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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第11作。今回は、殺人の疑いをかけられた義母・ミッシーを救うためにジョーが探偵役を果たす犯人捜しミステリーである。
あまりにも上昇志向が強く自分勝手で、ジョーにとっては天敵ともいえる義母・ミッシーの5人目の夫である大富豪・アールが射殺され、自分が経営する風力発電施設の発電タービンに吊るされているのを発見したジョーはすぐに保安官事務所に通報した。ところが、ジョーの宿敵であるマクラナハン保安官はすでに事件の概要を把握しているようだった。さらに、ミッシーが殺人容疑で逮捕されたという。なぜ保安官は事件を予測していたのか、ミッシーを逮捕する根拠は何か? 疑問だらけの事件を解明するために、ジョーは一人で真相を探り始めた。一方、ジョーの盟友・ネイトはかつて因縁があったシカゴギャングの女に狙われ、隠れ家をロケットランチャーで襲撃されて恋人のアリーシャを殺害された。ジョーは最愛の妻の母であり、娘たちの祖母であるミッシーの容疑を晴らすために、ネイトはアリーシャの復讐のために、すべてを投げうって走り出した…。 う~~ん、全体に西部劇的な自己中心の正義が強調された乱暴な物語になっている。ジョーの正義が信じられればこの展開でいいのだろうが、あまりにも独善的で「正義の暴走」が鼻につき、シリーズの基調である社会的正義が薄められた感がある。 シリーズのファンには安心してオススメする。冒険サスペンスのファンも楽しめるだろう。 |
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発売前から映画化権が売れ、2021年の年間ベストミステリーの一冊に選ばれるなど話題となったアメリカ人女性作家のデビュー作。著者が「太陽がいっぱい」を再読して執筆したと言っている通り、殺人が起きても陰惨ではなく、舞台となったモロッコの風土をほうふつさせる、明るくてひねりが効いた心理ミステリーである。
作家になる野望を抱いて都会に出てきたフローレンスだったが、編集アシスタントとして働く出版社の同僚をはじめとする周囲に圧倒され、一行も書けなくなっていた。厳しい現実に意気消沈し、生活が壊れかけていたフローレンスだったが、著名な匿名作家モード・ディクソンのアシスタントの仕事が舞い込んできた。願ってもないチャンスと喜んだフローレンスは住み込みで働き始め、次第にモードの生き方に影響されていった。そして、モードの取材旅行に同行したモロッコである事件が発生し、モードになりたいというフローレンスの欲望が爆発することになった…。 成功のためにすべてをかける野心的な若者がルールを踏み外し、崖を飛び越えて…という、よくあるパターンの物語で、途中から結末が見えてくるのだが、最後に一ひねりして今風の心理ミステリーに仕上がっている。「驚愕必至のサスペンス」という謳い文句はオーバーだが、最後まで面白く読める作品である。 軽めの心理ミステリーのファンにオススメする。 |
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胸アツ法廷ミステリー「トム・マクマートリー」シリーズの第4作にして完結編。シリーズの最後を飾るにふさわしい激情的なロマンチック・サスペンスである。
トムの宿敵である凶悪な殺人鬼ボーン・ウィーラーが仲間である殺し屋マニーの手引きで脱獄した。自分を監獄に送り込んだトムへの復讐の念に燃えるボーンは、トムが苦しむ姿を見たいがために、トムが愛する者たちを次々と襲い、トムを追い詰めてゆく。末期がんでいよいよ死期が迫っているトムだったが、愛する人々を守るために、命を削ってボーンに立ち向かうのだった…。 決してあきらめない男の最後なら、これしかないだろうという胸アツの物語で、第一作の時点ですでにがんに侵されていたトムが最後の気力を振り絞って戦う姿がこれでもかというぐらいに熱く、雄々しく、気高く描かれている。その分、ミステリー的な深さはなく、単調な勧善懲悪ものなのが惜しい。 シリーズのファンは必読。法廷ミステリー、現代的なヒーロー物語のファンにもオススメしたい。 本シリーズはこれで完結だが、トムの熱血を受け継ぐ弁護士ボーが主役の新シリーズが始まっているという。期待したい。 |
