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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
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2024年の新聞連載に加筆修正した長編小説。九州の小島に集められた富豪一族と元刑事、探偵が米寿を迎えた富豪の失踪と失われた宝石の謎を解く、軽めのミステリーである。
一代で財を成した梅田壮悟の米寿祝いに梅田氏所有の島に集められた面々は、豪華な宴会の翌朝、梅田壮悟が姿を消したことに気が付く。ちょうど台風が襲ってきた日で島の外に船を出すのは無謀と思われたのだが、壮悟が残したメモ(ヒント)を頼りに、壮悟が隣にある小島に渡ったのではないかと結論付けた。さらに時価35億円の宝石が行方不明になっていることも関係しているようだった。激しい嵐を突き切って面々が隣の小島にたどり着いてみると、そこには梅田壮悟の人生の秘密が隠されていた…。 宝石探しと失踪した富豪探し、二つの探し物に、終戦直後の世相と未解決殺人事件を絡めたミステリーではあるが、「悪人」や「怒り」のサスペンスを期待すると裏切られる。良くも悪くも読みやすさ重視、媒体のレベルに合わせた新聞小説ミステリーというしかない。 読んで損はないけど、絶賛してオススメする作品とは言えない。 |
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アメリカ・ミステリー界に不動の地位を築いているジョン・ハートのデビュー作。若き弁護士が偉大な弁護士だった父の殺害を機に家族との関係、自分の生き方を直視し、父の死の謎を解きながら人生を再生する家族物語ミステリーである。
失踪してから18ヶ月後、辣腕弁護士として知られていた父・エズラの射殺死体が発見された。エズラの一人息子で弁護士のワークは父の死には動揺しなかったものの、父との折り合いが悪かった妹のジーンが犯人だと直感し、精神状態が悪いジーンが逮捕・投獄されることに大きな不安を抱く。たった一人残された家族であり、最愛の妹であるジーンを守るためなら自分が身代わりになってでもと決心するワークだったが、ワークに莫大な遺産を残すというエズラの遺言が明らかになると警察はワークを最重要容疑者と目するようになる…。 ワークに疑いの目を向ける警察の捜査と、ジーンを守りながら真相を探るワークの独自の調査が絡み合いながら徐々に真相が明らかにされる犯人探しがストーリーの本筋。だが、それ以上にエズラ、ワーク、ジーンの家族関係、とりわけ偉大な父親とその影響下から逃れられない息子の息苦しいまでの切なさが大きな比重を占めている。犯人探しはそれなりに面白いのだが、親子・家族の物語が重くて、ジョン・ハートはやはり家族物語の作家だと再認識した。 ファザコンの若者の再生物語として読むことをオススメする。 |
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元々は朗読会用に書かれた後、雑誌掲載された作品と雑誌用の連作短編、書き下ろしを集めた短編集。全13編、それぞれに味があり、ショート・ストーリー作家としての才能を感じさせる傑作エンターテイメント作品である。
中でも中年から初老に差しかかる年代の男女を描いた作品は人生の苦味や切なさが隠し味となり、展開やオチにツイストが効いていて唸らせる。 警察ミステリー、時代ミステリーの名手・佐々木譲の意外な一面が楽しめる一冊として、多くの人にオススメしたい。 |
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デンマーク発の人気警察小説「特捜部Q」シリーズの第9作。犯人はもちろん犯行動機、犯行日時、さらには犠牲者すら不明という難事件に取り組むメンバーたちに、さらにチームの中心であるカールが麻薬事件の捜査対象になるという大惨事が降りかる疾風怒濤、ハラハラドキドキの警察ミステリーである。
