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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 261~280 14/31ページ

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No.357: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

焦点がぼやけ散漫な印象に

「フランスの特捜部Q」という触れ込みのシリーズ第2作。落ちこぼれ軍団が、難解な殺人事件を解明してエリート組織の鼻を明かすユーモア警察ミステリーである。
カペスタン警視正率いる迷宮捜査班が新たな殺人事件の捜査を指示されたのは、被害者がカペスタンの元夫の父親だったからだった。しかも、この被害者が元パリ司法警察のエリートだったため、捜査介入部、刑事部というエリートたちとの共同捜査になった。警察のゴミ溜めと揶揄される迷宮捜査班は最初から馬鹿にされ、十分な情報も与えられなかったのだが、メンバーたちの独自の働きにより、かつて南仏で起きた未解決殺人事件との関連性を発見し、捜査は大きく進展したのだった・・・。
前作同様、事件捜査がそれなりの要素を占めてはいるものの、物語の本筋は迷宮捜査班メンバーの個性あふれるキャラの面白さにある。前作でもかなりの特異さだったのが、今回はさらに新メンバーが増え(その中には犬とネズミも含まれる)、さらにばか騒ぎ状態になり、ミステリーとしての緊迫感が薄れ、ドタバタ喜劇の側面が強くなっている。そのため、全体にとっちらかった印象に終わっているのが残念。
ユーモア・ミステリーのファンには楽しめるかもしれないが、謎解きミステリーや警察もののファンにはちょっと物足りないだろう。
パリ警視庁迷宮捜査班 魅惑の南仏殺人ツアー: 魅惑の南仏殺人ツアー (ハヤカワ・ミステリ 1960)
No.356:
(7pt)

小技が効いた中短編集

雑誌掲載の3作品に書き下ろしを加えた4作品の中短編集。収載作品間の関連性は少なく(他作品と共通する人物は登場)、それぞれに趣向を凝らした、独立したヒューマンドラマである。
4作品ともに伊坂幸太郎ならではのぶっ飛んだ設定で楽しめるのだが、ストーリーでは「ポテチ」、作品世界のユニークでは「動物園のエンジン」が面白かった。どれもミステリーとしての読み応えは無い。
伊坂幸太郎ならではのホラ話に喜んで付合える人にオススメする。
フィッシュストーリー (新潮文庫)
伊坂幸太郎フィッシュストーリー についてのレビュー
No.355:
(7pt)

あざといどんでん返しが少なく、読みやすい

リンカーン・ライム、キャサリン・ダンスに続く第三のヒーローの登場。「懸賞金ハンター」という聞き慣れない仕事を持つヒーローが失踪人を探し、事件を解明して行くサスペンス・ミステリーの新シリーズ第一作である。
異常なまでに用心深かった父親からサバイバル技能を叩き込まれた探偵コルター・ショウは、身に付けた追跡技術を生かし、アメリカ中を旅しながら懸賞金を掛けられた失踪人を探して懸賞金を得ている。今回ショウが依頼を受けたのはシリコンバレーに住む19歳の女子学生で、カフェに立ち寄ったあと姿を消してしまったのだが、身代金の要求は無く、事故に遭った様子も無かった。わずかな手がかりを追ううちに、失踪の裏側にビデオゲームが関係しているのではないかと疑ったショウだったが、警察は馬鹿げているとして全く協力しようとせず、調査は難航を極めていた。そこに、新たな誘拐殺人事件が発生、事件の背景にゲームが存在するとの確信をさらに深めたショウは、シリコンバレーのゲーム業界の闇に単身で切り込んで行く・・・。
まず「懸賞金ハンター」という設定がユニーク。逃亡犯や保釈金を踏み倒した人物を連れ戻して報酬を得る賞金稼ぎとは異なり、ショウは行方不明の人なら迷子から認知症の老人まで、誰でも対象として居場所を特定し、家族が出す懸賞金を受け取るのを生業としている。一応、探偵ではあるのだが正式な免許は取得していないため警察には信用されず、基本的に一人で動き回るしかない。そんなショウの最大の武器は、子供の時に叩き込まれたサバイバル術に基づく「追跡」技術である。アメリカ開拓時代のフロンティア精神の塊りみたいな男が、IT技術のフロンティアであるビデオゲームの世界に切り込むという対比が面白い。ストーリー展開は、犯人探しであると同時に、刻々と死が迫る被害者を救出するタイムリミット・サスペンスでもあり、犯人が特定できたと思ったのもつかの間、新たな疑問に突き当たって振り出しに戻るという、ディーヴァーお得意の二転三転、どんでん返しが繰り広げられる。それでも本作ではリンカーン・ライム・シリーズほどのあざとさがないので、読んでいて安心感がある。
ディーヴァー・ファンはもちろん、サスペンス・ミステリーのファンならどなたにもオススメしたい。
ネヴァー・ゲーム
No.354:
(7pt)

