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アフターダーク



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【この小説が収録されている参考書籍】
アフターダーク
アフターダーク (講談社文庫)

アフターダークの評価: 3.47/5点 レビュー 470件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.47pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全256件 21~40 2/13ページ
No.236:
(5pt)

宵闇の優しさ

人は人生のある時期において、夜の優しさの中にしか生きられないことがある。
夜は全て受け入れてくれる。朝や昼のように人々を照らし出し、糾弾したりはしない。
そういう優しさが滲みに出ているような作品。主人公マリは、夜と夜の住人たちである高橋やカオル、コオロギなどの優しさに助けられながら、夜の街を駆け抜けていく。
夜は優しくもあるが、危険もはらむ。その闇に完全に同化してはならない。いずれ朝の世界に戻らなくてはならない。
マリは朝に辿り着く。夜がくれたものを抱きしめながら。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.235:
(4pt)

交換可能な匿名的事物でできている。

アフターダーク。暗くなってから、物語は始まる。
眠らない人たちの世界。デニーズ、すかいらーく。
ラブホテル。コンビニエンスストアー。ソフト開発エンジニア。音楽の練習。
そこには、夜だけの特権を持った世界が構成されている。
ねむれないマリ。
眠れない理由があるのだが、それを語る相手もなくて、ただ分厚い本を読む。
デニーズの描写がすぐれている。
なんともいえない無機質で、特徴がありながら、その特徴をなくしている。
『交換可能な匿名的事物』でできている。
これだけ、デニーズを書ききったこと、意識の中でのデニーズ そこに存在している マリ。
音楽が常に流れている。これは、ひょっとしたら、夜だからかもしれない。
夜という装置がなんともいえないほどステキに感じさせる。
『眠る』
夜のうちに 物語は、はじまりおわる。
朝が来るまでに、物語は終わっていないといけない。
夜は朝の準備であるという単純なもののはこび方をしていない
それほど朝への熱望が生まれていない。おいしい卵やき のイメージがわずかに見える。
夜の言葉のイメージは、『眠る』につきる。
眠れない理由。心理的な要因、物理的な要因(仕事によって)
眠ろうとしない理由。
その対極に、眠れる美女 エリ を配置する。ただひたすら眠る。
ヒトは、なぜ眠るのだろうか?
ぐっすり眠る時は、いったいどんなときなのだろうか。
悪いやつほどよく眠る。という言葉があったような気もする。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
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No.234:
(5pt)

読み易い、村上春樹初心者・苦手な人にもお薦め

村上春樹の作品は非常に独特で

本を開いて作品の世界に入っている時はメタファーによる様々な意識の変化を楽しめる

しかし読み終わると大して何も残らない

印象的なシーンやフレーズがあるにはあるのだけど別段後味というほど残らない

村上作品はバラエティ豊かだけれども、孤独、孤立、断絶、無常といったテーマが根底にあると思う

が、幻想と日常が混ざり合いメタファーが散りばめられているので明確な掴み所がない

さて本作品はそういった村上作品の中でも特異な作品で

テーマがかなり明確であり、シンプルで読み易い

ステージの移動も少なく、時間の経過も限定的で

視点移動や人称の手法もかなり効果的に作用していて印象に残っている

そして章ごとに時間を表示することでよりわかりやすく物語の進展を助長している

とても良かったです
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.233:
(4pt)

徹夜は出来ません

この本が出た当時に一度読んで、あまり好きではなかったのですが、
10年ぶりくらいに読み返し、そんなに悪くないと思いました。
渋谷あたりの深夜でしょうか。
若者だからこその物語。
徹夜はもう出来ません。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.232:
(5pt)

希望の訪れを告げる新しい小説世界

人は同じ屋根の下で暮らしていても、成長の過程でさまざまな個性を獲得していきます。
突出した個性を持つものは、時に抑圧を受けた感情の暴走に苦しむと言われています。

妹マリは姉エリの混乱に満ちた無意識の存在に気づき、そこから彼女を救い出そうと決意します。
本書は二人の個性が互いの欠落を埋め合い、理想の人格に向かって歩んでいく姿を描きます。

【無意識の暗闇】
エリはその美しさゆえに自己の内面を疎外し続けた結果、人生の深淵に呑み込まれていました。

「顔のない男は、かたちを隠された目で、帳の奥からエリを見守っている。」

私たちは架空のカメラによって、虚ろな心を持つ白川の世界に彼女が幽閉されている姿を目撃します。

【アルファヴィルの暴行事件】
深夜のラブホテル『アルファヴィル』で中国人娼婦に対する暴行事件が起きました。

「君のお姉さんはどこだかわからないけど、べつの『アルファヴィル』みたいなところにいて、
誰かから意味のない暴力を受けている。そして無言の悲鳴を上げ、見えない血を流している」

