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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1137件
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どんでん返しの天才・ジェフリー・ディーヴァーのノンシリーズの新作は、ノンストップ追跡劇だ。
読み終った後では多少の疑問点が無きにしもあらずだが、最初から最後まで予断を許さず、読者の予想を裏切り続ける、女性保安官補と殺し屋の緊迫感に満ちた追跡劇がたっぷり楽しめる。 いい意味で「裏切られ」続けることの快感に酔いしれてもらいたい。それ以上の感想は、あえて要らない。 |
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ガリレオ・シリーズの第二短編集。
全5作とも、単純に見える事件に現れた超常現象に悩む草薙刑事が、天才物理学者・湯川に謎解きを依頼し・・・という、お約束の展開で進められる。その超常現象は、タイトルの予知夢であったり、幽体離脱であったり、はてはポルターガイスト現象まで、まあ常識外れのオカルトとも呼びたいものだが、湯川はそれを論理的に解明して行く。しかも、解明のためのヒントになるのは犯人やその周辺の人物の言動である。 オカルト話をミステリーの枠内できちんと解説して見せるガリレオ・湯川(すなわち、東野圭吾)の手腕は、お見事!の一言。全編、ストーリーに破綻が無い、上質な短編に仕上がっており、ミステリーファンを満足させる出来だといえる。 |
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最下層ともいうべき境遇から必死で這い上がり、大企業のオーナーの娘と結婚するという“逆玉の輿”を目指したロボット開発者の栄光と挫折の物語。主人公の“鼻持ちのならなさ”が抜群で、その意味ではよく書けている。周辺の人物や警察も、やや類型的なところはあるが、巧みな人物描写で読ませる。さらに、犯罪トリックや捜査陣の追及も論理的である。
それでも何か物足りなさを感じ、評価を下げさせたのは、根本的な殺人の動機が弱いこと。さらに「完全犯罪」という割には偶然に頼ったところが見受けられ……ちょっと残念だった。 しかし、軽めのミステリーとしての合格ラインには到達した作品だと言える。 |
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前作では、ラトビアでスパイアクションを繰り広げたヴァランダー警部。今回の物語の舞台のひとつが南アとあって、またまた国外での活動が中心になるのかと思ったが、さすがに南アは遠すぎたようで、スウェーデン国内にとどまっての大活躍を見せてくれる。
物語は、地元イースタでの女性殺害事件の捜査と、南アのテロをめぐる謀略の二重構造で進められる。2つの作品になってもおかしくない内容で、文庫700ページの大作なので、正直、前半は読み続けるのが辛いところもあったが、二つの話のつながりがはっきりして役者が出そろった後半からは物語世界にぐんぐん引き込まれていった。 女性殺害事件の方は、いつものメンバーのキャラクターの作りこみがさらに深まったこと、悪役のキャラが際立っていること、アクションが派手になったことなどが合わさって、非常に出来の良い警察小説に仕上がっている。 また、南アのテロの方は、暗殺者小説の王道を行く構成で、これまたなかなかの傑作と言える。「解説」では、マンケルが影響を受けた作家としてジョン・ル・カレの名があがっているが、なるほどと思わせた。 作者・マンケルとしては南アの人種差別の問題を書きたかったのだろうが、一読者としては警察小説の出来のよさに満足した。 |
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「悪人」「平成猿蟹合戦」の吉田修一がスパイ・アクションに挑戦!って思って読むと、ちょっと物足りないかもしれない。
テーマが東アジアを舞台にした太陽光発電をめぐる謀略戦ということで、時代性もあり、興味深いのだが、情報戦の面白さよりアクション場面に重点があるようで、やや深みにかける仕上がりになっている。裏情報を売ることを商売にしている非情の情報部員、そのライバル、謎の日本人美女、香港の財閥のオーナー、ウイグル族の反政府過激派、中国の闇社会の実力者、日本の代議士など、スパイ・アクションに欠かせない登場人物は揃っており、それぞれのキャラクターもそれなりに描かれているのだが、総花的な印象が免れない。むしろ、主要人物に絞って深く書き込んだ方がドラマ性が高まったのではないかと思う。 派手なアクションシーンが多く、映画化すれば面白いと思うが、シリーズ化されたときに、次作を手に取るか? ちょっと判断に迷うところだ。 |
