としてカジノから大金を奪いとった。ところが、帰国してみると、ネット送金したはずの資金は途中で盗まれ、福祉施設に届いていないことが判明した。ガックリきた老人たちだったが気を取り直し、新たに5億クローナという大金を調達する犯罪計画を立て、よたよたと実行に移すのだった・・・。
今回もまた、行き当たりばったりの計画とボケ扱いを逆手に取った悪知恵で、様々な危機を乗り越えていく老人たちのたくましさが秀逸。犯罪が成功するのか失敗するのか、読者はハラハラドキドキさせられ、最後には安堵する。まあ、警察を始めとする捜査陣や周辺の人々が老人たち以上にボケているというか、老人を見くびることのしっぺ返しを受けるというお約束の展開が、安定した面白さをもたらしている。
シリーズ読者には、絶対のオススメ。シリーズ未読の方は、ぜひ第一作から読むことをオススメする。
老人犯罪団の逆襲 (創元推理文庫)
No.229:
(8pt)

ローセを救え!

デンマークを代表する警察小説「特捜部Q」シリーズの第7作。期待通りの高レベルな社会派ミステリーである。
今回も、特捜部Qは未解決事件に取り組むのだが、それは最近起きた老女殺害事件と類似しており、老女殺害を捜査している殺人捜査課と対立することになる。しかも、前回の事件から続くローセの精神的な不調が深刻化し、チームは重苦しい雰囲気に包まれ、四苦八苦していた。それでも粘り強く捜査を続けたチームは、2つの事件が、失業中の若い女性を狙ったと思われる連続ひき逃げ事件とも関連していることを突き止める。ローセという貴重な戦力を欠いたチームに3つもの難事件はとてつもない重荷だったのだが、不可能を可能にする特捜部Qはけっして諦めなかった・・・。
本作のメインストーリーは、社会福祉制度に寄生する「ずるい人間」と、それが許せなくて過激なリンチに走ろうとする「独善的な正義の人」の物語である。福祉制度が充実すればするほど、楽して甘い汁を吸おうという人間が出て来るのは、国民性や民族性に関わり無く、世界中で起きること。そういう矛盾を包み込んで成り立つ社会であり続けられるのかどうかが、民主主義の定着度を測る尺度と言える。それについては、独善的な正義の人として、ソーシャルワーカーとともに、デンマークに逃亡したナチス高官が描かれているところに、作者の考えが読み取れる。
シリーズ読者にとっては、メインストーリー以上に気になるのが、ローセの落ち込み具合で、カール、アサド、ゴードンと一緒に、ローセを救い出すために何ができるのか、最後までハラハラドキドキである。ローセの置かれた状況を理解しておくためにも、シリーズの順番に読み進めることをオススメする。

特捜部Q―自撮りする女たち─ 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.228: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

お見事! 構成の上手さが抜群

アメリカの新進作家の長編第二作。いわゆる「交換殺人」ものかと思わせておいて、どんどん違う方向に引っ張って行く、パワフルなサイコミステリーである。
ロンドンの空港でボストン行きの便を待っていたアメリカ人のIT長者テッドは、バーで隣り合わせた若い女性リリーに声をかけられた。旅先の気軽さと多少の飲み過ぎで口が軽くなったテッドは、一週間前に妻ミランダの浮気を知り、殺してやりたいと思っていると口走ってしまう。するとリリーは、ミランダは殺されても当然だと言い、テッドに協力すると言い出した。ボストンで殺人計画を練った二人が計画を実行しようとしたとき、思いがけない事態が発生し、事態は急展開することになった。果たして、二人の計画は成功するのだろうか?
殺人計画の立案、実行、後日談という三部構成で、ミランダに対する計画殺人がメインストーリー、主犯となるリリーの過去の犯罪がサブストーリーで展開される物語は、最初から最後までスリリング。第一部ではテッドとリリー、第二部ではミランダとリリー、第三部では刑事とリリーのそれぞれの視点で構成される章が入れ替わるごとに、物語の様相が変化し、サスペンスが高まって行く。ディーヴァーのようなどんでん返しではないが、想定外の連続、意表をつく展開で、全編、緩むこと無く楽しめる。
好みのジャンルを問わず、多くのミステリーファンにオススメしたい。

