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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
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2000〜2003年に雑誌掲載された8作品を収めた連作短編集。終身検視官の異名を持つ捜査一課調査官・倉石が鋭い観察眼と現場で鍛えた知識で自殺か他殺かを見極めていく警察ミステリーである。
それぞれの話のキーとなるトリックや犯行様態はヴァラエティに富み、謎解きミステリーとして飽きさせない。さらに、事件の背景となる人間模様が丁寧に描かれ、ヒューマンドラマとしても味がある。短編としての完成度は納得できるのだが、欲を言えばこれだけの物語を短編だけで終わらせるのは勿体無い気がした。 横山秀夫ファン、日本の警察小説ファンに自信を持ってオススメする。 |
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傑作と言われながら未訳のままだったのが、半世紀を経て邦訳された1970年の作品。元諜報員が、不正と暴力に汚染された南部の小都市の乗っ取り計画に参画し、曲者たちと騙し合いを繰り広げるコンゲーム&クライム・サスペンスである。
属する諜報組織に裏切られ、東南アジアの小国で留置されていた秘密諜報員のダイはサンフランシスコに送り返され、上司から手切金と引き換えに口を噤むよう強制された。そんな失意のダイに近付いてきたのが都市計画コンサルタントを自称するオーカットで、巨額の報酬で「街をひとつ腐らせてもらいたい」という無謀な話。しかも、オーカットにダイを推薦したのが、ダイと浅からぬ因縁がある元同僚という、なんとも筋の悪い話だった。しかし、心に虚無を抱えていたダイは依頼を承諾し、オーカットの仲間の元悪徳警官、元娼婦たちとチームを組み、田舎町へ乗り込んだ…。 街の政治家や警察を策略と暴力で総取り替えして権力や裏の利権を争うという設定が日本人にはピンとこないが、悪人同士が知恵を絞って争うという、いつものロス・トーマス世界。暴力と騙しの狂想曲が繰り広げられ、最後はちょっと忙しい展開になるが、ニヤリとさせて大団円を迎える。 「冷戦交換ゲーム」からウー&デュラント・シリーズへ変化する途中の傑作として、ロス・トーマス・ファンには必読の作品。アメリカの謀略もの、コンゲーム、軽めのハードボイルドのファンにもオススメする。 |
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2022〜23年に小説誌に連載された長編小説。女性が主人公のシリーズに実績がある著者の新たな代表作になりそうな、ポテンシャルの高い警察エンタメ作品である。
居所不明になった容疑者の捜査が専門の警視庁捜査共助課に勤務する二人の女性刑事。犯人の顔を記憶し、街頭でひたすら一致する顔を探す「見当り捜査班」の川東小桃、地縁や人脈などのわずかな手がかりを手繰って容疑者に迫る「広域捜査共助係」の佐宗燈。捜査手法も年齢も違う二人がそれぞれの持ち味を生かして容疑者を確保するエピソードが交互に繰り返され、最後は捜査共助課全体で犯人逮捕のクライマックスとなる。一般的にはあまり知られていない部署の興味深い捜査手法の詳細がメインの物語であり、また二人のヒロインの仕事と家庭の両立をめぐる葛藤というヒューマンドラマでもある。ノン・シリーズではあるが、ヒロインを始めとする登場人物のキャラクターや人間関係の面白さ、ストーリーの躍動感を考えると、これだけで終わるのはもったいない。本作の最後も後を引く終わり方で、シリーズ化への期待が持てそうだ。 犯人追求のスリリングな展開と人情味がある仲間関係の心地よさのバランスが取れており、警察集団小説、そう佐々木譲の「道警シリーズ」などのファンなら大満足間違いなし。オススメだ。 |
