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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数131

全131件 61~80 4/7ページ

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No.71: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ミステリーというより、青春小説としてオススメ

2007年刊行の雑誌連載の長編小説。題名通り、犬の習性がポイントとなったミステリーだが、ミステリーというより主人公の大学生と仲間たちの関係を描いた青春小説として読む方がしっくりくる。というか、ミステリーとしては完成度が低い。
主人公と仲間の4人の大学生はキャラクターもきちんと描かれ、心理の動きも丁寧に追いかけていて面白いのだが、ミステリーの肝である犯罪動機、犯行形態、犯行の背景などがちょっとご都合主義で弱い。4人以外の主要人物も類型的で残念。
ソロモンの犬 (文春文庫)
道尾秀介ソロモンの犬 についてのレビュー
No.70:
(6pt)

類型化され過ぎていて興ざめ

半沢直樹シリーズの第4作。巨大航空会社の再建を舞台にした、銀行エンターテイメントである。
頭取のご指名で、崩壊しかけた日本の代表的航空会社の再建チームを担当することになった半沢直樹が、非協力的というか敵対的な前任者たち、やるきのない航空会社、強権的な政治家やタスクフォース集団などに苦しめられながら、銀行の正義を貫いて行く物語。日本航空の再建と民主党による政権交代をモデルにしているのが分かり過ぎて、読んでいて苦笑する。
登場人物やその役割り、言動があまりにもパターン化されていて、薄っぺら。半沢のチームだけが正義で、それ以外はすべて悪役ってのも、どうかと思う。
ドラマの半沢直樹シリーズに夢中になれる人には満足な作品なのかもしれないが、骨太の企業小説を読みたい方にはオススメできない。
銀翼のイカロス (文春文庫)
池井戸潤銀翼のイカロス についてのレビュー
No.69:
(6pt)

レディース・コミックかな?(非ミステリー)

釧路の貧民窟のような片隅で頭の狂った母親と暮らしていた影山博人が、釧路の政治経済の闇の支配者になり成功するまでを、彼に関わった女性の物語として描いた8本の連作短編集。
怖いもの、未知なもの、理解できないもの、支配的なものに惹かれていく女性の心理と適度にエロチックな場面が刺激的なレディース・コミックのようなお話である。
語りが上手な作者なので退屈することはないが、熱中するほどでもない。コミック代わりにどうぞ、というところか。
ブルース (文春文庫 さ)
桜木紫乃ブルース についてのレビュー
No.68:
(6pt)

あまりにも辛気くさい

ノルウェーの女性作家の人気シリーズの第3作。第2作「湖のほとりで」がガラスの鍵賞を受賞し、本作もノルウェー書籍販売業者協会の大賞(本屋大賞みたいなもの?)を受賞したという、王道を行く北欧警察小説である。
深い森の奥に一人で住む老女が殺害され、近くで目撃された精神に障害がある青年・エリケが有力容疑者とされた。ところが、エリケは同じ日に起きた銀行強盗事件で人質にされ、強盗犯人と一緒に行動していることが判明した。セイエル警部は、エリケを犯人と決めつける周囲とは異なり、冷静沈着に事実を追求し、事件の真相に迫って行くのだった。
老女殺害事件の犯人探しの物語だが、銀行強盗と精神障害者の逃避行のエピソードにも力点が置かれている。というか、殺人事件の犯人探しは「えっ?」という展開であっさり決着がつけられるのに対し、逃避行とエリケの思考や行動の解析はじっくり時間をかけ、丁寧に追いかけられており、こちらの方が本筋かと思わされる。しかも、その描写が重くて、なかなかページが進まない。
社会的な問題を取り上げ、ストーリー展開が遅く、読者を憂鬱にさせるというのは、北欧ミステリーにはよくあることだが、それにしても本作は辛気くさ過ぎる。銀行強盗とエリケのやり取りにはユーモラスな部分もあるのだが。
ゴシック風味というか、多少のオカルト的な重苦しさを苦にしない読者にしか、おススメしない。
晴れた日の森に死す (創元推理文庫)
カリン・フォッスム晴れた日の森に死す についてのレビュー
No.67:
(6pt)

