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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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アメリカの現代詩人でヤングアダルト向け小説家の作品。エドガー賞を受賞したミステリーだが、現代詩の形態をとっている、不思議なエンターテイメント作品である。
敬愛する兄・ショーンを対立するストリートギャングに射殺された15歳の少年・ウィルは、街に生きる者の掟に従って犯人を殺すために、兄が隠していた拳銃を持って家を出て、エレベーターに乗り込んだのだが、自宅のある8階からロビーに降りるまでの1分少々の間にエレベーターは各階に停止し、それぞれの階で、もう会えるはずのない人たちが乗り込んできた。死んだはずの亡き兄の先輩、幼なじみの少女、伯父、父親らとの対話を通して、ウィルは復讐の決心を改めて確かめることになる・・・。 壊れた街に暮らす少年が殺された兄の敵討ちをしようとするというありがちな設定だが、エレベーターが地上に着くまでのわずかな時間、揺れる少年の心を現代詩の形態で描いたユニークさが新鮮である。内容はノワールだが、読後感は爽やかだ。 ミステリーファンにというより、ヤングアダルト小説のファンにオススメする。 |
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9年ぶりに登場した、陽気なギャングシリーズの第3作。相変わらず、個性的な登場人物が奇想天外な冒険を繰り返すコメディ・ミステリーである。
久しぶりに銀行強盗を働いた陽気なギャングたちだったが、ひょっとしたことから久遠がトラブルに巻き込まれた。その相手は、下劣で執念深い週刊誌記者・火尻で、しかも久遠が銀行強盗の一員であることを嗅ぎつかれてしまった。火尻から脅迫されることになった陽気なギャングたちは、火尻の執念深さに苦労しながらも、窮地を脱するためにギリギリの奇襲作戦を仕掛けるのだった・・・。 今回は、四人の個性を生かしたストーリー展開というより、悪役・火尻をはじめとする周辺人物のキャラクターが前面に出てきた物語である。他の方のレビューにあるように、オチのつけ方に切れ味がない感じはあるが、安定して楽しめる作品である。 シリーズ作品なので、当然のことながら第1作から順に読むことをオススメする。 |
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2018年の各ミステリーランキングでトップを独占しただけでなく、本屋大賞も受賞し、翻訳ミステリー界の話題を独占した作品。アガサ・クリスティへのオマージュと言われるだけあって、英国伝統の本格謎解きミステリーである。
上下巻2冊に別れ、上巻はアラン・コンウェイという作家の「カササギ殺人事件」という小説、下巻は同作品の担当編集者がコンウェイの死の謎を解くというダブルのフーダニット構成である。そして、それぞれの謎解きが極めて緻密に精緻に構成されており、まさに古き良きイギリスの探偵小説の王道を行く作品である。ただ、それ以上のものではない。 アガサ・クリスティに代表される古典的謎解きミステリーのファンには絶対のオススメ作品だ。 |
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陽気なギャング・シリーズの第2弾。4人それぞれを主人公にした4本の短編とそれをベースにした長編で構成された、アップテンポで楽しいコン・ゲーム小説である。
嘘を見抜く名人・成瀬、天才スリ・久遠、演説の達人・響野、正確な体内時計を持つ女・雪子というおなじみの4人組は、またまた銀行を襲撃し、今回は邪魔が入ることもなく現金を手にしたのだった。しかし、強盗の現場に居合わせた若い男女が気になり、あとから検討してみると女性は成瀬の部下の婚約者で、しかも彼女は一緒にいた男に脅迫されているようだった。と言う訳で、頼まれもしないのに「社長令嬢誘拐事件」に関わることになった4人は、得意のチームプレイで怪しい誘拐犯や裏カジノ経営者たちと対決することになった・・・。 今回もまた、ストーリー展開、会話、事件解決の構成が緻密でシュール。とにかく読者を楽しませることに徹底したエンターテイメントで、冒頭の「著者のことば」にあるように「細かいことは気にせずに楽しんで」いけるコン・ゲーム小説である。 前作「陽気なギャングが地球を回す」を受けたエピソードや会話も多くあるので、前作から順番に読むことを強くオススメする。 |