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ボストン市警の敏腕女性刑事「D.D.ウォレン」シリーズの第10作。第9作「棺の女」に登場したフローラとのダブル・ヒロインが複雑な一家殺人事件の謎を解く社会派ミステリーである。
仲睦まじい家族の4人が銃撃され殺害されているのが発見されたのだが、16歳の長女・ロクシーだけは2匹の犬の散歩に出ていたため被害を免れたようだった。ところが不思議なことにロクシーは帰宅せず、携帯電話にも反応がなく、姿を消してしまった。果たしてロクシーが殺害犯なのか、あるいは犯行の理由や犯人を知っていて必死で逃げているだけなのか? ウォレン部長刑事をリーダーにボストン市警は全力を挙げてロクシーの行方を追う。さらに、「棺の女」で監禁から生還したフローラは密かに、女性のためのサバイバル自助サークルを結成しており、ニュースを目にすると居ても立っても居られなくなり、ロクシーを助けようとする。ロクシーが犯人である可能性を捨てきれないウォレンたち警察と、あくまでも被害者として助けたいフローラたちは、対立しながらも同じ目的のために手を握り、事件の複雑な背景を読み解いていく。 アルコール依存症でネグレクトの母親による家族崩壊、里親制度の矛盾や貧困ビジネス、子供たちの孤独や受難、さらには家族とは何かという根源的な問いかけなど、いずれも大きくて重いテーマが盛りだくさんでかなりヘビーな作品である。そのため、犯人や犯行動機など物語の根本のアイデアは面白のだが、登場人物のキャラクター、犯行や捜査のプロセスなどが緻密ではなく、エンタメ作品としてまとまり切れていないのが残念。 「棺の女」が気に入った人は必読。本作がシリーズ初の方には「棺の女」だけは読んでおくことをオススメする。 |
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国際的ベストセラー?「ヨーナ・リンナ警部」シリーズの第7作。タイトルから分かる通り、生きていた怪物ユレックとヨーナの最終決戦である。
「砂男」の最後でサーガ警部に撃たれて川に流されたはずのシリアルキラー・ユレックが蘇り、再びヨーナとサーガの破滅を画策する。その悪魔の手はヨーナとサーガが愛する人々にありとあらゆる手段で迫ってくる。驚異的な頭脳と体力を持つ怪物に追い詰められたヨーナとサーガは、命を賭けた戦いに打って出た…。 レクター博士を筆頭に、悪の権化のような犯人が登場する作品は犯人の怪物性が際立つほど面白いと言えるが、それも限度があり、本作ほどスーパーなキャラクターだと正直白けてしまう。論理的、緻密にサスペンスを楽しもうとすると粗が目立ち過ぎる。また、必要以上に残虐なシーンが多いのにも興ざめする。それでもエンターテイメント作品として成立しているのは展開のスピードと犯行手段に巧みなアイデアがあるから。 第4作「砂男」と深く連動する作品なので、絶対に「砂男」を読んでから手に取ることをオススメしたい。 |
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母国スウェーデンをはじめ国際的にベストセラーなのに、なぜか日本では翻訳が途絶えていた「ヨーナ・リンナ警部」シリーズの第4作。人間の悪意の塊のようなシリアルキラーと警察の攻防をスリリングに描いたサスペンス・ミステリーである。