夢が壊れたとき、何にすがるのか?(非ミステリー)

新聞連載された長編作品。文庫の裏表紙に「傑作サスペンス長編」とあるので手に取ったのだが、サスペンスでもミステリーでもない、狂気をはらんだ恋愛小説である。
実業家の年上妻に先立たれ、関与していた事業から追放されて故郷の新潟を離れざるを得なくなり、東京で仕事を見つけた54歳の男・伊澤。美少女コンテストで入賞したことからタレントを夢見て釧路から上京したものの成功せず、10年間所属した芸能事務所を首になった29歳の沙希。沙希のバイト先である銀座のキャバレーで出会った二人は、それぞれの事情を抱えたまま、伊澤が販売をまかされて赴任した北海道のリゾートマンションで再会する。バブル時代に投機目的で建設されたものの失敗した、荒れ果てたリゾートマンションはまったく買い手がつかず、伊澤は鬱屈した日々を過ごしていた。そこを訪れた沙希も、釧路の実家へ帰る足取りは重く、ぐずぐずと時間を浪費していた。そこに現われたのが、20年も前にマンションを5部屋購入し、所有し続けている小木田と名乗る男だった。荒廃した夢のあとと舞台に、寄る辺ない三人が繰り広げた奇妙な物語は、思いも寄らない事態へ転がって行くことになった。
夢が壊れたとき、人は何を頼りに生きて行く力を得るのか? 乱暴に言えば、人は「愛」を頼りに再生して行くのだろうが、では、その「愛」とは何なのか?を追求した作品である。従って、ラブストーリーとして読むことも可能だが、それにしてはヒーロー、ヒロインに感情移入するのが難しい。
はっきり言って、読後感が良くない作品である。この作者は、もっとミステリー寄りの作品の方が楽しめる。
それを愛とは呼ばず (幻冬舎文庫)
桜木紫乃それを愛とは呼ばず についてのレビュー
No.66:
(6pt)

車好きにしか・・・

「東京湾臨海署安積班」シリーズで、「ベイエリア分署」の復活を告げる作品。派手なカーチェイスに焦点を絞った、映画の脚本のような作品である。
不良グループの抗争事件で一人が殺された現場から走り去った黒いスカイラインGT-R。運転していたのは伝説の走り屋「風間」で、警察は風間を犯人と見て追求する。しかし、風間犯人説に疑問を持った安積警部補と交通機動隊の速水警部補は、捜査本部の方針に逆らって独自の捜査を続け、事件の真相を解き明かして行く・・・。
基本は警察小説だが、事件の動機、犯罪の様相、捜査の手法など、どれも平板で淡白。唯一の読みどころが速水と風間の高速バトルなので、車好き以外には物足りない。
残照 (ハルキ文庫)
今野敏残照: 東京湾臨海署安積班 についてのレビュー
No.65:
(6pt)