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トマス・ハリスの13年ぶりの新作。麻薬王・エスコバルがマイアミに残した大豪邸の地下金庫に隠された2500万ドルの金塊争奪戦を描いた、レクター博士シリーズとは無関係なサイコ・ノワール・エンターテイメントである。
大豪邸の管理のバイトとして働くコロンビア出身の25歳の美貌の女性・カリは、屋敷に隠された金塊を狙うコロンビアの犯罪集団と接触するのだが、金塊の強奪を狙っているのは彼らだけではなかった。偏執的な臓器密売商人・シュナイダーは映画撮影を装って屋敷に居座り、金庫を掘り出そうとする。一方のコロンビア側も強硬手段をとり、互いに殺し合う壮絶な戦争が始まり、屋敷の事情に詳しいカリは否応なく抗争に巻き込まれていく・・・。 ヒロインのカリは祖国コロンビアの反政府ゲリラで少年兵として育てられた過去を持ち、さまざなサバイバル技術を身に付けたタフな女性であり、また一方で、傷付いた動物を助けるために獣医を志している心優しい女性でもある。そんな彼女を騒動に巻き込む悪党たちはかなりの特異性を持った奴ばかりで、しかも行動は荒っぽい。そしてストーリー展開はスピーディーで息つく暇もない、まさにエルモア・レナードの世界である。 時代性を加味したストーリー、軽快な場面展開など、これまでのトマス・ハリス作品にはない良さは評価できるのだが、いかんせん奥行きがない。全体に薄っぺらな印象で、ところどころでは「あらすじ」を読まされているようなのが残念である。 レクター博士シリーズの重厚を期待すると裏切られる。レナード・タッチのアップテンポなノワールのファンにオススメする。 |
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2017年から一年間、毎日新聞に連載された長編ミステリー。7年ぶりの合田雄一郎シリーズ作品である。
現場を離れ警察大学の教授になっていた合田雄一郎は、12年前に捜査指揮をとり未解決のまま終わった元美術教師の老女殺害事件について、コールドケース担当部署から問い合わせを受ける。池袋で同棲相手に殺された28歳の女性が、老女殺害事件現場から拾ってきた絵の具を持っていたとの情報が入ったのだという。さらに、その女性は事件当時、美術教師が開いていた絵画教室に通っており、合田たち捜査陣が調べた関係者の一人だったのだ。未解決のまま心に残っていた事件が再び脚光を浴びたとき、合田はやり残していた宿題と直面することになる。 老女殺害事件の真犯人は誰か? 28歳の女性が犯人なら動機は何なのか? ストーリーの本筋は犯人探しだが、事件の背景や動機を解明していくのが捜査側だけでなく、事件関係者たちの記憶の振り返り、思い出しにも頼っているため、オーソドックスな警察小説ではない。むしろ、当時高校生だった少女とその友人関係、それぞれの親や家庭環境にまつわるエピソードが重要な役割りを果たす、社会派のヒューマンドラマの色が濃い作品である。事件の謎が解明されてすっきりするというより、漠然とした不全感が最後まで残る、時代の不安を反映したような作品と言える。 合田雄一郎ファンにはもちろん、近年の難解な高村薫に付いていけなかったオールドファンにも安心してオススメする。 |
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小役人シリーズとしてくくれば第3作。気象庁の研究官を主人公にした、国際謀略小説である。
気象庁の地震と火山の研究官・江坂たちは、海上保安庁と合同で南西諸島沖の海底を観測するために鹿児島に着いたのだが、海上保安庁から一方的に準備に時間がかかると告げられた。待機するしかない状態になり、その時間を利用して、鹿児島気象台にいる福岡時代の同僚・森本を訪ねることにした。ところが、森本は退職し、アパートも引き払って所在が確認できなくなっていた。森本らしからぬ行動に疑問を抱いた江坂が行方を探っていると、森本と親しい地震研究の大学教授も行方不明になっていることが判明した。二人は、なぜ姿をくらませなければいけないのか? 警察がとりあってくれないため、江坂は単独で調査を始めたのだが、そこで明らかになったのは、小役人の力では何ともし難い事態だった・・・。 気象庁の研究者というアンチ・ヒーローが国家や公安を相手に闘うという設定がユニーク。両者の力の差が大きすぎるため、ところどころ展開に無理が出ているが、ストーリーはよく練られている。ただ、伏線と回収に齟齬があるというか、物語の中心がどこなのかが定まっていない感じを受けた。単純にストーリーを追っていれば面白いのだが、動機や背景を深読みしていくとやや物足りない。 緻密な取材に基づいた、しっかりしたミステリーが読みたい方にオススメする。 |
