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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第4作。本拠地を離れ、観光地として栄えるジャクソンに臨時に赴任したジョーが前任者の死の謎に挑むアクション・ミステリーである。
ジョーは尊敬する先輩・ウィルが死亡したため代理として、ワイオミング州の花形都市ジャクソンに臨時に赴任することになった。猟区管理官の鑑とも言える勤務態度で尊敬を集めていたウィルが精神的に追いつめられ、銃をくわえて死んでいたという。一体何があったのか、疑問を解明しようとするジョーだったが、当然ながら地元の保安官はあからさまに非協力的だった。更に、過激な動物愛護主義者、自分のやり方に固執する狩猟ガイド、権勢を振るう傲慢な土地開発業者などがジョーの前に立ちはだかった。しかも、メアリーベスが守る留守宅には執拗な無言電話がかかってきて、心配になったジョーはネイトに家族の安全を守ってもらうように依頼した。妻と娘たちを愛するジョーだが、家から離れ連絡も途切れ勝ちになり、家族の間にかすかな亀裂を感じるようになった。あちらでもこちらでも難問が発生する中、正義のみを追求する男・ジョーは命を賭けた厳しい戦いに挑んで行く・・・。 今回は、大自然の真ん中にありながら一大観光地でもあるジャクソンという都会で、自然と開発との対立という現代のアメリカ西部が直面する難問が背景となっている。もちろん、雄大な大自然の中での冒険という本筋は外していないのだが、それに加えてアメリカ社会の病、家族の変貌などがあり、これまでとはややテイストの異なる物語となっている。 シリーズ愛読者には必読。シリーズ未読であっても、アウトドア系冒険小説、アクション・ミステリーのファンなら十分に楽しめる傑作である。 |
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オスロ警察殺人捜査課特別班シリーズの第2作。前作と同じミアとムンクのコンビを中心とする特別班が、儀式のような奇怪な演出が施された少女殺害事件を捜査する、サイコ・サスペンスである。
フクロウの羽根を敷き詰めた上に横たえられた少女の遺体は口に白い百合の花を差し込まれ、ガリガリにやせていた。しかも、死体の周囲には5本のロウソクが五芒星のカタチに置かれていた。特別班の班長・ムンクは、6ヶ月前に復帰させた天才捜査官・ミアを中心に個性豊かなメンバーたちを率いて、この陰惨な事件の解明に取り組むのだが、犯行動機すら推測できず、捜査は泥沼にはまり込んでしまう。さらに、ミアは薬とアルコール漬けが抜けておらず、自殺願望に囚われており、ムンクは10年前に別れた妻の再婚話に動揺し、班の主要メンバーであるカリーは婚約者とのトラブルで壊れかけていた。常軌を逸したサイコパスの犯人に対し、常軌を逸しかけている捜査陣は事件を解決に導くことが出来るのだろうか・・・。 前作同様、かなり奇怪な犯行で、その様相の描写だけでかなりスリリングだし、次々に怪しい人物が登場する捜査プロセスもきちんとしているのだが、前作同様、最後の最後で物語の構成が崩れ、緊張感が失われている。犯人と捜査官の手に汗握る知恵比べ、犯人を追いつめるサスペンスが乏しく、事件の背景の掘り下げも途中までは興味深いのだが、最後には「何、これ?」というバランスの悪さ。犯人が精神のバランスを崩しているというのはサイコものとして当然なのだが、捜査官まで精神のバランスに問題があると、北欧警察ミステリーでは肝になるリアリティが薄められてしまう。 前作よりパワーダウンしているが、シリーズ愛読者なら楽しめるだろうし、北欧警察ミステリー、サイコ・サスペンスファンにもオススメできる。 |
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1992年の作品。元ボクサーの釘師がヤクザとパチンコ業界の闇に徒手空拳で戦いを挑むハードボイルドである。
