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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数529件
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日本推理作家協会賞をはじめ、数々の読者ランキングで1位を獲得した、大型冒険小説。新人類の誕生というSF的なテーマながらリアリティを感じさせる、スケールが大きなエンターテイメント作品である。
イラクの民間軍事会社で働くアメリカ人傭兵と創薬を研究する日本人大学院生という、縁もゆかりも無さそうな二人が、ある難病を介してつながったとき、世界は人類史上最大の分岐点を迎えることになった。そこに、人類絶滅の危機を察知したアメリカ合衆国が介入し、事態は激しく動いて行く・・・。 物語の舞台はイラク、ワシントン、アフリカ大陸、東京とグローバルに広がり、事件の背景に潜んでいるのは人類絶滅の危機という壮大なテーマで、しかも傭兵と民兵との白兵戦や衛星を使った戦闘、アメリカ政府内部での権力闘争や情報戦など、アクションシーンも盛り沢山で、最初から最後まで飽きさせない。医学関連で難解な説明があるのが難点だが、そこは流して読んでも全く問題は無い。 アクション系のエンターテイメント、国際謀略系の作品が好きな読者には、絶対のオススメだ。 |
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リンカーン弁護士シリーズの第5作。法廷シーンの面白さは従来通りで、さらに謎解きミステリーの面白さがプラスされた傑作エンターテイメント作品である。
エスコートガール殺害容疑で逮捕された「デジタルぽん引き」ラコースから弁護を依頼されたハラーは、ラコースにハラーを教えたのが、かつて何度も窮地を救ってやった高級娼婦のグロリアで、しかも殺されたのがグロリアだったことを知り仰天する。依頼を引受けて調査を始めたハラーは、ラコースは罠にはめられただけで無罪だと確信し、真犯人を探し始めるのだが、それに気づいた犯人側から執拗な妨害を受け、命まで狙われることになる・・・。 真相解明までのプロセスは良くできた私立探偵ミステリーのようで、謎解きもアクションも楽しめる。さらに、いつも通りに二転三転する法廷シーンのスリリングさは秀逸。シリーズの中では一番の華やかな作品である。 「訳者あとがき」に「ひょっとするとシリーズ最後の作品か」とあり、同じような感想を持ったのだが、これまでとは違う路線への転換点なのかもしれないと、密かに期待してもいる。 シリーズ作ではあるが、本作だけでも十分に楽しめる作品であり、法廷もの、私立探偵ものファンには自信を持ってオススメしたい。 |
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2006年に発表された長編小説。サンディエゴを舞台に、引退したマフィアが「自分流の生き方」を貫くために闘う、老人が主役のクライム・アクション作品である。
かつては「マシーン」というあだ名を持っていた凄腕のマフィア、フランク・マシアーノは、62歳になる今はサンディエゴで「餌屋のフランク」と呼ばれ、釣り客相手の商売と魚の販売などのビジネスと、元妻、愛する一人娘、恋人との関係を大切に、平穏な日々を送っていた。ところがある日、マフィアのチンピラが自宅を訪れ、フランクに力を貸して欲しいという。嫌々ながら昔の義理から力を貸すことになったフランクだったのだが、話をつけに行ったところで襲撃され、殺されそうになる。その場は窮地を脱したフランクだったが、その後も執拗にマフィアから命を狙われるようになった。誰が、何の目的でフランクの命を狙うのか、思い当たる過去がいっぱいあるだけに相手を特定できず、フランクは徐々に追い詰められて行く・・・。 老サーファーにして元マフィアの凄腕、しかも商売上手という主人公の設定がかっこいい。「夜明けのパトロール」、「紳士の盟約」の主人公が歳をとったらこんな感じになるのか。空気はあくまで乾いているのだが、登場人物たちの言動は極めて生臭い。そんな中で「自分流の生き方」を貫き通すフランクは、まさにハードボイルド・ヒーローで、最後までかっこよさを失わない。 スカッとした読後感の作品を読みたい方には、絶対のオススメだ。 |
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「その女 アレックス」で爆発的人気を呼んだピエール・ルメートルの2010年(「その女 アレックス」の前年)の作品。リストラされて失業中の57歳の男が人生の一発逆転をかけて爆走する、疾風怒濤の長編サスペンスである。