何も起きないけど、心に残る作品(非ミステリー)

雑誌に連載された長編というより中編の小説。激しく変化する忙しい職場で神経をすり減らしている男が、耳が聞こえない女性に恋をする恋愛ファンタジーである。
ふとした出会いから始まり、ゆっくりと付き合いを深め、理由が分からないまま危機に陥り、また元の状態に戻って行く。ありふれたといえばありふれた若い男女のラブ・ストーリーなのだが、主人公が携わる仕事の狂気と対比されることで、人を愛することの意義がじんわりと心にしみ込んで来る。説明されない物語展開がいくつもあるのだが、それも気にならない淡白なトーンが心地いい。
心に余裕があるときに読むことをオススメする。
新装版-静かな爆弾 (中公文庫, よ43-4)
吉田修一静かな爆弾 についてのレビュー
No.353: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

舞台を大きくした分、個人が埋没した印象

北欧を代表する警察小説シリーズ「特捜部Q」の第8作。主要登場人物ながら、これまで謎に包まれていたアサドの過去が明らかになる、中東テロの歴史を背景にしたアクション・サスペンスである。
キプロスの海岸に打ち上げられたシリア難民の女性の報道写真を目にして、アサドは激しく動揺する。それは、アサドが絶対に忘れられない過去の出来事に深く関わっている女性だったのだ。その写真に隠された意図を察知したアサドは、これまでひた隠しにして来た人生の秘密を特捜部Qのメンバーに打ち明け、忌まわしい過去の因縁を清算するために宿敵であるテロ組織のリーダー・ガーリブと対決することを決意する。同じ頃、特捜部は若い男から無差別殺人の予告を受けて捜査を進めていたのだが、リーダーのカールはアサドに同行することを優先し、事件の捜査を若いローセとゴードンに任せることにした。二つの難問に直面し、戦力の分散を余儀なくされた特捜部Qは、その存在意義を証明できるのだろうか?
フセイン政権崩壊時の混乱に遡るアサドの壮絶な過去が明かされるのが、本作の一番の読みどころ。これまでもただ者ではないところを見せて来たアサドだったが、その素性が判明すると、なるほどと納得させられる。中東とヨーロッパの歴史の狭間で翻弄される社会的被害者としてのアサドが選択せざるを得なかった個人として、家庭人としての悲劇は限りなく深い。さらにそれは、殺人予告をしてきた男の生きづらさと絶望にもつながっているのだった。ただ、国際テロを相手にする戦いで、舞台背景がヨーロッパ全土や中東の現代史まで広がったため、特捜部Qのメンバーの存在感がやや薄れてしまったのが玉にきずである。
シリーズ読者にとってはアサドの背景を知るために必読。ポリティカル・サスペンスのファンにもオススメできる。
特捜部Q―アサドの祈り― 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.352:
(7pt)

平凡なようで非凡な日常(非ミステリー)

1998年から2000年代に雑誌掲載された10本を集めた短編集。
どれも登場人物は普通の生活をしている人物なのだが、周りとの関係性や社会の認識にちょっとだけズレがあり、それがドラマを生みそうで、結局はドラマチックではない物語ばかりである。それぞれに小説的な技巧やアイデアがあり、決して退屈な作品ではない。
休日の昼下がり、旅の途中での待ち時間などに最適。
キャンセルされた街の案内 (新潮文庫)
吉田修一キャンセルされた街の案内 についてのレビュー
No.351: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

三部作の二作目。必ず一作目「悪の猿」から読むこと!