吹雪の夜、13年前に行方不明になり死亡宣告されていた少年・ミカエルがフラフラの状態で発見された。彼が「砂男に誘拐された、妹のフェリシアがまだ監禁されている」と語っていると知った国家警察のヨーナ警部は強い衝撃を受けた。当時ミカエルとフェリシアの事件を捜査し、犯人としてユレックを逮捕し、閉鎖病棟に収容したのに、なぜミカエルたちは監禁され続けていたのか? 凶悪なシリアルキラーであるユレックを崇拝する模倣犯か、ユレックが病棟から誰かに指示を出しているのか? 一刻を争う状態で命の危険にさらされているフェリシアを救出するために警察は、ユレックの元に公安警察のサーガ警部を送り込む、極秘の潜入作戦を開始した。悪意の塊で極めて高度な頭脳を持つユレックに、たった一人で挑むサーガ警部の無謀な挑戦は成功するのだろうか? 13年にもわたって監禁され、命の危機が切迫している被害者を救出するための精神病院の閉鎖病棟への潜入捜査という仕掛けが度肝を抜く。さらにユレックの超人的な人心操作力、執念、その背景となった犯行動機など、どれをとってもかなり型破りで、北欧ミステリーというよりアメリカのサイコ・サスペンスに近い作品と言える。したがって、事件の背景となる社会問題、人間ドラマを味わうというより、奇抜なアイデアとぎりぎりのサスペンスを味わうエンターテイメント作品として読むことをオススメする。 |
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本作がミステリー・デビューというイギリスの新進作家の警察ミステリー。猟奇的な連続殺人に挑む黒人女性警部補の奮闘を公私両面から描いた、意欲的な作品である。
テムズ川の川岸で相次いで発見された、切断された人体の一部は、異なる複数の人物のものだった。しかも遺体には、7人を殺害して切り刻み、ばらばらにまき散らした殺人鬼「ジグソー・キラー」が残したのと同じシンボルが刻み込まれていることが判明した。現在服役中のジグソー・キラーことオリヴィエとの関連を探るために、事件を担当するSCU(連続犯罪捜査班)のヘンリー警部補は刑務所でオリヴィエと面会することになった。二年半前、オリヴィエ逮捕時に瀕死の重傷を負ったヘンリーはいまだにPTSDに悩まされており、捜査とともに自身の心の傷の克服にも立ち向かうことになる……。 人心操作に長けた凶悪なシリアルキラーと捜査官の複雑な関係というのは、サイコ・サスペンスではよくあるパターンだし、捜査チームの人間関係を複雑にするのも、最近ではよく目にする構成だが、本作はヒロインが有色人種というところが新しい。女性・人種という二重のハンディを背負いながら果敢に立ち向かうのが共感を呼んだのか、英国をはじめヨーロッパで高く評価され、すでに第二作が刊行されるという。 警察ミステリーのファン、サイコ・サスペンスのファンにオススメする。 |
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今や大ベストセラー作家となった浅田次郎の初期長編。終戦を前に日本再興のために隠された財宝を巡る話で、M資金などの詐欺話か徳川埋蔵金などの宝探しかと見せかけながら、実は日本とは何か、日本人の本質とは何かを問いかける司馬遼太郎的な物語である。
平成の初めごろ、破産寸前の不動産屋・丹羽は競馬場で出会った爺さんから一冊の手帳を渡される。一緒に酒を飲んでる途中で爺さんが死んでしまったため、仕方なく関係者になってしまった丹羽だったが手帳には「終戦直前に900億円(時価では200兆円以上)の金塊、宝石を隠した」という記載に驚き、にわかに宝探しを始めようとする…。 現在と終戦直前を行き来しながら進む物語は一見、歴史ミステリー、埋蔵金探しの様相を見せながら、なぜ巨額の資金が隠されたのか、作戦を実行するには誰が、どんな思いで携わったのか、そしてその巨額の資金は誰が継承すべきなのかを問いかける作品へと変貌する。つまり、日本とは、日本人とは何なのかを追求した魂をめぐる物語として結末する。同時に、冒険小説であり、謎解き物であり、大胆な歴史ミステリーであり、つまり一級品のエンターテイメント作品である。 現代史ミステリーというより日本人論の一冊としてオススメする。 |
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ドラマの原作となった本邦初登場のイギリス女性作家の長編ミステリー。シングルマザーとエリート夫婦の微妙な三角関係をベースにした心理サスペンスと見せかけて、実は大胆不敵な結末でショックを与える意欲的なエンターテイメント作品である。
