■スポンサードリンク
iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
近年、人気急上昇で様々な作品が紹介されるようになった北欧ミステリー(ノルディック・ノワールと呼ばれているとか)の中でも異彩を放つ「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズの第二弾。第一作より、さらにパワーアップした傑作エンターテイメントである。
ストックホルムで3件の連続女性強姦殺害事件が発生。その残忍な手口は、15年前にセバスチャンが追い詰めて逮捕された連続殺人犯ヒンデの犯行とそっくりだった。しかし、現在服役中のヒンデが事件を起こせる訳は無く、殺人捜査特別班はヒンデに強い関心を持つ模倣犯の犯行を疑った。一方、またまた自分勝手な理由から殺人捜査特別班に強引に入り込んだセバスチャンだったが、4人目の被害者が自分が関係したばかりの女性だったことで、これまでの3人の被害者もすべて自分と関係があった女性だと気がついた。「自分が狙われているのではないか?」、「ヒンデが関係しているのではないか?」と激しく動揺したセバスチャンの捜査は、さらに協調性を欠き、特別班のメンバーとの対立もいとわず、さらに暴走することになった・・・。 今回は、レクター博士にも負けない強烈なキャラクターのサイコパスとの息詰まる心理戦がメインだが、事件全体の構想がしっかりしているので、犯罪捜査ものとしても非常に面白く読める。また、主人公をはじめとする捜査側のメンバーのキャラクターが第一作を踏まえて、さらにくっきりしてきたし、引き続き登場する周辺人物も物語に深みを加えていて、シリーズ物としての完成度が高くなっているのも魅力と言える。特に、歩く傲岸不遜とも言うべきセバスチャンに人間的に意外な弱点が見えて来たところは、次作にもつながりそうで注目したい。 第一作とは別の事件の話だが、第一作をベースにしたエピソードが多いので、ぜひ第一作から順番に読むことをオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ぐっと読み応えがある長編が多いルヘインには珍しく、ポケミスで188ページの軽めの作品である。「訳者あとがき」によると、当初は短編集の一作として発表されたものが映画化されることになり、ルヘイン自身が脚本を担当、さらに長編小説として書き直されたという。映画のノベライズであると同時にオリジナル作品でもあるという、珍しいケースと言える。
舞台は、ルヘインお得意のボストンの下町。労働者が集まる小さなバー「カズン・マーブ」はマーブとマーブの従兄弟でバーテンダーのボブが切り盛りしているのだが、実際はチェチェン・マフィアに乗っ取られた店で、マフィアの裏金の中継所としても使われていた。ある日ボブは、仕事帰りにゴミ箱に捨てられていた子犬を拾った。そこに居合わせたナディアが動物愛護団体で働いていた経験があったことから、口をきくようになり、ボブが子犬を飼うことになった。内気で劣等感に苛まれていたボブは、ナディアと子犬の登場で新しい日々が始まる予感を感じたのだったが。 猥雑な街を肩をすぼめて歩くボブの周りは、一筋縄ではいかない小悪党ばかり。あまり知恵があるとは思えない強盗計画が実行に移され、そこから生じたさまざまな波紋と軋轢がボブにも降り掛かって来た。そこで見せたボブの意外な行動とその結末は・・・。 短めの作品とはいえ、ノワールの巨匠・ルヘインの魅力が十二分に発揮された傑作。オススメです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
イアン・ランキンの新シリーズ「警部補マルコム・フォックス」の第二弾。リーバス警部シリーズの新作ではすっかり嫌われものとして扱われているフォックスだが、本作品はリーバス警部に出会う前で、正義を貫く硬骨漢として骨のあるところを見せてくれる。
監察室のスタッフとして不良警官の同僚の調査に入ったフォックスたちは「仲間を売るような奴は許さない」という警察一家意識に邪魔をされ、思うような調査が進められなかった。仕方なく、不良警官を告発した外部の人間に聞き込みを始めると、様々な疑問がわいて来た。しかも、不良警官を告発した元警官が自殺に見せかけて殺される事件が発生。しかも、元警官と25年前に事故死したスコットランド独立運動の活動家との不可解な関係が浮かび上がって来た。警察の内部事情で現場を外されたフォックスは、独自のルートで調査を進めるうちにスコットランド独立運動の歴史に隠されていた秘密を暴くことになる。 警察内部の鼻つまみ者のフォックスだが、今回は信頼する二人の仲間がいて、ぶれること無く正義を貫いていくことができた。しかしながら、私生活では相変わらず父のこと、妹のことで悩み事が多く、気が晴れることが無い。このあたりの地味さは前作同様で、読みきるには相当の気力が要求される。 現在と過去の二つの殺人事件をつなぐ重要な要素に、ちょっと首を傾げたくなる安易な設定があるのがやや不満だが、全体の構成はよく考えられていて、いくつかのエピソードが見事に重なり合ってクライマックスを迎えるサスペンスの盛り上がりは、前作より数段読み応えがある。多くの警察小説ファンにオススメできる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
