沈黙を破る者
- ドイツ・ミステリ大賞 (1)
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点8.00pt |
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ドイツの女性作家ボルマンの本邦初訳作品。2012年のドイツ・ミステリ大賞で1位を受賞したというだけあって、全編に無駄が無い、中身が濃い作品である。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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父親の遺品に小さな興味と違和感を抱く医師、ロベルト・ルビシュ。小さな動き、問いかけ、人との出会いが、思いがけない方向に彼を導く。それは50年以上の過去につながり、思いがけない展開を生む。確かにミステリーなのだが、ボルマンが描きたかったことはなんだろうと思う。私は、どんな状況下でも、その人その人が、自分の真実(それは戦時下、さまざまなわけだが)に従って、生きること、愛することを求めたというひとりひとりの物語なのでは、と感じた。二つの時代を行き来して、登場人物も多いので、一気読みがお勧めです。 | ||||
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『ドローンランド』でこのドイツ語翻訳者を知り、同じ翻訳者の『希望のかたわれ』がお見事だったので、後者と同じ著者/翻訳者のこの本も読んでみました。いずれも、過去と現在とを複数の人々の視点で描く手法で、落ち着いたタッチでした。この本は、6人の親友達の間の片想いが...。 国家労働奉仕団での文人いじめ、ナチス親衛隊/突撃隊の暴力、そしてナチスに迎合するムラのクウキ。ファシズムの片鱗が伝わってきます。 後日、娘が知ったら何と思うかを気にする、誠実なドイツ人。 この訳者、『夜と霧』のV.E.フランクルの本や、ウィキリークスの本も訳しているようです。ドイツの良心が伝わってきます。 | ||||
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ボルマンは巧みな書き手だと思う。様々な職業体験を生かして書いている。 そうして、先の戦争における「ナチ」傷は深く、時間がその傷を癒すことなく、拡げたり新しい傷を作ったりする、そういう物語を 推理小説で書いた。 だから、面白い。一気に引き込まれて読んでしまった。 だが、途中で、多分先はこうなるだろう、と読めて来る。それは、やっぱり!とうなずける。 そうして、最後の方で、父親の過去に向き合わされる、そこはちょっと、予想と違う展開でえぇっ!となる。 こういう所が無ければ、ミステリーを面白いと言えないから、うまい書き手だと言うのはこういう事。 だが、殺人事件の、犯人探しが意外にあっさりして終わってしまうのが残念。 セラピストだけにロベルトの心理に重点がいってしまったかも。 大人のエンターティメントの読み物としてお勧め。 個人的にはシーラッハのコリーニ事件はさらにお勧めだが。 | ||||
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1997年、ロベルト・ルビシュは老父を見送り、エッセンの町はずれ、シェルベルクの森とバルデナイ湖の間にある屋敷を売却することにした。そして父の遺品を片づけていると、ヴィルヘルム・ペータースという名のナチス親衛隊員の身分証明書が出てくる。なぜ父はこんな他人の身分証明書を持っていたのか。 ロベルトは疎遠だった父の過去を探して調査を始める。やがてその行為が、予期せぬ殺人事件を引き起こすことになり…。 2012年にドイツ・ミステリ大賞第一位に輝いた小説というだけあって、読み応えのある一冊です。1997~98年という現代と、1943~44年という大戦時の過去とが交互に切り結んで行き、歴史の闇に葬られていた悲しい謎が徐々に暴かれていきます。 “アーリア人”に分類された人々のうち、はばかることなく「ヒトラーはドイツ人を不幸にする」と公言していた人々が隣人たちによって苛酷に排除されていく様が丹念に描かれます。赤坂桃子氏の翻訳でドイツ語圏の小説を読むのは初めてですが、流れるような自然な日本語に移し替えられた物語を無理なく読むことが出来ました。 ただ、残念なことに私はこの小説とほぼ同一の“秘密”を抱えた、現代と大戦時を往還する物語を偶然にも過去2年でほかに2冊読んでいました。一冊はオーストリアのミステリー、もう一冊はオーストラリアのミステリーです。 予想していなかったとはいえ、またしても同じ展開を見せられて、今回は大いに苦笑いさせられたのも事実です。この“秘密”の様態は流行なのでしょうか。 ともあれ、“秘密”の真相に驚きを期待するのではなく、あの痛ましい戦争が市井の人々にもたらした狂気について見つめることで、私はこのミステリーを十分楽しむことができたことは強調しておきたいと思います。 *209頁に「バケットを持ってきた」とありますが、正しくは「Baguette=バゲット」つまりフランスパンのことです。 | ||||
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2012年ドイツ・ミステリー大賞受賞作。 物語は1998年と1941年の間を何度も往復する。ハンブルグの医師は父の遺品から親衛隊の身分証明書と若い女性の写真を見つけた。身分証の主も女性の身元も分からない。不審を抱いて調査を開始した医師は大戦中の出来事にたどり着く。50年をこえる歳月を経て悲しい物語が姿を現した。当時のドイツはナチスが台頭し、国民を戦争に総動員しようとしていた。オランダ国境に近い村にも暗雲がたれこめていた。村の若者たちに次々に過酷な運命が襲いかかる。 ドイツ・ナチスが支配した時代に起こった悲劇を主題にした重厚なミステリーである。いやミステリー以前に骨太の優れた文学作品である。この作品には、非業な運命に必死で抗いながらも結局は翻弄されるしかなかった人々の悲しい人生が刻まれている。重苦しい時代にあっても普通に暮らしたいと願い、自分の希望や信念に正直に生きようとして罪を犯してしまう人たちが描かれている。 2つの時代を交互に見せながら、20名にも及ぶ登場人物を動かす。ちょっとした性癖や特徴から人物をありありと浮かばせる。その場の情景のイメージが鮮やかに立ち上がる。個人と歴史を織り込んで練り上げられたストーリーにサスペンスがあふれる。これだけの要素を一点の緩みもなく精緻に構築するメヒティルト・ボルマンの筆力に驚いた。加えて著者の若者たちへ注がれる温かい視線が印象に残る。赤坂桃子氏による瑞々しい日本語訳がこの作品の価値を高めている。読み終えて静かな感動が沸き起こってくる傑作である。 古くはギュンター・グラスの「ブリキの太鼓」から、最近ではシュリンク「朗読者」「帰郷者」、シーラッハ「コリーニ事件」、ルメッシュ「帰ってきたヒトラー」。ドイツではナチスの戦争を主題にした優れた小説がこれまでも多く発表されていて、本作もその伝統に連なる作品である。ドイツの文学者があの戦争を書き続けているのはドイツ人が「過去を心に刻む」を民族のアイデンティティとしている反映なのだろう。わが国の戦争文学は、井伏鱒二、大岡昇平、野間宏、木下順二と続いたが、井上ひさしで途絶えたのではないか。ここにも戦争責任に対するドイツ人と日本人の違いが現われているように私には思える。 | ||||
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