中堅企業の人事部長の職をリストラされて4年目を迎えたアランは、再就職のエントリーを繰り返すものの57歳という年齢がネックとなり、最低賃金のバイトで食いつないでいたのだが、そのバイト先で上司と衝突しバイトさえ失ってしまった。八方ふさがりのアランだったが、なんと大企業の人事部副部長の候補に残り、最終試験を受けて欲しいという知らせが届き有頂天になる。ところが、その試験の内容は「就職先の企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問する」という異様なものだった。危機的状況での重役たちの対応能力と就職希望者の力量を同時に査定するというのが、企業側の狙いだと言う。あまりの無理難題に疑問を持ったアランだったが、背に腹は代えられず、この試験にすべてを賭けることにした・・・。 物語は「そのまえ」、「そのとき」、「そのあと」の3部構成で、面接試験まではアラン、試験当日は試験を設定した男、試験後はアランの視点から語られる。主人公は57歳の失業者というありきたりの設定なのだが、その置かれる状況が異様過ぎて読者は最初から最後まで翻弄されてしまう。ヴェルーヴェン警部シリーズのような残酷なシーンやサイコな描写は皆無だが、最後までスリルとサスペンスに満ちている。さらに、主人公の言動にはブラックなユーモアもあり、読後感もいい。 ノンシリーズ作品なので、ルメートル作品は未読の方にも自信を持ってオススメしたい。 |
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柴田錬三郎賞を受賞し、テレビドラマ化、映画化されて高い評価を得た長編小説。41歳の女性契約社員が、勤務する銀行から一億円もの巨額を横領したのは何故なのか? ミステリー部分は弱いものの、現代人の精神的な渇望を深く掘り下げた傑作エンターテイメント作品である。
裕福な家庭に育ち、平凡な結婚をし、子どもに恵まれなかったことからパートで勤め始めた銀行で真面目に勤務し、契約社員に抜擢された梅澤梨花が、ふとしたことから銀行の金に手を出し、やがては一億の巨額を横領し、タイに逃げ出すまでの転落の道が、周辺人物のストーリーを交えながらスリリングに描かれている。主人公の梨花を始め、彼女に関係する友人たちも「自分が自分でない」違和感を抱えており、その欠落を金(経済)で埋めようとする。特に梨花の場合は、精神的な飢餓を癒すはずだった恋愛も、いつしか金を与えることで自分の満足を得るという代償行為に変質してしまっていた。それを自覚したとき、梨花はもういちど逃げ出そうとする。 犯罪行為そのものや犯行が発覚するプロセスなどはさらりと描かれており、ノワール小説のスリルは無いが、金に縛られ、金に溺れる登場人物たちの姿には冷たい手で肌をなでられるような恐怖感がある。 犯罪小説ファンというより、宮部みゆき、奥田英朗などのファンにオススメだ。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第10作。私立探偵になったボッシュが連続殺人犯を追い詰める、サスペンスミステリーである。
自分が所有する釣り船の中で死亡した元FBI捜査官テリー・マッケイレブの死因について、彼の妻から調査を依頼されたボッシュは、友人のために調査を開始し、テリーがある事件に関心を持っていたことを知る。同じ頃、ラスベガス近郊の砂漠で男性ばかりの多数の死体が埋められている事件が発覚し、犯人「詩人」からのメッセージによって、左遷されていたFBI捜査官レイチェル・ウォリングが現地に呼び出された。紆余曲折を経た後、ボッシュとレイチェルの行く道が交差し、二人は力を合わせて連続殺人犯「詩人」の足どりを追跡することになる。狡智に長けた「詩人」に翻弄されながらも、二人は反発したり共感し合ったりを繰り返しながら「詩人」にじりじりと迫って行く。 話の始めの方から犯人は分かっており、ストーリーの中心は犯人とボッシュたちの知恵比べ、逃亡と追跡、反撃というサスペンス・アクションに主眼が置かれた派手なストーリー展開。しかも、ボッシュ、レイチェル、テリーという、コナリー作品の主役たちが揃い踏みするというサービス満点のエンターテイメント作品である。さらに、連続殺人犯「詩人」が驚異的な頭脳の持ち主で、「悪役が魅力的なほどサスペンスミステリーは面白い」というセオリーを再認識させられた。 ボッシュ・シリーズのファンには絶対のオススメ。単発で読んだサスペンスミステリーのファンも絶対に失望させない、傑作ミステリーである。 |
