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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 281~300 15/31ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.337:
(7pt)

愛とは乱暴で狂気の沙汰である(非ミステリー)

子供がいない、平凡な主婦が夫の浮気を機に本人も気が付かない狂気の世界へ暴走する、ちょっとブラックな物語である。
結婚8年目で夫の実家の敷地に建つ離れに夫婦で住む桃子は、週に一度のカルチャー講師を勤めるほかは主婦に専念していた。そんな生活は、義父が脳梗塞で入院し、義母の手伝いをするようになったある日、一本の無言電話がかかってきたことで一変する。無言電話の向こうからかすかに聞こえてきたのは夫の声ではないか? 疑心暗鬼に陥った桃子の日常は徐々に変化し、平穏だと思っていた夫婦仲に生じた亀裂は広がるばかり。そして、いつもは使っていない部屋の畳と床下が気になり始めた桃子は床下を見たいという衝動が抑えきれなくなり、とうとうチェーンソーを買ってしまった。そして、夫の浮気相手と対面した桃子は・・・。
実は桃子も現在の夫とは不倫の末に前妻を追い出す形で結ばれた過去があり、その因果が巡る形で現状を迎えているのだった。何事にも優柔不断な夫との関係、義父母との関係というありがちな家族問題と愛情のもつれを、どう解きほぐして行くのか。2時間ドラマみたいな構図の物語だが、そこは吉田修一、思いがけない結末が用意されている。人を愛することは自分の妄想を愛すること、愛は狂気でしかないことがじわじわと伝わってくる寓話である。
途中、ミステリーになるかと思わせる部分もあるが肩すかしで、ブラックでユーモラスなヒューマンドラマとして楽しめる。ミステリー・ファン以外のエンターテイメント作品ファンにオススメしたい作品である。
愛に乱暴 上 (新潮文庫)
吉田修一愛に乱暴 についてのレビュー
No.336:
(7pt)

敗戦国民の罪と罰は、どこにあるのか?

2019年度の各種ミステリーランキング、本屋大賞などで高く評価された長編小説。一人の少女を通して敗戦国民の悔恨、絶望、再生への希望を救い上げた社会派ミステリーの力作である。
1945年7月、敗戦直後のベルリンで米軍の食堂で働いていた17歳の少女・アウグステは、ある日、MPにソ連の占領地域に連行され、そこでソ連の公安警察から、戦争時代のアウグステの恩人であるクリストフの死体に対面させられた。しかも、クリストフは殺害され、犯人はアウグステではないかと問いつめられた。動機が無いと強く主張し釈放されたアウグステは、クリストフの妻で同じく恩義があるフレデリカの焦燥ぶりに同情し、クリストフの訃報を知らせるためにフレデリカの甥で行方不明のエーリヒを探すことになった。その道連れになったのが、元俳優で泥棒の陽気な男・カフカで、ソ連占領下からアメリカ占領下を経由し、ポツダム近郊の旧撮影所をめざして旅立った。敗戦の混乱から立ち直っていないベルリンは危険だらけで、しかも米英ソの三巨頭会談を目前にして街は緊張に包まれており、二人は思いがけない危機に直面し、命がけの旅になった・・・。
ミステリーとしてはクリストフ殺害の動機、犯人探しで、それなりの筋が通ったまずまずの完成度である。それよりも、ドイツが背負うことになったナチスとユダヤ人迫害という罪と罰を17歳のアーリア人少女の体験として摘出した社会派小説として高く評価したい。
「戦場のコックたち」にも通じるヒューマン・ドラマとして読むことをオススメする。
ベルリンは晴れているか (ちくま文庫)
深緑野分ベルリンは晴れているか についてのレビュー
No.335: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ちょっとしたトリックが秀逸

書き下ろし全7作品を収めた短編集。
どれも一ひねりしたトリックというか、仕掛けが効いた味のある小品ばかり。短編ながら起承転結があり、最後の種明かしに納得感がある。
旅行中のお供に、休日の昼下がりに、ちょっとした読物が欲しいときに最適だ。
怪しい人びと 新装版 (光文社文庫)
東野圭吾怪しい人びと についてのレビュー
No.334: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