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)
No.227: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

時空の歪みを浮遊するような楽しさ

2002年から2004年にかけて雑誌に掲載された5作品で構成された短編集。5作品は、主な登場人物は共通するものの時代設定や主役が異なっていて、「短編集のふりをした長編小説」(著者の言)である。
主要登場人物の3人が出会う一作目の「バンク」は、軽妙な展開を見せる銀行強盗小説。二作目と四作目は、家裁調査官の世界を舞台にした、今風の少年たちの風俗と大人の対応の話。三作目と五作目は、盲目の若者がアームチェアディテクティブとなる、軽めのミステリー作品である。
全体を通してテーマやストーリーの展開や移動がスピーディーで、ふわふわとダマされながら浮遊しているうちに物語を読みこむ快感に浸っているという、とらえどころが無くて面白い作品ばかりで、改めて伊坂幸太郎の技に酔わされた。
軽快な短編集が好きな方、ミラーボールがきらめくようなお話の世界が好きな方にオススメだ。
チルドレン (講談社文庫)
伊坂幸太郎チルドレン についてのレビュー
No.226:
(8pt)

国境の町の女の強さと脆さ

雑誌連載を元に単行本化された長編小説。道東の町に育ち、恋をし、生き抜こうとする女の生き方を描いた、ちょっとハードボイルドなエンターテイメント作品である。
戦後の匂いが強く残る昭和35年の根室。地元の老舗水産会社の三姉妹の次女に生まれながら、親に反抗して芸者になった珠生は、常連客の運転手を務める相羽に心を惹かれ、相羽が主人の罪をかぶって服役し、娑婆に戻ったところで一緒になる。主人から独立した相羽は、地元の裏社会を仕切る大物へと成り上がり、珠生の姉が嫁いだ運輸会社の長男と組んで、彼を代議士にするために裏の仕事を引受けていた。男たちの世界には口を出せない珠生は、口数が少なく、感情の動きを見せない相羽に心を乱しながら、ヤクザの姐さんの役割りを果たしていた。運輸会社の男は選挙で当選するのだが、選挙資金として汚い金を集めていた相羽には、密かに危険が迫っていた・・・。
お嬢様育ちながら芸者になった珠生が悩み、傷付きながら自分の生き方を貫いてゆく物語という、従来の作者のテーマの範囲内の作品である。ただ、住む場所が花街やヤクザの世界というのが新鮮で、従来の作品のようなひたすら重いだけのテイストではない。本作のセールストークにあるように、「極道の妻」的な面白さがあって、本格的なミステリーではないが、ミステリー要素を含んだエンターテイメントとして十分に楽しめる。
桜木紫乃ファンはもちろん、これまでの桜木作品が重苦しくて苦手だったファンにもオススメだ。
霧 (小学館文庫 さ 13-3)
桜木紫乃霧 ウラル についてのレビュー
No.225:
(8pt)

愚かで無様で不器用な男と女(非ミステリー)

2007年から10年に雑誌連載された長編小説。東日本大震災の前に崩壊しつつあった日本の地方の閉塞感をじっくり描いた、社会派エンターテイメント作品である。
大正時代に農業中心の理想郷を求めて建設され、現在では日本の繁栄から取り残されている東北地方の寒村を舞台に、不器用な生き方しかできない愚かな男と女の破滅的な戦いが展開される。その背景として、平成時代になって高齢化、過疎化、農業の衰退などで疲弊しきった農村社会の息苦しさが見事に喝破されている。この救いの無さは桐野夏生ワールドであるとともに、日本の社会の閉塞感の表れでもある。
ミステリーではなく、社会派作品としてオススメする。
ポリティコン 上
桐野夏生ポリティコン についてのレビュー
No.224:
(8pt)