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スウェーデンを代表するベテラン作家だが、これまで日本では翻訳されておらず、本邦初訳という作品。脳梗塞で倒れ麻痺が残る元犯罪捜査局長官が、時効を過ぎた未解決事件を解決するという、骨太でスリリングな警察ミステリーである。
脳梗塞で入院した元長官ヨハンソンは、主治医である女性から「牧師だった父が、25年前の少女惨殺事件の犯人を知っているという懺悔を聞き、悩んでいた。犯人を見つけ出せないだろうか」という相談を受ける。だが、事件は数ヶ月前に時効を迎えており、公に捜査をすることはできなかった。そこでヨハンソンは、麻痺が残った体に不満を覚えながらも、信頼する元同僚、外見とは裏腹に頭が良い個人介護士、大金持ちの長兄から派遣されてきた頭脳も肉体も優秀な若者などの手を借り、鋭い推理力で犯人をあぶり出すのだった。そしてついに犯人を発見したのだが、時効の壁があって裁判にかけることはできなかった。そこで罪を償わせるためにヨハンソンが選択した手段は・・・。 老いた警官や探偵が主役という点では「もう年はとれない」などと同系列で、さらに法で裁けない罪をどう償わせるかという時効捜査もののテイストも加えられている。主人公をはじめ主要な人物のキャラクターがきちんと立ち上がっているし、ひたすら未解決事件の犯人を追うというストーリーも明確で、560ページを越える長編だがとても読みやすい。 本作はヨハンソンを主人公にしたシリーズの最終作とのこと。次は、シリーズの前作になるのか、他のシリーズになるのか、いずれにしても今後の翻訳が期待できる作家といえる。 北欧の警察ミステリーファン、老人が主人公のミステリーファンには絶対のオススメ。のみならず、事件捜査ものが好きな読者には自信を持ってオススメしたい。 |
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ハリー・ボッシュ・シリーズの第17作。定年延長制度での勤務も最後の年を迎えたボッシュが、これまでと一つも変わらぬ激しさで2つの難事件を解決して行く、傑作警察小説である。
ラテン系の若い女性刑事ソトとコンビを組むことになったボッシュが取り組むのは、10年前に銃撃されたときに体の中に残った銃弾が原因で死亡した、マリアッチ楽士・メルセドの事件である。検屍解剖で銃弾が取り出されたことから、再捜査が始まったのだった。事件で車椅子になったメルセドが市長選に利用された経緯もあり、捜査は政治的な案件として注目され、警察上層部や外部から様々なプレッシャーを受けた。 また、ソトは7歳のときに遭遇した火災事件にとらわれており、ひとりで密かに捜査を再開しようとするのだがボッシュに知られ、メルセドの事件と並行して捜査することになった。10年前、20年前の事件だけに物証はほとんどなく、事件関係者もバラバラになっており、捜査は難航するのだが、引退した元刑事の話からボッシュたちは新たな事件解明の糸口をつかむのだった・・・。 一見無関係な2つの未解決事件が思わぬところからつながって行くというのは、よくあるパターンだが、本作ではそれぞれの事件捜査が丁寧に描かれているので、ストーリー展開に無理がない。ただ、最後の真相判明が徹底的ではなかったのが、ちょっと物足りない。 定年延長も最後を迎えたボッシュだが、シリーズはまだ続いており、2018年には21作目が発表された。ボッシュは、まだまだ衰えそうにない。 シリーズ読者には必読。警察小説ファンにも自信を持ってオススメできる。 |
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ハリー・ボッシュシリーズとしては「転落の街」に続く、2012年の作品。ボッシュが原点に戻って「怒り」を燃やす、アメリカらしい警察小説の王道を行く作品である。
1992年のロス暴動時に射殺体で発見されたデンマーク人女性記者の事件は、ボッシュが担当したものの暴動の騒ぎにまぎれて満足な捜査が行えず、未解決のままになっていた。2012年、新たな事実が発見されたことから、未解決事件班のボッシュに再捜査の役割りが回ってきた。この事件をトラウマとして抱えてきたボッシュは精力的に捜査を進めるのだが、新任の上司の思惑によって捜査にブレーキをかけられる。それにもめげず、いつも通りボッシュは信じる道を突っ走って行き、やがてロス暴動の前年、湾岸戦争時にクウェートであった出来事が関係していることを発見する・・・。 前作はミステリーに徹して面白かったのだが、本作は未解決事件捜査と並行してボッシュ自身の心情の変化にも重点が置かれているため、スリルとサスペンスの点では、やや前作より劣っている。クライマックスの展開もややご都合主義だし。それでも「正義を求めるボッシュの怒り」が強力なエンジンとなり、物語はスリリングに展開して行く。 シリーズ読者には必読。アウトロー刑事の活躍が好きな警察ミステリーファンにもオススメだ。 |