全600ページの独白は、正直キツい

南ヴェトナムが崩壊した1975年に4歳で難民として渡米したヴェトナム系アメリカ人作家の長編デビュー作。MWA賞最優秀新人賞とピュリッツアー賞を受賞し、アメリカでは大ヒットした作品である。
主人公(最後まで、名前は出ない)は、フランス人宣教師がヴェトナム人メイドに生ませた私生児で、生まれた時から父親には認知されず、妾の子として迫害されながら育ち、南ヴェトナム秘密警察長官(将軍)に信頼される大尉として勤務し、駐ヴェトナムCIA局員からも可愛がられていた。1975年、サイゴン陥落を目前に、将軍たちはサイゴンを脱出し、アメリカへとわたる。難民として苦労しながら、将軍たちはCIAや米国保守派の助けを借りて南ヴェトナムへ侵攻する計画を進めていた。将軍の片腕として活動する主人公だったが、実はヴェトナム時代から南ヴェトナム秘密警察に潜り込んだ北ヴェトナムのスパイであり、今も親友で義兄弟の契りを結んだ北のハンドラーと連絡を取り合っていたのだった。しかも、義兄弟と誓い合ったもう一人の友人は、熱烈な反共主義者の南ヴェトナム軍人で、同じく将軍と一緒に行動しているのであった。
物語の中心は、スパイ活動と周辺の人々への愛情との亀裂をはじめ、西洋と東洋の血が流れる自身のアイデンティティの苦悩、祖国とアメリカ文化の対立、成功した革命が見せる変質への失望などなど、二つの精神のせめぎ合いと葛藤に置かれている。従って、いわゆるスパイ小説のスリリングさやサスペンスを期待していると裏切られる。言わば、ヴェトナム人の視点から描いたヴェトナム戦争小説である。
描かれている世界は複雑で、さまざまなエピソード、登場人物も魅力的なのだが、いかんせん全600ページ(文庫本2冊)がすべてが主人公の独白という構成が重苦しい。読み通すのに、かなりの気力と体力が必要だった。
スパイ小説を期待せず、現代アメリカ文学のヴェトナム戦争分野の異色作として読むことをオススメする。
シンパサイザー (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ヴィエト・タン・ウェンシンパサイザー についてのレビュー
No.64:
(6pt)

暴力しか信じない人々

2014年に発表されたドン・ウィンズロウの長編小説。日本で同時発売された「失踪」とは全く違った、シンプルな戦闘アクションである。
アメリカの対テロ特殊作戦部隊を退役したデイヴ・コリンズは、イスラム系テロの旅客機攻撃で妻と息子を失った。ところが、米政府はテロではなく事故であると発表し、隠蔽してしまった。国に裏切られたコリンズは自分の手で報復することを決意し、かつての上司が運営する「世界最強の傭兵軍団」の力を借りてテロリストの殲滅作戦を開始する。
全編、「復讐は感情の行為であり、報復は正義の行為である」というエピグラフの精神で貫かれており、ストーリーもキャラクターも、まったく深みが無い。ただひたすら暴走するのみ。
大学では軍事史を学んだというウィンズロウらしく、兵器や軍事作戦の解説は極めて詳細で、兵器オタクにはオススメだ。というより、兵器オタク以外にはオススメできない作品だ。
報復 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ報復 についてのレビュー
No.63:
(6pt)

雪の山荘ものへの挑戦

ノルウェーの人気シリーズ「ハンネ警部シリーズ」の第8作は、アガサ・クリスティへのオマージュとして書かれた「雪の山荘もの」である。
オスロからベルゲンに向かっていた列車が激しい雪嵐の中で脱線し、運転士は死亡したが乗客たちは近くの古いホテルに収容され、救助を待つことになった。ホテルの備蓄は十分で、あとは救助隊を待つばかりのはずだったが、夜中に乗客の一人の牧師が射殺体で発見された。ちょうど乗り合わせていたハンネ警部は事件捜査に協力することになったのだが、捜査が何も進展しないうちにさらに、翌日、新たな死体が発見された。パニックに落ち入る乗客たちの中に潜んでいる犯人を捜し出すために、ハンネは人々の言動を注意深く読み解いて行くことになった。そしてたどり着いた結末は・・・。
ミステリーの古典的結構をなぞった野心的作品だが、物語の起承転結がすべて人間ドラマの枠内に収められているため、いわゆる「安楽椅子ディテクティブ」的な色合いが濃く、現代ミステリーになじんだ読者にはやや退屈だ。
クリスティマニアにはオススメだが、従来の北欧ミステリーファンにはちょっと物足りないだろう。
ホテル1222 (創元推理文庫)
アンネ・ホルトホテル1222 についてのレビュー
No.62:
(6pt)