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勘違いや思い込みから生まれる悲劇を巧妙に物語に仕上げた、傑作ミステリー。登場人物や事件の背景などを考えるより、単純に自分の思い込みが覆されるどんでん返しを楽しむ小説である。
どんでん返し系ミステリーのファンにオススメする。 |
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2022年〜23年の週刊誌の連載に加筆・修正した長編小説。カルト教団が引き起こした事件に関与して指名手配された女性の逃亡と生き直しを、徹底的に女の視点から描いた桜木紫乃ワールド満開のダークなロマン・サスペンスである。
母親に強制されてバレエダンサーを目指しながら挫折した岡本啓美は母の支配から逃れるためにカルト教団に入信し、自覚がないまま教団が引き起こしたテロ事件に巻き込まれ、指名手配されることになった。何の罪に問われるのか分からないまま逃亡し名前も変え、外見も変えて17年後、結婚写真を撮った直後に逮捕された。追われるから逃げたのか、逃げるから追われたのか、哀し過ぎる逃亡記である。 どこに逃げようとも常に見つかる危険に気持ちが落ち着かないはずなのに、妙に達観して流れ着いた場所で根付いていくヒロインの太々しさがユニーク。人間としての弱さと女としての強さが同居し、次々に現れる様々な顔を見ているだけで面白く、ストーリー展開にどんどん惹きつけられていく。実にパワフルな物語である。 スリリングな読書体験が得られる物語として、サスペンス、ミステリーのファンにもオススメしたい。 |
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2001年から3年にかけて文芸誌に掲載された6作品を収めた短編集。どれもミステリーと呼ぶには謎が無さすぎる話なのだが、社会人なら当然に従うべきとされている職業倫理と、それに相反する私情がぶつかるときに生まれる登場人物の心の揺れがミステリー要素を含んでおり、その緊張感で読ませる。
6作品の中では表題作「看守眼」と「口癖」が面白かった。 |
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ロス・トーマスが日本で人気を博するきっかけとなった1984年の作品。生まれ育った町の刑事だった妹の爆殺事件の真相を求めて兄が地元の闇を探っていく、エドガー賞長編賞にふさわしいハードボイルド・ミステリーである。
ワシントンの立法府関係の顧問を務めるベン・ディルは刑事だった妹が車に仕掛けられた爆発物で殺害されたため、故郷に帰ってきた。そこでベンは、正義感が強く人望もあった妹が実は謎の多い生活を送り、賄賂をとっていたのではないかと知らされる。そんなことが信じられないベンが調査を始めると、妹は何かを隠すために二重生活を送っていたのではないかと思われた。さらに、ベンが帰郷した目的にはもう一つの理由があった。それは幼なじみで地元の有力者に成り上がっているジェイクのスキャンダルの証拠を掴むことだった…。 妹の死の謎を解くことと幼なじみのスキャンダルの証拠を掴むという、二つのテーマが複雑に絡み合ったストーリーは前半はわかりにくいものの中盤以降ははっきりと見えてきて、数多い登場人物もキャラクターが分かってくると判別しやすくなり、物語はどんどん盛り上がっていく。登場人物たちの言動はPIものハードボイルドのテイストで、そこに政治謀略ものの胡散臭さが加味され、まさにロス・トーマスの世界が満開の作品である。 少しも古さを感じさせない作品として、ハードボイルド好きならどなたにもオススメしたい。 |
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独自の視点から警察小説の新ジャンルを牽引する著者の2005年の作品。県警組織の要となる総務課長が失踪した不祥事をきっかけとする幹部たちの権力闘争を描いたヒューマン・ドラマである。