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著者の第三長編である2010年の作品を加筆改訂した文庫版。変則的な恋愛小説かと思わせて実はノワールなミステリー小説である。
母の愛人であった歳の離れた男と結婚した幸田節子は、夫が交通事故で意識不明になったことから、平穏な日常が崩れ始めたのを感じるようになる。夫が事故にあった場所は母の家から近く、母と夫はまだ関係を続けていたのだろうか? また、趣味の短歌仲間の女性が実の娘を虐待しているのではないかと疑問を持ち、自分の育ってきた環境を思い出し、嫌な思いに囚われるようになる。さらに、節子は愛人である澤木に、幸田の前妻との間の娘探しを依頼したのだが、捜索の過程でさまざまな過去が浮かび上がってきた。沈着冷静、ときには冷血にも見える節子は壊れてしまいそうな心を抱えながらも、強靭な意志の力で苦境を乗り越え、最後まで自分の思いを貫徹する。 序章でいきなり主人公が焼死し、その半月ほど前から第1章が始まるという展開からしてミステリアス。歳の離れた夫婦、母と娘の確執、女同士の軋轢、腐れ縁のごとき愛人関係など、通俗的な泥沼恋愛小説かと思わせる道具立てながら、本筋はきちんとした犯罪小説である。さらに、主人公・節子のタフな態度が一本筋を通しており、ハードボイルドでサスペンスフルなミステリーに仕上がっている。 桜木紫乃ファンはもちろん、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメしたい。 |
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50代後半の日系人作家のデビュー作。2017年のシェイマス賞など3つの新人賞を受賞し、MWA、CWAの最優秀新人賞にもノミネートされたという傑作ハードボイルドミステリーである。
主人公の黒人青年アイゼイア・クィンターベイは、通称IQと呼ばれ、地域の黒人社会から様々な問題を持ち込まれる、便利屋的な無免許の私立探偵である。社会の役に立てばいいというスタンスで仕事をしていたIQだったが、世話をしている身体障害の少年のために大金が必要になり、高校時代の泥棒仲間であるドッドソンの口利きで、大物ラッパー・カルの仕事を請け負った。カルはある夜、自宅で巨大なピットブルに襲われて殺されそうになったので、犯人を捜してもらいたいという。防犯ビデオを見たIQは、巨大な犬を操る男の存在を発見し、この男がプロの殺し屋であると推定。わずかな手がかりから凶悪な犯人を追い詰めて行く。 物語は、ラッパー襲撃犯を追い詰めるパートと、頭のいい高校生だったIQが便利屋的な探偵になるきっかけとなった過去の出来事のパートが交互に繰り返されて展開するのだが、双方のつながりが分かりやすいので読み辛さは全く感じない。というか、物語に奥行きの深さが加えられている。さらに、ラップを中心にした黒人音楽の世界、LAの黒人とヒスパニックのギャングたちの抗争などが彩りを添え、非情に読み応えがある。 すでに第2作は発表されており、今年中に第3作も発売予定というので、邦訳が待ち遠しい。 ハードボイルドファン、テンポのいいサスペンスのファン、軽めのアクションミステリーのファンにオススメだ。 |
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ボッシュ・シリーズとしては「ナイン・ドラゴンズ」に続く2011年の作品。前作とは違い、ホームグラウンドであるLAで事件捜査に活躍する本格的な警察小説である。
未解決事件班に戻ったボッシュは、新たな相棒になったチュー刑事と、DNA鑑定で有力な手がかりが見つかった20年以上前の強姦殺人事件を担当することになった。被害者の体に着いていた血痕が、ある性犯罪常習者のDNAと一致したという。ところが、その容疑者は当時8歳の少年だったのだ。なぜ、8歳の子どもの血液が成人女性である被害者の遺体に着いていたのか、本格的に捜査を始めようとしたとき、ボッシュたちは市警本部本部長から呼び出され、警察に影響力を持つ市議会議員の息子が高級ホテルから転落死した事件の捜査を命じられる。市議と警察上層部の両方からプレッシャーを受けたボッシュは、2つの事件を並行して捜査しようとするのだが、市議会と警察の政治的な駆け引きにも巻き込まれ、事態は複雑になるばかりだった。 厳しい状況にもめげず冷静に正義を貫こうとするハードボイルドな刑事・ボッシュが戻ってきた、警察小説の王道を行く作品である。派手なアクションは無く、緻密な推理と徹底した証拠固めで事件の真相に迫るボッシュには、一種の神々しさもある。ボッシュも派手に立ち回るには歳をとり過ぎたという理由もあるのかもしれないが、それでも女性関係では現役バリバリで、まだまだ活躍しそうである。 シリーズ読者には必読。本格派の警察小説ファン、ミステリーファンにもオススメできる。 |
