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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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1960年代に人気を博したフェローズ署長シリーズの第5作の新訳版。13歳の美少女が行方不明となった事件を地道な聞き込みとまっとうな推理で解決に導く、オーソドックスな警察捜査ミステリーである。
誰からも評判が良い13歳の美少女・バーバラが行方不明だと、シングルマザーのエヴリンから届出があった。バーバラは前夜、初めてのダンスパーティーに出かけ、エヴリンはそれ以来顔を見ていないという。ダンスに出かけたパートナーの上級生や学校関係者を調べても何も見つからず、警察は母親の関係者にまで捜査範囲を広げたのだが、犯罪の証拠はもちろん、バーバラの生死さえつかむことができなかった。バーバラはなぜ姿を消したのか? フェローズ署長を中心に捜査陣は徹底的なアリバイ確認を続け、ついにたどり着いた結論は…。 アメリカの警察小説としては例外的に、銃弾が一発も発射されることがなく、ただひたすらに聞き込みと証拠集めに徹して解決していくプロセスは、ヨーロッパの警察ミステリーのテイストである。フーダニット、ワイダニットの謎解きも、現代のレベルからすれば物足りないが、オーソドックスなミステリーとしては高レベルと言える。 ヒラリー・ウォーのファンはもちろん、英国、北欧系の警察ミステリーのファンには自信をもっておススメする。 |
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日本でも「ブルックリンの少女」、「パリのアパルトマン」が評判を呼んだフランスの人気作家の2019年の作品。地中海の小島に隠棲するかつての人気作家のもとを二人の人物が訪ねて来たのと同時に、女性惨殺死体が発見されるという、孤島を舞台にした謎解きミステリーである。
20年前、絶大な人気を誇りながら断筆し、以来、表舞台に出なくなっている作家・フォウルズに自分の作品を見てもらいたいと熱望するフォウルズの大ファンで作家志望の若者・ラファエルは、島の小さな書店に就職し、作家に近づこうとする。また、行方不明になったフォウルズの愛犬を保護したという女性記者・マティルドが現われ、それをチャンスにフォウルズの家に入り込もうとし、フォウルズの隠遁生活が脅かされそうになる。同じ頃、島の海岸で女性の惨殺死体が発見され、島を管轄する海軍は捜査のため島を封鎖することになった。被害者の身元は分かるのか、犯人は島の中にいるのか? 閉塞する島の中で、事件の謎とフォウルズの過去を巡る謎が絡み合い、思いもかけない真相が明らかになって行く・・・。 殺人の謎解きミステリーとしては、最後の種明かしに衝撃度があるものの、前2作に比べるとやや冗漫。その代わり、作家が断筆した理由の解明が大きな要素を占めており、作家と作品、インスピレーションの関係を深掘りする創作の秘密物語というテイストが強い。 物語の中に物語が組み込まれ、最後にはミュッソ本人も登場するという構成で、「作家が小説を書くとは、どういう行為か」に興味がある人には強くオススメするが、謎解きミステリーを楽しみたいという人には「読んでも損ではない」というところだ。 |
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横山秀夫のデビュー作。時効寸前の殺人事件の解決に執念を燃やす警察小説であり、無軌道に生きていた高校生たちの内面を丁寧にたどった青春小説でもある。
15年前に自分が勤める高校で自殺した女性教師は実は殺害されたのだという密告電話を受けた警視庁は、すぐさま捜査を開始した。というのも、事件から15年の時効が明日に迫り、24時間しか残されていなかったからだった。タレコミでは、事件発生当時、高校三年生だった三人組が「ルパン作戦」と称して、期末テストを入手するために高校内部に侵入していたという。三人組を重要参考人として連行し取り調べを始めた警察は、彼らがたまり場にしていた喫茶店「ルパン」の店主が府中三億円事件の容疑者として取り調べられた男だったことにも驚かされた。高校生のいたずらともいえる事件は、戦後最大の未解決事件までつながっているのだろうか? 刻々と迫る15年の時効を前に、警察は時間との戦いに挑むのだった。 女性教師殺人の謎解き、三人の高校生の揺れる心情、そして三億円事件という盛り沢山の素材を、ものの見事に整理して展開し、緊張感のあるタイムリミット・ミステリーに仕上げている。高校生の行動、犯人の動機、犯行の背景などに若干の粗さが見えるものの、それ以上に読者をひきつけるパワーを持った一級品のエンターテイメント作品と言える。 警察小説、謎解きミステリーのファンにおススメする。 |
