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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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ドラマが大ヒットした「半沢直樹」シリーズの第1作。大手都市銀行の行員が理不尽な上司を成敗する、勧善懲悪の仇討ち物語である。
大手銀行の融資課長半沢直樹は、支店長の命令で融資した会社が倒産したことで5億円が焦げ付いた責任を一方的に押し付けられそうになる。このままでは社内の力関係でやられてしまうと危機感を抱いた半沢は、同期入社の人脈や倒産で被害を受けた人たちの協力を得て、理不尽な上司たちを徹底的な返り討ちに合わせるのだった・・・。 主人公の行動原理は正義感に基づいているように見えて意外な裏があり、単純な勧善懲悪だけに終わってはいない。銀行に限らず、日本の企業社会でこんな行動がとれる社員はいないという前提で楽しむ、言わば平成サラリーマン社会の遠山の金さんである。難しいことは言わず、どんどん物語に入って行ける傑作エンターテイメント作品であることは間違いない。 ドラマを見たか否かに関わらず楽しめる作品であり、多くの方にオススメしたい。 |
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本国アメリカを始め世界的にベストセラーを放っている作家の最新作かつ最初の邦訳作品。猛烈な寒波に襲われたニューヨークを舞台に、冷静沈着なスナイパーと天才的能力を持つFBI捜査官の戦いを描いたサスペンス・ミステリーである。
猛烈な吹雪と寒波に襲われたニューヨークで、停車しようとした車を運転していたFBI捜査官が狙撃され死亡した。一発で超長距離の狙撃を成功させた犯人に危機感を抱いたFBI主任捜査官は、魔法の目を持つ男・天才的な空間把握能力を持つ元FBI捜査官・ルーカスに協力を依頼する。捜査官時代に事故に遭って片腕、片足、片目を失い、今は大学教授として穏やかな家庭生活を送っているルーカスは協力をためらうのだが、撃たれたのが元相棒だったことを知らされ、現場を見たことから捜査への誘惑に負けて捜査に加わり、狙撃手のいた場所を特定する。しかし、犯人像を描くこともできないうちに次々に法執行機関の職員が狙撃された。被害者たちの共通点は何か、犯人の狙いは何か。ルーカスをはじめとするFBIと謎の狙撃犯は、時間に追われながら激しい戦いを繰り広げるのだった。 天才的なスナイパーと天才的な捜査官の対決はよくあるパターンだし、主人公が肢体不自由というのもすでにリンカーン・ライムがいるため目新しさは無いが犯人解明までのプロセスは緻密で、決して飽きさせない。さらに、事件の背景には銃社会とキリスト教原理主義の頑迷さが見据えられており、なかなか鋭い社会批評が表現されている。また、家族のあり方を問う側面もあって、単なるサスペンス作品ではない深さがある。ただ、ストーリーのポイントとなるいくつかのエピソードにややご都合主義があるのがちょっと残念。 スナイパーもの、冒険活劇、サスペンス・アクションのファンにオススメする。 |
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1985年、第2回サントリーミステリー大賞の佳作を受賞した作品。デビュー作で前年の同賞を受賞した「二度のお別れ」の続編である。
大阪府警の「黒マメ」コンビこと黒木と亀田は、行員2名が射殺され約1億円が奪われた現金輸送車襲撃事件の捜査に投入され、被害にあった銀行の聞き込みを担当した。ところが、昼間に事情聴取した行員がその夜、飛び降り自殺したのだった。自殺した行員は、共犯者だったのか? 事件そのものの様相も謎が多く、しかも何人か事件関係者は判明するものの動機や証拠があやふやで捜査は難航した。さらに、新たな犠牲者が出て、捜査はますます混迷して行くのだった。 現金輸送車襲撃事件の背景には銀行やサラ金など金融業界の問題点が描かれており、その意味では社会派ノワールとも言えるが、物語のメインは黒マメコンビによる警察小説である。真面目なのか不真面目なのか、規則に囚われない大阪の刑事たちの自由奔放な捜査活動や飛び跳ねるような会話が生き生きと描かれているのは、まさに黒川博行ワールドの原型と言える。初期作品だけあって、後の大阪府警シリーズなどの軽妙さには及ばないぎこちなさはあるものの、第一級のエンターテイメント作品であることは間違いない。 黒川博行ファンはもちろん、前作「二度のお別れ」を読んでいなくても十分楽しめるので、軽めのミステリーを読みたい方に自信を持ってオススメする。 |
