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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1168

全1168件 681~700 35/59ページ

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No.488: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

したり顔で語らないハードボイルドヒーロー

リュウ・アーチャー・シリーズの第12作で、ミステリーベスト100などの企画では必ず上位にランクされる、ロス・マクドナルドの代表作。1963年の作品ながら、今でも十分に読み応えがある傑作である。
裁判所でアーチャーに話しかけてきた青年・アレックスは新婚旅行の初日に失踪してしまった新妻ドリーを探して欲しいと言う。アレックスを気の毒に思ったアーチャーは調査を開始し、ドリーを見つけたのだが、ドリーは夫の元に戻るのを拒否した。しかもドリーがアレックスに語っていた身の上話はほとんど嘘だったことが明らかになる。さらに、アーチャーが次に目にしたのは、殺人現場に遭遇して半狂乱になったドリーの姿だった。そして、殺されていたのは、その日アーチャーがドリーが通う大学で会った女性教授だった。謎の多いドリーとその周辺の人物たちを探って行くと、どうやら事件は過去の殺人事件とつながっているようだった・・・。
現在の事件と過去の事件を行き来しながら真相が明らかになるというのは、ありがちな構成だが、謎解きがしっかりしているのでミステリーとしてもレベルが高い作品である。が、それ以上に、ハードボイルドとしての完成度がきわめて高い。なんと言っても、主人公アーチャーが自分の私生活をほとんど見せず、語らず、徹底して透明なのが素晴らしい。さらに、人間の愚かさや哀しさを見てもしたり顔で説教しないところがいい。まさに、チャンドラーとは異なる、ハードボイルドの一頂点を極めた作品と言える。
すべてのハードボイルドファンにオススメする。
さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)
ロス・マクドナルドさむけ についてのレビュー
No.487:
(7pt)

アメリカンなテイストの北欧ハードボイルド

北欧ミステリーの巨匠ジョー・ネスボの代表作「ハリー・ホーレ」シリーズの第6作。「顔のない殺し屋」との間で緊迫感あふれる追跡劇が繰り広げられる、スリリングなサスペンスミステリーである。
クリスマスを迎えようとするオスロの繁華街で街頭コンサートを開いていた救世軍のメンバーが射殺された。大勢の目撃者がいたはずなのに犯人につながる情報が全く得られず、犯行動機も皆目、見当がつかなかった。一方、すばやく国外に脱出しようとした犯人だったが、大雪のため足止めされ、しかも、翌日の新聞で自分が殺したのが別人であることを知り、本来の目的を果たすために、再び暗殺を実行しようとする。
物語はハリーを中心にした警察の捜査、暗殺犯の孤独な戦い、被害者を巡る人間関係という、大きく三つのストーリーが並行し、絡み合いながらスピーディに展開する。犯行動機や犯人像に関わる謎解きと、警察官、暗殺者、宗教者それぞれが抱えている社会的な問題が重なり合い、単なる警察小説では終わらない深みが加わっている。さらに、最後の真相解明も衝撃的で、まさに解説者が書いている通り「マイクル・コナリーのハリー・ボッシュシリーズを思い出させる、高レベルな謎解きとハードボイルドの融合作である。
シリーズ読者にはもちろん、北欧ミステリーファン、ハードボイルドファンにオススメだ。
贖い主 上 顔なき暗殺者 (集英社文庫)
ジョー・ネスボ贖い主 顔なき暗殺者 についてのレビュー
No.486:
(8pt)

心を読ませないヒロインが魅力的

著者の第三長編である2010年の作品を加筆改訂した文庫版。変則的な恋愛小説かと思わせて実はノワールなミステリー小説である。
母の愛人であった歳の離れた男と結婚した幸田節子は、夫が交通事故で意識不明になったことから、平穏な日常が崩れ始めたのを感じるようになる。夫が事故にあった場所は母の家から近く、母と夫はまだ関係を続けていたのだろうか? また、趣味の短歌仲間の女性が実の娘を虐待しているのではないかと疑問を持ち、自分の育ってきた環境を思い出し、嫌な思いに囚われるようになる。さらに、節子は愛人である澤木に、幸田の前妻との間の娘探しを依頼したのだが、捜索の過程でさまざまな過去が浮かび上がってきた。沈着冷静、ときには冷血にも見える節子は壊れてしまいそうな心を抱えながらも、強靭な意志の力で苦境を乗り越え、最後まで自分の思いを貫徹する。
序章でいきなり主人公が焼死し、その半月ほど前から第1章が始まるという展開からしてミステリアス。歳の離れた夫婦、母と娘の確執、女同士の軋轢、腐れ縁のごとき愛人関係など、通俗的な泥沼恋愛小説かと思わせる道具立てながら、本筋はきちんとした犯罪小説である。さらに、主人公・節子のタフな態度が一本筋を通しており、ハードボイルドでサスペンスフルなミステリーに仕上がっている。
桜木紫乃ファンはもちろん、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメしたい。
硝子の葦 (新潮文庫)
桜木紫乃硝子の葦 についてのレビュー
No.485: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