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産業スパイ・鷹野一彦シリーズの第二作だが、「太陽は動かない」で華々しく登場したダークヒーロー・鷹野一彦が誕生するプロセスのお話、つまり三部作のスタートと言える作品である。
沖縄の離島の高校三年生・鷹野一彦は友人にも恵まれた高校生活を送る、一見普通の高校生だが、実はある産業スパイ会社からスタッフとして養成されている孤児だった。学校生活と並行して実技訓練を受けており、18歳になった時点でスタッフとして生きていくか否かの決断をすることになっていた。最後の実技訓練ともいうべき仕事は国際水メジャー企業の日本進出を巡る案件で、先輩と組んで動いていた鷹野は裏切りに合い命の危険にさらされたのだった…。 鷹野が所属する産業スパイ組織・AN通信は身寄りのない子供を長期にわたって訓練して育てているという、なかなか漫画チックな設定なのだが、それを感じさせないリアリティがある。特に前半、鷹野の高校生生活の部分は青春ロードノベルの趣があり、鷹野の過酷な過去との対比で共感を呼ぶ。後半、産業スパイ活動の部分では権謀術策とアクションが華やかで、よくできたコンゲームを楽しめる。 本作だけでは面白さが半減とまでは言えないが、シリーズ全体を読む方がより楽しめることは間違いない。 |
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2018~19年に週刊誌連載されたものを加筆・改稿した長編小説。老人介護施設での殺人事件をきっかけに、人間の闇の深さを抉り出そうとしたヒューマンドラマである。
琵琶湖の湖畔にある老人介護施設で100歳の男性が人工呼吸器が止まったために死亡した。機械の故障か人為的なものなのか? 警察は女性介護士の犯行を疑い、執拗に追い詰めていく。その過程で出会った刑事・濱中と介護士・佳代は互いの欲望をぶつけ合うことで関係を深めていくようになる。一方、30年前の薬害事件を取材していた週刊誌記者・池田は現場が近かったことから介護施設の事件も取材することになったのだが、殺人事件の被害者は薬害事件に関係がある疑いが出てきた。さらに調査を進めると、薬害事件の背後には満州での731部隊の存在がかかわっているようだった・・・。 介護施設での殺人、薬害事件、731部隊という3つのエピソードが絡み合い、さらに尋常ではない男女の関係性が重ねられ、きわめて複雑な構成の物語である。そのため前半部分ではひりひりするサスペンスがあるのだが、最後にはすべてを放り投げたようなエンディングで、最初に広げすぎた大風呂敷が上手くたためなかったような、肩透かしを食らった感じが残ってしまうのが残念。 「悪人」や「怒り」を超えるレベルではないが、吉田修一らしい悪意を秘めたミステリーとして、吉田修一ファンにはおススメできる。 |
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デビュー作にして2019年の英国推理作家協会(CWA)のヒストリカル・ダガー賞候補になったという歴史ミステリーである。ホームズが活躍していた19世紀末のロンドンを舞台に、トランスジェンダーの素人探偵が殺人事件の謎を解くという凝った構成で、歴史ミステリーとしてはもちろん本格謎解きミステリーとしても高レベルな作品である。
ロンドンの解剖医の助手を務めるレオは、運び込まれた死体を見て失神するほど衝撃を受ける。頭を殴られ、テムズ河岸に捨てられていた死体は、レオが愛し、いつかは一緒に生活したいと願っていた娼婦のマリアだったのだ。厳格な牧師の次女・シャーロットとして生まれながら心と体の違和感に苦しみ、15歳で家出してロンドンで男として生きているレオは、その秘密を知りながら偏見なしで接してくれるマリアに、娼婦と客以上の関係を夢見ていたのだった。ショックで仕事を休んでいたレオのもとに刑事が訪ねてきて、マリア殺害容疑で逮捕されたのだが、翌日、名前も知らない有力者の力によって釈放される。マリアのためにも真相を明らかにしたいと願うレオは、なりふり構わず真犯人を追いかけるのだった。 