スパイ小説界のレジェンド、ジョン・ル・カレの23作目の長編小説。2013年発表なので御年83歳での作品だが、まだまだ現役バリバリの密度の高いエンターテイメントである。
英領ジブラルタルで行われた極秘のテロリスト捕獲作戦に駆り出された引退間近の外務省職員ポール(偽名)は、現場での強引な作戦行動に疑問を感じるものの、「作戦は成功だった」と告げられ任務を解かれた。3年後、引退して妻の故郷で平穏に暮らし始めていたポールは、極秘作戦の現場指揮官だったジェブと再会し、恐るべき事実を告げられる。真相を探るため、ポールは手始めに当時の担当大臣の秘書官トビーに連絡を取ることにした。一方、若くて意欲的な外交官として活躍中だったトビーは、当時、大臣の不審な行動に疑問を抱き、違法な方法で情報を集めていた。ポールとトビー、二人の疑問が重なり合って、ジブラルタル作戦の真実が暴かれようとする・・・。 本作も、個人と組織、国家の軋轢をテーマに、キリキリと締め上げるようなサスペンスが展開される。ことに、「国益」を盾に公務員の守秘義務を厳密に適用して口封じをはかる法務官僚の不気味さは、「特定秘密保護法」が成立してしまった日本でも現実感ありありで、官憲がその気になれば「どんな正義でも犯罪として葬ることが出来る」恐さを実感させる。 ジョン・ル・カレは永遠に枯れないことを実感させる良質なエンターテイメントで、多くの方にオススメです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
米国では人気だという「ジャック・リーチャー」シリーズの第17作。これまで日本では6作品が翻訳されているというが、今回、初めて読んだ。
ネブラスカの夜の高速道路入口でジャック・リーチャーがヒッチハイクに成功した車には男女三人が乗っていたが、どうも様子がおかしかった。男二人は仲間同士だが話に矛盾することが多いし、後部座席にいる女は終始無言で、何かにおびえているように見えた。やがて、男二人は殺人犯で女は人質らしいことが判明する。リーチャーは女性を解放して自分も逃げようとするが失敗し、しかも殺人事件の最重要容疑者としてFBIに追われることになる。 窮地に陥ったリーチャーだが、得意の説得力でFBI女性捜査官を味方につけて、逃亡しながら捜査を続け、やがてCIAやFBIをも巻き込んだテロ組織に直面し、ランボーも顔負けの大活劇を繰り広げて問題を解決する。 FBIやCIAが登場するのだが捜査能力がお粗末で、ちょっとマンガチックな展開もあって読み応えは無い。ただストーリーは面白く、すいすい読めるので、スーパーヒーローものでスカッとしたい方にはオススメできる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
短編の名手スタンリィ・エリンの1948年のデビュー作から1955年までの間に発表された10編を収めた、最初の短編集の新装文庫版。収録作品のどれもが、60年以上の年月を感じさせない、傑作ぞろいである。
表題作の「特別料理」をはじめ、作品の多くが最後の最後、あと一歩のところで説明を終わらせているのが“奇妙な後味”になっていて、読むほどにクセになる作家だと言える。 作者エリンはこれまで、ロアルド・ダールを筆頭とする「奇妙な味」の系列で捉えられていたが、あくまでも人間の不可解で不条理な心理に基盤を置いて物語が展開されている点から、読後感は本書の「解説」で言及されているようにフェルディナント・フォン・シーラッハの作品に近い気がした。 短編好きの方、不条理ミステリー好きの方にはオススメです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
中村文則の初の警察小説。期待した以上に完成度が高い、純文学でもあり、エンターテイメントでもある傑作だ。