マリは被害者となった美しい少女に、エリのこれまで置かれてきた境遇を重ね合わせます。

【逃げるものと追うもの】
事件の犯行におよんだ白川は、何食わぬ顔で空白の時間を過ごしています。

「逃げきれない。どこまで逃げてもね、わたしたちはあんたをつかまえる」

復讐のメッセージは、事件と関わりのない高橋に、そして私たち読者に向けられました。
加害者と同じ場所に立っているのだという想像力が、そのような自責の念を生み出します。

【朝の新しい光の中で】
マリは闇の時間をくぐり抜け、そこで出会った人々の言葉から数々の真実を受け取りました。

「私が幼稚園のときに、エリと二人で、うちのマンンションエレベーターの中に閉じ込められたことがあるの」
「エリは真っ暗な中で、私を抱きしめていてくれた」

過去の記憶が呼び起こされ、マリは人生に立ちふさがる不安から逃げないことを心に誓います。
再び姉妹の絆を取り戻すために、古き時間を壊して前に進むために、エリをしっかりと抱きしめます。

私たちの日々の暮らしの中で、何気ない記憶が唐突によみがえることがあります。
それは心の奥底に潜む機能が、私たちの意志とは無関係に古い認識を更新し、新しい個性を生み出そうとしている過程なのかもしれません。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
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No.231:
(5pt)

なんと言えない

正直、ページがなくなるにつれ、終わってほしくない気持ちが強くなりました。もっとこの人たちに会っていたい。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.230:
(5pt)

村上ワールド

真夜中の都会が舞台で、いくつかの事件が起こります。文章は平易ですぐに読めてしまうと思います。姉の眠りなど、よく分からないものが出て来るのはいつものことです。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.229:
(5pt)

これ好き

視点が面白い。鳥瞰するカメラなのだ。
そして語られる人称は「I」でも「you」でもなく「私たち」。
単に第三者ではなく、自分をも含めた「私たち」が、
同時多発的に登場人物たちをとらえ、必要ならズームする
こともできる。が、介入することはできない。
単なる視線に徹する。
新しい手法で面白い。

ラスト近くにマリとコオロギが語り合う場面が、興味深い。
なんだか大事なことをたくさん語っている気がする。

それにしても村上さんの文章のうまさは舌を巻く。
アフターダーク (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:アフターダーク (講談社文庫)より
406275519X
No.228:
(4pt)

夜の世界を生きる意味

本作品は、題名こそ「アフターダーク=闇の後」となっていますが、実際に描かれるのは、東京のある一日のうち、深夜から朝までの約7時間の闇の時間帯です。

この深夜の時間帯に、マリと高橋という男女二人が再会し、心を通わせ始めます。
また、ラブホテルの一室で、コールガールの中国人女性が、客に殴打され、衣服を奪われるという事件が起きます。
この事件の犯人、白川という人物は、なぜそんな事件を起こしたのか分からず、大きな謎です。

そして、一番の謎といえば、マリの姉、エリでしょう。
彼女は、数ヶ月の間、ほとんど眠ったままなのです。
読者は、神の視点で、エリの部屋の様子を描写するというシーンが、物語の所々に挟み込まれているのに、不思議な印象を持つこととなるでしょう。

人間は、昼間活動し、悩みや苦しみを乗り越えて生活していきます。
それに対して、本作品で描かれる闇の時間帯に、人間は眠り、休息を取ります。
昼間のような悩みや苦しみからは、一旦解放されるのです。

しかし、夜が明ければ、また、新しい「生活」という営みが待っていて、どんな苦難があるか分かりません。

こうしてみると、人間は、昼と夜という二つの世界を生きているとも言えるのではないでしょうか。
でも、マリや高橋、白川のように、夜活動する人間もいるし、昼間も眠っているエリにしてみれば、夜の眠りは、果たして休息と呼べるのか…。

本作品では、人間が住む二つの世界のうち、夜の世界で起きたことを描くことで、人間は、昼の世界だけを生きているのではない、夜の世界も含めて、その人の人生というものが形づけられているのだ、ということを強調したかったのではないかと感じています。

マリとエリの姉妹や高橋、それに白川。
彼らに今後どんな人生が待ち受けているのか、とても興味の沸いてくる物語。
深い余韻が印象的な作品でした。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.227:
(5pt)