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クリスマスを間近にしたニューヨーク州の片田舎で、10歳の少女二人が誘拐された。同じ学校に通う仲良しのグウェンとサディーを探すために、地元警察はもとより州警察、FBIからなる捜査陣が構成される。その中に、15年前に双子の妹が同じような少女2人誘拐事件に巻き込まれて殺された地元警察の刑事・ルージュが加えられ捜査に当たることにある。
捜査が進む中、同様の犯罪が繰り返されており、今回の誘拐も同じパターンの犯罪ではないかという説が有力になる。しかし、ルージュの妹を殺した犯人は現在服役中で、絶対に彼の犯行ではありえない。とすると、服役している犯人は無罪なのか? それとも、同じような犯行を犯す人物が他にもいたのか? 過去の例から、誘拐された少女はクリスマスの朝には死体となって発見される可能性が高く、捜査は時間との闘いの様相を深め、捜査陣や被害者家族の緊張感が高まっていく・・・。 物語は、捜査の進行と誘拐された少女たちの脱出への苦闘が並行して描かれ、タイムリミットも加味されて刻一刻とサスペンスが高まっていく。そして、捜査陣と犯人と少女が一堂に会するクライマックスへ・・・。 意外な犯人、意表を突く謎解き、最後まで隠されていた物語など、衝撃のクライマックスをどう見るかで、この作品の評価は大きく分かれるだろう(ゆえに、ネタばらしは厳禁)。深く感動する人もいるだろうし、肩透かしというか、騙されたような感想を持つ人もいるだろう。個人的には、最後の怪奇ファンタジーっぽい落ちに不満が残り、後者の感想を持った。 しかし、ストーリー展開の巧妙さ、キャラクター設定のうまさから、ミステリーファンにも十分に楽しめる作品だと思う。 |
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デンマークの警察小説シリーズ「特捜部Q」の第三作は、シリーズものならではの面白さがぐんぐん迫ってくる、快作だ。
メインテーマは、宗教と人格とでも言えばよいのか、規律の厳格な新興宗教が遠因となって引き起こされた連続誘拐殺人という悲劇。犯罪の残酷さ、犯人の狡猾さ、犯人の生い立ちの悲劇性が際立ち、「悪役のキャラが立つほどミステリーは面白い」という原則通りで、一気に読めた。 ストーリーの始まりは、誘拐された子供からのボトルメールが13年後に特捜部Qに届けられたところから。しかし、13年の間に破損されたメールは判読が難しく、カール・マーク警部は捜査に気乗り薄だったが、助手の怪人アサド、奇人ローセの熱意もあって文面が解読され、やがて本格的な捜査が開始されると、驚くべき犯罪が明るみに出てくる・・・。 本筋の犯罪捜査もスリリングだが、それ以上に本作の魅力になっているのが、おなじみの特捜部Qの面々。主役のカールは警察小説のキャラクターとしては実に頼りなく、さらに優柔不断になってきて、アサド、ローセに引きずり回される始末。相変わらずミステリアスなアサドは、ここぞという場面で頭脳も肉体も力を発揮し、主役を奪いそうな活躍ぶり。さらに、奇人ローセが無断で休暇を取ると双子の姉というユアサが登場し、ローセ以上の奇行でカールとアサドを驚かせる。まさに、シリーズものでしか味わえないキャラクターの変貌がたっぷりと盛り込まれていて、シリーズのファンにはたまらない内容と言える。 未読の方は、ぜひ、第一作から読み始めることをオススメします。 |
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最近、翻訳が多くなった北欧ミステリーだが、今度はデンマークの本格警察小説の登場だ。コペンハーゲン警察本部の殺人捜査課長コンラズ・シモンスンシリーズの第一作は、期待以上の本格社会派ミステリーだった。
秋休み中の学校の体育館に男性5人の遺体が吊り下げられていたという、衝撃的なシーンからスタートした物語は、警察小説の常道である地道な身元調査、あらゆる情報の収集と分析、捜査班の共同作業での犯人追求と進んで行くが、被害者が全員、小児性愛犯罪者だという情報が流され、社会には犯人擁護、警察の捜査妨害の雰囲気が作り出され、捜査は一層の困難に直面する・・・。 最後の、警察が犯人を罠にかける(おびき出す)部分には多少?がつくものの、犯行の動機、犯罪のありよう、捜査のプロセスなど、きわめて緻密に構成されており、捜査側、犯人側の人物像もよく描かれており、大型の社会派警察小説と呼ぶにふさわしい作品だ。 シリーズは、すでに三作目まで出版されているとのことで、今後の翻訳出版が非常に楽しみだ。 |
