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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数62件
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ひと言でいうと面白かったと言えます。つまりは私の好みの範疇の作品であったということです。美術品、あるいは美術界を舞台にしたものでは前に読んだ原田マハの「楽園のカンバス」があります。
あれはあれでとても面白く読みました。しかし、これは最初のページに「ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードに捧ぐ」とあります。これを読むだけでニヤリとします。実際にこの本に関しては なんの知識もありませんでした。でも、この一文を目にして読まずにはいられませんでした。まんまとハマったことになります。( ´艸`)このポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードに捧ぐという意味 が分からない人は、まぁ平成生まれの人でしょうね。とにかく、すべり出しから読ませてくれます。地方の素封家の長男と銀座のホステスの二人がそれぞれ追いつめられていく日常が描かれており、ある人物と 出会うところまでが前半の胆でしょうが、ヴァン・ゴッホの人物像をあれこれと紹介しながらの話しの流れはとても面白く読み進みました。絵画とは何ぞやという問いにこの著者の姿勢が表れているともとれる 全体のトーンとラストのエピソードが私には好感が持てました。人物の動かし方も的を得ていて多彩な人物が登場しますが良く描けていると思います。嫌味のない文章も好みで略歴からとても興味を惹かれる 著者です。 |
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いつもはワトソン役の有栖川有栖が今回は探偵役に回っていろいろと調べ回る話です。全体を見てもとても自然だというのが私の印象です。著者の都合に沿った作為的な部分がまるでありません。
この点だけでもすごいと思います。唯一ツッコミどころとしては例の電車内でのトラブルを撮影していた、という件ですが。しかし、現実にも生のニュースショーで視聴者提供という動画が リアルタイムで流れる現代です。そう見ればこの設定も無理があるとは言えません。始めから最後まで細かく計算された構成のストーリーで流石有栖川有栖と云えます。他殺の根拠がないから自殺。 その警察の見解を覆すべく奔走するワトソン。この図式が面白いです。自殺との見解ですから警察もそうキメ細かく関係者の証言に当たっていません。そこを丹念に当たりこれまで出てこなかったちょっとした 話を耳にする有栖。そんな調べ方で少しずつ死んだ男の過去が浮かび上がってくるところが読ませどころですね。こういう形態のストーリーはどちらかと云うと好きな方なので楽しみながら読み進みました。 決定的な過去の出来事と現在との接点。そこに矛盾する行動をとる人物を指摘する火村。うん、久しぶりに楽しい時間を過ごさせてもらいました。有栖川有栖さん、もっと長編をお願いします。(笑) |
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最後の一撃をするためには、①「そこまでにすべてデータは揃っている」のに
②「読者はずっとミスリードされていて」 ③「最後のたった数行でどんでん返しを行い」つつ ④「実は過不足なく説明されている事がちゃんと分かる」 といった四つの要素が必要になるわけだが 1~3だけでも十分アクロバティックなのに、そのうえ4を満たすのはまた思いの外難しいことなのだ。 これは瀬戸川猛資(夜明けの睡魔で有名)氏のクイーンの「フランス白粉の謎」について書いた文章です。 さて、マーガレット・ミラーの本書も最後の一撃が楽しめる一冊であることに間違いはないでしょう。 未読の方にはおススメのミステリと云っておきましょう。 |
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【ネタバレかも!?】