本当に素晴らしい作品だと思います。

何が良いのかわからないという書評があまりにも多い為、個人的な解釈になりますが解説します。
書評ではなく、個人的な解説なので激しくネタバレします。
まだ作品を未読の方は以下は読まない方がいいと思います。

誰にも見えないところで頑張っていたエリは心に
トラブルを抱え、こちら側の世界(現実の世界)から逃避した。
エリを見つめる仮面の男はエリの抱えている心のトラブルの象徴であり、
感情を持たないアルファヴィルの世界の住人。
心のトラブルを解決出来ない限り、エリは起きる事なく感情のない世界の住人となってしまうだろう。

現実的に頑張ってきたマリも心にトラブルを抱え夜の街に逃避する。

白川が起こした事件は現実的な世界で犯した罪。
システマティックに生きる白川は記号と化した現代社会に生きるアルファヴィルと同じ世界の住人。
仮面の男、エリ、白川が持つ同じブランドの鉛筆はあちら側の世界(アルファヴィル)の住人である事の象徴。
どれだけ時間が経過しても、みんなが忘れても犯した罪に対する罰からは逃れられない。

自分という存在は危うく、代替可能であり誰しもがどのような状況で立場が入れ替わるかもわからない。
立場が変われば白川が犯した罪を高橋が犯す可能性もあり、
状況が変われば19歳の中国人が受けた暴行をマリが受ける可能性もある。
中国人が受けた現実的な傷、マリが抱えた精神的な傷。立場が違う現実的な差異でしかない。

どんなに酷い状況でも人間は記憶があれば生きていけると伝えるコオロギ。
エリの抱えたトラブルは高橋というフィルターを通しマリに理解できる形状へ変化し伝わっていく。
思い出して、と伝えるコオロギ。大事な事を思い出す事により向き合える様になるというコオロギの示唆。
エリの抱える心のトラブルを感じる事ができたマリは、熱いお茶と少しの睡眠で休息を得て、
自分の心も解きほぐすことが出来るという確信を手にいれる。
だから深夜のファミレスで本を読むという逃避が辛くなる。本の中身に意味はない。だから明かされない。

そして同時にエリと向き合う事が出来ると確信し、帰宅を急ぐ。

こちら側とあちら側を繋いでいるものは脆弱であり、エリはもう戻れないかもしれない。
画面の歪みと共にこちら側とあちら側の世界の繋がりは断たれた。
マリはエリの苦悩を理解し向き合う事により、エリは感情のない世界の住人ではなく、
こちらの世界でただ眠っているだけの人間となった。
ただまだ心のトラブルは解決していない。だが唇がほんの少し動く。
これからマリと共に心のトラブルを解決していく事ができるという良い予感はある。

高橋が浴びせられた脅迫は高橋には何の関係もない。ただの災厄。
距離を取る事により逃げる事ができた。本当に逃げる事ができたのだろうか?
きっと逃げ切れていない。いつかまた色んな立場で災厄は襲ってくる。

白川に対する制裁は必ず夜に起こるだろう。闇は災いの象徴。明るい昼間は幸福の象徴。
きっとまた辛い時間(after dark )は来るだろう。after darkは複数の意味を持ち始める。

でも今はまだ大丈夫。太陽の下で幸福な時間を手に入れることができる。
まだ辛い事が起きるまでには十分時間がある。
そして、例えどんなに辛い状況でも人間は思い出があればきっと生きていけるんだよ。

自分の中にある憧憬や原風景を文学という器に当て嵌め、読者の共感を得て作家としての地位を築いた作者が、
成熟した今の年齢から伝える事が出来る、若い人へ対するメッセージだと思います。

死ぬほど辛い事が起こったあとの精神状態でこの本を読んだ私は、読後に涙が止まりませんでした。
ダンス・ダンス・ダンス以来の衝撃でした。
現代社会自体が既にアルファヴィルの世界なんだと受け取れる表現もあり、
本当にまだまだ沢山考察したくなる素晴らしい作品だと思います。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.226:
(5pt)

重い!辛い!