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人気のV.I.ウォーショースキーものを含む短編集。小説としては、やはり長編の方が圧倒的に面白い作家だと思うが、これはこれでウォーショースキーのキャラクターを理解するのに役に立った。
不公平や差別を憎み、権威を振りかざす人間を軽蔑するヴィクの基本姿勢がどこから生まれたのか、どう育まれたのか。その背景がわかってくる作品群だ。9.11後のアメリカ社会の不寛容さ、生きにくさを告発しているパレツキーをよく理解することができる。 |
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ドイツの高名な刑事弁護士が自身の弁護体験をベースに書き上げた短編小説集。ドイツを始め、世界各国でベストセラーを記録しただけあって、実に奥深く、味わいのある作品集だった。
全編、ミステリーというよりは犯罪者の心理を探って行くことに主眼が置かれている。著者が体験した事件弁護なので、起きた事象、犯人などは分かっているのだが、問題は「犯人は、なぜこうした事件を起こしたのか?」ということ。淡々とした文体で、丁寧に心理を分析して行く中で次第に明らかになるのは、人間の不条理とでもいうべき、精神の闇の世界である。ただ、著者は基本的に人間に対する優しさをもち続けている人なのであろう、精神の闇を切り捨てていないところに、読後の救いがあった。 実は、第二作品集「罪悪」の方を先に読んでいたのだが、本作の方がヒューマンな色合いが濃く感じられた。人間の不気味さという点では、「罪悪」の方がよく描かれている気がした。 |
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期待通りの社会派警察小説の傑作だ。多くの方が言及しているように、スウェーデンの警察小説といえば「マルティン・ベック」シリーズ。その1990年代版と呼ぶにふさわしい新シリーズの登場である。
スウェーデン南部、人口1万人にも満たない小さな田舎町のイースタ警察署の中年刑事・ヴァランダーが主人公。けっしてスーパーヒーローではない警察官が、生活にも、自分の体調にもさまざまなトラブルを抱えながら、それでも警察官であることの誇りを失わず、事件の真相究明に必至に頑張るところが、いたく共感を呼ぶ。第一作だけに、ヴァランダーのキャラクターを確立させようとしてさまざまなエピソードが盛り込まれているが、そのエピソードが錯綜し過ぎていて、いまひとつ、キャラクターが際立ってこない気もしたが、魅力的な主人公であることは確かだ。 イースタ郊外の片田舎の農村で老夫婦が惨殺され、被害者が最後に「外国の・・」と言い残す。犯人は外国人なのか? 人種差別的な人々を刺激することを恐れたヴァランダーは、このことを公表しないまま捜査を進めようとするが、警察内部からの情報洩れにより「犯人は外国人か?」という報道が流れ、移民排斥の動きが強まり、ついに移民逗留所への放火やソマリア人が射殺されるという事態を引き起こしてしまう・・・。スウェーデンといえば、移民や難民にはきわめて寛容な社会と思われていたが、90年代にはやはり外国人に対する反感が強まっていたようだ。そんな社会状況を敏感に反映したストーリー、エピソードはリアリティたっぷり。実に読み応えのある作品だった。 主人公を取り巻く警察仲間、家族のキャラクターも詳細に描かれており、シリーズとして成長していくだろうという予感がたっぷりで、第二作以降への期待が高まっている。 |
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「悪人」より「横道世之介」に近いテイストの作品で、ミステリーではないが、作者の腕の確かさを感じる上質なエンターテイメント作である。
「猿蟹合戦」といえば、親を殺された子供の復讐を周りが助けるお話だが、それを平成の世にもってくるとどうなるか? まず、登場人物が歌舞伎町のバーテン、ホスト、ホステス、ママ、パトロン、ヤクザ・・・と怪しげなキャラクターになる。合戦の舞台はひき逃げ事故に絡む脅迫から衆議院議員選挙へと、微妙に変化していく。もちろん、蟹の親は殺されなければいけないので、殺人や犯罪、犯罪すれすれの悪事、悪事を平気で働く悪人も登場する。だからといって、人間の悪意が渦巻く重苦しい展開になるかといえば、そうでもない。キャラクターが非常に軽く、さわやかに設定されているので、ストーリーも軽やかに展開していく。元のお話が勧善懲悪であることからも分かるように、最後は読者をほっとさせる予定調和のエンディングに収められている。したがって、読後感が悪くないのが、この作品のよさだろう。 「悪人」の吉田修一を期待する人にはオススメしないが、「世之介」が面白く読めた人にはオススメしたい。 |
