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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1204

全1204件 201~220 11/61ページ

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No.1004: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

犯人と探偵の頭脳対決のはずが、ずるい設定で肩透かし

2022年、デビュー作である本作がニューヨーク・タイムズのベストセラーで2位に登場したという新人女性作家の長編ミステリー。因縁がある連続殺人犯から挑戦された監察医が謎を解いていくサイコ・サスペンスである。
ルイジアナ州のバイユーで発見された女性の惨殺死体。身元が分かる物はなく、凶器も見つからなかったのだが、検死を担当した監察医・レンは死体が冷凍されていたと推測し、それを聞いたニューオリンズ市警の刑事・ルルーは2週間前に同じくバイユーで発見された女性の死体との関連性に気付いた。さらに、現場には2つの事件のつながりを示唆する犯人からのメッセージが残されており、連続殺人犯がさらなる犯行を目論んでいる可能性が高まった。集まった証拠品の中に、自分の記憶を刺激するものがあることに気付いたレンは、一連の犯行は自分に向けられた挑戦ではないかと直感する。一方、バイユー内の広大な敷地に住む連続殺人犯・ジェレミーは拉致してきた「客」を敷地内に放ち、追い詰めて殺すという「人間狩り」に耽っていた…。
ストーリーは探偵役となるレンと殺人犯・ジェレミーがそれぞれの視点で語る章が交互に繰り返されて進み、最初から犯人は分かっている。従って物語のポイントは犯人探しや動機の解明より、サイコパスと病理学者の知恵比べ、互いが命をかけて追い詰め合うサスペンスにある。そして迎えるクライマックスには、思いがけない仕掛けが隠されていた。この仕掛けをどう捉えるか、好きか嫌いかで評価が大きく異なる作品である。
サイコ・サスペンス好きならまずまず楽しめるが、謎解き、心理サスペンスが好きな人にはやや物足りない。読者を選ぶ作品である。
解剖学者と殺人鬼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アレイナ・アーカート解剖学者と殺人鬼 についてのレビュー
No.1003: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

あの時、別の選択をしていたら、違う人生を生きているだろうか?

28歳、しかも長編2作目となる本作で2023年のエドガー賞最優秀長編賞受賞という快挙を成し遂げた、新進女性作家の傑作ミステリー。死刑執行直前の死刑囚と、死刑囚に関わった三人の女性の過去から現在までの人間ドラマを描いた心理サスペンスである。
4人の女性を殺害したアンセルは死刑執行の12時間前、女性刑務官を抱き込んだ逃亡計画を実行に移そうとしていた。脱走に成功したら、獄中で書き継いできたエッセイを出版し世間の注目を集めるつもりでいるのだが、死刑へのカウントダウンは止まらない・・・というのが、死刑囚のパート。そこに、幼いアンセルを遺棄して逃亡した母親・ラヴェンダー、アンセルの元妻の双子の妹・ヘイゼル、アンセルと同じ里親の下で育った州警察捜査官・サフィという3人の女性の回想のパートが重なってくる。4つの視点からの物語が絡み合い、積み重なることでアンセルの人間性、事件の誘因、事件が引き起こした波紋が徐々に浮き上がってくる。構成は複雑だが主要人物がくっきりと書き分けられているので、リーダビリティは悪くない。
シリアル・キラーの犯行と逃亡、警察による追跡のミステリーではなく、アンセルという殺人犯が誕生したのはなぜか、どこで歯車が狂ったのか、どこかの時点でアンセルが違う選択をしていたらアンセルや3人の女性は違う世界を生きていたのだろうかという人間ドラマとして評価したい作品である。
人間性にこだわったノワール、心理サスペンスのファンにオススメする。
死刑執行のノート (集英社文庫)
ダニヤ・クカフカ死刑執行のノート についてのレビュー
No.1002: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ホラー風味とイラスト挿入のアイデアが奏功した傑作