ロンドンの精神科クリニックで秘書をしているルイーズは、バーで意気投合した男性とキスをした翌日、新しくボスになった精神科医・デヴィッドを見て仰天する。なんとデヴィッドは前夜、キスをした相手だったのだ。落ち着かない気分にやきもきするルイーズだったが、二人の仲は深まっていった。さらに、デヴィッドの魅力的な妻・アデルとも偶然に友達になった。浮気相手として妻には隠しておきたいデヴィッドの思いは当然だが、アデルの方でもルイーズとの関係を異常に拘束欲が強い夫から隠しておきたいという。この奇妙な三角関係を続けるうちにルイーズは、デヴィッドとアデルの夫婦関係には隠された一面があるのではないかと疑問を抱いた。そして、ルイーズの疑惑が頂点に達した時、想像を絶する展開が待っていた! イヤミス系を読みなれた読者でも驚かずにはいられない、衝撃的なエンディングで、「結末は、決して誰にも明かさないでください」との惹句は嘘ではない。というか、この結末のために書かれた作品と言うべきだろう。登場人物、エピソード、ストーリーはどれも、既視感があるのだが、最後の最後で作品価値を見せる。 ドメスティックな心理サスペンス、イヤミス系のファンにオススメする。 |
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新聞記者からウェブ・ジャーナリストに転身したジャック・マカヴォイが主役を務める、マカヴォイ・シリーズの第3作。殺人の容疑者にされたマカヴォイが、元恋人で元FBI捜査官のレイチェルとタッグを組んで真相を探り出す、サスペンス・ミステリーである。
かつて一度だけ関係を持ったことがある女性が殺害され、マカヴォイはロス市警の刑事から事情聴取された。犯人扱いされたマカヴォイは潔白を証明するために自らDNA採取に応じるとともに、事件に興味を覚えて調査を始めると、同じような手口の女性殺害事件が複数発生しているのが判明した。極めて優秀なプロファイラーでもあるレイチェルに協力を依頼し、被害女性たちが同じ会社に自分のDNA分析を依頼していたという共通点を発見し、さらに追及しようとした所でマカヴォイは逮捕されてしまう。幸い、勤務するニュースサイトの社主や弁護士によって不起訴で釈放されたマカヴォイはあらゆる手段を使って、ロス市警より先に真相にたどり着こうと奮闘する……。 自身の誤認逮捕をきっかけに真犯人を探すフーダニット、ワイダニット、ハウダニットがメインで、背景としてDNA分析の商業化、無秩序への警告がある。本作の犯人の残酷さ、異常さは最近のコナリー作品の中でもかなりのインパクトがあり、さらにストーリー展開の緊迫感もなかなかのもの。クライマックスまで息を抜けないサスペンスが持続する。ボッシュ・シリーズ、リンカーン弁護士シリーズとは多少テイストが異なるものの、コナリー作品らしい真直ぐな骨格を持った作品である。 コナリーのファンはもちろん、社会派ミステリー、サスペンスのファンにオススメする。 |
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オーストラリアの人気作家・ロボサムが「生か、死か」に続く二度目のゴールド・ダガー賞を受賞した作品。異常な経歴から心に深い傷を持つ少女と凄絶な過去を抱える臨床心理士が殺人事件の謎を解く長編ミステリーである。
子供の時、両親と妹たちが実の兄に殺されるという過去を持つ臨床心理士のサイラスは、男の腐乱死体が発見された家の隠れ部屋に潜んでいるのを発見された少女・イーヴィの診断を依頼された。児童養護施設に保護されており、攻撃的で誰とも心を通わせないイーヴィだが、実は高い知性を持ち「人がついた嘘を見破る」という能力を備えていた。サイラスは、一筋縄ではいかない狡猾なイーヴィを里親として自宅に引き取り、試行錯誤しながら心を通わせようとする。同じころ、イギリスフィギュアスケート界の新星と呼ばれた15歳の少女・ジョディが行方不明になり、暴行殺害される事件が発生。サイラスは心理学の専門家として警察から捜査への助力を依頼される。捜査が進むにつれ、優等生と思われていたジョディの隠された一面が明らかになり、犯行の動機も犯人像も謎が深まるばかりだった…。 「天使と嘘」のタイトルが示すように「よい少女」と「悪い少女」が主役になるのだが、イーヴィとジョディのどちらがどっちなのか? 二転三転するストーリー展開はスリリング。さらに極めて特異な過去を引きずるサイラスとイーヴィの二人の鏡の裏表のような心理戦もサスペンスがある。ただ、物語の構成としては「生か、死か」には及ばない。本作は新シリーズの第一作ということで、今後の展開に期待したい。 心理ミステリーのファンにオススメする。 |