連続通り魔事件の捜査本部に属する二人の刑事、中島と小橋のコンビは、共に捜査本部では主流になれない訳あり同士である。目撃証言から犯人と目されている「コートの男」の実態がつかめないまま、模倣犯ばかりが増え、捜査は行き詰まってていた。そんな中、二人は事件関係者の接点を掘り下げる独自の捜査によって徐々に真相に近づいて行った。するとそこには、被害者と加害者が入り乱れる、深くて巨大な闇が広がっていた・・・。 前半は警察小説のスタイルをとっていて、捜査のプロセス、刑事たちのキャラクター設定も巧い正統派ミステリーだが、最後の1/3は犯人の独白による犯行実態の解明という意表をつく展開になる。この構成に違和感を感じる読者もいるだろうが、この部分がある種、ドストエフスキー的とでも言えばいいのだろうか「神の不在」を問う、作品の肝(キモ)になっている。 純粋な警察小説としては違和感があるものの、ミステリーファンにも純文学ファンにもオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ナポリのスラムで母と暮らす19歳のマイコはパスポートはおろか国籍さえ持たない、幽霊のような存在だった。アジア、ヨーロッパの大都会の移民が暮らす街を転々とし、顔を変えるために整形を繰り返す母親に「他人と関わるな、本名を教えるな」と躾けられ、小学校を出たあとは学校にすら通っていなかった。そんなマイコだが、日本人が経営する漫画カフェに出会ったことから外の世界を知り、母親とぶつかって家出し、街で出会ったリベリアとモルドバからの難民であるエリスとアナの三人で犯罪に手を染めながら楽しく暮らすことになった。ところが、マイコが家出直後に出会った日本人カメラマンに写真を撮られていたことから、母親が必死に隠そうとして来た秘密が明らかにされそうになってしまった・・・。
自分は何者なのか? 自分の居場所はどこなのか? たった19歳のマイコが戦う「魂のサバイバルゲーム」は、自律した人間を嫌う日本社会への強烈なアンチテーゼの様相を呈してくる。退屈な前半から一変して、後半は読者をぐいぐい引き込んで行き、最後には強烈な解放感が待っている。ミステリーと呼ぶにはスリルとサスペンスに欠けるが、物語の背景が極めてミステリアスなのでミステリーファンにも十分に満足出来る作品だ。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ディーヴァーが新しいヒーローを誕生させたノンシリーズ作品。ボディーガードのプロ対誘拐と拷問のプロの対決を描いた、サスペンスアクションである。
主人公コルティは連邦機関「戦略警護部」に所属する人身保護のプロ。対するのは、人間の弱みを突いてターゲットを追い詰める冷酷非情のハンターであるラヴィング。ラヴィングは、コルティの師匠を罠にかけて殺した因縁の敵でもある。この二人が、警護対象であるワシントンD.C.の刑事の一家を巡って壮絶な戦いを繰り広げることになる。 襲撃する者と守る者が、お互いに「裏の裏」を読みながら手に汗を握る追跡ゲームが展開されるのと同時に、刑事一家が狙われるのはなぜか、黒幕は誰なのかが、徐々に明らかにされるという、アクション部分とミステリー部分の両方が盛り込まれた欲張りな構成である。さらに、ディーヴァーお得意のどんでん返しが、これでもかと言わんばかりに出て来て、読み通すのに気力と体力の両方が必要だった。派手さはあるが、リンカーン・ライムシリーズほどの味わい深さを感じなかったのが残念。 主人公がボディーガードのプロだけに素材はいくらでも見つけられるので、評判が良ければシリーズ化されそうな作品だが、どうなるだろうか。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「最後の音楽」で定年退職したリーバス警部だが、5年ぶりに帰って来た! リーバス警部・シリーズの再スタートを告げる作品である。
退屈な年金生活に馴染めないリーバス元警部は、古い未解決事件の再調査グループに民間人として採用され、古い書類を読み込む毎日を過ごしていたある日、1999年に失踪した娘がまだ生きていると主張する母親に面会し、再捜査を依頼される。一方、順調に警部に出世して活躍中のシボーンはスコットランド北部で行方不明になった若い女性の事件を担当することになった。この二つの事件は共にスコットランド北部を走るA9号線で起きていた。二つの事件の共通性に注目したリーバスは、シボーンの迷惑も顧みず捜査に割り込んで行く。もはや警官の身分ではないリーバスだが、そんなことで躊躇する玉では無い。相変わらずのルール無視の強引な捜査で周囲を引っ掻き回し、それでもじわじわと真相に迫り、決着をつけることになる。 現役時代と変わらないリーバスの言動に、古くからのファンなら拍手喝采、「お帰りなさい、リーバス警部!」と歓呼の声を上げること間違いなし。英国ではもうすでに、次作が刊行されているというのは嬉しい限り。 また、イアン・ランキンの新シリーズの主役であるマルコム・フォックスが、本作では徹底的に「イヤミな奴」で登場しているのも面白い。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
第12回「このミス」大賞の受賞作。「一千兆円の身代金」という、目を引くタイトルが中味をすべて表している通り、意表をつくアイディアが光る作品である。