阪神淡路大震災が発生した日、遠く離れたN県警にも激震が走った。事務方のトップである総務課長の不破が行方不明になったという。幹部からも部下からも人望厚い不破は、なぜ姿を消したのか? この事実が警察庁の知るところになれば一大不祥事であり、県警上層部は全力で行方を探すとともに事態が外部に漏れるのを必死で防ごうとするのだが、ことの背景には県警本部長の失態があり、さらに幹部の間の権力闘争が重なり、解決への道は複雑になるばかりだった…。 総務課長が蒸発しただけでも大問題だが、そこにキャリア組と地元叩き上げの確執、同じ職階の幹部同士の利害対立が重なり警察上層部はバラバラになる。さらに過去の選挙違反摘発事件、殺人犯の逃走、交通違反もみ消しなどスキャンダルになりかねない出来事が次々に起き、次第に各人の本音が露わになるプロセスがスリリング。謎解きミステリーの要素より人間ドラマに重点が置かれているのだが、下手な謎解きより格段に面白い。 横山秀夫ファンはもちろん、警察群像もののファンにオススメする。 |
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英国推理作家協会賞最優秀長編賞の受賞作で、「シェトランド四重奏」の第一弾。住民同士が全て知り合いという閉鎖社会に起きた少女殺害事件の謎解きと、背景となる人間関係の重苦しさを描いた重厚なミステリーである。
イギリスの最北端、シェトランド島で16歳の女子高生が殺害された。通報を受けた地元警察の警部・ペレスが捜査を始めたのだが、住民の間ではすでに「犯人はマグナスだ」という噂が広がっていた。というのも8年前、11歳の少女がマグナスの家を訪ねてから行方不明になっていたからだった。だが、知的障害がある老人・マグナスの犯行説に違和感を持ったペレスは粘り強く地元の濃密過ぎる人間関係を解きほぐし、閉鎖社会ならではの悲劇を目にすることになった。 現在の事件と8年前の事件が絡まり合い、誰もが知り合いで、誰もが秘密を抱えている最果ての地で暮らす人々の複雑な関係と心理が描かれていく。そのストーリー展開は、殺人の謎解き以上にスリリングでミステリアス。さらに舞台となるシェトランド島の荒涼たる風土も相まって、物語全体は暗く重いヴェールに覆われており、決して簡単に読み進められる物語ではない。 犯人探しと同時に複雑な人間ドラマを楽しみたい方にオススメする。 |
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「マンチェスター市警エイダン・ウェイツ」シリーズが好評な著者のシリーズ外長編。友人であるイヴリンの遺稿を基に、著者・ノックスがノンフィクション作品に仕上げたという体裁の物語だが、全体が大きな虚構であり、読者は迷宮に誘い込まれるという斬新過ぎるミステリーである。
19歳の女子学生・ゾーイが大学寮から失踪した事件から6年、事件に興味を持った作家・イヴリンは関係者への取材を進め、ノンフィクション作品を書いたのだが、原稿完成の直前に亡くなってしまった。執筆中のイヴリンから相談を受けていたノックスが遺志を継ぎ、一冊の書籍に仕上げたというのが、物語の大枠である。ストーリーの中心はゾーイ失踪の謎解きで、これだけでも読み応えがある長編なのだが、さらにイヴリンとノックスのやり取りがミステリアスで、どこまでが真実か、誰が嘘をついてるのかが分からなくなるという、もう一つのミステリーが重ねられてくる。しかも、作品の中にノックスが事件関係者として登場してくるのだから、ますます混乱させられる。まるでミステリー読者の固定観念を破壊するのが目的のような、野心的な作品と言える。 迷宮に誘い込まれるような読書体験だが、ゾーイ失踪事件だけでも一級のミステリーとして楽しめるし、それを包み込む作者からの挑戦も知的興趣を呼ぶ面白さがあり、誰もがそれぞれの楽しみ方ができる作品としてオススメしたい。 |
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1995年に亡くなった巨匠の最後の長編。上司の陰謀で失職した元陸軍少佐が大統領選挙の裏金の行方を探るサスペンス・ミステリーである。