同性愛はもちろん異性装さえ犯罪とされていた時代に、主人公がトランスジェンダーで、常に男性としてふるまうことを余儀なくされているという設定が衝撃的かつユニーク。女であることがバレただけで終わってしまうレオの焦燥感がビリビリと伝わってきて、全編のサスペンスを盛り上げている。また、フーダニット、ワイダニットもきちんと書かれており、本格的な謎解きミステリーとして評価できる。さらに、19世紀末のロンドンの社会風俗も興味深い。 歴史ミステリーだけではない面白さを備えており、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメしたい。 |
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雑誌掲載の6作品に書き下ろし1作を加えた、文庫オリジナルの短編集。書かれた時期も掲載誌もばらばらだが最後の書き下ろしで、ぼんやりとテーマが見えてくる伊坂マジックが効いたエンターテイメント作品である。
どの作品も「今ある世界」と「ありえたかもしれない世界」がシュールにつながっていて、あなたが生きている現実はどこまで現実なのかを問いかかられているような不安感、浮遊感を覚える。そこを楽しめる方におススメする。 |
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大ヒット作「クリムゾン・リバー」の続編。蘇ったニエマンス警視が新たなパートナーと組んで、ドイツの黒い森を支配する富豪一族の闇に切り込んでいく警察サスペンスである。
前作で川に流されたはずのニエマンス警視だが実は生きていて、警察学校の講師を勤めた後、警察組織を横断して難事件にあたる、たった一人だけの新設部署を任されることになった。警察学校の教え子であるイヴァーナを新たな相棒に選んだニエマンスが取り組んだのが、フランスとドイツの国境地帯に広がる「黒い森」を支配する貴族フォン・ガイエルスベルク一族の当主が黒い森のフランス内で狩猟中に惨殺された事件。ニエマンスとイヴァーナは富豪が住むドイツに乗り込み、地元警察と衝突しながら捜査を進めることになったのだが、歴史ある貴族として超法規的な存在であるフォン・ガイエルスベルク一族には、広大な黒い森と同様の得体のしれない、深い闇が隠されていた・・・。 フランス警察で随一の捜査能力を持ちながらあまりに激しい暴力衝動のために、警察の持て余し者になっているニエマンスの基本は変わっておらず、予想を裏切る言動で周囲をひっかきまわしていく。しかも、相棒のイヴァーナも一筋縄ではいかぬ性格で、二人のコンビが時に反発しあいながらも助け合い、最後に事件を解決するという一種の警察バディものとして楽しめる。事件の背景は、富豪の一族の秘密というよくある話で、事件の構図もさほど凝ったものではないが、警察と犯人の攻防のサスペンスはまずまずの読み応えがある。 ニエマンスの異常な犬恐怖症の秘密が明かされるというボーナスもあり、前作で魅了された方には絶対のおススメ作である。 |
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ノルウェーの女性警部補ハンナ・シリーズの第二作。大量の血が残されている現場なのに被害者がいない不可解な連続事件と女子学生レイプ事件に取り組む、本格的警察ミステリーである。
現場には大量の血が残されているのに被害者が見つからない不可解な事件が相次いで発生。どれも土曜日に起きていた。同じ頃、一人暮らしの女子学生クリスティーネが自宅でレイプされる事件が起きた。多数の事件をかかえるハンネ警部補は地道な捜査で二つの事件のつながりを見つけるのだが、なかなか犯人を特定することが出来なかった。一方、警察が頼りにならないと確信した被害者クリスティーネの父親は自分の手で犯人を見つけ出し、復讐しようと決心する・・・。 卑劣なレイプ犯に対し警察や司法が無力だと思ったとき、市民はリンチの誘惑に駆られる。元法務大臣でもあるホルトは当然のことながら法の正義が貫かれるべきで私刑(リンチ)には否定的なのだが、レイプに対する刑罰や社会の認識が甘いことにいら立ち、そこに警鐘を鳴らす意味で書き上げられた作品と言える。さらに、移民の受け入れもサブテーマとなっており、極めて社会性が強い作品だが、ミステリーとしての完成度も合格点である。 シリーズ・ファンはもちろん、警察ミステリー・ファンには安心してオススメする。 |