メインテーマを霞ませるこだわり

ノンシリーズながら、逢坂剛ならではのフラメンコと独西現代史の蘊蓄がたっぷり詰まったハードボイルド・ミステリー。こんな蘊蓄は必要ないという反応も多いだろうが、そこが逢坂剛なのだというしかない。
個人で調査事務所を経営する岡坂は、フラメンコの店で知り合ったダンサー・神成真里亜と食事をした後、だれかに尾行されているのに気づいた。尾行者の正体を暴こうとした岡坂だったが、さらに、別の尾行者として公安刑事が現れ、岡坂にコンタクトを取ってきた。二組の尾行者たちの狙いは何か・・・。
メインテーマは、不妊症の金持ちを相手にした卵子提供斡旋ビジネスで卵子を求める側が特定の提供者にこだわってことから生じる混乱なのだが、その背景になるフラメンコの世界、ドイツ浪漫派とナチズムの関係の説明が詳細で、途中からはどれが主題だか分からなくなってくる。
人が殺される訳ではなく、ピストルをぶっ放すような派手な暴力がある訳ではない日本のハードボイルドの枠組みの中で、私立探偵が主役を張り、魅力的な女性が周辺を彩るハードボイルドとしてきちんと成立させているのは、さすがベテラン。フラメンコと現代史の蘊蓄に我慢が出来るなら読んで損は無い作品だ。
バックストリート
逢坂剛バックストリート についてのレビュー
No.61:
(6pt)

ミステリーとしては、ちょっと弱い

「記憶」シリーズに続く?クックの新シリーズ「人名シリーズ」の第3弾。早川ポケミスから出ているのだが、ミステリーとしてはさほど面白くはない。
犯罪実録もの作家ジュリアン・ウェルズが自殺した。力を入れていた作品を完成させ、次の作品の準備を進めていたはずのジュリアンが、なぜ自殺したのか? 学生時代からの親友で文芸評論家のフィリップは、ジュリアンが著作のために訪れた場所を巡って、ジュリアンが見たものを見て、会った人と話して、すべてを追体験することで真相を探ろうとする。しかし、そこで明らかになってくるジュリアンの姿は、「親友」として知っていたはずの姿とは異なるものばかりだった。
アルゼンチンの現代史を背景にしたスパイ小説の要素(落ちというか、キーポイントがバカバカしすぎるのだけど)もあって、一応のエンターテイメント性は備えているのだが、基本は「人は他人を理解できるのか」というヒューマンドラマ。スパイミステリーを期待して読むと裏切られる。
トマス・H・クックのコアなファン以外にはオススメしにくい作品である。
ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
No.60:
(6pt)

壊れ過ぎた人々(非ミステリー)

あの「シスターズ・ブラザーズ」で読者を驚かせたデウィットのデビュー作。
ハリウッドの一角にあるバーで補助バーテンダーとして働く男の目で語られる、ロスの酔っ払いたちの驚くべき狂態の数々。人はどこまで酒(およびドラッグ)に溺れるのか、信じ難い話が繰り広げられる。
ストーリーはあって無いようなもので、酔っ払いたちのとんでもない姿がクールな筆致で淡々と綴られる、そのギャップが読みどころか?
ミステリーを期待すると裏切られる。かといって、惹句の「泥酔文学の金字塔」はオーバーで、「シスターズ・ブラザーズ」につながる才能の発露はあるものの、いかにも習作という感を免れない。
みんなバーに帰る
No.59:
(6pt)

山場の無いストーリー、落ちもイマイチ

米国の女性新人作家のデビュー作。売り文句には「究極のサスペンス!」とあるのだが、かなり期待外れだった。
禁酒法時代のニューヨークで警察のタイピストとして働くローズは、孤児として女子修道院で育てられた女性らしく、地味で堅実な生活を送っていたが、新しい同僚として華やかで洗練されたオダリーが現れたことから、全てが一転することになる。自由奔放なオダリーに魅了され、ついには一緒に生活するようになるローズだが、一方で、オダリーが語る生い立ちや贅沢な暮らしを支える資金の出所などに疑問を持ち、良くないことが隠されているのではないかと不安を覚えるようになる・・・。
まあ、ミステリー好きならおおよそ予想がつく展開で、最後の最後に落とし穴らしき仕掛けがあるものの効果はイマイチ。スリルもサスペンスも乏しく、ミステリー要素を一滴たらしたハーレクインとでも言えばいいのだろうか。本格的なミステリーファンにはオススメできない作品だった。
もうひとりのタイピスト
No.58:
(6pt)