60歳の誕生日に自殺した女性は32年前に車の修理店の爆発事故に巻き込まれて一人息子を亡くした母親だった。爆発時に偶然近くにいて現場に駆けつけた現殺人捜査課課長のヤコブスンは当時に抱いた不審感を思い出し、調査報告書を再読した結果、現場に食塩が残されていた事実に疑問を持ち、同じような事件がないか、特捜部Qに調査を依頼した。事件性などないと疑っていたカールだったが、調べを進めるうちに事故や自殺に見せかけた不審死が二年おきに起きている連続殺人ではないか思い始める。犯行の日時、被害者すら分からない五里霧中の捜査を続けていると、次の事件が近いうちに起きるだろうという結論に達し、特捜部Qは焦りを募らせてる。そんな折り、ヤコブソンはカールが麻薬関連事件で重要参考人になったと知らされる…。 シリーズでも屈指の難事件に加えて、カールが逮捕寸前に追い詰められるという波乱万丈の物語。読後はサスペンスとミステリーの満腹感に満たされる。デンマークのクリスマス事情やコロナ禍のデンマーク社会など背景エピソードも興味深い。シリーズは10作目で完結ということで、本作のクライマックスは強烈なクリフハンガーで終わっている。次作も必読。 シリーズ愛読者は必読!とオススメする。 |
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リンカーン弁護士シリーズの第7作。ハラーの調査員としてボッシュも大活躍する、読み応えある法廷サスペンスである。
冤罪を訴える囚人の力強い味方との評判を得たハラーのもとには助けを求める手紙が殺到し、ハラーの調査員としてそれを選別していたボッシュはルシンダ・サンズという女性からの手紙に目をとめた。元夫である保安官補を射殺した罪に問われたルシンダは一貫して犯行を否認していたものの、発射残渣検査で陽性だったため裁判を避ける「不抗争の答弁」を選択して服役していたのだった。しかし凶器の銃が発見されていないなど不審な点があり、冤罪を確信したハラーとボッシュは調査を始めた。すると、何者かがボッシュとハラーの家に侵入し、警告を発してきた…。 結論が出ている裁判をひっくり返すためにハラーのチームが繰り出す法廷戦術は多彩かつ緻密で唸らされるのだが、それ以上に検察側の防御は固く、その壁を突破するためにハラーは捨て身の作戦を連発する。有罪か無罪か、静かなドンデン返しが繰り広げられる法廷シーンは実に力強い。日本とは全く異なる法廷の様相が極めてエキサイティングで最後まで面白く読める。さらにコナリー・ファンには見逃せないボッシュの健康状態のエピソードも印象的。ハラーのみならずボッシュ、ボッシュの娘・マディも、まだまだ主役を勤めそうである。 リンカーン弁護士シリーズ、ボッシュ・シリーズのファンには必読。法廷ミステリーのファンにも絶対のオススメだ。 |
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ピュリッツァー賞受賞のアフリカ系アメリカ人作家による2021年刊行のベストセラー小説。1950年代後半から60年代前半のハーレムを舞台にビジネスでの成功を目指しながら、置かれた環境に翻弄され、それでも自分を貫く黒人青年の成長物語であり、ハードボイルド作品である。
ハーレムで中古家具店を営むカーニーは愛する妻と子供たちのために懸命に誠実に働いていた。だが状況は厳しく、たまには従兄弟のフレディが持ち込む盗品の売買に関わっていた。正直な家具屋と盗品故買屋の二つの顔を使い分けていたカーニーだったが、フレディが引き起こした強盗事件に巻き込まれ、ギャングや悪徳警官と関わる羽目に陥った。徐々に裏社会との関係を深めたカーニーは自分だけでなく家族まで命を狙われる危機を招いてしまったのだった…。 物語は盗品故買に手を染め始める1959年、ハーレムの裏の権力に近付いていく1961年、人種間トラブルに直面する1964年の三部構成で、それぞれの年が中編小説になっている。全体の通奏低音は人種、貧富、暴力、権力犯罪という重いテーマだが、登場人物のキャラクター、時代を映すエピソードは洗練されており、都会的なハードボイルド、クライム・エンタメとして読みやすい。 60年代のアメリカ、特にブラック・カルチャーに興味がある方にオススメする。 |