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大阪府警シリーズの第6弾(文庫表4の解説による)。行方不明で事故死と思われていた日本画家の白骨死体が発見されたのをきっかけに、画商の世界の闇を暴き事件を解決するオーソドックスな警察ミステリーである。
丹後半島で行方不明になったはずの日本画家の白骨死体が富田林で発見された。大阪府警捜査一課深町班が担当になり、ハンサムコップこと吉永刑事は頼りない新人刑事・小沢と組み、被害者の背後関係を洗うことになった。まったく知識のない画商、画廊、美術ジャーナリストの世界を訪ね歩く二人は様々な壁に突き当たるのだが、やがて贋作づくりが絡んでいるらしいことをつかむ。ところが、事件の全体像が見えないうちに、関係者の一人が能登半島で死んでいるのが発見され、青酸カリ自殺と思われた。が、自殺説に違和感を持った吉永は粘り強い聞き込み捜査を続け、ついに犯人を特定したと確信したのだが、状況証拠ばかりで決定的な物証をつかむことができなかった・・・。 犯行動機の解明、アリバイ崩しなどオーソドックスな謎解きが中心になっており、正統派の警察ミステリーと言える。もちろん、シリーズの大きな魅力である大阪弁でのやり取り、とぼけたエピソードもたっぷりで安定した面白さは失われていない。さらに著者が得意とする美術関係の裏話が満載で飽きさせない。 大阪府警シリーズのファンはもちろん、警察ミステリーのファンには絶対のおススメである。 |
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刑事ヴァランダー・シリーズで知られるマンケルのノン・シリーズ作品。恋人を捨て、世の中を捨てて一人孤島に暮らす男が否応なく過去に連れ戻され、自分が歩んできた道を苦悩とともに振り返るヒューマンドラマである。
一匹の犬と一匹の猫だけを同居人に、一人で離れ小島に暮らす66歳の元外科医フレドリックは厳寒の朝、凍り付いた道を歩行器を使って歩いてくる女性の姿を発見し、驚愕する。それは37年前に捨てた恋人ハリエットだったのだ。意識を失って氷の上に倒れこんだハリエットを家に運び込んだフレドリックは彼女が死の病に侵されており、「人生で一番美しい約束」を果たしてもらうために最後の死力を尽くして訪れたことを知らされる。その約束とは「深い森の中の湖にハリエットを連れていくこと」だった。ハリエットの望みをかなえるために一度だけ付き合って行動することを渋々承知したフレドリックだったが、その旅は彼が捨ててきた世の中に戻っていくことであり、忘れようとした過去と否応なく向き合うことでもあった・・・。 フレドリックが世捨て人になったのは、なぜか? 子供時代から現在まで、彼が求めたこと、逃げてきたことは何なのか? 老年期に入った男が過去を振り返り、赤裸々に語る物語は後悔と自己弁護が入り乱れ、かなり重苦しい。それを救っているのが、スウェーデンの厳しくも美しい自然で、特に冬景色の描写が印象的である。 ヴァランダー・シリーズとは全く異なるタイプの作品であり、ミステリーファンというより、生きることの意味を追求する文学作品のファンにおススメする。 |
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2014年から15年にかけて週刊文春に連載されたものに加筆した長編小説。誰も見通せない未来を前に自分の決断、選択に惑う人間の弱さと諦念、その結果として招いたディストピアを描いた、シュールなエンターテイメント作品である。
2014年の東京に暮らす3人の迷い多き日々と日々の決断から生まれた物語が前半3/4、その70年後、2085年の世界が残り1/4という構成で、最後には2つのパートの関係が明かされる。前半の3つの物語は現実の社会状況からインスパイアされた、リアリティのあるストーリーが展開されるのだが、最後の未来のパートはSF的で、その落差に戸惑ってしまう。ただテーマがつながっているので、じっくり読めば腑に落ちる。「あの時に変えればよかったと誰でも思う。でも今変えようとしない」という言葉と、「一人の子供、一人の教師、一冊の本、そして一本のペンでも、世界は変えられる」(マララ・ユスフザイ ノーベル平和賞)というスピーチの対比が重く心に残ってくる。 ミステリーとしては期待外れだが、味わい深い社会派作品としておススメしたい。 |