解き明かされたマロリーの秘密

キャシー・マロリー・シリーズの第4弾。マロリーのニューヨーク以前の秘密が明かされる、シリーズの転回点となる作品である。
前作「死のオブジェ」のラストで誰にも行き先を告げずにニューヨークを離れたマロリーは、ルイジアナ州の片田舎デイボーンの保安官事務所の拘置所にいた。その町は、17年前にマロリーの母が殺害され、幼いマロリーが行方不明になった忌まわしい記憶が残る故郷だった。町では、マロリーが姿を現した直後から自閉症の青年が両手を骨折させられ、その犯人であるカルト教団の教祖が殺害され、副保安官が心臓発作で病院に運ばれるという事件が続発した。
マロリーを探しにデイボーンにやってきたチャールズは、マロリーの母親の遺産管理人の女性に会い、マロリーが拘置されていることを知る。マロリーを助けるべく奮闘するチャールズは、マロリーの母親の死とカルト教団の関係を探り出し、マロリーの生涯を決定づけた事件の真相を知ることになる。
「氷の天使」の誕生秘話が明かされるという点で、シリーズ読者にとっては必読の一作。ストーリーはややご都合主義で不満が残るが、主役の二人はもちろん周辺人物もキャラクターが際立っていて面白いエピソードが多いので、それなりに楽しめる。シリーズ読者には絶対のオススメ、そうでない人には時間があればオススメというところか。
天使の帰郷 (創元推理文庫)
キャロル・オコンネル天使の帰郷 についてのレビュー
No.57:
(6pt)

徐々にヒロインに変化が

キャシー・マロリー・シリーズの第3弾。これまでの2作に比べるとミステリー要素が重視され、警察小説らしさが高まってきた作品だ。
ニューヨークの画廊でアーティストが殺害された事件が発生。市警には、12年前に同じオーナーの画廊で起きた猟奇殺人事件との関連を示唆する手紙が届いた。捜査を担当するマロリーとライカーのコンビは、12年前の事件を担当したマーコヴィッツが残した膨大なメモを手がかりに、美術界の裏側をこじ開けるように強引な捜査を進めていたが、なぜか警察上層部から捜査妨害を受けるようになった。壁が高くて厚いほど力を発揮するのが、マロリーの半分非合法な操作手法であり、嘘とはったりと度胸で関係者を揺さぶり、最後には美術界に横行する金儲け主義と芸術家一家の悲劇の真相を暴くことになる。
たぐいまれな美貌と天才的な頭脳と徹底的なモラルの欠如、というマロリー像は継続されているものの、本作では所々「マロリーらしからぬ」人間的感情をみせるシーンがあり、ライカーやチャールズとの関係、自分の過去への向き合い方などにも、これまでの「氷の女」一辺倒ではない変化の兆しが見て取れた。登場人物のキャラクターの変化が物語に深みを与えるという、シリーズものならではの楽しみが感じられた。
ミステリーとしての完成度はまだまだ今ひとつな印象だが、登場人物のキャラクターの変化を楽しむという意味でも、読み続けたいと思わせるシリーズである。

死のオブジェ (創元推理文庫)
キャロル・オコンネル死のオブジェ についてのレビュー
No.56: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