ニカラグアで陸軍とCIAが仕掛けた陰謀に加担させられた上に上司の罠に掛けられて退職を余儀なくされたパーテインは田舎町で働いていたのだが、そこに現れたかつての上司から口封じされ、仕事も奪われてしまった。失職したパーテインだったが、友人からロスに住む大物政治資金調達係の女性・ミリセントの仕事を紹介された。その仕事とは、大統領選挙の裏金120万ドルが盗まれたので秘密裏に取り戻したいというものだった。パーテインは秘密の大金に関わった、胡散臭い連中を相手に絡まった騙し合いと欺瞞の網を解こうとするのだが、そこにパーテインを罠に掛けた上司たちが殺し屋を差し向けてきた…。 ニカラグアでの陰謀とロスでの裏金消失という2つの事件が錯綜する物語の中心に位置するパーテインが主役のハードボイルドであり、それぞれに個性的なキャラクター、互いに裏を読み合う駆け引き、キレのいい場面展開、ウィットに富んだ会話というハードボイルドの王道が楽しめる。ロス・トーマス作品にしては比較的楽に筋を追えるのも嬉しい。 ロス・トーマスのファンにとっては、遺作として必読。それ以外の人でもサスペンス、コンゲームのファンなら必ず満足できると、自信を持ってオススメする。 |
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「そしてミランダを殺す」以来、ヒット作を連発している著者の2020年の作品。8つの名作ミステリーに絡めたと思しき連続殺人の全容をミステリー専門店主の主人公が解明する、ミステリーマニアならではの野心的な傑作である。
ボストンでミステリー専門店を営むマルコムのもとをFBI捜査官・グウェンが訪れ、マルコムが書いたブログ「完璧なる殺人8選」をなぞった連続殺人が起きているのではないかと告げる。ボストン近隣で起きた未解決殺人事件の中に、犯行手口が8つの有名作品に触発された疑いが濃いものがあるという。偶然の一致では片付けられらない事件の詳細を知り、マルコムはグウェンの捜査に協力することにする。そこで知れば知るほど、誰かが自分のリストに基づいて殺人を続けている疑いが濃くなり、犯人は身近にいるのではないかとマルコムは疑心暗鬼に陥っていった…。 物語はマルコムの回想録という形式で、全てマルコム視点で書かれているのだが、途中からマルコムが「信頼できない語り手」になり、読者はさらなる迷宮に誘い込まれていく。とにかく最後まで着地点が見えない、スリリングな謎解きミステリーであり、取り上げられた8作品を読んでいればもちろんだが、読んでいなくても謎解きの面白さが満喫できる。 謎解きミステリーのファンには絶対に外れない傑作としてオススメしたい。 |
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日本では「ブルックリンの少女」でブレイクしたミュッソの2020年の作品。物語の主人公が作家で、その作家を動かしている小説家(物語の作者)が主人公と関わってくるという、実験的な構成のミステリーである。
ニューヨークに住む売れっ子作家・フローラの娘が自宅から姿を消した。誘拐されたのかと思われたが身代金の要求もなく半年が過ぎた頃、フローラのエージェントであるファンティーヌが執筆再開を提案し、そのきっかけにと言ってプレゼントを置いていった。そこからフローラは、パリ在住の作家・オゾルスキが事件に関与していると推察し、オゾルスキと対決して娘を取り戻そうとする…。 母親が密室から姿を消した娘を取り戻す密室ミステリー・サスペンスと思わせておいて、物語は作家と登場人物の関係、現実と虚構の関係が入り乱れる迷宮にはまり込む。まるでエッシャーの騙し絵のような不安に満ちた世界へと読者を誘っていく。謎解きといえば謎解きなのだが、トリックや伏線の回収で大団円ではなく、現実と虚構の境界線を手探りして辿り着いたのが夢の世界だったようなおぼつかなさがある。 事件の謎を解いてカタルシスを覚える作品ではなく、読者を選ぶ作品である。 |
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「ワニ町」シリーズの第6作。いつもの3人がいつも通りに事件に巻き込まれて(突入して)大騒ぎする、ユーモアミステリーである。