網膜剥離のためにボクサーを引退した酒井はパチンコ業界のベテラン津村に拾われ、一人前の釘師として津村の経営するパチンコ機ブローカー会社に勤めていた。ある日、関係するパチンコ店への苦情に対応したのだが、その後も津村の会社を狙ったような妨害が相次ぎ、さらには酒井がヤクザに身に覚えのない品物を隠しているだろうと脅迫される事態が起きた。しかも、その事態を治めようと動き始めた津村が行方不明になってしまった。自分の身に降り掛かった火の粉を払い、恩人である津村を助けるために、酒井は封印してきたボクサーの拳を頼りにヤクザとパチンコ業界の大物たちに戦いを挑んで行く・・・。 何のバックも持たない男が、自分の拳と度胸だけで事態を切り開いて行く、正統派のハードボイルド小説である。事件の背景となるパチンコ業界と警察、ヤクザが絡んだスキャンダル、ヤクザ独特の言動、幼い恋物語など、本筋を彩る周辺エピソードも充実しており、内容豊富なストーリーがテンポよく展開される。ただひとつ、黒川博行ワールドの真骨頂とも言えるユーモラスで軽快な会話が、主人公・酒井が東京弁を使っていることもあって、上手く噛みあ合っていないところが残念ではある。 ノン・シリーズ作品であり、気軽に読めるエンターテイメント作品として、どなたにもオススメしたい。 |
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「ワイオミング州猟区管理官・ジョー・ピケット」シリーズの第7作。猟区管理官の職を解かれていたジョーが州知事からの内密の依頼でイエローストーン公園で起きた殺人事件の謎を解く、シリーズでは特異な設定のミステリー・アクションである。
妻の母の再婚相手の牧場で牧童頭として働いていたジョーはある日、州知事から呼び出され、ある事件を内密に調査して欲しいといわれる。事件は、州の北西部にある国立公園でキャンプしていた4人の若者が銃殺され、犯人の弁護士・マッキャンが出頭してきたのだが、連邦法と州法のすき間「死のゾーン」と呼ばれる抜け穴があったため、マッキャンは罪に問われること無く釈放されたという奇妙なものだった。知事からの依頼とはいえ何の権限も無いジョーが再調査することに、地元のパークレンジャーたちは反発し、あからさまに非協力的だった。冬の訪れを前にほとんど人がいなくなったイエローストーン公園で、ジョーは孤独な調査を余儀なくされた。そんなジョーを密かに助けてくれるのは、影のように寄り添うネイト、上司のやり方に疑問を抱く地元の女性レンジャーだけだった。そして、事件の背景に利権絡みの裏がありそうなことに気づいたとき、ジョーは命の危険にさらされるのだった・・・。 もともとひとりで行動するジョーだが、今回は地元を離れ孤立無援で戦うため、いつも以上に悲壮感があるストーリーである。さらに、イエローストーン公園の広大さ、自然の魅力と恐ろしさが物語のスケールを大きくし、人間の卑小さを際立たせている。ジョーの決して折れない正義感によって事件の謎は解明されるものの、すべてがスッキリと終わった訳ではなく、次作へ積み残したものがあり、今後の展開に期待を抱かせる。また、これまであまり語られてなかったジョーの両親や兄弟の物語が登場したことも注目点といえる。 シリーズ愛読者はもちろん、サスペンス・アクション、ネイチャー・アクションのファンに自信を持ってオススメする。 |
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アイスランドの新米警官「アリ=ソウル」シリーズで人気のヨナソンによる新シリーズの第1作。退職間近の女性警部の公私にわたる苦悩を丁寧に描いた、静かで味のある警察ミステリーである。
64歳の女性警部・フルダは数ヶ月後の退職を前に上司から「二週間後までに席を後輩に譲れ」と告げられる。フルダは納得がいかないながら逆らうすべも無く、退職するまでの最後に未解決事件の再捜査をやらせて欲しいと要望する。そうしてフルダが手をつけたのが難民申請中に自殺したとして片付けられていたロシア人女性の不審死事件だった。当初に捜査を担当した同僚刑事の怠慢を疑ったフルダが調べ始めると、被害者は売春組織に利用されていたのではないかという疑問が浮かび上がってきた。捜査を担当できる期間として許されたのはたった三日間、フルダは進まない捜査に焦りを深めて行くのだった・・・。 退職間近の女性警部という主人公の設定が、『アリ=ソウル」シリーズと真逆なのが面白い。物語の本筋はロシア人女性の不審死の真相解明だが、サブストーリーとしてシングルマザーの苦悩、被害者とおぼしき女性の行動が展開され、やがてはひとつにまとまって行く。舞台が世界でも一、二を争う平和な国・アイスランドなので警察ミステリーとしても地味な話なのだが、サブで展開される人間ドラマがスリリングで読み応えがある。 北欧ミステリーのファンには文句なしのオススメ作品である。 |