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「ワニ町シリーズ」の第3作。前2作と同じメンバーが同じような騒動を繰り返すのでややマンネリではあるが、しっかり笑えるユーモアミステリーの傑作である。
身分を隠したCIA工作員・フォーチュンが仲良くなった町の老女のリーダーであるアイダ・ベルが町長選挙に立候補。対立候補・テッドと公開討論会を開いたのだが、その直後、テッドが毒殺された。アイダ・ベルたちが作っている「咳止めシロップ」(実は密造酒)を飲んで死んだという。犯人扱いされて身柄を拘束されたアイダ・ベルを救うためにフォーチュンは、老婦人仲間のガーティの力も借りて、アイダ・ベルの無実を証明しようと立ち上がる。その結果、南部のワニ町・シンフルは大騒動になる・・・。 シリーズ愛読者ならすぐに展開が読めてくるワンパターンの話なのだが、エピソード、会話が軽快で人物のキャラが強烈なのでやっぱり面白い。良質なコメディを見るように、話の流れに身をゆだねているだけで満足できる。 シンフルの町にすっかり溶け込んでるように見えるフォーチュンだが、この町に移ってきてからまだ二週間しか経っていないという設定にビックリ。たった二週間で3つの作品になってしまうスピード感こそ、本シリーズの魅力である。さらに、本作ではフォーチュンが猫を飼うようになり、シリーズはまだまだ続いて行きそうなので楽しみにしたい。 ユーモラスで楽しいミステリーを読みたい方に、自信を持ってオススメする。 |
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ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第12作。今回は、名脇役ネイトを主役に据えたアクション・サスペンスである。
ハヤブサを連れて鴨狩りをしていたネイトは、地元のハンターだと思って油断した三人組に襲われた。ネイトは反撃し三人とも射殺したのだが、肩を負傷してしまう。身の危険を感じたネイトは、家を焼き払い、行方をくらましてしまった。法執行機関の一員として仕方なくネイトの捜索に加わったジョーだったが、本音ではネイトの無罪(正当防衛)を信じ、何とか助けられないだろうかと悩んでいた。親しくしているインディアンや昔の仲間を頼って逃亡を続けるネイトだったが、ネイトの過去に繋がる闇の組織はネイトの関係者を次々に襲い、執拗に追跡し、ついにはジョーの家族にまで脅迫の手が迫って来た・・・。 いつも通りの森林地帯での冒険劇なのだが、今回はネイトの過去にまつわる政治的謀略が加えられており、ネイトの隠された過去が明かされる点でシリーズ中でも重要な作品となっている。それにしても、ネイトの強さは凄い、凄過ぎる。ブルース・リーやランボーに負けず劣らずである。対照的に、本来の主人公であるジョーの弱さが際立っている。それでも主役はジョーであり、彼の誠実さ、愚直さが勝利を収める時、読者は安心する。 シリーズ愛読者には必読。アクション・サスペンス愛好家にもオススメしたい。 |
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2016年から17年にかけて雑誌連載された中編小説。沖縄の夜の底辺を舞台に居場所を移動させながら生きて行く女の一瞬の夢を描いた、ダウナーな風俗小説である。
北海道生まれで現在は那覇の安直な風俗店に住み込んでいるツキヨは、健康保険無しで治療してくれる歯医者を探して元歯医者で今は閉店したバーに身を潜めている万次郎、そこに同居しているヒロキに出会い、誘われるままに同居生活を送ることになる。それぞれに訳ありの二人と、ただ流されるままに生きてきたツキヨはお互いに干渉し合わないままゆったりとした日々を過ごしていたのだが・・・。 救いようがないようで、本人的には救われているツキヨの生き方にどれだけの共感を感じられるか? 釧路から沖縄の那覇に舞台を移したとはいえ、桜木紫乃の世界は薄曇りの霧に覆われている。その陰翳に面白みを見出せれば、本作は読むに値する。 |
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刑事・加賀シリーズの新作というか、従弟の松宮刑事を主役にしたスピンオフ作品。シリーズの持ち味を裏切らない、現代人情ミステリーである。