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時代が抱える社会病理にファンタジー色を散りばめた書き下ろし長編ミステリー。
週刊誌記者の今井柊志は偶然手に取った小説に激しく動揺した。そこには封印してきたはずの自分の過去、兄によるリンチ殺人と姉の死が描かれていたのだ。ことに自分と姉が二人だけ残された時の悲しい記憶が、自分の日記を読まされているように克明に描写されていた。さらに柊志の編集部に「今井柊志の兄は少年を殺した」という匿名の通報があり、両親に見捨てられた柊志を育ててくれた伯母にも同じことが起きた。誰が、何のために攻撃を仕掛けてきたのか。柊志は必死の覚悟で思い出したくもない過去に向き合い、真相を探ろうとする…。 元々崩壊していた家族が兄が犯罪者になったことでバラバラになり、唯一自分を庇ってくれていた優しい姉まで事故で亡くすという悲惨な過去を持つ週刊誌記者が、自分の過去を調べることで自分の秘密を守ることと他人の秘密を暴露する自分の仕事の意味を考え直すというのが一本の筋で、そこに巷に溢れるいじめや言葉の暴力の問題を絡めている。隠してきた過去が小説に描かれているのを発見するという発端と、その小説の作家が判明し、動機を明らかにしていく終盤は意外性のある展開で惹きつけられた。リンチ殺人といじめの実相が明らかになる部分は、やや展開がまどろっこしい。 ファンタジー色のあるミステリーが好き、という方にオススメする。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第16作。ライムを殺すためにニューヨークに戻ってきた宿敵・ウォッチメイカーと最後の戦いを繰り広げる、おなじみのドンデン返しミステリーである。
N.Y.の高層ビル建築現場で大型クレーンが倒れ、複数の死傷者が出た。単なる事故かと思われたが、ネット上に市当局に宛てた脅迫状が公開され、24時間以内に要求が容れられなければ次々とクレーンを倒すという。市民の安全を憂慮した市長はライムに捜査を要請、ライムが率いるおなじみのチームは脅迫の裏に宿敵・ウォッチメイカーがいることを突き止めた。しかも、ウォッチメイカーがN.Y.に戻ってきたのはライムを殺す目的だったことを知る。こうして二人の頭脳戦が始まった…。 大型クレーンを倒壊させるという、恐怖感を煽るアイデアが秀逸。だが、事件全体の構図というか、ウォッチメイカーによる犯行計画がぶっ飛んでいるし、当然、それを防ぐライムの計略も凄すぎてリアリティが乏しい。それでも次々に繰り広げられるドンデン返しはいつも通りで、最後まで面白く読める。 マンネリ感は否めないが、安定のディーヴァー節が好きという方にオススメする。 |
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「ガリレオ」シリーズの中では長編となる「透明な螺旋」に雑誌掲載の短編1本がおまけに付いた文庫版。殺人事件の犯人探しと親子の絆の切なさを両立させた人情ミステリーである。
房総の海岸で男の銃殺死体が発見された。行方不明届が出されていたためすぐに身元は判明したのだが、驚いたことに届を出した同居人の女性が姿をくらませてしまった。草薙と内海たちが女性の行方を探していると、思いがけず湯川の名前が出てきて草薙が湯川を訪ねたことから、警察の捜査と並行して湯川も真相を探ろうとする。そして、二つの捜査が合流した時、草薙も湯川も重くて苦い想いを飲み込むのだった。 犯人探しの部分は犯行様態は単純だが動機、関連する人間関係が複雑でミステリーとしてよく出来ている。それ以上に、本作は湯川の過去に関わるエピソードが明らかにされることの方がファンにはインパクトがあるだろう。 ガリレオファンは必読。もちろんミステリーファンなら誰でも満足させる安定作としてオススメする。 |