新たなハードボイルドヒーロー登場

50代後半の日系人作家のデビュー作。2017年のシェイマス賞など3つの新人賞を受賞し、MWA、CWAの最優秀新人賞にもノミネートされたという傑作ハードボイルドミステリーである。
主人公の黒人青年アイゼイア・クィンターベイは、通称IQと呼ばれ、地域の黒人社会から様々な問題を持ち込まれる、便利屋的な無免許の私立探偵である。社会の役に立てばいいというスタンスで仕事をしていたIQだったが、世話をしている身体障害の少年のために大金が必要になり、高校時代の泥棒仲間であるドッドソンの口利きで、大物ラッパー・カルの仕事を請け負った。カルはある夜、自宅で巨大なピットブルに襲われて殺されそうになったので、犯人を捜してもらいたいという。防犯ビデオを見たIQは、巨大な犬を操る男の存在を発見し、この男がプロの殺し屋であると推定。わずかな手がかりから凶悪な犯人を追い詰めて行く。
物語は、ラッパー襲撃犯を追い詰めるパートと、頭のいい高校生だったIQが便利屋的な探偵になるきっかけとなった過去の出来事のパートが交互に繰り返されて展開するのだが、双方のつながりが分かりやすいので読み辛さは全く感じない。というか、物語に奥行きの深さが加えられている。さらに、ラップを中心にした黒人音楽の世界、LAの黒人とヒスパニックのギャングたちの抗争などが彩りを添え、非情に読み応えがある。
すでに第2作は発表されており、今年中に第3作も発売予定というので、邦訳が待ち遠しい。
ハードボイルドファン、テンポのいいサスペンスのファン、軽めのアクションミステリーのファンにオススメだ。
IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョー・イデIQ についてのレビュー
No.484: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

今回はストーリーが最高

ボッシュ・シリーズとしては「ナイン・ドラゴンズ」に続く2011年の作品。前作とは違い、ホームグラウンドであるLAで事件捜査に活躍する本格的な警察小説である。
未解決事件班に戻ったボッシュは、新たな相棒になったチュー刑事と、DNA鑑定で有力な手がかりが見つかった20年以上前の強姦殺人事件を担当することになった。被害者の体に着いていた血痕が、ある性犯罪常習者のDNAと一致したという。ところが、その容疑者は当時8歳の少年だったのだ。なぜ、8歳の子どもの血液が成人女性である被害者の遺体に着いていたのか、本格的に捜査を始めようとしたとき、ボッシュたちは市警本部本部長から呼び出され、警察に影響力を持つ市議会議員の息子が高級ホテルから転落死した事件の捜査を命じられる。市議と警察上層部の両方からプレッシャーを受けたボッシュは、2つの事件を並行して捜査しようとするのだが、市議会と警察の政治的な駆け引きにも巻き込まれ、事態は複雑になるばかりだった。
厳しい状況にもめげず冷静に正義を貫こうとするハードボイルドな刑事・ボッシュが戻ってきた、警察小説の王道を行く作品である。派手なアクションは無く、緻密な推理と徹底した証拠固めで事件の真相に迫るボッシュには、一種の神々しさもある。ボッシュも派手に立ち回るには歳をとり過ぎたという理由もあるのかもしれないが、それでも女性関係では現役バリバリで、まだまだ活躍しそうである。
シリーズ読者には必読。本格派の警察小説ファン、ミステリーファンにもオススメできる。
転落の街(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー転落の街 についてのレビュー
No.483:
(8pt)

狂ひけん人の心(非ミステリー)

谷崎潤一郎の晩年を、三番目の妻の妹の視点から描いた私小説風の物語。作家という人種の業の深さを感じさせる作品である。
登場人物のキャラクターが明確で、ストーリー展開も波乱に富んでいて最後まで読み飽きることが無い。谷崎潤一郎に興味があろうと無かろうと関係なく楽しめる、一級品のエンターテイメント作品である。
デンジャラス
桐野夏生デンジャラス についてのレビュー
No.482: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「スティーブン・キング強力推薦!」は嘘じゃない