一人でカフェを経営していた50代の女性が殺害された。松宮刑事が捜査を進める中で浮かび上がってきた容疑者は、カフェの常連客の男性・汐見、被害者の元夫・綿貫など、数人いたのだが、犯行を決定付ける証拠が見つからなかった。そんな中、松宮の調べをヒントにした加賀刑事が犯人に接触し、自白を引き出したのだった。事件は一件落着と思われたのだが、割り切れない思いをかかえた松宮が独自に周辺調査を進めると、解き明かされたのは家族の絆とは何かに苦悩する普通の人々の出口のない葛藤だった。 あっさりと犯人が判明してしまうため、犯人探しミステリーとしては物足りないが、物語のメインテーマは現代版人情話で、その点では成功している作品である。登場人物が善人ばかりなので、気楽に読み進めることができ、読後感もいい。 シリーズのファンはもちろん、軽めのミステリー、人情ものファンにオススメだ。 |
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「クリムゾン・リバー」の大ヒットで知られるグランジェのデビュー作。ヨーロッパとアフリカを往復する渡り鳥・コウノトリが帰って来なかったという環境保護のような話から残虐な殺人事件につながっていく、驚くべき構成のアクション・ミステリーである。
32歳のモラトリアム青年・ルイは両親の紹介で渡り鳥研究家のマックスから「毎年春に欧州に帰って来るはずのコウノトリが、今年はかなりの数が帰って来なかった。その理由を調べたい」と言われ、助手を務めることになった。コウノトリの渡りの道をたどって行く旅に出る直前、打ち合わせのためにマックスを訪ねると、マックスはコウノトリの巣で無惨に殺害されていた。さらに検死解剖の結果、マックスは心臓移植を受けた痕跡があるのに医療記録が存在せず、しかも巨額の出所不明金を持っていることが判明した。単なる愛鳥家ではなかったマックスは何者なのか? ルイはバルカン半島からトルコ、イスラエル、アフリカへと南下するコウノトリを追い始めるのだが、その行く先々で残虐な殺人に遭遇することになる・・・。 数々の殺人事件は、誰が、何のために起こしているのか? 素人探偵・ルイが犯人と犯行動機を探るためにヨーロッパからアフリカ、最後はインドまでを旅するロード・ノワールであり、またルイ自身が何度も危機に陥るサスペンス小説でもある。渡り鳥が帰って来ないという牧歌的な発端が血みどろの陰惨な事件につながるという落差の大きさが印象的で、インパクトがある作品である。 ホラー作品ではないがかなり血腥い描写も多いので、心して読むことをオススメする。 |
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テレビドラマにもなった「三匹のおっさん」シリーズの第1作。街の自警団を結成し、ご近所の悪を退治する3人のアラ還おやじの活躍をユーモラスに描いたアクション作品である。
全6話からなる連続もので、それぞれに窃盗、詐欺、痴漢、動物虐待など現代的な事件が中心になっているのだが、主眼となっているのは事件の解明ではなく、事件の背景を巡る人情話であり、ミステリー要素は薄い。だが、話の設定が面白く、登場人物たちのキャラ作りも上手いので、何の引っ掛かりもなくどんどん読み進められる。例えて言えば、お酒やコーヒーと一緒に過ごす自由時間に、あるいは旅に持っていくのに最適なタイプのエンターテイメント作品である。 ほのぼのとした読後感を楽しみたい方にオススメする。 |
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フランスでいま最も人気がある作家の一人というミュッソの2016年の作品。失踪した婚約者を探しているうちに驚愕の事実に出会ってしまうというサスペンス・ミステリーである。