本邦初訳となるアメリカの新進作家の長編ミステリー。オカルト、ホラーかと思わせておいてきちんとミステリーになっている巧妙な構成のページターナーである。
薬物依存症から回復し、社会復帰を目指していたマロリーは高級住宅街に住む裕福な夫妻の一人息子・テディのベビーシッターとなる。自分に懐いてくれる5歳の男の子・テディは可愛いし、良く気がつく夫妻から邸宅の離れを専用の住まいとして提供され大満足のマロリーだったが、ある日、テディが奇妙な絵を描いていることに気が付いた。森の中で男が女性の死体を引きずっているという絵は、昔、マロリーが住む部屋をアトリエにしていた女性画家にまつわる殺人事件を暗示しているようだった。さらに日を追うごとにテディが描く絵はリアルさを増し、何かを訴えているようになる…。
タイトルが示すように、テディが描く奇妙な絵から隠された事件が解明されるというストーリーは謎解きミステリーとして完成されている。そこに味付けされるのが、奇妙な絵のゴッシックとホラー要素で、折々に挿入された絵がサスペンスを盛り上げて行く。物語の構成に加えて装丁(これも構成の一部だが)の仕掛けの上手さが成功した作品である。最後のどんでん返しには賛否両論がありそうだが、そこまではどんどん積み重ねられる謎の渦に読者を引き摺り込む強力な引力をもっており、謎解き、ホラー、オカルト、サスペンスと、様々な楽しみ方ができる。
巻末の解説にもあるように、読む前には絶対に挿入されている絵を見ないことをオススメする。
奇妙な絵
ジェイソン・レクーラック奇妙な絵 についてのレビュー
No.1001: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

どんどん人が死んでも、罪悪感も嫌悪感もゼロ!

人気の「殺し屋シリーズ」の第4作。書き下ろし長編小説である。
今回の舞台は東京の高級ホテル。これまでの作品に出てきたキャラクターももちろん活躍するのだが、それ以上にユニークな新人たちが参戦し、超高速でドタバタ・アクション・サスペンスが繰り広げられる。ホテルという限られた空間で数時間のうちに終わってしまう物語だが、人物キャラクターや人間関係、事件の背景、殺人手段など構成要素が複雑かつ奇想天外で、あっという間に伊坂ワールドを堪能し、放り出された気分になる。もっと読み続けたいと思うものの、この中身の濃さを考えると、ちょうどいいボリュームと言える。日本の小説には珍しくどんどん人が殺されていくのだが、全く悲惨さがなく、笑って読めるのが楽しい。
殺し屋シリーズのファンはもちろん、伊坂幸太郎のファン、ドライなユーモアがあるノワールのファンにオススメする。
777 トリプルセブン
伊坂幸太郎777 トリプルセブン についてのレビュー
No.1000: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

生保不正受給の闇と闘う公務員たち。ストーリーの上手さで読み応えあり

2012年から14年に雑誌連載された、著者の長編第4作。先輩ケースワーカーが殺害されたことをきっかけに、若き職員たちが生活保護不正受給の闇を暴く社会派ミステリーである。
意に沿わない職務に回された臨時職員の聡美を励ましてくれた先輩ケースワーカーの山川が受給世帯訪問中に火事に遭い、焼死体となって見つかった。翌日、職場を訪ねて来た刑事から山川が殺害されたことを知らされた。仕事熱心で人望があり、常に受給者に寄り添っていた山川が、なぜ殺されたのか。聡美は、先輩だがケースワーカーとしては同じく新人の小野寺と二人で山川の担当を引き継ぎ、現場を回るうちに、山川が何かを隠していたのではないかと疑念を抱くようになる。受給者の裏に暴力団の影がちらつき、しかも山川はその不正を知っていただけでなく、自らも関与していて殺されたのではないか。聡美と小野寺は公務員としての職分を越え、犯人探しに奔走する…。
これまで何度も報道されてきた生活保護不正受給、貧困ビジネスの実態をリアリティ豊かに描き出すだけでなく、善意の塊のようなケースワーカーが暴力団と組んで公金を掠め盗っていたのではないかという設定と謎解きは殺人犯探しのミステリーとしても一級品で、まさに王道の社会派ミステリーである。
文庫解説にある通り、佐方貞人シリーズから虎狼の血シリーズへの転回を告げる力作であり、柚月裕子ファンは必読。時代を映す社会派ミステリーのファンにも自信を持ってオススメする。
パレートの誤算 (祥伝社文庫)
柚月裕子パレートの誤算 についてのレビュー
No.999: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