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中央公論新社130周年記念で発刊された「小説BOC」の企画、8人の作家が同じテーマで、しかし時代を変えて競作するという「螺旋プロジェクト」の作品として書かれた2作品を収めた中編集である。
1作目は昭和のバブル期を舞台にした「シーソーモンスター」で、2作目は2050年代を舞台にした「スピンモンスター」。どちらも「日本を舞台に二つの一族が対立する」という企画のルールに基づき、海族と山族が宿命的に対立し、争う姿を描いているのだが、「シーソー」は嫁と義母の対立、「スピン」は同じ体験をして来た同級生の対立という、伊坂幸太郎らしい焦点のずらし方が効果的でユーモラス。「人はなぜ争うのか」という、まともに挑戦すれば重すぎるテーマを実に見事にエンターテイメントに仕上げている。 競作企画とは言え独立した作品なので、他の作家の作品を読んでいなくても問題なく楽しめる。伊坂幸太郎ファンには安心してオススメする。 |
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1992年から2008年に雑誌掲載された7作品を収めた短編集。欲が突っ張った男たちが結局はババをつかむ可笑しさと哀れさを描いたコメディである。
出来がいい寄席の観客になったように楽しめる、まさにエンターテイメント作品。黒川博行の習作集として気軽に読むことをおススメする。 |
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杉村三郎シリーズの第5弾。2017年から18年に雑誌掲載された3作品を加筆改稿した中編集である。
3作品とも、やっかいな女性が相手の難問に杉村が人間力を発揮して対応する話なのだが、今回はこれまでのシリーズとは違って最後のオチが結構残酷なのが目を引いた。宮部みゆきは同性には厳しい人なのかもしれない。ミステリーとしてはいまいちだが、話の展開が上手いので、なるほどなるほどと思ってるうちに読み終わった感じ。 宮部みゆきファンにおススメする。 |
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世界的ベストセラー「ミレニアム」の第6部でシリーズ完結作。スティーグ・ラーソン亡き後のシリーズ三部作では主役となってきたリスベットが生涯の宿敵である妹・カミラと決着をつけるサスペンス・アクションである。
ストックホルムの公園で死亡したホームレスの男がミカエル・ブルムクヴィストの電話番号を書いた紙を持っていた。男は国防大臣・フォシェルに関する何かを喚いていたとか、支離滅裂な文章を書いた紙をバス停の掲示板に張り出していたなどの情報もあり、ミカエルは男の身元調査を始めることになった。男は殺害されたのではないかと疑問を持った法医学者の協力を得て、ミカエルは自宅を売却して行方をくらませていたリスベットに死んだ男のDNA情報を送り、解明を依頼する。そのときリスベットは、自分の命を狙うカミラに逆襲するためにモスクワにいたのだが、カミラ襲撃に失敗し身を隠すことになった。一方カミラは、リスベットに逆襲するためにストックホルムに飛び、リスベットをおびき出すためにミカエルを利用しようとする。それを察知したリスベットはストックホルムに舞い戻り、カミラと決着をつけようとする・・・。 本作の中心はリスベットとカミラの最終決戦なのだが、ホームレスの男と国防大臣との因縁もかなりの部分を占めていて物語が二分されてしまっているため、作品密度がやや薄まっている。特に、ホームレスの男と国防大臣が絡むエベレストのエピソードは、作者の得意分野ということで、これだけで一作になるほどの力の入れようでとても面白いのだが、作品全体として完成度を落としている印象なのが残念である。 完結編でもあり、シリーズ愛読者には必読。というか、シリーズ愛読者以外には、それほどおススメできる作品ではない。 |
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「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの第8作。オリヴァーが少年時代を過ごし、現在も住んでいる小さな村で起きた連続殺人事件の謎を解明する警察ミステリーである。