4歳の息子を育てているシングルファーザーで小説家のラファエルは、結婚を間近にした婚約者アンナと南フランスでのバカンスに出かけたのだが、自分の過去をひた隠しにするアンナに過去を話すように詰め寄り、衝撃的な写真を見せられることになった。動転したラファエルはホテルを飛び出し、冷静になって戻ったのだが、部屋にはアンナの姿はなかった。アンナがパリに戻ったことを知ったラファエルはすぐにパリに戻り、同じアパートに住む友人で元警部のマルクの手助けを得ながらアンナの行方を探し始めたのだったが、アンナがかつて起きた連続少女拉致監禁事件と関わりがあることが分かってきた。さらに、アンナには秘められた過去が存在することも明らかになった・・・。 失踪した婚約者探し、連続少女拉致監禁事件だけでなく、アンナの過去に関わる様々な事件が登場し、非常に複雑な構成のミステリーである。舞台もフランスからアメリカまで、時代も1990年代から2016年まで激しく動き回るのだが、作者のストーリーテラー能力が優れているので読んでいて混乱することはない。サイコ・サスペンス的な要素は含まれているが、主題は秘められた過去を解明するという謎解きミステリーでストーリー展開もスピーディーで楽しめる。ただ、最後に明かされるエピソードがちょっと拍子抜けなのが残念だ。 読みやすく、話も面白いので多くのミステリーファンに安心してオススメしたい。 |
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短編1本と雑誌掲載3本と書き下ろし1本で構成されながら、ちゃんと長編として成立しているところが伊坂幸太郎らしい作品である。
物語は時代やテーマを変えながら各章ごとに完結しているのだが、悪人のボスの下請けとして当たり屋をやっている二人の人物が物語世界を繋いでいく。伏線を張って回収するというより、別の話に発展させながらつながっていくのが、よく分からないけど面白い。そしてもちろん、エピソードや会話のテンポの良さ、ユニークさも楽しい。 肩の力を抜いて読書を楽しみたいときにオススメする。 |
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アメリカの現代詩人でヤングアダルト向け小説家の作品。エドガー賞を受賞したミステリーだが、現代詩の形態をとっている、不思議なエンターテイメント作品である。
敬愛する兄・ショーンを対立するストリートギャングに射殺された15歳の少年・ウィルは、街に生きる者の掟に従って犯人を殺すために、兄が隠していた拳銃を持って家を出て、エレベーターに乗り込んだのだが、自宅のある8階からロビーに降りるまでの1分少々の間にエレベーターは各階に停止し、それぞれの階で、もう会えるはずのない人たちが乗り込んできた。死んだはずの亡き兄の先輩、幼なじみの少女、伯父、父親らとの対話を通して、ウィルは復讐の決心を改めて確かめることになる・・・。 壊れた街に暮らす少年が殺された兄の敵討ちをしようとするというありがちな設定だが、エレベーターが地上に着くまでのわずかな時間、揺れる少年の心を現代詩の形態で描いたユニークさが新鮮である。内容はノワールだが、読後感は爽やかだ。 ミステリーファンにというより、ヤングアダルト小説のファンにオススメする。 |
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9年ぶりに登場した、陽気なギャングシリーズの第3作。相変わらず、個性的な登場人物が奇想天外な冒険を繰り返すコメディ・ミステリーである。
久しぶりに銀行強盗を働いた陽気なギャングたちだったが、ひょっとしたことから久遠がトラブルに巻き込まれた。その相手は、下劣で執念深い週刊誌記者・火尻で、しかも久遠が銀行強盗の一員であることを嗅ぎつかれてしまった。火尻から脅迫されることになった陽気なギャングたちは、火尻の執念深さに苦労しながらも、窮地を脱するためにギリギリの奇襲作戦を仕掛けるのだった・・・。 今回は、四人の個性を生かしたストーリー展開というより、悪役・火尻をはじめとする周辺人物のキャラクターが前面に出てきた物語である。他の方のレビューにあるように、オチのつけ方に切れ味がない感じはあるが、安定して楽しめる作品である。 シリーズ作品なので、当然のことながら第1作から順に読むことをオススメする。 |
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2018年の各ミステリーランキングでトップを独占しただけでなく、本屋大賞も受賞し、翻訳ミステリー界の話題を独占した作品。アガサ・クリスティへのオマージュと言われるだけあって、英国伝統の本格謎解きミステリーである。
上下巻2冊に別れ、上巻はアラン・コンウェイという作家の「カササギ殺人事件」という小説、下巻は同作品の担当編集者がコンウェイの死の謎を解くというダブルのフーダニット構成である。そして、それぞれの謎解きが極めて緻密に精緻に構成されており、まさに古き良きイギリスの探偵小説の王道を行く作品である。ただ、それ以上のものではない。 アガサ・クリスティに代表される古典的謎解きミステリーのファンには絶対のオススメ作品だ。 |