引きずり込まれる魅力はあるんですが、重いのです。
絶対体調が悪いときには読んではいけません。心まで壊されてしまいます。
村上文学の一つの頂点だここにあるような気がします。

来年体調が良いときにもう一度読みたいと思います。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.225:
(5pt)

貧乏時代に培った孤独感が非常に入念に書かれている

村上作品の中で一番好きな本。
村上春樹だからと言って全てが好きなわけではない。
「孤独」の視点が色々な角度から表現されている。素晴らしい。
ノルウェイやカフカは読むスピードもイマイチでレビューを
書くほどでもないのだが、この本を読んで作家としての彼に感服した。

村上小説として一番好きだ。孤独とは何ぞや、ただそれにつきる。
周りでは難しいという声が多かったが、人生で相当苦労していると
実に容易に感じ取れるのである。
また、哲学好きであればそれ相応に感じ取る事ができるだろう。
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No.224:
(5pt)

ウォンカーウェイの映画の様

天使の涙、恋する惑星を少し思い出しました。村上春樹さんの作品は私は好きなので合う人には合うし合わない人にはあわないんだろうなーという感想です。
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No.223:
(5pt)

村上作品で唯一泣いた本

序盤に興味が惹かれなかったので、この本は4年程前に一度トライしましたが、挫折しました。
最近最初から読み直し、最後まで読み切り、始めてこの本の良さが分かりました。
終盤で何故か号泣してしまいました。おそらく私にも姉がいて、共感する部分があったからだと思います。(私の姉は寝たきりではないですが。)
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.222:
(4pt)

暗闇の中の小さな光明

村上春樹は(いわゆる)小説を書く気は端っから無いのでしょう。哲学、心理学、社会学、生理学、に関して、彼の考えていることを我々に提示する手段として “小説”というカテゴリーを使うことにしたのでしょう。ですから、彼の作品には“明確な入口” 、“明確な出口” はないのです。なにせ、そこにあるのは、人を楽しませようとして紡いだ物語ではなく、彼の意見、あるいは彼の心、そのものだからです。
音楽家が最初にメロディーを作り、しかる後に自分の内面から湧出してくる詩(うた)を当てはめると、何かしっくりこない、いずい(居辛い)感じになり、ただ、それが不思議な味わいにもなります・・・・・彼の作品の魅力のひとつは、これに類した感じのような気がします。

この作品は、(原因は不明だが)姉との間に大きな確執を生んでしまった主人公(妹)達二人が 別々の空間に入り込んでしまい(実話:「レナードの朝」、に少し類似かも?)、それぞれが “心の復活への入口” に到達するまでの心の変遷の時間経過を、主人公を取り巻く人々との、ちょっとした物語に乗せて提示している。

ただ、彼が本当に言いたいのは ―― 自分達は、今いる三次元の空間がすべてであると、つい誤解してしまいがちであるが、宇宙の始まり、すなわち“完璧な無”からビッグ・バン(or God?)により、できた空間が三次元で完結している根拠は何もなく、むしろ “多次元” と考えるほうが自然で、その次元と、我々の今いる三次元空間とは薄皮一枚もない仕切りでつながっているかもしれないのです、―― という彼一流の教示かもしれません・・・・・・。

ところで、この作品中に出てくる「ある愛の詩」の記述は、彼がわざと記したのかもしれませんが、ハッピーエンドではなく、主人公の女性ジェニーは病気で亡くなってしまう美しい恋物語です・・・“愛とは決して後悔しないこと”・・・という美しい台詞があります・・・・・。
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No.221:
(5pt)

怖いが大好きな作品

いま「1Q84」を読んでいる途中ですが、
長いので、一旦箸休め的にこちらを読んでみました。
2004年ということなので10年前に書かれた作品ですね。

各センテンスのはじめに、
時計のイラストで時刻の進みが示されます。
深夜12時少し前に始まり、朝の7時前までで終わります。
少しづつ、時間の進行と共に様々なことが起こります。

真夜中の都会(多分、渋谷か)の眠らない(眠れない)人々の
繰り広げる奇妙なストーリーです。
主人公の若い姉妹は、やがて心を回復していくようです。

個人的にはITプログラマーの白川がその後、
どうなったのか気になりました。
深夜労働と家族とのすれ違いの果てに、
心を麻痺させて、闇社会とのトラブルの果てに
彼をどこに運んでいくのか。。。

TV画面の中の男が見つめているような気がしました。
アフターダーク (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:アフターダーク (講談社文庫)より
406275519X
No.220:
(4pt)