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ミステリの手法を使った青春小説。そう捉えた方が分かりやすい。しかし、文章が濃い。心身ともに疲れているときに読めばさらにぐったりするほどの拘った言い回しの言葉の数々。
いろんなセリフやさらりと流した情景が最後に説明され、みんな繋がっていく有様は爽快だ。不覚にも最後のページで目頭が熱くなった。著者が始めに断っているように「おとぎ話」だけれど 別に懐古趣味でなくても胸打つストーリーだ。「イニシエーション・ラブ」とこの「スロウハイツの神様」どっちが好み?と聞かれたら迷わずこの「スロウハイツの神様」。 「たっくん」よりも「コウちゃん」の方が人間的にも魅力的だから。 |
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この本に限って云えば、この人のこの作品はそれぞれのエピソードが最後に集約するその様はとても自然で、無理の無い形でそれぞれが繋がっていくところが上手いなと感心させられる。
作者の都合で人が動いたりとか、そのような不自然さが皆無で全てがキッチリと嵌まって一枚の絵になるような構成の巧みさがある。しかし、国が違えば日本の常識が通用しないのは 分かるけれども、どうも「え?」と思うことが多々あり過ぎてその辺が少し可笑しい。事件があればその家の周辺に徹底的に聞き込みを入れて目撃情報を得るのは捜査のイロハだが、 どうもスウェーデンでは違うらしい。こういった点や子供を迎えに行くために刑事が夕方5時に帰るとか、日本じゃちょっと考えられないところがあって、異文化の面白さが味わえる面もあり 海外小説ならではの別の楽しみ方も出来る。とはいっても、捜査の様子がきめ細かく描かれ着実に犯人に迫っていく捜査チームの動きが、かなりの枚数だけれども中ダレすることなく書かれており、 先の展開が気になってとても途中で放り投げるような事は出来ない。主人公の警部も人間味溢れるキャラクターでこういった点もこの物語を面白くしている一因なのは間違いない。 でも一番の良さは無理のない展開とそれぞれの人の考えや行動がとても自然に描かれているところだと思う。文庫本上・下のボリュームだけれど読み応えのある内容だった。 |
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陽子、あなたが生まれたのは1973年10月21日と、自身のことを第三者の視点で語るスタイルで物語が始まる。そして、それとは別に現在の時間軸で女刑事が110番通報によりマンションの一室で発見された死体を確認に赴くところから
女刑事の捜査の過程を追っていくスタイルで物語が展開していく。ふたつの時間軸が最後には交差するのだがラストは自分としては予想外だった。陽子が成長するその年代の社会背景などがキッチリ描かれていて、とても読み応えが あり、陽子が堕ちていくその生き様とかを納得させると共に共感さえ生む物語だ。マンションの一室で検めた死体は不審な点は見つからず今流行の孤独死かと思われた。この死体の検分のため所轄から出動した女刑事もバツイチで、人間的にも 欠陥のある人物として描かれ、ある意味では陽子と似通った部分を持っているような人物だ。つまり女刑事も主人公の陽子もその他登場する人物みんなが欠陥のあるような人間ばかりで、パーフェクトな人間は一人も登場しない内容だ。 重いと云えば重い。暗いと云えば暗い話だけれど、それ以前にリアルな時代背景を使った陽子の人生の軌跡がジーンと胸に響く。居場所を探す陽子と同じく女刑事も自分の居場所を探しているところがとても良い。 交互にストーリーは進むが、滅茶苦茶面白くいろんなエピソードが盛り込まれているが最後まで二人の行いというか行動に眼が離せない。内容と構成と物語の面白さにニクイと感じる作家で、初めて読んだ作家だがすっかりやられちまった。 読後に興奮して眠れなかったのは久しぶりだ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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旧ソビエトの社会主義国が舞台の物語。従って一部の理想国家を追求する人種たちは別にして、一般の人々はただ盲従的に国の取り決めに無言で従うしかない。上の人間は「信用しろ、しかし、確かめろ」と一般人を見る。