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2007年から約1年間、漫画週刊誌に連載された長編小説。「魔王」の約50年後、二十一世紀半ばを舞台にした続編という位置づけの社会派エンターテイメント作品である。
システムエンジニアの渡辺が請け負ったのは、ある出会い系サイトの仕様変更だった。すぐに終わる、簡単な作業のはずだったのだが、プログラムに不明点が多く、発注元とは連絡が取れず、しかも、作業中にある検索ワードを使った仕事仲間に次々に不幸が襲いかかった。この検索ワードに秘密が隠されているのではないかと不審を抱いた渡辺は、友人である作家の井坂に相談し、真相を究明しようとするのだが・・・。 基本的なテーマは、個人と国家の力関係、社会を動かしている原動力は何か、という根源的な問いかけである。社会にとって個人は歯車、目に見えないシステムの一部に過ぎないのか? アイヒマンやアリのコロニーなどの比喩を多用して、ホラ話のカタチでこの難問に挑んでいる。雑誌連載に付きものの冗長さがあるものの、予想を裏切るストーリー展開、伊坂幸太郎ならではの個性的な登場人物たちのユーモラスな言動など、エンターテイメント作品としての要素はきちんと盛り込まれている。 ミステリーとしては物足りないが、良質な社会派エンターテイメントとしてオススメしたい。 |
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スウェーデンで各種の賞を受賞し大ヒットしたという新人作家のデビュー作。題名通り、1793年のストックホルムを舞台に猟奇殺人事件の謎を解いて行く歴史ミステリーである。
ストックホルムの貧民街で四肢を切断された上に舌や目も切り取られた惨殺死体が発見された。警視総監からの依頼を受けた法律家・ヴィンゲは、死体の発見者でもある引立て屋(同時代の日本で言えば、岡っ引き?)ミッケルの助けを借りて事件捜査に乗り出した。二人は乏しい証拠を頼りに聞き込みを続け、被害者がおぞましい娼館にいたことまでは突き止めたのだが、そこを支配する闇の世界に切り込むことができず、捜査は行き詰まってしまったのだが・・・。 物語は、第一部が事件発生と二人の捜査、第二部が事件前の被害者に関わる関係者の独白、第三部が周辺人物の第二部よりさらに前を描いたサブストーリー、第四部は謎解きという四部構成で、最後には犯人が判明し伏線が回収されてミステリーとして完結する。ただ、犯人探し、謎解きミステリーとしてはさほどレベルが高いとは言えない。それより、当時のストックホルムの風俗を生き生きと甦らせている歴史風俗小説として読み応えがある。描写があまりにもリアル過ぎてグロテスクな場面が多く、潔癖性の人にはオススメできないのだが。本作は三部作の第一作で、本国ではすでに第二作が刊行されているという。 一般受けする作品ではないが、歴史ミステリーファン、残酷なシーンに耐えられる方にはオススメできる。 |
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「そしてミランダを殺す」で日本でブレイクしたスワンソンの邦訳第3作。今回も視点が変わるたびに事件の様相がくるくると変化し、「誰が嘘を吐いているか」を解き明かして行くサイコ・サスペンスである。