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雑誌掲載の4作品を収めた、著者の第二短編集。要人警護のSP、海難救助の潜水士、自衛隊の不発弾処理隊員、消防士という、常に命がけの仕事に取り組む4人のプロフェッショナルの4つの物語で構成されている。
それぞれに独立した作品だが、共通するのは危険と隣り合わせの仕事にも怯むことが無い主人公たちの高い職業倫理であり、それと同時に、常に命を賭けているが故に起きる、安全を願う恋人や妻との葛藤である。緻密な取材に基づくリアリティがあるサスペンス・アクションと、愛する人と平穏な日々を築けない人間的な苦悩のドラマが見事に対比され、単純なヒーローものではない深みがある作品集となっている。 現実感のあるサスペンス小説、人間的なヒーローの物語を読みたい方にオススメする。 |
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北アイルランドの刑事ショーン・ダフィが主人公のシリーズ第三作。IRAのテロリスト・ハンティングに古典的密室殺人を練り込んだ二重構造の警察・ノワール・ミステリーである。
上層部に対する反抗的態度が問題になって警察を首になり、無為の日々を送っていたダフィの下をMI5が訪れ、ダフィの旧友でIRAの大物ダーモットを探して欲しいと言う。警察への復職を条件に依頼を引受けたダフィは、自分の知人でもあるダーモットの親族を訪ね、情報を得ようとするが、イギリスを嫌悪する彼らからはまともな返答を得られなかった。そんななか、ダーモットの別れた妻の母親であるメアリーから「4年前に起きた娘・リジーの殺人事件の真相を解明してくれればダーモットの居場所を教える」という取引を持ちかけられた。しかし、その事件は完全な密室で起きた事件であり、謎を解く手がかりは全く見つけることができなかった・・・。 本シリーズははぐれ狼の刑事を主人公にした警察小説だが、本作は紛争まっただ中の北アイルランドで大物テロリストを追うという、フォーサイスばりの政治謀略小説であり、また密室殺人の謎を解くという古典的ミステリーでもある。ふつうであれば2本の作品になるような贅沢な構成になっている。本筋のテロリスト・ハンティングは実際に起きた出来事をベースにしているため時代背景、登場人物ともに真に迫っている。さらに密室殺人は古典のルールに忠実で謎解きとして面白い。ただ、それぞれに完成度が高い二つが主張し合った結果、物語全体としては落ち着かない部分がある。 自分の趣向に合わせていろいろな読み方ができるので、どなたにもオススメできる作品と言える。 |
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1991年、第37回江戸川乱歩賞受賞作。厚生省の食品検査Gメンという特殊な人物を主人公にした、社会派ハードボイルドである。
東京検疫所で輸入食品の検疫を担当するGメンの羽川は、学生時代からの友人で週刊誌記者の竹脇が晴海ふ頭から港に車で飛び込み、病院に運ばれたという電話を竹脇の妻・枝里子から受け、急遽、駆けつけた。病院では警察から尋問を受け、自殺ではないかと示唆された。実は、枝里子は羽川の昔の恋人で、最近、よりを戻し、それが原因で竹脇が家を出ていたのだった。竹脇が自殺した原因は自分にあるのか? やり切れない思いを抱えて出勤した羽川は、事務所で「レストラン・チェーンの冷凍倉庫の肉に毒物を混入した」という脅迫状を発見する。脅迫の事実解明をまかされた羽川が調査を始めると、事件の裏には輸入食品の汚染を巡る計り知れない闇があるように感じられた。竹脇が記者として一躍有名になったのは、汚染輸入食品を告発した記事からだった。ひょっとして竹脇は、闇を解明しようとして殺されかけたのではないのか? 警察も自殺説をとる中、羽川は食品検査Gメンの限られた権限を駆使して真相に迫るのだった・・・。 ハードボイルドの主人公がおおよそヒーローとは縁遠い、冴えない(陽の当たらない)小役人という設定が秀逸。派手なアクションは無いが、経験に基づく説得力がある推理で真相を解明するプロセスが真に迫っている。ハードボイルドに欠かせない自虐的なユーモアも、消化不良ながら随所に挿入されていて楽しめる。拳銃やカーチェイスが現実的ではない日本のハードボイルドとしては、スリルやサスペンスもよく盛り込まれている方だ。 ハードボイルドファン、社会派ミステリーファンにオススメだ。 |