氷の天使にも殺し屋にも人間性はある

NYPDの氷の天使・キャシー・マロリー・シリーズの第12作。修道女殺害事件の裏に隠された事件の真相を暴き、人質を救出する警察ミステリーである。
きっかけは「街中で行方不明になった尼僧を探して欲しい」というマロリーへの訴えだった。居合わせた相棒のライカー刑事は、消えた尼僧シスター・マイケルと同じ顔、同じ名字の盲目の少年ジョーナも行方不明になっていることに気が付いた。さらに数日後、シスター・マイケルの死体が市長公邸の前庭で他の3人の死体と一緒に発見された。遺棄された死者4人の間に関連性は見つからず、誰が、何のために犯した犯罪なのか、動機が分からず捜査は混迷する。そのころ、少年ジョーナは知らない男に監禁されていた。マロリーたち捜査陣は4人殺害事件を解明し、さらに行方不明の少年を助け出すことができるだろうか?
シリーズの特徴である機能不全家族による人格破壊という側面は継承しつつ、ヒロインのマロリー、犯人ともに時たま人間性をかいま見せるところが最近の傾向だったのだが、本作ではそれがさらにはっきりと出ている。その分だけヒロインのクールさは減衰したと言えるが、物語に感情移入しやすくなったのも事実である。本格警察ミステリーとしては、犯行の背景があまりにも大雑把で作り事感が過剰なのが惜しい。
シリーズ読者には必読。警察ミステリーファンにも、読んで損は無いとオススメする。
修道女の薔薇 (創元推理文庫)
キャロル・オコンネル修道女の薔薇 についてのレビュー
No.333: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

のちに花を咲かせるつぼみがぎっしり

デビュー作「オーデュポンの祈り」に続く長編第2作。仙台を舞台に5つの現代寓話が並行して進行し、最後に不思議な形で結びついて行く、突拍子もない群像劇である。
5つのストーリーはそれぞれに独立したファンタジックなミステリーで、一つひとつで物語となっているのだが、最後に意表をつく5つの関連が明かされる。つまり予想を覆す伏線の回収になっているのだが、扉のイラストに有名なエッシャーの騙し絵が使われていることで分かるように、時間と空間を操作した巧妙な仕掛けが施された構成で、騙されるのを楽しむ作品になっている。
登場人物、ストーリー、テーマには、のちに傑作として花開いて行く作品のつぼみともいうべきものがあり、その意味でも伊坂幸太郎ファンには必読と言える。
ラッシュライフ (新潮文庫)
伊坂幸太郎ラッシュライフ についてのレビュー
No.332:
(7pt)

汗がみずみずしい、初期短編集(非ミステリー)

1997〜98年に雑誌掲載された3編の短編を収めた、吉田修一の初期作品集。高校生、大学生、ヒモ暮らしというモラトリアムな状況を生きる若者の日常を描いた青春小説である。
3作品それぞれに舞台設定は異なるものの、何ものかをつかもうと生真面目に生きている、でも世間的には不器用な青春がリアルに、ファンタジックに描かれていて甘酸っぱい読後感を残す。
吉田修一の歩んできた小説世界を知る上で、吉田修一ファンには欠かせない作品といえる。
最後の息子 (文春文庫)
吉田修一最後の息子 についてのレビュー
No.331:
(7pt)

日本と台湾を繋ぐもの(非ミステリー)