一度も会ったことが無い又従兄弟のコービンと半年間、住まいを交換してボストンに留学することになったケイトがロンドンからボストンに着いてみると、そこは豪勢なアパートメント・ハウスだった。豪華な部屋に落ち着かない気分で一晩過ごしたケイトだったが、翌朝、隣に住む女性・オードリーの死体が発見されたことを知り、さらに不安を募らせる。中庭を挟んでオードリーと向かい合う部屋の住人・アランや、オードリーの昔の恋人を名乗るジャックからは「コービンはオードリーと付合っていた」と聞かされたのだが、コービンはオードリーとの付き合いを否定した。嘘を吐いているのは誰か? コービンはオードリー殺害犯なのか? 自らのトラウマにも悩まされながらケイトは真相を探り出そうとする・・・。 ヒロインのケイトは強度の強迫神経症だし、コービンは隠し事が過ぎるし、アランは覗き魔だし、ジャックは落ち着きが無く挙動不審だし、主要登場人物が全員神経症を病んでいるため、物語世界にすっと入り込むことが難しく、読書の流れが悪い。犯人探しミステリーとしては良く出来ているが、サイコ・サスペンス、ゴシック・ミステリーの風味が強過ぎるため、ミステリー専門家やマニアには好評でも、一般受けはしないだろう。 読者を選ぶ作品である。 |
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リンカーン・ライム・シリーズ外の作品。2001年という古い(ネットの世界では4世代ぐらい前?)作品だが、今でも十分通用するネットワーク・ミステリーである。
シリコンバレーで惨殺された女性はネット上でストーキングされていたようだった。その手口の高度さに気づいた警察は、容疑者を追跡するために刑務所に収容中の天才ハッカーであるジレットを呼び出し、捜査に協力させることにした。毒をもって毒を制する、ハッカー同士の戦いは現実世界での犯罪を誘発し、命を賭けた戦いが繰り広げられるのだった。 こういう作品はどこまでリアリティを持たせられるかが重要なポイントになるが、さすがに取材が徹底している上に想像力が半端ではないディーヴァーだけあって、今日か明日には実際のことになるのではと想像すると、背筋が寒くなるような怖さがある。ネットの世界、特にハッカーが中心となる物語だけに専門的なエピソードが多いのだが、重要人物にコンピュータやネットに詳しくない刑事が登場することで適切な解説が加えられているので、さほど苦労することなくストーリーを追うことが出来る。さらに、比較的初期の作品なので、ジェットコースター的展開、どんでん返しもそれほどあざとくなく、その点でも読みやすい。 リンカーン・ライム・シリーズ愛読者であるか否かを問わず、幅広いジャンルのミステリーファンが楽しめる作品としてオススメできる。 |
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ドラマが大ヒットした「半沢直樹」シリーズの第1作。大手都市銀行の行員が理不尽な上司を成敗する、勧善懲悪の仇討ち物語である。
大手銀行の融資課長半沢直樹は、支店長の命令で融資した会社が倒産したことで5億円が焦げ付いた責任を一方的に押し付けられそうになる。このままでは社内の力関係でやられてしまうと危機感を抱いた半沢は、同期入社の人脈や倒産で被害を受けた人たちの協力を得て、理不尽な上司たちを徹底的な返り討ちに合わせるのだった・・・。 主人公の行動原理は正義感に基づいているように見えて意外な裏があり、単純な勧善懲悪だけに終わってはいない。銀行に限らず、日本の企業社会でこんな行動がとれる社員はいないという前提で楽しむ、言わば平成サラリーマン社会の遠山の金さんである。難しいことは言わず、どんどん物語に入って行ける傑作エンターテイメント作品であることは間違いない。 ドラマを見たか否かに関わらず楽しめる作品であり、多くの方にオススメしたい。 |
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本国アメリカを始め世界的にベストセラーを放っている作家の最新作かつ最初の邦訳作品。猛烈な寒波に襲われたニューヨークを舞台に、冷静沈着なスナイパーと天才的能力を持つFBI捜査官の戦いを描いたサスペンス・ミステリーである。