イギリスの女性作家のデビュー作。スティーブン・キングの「スタンド・バイ・ミー」のほろ苦さを持つミステリーである。
1986年、イギリス南部の田舎町に暮らす12歳の少年エディは、4人の仲間たちと森で遊んでいて少女のバラバラ死体を発見する。被害者の少女は、夏休みに移動遊園地で事故にあったときにエディが助けた美少女だった。そのときエディと一緒に助けたのは、新任教師のハローラン先生だった。アルビノで白墨のように真っ白なハローラン先生に教わってエディたちは、白墨人形の絵を使った秘密の伝言ごっこに興じていた。
遊園地での事故から少女の殺害までの間に町では、中絶手術を行うエディの母の診療所に対する反対運動が起き、仲間のひとりの兄が川で溺死し、警官の娘の妊娠騒ぎがあり、大人の社会が反目と対立を深めるに連れて、仲が良かった5人の間にも亀裂が入り、いつしかバラバラになって少年時代が終わってしまった。
それから30年後の2016年、地元の町で教師になっていたエディの元に白墨人形の絵とチョークが送られてきたことから、エディは少女殺害事件の真相を探り始めることになった。
1986年と2016年を行き来しながら薄皮をはぐように事件の真相が明らかにされて行くのだが、シーンが変わるたびに新たな発見があり、関係者の隠したい、忘れたい過去を突きつけてくる残酷さに、読者は戦慄する。そして最後の最後、読者は思いがけない衝撃に襲われることになる。
スティーブン・キング読者にはもちろん、ホラー要素が少ないので広く一般のミステリーファンにもオススメできる、良質なエンターテイメント作品である。
白墨人形 (文春文庫 チ 13-1)
C・J・チューダー白墨人形 についてのレビュー
No.481:
(7pt)

桜木作品には珍しい読後感(非ミステリー)

北海道を舞台にした6作品の連作短編集である。作品ごとに中心人物が異なるが、全体として大きな1本のストーリーとなっている。
いつも通り、訳ありの男女が様々な喜びと悲しみのドラマを綴って行くのだが、本作品は最後がハッピーエンドになっていて驚かされた。
文庫の解説で北上次郎氏が書いているように、「いい小説だ。静かで、力強い小説だ」。読者の立場によって様々に読み込むことができる、奥の深い連作小説である。
ワン・モア
桜木紫乃ワン・モア についてのレビュー
No.480:
(8pt)

死にとりつかれたヒロイン

ジュリア・ロバーツが惚れ込んで映画化を進めているという売り文句の作品。ヒロインが個性的で、ストーリーも面白いハードボイルドなサスペンスミステリーである。
従軍したイラク戦争のPTSDに悩まされている元ヘリパイロットのマヤは、二週間前に公園で富豪の御曹司である夫を目前で射殺された。しかも、4ヶ月前には姉のクレアも殺されていた。身辺に不安を覚えたマヤは、二歳の娘の安全のために親友の勧めで自宅に監視カメラを設置したのだが、そこに死んだはずの夫の姿が映っていた。さらに、姉を殺した銃と夫を殺した銃が同一であることを、警察から知らされた。警察には犯人と疑われ、監視カメラ映像で夫の姿を見たことをPTSDによる幻覚ではないかと指摘され、動揺し、混乱しながらもマヤは、夫と姉の殺人の真実を探ろうと奮闘する。その調査はやがて、イラクでの自分の行動が巻き起こした波紋、17年前の夫の高校時代の出来事にまで遡っていった。
まず第一に、イラク戦争のPTSDに悩む女性兵士という設定がユニーク。戦争の後遺症に悩む男性主人公は数多くいるが、女性というのは珍しい。しかも、この女性が精神的にも肉体的にもタフで、行動力があり、感情を動かされることがほとんどないという、まさに現代ハードボイルドの王道である。また、事件の謎解きもきちんとしており、複雑な伏線の回収も見事。様々なエピソードやストーリー展開も映像的で、ジュリア・ロバーツが活躍するシーンが目に浮かんでくる。
ハードボイルドファン、サスペンスミステリーファンには、絶対のオススメだ。
偽りの銃弾 (小学館文庫)
ハーラン・コーベン偽りの銃弾 についてのレビュー
No.479:
(8pt)

北の大地の女たち(非ミステリー)