台湾新幹線の建設に日本が応札し、7年の歳月をかけて一番列車を走らせるまでの軌跡と、建設にたずさわった人物の人間ドラマを描いた長編小説。そこにさらに日台の市民の歴史を絡めることで、単なる「プロジェクトX」ではない完成度に到達したエンターテイメント作品である。
商社の台湾新幹線事業部に勤務する、入社4年目の多田春香は受注が決まったプロジェクトに参加するため台北に赴任した。やりがいのある仕事に情熱を燃やす春香には、6年前に初めて台湾旅行したときにエリックと名乗る学生と出会った思い出があり、ひょっとして再会できればという淡い期待も抱いていた。事情を知った台湾人の同僚の尽力でエリックのその後を調べてみると、なんと彼は日本で就職しているのだった。お互いの国を入れ替えた二人は、それぞれの事情を抱えながら不器用な関係を続け、7年の歳月をかけた台湾新幹線が開通したとき、新たな路を走り出すことになる。
ビッグプロジェクトの成功への軌跡を追いかけながら、現在を生きる二人に加えて、青年時代まで台湾で過ごした日本人の老人により、時代と国を超えた人々のドラマが生き生きと描かれて行く。ビジネス小説ではなく、しっかりと読み応えがあるヒューマンドラマである。また、日本ではあまり知られていない台湾人の思考や行動の様式が優しいまなざしで描かれているのも、読後感を爽やかにしている。
吉田修一がカバーする分野の広さを示す一編として、すべての吉田修一ファンにオススメしたい。
路 (文春文庫)
吉田修一路(ルウ) についてのレビュー
No.330:
(7pt)

黒川博行は短編だと良さが出にくい

1994年から97年にかけて雑誌掲載された9作品を収めた短編集。
随所に別の長編につながるようなアイデアが見られ、どの作品も一ひねりしてあってそれなりに面白いのだが、やはり短編だと食い足りない。どれも短いので、休日の午後の暇つぶしにはぴったりで、気楽に読むことをオススメする。
燻り (角川文庫)
黒川博行燻り についてのレビュー
No.329:
(7pt)

痛め付けられ最後に反撃する、唐獅子牡丹のごときジョー

ワイオミング州猟区管理官・ジョー・ピケット・シリーズの第5弾(本来は第6作だが、邦訳では第5弾)。凶悪な殺人鬼の恐怖にひとり立ち向かうジョーの孤独な戦いを描いたアクション・ミステリーである。
ジョーの管轄地域であるトゥエルブ・スリープ郡の名門牧場の女主人が行方不明となり、残された莫大な牧場を巡って三人の兄弟がいがみ合い、街を二分する騒ぎに発展し、無関係なはずのジョー一家も巻き込まれる事態になった。さらに、過去の事件が原因でジョーに対して一方的な恨みを募らせた男が、ジョーのみならず家族をも脅迫してきた。しかも、ジョーに敵対する上司、牧場に支配された地元司法機関は全く協力しようとせず、ジョーは愛する家族を守るため、たった一人で戦うことになる。
今回は地元を舞台にしたドメスティックな話で、ワイオミングの大自然はあるものの話のスケールは地理的な広がりより、時間軸で広がっており、これまでの作品のような社会性があるテーマではなく、複雑な人間関係が中心となっている。なので、主人公ジョーが信念を貫くために様々な困難に直面させられ、最後の最後に爆発し正義が達成されるという、正統派東映ヤクザ映画のようなテイストである。いつもはジョーに寄り添って活躍するネイトが最後の最後にしか登場しないのも、唐獅子牡丹を彷彿させる。
シリーズ読者には必読。シリーズ未読の方には、これまでの流れを解説した巻末の「訳者あとがき」から読むことをオススメする。
裁きの曠野 (講談社文庫)
C・J・ボックス裁きの曠野 についてのレビュー
No.328: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