当然隣人同士で相互監視が起きる。密告により反体制派とレッテルを貼られ処刑される人々は数知れない。そんな世界だ。主人公のレオ・デミドフは国家保安省の捜査官。国家に忠実であればこそこれまでに無実の人を たくさん殺してきた。仲間の捜査官の子供が死んだが、殺人だと騒ぐのを上司の命令で収めに行く。みんな平等なのだからこの社会に犯罪は存在しない。これがこの国の基盤。死体も検分せず目撃者にもろくに話を聞かず ウムを言わせず事故で片付けた。そんなレオが子供ばかりを殺害した連続殺人鬼を追う物語。当然このような事件は表面上存在しない。存在しない事件を調べるとどうなるか?それがこの物語の最大の背景。 レオと妻のライーサの物語。レオと宿敵ワシーリーの物語。過酷な状況のなか信念を持って殺人鬼を追うレオ。ジェットコースター・ムービーのように波乱の展開が続くストーリー。伏線もちゃんと張られ無理の無い ストーリー展開。文庫本上・下のボリュームだけれど一気読みをするほど物語にのめり込んだ。社会的背景が主人公の敵となって立ちはだかる、その設定の面白さが良く描かれている作品といえる。 |
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トマス・H・クックの「緋色の記憶」が好みの人にはこの本もお気に入りとなるでしょう。語り手が四十年前のひと夏の記憶を回想する形で書かれたミステリです。丹念に生活の様子や土地の風土と当事の社会情勢
などが描かれ、少年フランクの心の内や弟と過ごす田舎町の毎日が読み手の心に沁み込んで来ます。ミステリといっても、ひとつの家族の物語となっています。父と母のちょっとした感情のすれ違い。吃音で友達のいない弟。芸術家肌の母に似た 姉。ひと夏に三人の人の死に13歳の少年フランクは遭遇し、これまで知らなかった大人の世界を垣間見ることになります。他のレビューにあるとうりもうひとつの「スタンドバイ・ミー」として見る事も出来る上質な物語です。 秀逸なのはエピローグだと思います。過ぎ去ったひと夏、その時間の経過と共に去っていった人たちの様子を語りながら、フランクと弟と父が会うシーンがとても良い余韻となって物語を締めくくっています。 最後の明らかになる真実の様子も無理が無く、地方の小さな町の人間模様がきめ細かな筆致で描かれていてどの人物も確かにそこに生きていた、そう実感できるヒューマンな物語でもあります。 |
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さて、この死体どうする?ミステリ作家と編集者の二人が考えた解決策は・・・。出だしから伏線いっぱいの書きようで、ミステリファンと真っ向勝負といった内容のストーリー。アイテムを散りばめ密室殺人の解決が各人から語られるなんて凄すぎる。呼ばれた探偵役も推理を重ねて犯人を指摘する。どれもがなるほどと頷く名推理であり読んでいる読者は密室殺人の講義を受けているようなものだ。ポーの見立て、ドイルの見立て、数々のアイテムとギミック。これはミステリ入門書であり
少なくとも中級者以上の人向けのミステリと云えます。しかし、すべては最後の仕掛けのための工作です。そして本当のラストはブラックジョークのようでホラーなオチが用意されているといった手の込みようです。 変化球なしの直球勝負の著者と対決することをワクワクした気分でバッターボックスに入れる。そんな気になる一冊です。 |
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消息を絶った一人の少女。通報を受け捜査を開始する地元警察のフォード署長は勤続三十三年の高卒。そして部下のキャメロンは大卒で十三年勤続の私服刑事。この二人の辛らつな言葉のやり取りと信頼で結ばれた様子を見せながら