猛烈な吹雪と寒波に襲われたニューヨークで、停車しようとした車を運転していたFBI捜査官が狙撃され死亡した。一発で超長距離の狙撃を成功させた犯人に危機感を抱いたFBI主任捜査官は、魔法の目を持つ男・天才的な空間把握能力を持つ元FBI捜査官・ルーカスに協力を依頼する。捜査官時代に事故に遭って片腕、片足、片目を失い、今は大学教授として穏やかな家庭生活を送っているルーカスは協力をためらうのだが、撃たれたのが元相棒だったことを知らされ、現場を見たことから捜査への誘惑に負けて捜査に加わり、狙撃手のいた場所を特定する。しかし、犯人像を描くこともできないうちに次々に法執行機関の職員が狙撃された。被害者たちの共通点は何か、犯人の狙いは何か。ルーカスをはじめとするFBIと謎の狙撃犯は、時間に追われながら激しい戦いを繰り広げるのだった。 天才的なスナイパーと天才的な捜査官の対決はよくあるパターンだし、主人公が肢体不自由というのもすでにリンカーン・ライムがいるため目新しさは無いが犯人解明までのプロセスは緻密で、決して飽きさせない。さらに、事件の背景には銃社会とキリスト教原理主義の頑迷さが見据えられており、なかなか鋭い社会批評が表現されている。また、家族のあり方を問う側面もあって、単なるサスペンス作品ではない深さがある。ただ、ストーリーのポイントとなるいくつかのエピソードにややご都合主義があるのがちょっと残念。 スナイパーもの、冒険活劇、サスペンス・アクションのファンにオススメする。 |
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1985年、第2回サントリーミステリー大賞の佳作を受賞した作品。デビュー作で前年の同賞を受賞した「二度のお別れ」の続編である。
大阪府警の「黒マメ」コンビこと黒木と亀田は、行員2名が射殺され約1億円が奪われた現金輸送車襲撃事件の捜査に投入され、被害にあった銀行の聞き込みを担当した。ところが、昼間に事情聴取した行員がその夜、飛び降り自殺したのだった。自殺した行員は、共犯者だったのか? 事件そのものの様相も謎が多く、しかも何人か事件関係者は判明するものの動機や証拠があやふやで捜査は難航した。さらに、新たな犠牲者が出て、捜査はますます混迷して行くのだった。 現金輸送車襲撃事件の背景には銀行やサラ金など金融業界の問題点が描かれており、その意味では社会派ノワールとも言えるが、物語のメインは黒マメコンビによる警察小説である。真面目なのか不真面目なのか、規則に囚われない大阪の刑事たちの自由奔放な捜査活動や飛び跳ねるような会話が生き生きと描かれているのは、まさに黒川博行ワールドの原型と言える。初期作品だけあって、後の大阪府警シリーズなどの軽妙さには及ばないぎこちなさはあるものの、第一級のエンターテイメント作品であることは間違いない。 黒川博行ファンはもちろん、前作「二度のお別れ」を読んでいなくても十分楽しめるので、軽めのミステリーを読みたい方に自信を持ってオススメする。 |
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「ワニ町シリーズ」の第3作。前2作と同じメンバーが同じような騒動を繰り返すのでややマンネリではあるが、しっかり笑えるユーモアミステリーの傑作である。
身分を隠したCIA工作員・フォーチュンが仲良くなった町の老女のリーダーであるアイダ・ベルが町長選挙に立候補。対立候補・テッドと公開討論会を開いたのだが、その直後、テッドが毒殺された。アイダ・ベルたちが作っている「咳止めシロップ」(実は密造酒)を飲んで死んだという。犯人扱いされて身柄を拘束されたアイダ・ベルを救うためにフォーチュンは、老婦人仲間のガーティの力も借りて、アイダ・ベルの無実を証明しようと立ち上がる。その結果、南部のワニ町・シンフルは大騒動になる・・・。 シリーズ愛読者ならすぐに展開が読めてくるワンパターンの話なのだが、エピソード、会話が軽快で人物のキャラが強烈なのでやっぱり面白い。良質なコメディを見るように、話の流れに身をゆだねているだけで満足できる。 シンフルの町にすっかり溶け込んでるように見えるフォーチュンだが、この町に移ってきてからまだ二週間しか経っていないという設定にビックリ。たった二週間で3つの作品になってしまうスピード感こそ、本シリーズの魅力である。さらに、本作ではフォーチュンが猫を飼うようになり、シリーズはまだまだ続いて行きそうなので楽しみにしたい。 ユーモラスで楽しいミステリーを読みたい方に、自信を持ってオススメする。 |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第12作。今回は、名脇役ネイトを主役に据えたアクション・サスペンスである。