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谷崎潤一郎の晩年を、三番目の妻の妹の視点から描いた私小説風の物語。作家という人種の業の深さを感じさせる作品である。
登場人物のキャラクターが明確で、ストーリー展開も波乱に富んでいて最後まで読み飽きることが無い。谷崎潤一郎に興味があろうと無かろうと関係なく楽しめる、一級品のエンターテイメント作品である。 |
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ジュリア・ロバーツが惚れ込んで映画化を進めているという売り文句の作品。ヒロインが個性的で、ストーリーも面白いハードボイルドなサスペンスミステリーである。
従軍したイラク戦争のPTSDに悩まされている元ヘリパイロットのマヤは、二週間前に公園で富豪の御曹司である夫を目前で射殺された。しかも、4ヶ月前には姉のクレアも殺されていた。身辺に不安を覚えたマヤは、二歳の娘の安全のために親友の勧めで自宅に監視カメラを設置したのだが、そこに死んだはずの夫の姿が映っていた。さらに、姉を殺した銃と夫を殺した銃が同一であることを、警察から知らされた。警察には犯人と疑われ、監視カメラ映像で夫の姿を見たことをPTSDによる幻覚ではないかと指摘され、動揺し、混乱しながらもマヤは、夫と姉の殺人の真実を探ろうと奮闘する。その調査はやがて、イラクでの自分の行動が巻き起こした波紋、17年前の夫の高校時代の出来事にまで遡っていった。 まず第一に、イラク戦争のPTSDに悩む女性兵士という設定がユニーク。戦争の後遺症に悩む男性主人公は数多くいるが、女性というのは珍しい。しかも、この女性が精神的にも肉体的にもタフで、行動力があり、感情を動かされることがほとんどないという、まさに現代ハードボイルドの王道である。また、事件の謎解きもきちんとしており、複雑な伏線の回収も見事。様々なエピソードやストーリー展開も映像的で、ジュリア・ロバーツが活躍するシーンが目に浮かんでくる。 ハードボイルドファン、サスペンスミステリーファンには、絶対のオススメだ。 |
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桜木紫乃のデビュー作「雪虫」を始め、6作品を収録した短編集。どれもさびしく、悲しく、それでも温もりを感じる男と女の物語である。
全作品が、作者のホームグラウンド北海道を舞台に展開される男と女の物語ばかりだが、どれも物語の軸になっているのは女の生き方である。まさに桜木紫乃の原点が見える作品集といえる。 桜木紫乃ファンには必読。生きることの苦さを否定しない方にもオススメだ。 |
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40代の中間管理職を主人公にした5作品の短編集。不惑と言われる年代の男たちの迷いと戸惑いをユーモラスに描いた、良質なエンターテイメント作品である。
恋に、仕事に、家族に、友情に揺れ動き、時に暴走し、時に立ち止まる。男たちの馬鹿さと可愛さが真に迫って、思わず苦笑してしまう。 老若男女を問わず、オススメだ。 |
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厳しい北海道の自然や社会状況に押しつぶされそうになりながら、それでも生き延びて行く悲しい女(と、それに関係する男)を描いた、短編集。7つの作品すべてに共通するのが「過ぎちゃえば、いろんなことがどうでも良くなる」という女の悲しさと強さである。
人生に生きづらさを感じたとき、「あなただけではないよ」と言ってくれるような作品集である。 |
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イギリス本格ミステリーの正統な後継者として人気が高まっている「フィリップ・ドライデン」シリーズの第4作。緻密な構成の謎解きが楽しめる、本格派ミステリー作品である。