捜査が始る。描かれているのは警察の地道な捜査の様子だけ。登場人物のサイドストーリーとかそういったものは一切無い。しかしノンフィクション的な要素を取り入れたフィクションという手法がとても面白い。読んでいる途中で退屈とか そういったことは有り得ない。こつこつと聞き込みをして100の情報を集めても何も得られなければまた歩き回り話を聞く。そういったフォードたちの捜査の様子がじっくり描かれているが、読んでいる方も少女が消えた理由が分からないので 気持ちはフォードたちと同じだ。証言を集めれば集めるほど、少女の人物像が浮き彫りになっていくほどフォードたちには少女が何故消えたか分からない。事故か事件かそれすらも分からない。そして物語が半分ほど進んだところで川から死体が見つかる。捜査を進める上で重要なアイテムの使い方がとても上手いと思う。そしてその秘められた謎を解き明かすヒントが少女の人間性であり性格でもあるという点が面白く、そこに着目するフォードの推理力もまた優れている。 地道な捜査の過程だけを描いた内容だけれどミステリとしても読み応えがあり、死体が見つかった後の後半部分は一気に読み終えた。ミステリ史に残る一冊というのも納得の面白さだった。 |
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久しぶりの氏の作品。氏の作品はどれもそうだけれどお話自体が楽しめる。ミステリ度がどうのトリックがどうのという話ではない。それが氏の作品に対する自分の認識。軽妙で洒落た文章、多少ハードボイルドチックで楽しい会話。
楽しい夢を見させてくれる数少ない作家だ。「ゾラ・一撃・さようなら」と同じ探偵・頸城悦夫が主人公の物語。彼を取り巻く連中も面白い人物ばかりで、その他の作品も全部がそうだけれどキャラクターの造形が上手い。 読んでいて楽しいのは一番に登場人物たちの面白さだ。この主人公の人物像もフワフワと生きているような感じだが、古い記憶の底に沈殿しているものは若さが作った苦々しいものでちょっと影がある人物といった設定。ハードボイルド・チックにしている関係上このような人物が好ましいとしても、とりまく女性たちとの距離が絶妙だ。それは頸城悦夫という探偵のキャラクターの良さが上手く機能し、またそのように書く氏の筆の確かさ故だろう。 二作書かれた。この後も探偵頸城悦夫の物語を期待してよいのだろうか。そうだとしたらとても楽しみだ。 |
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最後にそうだったのか、と解かるとうーんと唸るストーリー構成。この内容で最後のオチをそのような形で用意するのは物語の性格上とても良いと思う。でなければ一般的に云えばただ暗い内容の話だけで終わってしまう危険がある。
文体も自分のものとしての個性が出ていて好印象。週刊誌記者の生き方というかブレない姿勢やポリシーもしっかり描かれ、それが物語の芯をなす訳でこの記者の存在がひとつの出来事を誰も知らない世間の片隅に追いやることなく 意味のあるひとつのストーリーとして出来上がるわけだ。死を誘う謎の人物と、生と死の間で揺れ動く一人の女性の物語が徐々に盛り上がっていく過程も上手く描かれていてドラマチックな内容が一気読みを誘う。 ラストのドンデン返し的な騙しにはフーンと素直に感心した。この様な手もあるんだなと云うのが正直な感想。この人の他の作品にも興味が出たのでぜひ読んでみたい。 |
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ミステリ専門の流行作家ではなく、東大の助教授時代に書かれた作品で専門は英米文学という学者さんが書かれたミステリです。でも、こういった切り口のミステリは新鮮でとても面白かったといえます。
見立て殺人が続きます。その見立てこそがポオの作品そのものです。ボルティモア市警察警部補、ナゲット・マクドナルド(この名前が可笑しい、登場人物の名前はすべてこんな調子で笑える)の父と何十年もの親交があった 外交官の更科氏。三年ぶりに会う彼を迎えにボルティモア・ワシントン空港に出向いた彼の前に現れたのは更科氏と娘の更科丹希。彼女がこの事件を解決する名探偵で通称ニッキだ。こまかなその場面の様子をキチンと把握していけば 読んでいる人も犯人に辿り着けるように書かれた正統派のミステリで、第4章『ユリイカ(われ発見せり)』を読む前にニッキよりも先に犯人を指摘できれば貴方は名探偵です。 ポオへのオマージュと『アッシャー家の崩壊』を新たな考察で見せるこの一冊はミステリファンには堪らない贈り物です。 著作は少ないですが、既存の作家では無い人が書くミステリには意外と名作と呼べる物が数多くあるものです。坂口安吾しかり、筒井康隆しかりです。 『アッシャー家の崩壊』、『ベレニス』、『黒猫』とポオの作品に見立てた連続殺人、その真相はひとつひとつの手がかりを組み合わせていく正統派の探偵に相応しい事件です。 |