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著者のデビュー作にして2021年のアガサ・クリスティー賞受賞作。選考委員全員が満点をつけたという高評価も納得の傑作戦争エンタメ作品である。
1942年、モスクワ郊外の小さな農村に侵攻してきたドイツ軍に目の前で母親や村民を皆殺しにされた18歳の少女・セラフィマは自らも殺される寸前、赤軍兵士に助けられた。赤軍部隊を率いていたのが元狙撃兵で狙撃訓練学校長のイリーナで、虚脱状態のセラフィマを「戦いたいか、死にたいか」と一喝し、母の遺体もろとも村全体を焼き尽くした。ドイツ軍はもちろんイリーナにも復讐心を抱いたセラフィマは誘われるままに訓練学校に入り、一流の狙撃兵になることを決意する。同じように家族を失った同年代の少女たちと共に厳しい訓練を経て、イリーナをリーダーにした女性だけの狙撃小隊を構成し、祖国防衛戦争の最激戦地となったスターリングラードに派遣された…。 18歳の少女が辣腕の狙撃兵に作り上げられ、独ソ戦終結までを戦い抜く冒険と成長というのが物語の骨格で、そこに祖国愛、敵に対する憎悪の深さ、さらに敵味方を超えた戦争の悲惨さ、戦場で露わになる性差別が重ねられ、重厚で斬新な戦争小説が出来上がっている。主人公たちの心理描写、アクションシーン、歴史の流れの解説も適切で500ページ近い長編ながら読みやすい。 戦争小説、冒険アクション、成長物語のファンに、表紙のイラストに惑わされることなく手に取ることをオススメする。 |
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イギリスを舞台にしたミステリーで人気のドイツ人作家の「刑事ケント・リンヴィル」シリーズ第2作。ヨークシャーで起きた14歳の少女が連続して行方不明になる不可解な事件に、管轄外のスコットランド・ヤードの女性刑事が単独で挑むミステリー・サスペンスである。
実家を処分するためにヨークシャーに来たケイトは宿を取ったB&Bで、その家の娘・アメリーが行方不明になる事件に巻き込まれた。同じころ近くで一年前に失踪した少女の遺体が発見されたため、連続少女誘拐殺人かと思われたのだが、アメリーは嵐の夜に港で通りがかった二人の男性に助けられた。しかし、アメリーは救出時までの記憶が消えてしまっていて、誘拐犯につながる手がかりは全く得られなかった。管轄外のため躊躇していたケイトだったが、アメリーの両親に懇願されて密かに調査を開始する。すると、ここ数年で他にも消えた14歳の少女たちがいることを発見し…。 複数の少女失踪事件が複雑に絡み合い、事件の構図がなかなか見えて来ず、ストーリーはどんどん広がっていく。さらに、関係者家族の人間模様、ケイトと地元警察の微妙な力関係も重なり、最後まで予断を許さない読み応えがあるサスペンスである。ただいかんせん、主役のケイトをはじめとする主要な女性たちのキャラクターが暗くて、どんよりして、おおよそ共感を誘うものではないため、途中で中だるみしてしまうのが欠点である。 生きづらさを抱える女性の心理描写が好きな方にはオススメできる。 |
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「探偵・畝原シリーズ」の第2作。素性を隠して暗躍する詐欺グループと新興宗教のつかみどころのない悪に戸惑いながら、絶対に許せない所業に全身で怒りを爆発させる熱いハードボイルド・サスペンスである。
女子高生を出入りさせているマンション住人・森の調査を依頼された畝原は事実関係を調べ上げ、役割を果たしたのだが、森の父親が息子を説得する場に立ち会うように求められた。乗り気しないまま出かけた畝原は、教育者である父親が息子を殺害し、その場で自殺するのを目撃することになった。その後、事件の情報をつかんだテレビ局から「行方不明になった少女・本村薫の家族と森が関係があるらしいので、調べて欲しい」と頼まれる。本村一家は生活保護を受けているのだが、森は福祉担当だったとは言え、区は異なっており、不自然さは明らかだった。さらに、畝原が調査を始めると同時に、森親子の事件関係者が放火で死亡し、畝原に仕事を発注したテレビ局員が自殺するという異変が起き、しかも畝原自身も何者かに狙われるようになる…。 本作で畝原が相手をする悪は実体が見えず、その狙いや犯行動機も不明で事件の構図が掴めない不気味さが圧倒的。また、それに対する畝原の怒りの表出が強烈で、シリーズの中でも異彩を放つ作品である。シリーズ作品としては、周辺人物のキャラクターが揃ってきて家族思いの探偵という畝原の立ち位置が固まってきた、展開点の作と言える。 社会派のハードボイルドのファン、東直己ワールドのファンにオススメする。 |