舞台、テーマは興味深いが、ちょっと期待し過ぎたか

アガサ・クリスティ賞、本屋大賞を受賞したデビュー作「同志少女よ、敵を撃て」に続く、第二次世界大戦期を舞台にした少年・少女の成長物語。史実とフィクションが入り混じっているのだろうが、作者が現時点から俯瞰的に見ていることが随所に表れていて、リアリティが薄い。表紙からも推測できるように、中高生にならインパクトがあり、共感されるだろう。
現在の世界情勢、世の中の不安定さを考えると強く訴えるところがある作品だが、ちょっと期待外れだった。
歌われなかった海賊へ
逢坂冬馬歌われなかった海賊へ についてのレビュー
No.998:
(8pt)

最後まで惹きつけられる、倒叙型ミステリーの傑作!

1949年に発表されたフレンチ警部シリーズの一作で、2011年の創元推理文庫新訳版。殺人事件の容疑者、犯行様態、動機などがすべて明らかにされているのに、最後まで緊迫した推理が楽しめる倒叙型ミステリーの傑作である。
恋人と定めたフランクに体良く操られ、勤務する外科医から金銭を搾取する犯罪に手を染めてきたダルシーは、フランクが転職して行った先の引退貴族が死亡したことを知った。亡くなった貴族の一人娘は莫大な遺産を相続することになり、フランクはその娘との結婚を目論んでいるようだった。あまりにもフランクに好都合な展開を疑問に思ったダルシーは、事態の真相を探ろうとして著名な弁護士に相談したのだが、依頼の奇妙さを訝った弁護士はフレンチ警視に自分の疑問をぶつけた。検視審問では自殺とされ、一件落着のしていたのだが、一連の流れに違和感を抱いたフレンチ警視は再捜査に乗り出すことになった…。
前半の三分の二まではフランクとダルシーの置かれた状況、犯行への流れ、殺人の現場の様相がすべて読者の前に開示され、ただ一つ犯行の物証だけが見つからないという、倒叙型ミステリーの王道の展開で、フレンチ警視が登場してからは一気に波乱に満ちた謎解きミステリーとなる。そして最後、う〜んと唸るクライマックスが待っている。どんでん返しの妙と人間ドラマの濃密さのバランスがよく、読み応えがあるエンタメ作品である。
75年も前の作品とは思えない、少しも古びていない倒叙ミステリーの傑作として、多くの方にオススメしたい。
フレンチ警視最初の事件 (創元推理文庫)
F.W.クロフツフレンチ警視最初の事件 についてのレビュー
No.997: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

熱血ヒロインと落ちこぼれ上司、絵に描いたような勧善懲悪ドラマ

花咲舞シリーズの第一弾。2003年から4年にかけて雑誌掲載された8作品を収めた連作短編集である。
すでにドラマが人気シリーズになっており、内容は紹介するまでもないが、銀行(仕事)を愛する直情型の若きヒロインが、落ちこぼれだが懐のふかい上司と組んで銀行の不正や不合理を糺していくビジネス・エンターテイメントである。主人公はまさにテレビ受けするキラキラ・キャラだが物語の背景、銀行業務の内実などはリアリティがあり漫画チックではない。
半沢直樹のファン、池井戸潤のファンには文句なしのオススメだ。
新装版 不祥事 (講談社文庫)
池井戸潤不祥事 についてのレビュー
No.996: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