美術教師と音楽教師、素人二人のドタバタ犯罪劇

新聞連載を加筆・改稿した、ノンシリーズの長編小説。女子高の美術教師と音楽教師の2人組が、ひょんなことから学園理事長の誘拐騒ぎに巻き込まれ、本物の悪を相手に金塊を奪い合うというアクション作品である。
身分の不安定な非常勤講師の熊谷は、正規講師だが校長ににらまれて左遷寸前の音楽教師・正木菜穂子とともに、不正をただすために理事長に強制談判しようと言う同僚に誘われ、話に乗った。愛人と欧州視察旅行に出かけようとした理事長をつかまえ、不正の証拠を提示して話し合いに応じさせることに成功したのだが、その後、理事長と愛人の姿が消えた。熊谷と菜穂子の二人は身分保証さえ得られれば良かったのだが、二人を操った黒幕の狙いは最初から不正蓄財された隠し財産を奪い取ることだったのだ。隠し財産は金塊100キロに姿を変え、それを狙った悪党たちが丁々発止の駆け引きを繰り広げ、熊谷と菜穂子も否応なしに争奪戦に巻き込まれたのだった・・・。
ただの芸術系講師の二人が行き当たりばったりながら悪党相手に知恵を絞り、裏をかいて行く、暴力より頭の良さと運が左右するアクション・ストーリーである。最後は治まるべきところへ治まる物語なのだが、次から次へ読者の予想を超える問題が起き、二転三転するストーリー展開で飽きさせない。舞台はもちろん大阪で、おなじみの大阪弁のやり取りがテンポよく繰り返されて行く。ノンシリーズではあるが、いつもの黒川博行ワールド全開で楽しめる。
黒川博行ファンには文句なしのオススメ。明るいノワール・アクションのファンにもオススメしたい。
煙霞
黒川博行煙霞 についてのレビュー
No.327:
(7pt)

「目には目を」で救われるのか?

脚本家を経たのち、タイトル作「ジャッジメント」で小説推理新人賞を受賞した女性作家のデビュー作。犯罪被害者の遺族が被害者と同じ方法で加害者に復讐することを合法とする「復讐法」が成立した社会で、人々はどんな行動をとるのかをテーマにした、挑戦的な連作短編集である。
「復讐法」とは、治安の維持、犯罪予防、被害と加害の公平性を求める社会の声に応えて成立したもので、被害側が加害者から受けたのと同じことを刑罰として合法的に執行できるという法律である。ただし、復讐する側は自分の手で刑罰を執行しなければならないという制限がある。「大切な人を殺した者を同じ目に遭わせてやりたい」という素朴な感情が沸騰するとき、人は何を考え、どう振る舞うのか。法の執行をアシストする「応報監察官」を主人公に、5つの犯罪、5つの復讐の物語が展開される。
被害と加害の公平性とは何かという永遠に解答が得られそうもない重いテーマを、ミステリーとして構成しようとした意欲は大いに評価できる。ただ、このテーマでは古くから優れた先行作品があり、それを超えるのはかなりハードルが高い。本作も、因果応報、自業自得、被害者自身の心の救済など重過ぎるテーマに引きずられて主人公が泥沼に落ち込んだ感が否めず、ちょっと残念な結果になっている。全5本のうち「サイレン」、「ジャッジメント」の2作は完成度が高い。
謎解きミステリーではなく、罪と罰を考える社会派のエンターテイメントであり、例えば死刑制度について一度でも考えたことがある方にはオススメする。
ジャッジメント (双葉文庫)
小林由香ジャッジメント についてのレビュー
No.326:
(7pt)

大阪府警シリーズの原型が見られる佳作

1983年の第1回サントリーミステリー大賞で佳作を受賞した黒川博行のデビュー作にして、大阪府警の平刑事二人組・黒マメコンビの登場作。銀行強盗事件に対応する警察の捜査を描いたミステリーであり、大阪人の巧まざるユーモアを活写したエンターテイメントでもある。
白昼、銀行強盗が発生し、現金400万円を奪った犯人は抵抗してきた客の一人に発砲して負傷させ、人質として連れ去った。大阪府警は直ちに捜査を開始したのだが、犯人は翌日、人質の家に身代金一億を要求してきた。人質の安全確保と身代金受け渡し時での逮捕を目論む警察は、さまざまな罠を仕掛けて対応しようとするのだが、犯人はそれを上回る悪知恵を発揮し、捜査陣は振り回され続けるのだった・・・。
のちの黒川博行作品に比べ犯人探し、真相解明にこだわったストーリー展開だが、主人公である刑事二人をはじめとする登場人物たちの大阪弁の軽妙な会話、とぼけた言動など、本シリーズの魅力の萌芽はしっかり読み取れる。
黒川博行ワールドの原点として、黒川博行ファンには必読。テンポのいい警察ミステリーを読みたいというファンにも自信を持ってオススメする。
二度のお別れ (角川文庫)
黒川博行二度のお別れ についてのレビュー
No.325: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