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百舌が登場しない百舌シリーズ作品。その意味では、公安警察シリーズとでも呼ぶべきだろうが、やはり百舌の印象が強烈なため「百舌シリーズ」になる。事実、本作のあとには「よみがえる百舌」が書かれている。本作も、シリーズの前2作を読んでから読むことを強くオススメする。
第3作の今回は、結婚した倉木警視と美希夫妻にとんでもない災難が降りかかることから、私怨をはらす壮絶な戦いが展開されるのだが、それが警察組織を揺るがす大陰謀と密接に絡んでいることで、スケールの大きな物語となっている。シリーズの前作品に比べると、アクション、ミステリーの要素が濃くなり、よりエンターテイメント性が高い作品といえる。作品の主人公は、シリーズキャラクターである倉木、美希、大杉の3人で同じだが、主役の座が倉木から美希へと移っている。ある意味、冷静沈着・ハードボイルドの倉木から激情型の美希に視点が移ったわけで、その分、ハードボイルドよりアクション味が強くなった印象だ。 シリーズ物としては、あっと驚くエンディングだが、そのハンディを乗り越えて、話を展開していけるという、作者の自信の表れだろう。実際、次の「よみがえる百舌」では、舌を巻くストーリーで読者を脱帽させてくれた。 |
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傑作「百舌の叫ぶ夜」の続編、というか、そのままの流れで話が展開されるので、絶対に「百舌の叫ぶ夜」を読んでから本作を読むことを強くオススメする。
死んだはずの百舌がよみがえった? というのも大きなテーマだが、それよりも倉木警部を中心とする警察側が前作での悪の黒幕・森原大臣側を抹殺しようとする、一種の政治闘争がメインテーマである。したがって、推理や捜査活動より心理戦、読み合いが中心でストーリーが展開される。もちろん、アクションやサスペンスもたっぷりだが、文庫の解説にもあるように主人公たちのハードボイルドな生き方が読みどころになる。 物語の終盤に来て、「これは、ちょっと無いよな~~」という思いもあったが、よくできた物語といえる。 |
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映画化されていることは知らなかったが、滝沢修と倍賞千恵子ならぴったりの配役といえる。
1960年ごろの世相を背景に、強盗殺人で起訴された兄の無実を信じて弁護を頼みに来た柳田桐子が、その依頼を断った大塚弁護士への復讐を果たす物語。大塚弁護士が依頼を断ったのは、当時多忙を極めていたことに加えて、桐子が高額な弁護料を払えないだろうということと、愛人との逢瀬に心が急いていたためだった。そのため後々、大塚弁護士は弁護を断ったことに良心の呵責を感じることとなる。 一方の桐子は、兄が一審で死刑を宣告され、控訴中に獄死したのは、大塚が弁護を断ったためだとして復讐に執念を燃やすことになる。 現在の常識からすれば(おそらく当時の常識でも)、大塚が弁護を断ったことと死刑判決を直接結びつけて大塚に復讐するのは筋違いである。しかし、桐子のサイコパスな性格は暴走する一方だし、そこに大塚の良心の呵責が絡むことで事態は壮絶な心理劇となってゆく。 物語の主眼は、法の限界や警察や裁判のありかたと個人の心情の衝突にあるのだろうが、個人的には、弁護士の正義感を妄信している桐子の素朴さと、弁護を引き受けなかったことを悩む大塚弁護士の倫理観に興味をひかれた。1960年前後には、まだまだ倫理や正義に対する確固たる信頼があったのだなと感じた。 |
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筆者お得意の警察小説だが、これまでとは趣を変えて、事件現場の街の特色を生かしたストーリー構成と事件の謎解きに中心を置いている。そう、まるで東野圭吾の加賀刑事が登場しそうな作品だ。
舞台となるのは、四ツ谷荒木町。知る人ぞ知る、かつての東京では有数の花街である。現在でも、入り組んだ通りや路地に一種の隠れ家的な飲食店が軒を連ねており、大人に人気の街でもある。その街で、バブル崩壊後に地上げ絡みと思われるアパート経営の老女殺しが起き、15年の時効を迎えたのだが、時効の廃止を受けて再捜査することになる。 捜査を担当するのは、警視庁捜査一課の警部補ながら、上司と衝突して謹慎中だった水戸部裕と、退職した所轄の四谷署刑事で現在は相談員の加納良一。この訳ありコンビが記録と記憶を再調査し、街の深部を掘り起こして行く。そこで徐々に明らかになるのは、一筋縄の解釈では測れない、花街の複雑な人間関係だった。 街の特性とそこに根差した物語づくりは、まさに刑事・加賀シリーズとそっくり。ただ、本作の方が、人情ばなしより刑事物の謎解きに重点を置いている印象を受けた。 今後、シリーズ化されるようなので、佐々木譲の新境地として期待したい。 |