「猿シリーズ」か「サム・ポーター刑事シリーズ」かはさておき、三部作の第二作。前作で取り逃がした「四猿」がまた犯行を重ねているのか? 事件の真相解明に奮闘するシカゴ市警とFBIをあざ笑うかのごとく、凶悪で狡猾な犯行を繰り返す「四猿」が主役となったサイコ・サスペンスである。
「四猿」が姿を消してから4ヶ月後、再びシカゴ市民を震撼させる少女殺害事件が発生し、マスコミを始め世間は「四猿」が戻って来たとして騒然となる。連続少女誘拐事件の発生当初から「四猿」を追って来た刑事ポーターたちのチームは、再び集結し、事件を解明しようとする。しかし、前回の捜査が失敗だったとして捜査の主導権をFBIに奪われ、さらにポーターは越権行為をとがめられて捜査から外されてしまう。そんな中、新たな少女行方不明事件が発生、さらには行方不明者の親が殺害される事態まで起き、捜査は混乱を深めて行く。そして捜査から外され一人で独自の捜査を進めていたポーターのもとに一枚の写真が届き、そこには「四猿」からのメッセージが書かれていた・・・
前作に引き続き、シカゴ市警とポーター刑事が捜査をする警察ミステリーの構成だが、主役は希代のサイコパス「四猿」になっている。衝撃的な犯行とその裏側を読む捜査の進行がメインストーリーだが、犯人である「四猿」の過去が重要な意味を持っているため、「四猿」の過去をメインに据えた前作「悪の猿」を読んでいないと、意味不明とまでは言わないが理解しづらいところがある。ストーリー展開は緊張感があり、登場するエピソードもスリリングで、極めて完成度が高いサイコ・サスペンスと言える。さらに、第三部へとつながるエンディングは巧妙で、次作への期待を盛り上げる。
シリーズとして、必ず第一作から読むことをオススメする。
嗤う猿 (ハーパーBOOKS)
J・D・バーカー嗤う猿 についてのレビュー
No.350: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

血肉を得て、生き生きと動き出した黒マメ・コンビ

大阪府警シリーズの第4作。遺跡発掘を舞台に考古学界の闇を解明していく黒マメ・コンビの活躍を描いた警察ミステリーである。
遺跡発掘現場で、崩れ落ちた土砂の下から現場責任者である大学教授の死体が発見された。事故死かと思われたが不可解な点が多く、府警捜査一課が乗り出したところ、死体から採取された土が現場の土とは一致しないことが判明、殺人事件として捜査が始まった。さらに、別の発掘現場では教授と同じ研究室のスタッフが墜死するという事故が発生し、警察が二つの事態の関連性を中心に捜査を進めると、研究室を中心にした複雑な人間関係、権力争いが見えてきた。これは連続殺人事件なのか、動機は何か、日ごろはグータラで文句たれの黒マメ・コンビだが、マメちゃんの鋭い推理を基に寝る間も惜しんで真相解明に奮闘した・・・。
謎解きミステリーとしてはやや平凡、よくあるパターンの展開と言えるのだが、大阪府警シリーズのキモとなる軽妙な会話とユーモア、綿密な取材に基づく業界の内情の暴露と社会的な問題提起という構成が高い完成度を見せた作品である。特に、黒マメ・コンビの掛け合いが見事で、二人のキャラクターが生き生きと眼前に現われて来るのが楽しい。
大阪府警シリーズの成熟を告げる作品として、シリーズ・ファン、黒川博行ファンは必読。軽めの警察ミステリー・ファンにもオススメする。
八号古墳に消えて (角川文庫)
黒川博行八号古墳に消えて についてのレビュー
No.349:
(7pt)

荒削りでも十分に楽しめる、黒川ワールドの初期作品

デビューから間もない1985年の作品。彫刻の世界を舞台に、芸術家たちの欲望が生み出した事件を女子大生コンビと兵庫県警の刑事が解明する正統派ミステリーである。
京都の美大に通う美和と冴子のコンビが彫刻界の大物に嫁いだ美和の姉の邸を訪ね、邸内のアトリエで倒れている姉を発見した。姉の命は助かったのだが、現場の状況から睡眠薬を飲みガス栓を開いての自殺未遂と推定された。ところが、事件後から姉の夫の行方が分からなくなっていることから、警察は夫による自殺偽装を疑うようになった。警察の捜査とは別に、好奇心旺盛で行動派の美和は冴子を巻き込んで独自に犯人探しを始め、なかなかの素人探偵ぶりを発揮し・・・。
謎解きの構成、登場人物たちの軽妙な会話、業界の裏話から生まれるリアルなエピソードなど、代表作である大阪府警シリーズほどの完成度ではないが、そこに至る道筋がくっきりと見える傑作エンターテイメントである。
黒川博行ファンには絶対のオススメ。謎解きミステリー、軽快なバディもののファンにもオススメする。
暗闇のセレナーデ (角川文庫)
黒川博行暗闇のセレナーデ についてのレビュー
No.348:
(7pt)

どこまで子供を信じきることができるのか?