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「グラント郡」シリーズの第三作。地元の大学で起きた複数の殺人事件を巡る警察ミステリーだが、真相解明と同じかそれ以上に主要な登場人物たちの人間模様が印象的な作品である。
大学の敷地内で橋から飛び降りたように見える男子学生の遺体が発見された。遺書らしき書置きが見つかり、しかも以前に自殺未遂を図っていたことから自殺と思われたのだが、現場に臨場した検死官サラに付いてきた妹のテッサが襲われて重傷を負ったこともあり、警察署長ジェフリーとサラは他殺も視野に入れた捜査を開始した。さらに、遺体の第一発見者である女子学生が自室で銃を使って頭を吹き飛ばしているのが発見された。連鎖自殺なのか、連続殺人なのか? 死亡した二人の関連が見つからない捜査は混迷するばかりだったが、自分の元部下で大学の警備員であるレナの態度に不審を抱いたジェフリーは隠されている関係性を探し出そうとする…。 フーダニット、ワイダニットの警察ミステリーの本筋を押さえながら、不幸な過去を引きずらざるを得ない人間の複雑さ、悲しさを追求したヒューマンドラマとしても成功している。また、サラとジェフリーの元夫婦を中心にした人間関係の変化もシリーズ読者には見逃せない。真相が解明されたとき、やや違和感が残るのがちょっと残念。 スローターのファンには絶対のオススメ。サイコ・サスペンス、警察ミステリーのファンにもオススメする。 |
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梁石日の代表作とも言える、実父を主人公にした自伝的長編小説。戦前に済州島から渡ってきた少年が暴力だけを頼りに戦前、戦中、戦後の大阪の朝鮮人社会を生き抜いていくバイオレンスとノワールの物語である。
主人公(作者の父親)の暴力にしかアデンティティを持てない生き方がすさまじく、その一点だけで強烈なインパクトを残す。同調圧力の強い日本人社会に安住する現代人は、想像を絶する物語に息をのむこと間違いなし。極端に好悪が分かれる作品と言える。 |
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ジョー・ピケット・シリーズの第10作。山奥で遭遇した双子の兄弟に襲われ重傷を負ったジョーが自分の信念を貫くために再度、敵に立ち向かっていくアクション・サスペンスである。
家族が住む地元に帰ることになったジョーは任地での最後の仕事として単身パトロールに出て、人跡まれな奥地で不審な様相の双子の男に遭遇した。彼らが許可証を持っていないためジョーは違反切符を切るのだが、翌日、彼らに襲撃された。必死に逃げる途中で山中のキャビンに住む女性に出会い、何とか生還することができた。双子のことを調査すると不可解なことがいくつもあり、さらに2年前から行方不明の女性が関係しているのではないかと判明するに至り、ジョーは親友・ネイトの助けを借りて、再び双子と対決することになった。 事件の背景は複雑だが、メインストーリーは法と秩序と正義のためには自分のすべてをかけて戦うというジョーの生き方の物語で、まさに本シリーズの基本に立ち返った感がある。舞台となるワイオミングの山々、ジョーを取り巻く家族や友人などのエピソードも、いつも通りの読み応えである。 シリーズ読者には外せない作品であり、またシリーズ未読の人にも十分に楽しめる作品としてオススメする。 |
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スウェーデンでベストセラーになったという、54歳の遅咲き作家のデビュー作。すさまじい拷問を受けた男の発見をきっかけに判明した、猟奇的な連続殺人事件をテーマにしてサイコ・サスペンスである。