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1962年に刊行されたフランスのミステリー(東京創元社の2012年の新訳版)。火事で大火傷を負って救出された若い女性・ミは伯母の莫大な遺産を受け継ぐことになるのだが、同じ現場で焼死した若い女性・ドと入れ替わったのではないか? 火事の衝撃で記憶を喪失したミには、自分がミなのか、ドなのか自信が持てず、周囲の証言を聞くたびに揺れ動いてしまうという、極めてトリッキーな謎解きミステリーである。
物語は主人公が探偵・証人・被害者・犯人であるという衝撃的な構成で、しかも記憶喪失のため確かな証言が得られず、視点人物が替わるごとに事件の様相が変わってくる。物語の最後まで、読者は作者が繰り出す場面転換の妙に幻惑され、最終盤の謎解きでも疑心暗鬼に陥るのを免れない。蜘蛛の巣に絡め取られた昆虫の境地を味わされる。 記憶喪失・入れ替りものの古典的名作で、一読の価値ありとオススメする。 |
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オーストラリアのベテラン・ジャーナリストの小説デビュー作で、英国推理作家協会最優秀新人賞受賞作。内陸部の小さな町で一年前に起きた事件をテーマにしたルポのために訪れた記者が新たな事件に遭遇し、閉鎖的なコミュニティの隠された人間関係と現代社会の闇に迷う、ワイダニットミステリーである。
オーストラリア内陸の小さな町の教会で、牧師が銃を乱射して5人を殺害してから一年、町の変化を取材しようと訪れた新聞記者のマーティンは旱魃で干上がった生気のない町、姿を見せない住人に戸惑いながらも地元警察の巡査、ブックカフェの女主人などと知り合い、町がどうやって事件を受け入れたのかを取材する。すると、忌まわしい事件を起こした牧師を非難するより擁護する声が多いことに気付く。事件は犯人である牧師が地元警察の巡査にその場で射殺されて一件落着したのだが、犯行動機については不明点ばかり残されていた。そんな中、大規模な山火事がきっかけで身元不明の遺体が2体発見され、事態は一気に混沌としてくるのだった…。 住民から親しまれていた牧師は、なぜ銃を乱射したのか。身元不明の遺体との関連は? 探偵役が記者で捜査権が無いため、真相解明のプロセスは行ったり来たり、読んでいてもどかしさが募っていく。しかも途中から警察ばかりでなく国の情報機関も介入してきて話があちらこちらに飛び、さらにコミュニティ内部の複雑な人間模様、ジャーナリスト間のつばぜり合いも目が離せなくなる。そのため、最後は状況説明を重ねてクライマックスにするという、収まりの悪い作品になったのが残念。オーストラリアの大乾燥地帯という珍しい舞台設定を差し引くと、かろうじて合格レベルのミステリーである。 スーパーヒーローではない主人公が悩み、惑いながら真相に辿り着くヒューマン・ミステリーのファンにオススメする。 |
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「探偵・畝原シリーズ」の第4作。血まみれで足に縋り付いてきた少女を保護したことをきっかけに、畝原が狂った犯人グループと警察に怒りを爆発させるハードボイルド・サスペンスである。