独立記念日のシンフルの町のバイユーで爆発事故が発生。密造酒製造中の事故かと思われたのだが、覚醒剤の密造中だったようらしいと判明。3人は地元マフィアに依頼されたこともあり、真相解明に乗り出して、あれやこれやの大騒動の末に悪党一味を捕まえる…。 まあ、予定調和のストーリーで新鮮味はないが、よくぞここまで馬鹿馬鹿しいシーンを思いつけるものだと感心するほどコミカルなエピソード満載で飽きさせない。すでにアメリカでは25作!まで出ているようで、作者の筆力に感嘆するばかりである。 マンネリの良さを味わいたい、コージー・ミステリーのファンにオススメする。 |
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イギリス推理小説作家クラブ会長を務めるという超大物のミステリー小説では本邦初訳作品。1930年代のロンドンを舞台に、残虐な犯罪を犯した男たちを処刑してまわる美女の謎を解明していくサスペンス作品である。
1930年のロンドン、コーラスガール殺人事件の真相を暴き一躍有名人となったレイチェル・サヴァナクには正体不明な印象が付き纏っていた。事実、レイチェルは女性首切り殺人の犯人を突き止め、自殺に追いやったのだった。レイチェルに興味を抱いた新聞記者・ジェイコブが取材しようとするのだが冷たく拒否された。それでも諦めないジェイコブは執拗に取材を進め、とうとうレイチェルと行動を共にするまでになったのだが、その最中、密室での自殺、上演中のショーの舞台での焼死などに遭遇することになった。しかも、一連の事件はレイチェルが仕掛けたものだった…。 殺人事件の謎を解くミステリーだが、犯人、犯行目的、犯行様態は読者に知らされており、物語の焦点は「レイチェルはなぜ、このような犯行を重ねるのか?」の一点に絞り込まれている。その真相が明らかになるストーリーはサスペンスフルで、二転三転し、最後まで読者を引きつける。さすが「探偵小説の黄金時代」著者らしい、幅広いミステリー知識を活かした力技である。また、ヒロインのレイチェルのクールビューティーぶりはもちろん周辺人物のキャラも際立っており、古さより華やかさを感じるエンタメ作品である。 英国正統派探偵小説ファンでなくても十分に満足できるサスペンス・ミステリーとして、多くの方にオススメしたい。 |
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自分が好きなジャンルではないため初めて読んだ、御年91歳の老大家の1986年の作品。展開のスピードが早く、しかも騙しとどんでん返しの技巧が巧みで中身が濃い中編ミステリー集である。
収録3作品の中では、表題作が一番読み応えがあった。事件の動機や真相はやや時代遅れな感があるものの次のページへと引っ張っていくパワーは素晴らしく、一気に読み終えた。 古典的名作として読んでおいて損はないとオススメしたい。 |
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シェトランド諸島を舞台にした「ジミー・ペレス警部」シリーズの最終巻となる第8作。イギリス本土から移住してきた家族の納屋で相次いで発見された首吊り死体にまつわる、複雑な人間関係を解きほぐして行く警察ミステリーである。
一家で移住してきたフレミング家の納屋で、前の持ち主が首吊り自殺しているのが見つかった。さらに家の中に奇妙な絵を描いた紙片が置かれることが続き、不安を覚えた一家の母親・ヘレナはペレス警部に相談したのだが、その翌日、今度は島の旧家の子守りをしている若い女性・エマの首吊り死体が見つかった。ペレスは上司であり恋人でもあるリーヴス主任警部の指揮のもと、部下のサンディ刑事とのチームで捜査に乗り出した。誰もがみんな知り合いという閉鎖的なコミュニティだけに、噂は飛び交うものの秘密は隠され続け、真相には容易に近づけないでいた。さらに、ペレスとリーヴスの関係に大きな変化がもたらされ、チームワークがギクシャクする事態にもおちいった…。 殺人事件の捜査とペレスを中心にした人間関係のドラマが同時並行で進み、なかなか謎解きには至らない。そのスローペースを退屈させないのがシェトランド諸島の自然と地域の人間性で、ゆったりとした物語世界を作り出している。中でも誰もが知り合いという閉鎖的社会の息苦しさはおぞましくあり、読み応えもある。その分、謎解きミステリーとしては動機、犯人像に鋭さがない。 シリーズ最終巻だが、これまでの作品を読んでなくても十分に楽しめることは保証する。 |