ストックホルム郊外で全裸で磔にされた上に局部を切り取られるという拷問を受けた男が発見され、その場は生き延びたものの病院で死亡した。国家犯罪捜査部のカール警部たちが捜査を始めたのだが、次々に同じような拷問を受けた死体が見つかり、連続殺人の様相を呈してきた。被害者は過去に凶悪犯罪を犯した男たちという共通点があり、犯罪組織絡みか、過去の被害者家族の報復かと疑われた。事件を知った新聞記者・アレクサンドラは独自の情報源を基に事件の背景を抉り出そうとセンセーショナルな報道を続ける。そして明らかになった事件の真相は悲惨で衝撃的なものだった…。 基本構成は犯人捜しの警察ミステリーなのだが、読みどころは事件の様相と犯行動機の方にあり、その意味ではサイコ・サスペンスである。最初にすさまじい拷問シーンで引き付け、中盤は犯人の独白で考えこませ、最後に思いもよらぬどんでん返しで驚かせるという巧みな技が光る。さらに、主要な登場人物が抱える個人的な人間ドラマも多彩で面白い。ただいかんせんオチが苦しい。大風呂敷を広げすぎて畳み切れなかったようなもどかしさを感じざるを得なかった。 北欧ミステリーのファン、「その女 アレックス」などのサイコ・サスペンスのファンにオススメする。 |
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スペインでベストセラーを記録した匿名女性作家のデビュー作。猟奇殺人事件の驚天動地の真相を描いた警察サスペンス・ミステリーである。
マドリードの公園で頭に穴をあけ、蛆虫を埋め込むことで若い女性を殺害するという猟奇的な事件が発生した。被害者は結婚を目前にした花嫁であるばかりでなく、姉も7年前に同じ手口で殺害されていたのだった。しかも、姉の事件の犯人は現在服役中だという。ということは、服役中の犯人は冤罪で他に真犯人がいるのか、それとも模倣犯なのか? この難事件を担当するのはスペイン警察捜査本部長直属の精鋭「特殊分析班」で、リーダーのエレナ・ブランコ警部をはじめとする個性的なメンバーが各々の特技を駆使し、二つの事件をつなぐ深い闇を暴いていく…。 まず第一に事件の様相が、これまでのサイコ・サスペンス作品と比べても際立って印象的なほどおぞましく、強烈なインパクトを残す。さらに、事件の真相が明らかになったとき、そこからさらに深い谷に突き落とされるような怖さが襲ってくる。読み終えても爽快な読後感は皆無だが次作を待ち望んでしまう、第一級のサイコ・サスペンスである。また、ブランコ警部をはじめとするメンバーのキャラクター、警察組織内部の軋轢、スペイン社会におけるロマ(いわゆるジプシー)族の立ち位置などのサブストーリーも魅力的。スペインでは大ヒットし、すでに3作目まで刊行されているというのも納得できる。 サイコ・サスペンス、警察ミステリーのファンにオススメする。 |
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アメリカの女性作家の初ミステリー長編で2018年のMWA最優秀長編賞ノミネート作品。ダラス市警麻薬捜査課の女性刑事が体を張って難事件に取り組んでいく、警察ハードボイルドである。
NY市警からダラス市警に転職したベティはテキサスでは数少ない女性刑事として、保守的な社会や男性警官と衝突を繰り返しながらも実績を上げてきた。ある日、チームリーダーとして臨んだ捜査が思わぬハプニングで失敗し、逮捕をもくろんでいた麻薬カルテルの大物ディーラーが逃亡、さらに殺害されるという事態に陥った。カルテルの口封じなのか、縄張り争いなのか、執念の捜査を続けるベティのもとにディーラーの頭部が届けられという脅迫を受けた…。 180㎝を超える長身、男性警官をしのぐ身体能力、男性社会の圧力にへこたれないタフな精神の持ち主であるヒロインは、さらに女性医師と同棲するレズビアンであり、燃えるような赤毛という目立ちすぎる存在でもある。それだけに周囲のすべてと戦うことになり、並のハードボイルド・ヒーローには思いもつかないハードなストーリーが展開される。その破壊力はランボーかアマゾネスかと思うほど。 アクション・サスペンスがメインのハードボイルドのファンにオススメする。 |