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雑誌に掲載された5作品を集めた連作短編集。カメラマンとして一応の成功を収めた男が辿ってきた歴史を、5つの時代ごとのエピソードで繋いだ風俗エンターテイメント作品である。
あるカメラマンの50歳、42歳、37歳、31歳、22歳の「あの日々」を個人史と時代背景を絡めて独立した5つの話に仕上げているのだが、第5章から始まって第1章で終わるという独特の(奇をてらった)構成にしたため、ともすれば回顧談、人間成長物語になりがちなストーリーが、波乱のあるダイナミックな展開になった。絶対に巻き戻せない歴史というフィルムに写された「あのときの自分」のアルバムを見るような懐かしさとほろ苦さが味わい深い。 ミステリーを期待すると裏切られるが、社会風俗エンターテイメント作品としては十分に楽しめる作品である。 |
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韓国のエンタメ小説をリードする女性作家の長編第5作。発売早々にベストセラーを記録したサイコ・ミステリーの話題作である。
ある朝、血腥い臭いで目覚めた25歳の法学部学生ユジンは、自分が血まみれで階段の下では母親が首を切られて死んでいるのを発見する。癲癇の持病があり、発作が起きると記憶が無くなるユジンには昨夜の記憶が全く無く、自分の名前を呼ぶ母の声だけをかすかに覚えている気がしていた。誰もいない、誰も侵入した形跡がない家の中のできごと。母を殺したのは自分なのか? 主人公ユジンが記憶をたどり、自分と母親・兄弟との関係を見つめ直すことで真相を探り出していく、心理サスペンスである。ただ、主人公がサイコパスの中でも最悪(最強)の「純粋な悪人」であり、しかもほぼ全編が主人公視点で語られるところが異色である。物語の始まりから第一部が終わるまでの約100ページは、現在と過去が入り交じり、妄想と現実が交差して非常に読みづらい。ほとんど投げ出したくなるのだが、そこを過ぎた第二部からはストーリー展開も明快でサイコパスの心理描写に引きつけられる。 「悪を追求し続ける作家」と呼ばれるだけに、この作品世界に入り込める人は少ないかもしれないが、サイコ・ミステリーファンなら楽しめるだろう。 |
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2016年に刊行された長編パニック小説。動物愛護のためなら殺人も辞さない団体が、品種改良から生まれた化け物のような犬たちをけしかけて、ペット販売イベントに集まった人々を殺戮するという、社会派エンターテイメントである。
種の違いも肌色や性別の違いと同じであり、種の違いを根拠に動物と人間を区別するのは差別である。そう主張する団体「DOG」が世界にアピールするために選んだのは東京湾埋め立て地で開かれたECOイベントで、品種改良したペット販売でぼろ儲けしている企業から無償の譲渡会を開催しようと言う慈善団体までが参加し、イベントを盛り上げるために駆り出された中学生たち、ペットを買いたい家族連れ、イベントを政治利用したい政治家など、さまざまな人々が集まった。その会場の建物を封鎖した「DOG」は超巨大化した犬の群れを放ち、無差別な殺戮を行い、その模様を映像に収めて世界に配信しようとするのだった。 話の本筋は、品種改良によって生み出された怪獣が人間の倫理をあざ笑うという、パニックものの王道的作品である。物語の始まりから最後まで、とにかく人が犬に殺される。日本の小説で、これほどの人数が殺される作品は珍しいだろう。しかも、主要登場人物や「いい人」も容赦なく被害に遭う。まさに「突き抜けた」恐怖小説である。 人が犬に殺されるなんて耐えられないという方には絶対にオススメできないが、一般的なホラーやパニックものが好きというかたにはオススメしたい。 |
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フランスの女性作家のデビュー作。フランスの特捜部Qと評され、すでにシリーズ化されているコミカルな警察小説の第1作である。
同世代の星と称されてきた女性警視正アンヌ・カペスタンは、容疑者を至近距離から射殺したことによる停職から復帰したのだが、与えられた仕事は新たに結成された特別捜査班の指揮だった。しかし、特別捜査班とは名ばかりで、オフィスは警察からは遠く離れた雑居ビルの一室、集められたメンバーはパリ警視庁の各部署からはじき出されたお荷物警官ばかり。さらに、仕事は未解決事件のファイルの山から探し出せという。つまり、警察上層部からは何も期待されず、何もしなくてもとがめられないというチームだった。それでも使命感に燃えるカペスタンたちは、20年前と8年前に起きた迷宮入り殺人事件を見つけ出し、捜査をスタートしたのだった。 まあ、骨格がまるっきり「特捜部Q」なので、あとはどれだけキャラクターが立つか、エピソードがユニークか、会話が面白いかの勝負なのだが、どれも一定レベルに達してはいるものの突出したものがない。凄惨な描写や異常な犯罪者などが出てこず、警官たちもみんな生き生きとしていて読後感がいいことは確かで、安心して読めるユーモラスなエンターテイメント作品である。 軽めの警察小説、クスッと笑えるミステリーを読みたい方にはオススメだ。 |