歴史的な寒波に見舞われたイングランド東部の街の公営アパートで、すべての窓を開け放った状態で住人の男・デクランが凍死しているのが見つかった。閉所恐怖症で室内の扉を全部取り払っていたというデクランは、飲酒癖があり、過去に自殺を図ったことがあったことから警察は自殺と判断した。しかし、部屋のコイン式電気メーターに硬貨がたっぷり補充されていたことから自殺説に疑問を抱いたドライデンが調査を始めると、デクランの親友も奇妙な事故死にあっていた。さらに、二つの事件の関係者は、ある過去の出来事でつながっていたことが判明。その謎の解明は、ドライデン自身をも巻き込み、思いもよらない展開を見せるのだった。 伏線の張り方、読者をミスリードするエピソードの入れ方、謎が謎を呼ぶ展開の膨らませ方など、まさに英国本格派の真骨頂。しかも、現代的な社会問題を背景に置くことで、古臭さを感じさせないのも見事である。 シリーズの4作目だが、本作から読み始めても何の問題もない。英国本格派ファン、謎解きミステリーファンには絶対のオススメだ。 |
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スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビによる「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第3作。日本では2011年に刊行され絶版になっていたのが2018年に再文庫化された作品である。グレーンス警部のチームによる捜査より死刑制度に焦点を当てた社会派ミステリーである。
スウェーデンで暮らすカナダ国籍の男が暴力事件で逮捕された。ところが捜査を進めると、ジョン・シュワルツと名乗るこの男のパスポートは偽造されたものだった。しかも、6年前にオハイオ州の獄中で死んだアメリカ人死刑囚であることを示す証拠が出てきた。もし、死を偽装して逃走した死刑囚であれば、アメリカ政府は引き渡しを要求し、死刑を実行するだろう。だが、EUの一国であるスウェーデンは死刑を廃止しており、死刑制度がある国への死刑囚の送還は禁止されている。とは言え、アメリカと良好な関係を維持したいスウェーデン政府は、引き渡しを拒めるだろうか? 死刑制度に反対のグレーンス警部たちは、あの手この手で送還を阻止しようとするのだが・・・。 事件捜査自体は単純で、グレーンス警部らは捜査より政治的な駆け引きに奮闘する。一方、ジョン・シュワルツの地元、オハイオ州の田舎町では被害者の父親を筆頭に死刑の実行を求める声が高まり、ジョンの引き渡しと死刑の実行は当然のことと思われている。このアメリカとスウェーデンの意識の違いが、物語を面白くしている。死刑制度が当然と捉えられている日本では、アメリカに近い世論が形成されるのだろうが、そこに小石を投げ入れるぐらいの波紋は起こしそうな問題提起を含んだ作品である。 警察小説としても合格点レベルに達しているし、シリーズ作品ならではのメンバーたちの様々な変化も興味深い。シリーズ愛好者には必読。社会派ミステリーファンにもオススメだ。 |
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「犯罪は老人のたしなみ」に続く、スウェーデンの老人犯罪集団シリーズの第二作。今回も、奇想天外でユーモラスなノワールが楽しめる。
前作でラスベガスに逃げた老人たちだったが、ギャンブル生活にも飽き、里心がついてスウェーデンに帰ることにした。しかし、犯罪の動機だったスウェーデンの福祉への支援の資金が足りていないことから、帰国前のひと仕事としてカジノから大金を奪いとった。ところが、帰国してみると、ネット送金したはずの資金は途中で盗まれ、福祉施設に届いていないことが判明した。ガックリきた老人たちだったが気を取り直し、新たに5億クローナという大金を調達する犯罪計画を立て、よたよたと実行に移すのだった・・・。 今回もまた、行き当たりばったりの計画とボケ扱いを逆手に取った悪知恵で、様々な危機を乗り越えていく老人たちのたくましさが秀逸。犯罪が成功するのか失敗するのか、読者はハラハラドキドキさせられ、最後には安堵する。まあ、警察を始めとする捜査陣や周辺の人々が老人たち以上にボケているというか、老人を見くびることのしっぺ返しを受けるというお約束の展開が、安定した面白さをもたらしている。 シリーズ読者には、絶対のオススメ。シリーズ未読の方は、ぜひ第一作から読むことをオススメする。 |
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