ハヤブサを連れて鴨狩りをしていたネイトは、地元のハンターだと思って油断した三人組に襲われた。ネイトは反撃し三人とも射殺したのだが、肩を負傷してしまう。身の危険を感じたネイトは、家を焼き払い、行方をくらましてしまった。法執行機関の一員として仕方なくネイトの捜索に加わったジョーだったが、本音ではネイトの無罪(正当防衛)を信じ、何とか助けられないだろうかと悩んでいた。親しくしているインディアンや昔の仲間を頼って逃亡を続けるネイトだったが、ネイトの過去に繋がる闇の組織はネイトの関係者を次々に襲い、執拗に追跡し、ついにはジョーの家族にまで脅迫の手が迫って来た・・・。 いつも通りの森林地帯での冒険劇なのだが、今回はネイトの過去にまつわる政治的謀略が加えられており、ネイトの隠された過去が明かされる点でシリーズ中でも重要な作品となっている。それにしても、ネイトの強さは凄い、凄過ぎる。ブルース・リーやランボーに負けず劣らずである。対照的に、本来の主人公であるジョーの弱さが際立っている。それでも主役はジョーであり、彼の誠実さ、愚直さが勝利を収める時、読者は安心する。 シリーズ愛読者には必読。アクション・サスペンス愛好家にもオススメしたい。 |
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2016年から17年にかけて雑誌連載された中編小説。沖縄の夜の底辺を舞台に居場所を移動させながら生きて行く女の一瞬の夢を描いた、ダウナーな風俗小説である。
北海道生まれで現在は那覇の安直な風俗店に住み込んでいるツキヨは、健康保険無しで治療してくれる歯医者を探して元歯医者で今は閉店したバーに身を潜めている万次郎、そこに同居しているヒロキに出会い、誘われるままに同居生活を送ることになる。それぞれに訳ありの二人と、ただ流されるままに生きてきたツキヨはお互いに干渉し合わないままゆったりとした日々を過ごしていたのだが・・・。 救いようがないようで、本人的には救われているツキヨの生き方にどれだけの共感を感じられるか? 釧路から沖縄の那覇に舞台を移したとはいえ、桜木紫乃の世界は薄曇りの霧に覆われている。その陰翳に面白みを見出せれば、本作は読むに値する。 |
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刑事・加賀シリーズの新作というか、従弟の松宮刑事を主役にしたスピンオフ作品。シリーズの持ち味を裏切らない、現代人情ミステリーである。
一人でカフェを経営していた50代の女性が殺害された。松宮刑事が捜査を進める中で浮かび上がってきた容疑者は、カフェの常連客の男性・汐見、被害者の元夫・綿貫など、数人いたのだが、犯行を決定付ける証拠が見つからなかった。そんな中、松宮の調べをヒントにした加賀刑事が犯人に接触し、自白を引き出したのだった。事件は一件落着と思われたのだが、割り切れない思いをかかえた松宮が独自に周辺調査を進めると、解き明かされたのは家族の絆とは何かに苦悩する普通の人々の出口のない葛藤だった。 あっさりと犯人が判明してしまうため、犯人探しミステリーとしては物足りないが、物語のメインテーマは現代版人情話で、その点では成功している作品である。登場人物が善人ばかりなので、気楽に読み進めることができ、読後感もいい。 シリーズのファンはもちろん、軽めのミステリー、人情ものファンにオススメだ。 |
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「クリムゾン・リバー」の大ヒットで知られるグランジェのデビュー作。ヨーロッパとアフリカを往復する渡り鳥・コウノトリが帰って来なかったという環境保護のような話から残虐な殺人事件につながっていく、驚くべき構成のアクション・ミステリーである。