桜木紫乃のデビュー作「雪虫」を始め、6作品を収録した短編集。どれもさびしく、悲しく、それでも温もりを感じる男と女の物語である。
全作品が、作者のホームグラウンド北海道を舞台に展開される男と女の物語ばかりだが、どれも物語の軸になっているのは女の生き方である。まさに桜木紫乃の原点が見える作品集といえる。
桜木紫乃ファンには必読。生きることの苦さを否定しない方にもオススメだ。
氷平線 (文春文庫)
桜木紫乃氷平線 についてのレビュー
No.478:
(8pt)

不惑は揺れる(非ミステリー)

40代の中間管理職を主人公にした5作品の短編集。不惑と言われる年代の男たちの迷いと戸惑いをユーモラスに描いた、良質なエンターテイメント作品である。
恋に、仕事に、家族に、友情に揺れ動き、時に暴走し、時に立ち止まる。男たちの馬鹿さと可愛さが真に迫って、思わず苦笑してしまう。
老若男女を問わず、オススメだ。
マドンナ (講談社文庫)
奥田英朗マドンナ についてのレビュー
No.477:
(8pt)

悲しくて強い女たち(非ミステリー)

厳しい北海道の自然や社会状況に押しつぶされそうになりながら、それでも生き延びて行く悲しい女(と、それに関係する男)を描いた、短編集。7つの作品すべてに共通するのが「過ぎちゃえば、いろんなことがどうでも良くなる」という女の悲しさと強さである。
人生に生きづらさを感じたとき、「あなただけではないよ」と言ってくれるような作品集である。
誰もいない夜に咲く (角川文庫)
桜木紫乃誰もいない夜に咲く についてのレビュー
No.476: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

まさに「英国本格派」ミステリー

イギリス本格ミステリーの正統な後継者として人気が高まっている「フィリップ・ドライデン」シリーズの第4作。緻密な構成の謎解きが楽しめる、本格派ミステリー作品である。
歴史的な寒波に見舞われたイングランド東部の街の公営アパートで、すべての窓を開け放った状態で住人の男・デクランが凍死しているのが見つかった。閉所恐怖症で室内の扉を全部取り払っていたというデクランは、飲酒癖があり、過去に自殺を図ったことがあったことから警察は自殺と判断した。しかし、部屋のコイン式電気メーターに硬貨がたっぷり補充されていたことから自殺説に疑問を抱いたドライデンが調査を始めると、デクランの親友も奇妙な事故死にあっていた。さらに、二つの事件の関係者は、ある過去の出来事でつながっていたことが判明。その謎の解明は、ドライデン自身をも巻き込み、思いもよらない展開を見せるのだった。
伏線の張り方、読者をミスリードするエピソードの入れ方、謎が謎を呼ぶ展開の膨らませ方など、まさに英国本格派の真骨頂。しかも、現代的な社会問題を背景に置くことで、古臭さを感じさせないのも見事である。
シリーズの4作目だが、本作から読み始めても何の問題もない。英国本格派ファン、謎解きミステリーファンには絶対のオススメだ。
凍った夏 (創元推理文庫)
ジム・ケリー凍った夏 についてのレビュー
No.475: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ヴァランダー警部が生まれるまで

スウェーデンを代表する警察小説ヴァランダー・シリーズの9作目。「殺人者の顔」でデビューする前のヴァランダーの警察生活を描いた3本の短編と2本の中編で構成された作品集である。
マルメ署の22歳の新米警察官としてパトロールやデモ警備にいそしむ「ナイフの一突き」から、イースタ署のリーダーとしておなじみのメンバーと活躍する「ピラミッド」まで、年代順にヴァランダーの成長(?)の跡をたどっている。つまり、意固地で頑迷なヴァランダー警部というキャラクターがどうやって形成されたのかに、本書の主眼が置かれている。従って、犯罪の動機、犯人探しなどの警察小説部分より、家族、特に父親や妻(恋人から元妻まで)、娘、あるいは同僚たちとの関わりの方が読みどころとなっている。
シリーズファンには必読。北欧ミステリーファンにもオススメだ。
ピラミッド (創元推理文庫)
ヘニング・マンケルピラミッド についてのレビュー
No.474:
(7pt)

野球愛と夢(非ミステリー)