2019年に発表された著者3作目の書き下ろし長編。現在の子供たちが置かれた状況をどう改善して行くのか、近未来の設定でその解答を試みた意欲的な社会派ヒューマン・ミステリーである。
義務教育期間の生徒全員に「ライフバンド」装着が義務づけられ、SOSを求める子供がライフバンドを起動させると「児童救命士」が駆けつけるという制度が機能している社会。新人「児童救命士」の長谷川は初任地である江戸川児童保護署で様々なケースに遭遇し、自分の経験不足、無力さに悔しさを痛感しながらも「子供たちを救う」という使命感だけを頼りに奮闘する。SOSを発する子供は何らかの問題に直面しているはずなのに、その悩みをなかなか素直には告白してくれない。その裏側には「その大人が信頼できるのか?」という、子供の真剣な迷いがある。その迷いを断ち切るには、大人の側からどこまでも子供を信じることではないか? 長谷川は、冷笑的な世間からは鼻で笑われそうな信念を持つようになる。
4章に別れていて、それぞれに現実に起きた事件を想起させるエピソードが使われている。それだけに、作者の意図するものがリアルに見えて来て、作者自身も迷いながら、考えながら問題に取り組んでいることが伝わって来る。どれも簡単に正解が分かるような問題ではなく、読む側にも解答を考えることを求めて来る重さを持っている。ミステリーとしての完成度は高くなく、文章力もさほどではないが、テーマの追及力で読ませる作品である。
社会派ミステリー、ヒューマン・ミステリーのファンにオススメする。
救いの森
小林由香救いの森 についてのレビュー
No.347: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

オーソドックスな密室トリックものの良さと限界

東野圭吾の初期の長編ミステリー。孤立した山荘での密室殺人とマザー・グースに隠された暗号という、オーソドックスなジャンルに挑戦した、若さと意欲を感じさせる謎解きミステリーである。
白馬にあるペンション「まざあ・ぐうす」で死んだ兄の自殺扱いに疑問を抱いた女子大生・ナオコは、親友であるマコトと二人で真相解明に乗り出した。山の中の孤立したペンションには毎年、同じようなメンバーが集まり、オーナーやスタッフも含めて全員で仲間意識を高めていると知り、兄が死んだのと同じ時期に「まざあ・ぐうす」を訪れる。ペンションの各部屋にはマザー・グースにちなんだ名前がつけられ、それぞれの名前の由来を示す額が掛けられていた。兄が熱心に額を調べ、そこに隠された暗号を解明しようとしていたと知ったナオコとマコトは自分たちでも暗号を解こうとする。そんな中、新たな殺人事件が発生し、二人はいよいよ兄が殺害されたことを確信するようになった・・・。
密室で死んでいた兄の事件の謎を解く密室トリックと、マザー・グースの額に隠された暗号を解くという、ダブルの謎解きに挑んだ意欲的なミステリーである。密室トリックの方は論理的で腑に落ちるのだが、マザー・グーズの暗号はあまりにも飛躍が大きくてすんなりとは納得しずらく、違和感が残るのが残念。
ファンを選ばないオーソドックスな謎解きものなので、ミステリーファンならどなたにもオススメできる佳作である。
白馬山荘殺人事件 新装版 (光文社文庫)
東野圭吾白馬山荘殺人事件 についてのレビュー
No.346: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

地球滅亡まで3年、人はどう変わるのか?(非ミステリー)