32歳のモラトリアム青年・ルイは両親の紹介で渡り鳥研究家のマックスから「毎年春に欧州に帰って来るはずのコウノトリが、今年はかなりの数が帰って来なかった。その理由を調べたい」と言われ、助手を務めることになった。コウノトリの渡りの道をたどって行く旅に出る直前、打ち合わせのためにマックスを訪ねると、マックスはコウノトリの巣で無惨に殺害されていた。さらに検死解剖の結果、マックスは心臓移植を受けた痕跡があるのに医療記録が存在せず、しかも巨額の出所不明金を持っていることが判明した。単なる愛鳥家ではなかったマックスは何者なのか? ルイはバルカン半島からトルコ、イスラエル、アフリカへと南下するコウノトリを追い始めるのだが、その行く先々で残虐な殺人に遭遇することになる・・・。 数々の殺人事件は、誰が、何のために起こしているのか? 素人探偵・ルイが犯人と犯行動機を探るためにヨーロッパからアフリカ、最後はインドまでを旅するロード・ノワールであり、またルイ自身が何度も危機に陥るサスペンス小説でもある。渡り鳥が帰って来ないという牧歌的な発端が血みどろの陰惨な事件につながるという落差の大きさが印象的で、インパクトがある作品である。 ホラー作品ではないがかなり血腥い描写も多いので、心して読むことをオススメする。 |
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テレビドラマにもなった「三匹のおっさん」シリーズの第1作。街の自警団を結成し、ご近所の悪を退治する3人のアラ還おやじの活躍をユーモラスに描いたアクション作品である。
全6話からなる連続もので、それぞれに窃盗、詐欺、痴漢、動物虐待など現代的な事件が中心になっているのだが、主眼となっているのは事件の解明ではなく、事件の背景を巡る人情話であり、ミステリー要素は薄い。だが、話の設定が面白く、登場人物たちのキャラ作りも上手いので、何の引っ掛かりもなくどんどん読み進められる。例えて言えば、お酒やコーヒーと一緒に過ごす自由時間に、あるいは旅に持っていくのに最適なタイプのエンターテイメント作品である。 ほのぼのとした読後感を楽しみたい方にオススメする。 |
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フランスでいま最も人気がある作家の一人というミュッソの2016年の作品。失踪した婚約者を探しているうちに驚愕の事実に出会ってしまうというサスペンス・ミステリーである。
4歳の息子を育てているシングルファーザーで小説家のラファエルは、結婚を間近にした婚約者アンナと南フランスでのバカンスに出かけたのだが、自分の過去をひた隠しにするアンナに過去を話すように詰め寄り、衝撃的な写真を見せられることになった。動転したラファエルはホテルを飛び出し、冷静になって戻ったのだが、部屋にはアンナの姿はなかった。アンナがパリに戻ったことを知ったラファエルはすぐにパリに戻り、同じアパートに住む友人で元警部のマルクの手助けを得ながらアンナの行方を探し始めたのだったが、アンナがかつて起きた連続少女拉致監禁事件と関わりがあることが分かってきた。さらに、アンナには秘められた過去が存在することも明らかになった・・・。 失踪した婚約者探し、連続少女拉致監禁事件だけでなく、アンナの過去に関わる様々な事件が登場し、非常に複雑な構成のミステリーである。舞台もフランスからアメリカまで、時代も1990年代から2016年まで激しく動き回るのだが、作者のストーリーテラー能力が優れているので読んでいて混乱することはない。サイコ・サスペンス的な要素は含まれているが、主題は秘められた過去を解明するという謎解きミステリーでストーリー展開もスピーディーで楽しめる。ただ、最後に明かされるエピソードがちょっと拍子抜けなのが残念だ。 読みやすく、話も面白いので多くのミステリーファンに安心してオススメしたい。 |
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短編1本と雑誌掲載3本と書き下ろし1本で構成されながら、ちゃんと長編として成立しているところが伊坂幸太郎らしい作品である。
物語は時代やテーマを変えながら各章ごとに完結しているのだが、悪人のボスの下請けとして当たり屋をやっている二人の人物が物語世界を繋いでいく。伏線を張って回収するというより、別の話に発展させながらつながっていくのが、よく分からないけど面白い。そしてもちろん、エピソードや会話のテンポの良さ、ユニークさも楽しい。 肩の力を抜いて読書を楽しみたいときにオススメする。 |
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