真夜中の街中で突然、畝原の足に縋り付いてきた少女は着ていたTシャツが血まみれで、裸足で、悪臭を放っていた。成り行きで病院まで付き添い、児童相談所に保護されるのを確認した。翌日、畝原の親友で児相の依頼を受けたコンサルタントの姉川と、少女が入院中の病院で待ち合わせたのだが、そこで少女を奪おうとする集団に襲撃され、姉川が連れ去られてしまった。ところが、警察の対応は鈍く、真剣に捜査する様子がないばかりか、何かを隠しているようだった。姉川の身を案じる畝原は、元警察官の玉木、旧友の探偵社社長の横山などの助けを借りながら、サイコパスとしか思えない犯人たち追う。そこに立ちはだかったのは、北海道警察の上層部、悪徳キャリア官僚たちだった…。 本作は腐敗した警察への怒りが凄まじい。これまでも警察には批判的なテイストだったのだが、それが極点まで達したようで、全身で怒っている。さらに、犯人たちの犯行、それに対する畝原の反撃がアメリカン・ノワール並みの激しさで、気の弱い読者には刺激的過ぎるかもしれない。家族想いで温厚な畝原の激変が強いインパクトを残す、シリーズでは異色の作品と言える。 シリーズ愛読者はもちろん、ハードボイルド、アクション・サスペンスのファンにもオススメする。 |
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日本での刊行は15年ぶりになるという英国人作家の長編ミステリー。ジョージア州北部、山間の町の保安官が疎遠だった弟の死をきっかけに家族の絆、自分の生き方を再生する人間くさいミステリー・サスペンスである。
12年も連絡を取り合っていなかった弟の訃報を受け取ったヴィクターは、気が進まないまま葬儀に参列した。町は違えどヴィクターと同じく保安官だった弟のフランクは、意図的に車に轢かれて殺されたという。兄弟は喧嘩別れになっており、ヴィクターはフランクが結婚したことも、離婚したことも、残された娘がいることも知らなかったのだが、葬儀で初めて会った姪のジェンナに「なぜパパは死んだのか、調べて欲しい」と懇願された。管轄が異なるために積極的にはなれなかったヴィクターだが、事件を担当する市警の消極的な態度に苛立ち、自分で捜査を開始した。すると、フランクが管轄する町の裏社会からフランクに関する悪い噂が流れてきた。果たして、フランクは不正を働き、仲間割れで殺されたのだろうか? 作品の基軸は憎み合って別れた弟との関係を築き直す、孤独な男の再生の物語である。そこに連続少女殺害事件を絡ませ、さらに捜査側とギャングとの闇を重ね、複雑で精妙なミステリーが展開される。主人公のヴィクターは我が道を行く狐狼タイプで、「目的は手段を正当化する」を体現した男なのだが、その根底には家族愛があるというヒューマン・ドラマに重点が置かれていて、単なる謎解き、アクションではない味わい深さがある。 警察ミステリーのファンはもちろん、ヒューマン・ハードボイルドのファンにもオススメする。 |
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スウェーデンで人気上昇中という作家の新シリーズ第1作。切れ者の女性刑事が警察内部の性差別と闘いながら連続誘拐殺人犯と対決する、警察ミステリーである。
マルメ警察署重大犯罪課の若手女性警部・アスカーは、二人の若者の失踪事件の捜査を進めていたのだが、元上司で国家作戦局のヘルマン警視に指揮権を奪われ、署内の吹き溜まり部署に左遷されてしまう。やる気も能力もなさそうな同僚に囲まれながらもアスカーは決して諦めず、独自の捜査を続け「山の王」と名乗る連続誘拐殺人犯のサイコパスを追い詰めていく…。 一匹狼の女性刑事(よくあるキャラクター)もの、問題児ばかりの吹き溜まり部署(最近、多くなったジャンル)もの、サバイバリストの父親に育てられた過去が影を落とす主人公のキャラクター(これも、最近増えている)もの、さらには都市廃墟探検や鉄道模型ジオラマといった特殊な分野の舞台設定など、これまでの北欧警察ミステリーでは見られなかった物語構成が、本作の最大の特徴である。これだけの多彩なジャンルを統合して論理的に破綻のない物語を作り上げるのは並大抵ではないとみえて、事件の真相はきちんと明らかにされるのだが、登場する様々なエピソードの関連性にやや無理があり、全体としてまとまりが悪いのが残念。 正統派北欧警察ミステリーというより、キャラクターゲーム的なエンタメ作品として読むことをオススメする。 (下巻373ページの最後の行にガクッとする誤訳?、校閲の誤りがあった) |