心身ともに満身創痍が過ぎるのがマイナス

ノルウェーの大ヒットシリーズ「刑事ハリー・ホーレ」の第8作。満身創痍のハリーがオスロだけでなくアフリカにまで飛んで、希代の連続殺人鬼を追いつめる警察サスペンス・ミステリーである。
前作『スノーマン」で心身ともに深い傷を負ったハリーは香港で燻っていたのだが、ノルウェーで起きた前代未聞の連続殺人に危機感を抱いたオスロ警察に本国に呼び戻された。二人の女性が、殺害方法が不明ながら自分の血液で溺死(窒息)させられたという奇怪な事件。ハリーは、香港まで彼を迎えにきた刑事・カイアと組んで捜査を始めたのだが、被害者の間に共通点が見つからず捜査は難航し、その間に、第三の殺人事件が発生した。苦労の末、ハリーたちは被害者間のつながりを発見したのだが、警察組織間の勢力争いに巻き込まれ、捜査の本筋から外されてしまう。それでも極秘に捜査を続け、ついに有力な容疑者にたどり着いたのだが・・・。
極めて残酷なシリアル・キラー、警察組織の権力争い、死期が近い父親の病状、前作からハリーを悩ませているスノーマンの存在など、本筋の犯人探し、事件の背景解明だけでないサブストーリーも充実しており、上下巻1000ページ近い物語はエピソードが盛り沢山である。しかも、犯人発見と思ったそばからどんでん返しが起き、ストーリー展開は波乱万丈である。ただ、主人公・ハリーが出会う試練があまりにも過酷過ぎて、主人公への共感の熱が冷まされてしまったのがマイナス。さらに、ハリーが主要な人物に「おまえさん」と呼びかけるのにも鼻白む。「おまえさん」が似合うのは銭形平次の女房ぐらいだろう。
ハリー・ホーレ・シリーズ愛読者には必読。シリアル・キラーもののファンにも十分に楽しめるサスペンス・ミステリーである。なお、前作「スノーマン」のエピソードが影響しているシーンが多々あるため、ぜひ前作を先に読むことをオススメする。
レパード 闇にひそむ獣 上 (集英社文庫)
ジョー・ネスボレパード 闇にひそむ獣 についてのレビュー
No.324: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ストーリーは凡庸だが、キャラ設定と描写力で読ませる佳作

2015年から17年に新聞社サイトに連載され、文春ミステリーや本屋大賞で上位にランキングされた長編小説。将棋界を舞台に刑事2人組が犯人探しするミステリー作品である。
埼玉県の山中で発見された白骨遺体には駒袋に入れられた将棋の駒が一緒に埋められていた。遺体は三年ほど前に埋められたようで、身元確認につながるようなものはほとんどなく、唯一、将棋の駒だけが手がかりだった。かつて奨励会に所属しプロ棋士をめざしたことがある新人刑事・佐野は、その経歴を買われてベテラン刑事・石破と組み、駒の線から身元割り出しを命じられた。刑事としては一流だが性格が最低な石破にこき使われながら佐野は、将棋の知識を生かして駒の来歴を辿って行く。すると、名品といわれる一組の駒にまつわる不思議な因縁が立ち現れてきた・・・。
物語の本筋はフーダニット、ワイダニットの本格謎解きミステリーで、将棋の世界を舞台にしたところが時代性と言える。ただ、ミステリーの物語としてはありきたりで、さまざまな先行作品が頭に浮かび、二時間ドラマを見ているような凡庸さだった(2019年にドラマ化)。それでも、主要人物や悪役のキャラクター設定、心理描写などが巧みで十分に楽しめる作品である。
読みやすくて楽しめるミステリーとして、幅広いジャンルのファンにオススメする。
盤上の向日葵
柚月裕子盤上の向日葵 についてのレビュー
No.323:
(7pt)

ユニクロと吉野家で暮らす中年の恋(非ミステリー)