政治家の家系の男児を誘拐し、日本政府に一千兆円という法外な身代金を要求してきた犯人、その真の狙いはどこにあるのか? 次世代のことを考慮せず、財政赤字という当座凌ぎの借金を膨らませ続ける旧世代に対する犯人の怒りは、多くの国民の共感を得るが、誘拐は凶悪犯罪であり、警察は全力を挙げて事件解決をめざして奮闘する。人質の少年は、無事に解放されるのだろうか? 犯人側、被害者側、捜査側と視点を交替させながらのストーリー展開もスムーズで、登場人部のキャラクターも巧く設定されている。突き抜けた面白さは無いものの、デビュー作としては非常に高く評価出来る。文句なしにオススメです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
スウェーデンに新たな国際派ミステリー作家が誕生したことを告げる、完成度の高いデビュー作である。
アラブ系のスウェーデン人で「戦争下請け企業」について研究しているムーディ、ムーディの元の恋人で欧州議会議員のスタッフとして働いているクララ、ブリュッセルのロビイング会社で働くジョージという3人のスウェーデン人が主人公で、物語は2013年12月、クリスマス前の3週間ほどの間にブリュッセルからパリ、スウェーデンへとスピーディーに展開されて行く。さらに、物語の背景として1980年代から中東で活動してきた謎のアメリカ人スパイの回想が度々挿入され、3人が巻き込まれた陰謀劇に更なる奥行きが加えられる。 いわゆるスパイ小説というよりはアクション・ミステリーであり、悪役の素性が簡単に分かっても、逃避行のスリリングさで最後まで読者を引きつける。追跡もの、アクションもの、国際謀略もの好きにはオススメです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
逢坂剛の大人気歴史冒険小説イベリアシリーズの第二作。
ドイツとイギリスの戦いがこう着状態に落ち入っていた1941年、スペインが枢軸側で参戦するのか、日米戦争が始まるのかが、戦況を大きく変える契機として世界中で注目されていた。日本の情報員・北都昭平は日米戦争を回避させるために情報作戦を行っていたが、前作「イベリアの雷鳴」で知り合った英国の諜報員・ヴァージニアとお互いに引かれ合うようになってきた。対ドイツ戦を勝ち抜くために、何が何でも米国を引き込みたい英国は、日米が戦争を開始せざるを得ないようにするために諜報戦を仕掛けており、昭平とヴァージニアの立場は完全に相反するものとなっていた。お互いに相手の立場、自分の任務を理解しながらも、どうしようもなく引かれ合う二人は・・・。 作品紹介に「エスピオナージ・ロマン」とある通り、主人公と英国諜報部員との「許されざる恋」が表面に押し出されて来た分だけ、スパイ小説としての魅力は前作より劣ると言わざるを得ない。それでも、オススメ出来る大型エンターテイメント作品であることは間違いない。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
根津で暮らす二人の前科者、芭子と綾香コンビのシリーズ完結編。
やりたい仕事が見つかり、将来に希望を持ち始めたいた二人は、平穏な日々を楽しんでいた。ずっとこんな日が続くと信じていたのに、あの大震災を機に二人はそれぞれの道を見つけなければいけなくなった。 過去と向き合い、新しい道を生き抜こうとするけなげな二人の決心にエールを送りたくなる、ハートウォーミングなホームドラマである。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
乃南アサのこれまでの作品とは全く違う、北海道移住の女性の一生を描いた、非ミステリー作品である。
「おしん」か、それ以上の苦難の歴史を丹念に描き、「人の一生とは何か」を問いかけてくる。主人公の母の「お国の言うことなんか信じるんじゃ無い」という言葉が胸に迫ってくる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
忘れられていたフランス・ミステリーの古典(1958年作)の本邦初訳。フランスでは映画化やテレビドラマ化され、人気があった作品とのこと。最初から犯人が分かっているので謎解きミステリーではない。かといって、検察と弁護側の丁々発止のやり取りがある法廷劇でもない。一言で言えば、風刺ミステリーである。
フランスの地方都市で薬局を営むグレゴワールは、ふとしたことから、街の女性たちから鼻つまみ者にされていた奔放な若い女性ローラを殺害してしまった。警察は、ローラのボーイフレンドでよそ者のアランを殺人容疑で逮捕し、街の人々が死刑を要求して沸き上がるなかで裁判が始まり、「アランが有罪になれば、正義が行われないことになる」と苦悩するグレゴワールは、アランの無罪を実現するために知恵を絞ることになる。ところが、グレゴワールが陪審員に選ばれることになってしまった。 自分の罪を告白すること無くアランの無罪を証明するという難問に挑むグレゴワールの悪戦苦闘が、ブラックなユーモアに包まれて描かれ、人間の愚かさ、おかしさ、社会共同体の頑迷さが強烈に風刺されている。不気味な同調圧力が高まる現在の日本社会を考える時、なかなか示唆に富む作品と言える。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