虚実入り交じって盛り上がる、詐欺師と素人の知恵比べ

ミステリー史上に輝くコン・ゲーム小説の大傑作。最後までハラハラ、ドキドキが持続し、最後にニヤリとさせられる、良質な傑作エンターテイメントである。
移民から大富豪に成り上がった詐欺師・ハーヴェイが仕掛けた罠にかかって大損させられた四人の男が集まり、失った合計100万ドルを取り返すためにチームを組んだ。メンバーはオックスフォードの数学教授、富裕層相手の医者、フランス人の画商、イギリス貴族の若き後継者で、それぞれが得意とする分野の知識を生かした4つの作戦を企画し、全員が協力して実行する。しかも、騙し取られた100万ドルをきっちり、多くもなく少なくもなく取り戻すという、極めて厳しい制限を自らに課した作戦である…。
騙す相手を徹底的に調査・分析し、相手が自らかかってくる罠を仕掛け、想定外のピンチも当意即妙の対応で乗り切るストーリーは波乱万丈、スピーディーで、殺人や暴力とは無関係にサスペンスが盛り上がる。詐欺師はもちろん、挑戦する四人もキャラクター設定も絶妙で、読むほどに惹きつけられていく。そしてクライマックスでは、そう来たか!と唸ること間違いなし。
1976年という半世紀ほど前の作品だが少しも古さを感じさせない傑作エンターテイメントであり、年齢・性別・好きなジャンルを問わず、多くの人にオススメしたい。
百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)
No.995: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

カフェオレと菓子パンしか食わない、鬼警部

2023年度の国内ミステリー3冠に輝いた、警察ミステリーの新シリーズ。雑誌掲載の5作品を収めた連作短編集である。
群馬県警本部捜査一課の葛警部は上司にはおもねず、部下に配慮することなく、真相解明のためには一切の妥協を排し組織に馴染まないのだが、かと言って日本の警察が守るべきルールを破ることはない。その卓越した能力には周囲も文句のつけようがなく、一たび捜査に入ると、わずかな違和感や疑問も軽視せず徹底的に考え抜く鬼刑事になり、まさに寝食を忘れて没頭する。何せ文中で口にするのはカフェオレと菓子パンだけなのだから・・・という主人公の設定が効果的。派手なトリックや過激な言動はなく、ただひたすら「なぜ?」を追求することで事件の背景、真相を暴いていくストーリーは、地味だが力強い吸引力を持っている。
日本の警察ミステリーのファンならきっと満足させる、一級品のエンタメ作品としてオススメする。
可燃物
米澤穂信可燃物 についてのレビュー
No.994: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

衰え知らずの巨匠に圧倒された

ロンドン警視庁警察官「ウィリアム・ウォーウィック」シリーズの第4作。警部に昇進し、新設の未解決事件特別捜査班の班長となったウォーウィックが宿敵・ワトソン弁護士と死んだはずの美術品詐欺師・フォークナーのコンビと対決する警察集団ミステリーである。
ウォーウィックの班が再捜査することになった5件の事件のうち4件は永遠の宿敵・ワトソンが弁護を担当し、無罪や微罪にしたケースだった。班のメンバーが再捜査を進めていると、かつてスイスで死亡し火葬されるのを確認したはずのフォークナーが実は名前も外見も変えて生きていて、再びワトソンと組んで悪事を企んでいることが判明する。永遠の仇敵・フォークナーの出現に闘志を燃やすウォーウィックはメンバーとなった元囮捜査官のホーガン警部補とともにフォークナーを追い詰めて行く…。
死んだはずの仇敵との知恵比べ、辣腕弁護士によって刑を免れたり、微罪で逃れたりした犯罪者へ正義の鉄槌を下すほとんどアウトローな作戦という二つの物語が同時進行するストーリーは波乱に富み、一瞬たりとも気を抜けない。こんなスピーディーで緊迫感のある物語を書く81歳の巨匠に、ただ圧倒されるばかりである。シリーズの第4作なので前3作を読んでいるに越したことはないが、著者が「一作一作を異なるテーマの独立した作品にする」と語っている通り、本作だけでも問題なく楽しめる。
警察ミステリー、中でも群像劇、人間ドラマに惹かれる方にオススメしたい。
運命の時計が回るとき ロンドン警視庁未解決殺人事件特別捜査班 (ハーパーBOOKS)
No.993: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ヨーロッパで暮らす黒人は、あまりにも悲惨