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「闇という名の娘」、「喪われた少女」に続くアイスランドの女性刑事・フルダシリーズ三部作の完結編。猛吹雪に襲われたクリスマス直前の時期にアイランド高原地帯の孤立した農場で起きた悲劇の事件を巡る、謎解きミステリーである。
1987年のクリスマスを目前にした猛吹雪の日に、集落から遠く離れた農場で暮らすエイーナルとエルラ夫婦の家に一人の男が現れた。こんな天候の日に人が訪れることなどありえないと思ったのだが、狩猟中に迷ったという男の言い分を信じて招き入れ、泊まらせることにした。すると、男の話はあいまいで、夜中に家の中を探っているようだった。不安を感じた夫妻は男を問い詰めようとして、逆に殺されてしまう。同じころ、フルダは若い女性の失踪事件を追っていたのだが成果を上げられず、しかも反抗的な娘・ディンマのために家庭内でも深刻な悩みを抱えていた。ここまでが、第一部。第二部は、その二か月後、エイーナルとエルラの死体が発見され、捜査のためにフルダが派遣される。そこでフルダが見つけた事件の真相は…。 第一部で思い込まされていた事件の構図が第二部で大逆転されるのが、本作の成功の要因。ワイダニットのだいご味が味わえる。本シリーズは第一作から三作へ年代をさかのぼっていくという特異な構成の三部作であり、読む前から本作で悲劇が起こることは分かっているのだが、それでもサスペンスを感じながら読み進められる。 逆年代記のシリーズなので、第三作の本書から読み始めても問題ないが、やはり第一作から読む方が断然面白い。北欧ミステリーのファンなら絶対に大満足できるだろう。 |
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2011年から12年にかけて「オール読物」掲載6作品の短編集。黒川ファンにはおなじみの書画・骨董の世界を舞台にした狐とタヌキの化かし合い話である。
常識人なら絶対に近づかないであろう「だまされた方が悪い」という世界での真剣勝負の知恵比べ。魑魅魍魎同士の金とプライドを賭けた駆け引きが面白い。騙したはずが騙されていた欲望まみれの人間の愚かしさと可笑しさが極上の大阪弁と相まって、痛快なエンターテイメント作品に仕上がっている。 疫病神、大阪府警の2大シリーズとは異なる、気楽な読み物として、今後も新作を期待したいシリーズである。 |
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ジョー・ピケット・シリーズで知られるボックスのノンシリーズ作品。コロラド州デンヴァーに暮らす平凡な男が妻と養女を守るために、西部劇の主人公のように奮闘するハードボイルド・アクションである。
デンヴァー市の観光協会に勤めるジャックは愛する妻・メリッサと8か月になる養女と幸せな日々を送っていた。しかし、養女の実父である18歳の少年・ギャレットが突然親権を主張し、養女を引き渡せと言ってきた。しかも、ギャレットの父親は地域の有力者で法曹界に影響力がある連邦判事で、三週間以内に引き渡さないと法的な実力手段を実行すると言う。法的には勝ち目がなく、何とか穏便に親権を放棄してもらいたいと願うジャックとメリッサだったが、生まれつきのワルであるギャレットは仲間を引き連れて二人に様々な嫌がらせを仕掛けてきた。ジャックとメリッサに味方する友人たちが助けてくれていたのだがギャレットの嫌がらせは止まず、ついには友人の命まで奪うに至り、ジャックは法に従うことを拒否し、銃で家族を守ろうとする…。 法と秩序より銃と情理を優先する典型的なアメリカン・ヒーロー物語である。そのために、悪はあくまでも残酷で卑劣に描かれている。自分が信じる正義のためには殺人も辞さない、まさに西部劇、日本の仁侠映画の世界である。 基本的なテイストはジョー・ピケットものと同じで、シリーズ・ファンなら安心して楽しめることを保証する。 |
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