スウェーデンの「そして誰もいなくなった」

スウェーデンで大人気の犯罪捜査官マリア・ヴェーンシリーズの第9作。邦訳では2作目である。
今回は、大自然の中での一週間のセラピーキャンプということで無人島に渡った7人の女性たちが次々に死体となって発見されるという、クリスティの「そして誰もいなくなった」みたいなお話。嵐に襲われた無人島という限られた空間、自分たち以外の人間がいるはずは無いのに次々と起きる不可解な現象、通信が途絶え、食料も無いなかでの相互不信。訳あって身分を隠したまま参加したマリアが、人格が崩壊しかけた6人を相手に壮絶なサバイバルゲームを乗り切って行く。
事件の背景には深刻な社会病理が隠されており、島に集まった7人のそれぞれの事情が現代の社会不安を象徴している、社会派ミステリーである。また、離婚を経て揺れるマリアの心境変化を追い掛けるロマンス小説でもある。
ただ、謎解きミステリーとしてはかなり弱い気がするので、オススメはしない。
死を歌う孤島 (創元推理文庫)
アンナ・ヤンソン死を歌う孤島 についてのレビュー
No.55:
(6pt)

豪華版のお子様ランチかな?

第12回「このミス」大賞の受賞した、梶永正史のデビュー作。いま大人気(?)らしい女性捜査官ものにニューヒロイン・郷間彩香の登場である。
銀行立てこもり事件が発生し犯人の要求により、なぜか詐欺犯担当の主任代理の郷間彩香が交渉人兼現場指揮官として派遣された。経験も権力もない三十路女は、現場の男たちと衝突したり、理解し合ったりしながら、度胸ひとつで人質の解放、事件の解決へと奮闘する・・・。
事件発生から終結まで丸一日という時間設定、人質を取った立てこもり事件、鼻っ柱の強い女性刑事、警察内部の権力争い、正義のためなら暴力も辞さないという謎の集団などなど、エンタメ・ミステリーを盛り上げる要素がてんこ盛りで、ヒロインを始めとする登場人物のキャラクターも色鮮やかなのだが、随所に挟み込まれるヒロインの心理描写が、ユーモラスといえばユーモラスなのだが、ライトノベルみたいで、急に緊張感が薄れ「味が幼稚」と言わざるを得ないのが残念。テレビドラマの原作としてなら、高い評価を受けるだろう。
警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.54: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)
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フリーメイスン、陰謀論好きに

ダン・ブラウンの大ヒット作「ラングトン」シリーズの第3作。
悪役のキャラクターが異様で面白かったが、フリーメイスンにも、陰謀論にも興味が無いので話が荒唐無稽過ぎて集中できなかった。
ロスト・シンボル (上) (角川文庫)
ダン・ブラウンロスト・シンボル についてのレビュー
No.53: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ファンタジーとして(非ミステリー)

はやらない雑貨店の老主人が始めた人生相談が、タイムスリップして、多くの人の人生を彩って行くというファンタジー小説。物語としては、それなりの面白さがあるが、ミステリーファン的には期待外れだった。
ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)
東野圭吾ナミヤ雑貨店の奇蹟 についてのレビュー
No.52:
(6pt)

良くも悪くもマーロウの世界

「フィリップ・マーロウ」シリーズの第5作「かわいい女」の村上春樹氏による改題・新訳版。1949年の作品だが、村上氏の新訳により、さほど古臭い感じはしなかった。しかし本筋のストーリの展開がイマイチで、あまりすんなりと読み進めなかった。
カンザス州の田舎町から出てきた堅物の田舎娘に「ロサンゼルスで行方不明になった兄を探して欲しい」と依頼されたマーロウは、娘の態度への好奇心からわずか20ドルの報酬で引き受けた。ところが、調査に乗り出したとたん、行く先々でアイスピックを使った連続殺人事件に巻き込まれることになる。誰が、何のために殺害しているのか、行方不明の兄はどう関係しているのか? LAの貧しい裏通りと華やかなハリウッドを舞台に、映画界とギャングの欲望がぶつかり合い、醜い裏切りのドラマが繰り広げられて行く。
古典的ハードボイルドの王道・マーロウのシニカルで洒落たセリフは健在だが、肝心のストーリー展開が複雑かつ切れがなく、犯人探しに重点を置いて読むと物足りなく感じられる。
登場人物のキャラクターやセリフ、エピソードの細部など、いつもの「マーロウの世界」を楽しみたい読者にはオススメだ。
リトル・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)