デビューからの3作品が次々にドイツ・ミステリー大賞を受賞したという実力派の本邦初訳作品。不法残留者であるアフリカ系黒人青年が、殺人を目撃したことからベルリンの街中を逃げ回る逃走と追跡のサスペンスである。
ガーナ出身のコージョは失職したため不法残留者となり、日々、当局の摘発を恐れながらトルコ人街のカフェで働き、愛人のドイツ人女性が管理する空きビルで寝泊まりしていた。ある夜、ねぐらの向かいのアパートに住む娼婦が殺害されるのを目撃したコージョは現場を見に行き、犯人がアパートから出るのに遭遇し、さらに住人に目撃されてしまう。目撃証言から警察は黒人青年を容疑者として探し始めた。強制送還を恐れて、無実を訴えて警察に出頭することもできないコージョは自力で犯人を探そうとするのだが、逆に真犯人からも追われることとなる…。
とにかく逃げて、逃げて、逃げ回るコージョがあまりにも悲惨で同情を禁じ得ない。普通に暮らしているだけでも、周りのドイツ人だけでなく警察にも常に疑惑の目で見つめられるストレスは想像を絶するものがある。移民、難民に寛容な国というドイツのイメージが覆されることは間違いない。アフリカ系移民の生きづらさという社会派のテーマだが、物語はスピーディーなサスペンス作品に仕上がっている。
平穏な日常に隠された社会病理を描くミステリーが好きな方にオススメする。
ベルリンで追われる男 (創元推理文庫)
No.992: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

最後の最後で面白くなった(非ミステリー)

大ベストセラー「ケインとアベル」の姉妹編。戦後(第二次対戦後)のアメリカで起業家として成功し、政治の世界でも大統領候補の一番手と目されるまでの活躍を見せる女性の一代記である。
無一文でポーランドから辿り着き、一代でホテル王国を築いたアベル・ロスノフスキの一人娘・フロレンティナは才気煥発の美しい女性に育っていた。当然、父の事業を継ぐものと思われていたのだが、父の宿敵・ケインの息子・リチャードと出会い、駆け落ちしたことから勘当同然となる。しかし、父譲りの経営感覚で起業に成功し、やがては父の事業を継ぎ、さらに大きく発展させた。それでもどこか物足りなさを感じるフロレンティナは請われて政治の世界に入り、下院議員から上院、さらには大統領が視野に入るまでに上り詰めて行く…。
アメリカ初の女性大統領が誕生するか否かがクライマックスで、下巻の後半部分はスリリングだが、それまでは印象深いエピソードもあるものの全体がノンフィクション的なテイストで、小説としてはやや物足りない。しかし、1982年にこういうアメリカの政治状況を想定していた筆者の洞察力、構想力は素晴らしい。脱帽である。
姉妹編とはいえ「ケインとアベル」を読んでなくても問題なく楽しめる。人間ドラマ、大河ドラマ好きの方にオススメする。
ロスノフスキ家の娘 上 (ハーパーBOOKS)
No.991: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

家族って、結局は藪の中ってことか

高級住宅地で父親が母親に殺害される、家庭内殺人事件が発生。絵に描いたような幸せなエリート一家に何が起きたのか? 隣り合って、互いに意識しながら暮らす三家族の視点から事件の真相が徐々に明らかになるストーリーだが、謎解きミステリーではない。同じ場面でも登場人物が変わり、視点が変わるたびに変化していき、なおかつ最後まで真相は藪の中という、どこにでもある家族の闇の物語である。同じ屋根の下で暮らしていても互いの心のうちは分からない、そこが究極のミステリーということか。
イヤミス好きの方なら楽しめるだろう。
夜行観覧車 (双葉文庫)
湊かなえ夜行観覧車 についてのレビュー
No.990:
(7pt)