静謐な物語

村上春樹は近年、神のようになってしまい、そしてもしかしたら批評というものもしにくくなっているのかも知れないと思ったりもするのだが、なに、面白いか面白くないで判断すればいいのである。たかが物語であるのだから。
 この作品は2004年の出版であるが、記憶する限りそう評価されたわけではないと思う。そして(物語の内容の割には)静謐な印象の残る語り口で、読み終わってシンとした気持ちが残った。
 主人公は、浅井マリとエリの姉妹。エリは物語の間中眠っていて目覚めない。そしてそれに絡む、マリとエリの知人の男、高橋。高橋のバイト先のラブホテル従業員のカオル、コムギ、コオロギ。ホテルで問題を起こした客の白川。白川が簒奪した中国人少女、またそれを管理する中国人の男。
 また眠るエリ、またこの物語を見つめる視点、それは我々読者?それとも神の眼?その視点の立場で物語が語られているから、静謐な感じがするのかも知れない。なにもかもはるか遠方にある光景という印象があるのである。こういう物語を書くムラカミは、私は好きであると宣言しておこう。神になった作家としてではなく。
アフターダークAmazon書評・レビュー:アフターダークより
4062125366
No.219:
(5pt)

森の鍛冶屋さんみたいに

こちらとあちらを隔てる境界は薄っぺらい紙切れ一枚のように頼りないもの。あるいは境界なんてものはないのかもしれない。あちら側の存在である(ように見える)中国人娼婦の少女に対してマリが強いシンパシーを感じたように。

「逃げ切れない」 物語の終盤で繰り返される言葉。白川に向けてだけでなく、私たちすべてに対する闇の世界からの警告のように響く。
私たちは「逃げ切れない」 闇は影法師のように私たちの足元に常に付きまとって離れない。でも簡単に飲み込まれるわけにはいかない。飲み込まれないための確実な方策などたぶんないだろう。
私たちにできることは、マリとコオロギの会話に出てくるように、ただ「森の鍛冶屋さんみたいに、こつこつと」 日々を営むことなのかもしれない。孤独であっても、誰にも認められなくても。
アフターダーク (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:アフターダーク (講談社文庫)より
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No.218:
(5pt)

村上春樹で一番好き!

まあ全部見てないだけど(笑)大体見たけど後味悪いね。あとサラサラ読めないよね。ネタとか難しい所もあるし。最後のシーン最高!映画化ってされた?
アフターダーク (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:アフターダーク (講談社文庫)より
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No.217:
(5pt)

都会の情景とメタファー

この小説を半分くらい読んだところで、僕はカーティス・フラーの『ファイヴスポット・アフターダーク』を聴いてみた。かすれた感じの独特のトロンボーンのリズムではじまるこの名曲をあらためて素晴らしいと思う。それは、どことなく殺伐とした孤独な都会の情景を想起させる。本著『アフターダーク』のイメージにぴったりだ。

ストーリーは同一時間軸が設定され、いくつかの場面が同時進行する形式となっている。深夜のファミレスで熱心に本を読んでいる一人の女性マリ、マリの姉浅井エリと同級生だったトロンボーン奏者のバンドマン大学生高橋との出会い、一人眠り続けているマリの姉エリ、ラヴホテル「アルファヴィル」でおきた中国人娼婦のトラブル、そのホテルの支配人カオルや娼婦を殴打した白川の日常等々、大都会のイメージと重なるようにそのつど場面に応じて数々の音楽が挿入されている。物語は深夜の時間の流れとともにそれぞれの場面の全貌を統括的にみつめることが許された純粋な視点“私たち”によって語られ示唆されているようにも感じられる。

マリとエリ姉妹の間に存在する闇、大都会に生きているそれぞれの人々が抱えている闇、いや大都会そのもののメタファーとしての在り方が実は主題となっているのかもしれない。だが、村上春樹がこの小説で何を表現したかったのかは誰にも分からないと思う。

最終章では同じベッドに眠り続ける美しい姉エリと中国留学を目前に控えた妹マリをみつめる純粋視点の私たちはある“予兆”を感じる。“マリは長い闇の時刻をくぐり抜け、そこで出会った夜の人々と多くの言葉を交わし、今ようやく自分の場所に戻ってきた。” し、何かに反応したように微かに動いたエリの小さな唇に“意識の微かな間隙を抜けて、何かがこちら側にしるしを送ろうとしている。”として、それが時間をかけて膨らんでいることを告げてもいる。

本著『アフターダーク』は、個々の人々が抱えている闇の部分を大都会のメタファーとクロスさせながら音楽とともに時間を刻んでいくように重層的に描かれている。ここでは同一時間軸の中で唯一統括的に語りを許された純粋視点(私たち)の設定がおもしろい。この作品を単に自己を見失った困難(闇)からの脱出を予兆させる文学と云ってしまえばそれまでだが、僕にはどこか重層的な問題を孕んでいるようにも思われる。

最後にもう一度、カーティス・フラーの『ファイヴスポット・アフターダーク』を聴いてこの本を閉じることにしよう。
アフターダーク (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:アフターダーク (講談社文庫)より
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