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刑事加賀シリーズの一作。最後に加賀が「犯人はあなたです」と断言するのだが読者には明示されず、袋綴じ解説「推理の手引き」を読んで分かったような気にさせられる、犯人探しゲームである。
教会のヴァージンロードで新郎・穂高が倒れ、そのまま息を引き取った。死因は、穂高の常備薬であるカプセルの中身が毒薬に変えられていたことだった。主な容疑者は三人、落ち目の作家である穂高の事務所を取り仕切る立場だが、恋人を穂高に奪われた駿河、穂高の担当編集者で元恋人の雪笹、新婦・美和子の兄でありながら美和子への執着心を隠し持つ神林。三人とも強い殺意を持っていてもおかしくなく、しかも穂高にカプセルを渡せる機会があった。さらに、毒入りカプセルを作ったのは、駿河から穂高に心変わりし、最後に裏切られ、挙式前日に穂高家の庭で自殺した女性・浪岡だった。 容疑者が三人とも「自分が殺した」と自覚しており、さらに裏切られて自殺した浪岡にも動機や犯行機会があり、容疑者視点の章が変わるたびに犯人探しは二転三転する。最後は加賀刑事の粘っこい捜査が結実し、昔の推理小説の典型パターン、容疑者を集めて名指しするのだが、なんだかすっきりしない読後感が残るのは、登場人物が全員、共感を覚えないキャラだからだろうか。 犯人当てゲーム、作者との知恵比べがお好きな方にオススメする。 |
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マルティン・ベック・シリーズの第3作、新邦訳版では4冊目の作品。夏のストックホルムで起きた連続少女殺害事件に取り組むベックたちの地道で諦めない捜査活動を描いた、警察集団ミステリーである。
開放的な気分に包まれた夏のストックホルム市街の公園で幼い少女の無惨な遺体が発見された。さらにその数日後、別の公園でも少女が殺害され、市民は恐怖に襲われた。二つの現場に残された物証は乏しく、どちらも人の出入りが自由な場所だったが目撃証言も確かなものは得られず、頼みの綱になりそうな証言は会話がたどたどしい3歳の男児と現場をうろついていた強盗犯のものしかなかった。次の犯行がいつ起きるか、緊張する捜査陣だったが手がかりが得られず、焦りが募るばかりだった。だが、ベックの記憶に残っていた出来事をきっかけに、事態は一気に動き出すのだった…。 犯人像が固まるまでに時間がかかり、緊迫感に満ちた物語展開も、きっかけをつかむとあっという間に解決になだれ込んでいく。そのあたりの展開はやや調子が良過ぎる気もするが、それも地道な捜査の積み重ねがあってこそということで、警察小説としてのリアリティーは従来通り違和感がない。個性的なメンバーの中でもひときわ目立つラーソンが登場し、チームの形が完成したという点で、シリーズ読者には必読作品である。 シリーズ愛読者にはもちろん、警察集団ミステリーのファンに自信を持ってオススメする。 |
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トンデモ精神科医・伊良部シリーズの第4弾。2007年から22年までの雑誌掲載5作品を収めた短編集である。
各作品のテーマが時代状況を映している他は従来通りの「他人の悩みは面白い!」に徹したコメディーである。各作品に登場する患者同様、伊良部に身を委ねればきっと心が軽くなる。 日本社会の閉塞感にうんざりしている読者にオススメする。 |
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