14歳のままでいられたら・・・

2017年に発表された書き下ろし長編小説。連続殺人から物語は始まるのだが、ストーリーの中心は、13歳から14歳へ、子どもから大人に変わりゆく3人の中学生たちの喜びと悩みの物語である。だからといって、分かりやすい成長物語という訳ではない。
1980年代の台北市、義兄弟の契りを立てた3人組は、それぞれの家庭に問題を抱えながらも自由奔放に、けなげに、猥雑な町の悪ガキとして育っていた。ある日、いつも仲間の一人を痛め付ける継父を殺す計画を立て、密かに準備を進めていたのだが、その計画は想いもよらない結果を招き、14歳の少年たちは厳しい現実に向き合わざるを得なくなる。その30年後、アメリカで少年6人を殺害して逮捕されたサックマンと呼ばれる男は、三人のうちの一人だった。もう一人の仲間から頼まれてサックマンの弁護士となった「わたし」は、サックマンとともに自分たちの過去も振り返り、サックマンの犯行の動機を探ろうとする。30年後の悲惨な結果が、なぜ生まれたのか? その芽は14歳のときにすでに芽生えていたのだろうか? 永遠に解明できそうにない謎に挑んだミステリーである。
作者が得意な80年代の台湾が舞台になるだけに、登場人物たちがみな生き生きと行動し、ダイナミックなストリー展開が楽しい。連続殺人事件ものというより青春アクション小説である。ただ、サックマンがサックマンになる背景には非常に重いものがあり、軽く読み流せる作品ではない。
硬派というか、社会性が強い青春小説が好きな方にオススメだ。
僕が殺した人と僕を殺した人
東山彰良僕が殺した人と僕を殺した人 についてのレビュー
No.223: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

グダグダが面白い

2017年に発表された書き下ろし長編小説。あとがきにあるように「人質立てこもりものの決定版のはずが、硬派な犯罪小説には近づくことができなかった」という、どちらかと言えばユーモラスなミステリー作品である。
誘拐をビジネスとする組織の末端にいる兎田が人質立てこもり事件を起こしたのは、愛する妻を人質に取られ、組織の金を持ち逃げしたコンサルタントの折尾を探し出すように命令されたのがきっかけだった。様々な行き違いから、関係のない一家三人を人質に取ってろう城することになった兎田は、組織に設定された時刻が刻々と迫り、焦りの色を濃くしていた。そこに、現場を取り巻く警察、何やら曰くありげな人質の奇妙な言動が重なって、事態は収拾がつかなくなってきた。犯人・兎田は愛する妻を取り戻せるのか? 緊張と笑いに包まれて、事件は想定外の様相を呈するのだった・・・。
話の展開には、かなりの無理があり、スリルやサスペンスとは無縁のどんでん返しがあって、あとがきが言うように、正統派の犯罪ミステリーではない。ちょっとおしゃれなユーモアミステリーである。犯行の動機や犯罪の様相、解決までのストーリーを追うより、場面ごとの著者の技巧を楽しむ作品と言える。
伊坂幸太郎ワールドになじめる人にはオススメだ。
ホワイトラビット
伊坂幸太郎ホワイトラビット についてのレビュー
No.222:
(8pt)

もはや、様式美の世界

「沢崎イズバック!」と興奮し、狂喜乱舞する読者も多いだろう。14年ぶりになる、探偵・沢崎シリーズの新作長編小説である。
多くの読者の期待を裏切らない、まさに沢崎シリーズの作品である。ただ、それ以上のものではない。決して出来が悪い訳ではないが、想像を超えるような興奮は得られない。とてもいい意味でのマンネリというか、古典落語の名人芸を聞いているような良質な満足感が得られることは間違いない。今どき、これほどチャンドラーの世界を受け継いでいる作品は珍しい。
ストーリー展開の意外性、スリルやサスペンス、アクションなどは関係ない。ただひたすら、沢崎のセリフの滋味を味わってもらいたい。
沢崎シリーズのファン、古典的ハードボイルドのファンにはオススメしたい。
それまでの明日
原尞それまでの明日 についてのレビュー
No.221: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