オリヴァーとピアが勤務する警察署管内で起きたキャンピングトレーラーの放火殺人事件。トレーラーの所有者はオリヴァーが知っている老婦人で、しかも被害者はその息子だと判明する。さらに、余命いくばくも無くホスピスに入っていた所有者の老婦人が殺害された。連続殺人事件として捜査を開始した警察だったが、事件の関係者や周辺人物がほとんどオリヴァーの知り合いで、しかもオリヴァーが関係した42年前の事件との関連をうかがわせる背景が判明し、オリヴァーは微妙な立場に立たされる。さらに、オリヴァーが一年間の長期休暇を取得する直前だったこともあり、捜査の指揮はピアがとることになった。閉鎖的な村社会で起きた事件は、そこに住む人々に激しい動揺を与え、それぞれが抱えてきた愛憎、隠された人間関係を容赦なく暴いていくことになる・・・。 現在の事件を42年前の事件を並行して解明していく、2つのワイダニット、フーダニットが重なり合う展開で、登場人物の数が多いのに加え人物間の姻戚関係、友人関係が複雑で、しょっちゅう登場人物リストや関係図を参照しないと物語についていけないのが難点。サクサクと読める作品ではない。最終的な真相も、事件の悲惨さの割には薄っぺらだが、複雑怪奇な事件を地道に解明していくプロセスは警察小説の王道を行くもので読み応えがある。本作ではオリヴァーの少年時代が詳しく書かれており、次作ではピアの家族の秘密が明らかにされるという。 シリーズのターニングポイントとしてファン必読。また、北欧警察ミステリーのファンには十分に満足できる作品といえる。 |
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検事・佐方貞人シリーズの第4作。雑誌掲載された4作品を加筆・訂正した短編集である。
4作品はどれも、検察上層部と対立してでも「罪が真っ当に裁かれる」ことを追及する佐方の意地を描いたこれまで通りのパターン。各作品のテーマは現実に起きた事件を下敷きにしており、それなりのリアリティがあり、物語展開も巧みで読みやすい。 シリーズの愛読者、2時間ドラマのファン、正義が達成される結末で安心したい読者にオススメする。 |
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2014年度のドイツ推理作家協会賞受賞作。ともに54歳になる作家と教師が再会し、二人の出会いと別れ、それをかかえて生きて来た人生を語り合う、大人の恋愛ドラマである。
作家と生徒たちのワークショップという企画によって16年ぶりの再会することになった人気作家のクサヴァーと国語教師のマティルダ。かつて恋人同士として16年間を過ごした二人は、過去を振り返り、それぞれの思いをぶつけ合うのだが、そこに「物語にして語り合う」という技法を用いることで、お互いの思いの違いが明らかになっていく。運命的とも言える出会いで感じる愛、人生に求める物の違いによって生じる別れ、そして相手を理解しきれなかったことの後悔。いわゆる謎解きミステリーではないが、人間という生き物が謎であるという意味でミステリーである。 訳者あとがきにもあるように、ケイト・モートンの作品が好きな人なら親近感を持つだろう。 |
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小林由香の「ジャッジメント」に続く第二作。いじめをテーマに報復の意味を追及した、ヒューマン・ミステリーである。
壮絶ないじめ(暴力犯罪レベルである)にあっていた高校一年生の時田は、いじめの現場を救ってくれたピエロ・ペニーに、いじめている少年を殺して自殺したいと心のウチを打ち明ける。するとペニーは、殺害計画を立てたら手伝ってやるという。半信半疑ながらも時田は殺害計画を立て、ペニーの助けを得て実行しようとする。一方、息子がいじめを苦にして自殺し、それが原因で妻も自殺してしまった風見は抜け殻のような生活を送っていたのだがが、同じようにいじめで苦しんでいる人々のサークルで知り合ったハギノと名乗る高校生から情報を得て、息子をいじめた少年たちを特定し、報復することを決意する。そして二人の計画が重なって実行されたのは、正義なのか、犯罪なのか? 小林由香のメインテーマである犯罪と報復のバランス、被害と加害の公平性を真摯に追及した社会派ミステリーであり、答えが出ない問いに真剣に応えようとする人間ドラマである。従って、重いテーマの周りを堂々巡りしているようなもどかしさがあるのも否めない。物語の展開も下手ではないのだが、小説としてはやや硬さがあるのが残念。 ミステリーの楽しさを求めるより、社会的テーマの追及を求める読者にオススメしたい。 |
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