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週刊誌の連載に加筆修正した長編小説。少年犯罪をテーマに、加害者と被害者の関係性、罪と罰、更生するとはどういうことかを追求したサスペンス作品である。
19歳のとき、自分の恋人につきまとうチンピラを追い払おうとして喧嘩になり、護身用に持っていたナイフで刺殺してしまった中道隆太。5〜7年の不定期刑を受けて少年刑務所に服役し、6年が過ぎた26歳で仮釈放された。刑期満了までの11ヶ月間は保護観察下に置かれることになり、保護司の大室、解体工事業者の黛などにサポートされながら、解体現場での仕事とアパートでのひとり暮らしを始めることになった。何とか自力で立ち直ろうとしていた隆太だったが、一週間もしないうちに昔の遊び仲間が現われ、さらには隆太の写真と罪状を記載したビラがアパートの周囲や、離れて暮らす母と妹の住まいの周辺にまでバラまかれた。誰が、なぜ、隆太の更生を邪魔しようとするのか? 事態の深層を探るために動き出した隆太は、周囲の善意と悪意に遭遇するたびに悩みながら、怒りながら、自分の罪と罰について考え続けざるを得ないのだった。 罪を犯した者は服役という罰を受けても許されないのか? 少年が更生するとは、どういうことなのか。加害者が「被害者にも落ち度があった」と思うのは卑怯なのか・・・。永遠に答えが見つからない問題を自問自答する若者の苦悩がメインの物語。従って、同じような内面描写が何度も何度も出て来るため、文庫で500ページの長さがやや冗長に感じられる。しかし、物語の構成、エピソードの面白さ、ストーリー展開のテンポはレベルが高く、サスペンスに満ちたエンターテイメント作品に仕上がっている。 ミステリーというより社会派サスペンス作品として読むことをオススメする。 |
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極北の田舎町の警官を主人公にした「ダーク・アイスランド」シリーズの第2作。日本では第1作「雪盲」、第5作「極夜の警官」に続く3作目の邦訳作品である。
恋人・クリスティンと別れ、もんもんとした日々を送る極北の町の警官・アリ=ソウルは、近くの町の別荘建設現場で発生した男性殺害事件の捜査に駆り出された。被害者はよそから来た、謎の多い人物で、捜査が進むに連れ、表向きの建設業とは別の裏稼業を持っていた可能性が高まってきた。被害者はなぜ殺されたのか? 事件の動機が不明のままの捜査は迷路にはまり込み、行き詰まりになるかと思われたのだが、首都レイキャヴィークから来たテレビ記者の取材によって突破口が開かれた。 警官二年目のアリ=ソウルは失恋、上司のトーマスは妻との別居、同僚のフリーヌルは過去からの告発への脅えと、三者三様に問題を抱えたシグルフィヨルズル警察署は半ば機能不全状態で、とても警察小説とは思えない体たらくなのだが、顔に傷を持つ女性ジャーナリスト・イースルンの執念の取材によって社会派サスペンスとして成立した作品である。 これまで邦訳された作品の中では、本作が一番面白い。なお、シリーズ物の常として前作までの人間関係を引き継いだエピソードも多いので、本作の前に「雪盲」から読むことをオススメする。 |
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ピーター・ダイヤモンド警視シリーズの第9作かつ最後の(?)作品。おなじみの古都・バースを舞台に、自殺偽装された連続殺人事件を追う警察ミステリーである。