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サム・ホーソーンものの初期の作品12編を集めたものにボーナストラックとして不可能犯罪の名作「長い墜落」が収録された一冊だ。1974年の作品から連続して不可能犯罪の数々を解決したサム・ホーソーン医師自身が、
誰かと酒を飲みながら当事を回想し事件の顛末を語る、そんな設定になっているので一話完結のストーリーではあるが連作ミステリとなっている。全篇不可能犯罪を扱っていて、もちろん現代の科学をもってすれば 成立しない話もあるけれどそんな野暮は言いっこなしで純粋にパズルとしてのミステリを味わうべきである。密室や消失がほとんどで手を変え品を変えていろいろなバリエーションを見せてくれる。プロットを思いついたら すぐに書きたいタイプのようで短編が多く長編は少ない作家だと解説にあるけれどそうなのかも知れない。少なくとも「どんどん橋落ちた」などよりはよほど楽しめる。例えば新幹線などの車中で読めば退屈など吹き飛んでしまうだろう。 個人的には「ロブスター小屋の謎」、「十六号独房の謎」、「農産物祭りの謎」、「水車小屋の謎」と好きだけれど、一番は特別に収録された「長い墜落」が面白かった。類似したものを読んだ記憶があるけれど、これのアレンジだったのだろう。 部屋の窓ガラスが割られ人が飛び降りた、しかし、下には死体が無い。交通整理していた警官がいて何事も無いと証言する。何処にも部屋に入った人物はいない。でも三時間四十五分後にはビルの下に死体が現れた。 このサム・ホーソーンものではない一編が一番良かったというのも皮肉だけれど、しかし、どの物語もアイデアの良さは光っているので楽しめる一冊というのは間違いない。 |
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【ネタバレかも!?】
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敬愛する作家の昭和62年の作品。ミステリ作家であると同時にプロ級のマジックの腕を持っていた。有名な話で本名の厚川昌男のアナグラムで泡坂妻夫のペンネームになっている。こうした稚気とも言えるユーモア精神溢れる人物で
読者へのサービスぶりはどの作品を読んでも実感できる。この本も奇術のネタ的なトリックが使われている。メンタルマジックで使われる読唇術がそれだ。通常のミステリとして楽しんだ後さらに読者を驚かす仕掛けが この本にはある。そう、本の内容そのものの読唇術のネタが仕込まれているのだ。ただし本にも書かれているように読者の幸せのために未読の人に「しあわせの書」の秘密を明かさないで下さい。それがこの本を楽しむためのルールです。 ミステリとしても楽しめるストーリーで伏線の回収の鮮やかさに目を見張ること請け合いです。氏の実力をこの本でお試しあれ。 |
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贅沢な内容のミステリです。三津田信三のようなミステリらしいミステリです。不思議な死体のありようとか二重の密室状態や関係者すべてにアリバイがあり唯一アリバイの無いものは植物人間として入院しているといった展開などミステリファンの心を掴んで離しません。誰もが怪しむ人物からどんでん返しの真犯人までへの謎解きの楽しさが満載の物語です。ミステリマニアへのツボを心得た謎の提出やミスリード、謎解きの論拠となるアイテムなど作者のミステリファンへのサービス精神が遺憾なく発揮された作品です。願わくばこのまま息切れすることなくこのスタイルで書き続けてもらいたいものです。三津田信三氏とかこの小島正樹氏のようなミステリ作家は大事にしなければいけません。他の作品はどうなのだろう?