2019年の山本周五郎賞受賞作。50代になった訳アリ同士のカップルがお互いを求めながらも何かに邪魔されて気持ちを重ね合うことが出来ない、哀切な恋愛小説である。
現在の社会状況を反映したと言えば言えるのだろうが、おおよそ華やかさに欠けるラブストーリーで、読んでいて楽しくはない。言ってみれば、洗いざらしのTシャツとジーンズで過ごすような「普段着の心地よさ」が本作の真価だろうか。
不器用な男女の恋話が好きな方にオススメする。
平場の月
朝倉かすみ平場の月 についてのレビュー
No.322: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

引退した刑事の葛藤を描いたヒューマンドラマ

2016年の本の雑誌が選ぶベスト10の1位になった作品。犯人探しの警察小説であると同時に引退した老刑事の生き方を描いたヒューマン・ドラマでもある。
群馬県警の元刑事・神場は引退を機に四国八十八ヶ所巡礼の旅に出た。自分が関わった事件の被害者を供養する目的だったのだが、どうしても付いていくという妻と一緒の旅は、否応無くこれまでの人生を振り返る旅になった。巡礼を始めてすぐ、群馬県で起きた幼女殺害事件の詳細を知り、かつて自分が担当した事件との共通点の多さに衝撃を受けた。あの事件の犯人は服役中で、今回の犯人ではあり得ない。それならば、自分は捜査を間違ったのか、冤罪を引き起こしてしまったのか。当時、警察の組織論に従って自分が口をつぐんでしまったことが激しく後悔され、神場は後輩刑事を介して捜査に加わろうとする。そして、八十八ヶ所を巡り終え結願を迎えた時、神場は新たなスタート地点に立つことを決意するのだった。
元刑事でありながら現在の事件に加わって犯人探しをするという面では警察ミステリーだが、物語の中心は自分は冤罪を引き起こしたのではないかと苦悩する老刑事のドラマに置かれている。その意味で、犯人探し過程のサスペンスや意外性が少なく、ミステリーとしては物足りない。
ヒューマン・ミステリー、社会派エンターテイメント好きの方にオススメする。
慈雨 (集英社文庫)
柚月裕子慈雨 についてのレビュー
No.321:
(7pt)

平凡な主婦が狂ったのは何故か? いや、狂ってはいないのか?

心理サスペンスの名手・ミラーの1945年の作品(本邦初訳は1953年で、今回読んだのは二度目の新訳版)。裕福な医師と再婚した主婦が、ある出来事をきっかけに失踪し、狂気の世界に迷い込んでしまう、心理サスペンスである。
16年前に殺害された親友・ミルドレッドの夫であるアンドルーと再婚したルシールは、豊かで平穏そうに見えるのだが実は仕事にとらわれた夫、兄を溺愛する義妹・イーディス、少しも懐かない二人の子供に囲まれ、悩みの多い日々を過ごしていた。そんなある日、うさん臭い男が届けてきた小箱を受け取ったルシールは箱を開けるや悲鳴を上げて、何も言わずに姿を消し、次にルシールが見つかったのは精神科病院でだった。ルシールを狂わせたのは、何だったのか? さらに、ルシールの周辺で続いた不審な事故死は、何が原因なのか?
最終的には警察が事件を解明して行くのだが、物語の本筋は捜査ステップよりルシールの狂気の解明におかれており、捜査小説というより異常心理ミステリーの色が濃い。ただ、近年のサイコ・サスペンスのような異様なパーソナリティの主人公ではなく、普通の性格の人物が錯乱して行くような怖さであり、それゆえに、読後に薄気味悪さを覚えるところがサスペンスと言える。
心理サスペンスのファンなら読んで損はないとオススメする。
鉄の門 (創元推理文庫)
マーガレット・ミラー鉄の門 についてのレビュー
No.320:
(7pt)