謎解き重視だと期待外れだろう

2008年度MWAの最優秀長編賞受賞作。5年ぶりに故郷に帰ってきた男が幼馴染みが殺害された事件に遭遇、さらに家族が巻き込まれる事件が続き、その真相を追究することで愛する家族の隠されてきた実像に直面する人間ドラマ、家族物語である。
5年前、殺人の濡れ衣を着せられ、無罪になったものの父親に勘当されて故郷を捨てたアダムが、二度と戻らないと決めた町に戻ったのは、幼馴染のダニーが「人生を立て直すのに力を貸してほしい。一対一で話したい」と電話してきたからだった。最初は断ったのだが気になって仕方なく、帰ってきたのだった。5年ぶりの故郷の景色は変わっていないものの、家族や元恋人との関係は微妙に変化し、それ以上に町の雰囲気は大きく変わっていた。その背景となっているのが、アダムの父が所有する広大な農場を含む土地の原発建設計画で、莫大な開発資金を巡って開発派と反対派の対立が先鋭化していたのだった。家族や元恋人とぎこちない再会を果たしたアダムはダニーを探すのだが、ある事情からダニーは逃亡中で行方が知れないという。そうこうするうちにアダムはダニーが殺されているのを発見したばかりか、重要参考人にされてしまう。再び濡れ衣を着せられたアダムはしゃにむに謎を解こうと突っ走る…。
親友の死、家族が巻き込まれた事件の謎を解くミステリーであるとともに、アメリカ南部の大農場一家の崩壊と再生の物語でもある。正直、ミステリー部分だけでは大した作品ではない。むしろ、男の友情、恋人との愛情、親子・兄弟など家族の絆の物語としての完成度の方が高い。
ミステリー風味の人間ドラマ、家族ドラマが好きな方にオススメする。
川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョン・ハート川は静かに流れ についてのレビュー
No.989:
(7pt)

セリフは面白いがストーリーは中途半端(非ミステリー)

2021年にオンライン・メディアに連載された長編小説。素人の主婦が書いた小説と編集者の感性が奇妙に重なり合っていく、奇想的物語である。
作中ところどころにインパクトのあるセリフが登場し、ストーリー展開のアクセントになっているのだが、物語全体の印象度が薄くミステリーとしては物足りない。
ロング・アフタヌーン
葉真中顕ロング・アフタヌーン についてのレビュー
No.988:
(8pt)

ボッシュとバラード、はみ出しコンビは息ぴったり!

深夜勤務刑事バラード・シリーズの第3弾。ボッシュとバラードがタッグを組んで二人組のレイプ犯とロス市警に巣食う悪徳警官を暴き出す、警察ミステリーである。
新年を祝う銃声に紛れて発射された銃弾による殺人事件が発生。現場に駆けつけたバラードが捜査を始め、残されていた薬莢が10年ほど前に起きた殺人で使用されたのと同じ銃から発射されたものだと判明した。当時の捜査を担当したのが現役時代のボッシュだったため、バラードはボッシュにコンタクトし、力を貸してもらうことにする。またバラードは深夜に女性宅に侵入する二人組の強姦犯ミッドナイト・メンの捜査も担当しているのだが同僚が役立たずで、ほとんど一人で不眠不休で走り回ることになる。バラードの上司は片方の事件を他部署に任せようとするのだが「自分の事件を取り上げられる」のを嫌がるバラードは、市警内部のルールを破ってでも犯人探しを止めようとはしなかった…。
組織内トラブルから他人が嫌がる深夜勤務に回されているバラード、最後は市警と対立して辞職したボッシュ、スネに傷を持つはみ出しもの二人が不屈の精神と使命感で難局を突破するスピーディーな捜査活動が一番の読みどころ。ボッシュ・シリーズの胸熱は健在である。2020年の大晦日から物語が始まるので、背景にあるコロナのパンデミックに対するアメリカ社会の反応も興味深い。
バラード・シリーズ、ボッシュ・シリーズというよりコナリーのファンには絶対のオススメ作。警察ミステリーのファンにも自信を持ってオススメする。
ダーク・アワーズ(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリーダーク・アワーズ についてのレビュー
No.987:
(7pt)