技巧が冴える、小咄集

2011年から16年にかけて雑誌に掲載された作品9点を集めた短編集。それぞれ独立した話だが、舞台設定や動機などで、日本人らしさという共通点があると言えば言えなくはない微妙なつながりで作品集として成立しているエンターテイメント作品である。
一つ一つの作品ごとに、きちんとした伏線と回収があり、しかも絶妙のオチが待っているという、読んでいて楽しい作品ばかり。今さらながら、東野圭吾のストーリーテラーとしての才能に感服した。
軽いミステリー作品のファン、ミステリーの初心者はもちろん、本格的なミステリーファンでも息抜き的に楽しめる、優れた作品集である。
素敵な日本人 東野圭吾短編集
東野圭吾素敵な日本人 東野圭吾短編集 についてのレビュー
No.220:
(8pt)

必要悪を、いつまで認めるのか?(非ミステリー)

2010年、吉川英治文学新人賞の受賞作。土木建設業界の談合の不可解さ、面白さをテーマにした企業エンターテイメント作品である。
中堅ゼネコンの若手社員の目を通して、政財界が一体となった土木事業の談合をリアリスティックに、しかも面白く描いている。企業や業界の論理で理不尽なことを矯正されたとき、いちサラリーマンは何を考え、何ができるのか。業界全体のことを考え、自分の会社のことを考え、自分の生き方を考えて苦悩する平社員の葛藤がリアルに伝わってくる。
物語のメインである談合の裏表は非常に緻密に、迫真的に描かれていて迫力がある。一方、サイドストーリーである主人公の恋愛、家族との関係などはかなり類型的でやや迫力不足。自由競争と談合という不正義を必要悪として認めてきた社会が変わる可能性はあるのか? その一点に絞った企業小説として読めば、非常に良くできた作品である。

鉄の骨 (講談社文庫)
池井戸潤鉄の骨 についてのレビュー
No.219: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

最後は「やられた!」

2017年、ニューヨークタイムズのトップを何週間か獲得し、映画化も決まったというベストセラー作品。登場人物は不気味だが、読後感はスッキリの都会派ミステリーである。
高名なミニマリストの建築家エドワードが建てた家は、最新テクノロジーを結集した美しい建物だったが、完璧主義者であるエドワードの目にかなった人物しか入居できず、しかも極めて厳格な規則があった。シングルマザーになるはずだったのが出産時に赤ちゃんを喪ってしまったジェーンは、その痛手を癒すべく引っ越しを計画し、エドワードの面接にパスして、この家に暮らし始めた。ある日、玄関に花が置かれていたことから、以前の入居者であるエマがこの家で亡くなったことを知り、その詳細に興味を持った。それと同時に、エドワードとの付き合いが始まり、ジェーンはエドワードにどんどん惹かれていくのだった。一方、過去の入居者であるエマも入居してからエドワードと付き合い始め、当時の恋人を捨ててエドワードになびいて行ったのだが、エドワードの妻と息子が事故死したことを知り、事故の真相を探ろうとする。
つまり、ジェーンはエマのことを、エマはエドワードの妻のことを通して、エドワードの秘密を知ろうとするというのが大きな流れで、さらに、エマは強盗にあって強姦されたという過去があり、ジェーンは健康な出産ができなかったことをトラウマとして抱えていて、それが二人の言動に大きく影響しているという、複雑な構成になっている。しかし、物語は、現在のジェーンの章と過去のエマの章が交互に出てきて、それぞれのエドワードに対する気持ちが揺れるのを丁寧に描写しているので、読み辛さはない。
そしてことの真相が明らかにされたとき、読者は「やられた!」という爽快なショックが味わえる。ミステリーとしての構成がしっかりしているし、サスペンスの盛り上がりもなかなかで、幅広いミステリーファンにオススメしたい。
冷たい家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
JP・ディレイニー冷たい家 についてのレビュー