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陽気なギャング・シリーズの第2弾。4人それぞれを主人公にした4本の短編とそれをベースにした長編で構成された、アップテンポで楽しいコン・ゲーム小説である。
嘘を見抜く名人・成瀬、天才スリ・久遠、演説の達人・響野、正確な体内時計を持つ女・雪子というおなじみの4人組は、またまた銀行を襲撃し、今回は邪魔が入ることもなく現金を手にしたのだった。しかし、強盗の現場に居合わせた若い男女が気になり、あとから検討してみると女性は成瀬の部下の婚約者で、しかも彼女は一緒にいた男に脅迫されているようだった。と言う訳で、頼まれもしないのに「社長令嬢誘拐事件」に関わることになった4人は、得意のチームプレイで怪しい誘拐犯や裏カジノ経営者たちと対決することになった・・・。 今回もまた、ストーリー展開、会話、事件解決の構成が緻密でシュール。とにかく読者を楽しませることに徹底したエンターテイメントで、冒頭の「著者のことば」にあるように「細かいことは気にせずに楽しんで」いけるコン・ゲーム小説である。 前作「陽気なギャングが地球を回す」を受けたエピソードや会話も多くあるので、前作から順番に読むことを強くオススメする。 |
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トマス・ハリスの13年ぶりの新作。麻薬王・エスコバルがマイアミに残した大豪邸の地下金庫に隠された2500万ドルの金塊争奪戦を描いた、レクター博士シリーズとは無関係なサイコ・ノワール・エンターテイメントである。
大豪邸の管理のバイトとして働くコロンビア出身の25歳の美貌の女性・カリは、屋敷に隠された金塊を狙うコロンビアの犯罪集団と接触するのだが、金塊の強奪を狙っているのは彼らだけではなかった。偏執的な臓器密売商人・シュナイダーは映画撮影を装って屋敷に居座り、金庫を掘り出そうとする。一方のコロンビア側も強硬手段をとり、互いに殺し合う壮絶な戦争が始まり、屋敷の事情に詳しいカリは否応なく抗争に巻き込まれていく・・・。 ヒロインのカリは祖国コロンビアの反政府ゲリラで少年兵として育てられた過去を持ち、さまざなサバイバル技術を身に付けたタフな女性であり、また一方で、傷付いた動物を助けるために獣医を志している心優しい女性でもある。そんな彼女を騒動に巻き込む悪党たちはかなりの特異性を持った奴ばかりで、しかも行動は荒っぽい。そしてストーリー展開はスピーディーで息つく暇もない、まさにエルモア・レナードの世界である。 時代性を加味したストーリー、軽快な場面展開など、これまでのトマス・ハリス作品にはない良さは評価できるのだが、いかんせん奥行きがない。全体に薄っぺらな印象で、ところどころでは「あらすじ」を読まされているようなのが残念である。 レクター博士シリーズの重厚を期待すると裏切られる。レナード・タッチのアップテンポなノワールのファンにオススメする。 |
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2017年から一年間、毎日新聞に連載された長編ミステリー。7年ぶりの合田雄一郎シリーズ作品である。
現場を離れ警察大学の教授になっていた合田雄一郎は、12年前に捜査指揮をとり未解決のまま終わった元美術教師の老女殺害事件について、コールドケース担当部署から問い合わせを受ける。池袋で同棲相手に殺された28歳の女性が、老女殺害事件現場から拾ってきた絵の具を持っていたとの情報が入ったのだという。さらに、その女性は事件当時、美術教師が開いていた絵画教室に通っており、合田たち捜査陣が調べた関係者の一人だったのだ。未解決のまま心に残っていた事件が再び脚光を浴びたとき、合田はやり残していた宿題と直面することになる。 老女殺害事件の真犯人は誰か? 28歳の女性が犯人なら動機は何なのか? ストーリーの本筋は犯人探しだが、事件の背景や動機を解明していくのが捜査側だけでなく、事件関係者たちの記憶の振り返り、思い出しにも頼っているため、オーソドックスな警察小説ではない。むしろ、当時高校生だった少女とその友人関係、それぞれの親や家庭環境にまつわるエピソードが重要な役割りを果たす、社会派のヒューマンドラマの色が濃い作品である。事件の謎が解明されてすっきりするというより、漠然とした不全感が最後まで残る、時代の不安を反映したような作品と言える。 合田雄一郎ファンにはもちろん、近年の難解な高村薫に付いていけなかったオールドファンにも安心してオススメする。 |