2004〜5年に雑誌掲載された8本の連作短編集。8年後に小惑星が衝突し地球は滅亡すると予告されてから5年後、仙台市のとある団地に住む(逃げないで残った)人びとが織り成す、8つのドラマ。突拍子もない前提の世界だが、人間らしさとは何かをゆっくりと分からせてくれるヒューマン・ドラマである。
予告が発せられた当初は人びとは混乱し、パニックによる暴動や事件が頻発したのだが、5年も経つと多少は慣れてきて、世の中は不安をはらみながらの小康状態が続いていた。団地に住んでいるのは、それぞれの事情があって逃げなかった人たちで、常にあと3年の期限を意識しながら、それぞれの日々を過ごしている。8つの物語、それぞれの主人公は死と隣り合わせの世界で、家族について、生きる意味について、将来(!)について、地球滅亡の予告など無い世界の人びとと同じように悩み、考え、行動して行く。その、皮肉な見方をすれば無駄な努力が、とても尊いものに見えてくる。設定自体はSF的なのだが、物語はまさに現在の社会を反映したヒューマン・ドラマである。
死を目前にした終末の物語だが、内容はとても明るく、ユーモラスで、良質なエンターテイメント作品である。ミステリー・ファンに限らず、幅広い読書ファンにオススメしたい。
終末のフール (集英社文庫)
伊坂幸太郎終末のフール についてのレビュー
No.345:
(7pt)

安心して楽しめる、大阪府警シリーズの短編集

1987年から91年にかけて雑誌掲載された6作品を収めた短編集。著者初の短編集だが、それぞれに工夫や才気を感じさせる秀逸な作品揃いである。
バブル真っ盛りの大阪で小狡く立ち回る小悪人たちと大阪府警の刑事たちが繰り広げる、ちょっとユーモラスで人間味を感じさせる犯罪小説は、関西の喜劇を見るようで肩肘張らずに楽しめる。
ミステリーファンのみならず、人情もののファンにも安心してオススメできる佳作である。
てとろどときしん 大阪府警・捜査一課事件報告書 (角川文庫)
No.344:
(7pt)

前代未聞の誘拐犯からの要求。だが、その真相は腰砕け

政治家の孫が誘拐され、政権のスキャンダルが明かされる危機に陥るという、書き下ろし長編ミステリー。タイムリミットものであり、また犯人探しミステリーでもある。
総理の関与が疑われるスキャンダルの渦中にあった与党政治家・宇田の孫が誘拐されたのだが、誘拐犯からの要求は「記者会見を開き、自分の罪をすべて自白しろ」という前代未聞のものだった。孫娘を救い出すために要求に応えるしかないと決心した宇田は、それでも自身の立場や政治家である息子たちの将来を守るための術策を尽くそうとする。それに対し、総理を守る官邸側は圧倒的な権力差を武器に宇田を追いつめる。一方、誘拐事件を捜査する警察は見えて来ない犯行動機に戸惑い、一向に犯人に迫ることが出来ないでいた・・・。
記者会見までのタイムリミットが迫る中、被害者一族、所属する政党や派閥の思惑、権力闘争が絡んで事態が進展せず、じりじりとサスペンスが盛り上がる。最終的には宇田の記者会見によって孫娘は無事に解放されるのだが、事件の背景には意外な真相が隠されていた。また、宇田の次男で父親の議員秘書を務めている宇田晄司は権力争いの実相に触れ、自分の生き方を変えるようになる。本作は、誘拐犯追跡の警察小説であり、さらに政治スキャンダル小説でもあるという、二つの側面があるのだが、どちらかといえば政治小説の色が濃い構成である。事件の深層が解明されたとき、その陳腐さにちょっとガッカリした。
誘拐もののサスペンスを期待すると不満が残る。政治スキャンダルを楽しむ作品として読むことをオススメする。
おまえの罪を自白しろ (文春文庫)
真保裕一おまえの罪を自白しろ についてのレビュー
No.343:
(7pt)