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名作「警官の血」の続編に位置づけられる作品だが、大河ドラマ風だった「警官の血」とは趣を異にした、正統派の警察小説だ。
主人公は、前作で三代目警官としてエピローグを飾った安城和也(現在は昇進して警部になっている)と、彼が告発したことで警視庁を追われた悪徳警部・加賀谷仁。東京の麻薬密売組織で何かが動き始めている・・しかし、規律重視で組織を変更し、捜査態勢が硬直化しセクショナリズムの弊害に悩む警察は、その動きを深く把握することができず、捜査の実を上げることができないでいた。そこで警視庁は、かつては切り捨てた丸暴担当のエース・加賀谷に復職を依頼する。おりしも、安城警部が指揮した捜査で密売組織に潜入していた警官が殺されるという事態が発生。責任を問われた安城は、なかなか成果があげられず焦りを募らせていく。それに引き換え、裏社会の組織に食い込んだ加賀谷は重要な情報を次々に手に入れ、ぐんぐん真相に迫っていく。密売組織摘発の栄誉を最後に手に入れるのは、加賀谷か、安城か? ストーリーの本筋は、麻薬密売組織の正体を追いかける警察小説だが、その過程で、警察組織がもつ官僚機構独特の問題点や自分の父親に対する安城の愛憎などが絡んできて、単なるミステリーではない厚みが感じられた。 「笑う警官」以来の作者の積み重ねを背景に、「警察官にとっての正義とは何か?」、「警察組織の本音と建前」を追求した、意欲的で読みごたえのある作品だった。 |
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最近、ドラマにもなって注目を集めている本作、巻末の解説によると作者は「ポケミスみたいな作品を書きたかった」と語っているようだが、なるほど、猟銃が出てくるは、美女が派手な犯罪を企むは、車の追っかけっこ(ただし、派手なカーチェイスではなく、高速道路のSAで休みながらの追跡劇だ)があるは、なかなかに派手な道具立てで、しかもすべてが日曜夜から月曜午前までのワンナイトの出来事というスピード感がいい。
冒頭、猟銃を持った美女が復讐のために結婚披露宴会場に乗り込むという、派手なシーンから読者を引き付ける。しかも、これが本作の本筋ではなくサイドストーリーだというところも心憎い構成だ。 メインストーリーは、何の罪もない妻と娘を殺された男が、まったく反省の色を見せない犯人たちに自力で報復しようとする、まあ、よくあるお話。裁判制度が十分に罪を償わせることができないとき、私刑(リンチ)は許されるのか? 重いテーマではあるが、本作ではこのテーマの追求より、登場人物たちの人物像、人間関係、追跡劇のアクションの方に重点が置かれているので、非常に読みやすいエンターテイメントに仕上がっている。 宮部みゆきの初期作品の中では、傑作だ。超能力やエスパーに頼った作品ではないところが、個人的には気に入った。 |
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「百舌」シリーズの第4作。
これまで、「百舌」シリーズはずいぶん前に第一作を読んだだけだったので、いきなり「よみがえる」を読んだのはちょっともったいなかった。間の二本の作品のエピソードを知っていた方が、数倍面白かったと思う。 死んだはずの伝説の殺し屋「百舌」が現れたのをきっかけに、どんでん返しの連続の捜査活動が繰り広げられる。「百舌は、誰か?」がキーポイントだが、それらしき疑いをもたれる人物が続々と登場し、しまいにはヒーロー、ヒロインも疑わしくなってくる。このあたりのストーリー展開は実に上手い。 最後は壮絶な殺し合いの場面になるのだが、主人公側と犯人側の秘術を尽くした戦いがスピーディーに繰り広げられ、一気に読ませてくれる。 時代状況を巧みに取り入れた社会派小説としても、良くできている。 |
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前作「犯罪」で衝撃のデビューを飾ったシーラッハの第2短編集。刑事弁護士が現実の事件に材を得て書き上げたというのがシーラッハの売りだが、この全15編の異様な物語を読んでの印象は「果たして、こんなことがあるのだろうか?」という驚きに尽きる。
もちろん、理解しやすい動機の犯罪もあるのだが、ほとんどは常人の常識を越える理由や動機から発生した犯罪であり、犯人や被害者の特異性に驚嘆させられる。が、しかし、実は常識にちょっと目をつむって見れば、それほど奇異な現象ではないのかも知れないという気にさせられた。人は他人を完全に理解することは不可能なのだと思う。 15作品の中では「解剖学」と「秘密」が、どちらも超短編ながらひねりが効いていて面白かった。 |
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