これまで名前も聞いたことが無い作家だし、ネットでの評判もあまりないのでどうかと思っていたのだが、読み進める内にじわじわと面白くなってきた。
イギリスの田舎町で起きた複数の同時爆発事故により、65人が死亡、多数の負傷者が出た。そのとき、事故に巻き込まれた人々は何をしていたのだろうか? 事故発生の1分前から1秒刻みのカウントダウンで、犠牲者一人一人が持っていたドラマを濃密に描写して行く手法が極めてユニークかつ効果的。ミステリーではないものの、エンターテイメントとして良く出来ており、多くの人にオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ハリウッドで映画化すれば絶対受けそうな、ド派手なアクションのエンタメ作品。物語の始まりから終わりまでが24時間ほどに凝縮されており、息つく暇も無いほどのスピード感が味わえる。
ニューヨーク市の地方検事ジャックがある朝、目覚めると、胸には銃創を乱暴に縫った痕があり、左腕には見たことも無い文字らしき刺青があるのを発見する。何も思い出すことが出来ず戸惑うジャックだが、さらに朝刊に自分と愛する妻が昨夜、事故で死亡したという記事を見つけて驚愕する。自分は生きているのに、どういうことだろう? やがておぼろげながらよみがえってきた記憶を辿ってみると・・・。 失われた記憶を再生しながら、行方が分からなくなった妻を捜してニューヨークを走り回るジャックのノンストップアクションが面白い。非情に徹した凄腕の悪役、自分の身を投げうって助けてくれる相棒、敵にも味方にも見える上司や権力者などなど、脇役も充実していて全く飽きさせない。事件の背景や真相がどうのこうのより、奇想天外でスピーディーなアクションの連続にハラハラしているうちにクライマックスを迎えて、「あー、面白かった」とページを閉じるのが正しい楽しみ方だろう。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ドイツでは知らない者はいないという超人気作家の長編ミステリー。日本では5年ぶり、2作目の紹介である。
イギリス・ヨークシャーの寒村に建つ広大な屋敷では、休暇のたびに、夫同士が同級生という三組のドイツ人家族が一緒に過ごしていた。三人の夫を中心に信頼と友情に結ばれている九人のグループだったが、ある日、三人の大人と二人の子供が惨殺されるという悲劇に見舞われた。グループの残された四人は全員、アリバイが無かった。また、突然現れて、この屋敷の相続権を主張してきたみすぼらしい男の姿が、屋敷の周囲でたびたび目撃されていた。犯人はだれか、その動機は何なのか? 三組の家族はそれぞれ家族内の問題を抱えており、さらにグループ内の人間関係に隠されていた古くて陰鬱な問題が影を落としていた。また、屋敷の相続権を主張する男は恋人との間でトラブルが頻発していた。作者は、このいわば四組の人間関係ドラマを丁寧に、濃密に描き出し、人間心理の複雑さと不可解さ、強さと脆さを読者に突きつけてくる。謎解きの部分はさほど卓越したものではないが、人間ドラマの面白さは圧巻。「ドイツミステリの女王」の呼称はダテではない。 非アクション系ミステリーや心理ドラマの愛好者には、絶対のオススメだ。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ノルウェーでは大人気の女性作家アンネ・ホルトの代表作「ハンネ・ヴィルヘルムセン」シリーズの第7作。「何で、7作目から?」と思ったら、これまで90年代後半に1〜3作が翻訳・出版されており(残念ながら未読)、今回、15年ぶりに邦訳されたとのこと。つまり、シリーズ物でありながら、最初の作品紹介からはかなりの時間が経過し、しかも4〜6作目は翻訳されていないのだ。このあたりの事情もあって、登場人物のキャラクターに入り込むことが出来ず、どうにも中途半端な読後感だった。
クリスマスを控えたオスロの高級住宅街で資産家の夫婦とその長男、出版コンサルタントの4人が射殺された。資産家の一家には財産分与を巡る諍いがあり、家族間のもめ事ではないかという捜査方針で捜査が進められた。しかし、出版コンサルタントの存在が気にかかるハンネは全く違う方向から事件を解明しようとし、他の捜査陣とぶつかることになる・・・。 ストーリーは殺人事件捜査を中心に展開されるのだが、物語の重点の半分はハンネの生き方に置かれており、これまでのバックグラウンドが分かっていないので、面白さが半減してしまった印象だったのが残念。これから読まれる方には、ぜひ1〜3作を読んでおくことをオススメする。 |
||||
|
||||
|