いつもに比べて、設定に無理を感じた

ジョー・ピケット・シリーズの第8作。舞台はいつも通りのワイオミングの山岳地帯だが、州知事直属の捜査官という立場になったジョーがハンター連続殺害事件を捜査するという、犯人探しミステリーである。
殺害されたハンターは、まるで捕獲した獲物を処理したように頭部が無く、木に吊るされていた。さらに、現場に残されていたポーカーチップから、他にも同じように狩猟中に殺されたハンターがいたことが分かった。犯人は狩猟に反対する狂信者なのか? 州の重要産業である狩猟を守るために、ルーロン知事は緊急対策チームを立ち上げ、ジョーに参加するように命令する。事件をきっかけに、全国的な反狩猟運動のリーダーもワイオミングに駆けつけ、落ち着かない状況の中でジョーは思い通りに進まない捜査に手こずり、自分の責任の元にFBIに拘束されている盟友ネイトの釈放を願い出て、背水の陣で難問に挑むことになった。
毎回、社会性のあるテーマを設定するシリーズだが、今回は飽食の時代における狩猟の意味が事件の背景に設定されている。ジョーは職業柄、マナーを守った狩猟を守る立場で行動する。ただ、反狩猟運動側が中途半端なため問題追及が甘く、議論が深まっていない。さらに、事件の動機との関連が薄く、やや肩透かしをくらったように感じた。
シリーズ作品としては十分に及第点で、ファンには安心してオススメできる。
復讐のトレイル (講談社文庫)
C・J・ボックス復讐のトレイル についてのレビュー
No.342: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

途中のどんでん返しは見事

2012年〜14年に雑誌連載された長編ミステリー。平凡な主婦が陥った冷酷な犯人の甘い罠の謎を解く、警察ミステリーである。
幼い娘二人、夫とともに郊外で暮らす主婦・文絵は、趣味の懸賞応募で当選して出かけたディナーショーで中学時代の同級生だという加奈子から声をかけられた。自堕落な生活で醜く太っている自分に比べ、美しく着飾った加奈子に気後れする文絵だったが、加奈子から意外な言葉をかけられる。加奈子は実は整形したのであり、それ以来人生が好転したという。さらに、現在は高級化粧品の販売会社を立ち上げようとしており、文絵にビジネスパートナーになって欲しいと提案する。マルチ商法ではないかと疑った文絵だったが、「あなたはもっと美しくなれる」という言葉を信じ、加奈子の提案を受けることにした。
一方、鎌倉の別荘で頭を殴られて死亡した男が発見され、神奈川県警の秦刑事は地元署の女性刑事・中川と組んで被害者の身辺捜査を担当することになった。別荘は被害者・田崎が借りたもので、サングラス姿の女性が出入りしていたとの情報をつかんだのだが、女性の身元につながる情報は全く出て来なかった。それでも細い糸をたぐる地道な捜査によって、秦と中川は重要参考人として文絵にたどり着いたのだった・・・。
前半は、主婦・文絵が甘い罠に絡めとられて行くプロセスと田崎殺害事件の捜査プロセスが交互に展開され、二つのエピソードはどうつながるのか、サスペンスたっぷりのストーリー展開である。が、ある地点で重大などんでん返しがあり、後半はサングラス姿の謎の女性を追いつめる警察サスペンスになる。犯罪の構成、捜査の進め方、徐々に明らかになる犯人像など、警察ミステリーとしての読み応えは十分である。ただ、最後の犯人の独白的な解説、重要参考人となった文絵の扱いなどに若干の不満が残る。
女性が主役のミステリーファン、警察ミステリーファンにオススメする。
ウツボカズラの甘い息 (幻冬舎文庫)
柚月裕子ウツボカズラの甘い息 についてのレビュー
No.341:
(7pt)

仕事ひとすじの死神とは、怖過ぎる

8年ぶりの死神シリーズ作品。死神・千葉が、一人娘を殺しながら無罪になった犯人に復讐しようとする夫婦と行動を共にする、長編アクション・ミステリーである。
山野辺夫妻は、自分たちの一人娘を殺害し、証拠となる動画を送ってきたにもかかわらず目撃証言の曖昧さから無罪放免となった犯人・本城に復讐すべく人生のすべてをかけた復讐計画を実行しようとする。そこに現われたのが、山野辺の死の可否を判定する調査を担当する死神・千葉だった。仕事ひとすじ、趣味と言えばミュージックだけの千葉は山野辺夫妻に密着し、様々な危険の状況にも臆すること無く山野辺と一緒に行動するのが、人間世界とはズレた言動と判断基準により、行く先々で珍妙な悲喜劇を引き起こしてしまう。それはまるで、山野辺夫妻を助けながら妨害しているようでもあった。それでもクライマックス、山野辺と本城の対決は・・・。
前作「死神の精度」が短編集だったのに比べ、本作は山野辺夫妻に絞った長編である。その分、同じようなエピソードが繰り返され、やや冗長な部分があるのが残念。途中で飽きて来る。
シリーズ作品だが、独立した長編として成立しており、本作から読み始めても問題ない。読者を迷宮に誘い込む伊坂ワールドにひたりたい方にオススメする。
死神の浮力
伊坂幸太郎死神の浮力 についてのレビュー
No.340: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