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小役人シリーズとしてくくれば第3作。気象庁の研究官を主人公にした、国際謀略小説である。
気象庁の地震と火山の研究官・江坂たちは、海上保安庁と合同で南西諸島沖の海底を観測するために鹿児島に着いたのだが、海上保安庁から一方的に準備に時間がかかると告げられた。待機するしかない状態になり、その時間を利用して、鹿児島気象台にいる福岡時代の同僚・森本を訪ねることにした。ところが、森本は退職し、アパートも引き払って所在が確認できなくなっていた。森本らしからぬ行動に疑問を抱いた江坂が行方を探っていると、森本と親しい地震研究の大学教授も行方不明になっていることが判明した。二人は、なぜ姿をくらませなければいけないのか? 警察がとりあってくれないため、江坂は単独で調査を始めたのだが、そこで明らかになったのは、小役人の力では何ともし難い事態だった・・・。 気象庁の研究者というアンチ・ヒーローが国家や公安を相手に闘うという設定がユニーク。両者の力の差が大きすぎるため、ところどころ展開に無理が出ているが、ストーリーはよく練られている。ただ、伏線と回収に齟齬があるというか、物語の中心がどこなのかが定まっていない感じを受けた。単純にストーリーを追っていれば面白いのだが、動機や背景を深読みしていくとやや物足りない。 緻密な取材に基づいた、しっかりしたミステリーが読みたい方にオススメする。 |
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雑誌掲載の4作品を収めた、著者の第二短編集。要人警護のSP、海難救助の潜水士、自衛隊の不発弾処理隊員、消防士という、常に命がけの仕事に取り組む4人のプロフェッショナルの4つの物語で構成されている。
それぞれに独立した作品だが、共通するのは危険と隣り合わせの仕事にも怯むことが無い主人公たちの高い職業倫理であり、それと同時に、常に命を賭けているが故に起きる、安全を願う恋人や妻との葛藤である。緻密な取材に基づくリアリティがあるサスペンス・アクションと、愛する人と平穏な日々を築けない人間的な苦悩のドラマが見事に対比され、単純なヒーローものではない深みがある作品集となっている。 現実感のあるサスペンス小説、人間的なヒーローの物語を読みたい方にオススメする。 |
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北アイルランドの刑事ショーン・ダフィが主人公のシリーズ第三作。IRAのテロリスト・ハンティングに古典的密室殺人を練り込んだ二重構造の警察・ノワール・ミステリーである。
上層部に対する反抗的態度が問題になって警察を首になり、無為の日々を送っていたダフィの下をMI5が訪れ、ダフィの旧友でIRAの大物ダーモットを探して欲しいと言う。警察への復職を条件に依頼を引受けたダフィは、自分の知人でもあるダーモットの親族を訪ね、情報を得ようとするが、イギリスを嫌悪する彼らからはまともな返答を得られなかった。そんななか、ダーモットの別れた妻の母親であるメアリーから「4年前に起きた娘・リジーの殺人事件の真相を解明してくれればダーモットの居場所を教える」という取引を持ちかけられた。しかし、その事件は完全な密室で起きた事件であり、謎を解く手がかりは全く見つけることができなかった・・・。 本シリーズははぐれ狼の刑事を主人公にした警察小説だが、本作は紛争まっただ中の北アイルランドで大物テロリストを追うという、フォーサイスばりの政治謀略小説であり、また密室殺人の謎を解くという古典的ミステリーでもある。ふつうであれば2本の作品になるような贅沢な構成になっている。本筋のテロリスト・ハンティングは実際に起きた出来事をベースにしているため時代背景、登場人物ともに真に迫っている。さらに密室殺人は古典のルールに忠実で謎解きとして面白い。ただ、それぞれに完成度が高い二つが主張し合った結果、物語全体としては落ち着かない部分がある。 自分の趣向に合わせていろいろな読み方ができるので、どなたにもオススメできる作品と言える。 |
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