公園のブランコに女性の首吊り死体がぶら下がっているのが発見された。自殺で片付けられようとしたのだが、首を吊る前に絞殺されたことが分かり、被害女性の身辺を捜査すると、元夫、仕事先のレストランの同僚、客のセールスマンなど、怪しい人物は多いのだが決定的な証拠が見つからず、捜査は難航していた。そんななか、今度は行方が分からなくなっていた被害者女性の元夫が、首吊り状態で鉄橋からぶら下がっているのが発見された。 殺人事件捜査では文句なしに張り切るダイヤモンドだが、今回ばかりは捜査に集中しきれていなかった。というのも、彼のもとに「秘密の崇拝者」と名乗る女性から手紙が届き、さらには手作りのケーキまで届けられた。男としてのプライドをくすぐられるダイヤモンドだったが、その反面、正体の分からない人物に不安も抱くのだった・・・。 連続殺人、それも人目の多い場所に首吊り状態でさらすという派手な事件で、丁寧な捜査によって真相を明らかにする警察小説としての本筋はしっかり押さえられているものの、サスペンスがイマイチ。シリーズの最終作(多分)としては、やや物足りない。 シリーズ読者には必読。それ以外の方には、本作だけではダイアモンドの魅力が十分に伝わらないので、シリーズの最初の方から読むことをオススメする。 |
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2009年の「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した、柚月裕子のデビュー作。医療をテーマにしたものかと思わせるタイトルだが、障碍者問題をテーマにした社会派ミステリーである。
新人臨床心理士・佐久間美帆が担当したのは「話している言葉が、どういう感情から発せられているのが色で分かる」という共感覚を持つ20歳の藤木司だった。藤木は、同じ福祉施設で暮らしていた少女・彩が死んだのは「殺されたからだ」と訴えて来る。なかなか信じることができなかった美帆だが、藤木の治療のためにも事実を解明しなければと考え、藤木と彩が暮らしていた福祉施設を調べ始めると、何かが隠されようとしている、不審なことに気が付き始めた。学生時代の友人で警察官の栗原の協力を得て美帆がたどり着いた真相は、思いも掛けないおぞましいものだった・・・。 物語の構成、人物キャラクターの設定、各シーンの描写、すべてにレベルが高い。とてもデビュー作とは思えない上手さである。ただ、それだけに意表をつくような展開が皆無で、盛り上がりやサスペンスに欠けるのが残念。 絶賛するほどではないが、多くの社会派ミステリーファンに安心してオススメできる傑作エンターテイメント作品である。 |
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ヤメ検弁護士・佐方貞人シリーズの第3作。佐方が弁護士になる前の検事時代のエピソードを描いた4作品を収めた作品集である。
「心を掬う」は郵便局員の不正事件捜査、「業をおろす」は第二作の中の一編の後日談、「死命を賭ける」と「死命を決する」は痴漢事件をテーマに検事の正義感を描いた連作である。各作品それぞれに色合いは異なっているものの、通底するテーマは検事の使命とは何かという一本気で硬質な覚悟である。犯罪の動機、背景の描き方などにゆるさはあるが、物語の構成はうまい。 主人公のキャラクターを知るためにも第1作から読んだ方が良いのだが、本作だけでも楽しめる。社会派というより、人情派ミステリーのファンにオススメしたい。 |
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2004〜6年の雑誌連載を全面改稿したという長編作品。表3の著者紹介に「作家生活21年目の新たな一歩となる長編ミステリー」とあるように、これまでの横山秀夫のイメージとは異なるエンターテイメント作品である。
「あなた自身が住みたい家を建ててください」という依頼を受け、一級建築士・青瀬稔は自信作を完成させた。ところが、引き渡し後4ヶ月が過ぎたというのに、新居には依頼主の吉野一家が住んでいないという。不審に思った青瀬が新しい家に電話してみると留守電になっていた。その後も連絡が取れないため気になった青瀬が新居を訪ねると、家の中は無人で、引っ越してきた様子さえ窺えなかった。あれほど新居の完成を喜んでいた吉野一家は、一体どうしたのか? 青瀬は素人探偵になって吉野一家の行方を探し始めたのだが、探れば探るほど吉野一家の存在はあやふやになって来るのだった・・・。 行方不明者探しを本筋に、建築家の夢と現実をサブストーリーに物語が展開される。キーポイントとなっているのがブルーノ・タウトのデザインによる椅子で、物語の前半過ぎまでブルーノ・タウトを巡るあれこれが続き、これまでの横山秀夫の世界とは大きくテイストが異なっているため、ちょっと冗長に感じられる。ミステリーとしては謎解きはまずまずだが、肝心の動機、背景がやや弱く、横山秀夫の警察小説ファンにはやや物足りないだろう。芸術と技術の狭間で揺れるクリエイターの物語として読むことをオススメする。 |
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