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1976年から書き継がれている12本の連作短編を一冊にまとめ、新たに翻訳した短編集。どんな依頼人であっても、無罪判決を得るのではなく無実にしてしまうエイレングラフ弁護士の魔術的弁護活動をユーモラスに描いたノワール・ミステリーである。
エイレングラフ弁護士のポリシーは「裁判に持ち込まずに依頼者を自由の身にする」こと。それが実現できなかった場合は報酬はもちろん、必要経費まで受け取らない。ただし、弁護料は法外なまでに高額で、一切値切ることはできない。という極めて特異な弁護士である。たとえ本人が犯行を自供していても、裁判が始まる前にいつの間にか別の犯人が名指しされる、その手練手管は魔術のようで、その実際はかなりの悪辣さである。弁護士ものと言えば、圧倒的に不利な被告を正義の熱弁で救う法廷シーンが読みどころなのだが、本短編集では法廷シーンは皆無で、容疑者から無実の人へのドンデン返しはエイレングラフの頭の中で展開され、読者はそのシナリオと結果を見せられるだけである。しかし、その技巧が切れ味鋭く機知に富み、12作品それぞれにインパクトがある。 弁護士もの、法廷ミステリーというよりノワール、コン・ゲーム的な味わいが濃い特殊な作品群だが、短編集ならではの軽妙さもあって、多くの人を満足させるエンタメ作品としてオススメしたい。 |
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自分に自信が持てず、鬱々とした日常に埋没していた40代独身の瀬戸口優子は、通勤途上の国道で出会った黒馬と目が合った瞬間から「心が通じ合」った。その黒馬・ストラーダは乗馬倶楽部の馬で、優子は試乗から始まり馬主になり、ストラーダの栄光を取り戻させようと、どんどんのめり込んでいく。優子は高額な出費を賄うために「一時的に公金を借り」始めたのだが、その総額は一億円を超えてしまった。そしてついに横領がバレたとき、優子はストラーダとともに逃げようとする。
言葉を介さない心と心の繋がりという幻想。その美しさと残酷さを、ほんの少しのユーモアと共に描いたファンタジック・ロマンである。 |
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2022年のコニャックミステリー大賞を受賞し、人気上昇中のフランス女性作家の日本デビュー作。男を殺害して焼いたとして自首してきた女の自白に始まった捜査が、焼かれた遺体の残骸はもちろん周辺証拠さえ発見できず迷宮入りする一方、さらなる犠牲者が発見され、想像を超える展開を見せていく、警察小説であり謎解きミステリーでありノワール・エンタメ作品である。
レイプされそうになって男を撲殺し、証拠隠滅のために死体を焼いたと言って、24歳のローラが自首してきた。自白に基づいて捜査を開始したダミアン警視のチームは死体を焼却したという現場で何の痕跡も発見できず、たちまち捜査は行き詰まる。さらにローラは「必要なことは全部話した」として黙秘するばかりだった。犯行は事実か狂言か、捜査陣は確信を持てないまま地道な聞き込みと証拠調べを続け、わずかな手掛かりから事件の構図を掴んだと思ったのだが、次々と想定外の事態に遭遇し、迷路に誘導されるのだった…。 ダミアン警視を中心に物語が進むため警察小説だと思っていると、あっと驚く仕掛けが登場し、ノワール・サスペンスに変身する。そこが本作の新しさ、面白さと言える。事件の真相、結末は警察ミステリーというよりイヤミスで、読者の評価が分かれる作品である。 警察ミステリーファン、イヤミスファンのどちらからも絶大な評価は得られないだろうが、読んで損はない作品としてオススメする。 |
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