ホームドラマ風ミステリーと野球小説で独自の世界を築いている著者の野球をテーマにした書き下ろし作品。野球への愛と夢を諦めない人たちへのエールが詰まったハートウォーミングなエンターテイメント作品である。
かつて「天才少女投手」と言われたこともあった実咲だが、27歳になった今は会社が潰れて宿無しになり、転がり込んだ友だちのところからも追い出される散々な状況に陥っていた。そんな中、ふと立ち寄った女子プロ野球観戦がきっかけとなり、アラ還、アラ古希大歓迎という女子野球チーム「あかつき球団事務所」に居候させてもらうことになった。宿代代わりに練習を手伝うことになった実咲だが、ぎりぎり9人しかいないメンバーのほとんどが野球初心者というチーム事情にほとほと呆れ、出来るだけ早く辞めようと思っていた。しかし、様々事情から辞められずメンバーたちと付合ううちに、何かが刺激された気がしてきた・・・。
何かに必死で挑戦する姿を見て、自分も諦めた夢に再挑戦するという、ありがちなストーリーではあるが、50代以上の女子だけのアマチュア野球チームという舞台設定が成功して、どんどん感情移入して行き、最後には爽やかな読後感が得られる作品になっている。
野球好きの方、夢の力を信じたい方にはオススメだ。
([あ]10-1)あかつき球団事務所へようこそ (ポプラ文庫)
青井夏海あかつき球団事務所へようこそ についてのレビュー
No.473:
(7pt)

女性蔑視の時代に抗う少女の成長物語として

イギリスの児童文学者の本邦初訳作品。ファンタジー作品であり、少女の成長物語であり、事件の謎を解くミステリー作品でもある。
ダーウィンの進化論が衝撃を与えた19世紀後半のイギリスで、著名な博物学者であるサンダリー師は化石のねつ造スキャンダルによって本土を追われ、小さな島に一家で移住する。だが、そこでもスキャンダルは広まり苦境に陥る中、サンダリー師が死体で発見された。自殺と思われたのだが、父を敬愛する14歳の娘・フェイスは疑問を抱き、一人で真相を解明しようと決心する。父が隠していた「嘘を養分として成長し、その実を食べると真実が見える」という不思議な木を発見したフェイスは、その木の力を借りて父の死の謎を解いていく・・・。
まあ、ありえない設定が気に入るかどうかで作品の評価が決まって来るのだが、ミステリーというより、少女の成長物語として読めば、それなりの面白さがある。ファンタジー系の作品が好きな方にはオススメできる。
嘘の木
フランシス・ハーディング嘘の木 についてのレビュー
No.472: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

サスペンスフルではあるけれど

ドイツでは人気が高いのサイコミステリー作家の2014年の作品。ミステリー評論家の評価が高く、「サイコ」を抜いたミステリーとの評価を目にしたのだが、立派にサイコなミステリーである。
ドイツ警察の囮捜査官・マルティンは、5年前に妻と息子が姿を消した(自殺したとされた)豪華客船「海のスルタン」号の乗客である老女から「息子のテディベアが見つかった」という奇妙な電話を受けた。しかも、テディベアは2か月前に船内で行方不明になっていて、突如として姿を現した少女が持っていたという。仕事を放り出して船に乗り込んだマルティンだが、テディベアの謎を解くことはできず、さらに別の事件に巻き込まれてしまった。巨大な客船には深い闇があり、マルティンは踏み込めば踏み込むほど迷路にはまってしまうのだった・・・。
客船という閉鎖空間での事件、過去の事件と現在の事件の奇妙なつながり、誰もが何かを隠しているような登場人物など、サスペンスミステリーの基本的な要素がたっぷり詰め込まれている。また、人物のキャラクター設定も明確で理解しやすい(訳者が上手だということだろう)。それでも読後感がイマイチだったのは、犯行動機、捜査手順などにリアリティが欠けているから。結末部分でのどんでん返しも、ご都合主義に過ぎる気がした。
サイコミステリーファンにはオススメできる。
乗客ナンバー23の消失
No.471:
(8pt)

死刑は正義なのか?

スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビによる「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第3作。日本では2011年に刊行され絶版になっていたのが2018年に再文庫化された作品である。グレーンス警部のチームによる捜査より死刑制度に焦点を当てた社会派ミステリーである。
スウェーデンで暮らすカナダ国籍の男が暴力事件で逮捕された。ところが捜査を進めると、ジョン・シュワルツと名乗るこの男のパスポートは偽造されたものだった。しかも、6年前にオハイオ州の獄中で死んだアメリカ人死刑囚であることを示す証拠が出てきた。もし、死を偽装して逃走した死刑囚であれば、アメリカ政府は引き渡しを要求し、死刑を実行するだろう。だが、EUの一国であるスウェーデンは死刑を廃止しており、死刑制度がある国への死刑囚の送還は禁止されている。とは言え、アメリカと良好な関係を維持したいスウェーデン政府は、引き渡しを拒めるだろうか? 死刑制度に反対のグレーンス警部たちは、あの手この手で送還を阻止しようとするのだが・・・。
事件捜査自体は単純で、グレーンス警部らは捜査より政治的な駆け引きに奮闘する。一方、ジョン・シュワルツの地元、オハイオ州の田舎町では被害者の父親を筆頭に死刑の実行を求める声が高まり、ジョンの引き渡しと死刑の実行は当然のことと思われている。このアメリカとスウェーデンの意識の違いが、物語を面白くしている。死刑制度が当然と捉えられている日本では、アメリカに近い世論が形成されるのだろうが、そこに小石を投げ入れるぐらいの波紋は起こしそうな問題提起を含んだ作品である。
警察小説としても合格点レベルに達しているし、シリーズ作品ならではのメンバーたちの様々な変化も興味深い。シリーズ愛好者には必読。社会派ミステリーファンにもオススメだ。
死刑囚 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド死刑囚 についてのレビュー
No.470:
(7pt)

既読感があるけど、面白い

イギリスの新人女性作家のデビュー作。2015年の発刊ながら、すでに7作目まで発表され人気シリーズの地位を確立した、若い女性警部が主役のテンポがいい警察小説である。
私立高校の女性校長が自宅浴室で溺死させられた。真面目で堅物の校長はなぜ殺されたのか? キム警部のチームが捜査に乗り出し、この校長がある遺跡の発掘に関心を持っていたことを知り、その理由を探ると、そこはかつて校長が勤める児童養護施設があった場所だった。さらに第二の殺人事件が発生、被害者が昔、同じ児童養護施設で働いていたことが分かった。しかも、遺跡の発掘場所からは子どもの白骨死体が発見された。殺されて埋められたのは誰か? 養護施設で何があったのか? キム警部のチームは、粘り強く事件の真相に迫っていく・・・。
ヒロインは34歳、独身、バイクが趣味で人付き合いが苦手で、ときには上司や規則を無視して突っ走るという、どこかで読んだことがあるキャラクターである。さらに、埋められていた死体が、現在の悲劇を引き起こすという構成も既読感がある物語だが、テンポよく話が進むのですいすいと読み進められ、読後感も悪くない。
軽めのミステリーがお好きな方にはオススメだ。
サイレント・スクリーム (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.469:
(7pt)

過去に引き戻されたようで、実は違う

MWA最優秀長編賞にノミネートされたという、女性弁護士が主役の作品。表4の紹介文ほどの衝撃作ではないが、思いがけない展開に引き込まれる法廷&犯人探しミステリーである。
43歳の女性弁護士オリヴィアは、3人を射殺したとして逮捕された容疑者の娘から「あなたがパパを助けないとダメ」という電話を受けた。戸惑うオリヴィアだったが、容疑者が学生時代からの恋人で結婚寸前でオリヴィアの側から破談にしたジャックだと知って驚愕する。一方的にジャックを傷付けたという負い目を感じていたオリヴィアが弁護を引受け、調査を進めたのだが、犯罪行為をする訳が無いと信じていたジャックには、様々な不利な証拠や背景がつきまとっていた。ジャックは罠にかけられたのか、計画的な復讐をとげたのか。オリヴィアがたどり着いた真実は・・・。
古くから知っていて、絶対に犯罪を犯すような人物ではないと信じていても、客観的な証拠が犯人ではないかと指し示したとき、どこまで信じれば良いのか。一般の人間ならまだしも、刑事弁護人となると「事実には目をつぶって弁護する」という苦しみもある。ヒロインの苦悩がメインテーマで、犯人探しのストーリーも説得力があり、どんでん返しではない揺れも面白い。
ただひとつ、物語とは関係のないことではあるが、43歳の女性弁護士が容疑者である同級生や検事、記者などを「きみ」という二人称で呼ぶのが、難点。言葉使いも、中途半端に中性的で違和感がある。会話文が続くと、だれの発言か確認するために読み返さなくてはいけなくて、読書のペースを乱されたのが不満だった。元の英文のせいなのかもしれないが、性別や年齢による言葉使いの差で発言者を判断する日本人読者に配慮して訳してもらいたかった。
償いは、今 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アラフェア・バーク償いは、今 についてのレビュー