とても興味が惹かれる作家です。タイトルも作者の狙いを表わしたものでそこからスタートしているこのストーリーはきっとあなたを満足させることでしょう。 |
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有名な作品。短編の名手と謳われる作家の輝かしい歴史的な作品である。アームチェア・ディテクティブのジャンルだろうが、バロネス・オルツィ「隅の老人」シリーズやアシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズと並ぶファンの多い作品だ。
日本で云えば都筑道夫の「退職刑事」シリーズが定番だろう。会話で片方が謎を提示し話を聞いた片方が鋭い洞察力をみせ真相を解明する・・・。このパターンは数多くあるがミステリの王道のひとつと云える。北村薫の「六の宮の姫君」の 円紫師匠と女子大生の「私」シリーズなどが質の高い作品だ。私個人もこのようなスタイルのものがとても好きでこの『九マイルは遠すぎる』は楽しめた。些細な出来事に着目し見過ごしがちな点を捉えて推理の幅を広げていくと始めには考えられなかった事実に行き当たる・・・。こんな楽しい話は無い。ホームズの『赤毛組合』からこういったロジックのものに夢中になった。ミステリファンなら読んでおくべき作品と云える。 |
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長編だと思っていたが短編三作を収めたものだった。でも、「モザイクとフェリスウィール」は第二作目の「夏服パースぺクティヴ」の前日譚に当たる内容で、遊佐 渉と樋口真由が出会うエピソードからストーリーが展開していくので
物語としてはちゃんと繋がっている。「冬空トランス」は密室に絡むハウダニットがテーマで、樋口真由がここでも探偵としての属性をみせて活躍するストーリーだ。 そして「夏風邪とキス以上のこと」は渉と樋口真由の関係が一歩進んでいく様子が描かれている。その様子も第一作の「消失グラデーション」に出てきた謎の男「ヒカル君」が登場し、樋口真由との頭脳戦を繰り広げる中で 描かれている。いずれにしたも一作目、二作目と読んだ人はコレを読まなければ損だ。他にも愉快なキャラクターがいろいろ登場する。渉の父親など傑作だし、会話も楽しく面白い。 個人的にはおススメの一冊。 |
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渋谷を舞台にした青春ミステリ。不可思議な出来事と不思議な力のある少女が出てくるが、あくまでSFチックにしたままでハッキリと超能力的な書き方はしていない。そこが良いところだと思う。宮部みゆき氏の作品のようなSF全開の
ストーリーではない。出てくる人物はどれも魅力的で若い彼らの描き方はこの著者はとても上手いと思う。樋口真由シリーズもそうだけれどモノの本質が分かっている、そこがこの著者の文章に表れていて読んでいて心地よい気分に なる。著者のスキルに合った映像制作に取り組む学生達を主人公に据えたミステリだけれど、最後の意外さとかストーリーの面白さに加えたミステリの基本形はしっかり押さえた内容で楽しく読めた。 個人的にはこの著者とは相性バッチリなのでただ面白いとしか言いようが無い。警察の捜査の動きやミスリードの巧みさもキレの有る文章で描かれ若者達の姿や会話がとても楽しい。 ストーリーも無理が無く最後の余韻もグッドだ。個人的にはおススメしたい。 |
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どこであるとか、いつの時代であるとかハッキリとせず、昔話を語って聞かせるような文体で書かれているのがこの本の良さです。
『身内に不幸がありまして』 とてもブラックなオチが用意されている、笑いそうになるが笑えない怖いお話です。 『北の館の罪人』 イソップのような深い思惑が沈んでおり、探偵小説のスタイルを模して隠された意味が最後に強烈に胸に突き刺さる、そんな衝撃に見舞われるオチが読んでいてある意味爽快です。 『山荘秘聞』 そうだろうと、予想させておいて最後に違う手口で見せて結果は同じという離れ技が効いたシュールなお話。 『玉野五十鈴の誉れ』 個人的にはいちばん好きな物語。もの悲しく哀れさと怖さと不条理さがない交ぜになったお話で、やるせない想いが心に残るラストと心情の描写が秀逸。 『儚い羊たちの晩餐』 食は文化。その文化を逆手にとって不気味で怪しげな雰囲気の物語で最後に怖いオチを見せる作者のセンス。 「バベルの会」がキーワードになっている連作ミステリですが、最後の一行にこだわった内容で、このような短編集はとても貴重です。作者のセンスの良さがあって初めて書かれる小説と言えるでしょう。 |
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