文句なく面白い、でも長編には敵わない

2000〜2003年に雑誌掲載された8作品を収めた連作短編集。終身検視官の異名を持つ捜査一課調査官・倉石が鋭い観察眼と現場で鍛えた知識で自殺か他殺かを見極めていく警察ミステリーである。
それぞれの話のキーとなるトリックや犯行様態はヴァラエティに富み、謎解きミステリーとして飽きさせない。さらに、事件の背景となる人間模様が丁寧に描かれ、ヒューマンドラマとしても味がある。短編としての完成度は納得できるのだが、欲を言えばこれだけの物語を短編だけで終わらせるのは勿体無い気がした。
横山秀夫ファン、日本の警察小説ファンに自信を持ってオススメする。
臨場 (光文社文庫)
横山秀夫臨場 についてのレビュー
No.986: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前半は詐欺師の成長物語、後半はハリウッド的ハッピーエンド

傑作と言われながら未訳のままだったのが、半世紀を経て邦訳された1970年の作品。元諜報員が、不正と暴力に汚染された南部の小都市の乗っ取り計画に参画し、曲者たちと騙し合いを繰り広げるコンゲーム&クライム・サスペンスである。
属する諜報組織に裏切られ、東南アジアの小国で留置されていた秘密諜報員のダイはサンフランシスコに送り返され、上司から手切金と引き換えに口を噤むよう強制された。そんな失意のダイに近付いてきたのが都市計画コンサルタントを自称するオーカットで、巨額の報酬で「街をひとつ腐らせてもらいたい」という無謀な話。しかも、オーカットにダイを推薦したのが、ダイと浅からぬ因縁がある元同僚という、なんとも筋の悪い話だった。しかし、心に虚無を抱えていたダイは依頼を承諾し、オーカットの仲間の元悪徳警官、元娼婦たちとチームを組み、田舎町へ乗り込んだ…。
街の政治家や警察を策略と暴力で総取り替えして権力や裏の利権を争うという設定が日本人にはピンとこないが、悪人同士が知恵を絞って争うという、いつものロス・トーマス世界。暴力と騙しの狂想曲が繰り広げられ、最後はちょっと忙しい展開になるが、ニヤリとさせて大団円を迎える。
「冷戦交換ゲーム」からウー&デュラント・シリーズへ変化する途中の傑作として、ロス・トーマス・ファンには必読の作品。アメリカの謀略もの、コンゲーム、軽めのハードボイルドのファンにもオススメする。
愚者の街(上)
ロス・トーマス愚者の街 についてのレビュー
No.985:
(8pt)

シリーズ化されそうな、警察小説のニューヒロイン登場

2022〜23年に小説誌に連載された長編小説。女性が主人公のシリーズに実績がある著者の新たな代表作になりそうな、ポテンシャルの高い警察エンタメ作品である。
居所不明になった容疑者の捜査が専門の警視庁捜査共助課に勤務する二人の女性刑事。犯人の顔を記憶し、街頭でひたすら一致する顔を探す「見当り捜査班」の川東小桃、地縁や人脈などのわずかな手がかりを手繰って容疑者に迫る「広域捜査共助係」の佐宗燈。捜査手法も年齢も違う二人がそれぞれの持ち味を生かして容疑者を確保するエピソードが交互に繰り返され、最後は捜査共助課全体で犯人逮捕のクライマックスとなる。一般的にはあまり知られていない部署の興味深い捜査手法の詳細がメインの物語であり、また二人のヒロインの仕事と家庭の両立をめぐる葛藤というヒューマンドラマでもある。ノン・シリーズではあるが、ヒロインを始めとする登場人物のキャラクターや人間関係の面白さ、ストーリーの躍動感を考えると、これだけで終わるのはもったいない。本作の最後も後を引く終わり方で、シリーズ化への期待が持てそうだ。
犯人追求のスリリングな展開と人情味がある仲間関係の心地よさのバランスが取れており、警察集団小説、そう佐々木譲の「道警シリーズ」などのファンなら大満足間違いなし。オススメだ。
緊立ち 警視庁捜査共助課
乃南アサ緊立ち 警視庁捜査共助課 についてのレビュー