事件解決に飢えた、新ヒロイン登場

マイクル・コナリーの30冊目の長編で、新たなヒロインが登場した新シリーズの第1作。ロス市警の本流から外された女性刑事が、執念と使命感で難事件を解決する本格的警察ミステリーである。
レイトショーと呼ばれる深夜勤務専門の女性刑事・レネイ・バラードは、女装男性が激しく暴行された事件に遭遇した。レイトショーの役割りは初動捜査だけで本格的な捜査は昼間の刑事たちに引き継がれるのが本来なのだが、悲惨な犯行に怒りを覚えたバラードは独力で捜査を進めようとした。同じ夜、ナイトクラブで銃撃事件が発生し、近くにいたバラードも現場に駆けつけた。しかし、この事件を担当するのはバラードが深夜勤務に追いやられる原因になった元上司で、バラードは捜査に関わるのを拒否される。それでも諦めないバラードは独自の捜査を進め、ロス市警内部に存在する闇の中から真相を引き出すのだった。
主人公の女性刑事が特筆すべきキャラクターで、まさに新シリーズの登場を強く印象づける。刑事としての資質はハリー・ボッシュ同様、熱い行動派で粘り強く正義感に溢れている。しかも、バックグラウンドにまだ謎の部分が多く、これからの展開が楽しみである。
ハリー・ボッシュ・シリーズのファンはもちろん、正統派の警察ミステリーファンに自信を持ってオススメする。
レイトショー(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリーレイトショー についてのレビュー
No.339: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

じんわり効いて来る人情ミステリー

2013年大藪春彦賞を受賞した、佐方貞人シリーズの第二弾。地方検事時代の佐方の仕事ぶりと人となりを丁寧に描いた5作品からなる連作短編集である。
成果を焦って強引な捜査を進める上層部に対し愚直に信義を重んじる佐方の頑固な捜査が勝利を収める話、佐方の父親を主題にした生い立ちの話、恩義のある人のために佐方がハードボイルドな一面を見せる話など、5つの物語がそれぞれに独立して高レベルで成立しており、トータルとして佐方貞人の魅力が見えて来る。
シリーズファンは必読。人情ミステリーファンにも自信を持ってオススメする。
検事の本懐 (角川文庫)
柚月裕子検事の本懐 についてのレビュー
No.338:
(7pt)

最後まで、誰が真実を述べているのか分からない

英国ミステリーの女王・ウォルターズの長編第12作。ロンドンで起きた男性老人連続殺人の犯人探しミステリーだが、犯人と目された男の謎が深く、その深層心理の闇に読者を引きずり込む心理サスペンスでもある。
イラクで瀕死の重傷を負ったアクランド中尉は本国の病院で目覚めたとき、イラクでの記憶を失っていた。さらに、病床を訪れた母親や元婚約者、世話をする看護師など女性を嫌悪し、体に触れられると暴力を振るい、担当の精神科医のアドバイスも無視し、周囲を戸惑わせるのだった。顔面形成手術を拒否して退院し、ロンドンで一人暮らしを始めた矢先、パブで暴力事件を起こし、ちょうどその頃連続して起きていた老人への暴力的な殺害事件の犯人ではないかと疑われた。具体的な証拠が見つからず釈放されたアクランド中尉だったが、その言動は一向に改まらず、警察は引き続き監視の目を光らせるのだった。
ストーリーが進めば進むほどアクランドの疑惑は深くなるのだが、いかんせん状況証拠ばかりで、しかも記憶喪失と嘘か真か分からない極端な心理が謎を深めるので、読者は最後まで翻弄されることになる。話が複雑かといえば、そうでもなく、主要登場人物のキャラクターもきちんと確立されているためストーリーはきちんと追えるのだが、読んでいて常に次は奈落に突き落とされるのではないかと疑心暗鬼になる。巻末の三橋暁氏の解説にもある通り、あまり類を見ない独創的なジャンルを開いた作品と言える。
心理サスペンス、心理が絡んだ謎解きがお好きな方にオススメする。
カメレオンの影 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズカメレオンの影 についてのレビュー