映画化すればヒットしそう

本国フランスではピエール・ルメートルを凌ぐ人気で、日本でも前作「ブルックリンの少女」が話題になったミュッソの2017年の作品。偶然の出会いから一緒に行動することになった男女が死んだ天才画家の未発表の遺作を探し始め、やがては天才画家の家族にまつわる忌まわしい出来事の謎を解くサスペンス・ミステリーである。
クリスマス間近のパリ、人間嫌いで偏屈な劇作家・ガスパールと自殺願望をかかえる元刑事・マデリンは、不動産サイトのミスで同じアパルトマンを予約したことになり、お互いにびっくり仰天、互いに譲らず、相手に出て行かせようとする。怒り心頭のマデリンは家主である画商・ベネディックのところに押しかけたのだが、すぐには問題解決できず、しかもマデリンが元刑事であることを知ったベネディックから「一年前にニューヨークで急逝した、アパルトマンの元のオーナーである天才画家・ローレンツが残したはずの3枚の作品が行方不明である。ぜひ探し出して欲しい」と依頼された。ローレンツの数奇な運命と独自の魅力を持つ作品に触発されたガスパールとマデリンは、正反対の性格でことごとく衝突し、反発し合いながらもパリからニューヨークへ、作品を探す旅をすることになった。それは、疾風怒濤のアクション、感情の嵐、運命の力にもてあそばれるような波乱に富んだものだった・・・。
性格が合わない男女が無理やり一緒に行動するハメになり、喧嘩しながら結果を出して行くという、言ってみればラブコメ的な設定だが、事件の背景が親子の関係であり、大きくは家族をテーマにしたもので、読後の印象はやや重く悲劇的である。ただストーリー構成が巧みで、キャラクター描写も秀逸、さらにクリスマスシーズンのパリとニューヨークという舞台設定も効果的で、まさに映画向きの作品である。
前作「ブルックリンの少女」を楽しめた方にはぜひとものオススメ、テンポが良いサスペンスのファンにもオススメできる。
パリのアパルトマン (集英社文庫)
ギヨーム・ミュッソパリのアパルトマン についてのレビュー
No.319:
(7pt)

良くの皮を突っ張らせた素人たち

97年から01年に「小説新潮」に掲載された7作品を収めた短編集。満たされない日常から飛び出すために一発勝負をかけた7組の素人たちの無謀な挑戦を描いた浪速ノワールである。
それぞれにエピソードが面白く、ストーリー展開は軽快で、登場人物たちの言動も黒川ワールドのテイストそのままで気楽に楽しめる。黒川博行といえば「厄病神」「大阪府警」シリーズに代表される長編が名高いが、短編の名手でもあることがよく分かる。
黒川博行ファン、軽快で楽しい小悪人エンタメを読みたい方にオススメする。
左手首 (新潮文庫)
黒川博行左手首 についてのレビュー
No.318:
(7pt)

雪と氷の山を駆ける女性私立探偵

アメリカの新進女性作家の本邦初訳作品。雪と氷に覆われたオレゴン州の山中で、三年前に行方不明になった少女を捜し出す「チャイルド・ファインダー」というユニークな設定のハードボイルド作品である。
オレゴンの深い山にクリスマスツリー用の木を採りに行き、両親の車から降りたあと行方が分からなくなった5歳の少女。吹雪の中で足跡は消え、捜索隊は何も発見できなかった。しかし、諦めきれない両親は三年後、行方不明の子供専門の探偵・ナオミに最後の望みを託す。自らも行方不明の子供だったナオミは「生きていようが死んでいようが、必ず見つけ出す」という固い信念のもと、雪と氷の深い森に分け入って行くのだった。
失踪した子供を捜すミステリーはいくらでもあるが、行方不明の子供専門の探偵というヒロインの設定が飛び抜けている。しかも、ヒロイン自身が同じ境遇を味わってきたことから生まれる“思い”の強さが、これまでにない固い芯のある物語を作り出している。いわば「卑しい街を行くヒーロー」の、大都会でしか成立しないような現代ハードボイルドを、雪と氷の山で、女性で成立させたところが新しい。欲を言えば、被害者視点で語られるパートにもう少しリアリティがあればと思う。ヒロイン・ナオミを支える養母や同じ家で育てられたジェロームなどの周辺人物のキャラクターも味わい深く、物語が暗いノワール一辺倒で終わっていないのは評価できる。本作では謎のまま積み残されたエピソードが、次作ではすべて明らかにされているというので期待したい。
誘拐犯人探しミステリー、ハードボイルドのファンにオススメする。
チャイルド・ファインダー 雪の少女 (創元推理文庫)